完結小説図書館
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*3*
翌日は土曜日だったけれど授業がある日で、私は眠い目をこすりながらクラスの入り口の扉を開ける。
ガラガラッ!
ものすごい音が部屋内に響き渡った。
うちの学校・ともえ中学校は今年開校六十周年を迎える。おかげで建物のいたるところに隙間が出来ていて、冬場はけっこう寒いのだ。
「あーコマちゃん。おはよー」
「おはよー月森」
「お、杏里(あんり)に大福(だいふく)。相変わらずラブいねぇ」
声をかけて来た、ゆるいハーフアップの穏やかな女の子が星原杏里(ほしはらあんり)。
幼稚園からの腐れ縁で、英語教室やスイミング、書道などたくさんの習い事をしている。くわえて吹奏楽部でフルートも吹いているので、華奢な見た目の割にめちゃくちゃタフ。
その横で、椅子ではなく机の上に腰かけているチャラそうな男の子が福野大吉(ふくのだいきち)。縮めて大福。
この二人、お母さん同士が友達なのもあって、一緒にいることが多い。性格的には杏里が大福に振り回されそうだけど、全然そんなことはないのだ。
よって、クラスメートの一部の人の間で、『早く甘い展開が見たいわ~。和菓子組』と呼ばれたりもしてる。
「お、そういや月森! 昨日の【怪異探偵Z】観た? エンディング変わってたぜ。チョーかっこよかったよな!」
大福が話題を振る。
怪異探偵Zというのは、少年漫画誌で大人気連載されている、漫画原作の怪異コメディアニメ。
そう、コイツと私は少年漫画好き仲間なんだ。
「ううん。私昨日は観てない……」
教室の最後尾の机にいったん鞄を降ろし、私は二人に近寄った。
さてさて、通例行事・二人の話に入るとしましょうか。
「めずらしいね。コマちゃんがテレビ観ないなんて。放課後カフェ寄ろうって言っても、『アニメやるから』ってキャンセルしてたじゃん~」
のんびり口調の杏里だからこそ、言及されると心に来るものがある。
私は言葉を詰まらせながら、そうっと視線を横にずらした。
「いやぁ、そのことはいいじゃん」
「よくない―。私わざわざ時間作って話しかけたのに」
「ご、ごめんって杏里~!」
両手を合わせて必死に頼み込むこと数分。ようやく彼女のお許しが出た。
この子、真面目で頑固だから、約束を破るとこうやって言及してくる。
私がオフの日は杏里の方で予定があり、なかなか一緒に遊べない。
大雑把な自分は、今日みたいにちょくちょく親友を無意識に傷つけてしまうことがあって。
「ふうん。じゃあお前、あの回観てねえのな。神回だったぞ」
「え、ちょっとネタバレは! ……ああ、昨日、トキ兄とちょっともめててリアタイ出来なかったんだよ」
カップラーメンを黙って食べてしまったことが逆鱗に触れたようで、あの後おつかい……ああいや、パシリに駆り出されたのだ。
ほんっと、あの人人使い荒いんだから!
「「トキ兄……?」」
杏里と大福の声がピッタリと重なる。
お互い首を傾げて、腑に落ちないって感じで腕を組んでいる。
「誰そいつ。おまえ兄ちゃんいたっけ?」
と聞かれて、私は自分のミスに気づく。
そうだった!
今日は新学年になって初めての土曜日。引っ越しやら始業式やらでバタバタしてて、同居生活のことを話し忘れていたんだっ。
(ど、どどど、どうしよう………!??)
お父さんの時のように漫画を理由には出来ないし、かといって素直に伝えたら、恋バナ好きの杏里は絶対食いついてくるだろう。
となれば大福も当然杏里と一緒に問いただしてくるから……。
「ねえねえコマちゃん」「おい月森」
あぁぁぁぁぁぁぁ! やばい、やばいよぉぉぉ。
「「もしかして、好きな人でもいるの?」」
………………は??