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ヤシノキ町物語 第一話
作者: アルセ  (総ページ数: 109ページ)
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*38*

???.海

  小西家のヨット。
  デッキで声を張り上げるタイチ。

タイチ「帆を揚げろ!」

ダイチ「合点!これが本当のホタテ(帆立)さぁー!!」

     ×          ×         ×

  薄暗いキャビン内・・・ドアの隙間から光が射し込む。
  縄に縛られて身動きが取れないモモとリカ。

リカ「ふぅ〜ん・・・あなたがジョージ先生の姪御さんのモモちゃんなの。お会い出来て嬉しいわ」

モモ「ど、どうも・・・」

リカ「あっ、自己紹介が未だだったね。私は小西リカ。以後お見知りおきを」

モモ「コ、コチラこそ・・・卯野木モモです。宜しくわぁー・・・?!」
  と、突然のヨットの揺れに驚く。

リカ「それでご感想は?」

モモ「え?」

リカ「この町の印象はどう?モモちゃん」

モモ「どうって・・・とっても・・・吐きそうぉー!!!」

        ×      ×      ×

  デッキ。
  帆を揚げるのに梃子摺っているダイチ・・・に、イライラしているタイチ。

タイチ「(焦れて)早く帆を揚げろって・・・鈍タコっす!何時まで経ってもこれじゃ沖に出られねぇじゃねぇかよ!」

ダイチ「そう思うんだったら手伝って下さいよ。こんなの扱うの初めてなんだから・・・」

タイチ「オレだってそうだ・・・」
  突風に煽られ、バランスを崩すタイチとダイチ。

タイチ・ダイチ「(驚いて)うわぁ〜・・・?!」

         ×      ×      ×
   
  激しく揺れるキャビン内・・・アッチへ行ったり、コッチへ行ったりを繰り返すモモとリカ。

モモ「(非常に怖がって)キャアー・・・!!」

リカ「(平然と)もう、下手ね」

モモ「ねぇ、怖くないの?」

リカ「全然。モモちゃん程は感じないよ」

モモ「(うんざりして)最悪・・・もう嫌だ、こんなの!」

リカ「だって、自分から飛び込んで来たんだから、しょうがないじゃん」

モモ「(ウッ)それはそうだけど・・・仕方がなかったんだよ。・・・あの時は・・・セーターを取り返すのに必死だったから・・・」

リカ「セーターって・・・(タイチを思い浮かべ)あの背の高いヒトが腰に巻いてたアレ?アレってモモちゃんのなの?」
  
  頷くモモ。

リカ「もしかして・・・ソレを取り戻すためだけに捕まってしまったの?」
  
  再度頷くモモ。

リカ「(突然)アハハハ・・・何それ?ウケる!」
  と、笑い出す。

モモ「へ?」

リカ「あんなモノのために危険を冒すなんて普通じゃ絶対アリエナイ。モモちゃんって面白いね」

モモ「(愛想笑いを浮かべ)へへへ・・・(M)何、この子?!」

リカ「諦めたら?あんな安物のセーター」

モモ「?!!」

リカ「何処にでも売ってるじゃないあの柄のセーター。ウチの店にだって同じデザインのあったよ」

モモ「(怒りを抑え、静かに)ない・・・」

リカ「あったよ。この前、見たもん。今ね、バーゲンセール中だから私達のお小遣いでも買えるとおもうよ」
   
  怒りを抑えつつ震えるモモ。

リカ「ね、そうしなよ?」



 モモの腹の中は煮え繰り返っていた。今にも、堪忍袋の緒が切れそうである。そして、終に怒りの活火山は噴火した・・・・・・。



モモ「(声を張り上げ)ないっ!何処にも売ってないっ!!」

リカ「(少しムッ)そんな風に言わなくても・・・」

モモ「アンズがくれたんだもん・・・」

リカ「え?」

モモ「お姉ちゃんがくれたんだもん!私を忘れないでねって!」

リカ「?」

モモ「(涙目で)アレはね、只のセーターじゃないの。アンズやパパやママやカエデ町の人達なの・・・」

リカ「・・・」

モモ「そりゃ他人には普通のセーターにしか見えないかもしれない。でも、アタシにとっては大切な宝物なの。カエデ町で過ごした六年間の思い出がいっぱい詰まった世界でたった一つのセーターなの!だから、何処にも売ってないの!」

リカ「・・・」




 リカには、どうすることも出来なかった。気を利かせて助言を与えたつもりが、逆に相手を傷つけてしまったことを、心から反省した・・。



モモ「(鼻を啜り)ごめん・・・わかりっこないよね・・・」

リカ「(シュン)・・・」

モモ「リカちゃんみたいなお嬢様には理解出来ないよね」

リカ「!」

モモ「リカちゃんのようなセレブなおウチの子には絶対・・・」

リカ「(顔色を変え)やめてっ!」

モモ「(驚いて)?!」

リカ「(ハアハア)・・・」

モモ「?」

  デッキにいるタイチとダイチの会話が、聞こえてくる。

タイチの声「(上機嫌で)ハハハ、どうだ!オレ様のお仕事のテクニックは?」

ダイチの声「完全誘拐とはよく思いついたもんすね」

          ×      ×      ×
   
  デッキ。

ダイチ「(ヨットを叩いて)コイツじゃ簡単には追い掛けられないし、近づきゃ丸見えだからすぐわかっちゃうしょ」

タイチ「何もかもがパーフェクトに事が運ぶから笑いが止まらないぜ」
  と、高笑いをする。

ダイチ「でも、世の中って不思議なもんすよね。(リカを思い浮かべ)あんな何処にでもいるようなJCSが、この町一番の資産家の娘だなんて今でも信じられないっすよ」

タイチ「噂じゃ・・・数え切れない程の莫大な額の私産を持っているらしいぜ」

ダイチ「(非常に驚き)マジ?!!そんなにあるんすか?!!!」


タイチ「(耳を押さえ)シィー・・・声がデカすぎる!」

ダイチ「で、その一部を・・・」

タイチ「身代金としてガッポリ頂戴する・・・」

ダイチ「って寸法ですね」

タイチ「そういうこと」

ダイチ「流石は兄貴。実にユーモアに飛んだ(英単語で)発想。御見逸れ致しました。成功したら、ツケを気にせず、毎日屋台のおでんが食べられますね」

タイチ「屋台どころか高級レストランに通い詰めの毎日になるかもしれん。(テンションが上がり)ハハァー!貧乏グッバイ幸せウェルカム!今度こそパーフェクト間違いなし!」

    
  


























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