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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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Episode14【懐かしい声、愛猫の気遣い・教え。】

 カーテンを閉め忘れたせいか、窓越しに差し込む月の光で目が覚めた。
白々とした月は寂しそうで。
今の私に昔の私にとても似ていると思った。
私ってものすごくずるい。
こんな状態になっても、誰かが助けてくれる。手を差し伸べてくれるってどこかで思ってる。
だけど。
誰にもこの事言えないしもし、言ったとしても離れて行ってしまうと思う。
苺香ちゃんだって皆。
そして、離れても苦しめてしまうと思う。
「……はぁ。」
その事実を目にして、まだ涙ぐんでしまう。
知られたくもないし知られてほしい。
背負ってほしい、傍にいてほしい。解ってほしい、察してほしい。
でも。
違うみたい。
傍に居ればいるほど辛くなってくる苦しんでしまうんだ。
それなのに、理解してるのに―――――解ってほしいって傍にいてほしいって思ってしまうんだ。
私が一人で解決しなくちゃ頑張らなきゃいけないって解ってる。
なのに、部屋から出れない。怖い。
今日も苺香ちゃん達は心配してかわりがわりに家に来てくれていた。


ブーっ ブーっトゥルルルル♪


突然、聞こえた機械音に私はブルっと体を震わせ強張らせる。
さっと自分の携帯を見ても着信はない……私の携帯じゃない。
という事は、家の電話が鳴ってるって事?
私は、階段を駆け下り規則正しくなり続けるリビングに置いてある電話を手に取った。
「はい。もしもし……高嶺です。」
受話器の向こうは沈黙を守ったままで。
間に合わなかったのかな……?
そう思い、電話を切ろうとすると―――。

『―――千雪ちゃん?』

受話器の向こうからとても、懐かしい声が聞こえる。
優しくて凛とした声―――もしかして……。
「……お父さん?」
私はその名前を口にした瞬間、涙が溢れる。
『―――千雪!!お前、大丈夫かっ?生きてる?!』
ガサガサと受話器を奪い取るような騒音の後、聞きたかった声がまた一つ増える。
「お、お兄ちゃあぁん!!」
私は受話器を握りしめ、大きく頷く。
「お兄ちゃん。……私!」
「千雪、女……いや、母さんと会ったか?」
小さく返事するとお兄ちゃんは悲しそうなため息を、声を、漏らす。
『―――千雪ちゃん。今、辛いのに帰れなくてごめんな。携帯が充電なくなってて今、やっと公衆電話が見つかってかけてみたんだ。良かった、出てくれて。』
あ、お父さんの声だ。
そっか、そうなんだ。
「二人ともどこにいるの?」
『……言えない、ごめんな。』
不安が伝わったのか、お父さんは明るい声を出す。
「あのな。ちょっと、裕樹と日帰りで会う予定だったんだが長居してしまったんだ。大丈夫、今から戻るから。」
戻る?帰ってくるって事??

「それは、家に帰ってくるって事なの……?」

私が涙を抜き取り受話器を強く握りしめ、ドキドキ鼓動が早くなる胸を抑えながら返事を待っていると返事をする。
『―――裕樹から聞いた。俺が千雪ちゃんの事を苦しめていたんだな。勝手な父親でごめん、母さんと仲が悪かったのはお前のせいじゃない。』
私の心を撫でるように聞いたこともないような優しい声で私を肯定してくれた。
慰めるように、謝るように。
その声を聞くたびに胸が目頭がジーンっと熱くなる。
「私は……お母さんの事、知っていてッ……わた……。」
『それ以上言わなくていい。俺が悪いんだ、母さんの事をわかってやれなかった。大丈夫だ、安心しろ。』
「―――でも、お母さんと喧嘩して寂しくて苦しいはずなのに安心しちゃったんだよ!?私は酷い娘だよ……ッ!」
『千雪っ。母さんはお前に解ってほしいんだ、母さんだって同じ気持ちだったはずだよ!』
……お兄ちゃん。
お父さんやお兄ちゃんがいくら、慰めてもらったって肯定されたって私がずるくて臆病で酷くて家族をバラバラにした原因の人物だって事にはかわりない。

「……ねぇ、お兄ちゃん達に会いたいよ。」
『なぁ。千雪―――っ聞け。……お前は……ジ……母さんはな……。』
途中に耳障りな音が聞こえ、お兄ちゃんの言っていることは聞こえない。
 ……ブッ。
お金が無くなったのか、電話がブチリっと切れる。
「何を……言っていたの?」
私は懐かしい声を聞いたからか一人だけで大きな部屋に居ることに寂しく孤独も感じた。
慣れていたのに。
でも、深い恐怖心にのみこまれても笑えてきた。
お父さんが謝ってくれてとても心配していた事、お兄ちゃんが肯定してくれた事。
電話でお父さんの声が聞こえるのが怖かった、不安でしかなかった。
悪い内容なのかもって。
謝って慰めてくれて、肯定してくれたことがとても、とても嬉しかった。
「……強くならなきゃいけないのに。あと少しで立ち直れるのに。どうして外に出たくないんだろう。私って本当に臆病なんだな……ねぇ、チャロ。貴方も本当は思っているんでしょう?」
『んがぁっ!!』
本棚の隅っこに小さくなって寝ていたチャロが、否定するように目をパチッと開けて頭突きをしてくる。
「キャっ!チャ、チャロ~!!」
チャロを抱きしめて頬をつねるとニャッ!と短い悲鳴を上げて悪戯っ子のように舌を出して膝に転がる。
……もし、もしも。
チャロが私の事を笑顔にさせようとしてくれたならって考えると不思議と。
不思議と冷めきっていた心が不意に温かくなる。
チャロは教えてくれた。
悲しい事を考えるより楽しくて嬉しくなる事を考えてって。
『んがぁ~♪』
「―――チャロ、ありがとうねっ!!」
私がチャロに向かってお礼を言って優しく撫でると、チャロは、嬉しそうに、得意げに喉を鳴らした。

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