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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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strawberryflower1、【苺の可愛い君。】


「―――何しているんですか?こんなところで。」
誰もいない教室で、一人窓の外を眺めていた苺香が振り返ると、卒業証書の筒と美術用具を持った桜太が入ってくる。
「べ、別に。この景色も見納めかと思って、眺めていただけ。笠寺君の言うとおりに、最後だから――――。」
「……泣いているんですか?」
僕は隣から彼女の顔を覗き込んだ。
「な、泣かないよっ!!……ただ、皆バラバラかぁ、って思って。それに、泣く必要もないしむしろ嬉しい事いっぱいじゃん!芸能界には入れて大学も受かったし。」
 高嶺さんは念願の教育大学に、笠寺君は高嶺さんの大学の隣にある超難関名門にトップで現役合格をし。
泰陽君は地元の大学に。僕と苺香ちゃんはデザイナー専門大学に。
 そして苺香ちゃんは大学、高校が一緒でも春から芸能界に入ったら気軽に近づけなくなって雲の上の人になってしまうだろう
寂しくないと言ったら嘘になるだろう、僕は彼女の事は尊敬している。
とても感情が豊かで人の事を誰よりも思っているし目標に向かって走り続けることが僕には難しいことをやり遂げようとするから。
「……さ、寂しくなんかないもん。」
僕に背を向けて今にも泣きだしそうな声で言い訳を言う苺香ちゃん。
「泰陽がいなくて出会っていなかったら千雪とも皆とも仲良くなれなかった。それって運命があるっていう事でしょ?」
「確かにそうですね、笠寺君とか仲良くなれなかったかもしれませんね。」
泰陽君と笠寺君が子供のころから仲が良くなかったのに仲が良くなった事、僕はいろいろな事を思い出すように目を伏せた。
苺香ちゃんは窓の外を見る。
「……毎日が楽しくて、楽しくて。夢みたいだった。」
そして、それから、と僕に微笑みかける。
それは美しく可愛らしい微笑みだった。
「桜太がいたからあの時、私は強くなれたんだよ。」
「え。あの時って?」
思わず、僕は声を上げてしまった。
「……1年の千雪がピンチの時、私とっても迷ってた。お兄さんの事、言っちゃいけないって、でも千雪にとってはそれでいいのかな、って、でも桜太は抱えないでって言ってくれた。だから、私は言えたの。一緒に戦わなくちゃって思えたんだよ。」
「あぁ、ありましたね。僕、その事忘れていました。」
苺香ちゃんはうるんだ瞳を僕に向けて顔を赤く染める。

「私が迷ってる時、困っている時。迷いを打ち消してくれたり助けてくれてありがとう。」

「――――苺香ちゃん、どんだけ前の話をするんですか?」
沈黙が落ちた。
開け放されていた窓からは吹奏楽部の演奏が微かに聞こえてくる。
ついこの間まで、マフラーをまいて歩いていたのに、もう風は緑、花の香りがするようになった。
「桜太――――今まで友達として支えてくれてありがとう。大学もよろしくお願いします。」
「こちらこそです。」
丁寧に一礼した苺香ちゃんは前を向き、恥ずかしそうに目線を逸らす。
そのまま、また、しばらくの間黙っていた。


「じゃあ。そろそろ、行くね。千雪達とも写真撮りたいし。」


「―――あ、はい。じゃあまた後で、ですね。」
歩き出した苺香ちゃんを、僕は呼び止めてしまう。
「苺香ちゃん。」
振り返る苺香ちゃんを見て、僕は必死になって何でもないような顔を作って言った。
「――――僕が苺香ちゃんを助けるのは好意を抱いているからです。それに、苺香ちゃんと一緒の大学になって僕はとても嬉しいんですよ……!」
「………。」
苺香ちゃんは眉を寄せる。
「……え、えっと、桜太は友達として言ったんだよね?」
「今のは友達として、ではありませんよ。」
僕は苺香ちゃんが徐々に赤く染まっていくのを嬉しく思いながら質問に対して否定をする。
苺香ちゃんは何かを言いかけたかのように口を開いてまた、閉じる。
―――さらに、こんなことを言ったらどんな顔をするのだろうか?
僕は悪戯をするような気分で言ってみる。
「苺香ちゃん、知っていましたか?」
「……ぇ?」


「―――僕はずっと前から苺香ちゃんの事が好きなんですよ?」


そう言い、僕は後も振り返らずに教室を真っ赤になって固まっている彼女を置いて駆け出した。

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