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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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*12*

  〈美祢side〉

 その日の夕方、俺達は夕飯の材料を買いに、近くのスーパーへ行くことにした。
 こいとの歓迎会もかねて、たこ焼きパーティーをする予定だ。
 
 俺としては、コマリの世話役が増えて安心している。あいつは何かとガサツで扱いづらい。
 その点、こいとは言動こそ荒いものの敬語を徹底しているし、真面目で素直だ。彼女になら任せてもいいだろう。女子同士だし、会話も弾みそう。

 「うわああああん、なんで急に降るのぉぉ」
 スーパーにつくなり、コマリが泣き崩れた。彼女のスウェットは、突然降りだした雨によってびしょびしょになっている。うっすら下着が……おっと、これ以上はセクハラだ……。


 「わー、すごかったですねぇ。これが逆憑き。あはは!」
 「こいとちゃん、なんで笑えるのぉぉ」
 「幽霊は天気事情とかどうでもいいので」
 「ずる過ぎるよおお」

 こいとは現在も、空中をゆらゆらと浮遊中だ。
 俺たちには高くて届かない棚の商品を、代わりに取ってくれている。
 でも俺は見逃さない。今、カートのかごの中に、じゃがりこを放り込んだな?

「さて、なんのことやら」
 こいとは『わたし、違いますよ』ってな表情だ。白々しいにもほどがあるだろ。

「返してこい。今すぐ。おまえ昼も俺のお菓子勝手に食ってただろ」
「だって期間限定ですよ!? 明太子味ですよ!」
「明太子が好きなのはわかったから、ほら、閉まって来い。店員さんに気づかれるとやばいんだよ。ちょっとは察しろ」

 一般人視点で見ると現在の状況は、かなりカオスだ。
 びしょ濡れでガミガミ説教している、桃色の髪の男子高校生。同じく頭から雫を垂らしている女の子。そして、宙に浮いているじゃかりこ(明太子味)。

「そんなんだからモテないんだよ」とかブツブツ言っていたこいとだが、目立つのは避けたかったようで、不服ながらもお菓子を棚に戻す。

「あはは、恋愛の神様に言われちゃったね、トキ兄」
 コマリはとっても、嬉しそうだ。
「ほっとけよ」
 俺はプイッと顔をそらす。
 別にモテたいとか思ってない。恋愛に時間をとられる位なら家でゲームをやってる方がマシだ。

 ……いや、でも。
 もしも自分にチャンスが回ってくるのならば、そんときは、まあ、楽しまないことも、ない。
 
 チラリとコマリの顔を覗き見る。まんまるの瞳。赤みがかった頬。
 こいつ、大人しくしとけば意外と………。
 って、何考えてんだ俺。無理無理無理。こいつと付き合うとかマジ無理。

 ん?? え、待って俺今付き合うって言った?(注:言ってません。心の声です)

「うわああああああああああ!??」
「えっちょ、トキ兄??」
「お、おま、離れ、離れろよ」
「べつに、くっついてないんだけど」
「くっつっ!?」

 待て待て待て。落ち着け。なんでこんなに焦ってんだ?
 自分でも自分が分からない。どうしちゃったんだ?

 ま、まさかまさかまさか……、こいとか? 
 あいつ確か、運気アップとか言ってたよな。恋愛魂だっけ? あれ、確か出したよな? そのせいで俺達の恋愛運が上がって、異性を意識するようになったとか? か、考えすぎ?

「なに叫んでんの? 怖いんだけど!? く、狂ったの?」
 コマリが素っ頓狂な声を出して、そっと右手を俺のおでこに押し当てる。
 すべすべした感触が、手のひらからじきに伝わってきて。

「ひゃっ」
「熱はないね。だ、大丈夫? 知恵熱? わ、私が頼りないから無理させちゃったのかな」
「うっ」
 彼女の手が、おでこから、今度は俺の右手に移る。指と指が絡まり合う。

「え、あの、え……?」
「いつもありがとう、トキ兄」
「………う……。っ??」

 なんで俺はこんなにドキドキしてるんだろう……?
 頭がフワフワして、身体に力が入らない。どうしよう。なんだこれ。マジでなんだこれ。
 コマリは何も感じていないみたいだ。ただひたすら、赤い顔をして棒立ちになっているパートナーへ、思案気な表情を浮かべている。

「こ、こいと……おまえなんか、やったのか……?」
「え、な、なんのことですか? え、ってか、すごいハアハア言っててヤバいんだけど。大丈夫そ?」

「は、はあ? おまえの能力じゃねえのかよ……」
「ち、ちがいますよ? こんなことできません。恋愛の運気も、美祢さんの場合ずっとゼロですよ」

 こいとは、疑われたことへの怒りと、俺の体調の変化への驚きで半々といった具合だ。
 もしかして、昼間盛られてた菓子になんか入れられてたか? んな、馬鹿な。

 と、不意にコツコツコツ、という靴音がした。
 目の前が暗くなる。誰かが俺の目の前に立ったようだ。誰だ……?

 身長は俺より一回りほど大きい。百七十センチ前後だろうか。やたらとサイズの大きい白衣を身にまとっており、髪色は艶のある黒。横に垂れている髪だけ長く伸ばし、後ろはウルフカットに整えられている。

「やあやあやあやあ! 久しぶりやなあ美祢」

 その男は、おかしな訛り口調でべらべらと言葉を続けた。


「随分あっさりとかかりよったけど。ボクの操心術そんな強ないねん。なんや、弱くなったんとちゃいます?」






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