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【第1話:ヘンな同居人】
「おーいコマリ、もしかして俺のカップラーメン食った?」
学校から帰って部屋に入るなり、床に寝そべってスマホゲームをやっていた男の子がチッと舌打ちした。
黒いパーカーに、ジャージのズボンというラフな格好に、ピンクに染めた髪がなんとも似合って……ない!
本人はおしゃれと思っているようだけど、めちゃくちゃアンバランスだ。
「え、あれ? キッチンのカウンターに、『食べて下さい』的な感じでおかれてあったら、食べるに決まってんじゃん」
私は悪びれずに答えると、肩から学生鞄をおろして軽く伸びをする。
「バッカお前!! あれは俺のだっつーの」
「おいしかったー。明日も買って来てね」
「はあ!? お・ま・え・なぁ……わさびでも入れればよかった……」
とため息をつく同居人を軽く受け流すのが日々の日課。
私の名前は月森(つきもり)コマリ・14歳。
現役の、ちょっと変わった女子中学生です。
□■□
私は、お父さんの知り合いが経営しているアパートに住んでいる。
去年までは普通に家族と一軒家で暮らしていたんだけど、毎年毎年台風の影響を受ける家で過ごすのは、かなりお父さんたちも怖かったようで。
「というわけで、コマリはそのアパートに住みな。お父さんとお母さんはおばあちゃんちに行く。 自分のせいでこうなったって思うのもしんどいだろ」
職業柄なのか、心理カウンセラーをやっているお父さんは、娘を困らせないよう、ゆっくりと説明してくれた。
「お前の言う『ギャクツキ』がなんなのか、お父さんはわかんないし霊感もないから、力になれなくてごめんな」
「いやいや、お父さんが謝ることじゃないし……。あと毎回家を半壊しにして、ごめんなさい」
逆憑きというのは、自分の行いや行動全てが悪運を引き起こしてしまうというあまりにも迷惑な体質だった。
神主さんが言うには、悪い霊などは向こうから人間にとり憑くが、私の場合は霊が大好きな「負のオーラ」を自らまとっているらしく、それは『憑いてもいいですよー!』というサインにもなるみたい。
よって、悪運に次ぐ悪運で、負の連鎖。
自分が死なない限り、この運命から抜け出せる道はないとのこと。
(なんでそんなまた面倒な体質に———!?)
娘のせいで、家の屋根は風で吹っ飛ぶわ、雨漏れするわ。
これじゃ一生親孝行できないし、お腹を痛めて生んでくれたお母さんにも申しわけなさすぎる。
お母さん自身はのんびりした性格で、「あら~レア引いた?」とゲーム感覚で呟いてたけれど。
「お父さんの知り合いの時常(ときつね)さんとこの息子さん、霊感あるらしいから、同じ部屋にしたけど大丈夫かな? コマリももう14だし、さすがに男の子と一緒は……」
「ううん、大丈夫! 私恋愛マンガより少年マンガ派だもん」
「そ、そんな基準で大丈夫なのか?」
「平気!」
とまあ、こんないきさつで、現在私は(二歳上の霊感バチバチの)男の子との生活をすることになったのだった。
ちなみに時常さんちの子なので、縮めて「トキ兄」と呼んでいます。
□■□
「トキ兄さぁ……」
トキ兄がゲームをしている横で、私は今日配られた教科書に名前を書く作業を始める。
「んだよ」
「いや、自ら髪染めて校則やぶって退学とかよくやるなって思って」
時常美祢(ときつねみね)という優等生みたいな名前なのに、彼の過去はかなりぶっ飛んでいる。
小学生の時は沢で釣ったザリガニを学校に持って行って、教室を水浸しにした。
中学校の時は【ミネ・ダークネス】と自分で名乗り、恥ずかしくなってその後学校に行けなくなった。
高校生になって、高校デビューを決めようと思って髪を染めたあとで校則に気づき、現在に至る。
「馬鹿なの……?」
「馬鹿って言うな44点ガール」
「だってそうじゃん! 色々と痛いし、全然似合ってないし。黒髪に戻したほうが良くない?」
初めて会った時の衝撃ったらなかった。
エクステとか、髪の一部分だけではなく、全体蛍光色のピンクなのだ。
『わぁー……』が第一声となってしまった私も失礼だけど、あれは仕方なかったと思う。許してください。
「もう吹っ切れたからいーの。似合わねえって笑われても自分的にはかっけえと思ってるし」
こう言う人に限って時々とんでもなく良い名言を言うものだから、私はいつも反応に困る。
「………そ、それならいいけど……」
「てかお前、いつになったらマシな幽霊連れてくんの? なんか、泣きながら『一生のお願いですいい幽霊見つけて下さい頼みます』って足つかまれたの、マジ怖かったんだけど」
逆憑きの対処法は二つある。
一つ目は『死ぬこと』。
色々大変だけど、人生は楽しい。私はまだまだ生きていたいので、これはナシ。
二つ目は『いい妖怪や幽霊を見つけて、その力を借りること』。
逆憑きに惹かれて集まってきた霊の中に、もし縁起のいい妖怪とかがいればの話にはなるけれど、彼らに土下座するなりなんなりして、協力してもらう。
そうして、日々起こる危険を守ってもらうことで、安心して生活できるってわけ。
んで、霊感のあるトキ兄の力でなんとかならないかなーっと踏んでいたのですが、残念ながらそう都合よくはいかなくて。
「あのなあ、俺も霊が見えるだけで神様じゃないんだからさぁ……。ボディーガードするだけでも疲れるっつーの」
「ま、まあまあトキ兄、拗ねないでよぉ。私はトキ兄がいてくれて助かってるよぉ」
悪運強すぎる中学生と、素行悪すぎる霊感男子。
これをネタに誰かが漫画を描いてくれることを祈ります。なんてね。