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*7*
そう言って、翔が走って行った先を温かい目で見つめる。
「天宮中では、かなり期待されてきたようだな。自信みたいなものが垣間見えるが、高校になったらその自信がどこまで通用するのか……楽しみでもあるな!」
ふっと笑みをこぼし、まるで少年のようなあどけない笑みを浮かべる。どうやら押田さんはうちの弟にぞっこんらしい。
台詞の余韻にキメ顔で浸っているのもつかの間、「んん!? おい、来部!」とさっきの声色とは打って変わり、私の肩を強い力で二、三度バシバシ叩くと、視線の先を指さす。
「おい! あいつ――」
「もう何するんですか、押田さん。一体、何が見えて――あれ!? 惣志郎!?」
彼が指さした先には、私が一番苦労させられている惣志郎が翔と入れ違いに登場してきたのである。
押田さんは、「あれがお前のホームズの猫又惣志郎だな、そうだろう? ワトスンくん」と肩眉を上げて口元がニヤリ。誰がワトスンになったんだ、誰が。
惣志郎は手をひらひらとこちらに振りながらゆっくりと近づいてきた。
そのまま私に話しかけようと開いた口が、押田さんによって遮られる。
「よお! お前が猫又惣志郎だなあ!?」
「……誰ですか?」
惣志郎のストレートな反応。頬の筋肉がピクピクと引きつっている。
同じ学校の敷地内で話しかけられたからといって、全員が心優しく対応してくれるわけではないということを、押田さんは学んだに違いない。というか、彼の勢いならこうなるのも無理はないし、普通こうなるはずだ。
「ん? ああ、すまねえ。俺はサッカー部のキャプテンをやっている押田俊っていうもんだ。よろしくな。生徒会の猫又のことは、有名だからな。いつか話でもしてみたいと思ってたんだよ」
押田さんは、白い歯をニカッと見せる爽やかスマイルを惣志郎に送る。
「初めまして。生徒会、会計長の猫又惣志郎です」
惣志郎も負けじと爽やかな笑みで挨拶を返す。なんだこの人達。
とはいえ、おかしいではないか。
「どうして惣志郎がここにいるのよ。私達、惣志郎を待っていたのよ?」
「ああ、そのことなんだけど。愛華ちゃんが生徒会室を出ていったのと、僕が来たのはほぼ同時だったんだよ」
「え!? それじゃあ、私が出ていった途端、先輩達と紗綾香ちゃんと惣志郎を待たしていたってことになるの!?」
「そういうことになるかな」
それはなんだか申し訳ない。
「いや、いいんだよ、全然。まあ、直に戻ってくるだろうって待ってたんだけど、なかなか帰ってこないから、サッカー部の予選結果の書類を貰うついでに、愛華ちゃんを連れ戻せって言われたんだけどね」
うっ! その愛華ちゃんを連れ戻すっていう言葉が気になる。なんだかとても悪いことをしてしまったような気分だ。しかし、これも全部我が弟の所為である。
「ところでさっき走って行った男の子って翔くんだよね?」
「……まあ、そうだけど。どうしてわかったの? 翔と会ったことあるっけ?」
惣志郎は首を横に振り、だってと言葉を続けた。
「目元が愛華ちゃんにそっくりだったから、そうかなって」
目元……!? そんなこと言われたことない。第一、翔と私はあまり似ているとは言われないのに。
その言葉に反応して、惣志郎にずいっと歩み寄る押田さん。
「それって、もしかして推理かなんかか!?」
結構な勢いに怯む惣志郎。
「こればかりは違いますよ」