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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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私は惣志郎の口から飛び出した言葉が理解出来なかった。それは河岸も同じらしく惣志郎の言葉を自分なりに咀嚼しようと頭をひねっていたが案の定、現時点では到底出来ない。
 惣志郎は、いきなり理解するなんて出来なくて当然だよ、というような顔つきで私達を見つめた。
 とりあえず自分の持っている知識を最大限に活用する。
「それってつまり性同一性障害とか、そういうこと?」
「うーん、そこまで確証はない。それより他に考えられるもう一つの方が僕はまだ現実味があると思う」
「それって何?」
「同性愛者(ホモセクシュアル)、女性愛者(レズビアン)」
 聞き慣れない言葉だ。普通の高校生を送っている私にとってそれは異世界の言葉のように思えてしまう。自分の人生では全く縁のない話だと思っていた。
「少数派を英語で言うとなんだと思う?」
「マイノリティだ」
 英語が苦手な私の代わりに河岸が答えてくれる。
「反対はマジョリティ。多数派のこと。いずれ僕達は大人になって、異性と恋に落ち結婚し家庭を設けることが出来る。日本の法律でそう定められているね。異性愛者(ヘテロセクシュアル)は性的多数派(セクシャルマジョリティ)。逆に同性愛者(ホモセクシュアル)や両性愛者(バイセクシュアル)、性同一性障害を抱えている人は性的少数派(セクシャルマイノリティ)として区分される。例えば、大部分の人は右利きだけど中には左利きの人もいる。左利きの人を異常だとは思わないよね? それと同じなはずなのに、性というワードを持ち出すと、現実では異常だと思っている人の方が多い。こんな世の中だから、彼らも大いに悩み苦しんだに違いない。多数派の影には必ず少数派が存在する。少数派が悪いんじゃない。この世の人間が三人以上いる時点で、生まれるのは必然だ」
学校の保険の教科書や社会の教科書でしか習わないような単語を、実際に使うなんて思ってもみない。人生には何が起こるかわからないものだと改めて実感する。
「サッカー部全員が守ろうとしている秘密は橘涼が同性愛者だということだと思う。瀬戸美桜は、もしかしたら両性愛者なのかもしれないけれど、定かではないね。さっき河岸くんは『瀬戸と押田が付き合っているのを知った橘は、あまりのショックで咄嗟に家出をしてしまった』って言ったね? まさにそれなんだよ。同性愛者同士の恋愛は社会的にも不安は付きまとうし、恋愛感情として成立するのは難しい。同じ価値観で愛しあえる人物を失くしてしまったショックはきっと僕達が考えている失恋なんかよりもとても重たくて、哀しいんだ。まず同じ価値観の人間なんて――こんな自分を愛してくれる人間なんてそうそういない、そう思ってしまう。自分が性的少数派だということをさらけ出せる関係になるまで、長い時間がかかるし、さらけ出せてようやくスタート地点になる。だからレズビアンのお店がある。外面は普通の喫茶店にしか見えないけれど、中に入るには会員証がいる、とか」
「この三角関係を見る限り、橘涼と瀬戸美桜は恋愛関係にあったということ?」
「そういうことだ」
 あまりにも突飛過ぎて思考がフリーズする。河岸も考えすぎて頭が混乱する一歩手前かもしれない。
まあ確かに、白いブラウスに赤いチェックのスカートを履いた生物学的上の女性にも関わらず、自分のことを僕と言う。
「私達の考える三角関係がおかしいのはわかってるけど――」
「違和感を覚えたんだね? その違和感ってなんだい?」
 自信はないけど、という前置きでゆっくり語り始める。
「もし私達が考える普通の三角関係――つまり異性愛者同士の三角関係ならば、彼ら三人の私事であってサッカー部全員が必死で黙秘をする理由がないし、警察や学校、家族にまで黙って行方をくらますなんてこと、やらないと思った。少なくとも、一年生や二年生を巻き込んでやることじゃない」
 惣志郎は目を細め、小さく笑った。
「いいところをつくね。他に違和感は?」
「私が感じたのは、それだけよ」
「それじゃあ、あの現場をもう一度思い出して欲しい。最後に彼らは一体どうなった?」

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