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*13*
中に入って来たのは、サッカー部の人間ではない、部外者だった。
さっきまでの穏やかな雰囲気が一瞬にして張り詰める。
角ばっている頬骨に目の下のくまと、半開きの口、骨と皮だけの体型に誰もが見下ろされてしまうくらい高い背丈。
私は、男の姿を確認した瞬間、自己紹介がなくてもわかってしまったのである。
今、生徒会でも頭を悩ますブラックリストに載っている人間の一人、若井武だった。
彼は新聞部に所属しているが、その活動内容は全く公に晒されていいものではない。つまり、人間関係を掻き乱す週刊誌のような内容だということだ。それは普通の高校の新聞部の領域を超えており、生徒会でもなんとかしてほしいと生徒からの要望が多い。しかし、最初から新聞部がそのような活動をしていたわけではない。もちろんない。もし、そんなことがあれば、会長が即刻廃部にしている。
新聞部をこのような活動にしてしまった張本人が、この若井武、その人だった。
若井武が、新聞部で猛威を振るわなければ、元々いる純粋な新聞部員を力でねじ伏せなければ、普通の、何の変哲もない平和な新聞部だったのだ。どこにでもいるチンピラではなく、頭の回転は速いから、これまでなかなか尻尾を出さず、対処を考えなくてはいけないと、会長のため息の回数が増えた。ただのチンピラならば、今頃会長が若井の襟首を掴み、総務部の先生に突き出しているところだ。
今、超話題の超危険人物が、サッカー部の部室で生徒会の目の前で何かを起こそうと、ギラギラとした目つきで、先ほど名前を呼んだ彼女を見つめている。
私は咄嗟に台所から出て行こうとしたが、隣にいる人物に思いきり腕を引っ張られる。
うわ、と声が出そうになるのを寸でのところで止めると、惣志郎はゆっくりと首を横に振った。
「ここは許可された人間以外は、ノックをして入る、用件を言うというのが礼儀じゃないの?」
瀬戸さんが怒りを含んだ声色で、静かに言うと若井はにやりと唇の端を持ち上げた。
「何を言うんだ。俺達の仲だろう? おまけしてくれたっていいじゃねえか」
彼はどうやら、瀬戸さんの表情を愉しんでいるようだ。
彼女の制止を無視し、ずんずん中に入ってくると、瀬戸さんは彼を睨みつけ、ゆっくり立ち上がる。押田さんも後に続いた。橘さんはあまり興味がないという風に、若井を一瞥するだけ。
どうやら若井の目に私達は映っていない。
「なんだか良い匂いがするなあ。何食べてんだ?」
「用件は何。早く言って」
「なあに。時間はとらないさ。お前に確認がしたいだけだ」
若井はそう言うと、さっき瀬戸さんが惣志郎の分に、と置いたマンゴスチンを手に取り、皮のままむしゃりと食べてしまった。
惣志郎の瞳が鈍く光り、明らかな敵意が宿される。
「うめえな」