完結小説図書館
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*13*
さあて、どんどんラブコメチック&キャラの心情が入り混じるストーリー
謎の人物とは一体?
本日は二話投稿です♪ 新キャラも愛してね。
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〈コマリside〉
あれ……? 私、今まで何してたっけ?
我に返るのと同時に、自分がトキ兄の両手を強く握っていることに気づき、困惑する。
「え?」
全てを理解し、私の顔は一瞬で赤く染まる。体温が上昇し、鼓動が速くなるのが分かる。
おそるおそる前を見ると。トキ兄が、頬を紅潮させながら目を潤ませていた。
「あっははははははは! こんな簡単にハマるとはなあ!傑作傑作」
後方で、周りの人の視線も気にせず高笑いしているのは、背の高い男の子。
歳は、トキ兄と同じ位かな。端整な顔立ちをしており、率直に言えばかなりのイケメンだ。
彼は腹を抱えながら、ゼエハァと肩で息をしている。笑い疲れて、しんどいようだ。
「……おまえ」
トキ兄の口から、ぞっとするような低い声が漏れた。
顔をこわばらせ、鋭い目つきで相手を睨んでいる。怒ると怖いのは理解していたけれど、ここまで感情をむき出しにしたのは初めてだ。
「なんやねんミネ。いとこにそない怒ることないやろ」
「「いとこぉぉ???」」
「せやでー」
私とこいとちゃんの声が揃う。この子、時常美祢のいとこなの?
それにしては、トキ兄への当たりがいささか強すぎやしないだろうか……。それに、操心術って。この人、一体何者なの?
「あ、自己紹介が遅れたわ。ボクの名前は夜芽宇月(やめうづき)。職業はハンター」
彼―宇月さんは白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「ハンター?」
「あ、知らん? うーん、君にも分かるように言い換えれば、祓い屋のことやな。霊能力を使って、霊を狩る。ボクの家系は陰陽師の末裔で、微力ながら霊能力が使えるんよ」
れ、霊能力者って、実在するもんなんですね……。
漫画やアニメで馴染みのある言葉ではあるけど、いざ現実に現れるとどう対応していいやら。こ、これも逆憑きの効果かしら?
「なんでここにいるんだよ宇月。おまえ、京都の大学行ってただろうが」
トキ兄の態度は変わらず悪い。どうやら、そんなに仲はよろしくないようだ。
無論、能力とやらで心を操られ、弱みを握られて黙っている人はいないよね。
「ちょっと大学が自分と合わんくてな、中退することになったんや。そのあと、おまえから同棲の連絡が来て。ちょうどボクもハンターの異動で東京に移る予定やったから、連絡も取れてええかなと思って。美祢は昔から口先だけであんまり動かんしな。ボクがコマリちゃんの周辺の霊倒せば、安心して暮らせるやろ?」
「俺がいるだろうが!」
「美祢は何もできんやろ」
トキ兄の叫びを、宇月さんは冷ややかに一掃する。
軽薄な口調の裏には、ぞっとするような圧があった。
「霊が見える。ただそれだけ。それで人を救うなんてあほらしくてしゃあないわ。パンチ一つも打てんやつが、女の子を救えるわけないやんか」
やめて。
「ボクは、なにか間違ってることを言うてるかな? アンタには無理だから、年上に任せろ。そない難しいことやないで。なあ、大人しく言うこと聞けや」
……やめて。
「現に振り回されてるやん、術にもハマるし。なあ、いつまで無能さらしとるん」
………やめて!
「もうやめて!」
考える前に体が動いていた。
私はトキ兄の前に立ち、両手を広げる。足も手もガクガク震える。大きい人に怒鳴るのはこわい。でも、それでも。
「あ、あんた、何なんですか。わ、私のパートナーを、舐めないで、ください!」
「っわ」
宇月さんの腕を強くつかむ。
虚を突かれて、宇月さんが一歩後ろに下がった。
「わ、わたしの、トキ兄を、悪く言わないでください!!!」
トキ兄は無力なんかじゃないよ。私のルームメイトは、ボディーガードは、とっても優秀だよ。
毎日毎日、テレビ電話を繋いで、危険がないか調べてくれたり。宿題で分かんない所があれば、教えてくれたり。
けだるい雰囲気を出しつつも、なんだかんだ言って彼は優しい。私もついつい甘えちゃって……。
「束縛の強い男はフラれるよ」
こいとちゃんがポツリと呟く。
「うちもあんたのこと、大っ嫌いだから」
宇月さんは、数秒間フリーズしていた。
三人から敵意を向けられたことに耐えられなかったのだろうか。それとも、自分の行いを少しは顧みてくれたのだろうか。
「……おい宇月。俺も確かにおまえのこと嫌いだけどさ、昔はこんな感じじゃなかったじゃんか」
トキ兄が縋るように言った。
「少なくても、数カ月前は穏やかだった。一体どうしたんだよお前。きゅ、きゅうに来られて、大学辞めたとか術かけたとか言われても訳分かんねえよ」
宇月さんは、「ハァーーーーーーッ」と長い息を吐く。その息には深い哀愁を帯びていた。まるで、なにかを必死に押し殺しているような、そんな息づかいだった。