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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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 展開の都合上とはいえ自分のキャラを死なせるのは胸が痛いよお(泣)
 みんな、由比みたいに抱え込んじゃだめだからね!
 ちゃんと相談するんだよ……。

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 〈XXside〉

 「おい、いい加減にしろよテメエ。どこへ行く気だ」
 
 一人の少年が、歩道の真ん中で声を荒げている。
 白いカッターシャツの上に紺色のパーカーを着ている。
背丈は160センチ前後。
 彼は手を広げて、相手がこれ以上先を歩くのを阻止していた。
 
 「どこへって、贄(にえ)の様子を見に行くだけですが」

 答えたのは、サスペンダー付きの黒い短パンを履いている、十歳くらいの男の子だ。
 髪型はおかっぱ。猫のような大きな瞳の奥は、怪し気にゆらゆら揺れている。
 
 「あなたこそその恰好は何なんですか、猿田彦命(さるたひこ)」
 「……俺の宿主だ。新しい身体だよ。てめえこそなんだその姿は」
 「あなたと同じですよ。我も見つかったのです、新しい器が」
 「なんだと? ――貴様、禍(わざわい)の神の分際で、何を」

 おかっぱの少年は、禍津日神(まがつひのかみ)と呼ばれる、悪神と呼ばれる存在だった。
 火事・洪水・公害・疫病。
 彼がいる場所では様々な被害が発生する。人々は神の力に抗えず、次々と死に絶える。
 神という名がついているが、実際のところは妖に近い。神になろうとしたが、人を殺し過ぎたせいでその資格を得られなかった……という説もある(この町一帯に伝わる話だ)。

 この町は霊的エネルギーが非常に強く、霊や妖怪にとって非常に過ごしやすい土地らしい。
 禍津日神は恐ろしいことに、日本全国を支配できる大量の霊力を持っていた。しかし、彼はその力を敢えてこの東京―D町のみで用いたのだ。
 平安時代、この町一帯を治めていた陰陽師が禍津日神を祠に封印するまで。

 昔の人は日照りや干ばつが続くと、『禍神様が怒っておられる』と顔を青ざめさせたとのこと。
 畑でとれた農作物を祠の前に置いたり、酷い話だが生け贄を捧げたりすることもあったという。

 猿田彦は同じ神として、禍津日神の事をよく知っていた。
 何十年、何千年と悪行を続けた神。この神界隈でも嫌われており、(神様たちに界隈と言うのもアレだけど)封印されるのも仕方ない、むしろずっと眠ってくれと思っている神々がほとんどだった。猿田彦も、その一人だった。

 

 「というかお前、いつ封印を解いたんだッ」
 「当時は難しい術だったかもしれませんが、今は違います。どんなに高度な技術も、時間がたてば廃れるもの。幸い時間はたっぷりありましたので、ゆっくり解除方法を図(はか)っておりました。意外と脆かったですよ」

 少年―禍津日神は、くつくつと喉を鳴らし哂(わら)った。

 「あなたこそ、いつ自由に動けるようになったのですか?」
 「力が戻ってきたんだよ。神の力は人間の気によって常に変化するからな。おまえと違って俺は、いい神・優しい神。無駄に岩の中に閉じ込められたり、クソ面倒な拘束をされることもない」

 「ふふふふふふ、相変わらず口が悪いようで」

 お前も大概だろ、と猿田彦は思ったが、声には出さない。
 片や道開きの神様、片や禍の神様。
 ここで歯向かったら最後、彼の右手が自分のお腹に貫通する。

 オーバーすぎる? いや、事実だ。
 この男は平気で人を殺す。自分が祀られている場所で人が死んでも、『自分のための贄だ』と喜ぶ有様だ。

「最近の人間はどうも勘違いしている。我々神々が住む場所は天界ではない。俗世(ぞくせ)だ。人間と同じ目線、同じ立ち位置で世界を視ている。天界から降りてこない奴も中には居るけれど」
「テメエには俺らを愚弄する権利はない! 散々人間を痛めつけておいて偉そうにすんな!」

 猿田彦は眉をしかめ、さっきよりも強い口調で詰め寄る。
「胸糞悪い再会だが、会えてよかったぜ。道開きの神として、ここから先は絶対に行かせねえ! てめえが贄だと呼んだ人間も、必死に生きてんだよ馬鹿野郎ッ」

 猿田彦は両目をつぶる。瞬間、彼の身体を青白い光が覆った。
 それは、どんどん強さを増していく。
「ふ、馬鹿め。貴様では我を倒せまい!」と禍津日神は胸をそらす。


 それでも、いい神代表・猿田彦は手を止めなかった。

「――本当はずっと言いたかった。ずっとずっと俺様は言いたかったんだ! いいか、この場所はな!本当は俺の縄張りなんだよ! 自分が守るべき人が、勝手に入ってきた野良猫に殺される無念、貴様には到底わからねえだろうがな!」

 猿田彦はそのまま禍津日神の懐に飛び込むと、その胸倉をガシッとつかんだ。


「貴様のせいで進む道が消えるやつらの事、考えたことあるのか! 生きてきた道が、貴様の言葉一つで無意味になる。必死で命を散らした奴の事、考えたことあんのか!」


 ……時代が移り替わり、神々の力は以前よりもずっと弱くなってしまった。
 身体の自由が利かなくなり、出来ることが限られていく中で、神々は状況を打破できる名案を思い付いた。
 人間の身体に乗りうつることで人の世を生きようとしたのだ。
 

 あるものは、命を救えなかった少女の身体に。
 あるものは、想いを伝えられなかった少年の身体に。








 そして、禍の神の力は『逆憑き』へと変わり、ひとりの平凡な少女へと降りかかるのだった。
 

 

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