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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~

*13*

 さあて、どんどんラブコメチック&キャラの心情が入り混じるストーリー
 謎の人物とは一体?
 本日は二話投稿です♪ 新キャラも愛してね。
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 〈コマリside〉

  あれ……? 私、今まで何してたっけ?
  我に返るのと同時に、自分がトキ兄の両手を強く握っていることに気づき、困惑する。

 「え?」

  全てを理解し、私の顔は一瞬で赤く染まる。体温が上昇し、鼓動が速くなるのが分かる。
  おそるおそる前を見ると。トキ兄が、頬を紅潮させながら目を潤ませていた。
 
 「あっははははははは! こんな簡単にハマるとはなあ!傑作傑作」

  後方で、周りの人の視線も気にせず高笑いしているのは、背の高い男の子。
  歳は、トキ兄と同じ位かな。端整な顔立ちをしており、率直に言えばかなりのイケメンだ。
  彼は腹を抱えながら、ゼエハァと肩で息をしている。笑い疲れて、しんどいようだ。

 「……おまえ」

 トキ兄の口から、ぞっとするような低い声が漏れた。
 顔をこわばらせ、鋭い目つきで相手を睨んでいる。怒ると怖いのは理解していたけれど、ここまで感情をむき出しにしたのは初めてだ。


 「なんやねんミネ。いとこにそない怒ることないやろ」
 「「いとこぉぉ???」」
 「せやでー」


 私とこいとちゃんの声が揃う。この子、時常美祢のいとこなの? 
 それにしては、トキ兄への当たりがいささか強すぎやしないだろうか……。それに、操心術って。この人、一体何者なの?
  
「あ、自己紹介が遅れたわ。ボクの名前は夜芽宇月(やめうづき)。職業はハンター」
 彼―宇月さんは白衣のポケットに手を突っ込んだ。

「ハンター?」
「あ、知らん? うーん、君にも分かるように言い換えれば、祓い屋のことやな。霊能力を使って、霊を狩る。ボクの家系は陰陽師の末裔で、微力ながら霊能力が使えるんよ」

 れ、霊能力者って、実在するもんなんですね……。
 漫画やアニメで馴染みのある言葉ではあるけど、いざ現実に現れるとどう対応していいやら。こ、これも逆憑きの効果かしら?

「なんでここにいるんだよ宇月。おまえ、京都の大学行ってただろうが」

 トキ兄の態度は変わらず悪い。どうやら、そんなに仲はよろしくないようだ。
 無論、能力とやらで心を操られ、弱みを握られて黙っている人はいないよね。

「ちょっと大学が自分と合わんくてな、中退することになったんや。そのあと、おまえから同棲の連絡が来て。ちょうどボクもハンターの異動で東京に移る予定やったから、連絡も取れてええかなと思って。美祢は昔から口先だけであんまり動かんしな。ボクがコマリちゃんの周辺の霊倒せば、安心して暮らせるやろ?」

「俺がいるだろうが!」
「美祢は何もできんやろ」

 トキ兄の叫びを、宇月さんは冷ややかに一掃する。
 軽薄な口調の裏には、ぞっとするような圧があった。

「霊が見える。ただそれだけ。それで人を救うなんてあほらしくてしゃあないわ。パンチ一つも打てんやつが、女の子を救えるわけないやんか」

 やめて。

「ボクは、なにか間違ってることを言うてるかな? アンタには無理だから、年上に任せろ。そない難しいことやないで。なあ、大人しく言うこと聞けや」


 ……やめて。


「現に振り回されてるやん、術にもハマるし。なあ、いつまで無能さらしとるん」


 ………やめて!


「もうやめて!」

 考える前に体が動いていた。
 私はトキ兄の前に立ち、両手を広げる。足も手もガクガク震える。大きい人に怒鳴るのはこわい。でも、それでも。

「あ、あんた、何なんですか。わ、私のパートナーを、舐めないで、ください!」
「っわ」

 宇月さんの腕を強くつかむ。
 虚を突かれて、宇月さんが一歩後ろに下がった。

「わ、わたしの、トキ兄を、悪く言わないでください!!!」

 トキ兄は無力なんかじゃないよ。私のルームメイトは、ボディーガードは、とっても優秀だよ。
 毎日毎日、テレビ電話を繋いで、危険がないか調べてくれたり。宿題で分かんない所があれば、教えてくれたり。
 けだるい雰囲気を出しつつも、なんだかんだ言って彼は優しい。私もついつい甘えちゃって……。

「束縛の強い男はフラれるよ」
 こいとちゃんがポツリと呟く。
「うちもあんたのこと、大っ嫌いだから」

 宇月さんは、数秒間フリーズしていた。
 三人から敵意を向けられたことに耐えられなかったのだろうか。それとも、自分の行いを少しは顧みてくれたのだろうか。


「……おい宇月。俺も確かにおまえのこと嫌いだけどさ、昔はこんな感じじゃなかったじゃんか」
 トキ兄が縋るように言った。
「少なくても、数カ月前は穏やかだった。一体どうしたんだよお前。きゅ、きゅうに来られて、大学辞めたとか術かけたとか言われても訳分かんねえよ」

 宇月さんは、「ハァーーーーーーッ」と長い息を吐く。その息には深い哀愁を帯びていた。まるで、なにかを必死に押し殺しているような、そんな息づかいだった。

 

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