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*4*
す、好きな人?
なんのこと、なんの話??
私は二人から放たれた言葉に、一瞬めんくらう。
え!? 男の子と女の子が一緒に暮らしてたら、好きな人ってことになる世の中なの? それがふつうなの?
戦隊ものやアクションバトルに毒されて育ったのが、月森コマリという人間。こういうときにどういう反応をしていいかすらわからない。
なんでみんな、色恋沙汰にしちゃうの??
「だって、知らない男の子と暮らしてるなんて、好きな人以外ありえないよね」
と、杏里は言う。
「え、コマちゃん、どんな子がタイプなの?」
勝手に風呂敷を広げないでください。
好きなタイプ? 人をパシリに使わない優しそうな子かなぁ……。
「ちちち、ちがうよ! アパートの大家さんの息子さん! ちょっといろいろあって、引っ越すことになって、その、まあ同棲ってことにはなるけど、全然、全然そんなんじゃ!」
慌てて返したけれど、残念ながらフニャフニャと萎れた声では何もごまかせず。むしろ、言い方のせいで、更に誤解を生みそうだ。
と。
「アパートの……」
まだなおも獲物を狩るハンターのように目を輝かせている杏里を、大福が止めた。
「おい杏里、もうやめようぜ」
杏里の右手を掴んで、手元に引き寄せる。不意を突かれて、杏里は足をもつれさせ、「おっとっと」とよろける。
「えぇー、この先おもしろくなりそうなのに」
「人の話に突っ込み過ぎるのもアレだろ」
大福の言葉に私はウンウンと深くうなずいた。
さっすが大福! やっぱ持つべきものは仲間だよ。
これでやっと話を終わらせることができる。
いきなり幽霊が、妖怪がなんて言ってこわがらせるわけにもいかないし、この二人とはこうやってバカやってる方がこっちとしては楽でいい。
しかぁし。
「ってことで月森、放課後こっそり俺に彼氏の写真送ってくれ」
「!??」
類は友を呼ぶ。
幼なじみの言動を背後から見守っているこの男は、杏里の行動を真似する傾向にあるのです。
キーンコーンカーンコーン
「お、朝礼始まるぜ。じゃあまた後でな!」
「ちょ、ちょっと……」
うまいこと交わされ、右手を伸ばした状態のまま固まること数分。
その間、チャイムの音に合わせて、教室の後ろでおしゃべりをしていたクラスメートが自分の席へ戻っていく。
朝の元気はどこへやら。
まだ朝礼も始まってないというのに、私のやる気はすっかり削がれてしまいました。
自分の席へと進む足取りの重いこと重いこと。
『……おまえぇぇぇ。ふざけんなよ』
制服のスカートに忍ばせていたスマホがブブッと震動する。
私は席に着くと、机の引き出しの下でこっそりとスマホを開き、その画面―テレビ通話画面を確認する。
わがボディーガードの眉間には、深いしわが刻まれていた。
嫌だいやだとあれだけ叫んでいたのに、真面目なのか不真面目なのか。
『おじさんに頼まれて、わざわざ家から電話繋いでやってるのに……おい、あそこはせめて否定しろよ!? おい、どうすんだよ!? 俺ら、そんなハートフルな付き合いじゃないってのに!』
「それは充分把握しております……」
夜な夜な、部屋にひとつしかないテレビの視聴権をかけて〈叩いて被ってジャンケンポン〉をしている仲だもんね。
『最悪だよ! 引き受けるんじゃなかった! どうするよ、お友達の中で俺らがカップルに変換されるんだぞ責任取れよ!』
「新展開ラブコメディってことにすればナントカ」
『なーに受け入れてんだお前ぇぇぇぇぇ!! ミネ・ダークネスは色々とアウトだろーがっっ』
……あーあ、ことごとくついてない。
こんなので本当に、私の人生上手く行くのかなあ!?