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*12*
おいしいとかうまいとか甘くて頬が落ちるとか、そんな次元の話ではない。この味を私は十七年間知らずに生き、しかもこのお誘いがなければこれからもなかったかもしれないのだ。口の中に広がる柔らかすぎる果肉、鼻腔をくすぐる甘い香り、自分の手が違う生き物ののように貪ってしまうこの威力。こんなおいしい果実を山盛り送って貰えるなんて……羨ましいことこの上ない。私もこんな親戚がいれば、と貧乏人の運命を怨みたくなる。
「でしょでしょでしょー!? おいしいでしょう!? 食べてみてよかったと思わない!?」
確かに、一度は食べてみたいフルーツだ。さすが果実の女王という異名だけはある。恐れ参った。
どうやら惣志郎も同じように「ね? 僕の言ったことは間違いじゃなかっただろう?」と聞えてきそうなしたり顔で見つめてくる。くっそう、しょうがない、私の負けだ。
瀬戸さんは、おいしそうに食べる私達を見てほっと胸を撫で下ろすと、向かいのソファに座った。
私達はあまりの美味に驚きながらも、手を休めることなく食べ続け、あっという間に平らげてしまった。おいおい、もう完食かよという押田さんの声を背中に、私達は台所にお皿を持っていく。
「あ、そんなことしなくていいのに」
瀬戸さんが慌てて私達を止めようとするが、そこまでして貰ってはこちらがなんとなく気が引けてしまう。部活は違えど、先輩なのだ。
とってもおいしかったですよ、と惣志郎が満面の笑みで瀬戸さんにお礼を言うと、
「それじゃあ、まだ一個余ってるから持っていかない? 困ってるのよ、中途半端に余ってしまって」
と、瀬戸さんがまたまた一個、熟れたマンゴスチンを取りに行く。
瀬戸さんの叔母さんが送ってきた量の多さに、ちょっとぞっとする。
「あ、いただきますよ」と惣志郎が明るい声色で答えると、瀬戸さんはテーブルの上にマンゴスチンを置いた。
その時、サッカー部の部室の扉が勢いよく開け放たれた。
基本的に鍵は外からしか掛けられないから、誰でも出入りは自由になる。しかし、そんなこと、サッカー部の人間であるか許可された人物という条件つきであるということは誰しもがわかると思う。
「おーい、瀬戸美桜はいるかあ?」