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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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10~ 20~ 30~

*5*

 文化祭の時期になると平日以外でも生徒会で集まり、日程を決め、タイムスケジュールを決め、催し物を決めるなど、忙しくなるのは毎年のことだった。
 去年、私は一年生ということもあり、右も左もわからず先輩についていくのに必死だったが今年は違う。ある程度どういうものか要領もわかってきて、今度はそれを紗綾香ちゃんに教える番である。自然と気合いが入るのは、先輩として育ってきた証だと思いたい。
 集合時間は午前十時。ただ今、午前九時三十分。惣志郎以外、揃ってはいるが欠けている以上、会議を進めることは出来ない。クーラーの利いた生徒会室でのんびりと待っていたその時、けたたましい電話音が私のポケットから鳴り響いた。
 びっくりして椅子から飛び上がり、慌てて携帯電話を取り出し通話ボタンを押す。そう言えば、マナーモ―ドにするのを忘れていた。一斉に向けられる視線がチリチリと痛くてしょうがない。
 もしもし? と決まりきった文句が何の淀みもなく出てくると聞き慣れた甲高い声が私の耳に勢いよく飛び込んできた。
「姉貴〜? 俺だよ、俺! 翔! 姉貴さ、今学校いるじゃん?」
 ピキピキと額に青筋が浮かんだのを感覚で理解した。
 携帯電話を握りつぶし、かなぐり捨てたい衝動に駆られたが、凄まじい精神力でそれを阻止する。
 馬鹿な弟のために、こんな高価な機械を投げ捨ててたまるか、くそったれ。
 生徒会室でけたたましい電話音を鳴り響かせ、何事か!? と慌てて出た相手が我が弟の間延びした声ということに、呆れてため息も出ない。
「あのさ、俺さ、今自転車壊れてんのよねー今日、歩いてきたんだよ。だからさ、姉貴の自転車貸してくんない? 俺、今先輩に隣町の店しか売ってない飲料水を買ってこいってパシられてて――痛ってえええええ!」
 弟の聞きたくもない絶叫に携帯を耳から離す。
 すると、近くに翔をパシった本人がいるらしかった。
「耳引っ張らないで下さいよ! 何するんすか!」
「パシリとはなんだ。てか、それくらい走っていけよなあ! お前、体力つけないと、天宮のサッカー部じゃあやっていけないぞ!?」
「隣町まで走って行ったら日がくれちゃいますよ! どんだけ遠いと思ってんすか! どうせ、先輩のことですから、練習を切り上げてさっさと帰るんでしょう!?」
「へっへっへ。ばれたか」
「ばれたか、じゃないですよ! ん? ああ、わりぃ。てことでさ、自転車貸してくんない?」
 ……呆れて言葉も出ないとは、まさにこのことである。
 すうと大きく息を吸うと、通話口に唾を浴びせかけ、大声でまくしたてた。
「自転車くらいちゃんと自己管理しろ、ばかたれ!」
 勢いに任せてそのまま通話を切ると、この行き場のない怒りをどう対処していいかわからず、結局何の返事もない無機質な携帯電話を睨みつけるだけだった。
「弟がどうかしたのか?」
 会長がパソコンに目を向けながら問う。
「弟が自転車を貸してくれって電話してきました」
 携帯電話を制服のポケットにしまうと、足が扉へ向かう。
「惣志郎がまだ来ていませんから、今の内に、自転車の鍵を渡しに行ってきます。なるべく早く帰ってくるので、心配なさらないで下さい」
 早口でこの場を納めると、「早く帰ってこいよー」という会長の言葉を背中に、涼しい生徒会室から出ていく羽目になってしまった。








 職員室やら家庭科室やらがある二棟から外に出ると、モワァとした湿気のある空気が私の体にまとわりついた。まだ朝の十時になっていないというのに、この暑さと湿り気のある空気。こりゃあ、今年の夏も暑くなるなあ、と顔がげんなりするのをなんとか引き締め体に鞭を打つ。
 翔のあの電話がなければ、私は惣志郎を待つだけでよかったのに、帰ったらただじゃおかないからね。
 私は心の中で愚痴りながら、この初夏特有の空気を振り払うように大股でサッカー部が練習しているグラウンドへ進んでいく。

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