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*27*
少しの間、更衣室に沈黙が流れる。
「……あなたが男でも女でもどっちでもいいからさ」
すうと息を吸う音が聞こえた。
「あたし、あなたのこと好きよ」
僕の肩に顔を沈め、声がくぐもっていたけど、確かに聞こえた。僕がこの世で一番聞きたかった台詞……彼女の口から一番聞きたかった台詞。確かに、僕の耳の鼓膜が揺れて、脳に伝わり、理解出来た。
僕は小さくくるまっている彼女を、強く強く抱きしめ、大きく息を吸い込む。
「この状況でこんなこと言うのもおかしいけどさ」
声が震える。口がぱくぱく動くだけで次の言葉が上手く出てこない。
「僕と付き合って欲しい」
彼女の目が一瞬見開く。だが、すぐにいつもの眼差しに戻り、口元が緩んだ。
「あたしも同じ事思っていた」
彼女の目は僕しか映っていなかった。瞳の中の僕とも目が合う。もう意識はしっかりとしているようだった。息も整い、一定のリズムで胸が上下している。
入学して以来、初めて彼女に穴があくほど見つめられた。彼女に見つめられるなんて、やっぱりそれだけでも心臓が止まってしまいそうだった。
「あなたとなら起き上がれるような気がするの」
彼女は僕が見たこともないような朗らな笑みを浮かべていた。
あの時、この笑顔を独占出来るのはずっと僕だけだと思っていた。
僕しか、ありえないと思っていたのに。
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