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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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 Q.なんでそんなに更新が遅いのですか?
 A.別サイトの小説執筆と掛け持ちしているからです。スミマセン。

 Q.美祢と宇月はよく喧嘩しますが、喧嘩ップルなんですか?
 A.喧嘩ップルですね。お互いツンデレのツンが強く意固地ですが、リスペクトしあっています。
 ただ、『大好きだよ』と言うのが恥ずかしいだけなんです。デレる方法を知らないんです。

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 〈宇月side〉

 ボクは、自分のことが大嫌いだ。小学校の時からずっと嫌いだ。
 普通に会話をしているつもりでも、気づけば誰かを泣かせていて。謝ろうとしたら、また深く抉ってしまって。呆れられて、怖がられて、見放されて。ごめんなさい、を許してもらえなくて。

 家に帰ったら怪異払いの仕事。
 人と怪異の心を操り、主導権を奪い、一匹また一匹と倒していく。無心で祓う。ちょっと笑う。
 無理やり、笑顔を張り付ける。アンタは街の平和を守るカッコいいヒーローなのだと、自分に言い聞かせる。だから笑え、泣くな。
 
 『お前はもう、何もしゃべるな』と、父ちゃんに言われたことがあった。
 『そんな子に産んだつもりはない』と母ちゃんに言われたことがあった。

 中学生くらいから、家族内でも評判が下がっていった。
 明るかった母親は、一緒に食事を取らなくなった。父親は、あからさまにボクを拒絶した。
 両親とは元からあまり話さなかったが、流石にこれは堪えた。

 そして、思ったのだ。遠いところに行きたい。この場所から逃げ出したい。
 ボクなんか、いないほうがいいやろって。
 その一心で、家を抜け出した。高校も大学も、寮つきの学校を選んだ。やけくそだった。大学在学中に、家族からメールが送られてきたが全部未読無視した。内容を見るのが怖かった。

 『ばぁちゃぁぁぁぁぁぁん!!!』
 小学校の時、クラスの女の子が転校した。夜芽宇月の揶揄いに耐え切れんくなって。
 彼女が転校することを知った日の夜、ボクは逃げるように家に帰って、キッチンで洗い物をしていた祖母の腰にしがみついた。

 『ばあちゃん、そのハサミ、ボクに貸してぇや! なあ!』
 ばあちゃんは、キッチンバサミで昆布を切っていた。味噌汁の出汁の準備中で。
 『どしたん宇月。えらい慌てて』
 目を丸くする祖母に、ボクは何の説明もなしに、こう叫んでしまった。
 『それ使ったら楽になるんやろ!?』って。

 ばあちゃんは更に目を丸くした。
 ボクは彼女に全てを話した。人をいじめてしまったこと。人を悲しませてしまったこと。今回だけではなく、毎日誰かを泣かせていること。改善しようとしているけど、なかなか上手くできないこと。周りと違う自分が大嫌いだということ。

 『もう無理や。ボクもう無理や。悪人になってもうたぁぁぁ! もう全部真っ黒や』
 ばあちゃんは、暫く何も言わなかった。喚く孫の頭を、ゆっくり撫でるだけだった。何かを発しようとして、すぐに口を閉じてしまう。どう返答していいか、困っているようだった。

 何分、経っただろうか。
『アンタは、私の光や』
 しわがれた、聞きなれた声が頭上から降って来た。
 そっと顔を上げる。ばあちゃんはキュッと目を細め、静かに笑う。

『……ちゃう。だってボクはっ、全然っ』
『せやなあ。アンタは小っちゃい頃から問題児やったからなあ』

 家のコンセントは勝手に抜くし。野良猫は手で追い払うし。母親と父親にアッカンべして、良く怒られとったな。いとこの美祢にも、ちょっかいかけとったやろ。今もか。先生にもしょっちゅう呼び出されとったし、成績表のコメントも毎回悪い文章ばっかやったな。

『――気にしてもらいたかったんやろ』
 不意に、ばあちゃんが言った。丸眼鏡の奥の瞳を光らせながら、ゆっくりと告げる。
『注意を引いたら、みんな寄ってくるからな。寂しさが紛れてええよなあ』

 寂しいと思うことは、ダサいと思っていた。悲しいと泣くことは、ダメだと思っていた。
 これまで沢山人に迷惑をかけてきた。自分より、相手が泣いた数の方が圧倒的に多い。
 だから、ボクが弱音を吐くのは違う気がした。言う権利なんて、ない気がしたんや。

『………せきにん、とらんといけん、気がして』
 つっかえながら、ボクは説明する。ばあちゃんの前でだけ、素直になれた。
『人を泣かせたやつが、シクシク泣いとったら、感じ悪いやろ? 「悪かった、友達になろう」って言っても怖がられるやろ。……笑ったら、裏があるってなるやろ。泣いたら、演技やってなるやろ。やから、ずーっと、悪い奴でおった方がええんじゃないかって、その。でも、寂しくて、その』

 
 誰にも言えなかった。演技って思わんどいてって、言えんかった。
 コロコロ表情を変えてしまうのは、迷っているからだって、言えなかった。
 
『宇月。大丈夫。周りの子は、アンタのことなんてこれっぽちも考えてない』
 言いたいことは分かるけど、それはそれで悲しいな。
 ボクはススンと洟をすすって、「ぼっちやな」と少し強い口調で返した。
 
 ばあちゃんは「せやな。みーんな、ひとりぼっちや」とカラカラ笑う。
『やから、もしアンタのことを知りたいって人が現れたら。それは自分が愛されてる証拠なんや』

 宇月は、悪い子やと私も思うで。愛してくれた人の気持ちを、踏みにじっとんのやからな。
 素直になったらあかんとか、泣いたらあかんとか、思わんでええから。人様泣かした分以上の幸せを、見つけなさい。

 これは、二人だけの約束。つらいときは思い出してな。
 
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 「――痛ってえなぁ!」
  蹴られた腹をさすりながら、美祢が起き上がった。Tシャツの胸元は、泥で茶色くなっている。
  いとこの少年は口に入った砂をぺッと吐き出し、その視線をこちらに向けた。

  そして。
  こちらに近寄り、ボクの体を思いっきり抱きしめた。
  身長はこちらの方が十センチほど高い。必然的に美祢は背伸びをせざるを得なかった。細い足
 が、プルプルと震えている。

 「はっ? なにキモイことやっとるんや! 離れろっ、おいっ」
  必死で腰をよじるけど。あかん、力強い! 
  小・中・高と帰宅部だったくせに! ヒョロヒョロのモヤシ体系のくせに!

 「……俺、お前のことめっちゃ好きだよ」と美祢はボクを見上げる。
 「え? な、なんっ……な、なんっ」
 「尊敬してるよ。昔からずっと。ずっと好きで、嫌いなんだよ」
  顔が赤く染まる。心臓がうるさい。

 「なんやねん! 嫌い嫌い言うてたやろ! ツンデレか?」
 「ツンデレだよ! 好きな奴に意地悪したくなるあれだよ! これで分かったか! 俺はお前のことずー―――っと見てんだよ! お前は俺の光だからな」

  美祢は一呼吸ついて、話を続けた。
  嫌いって言ってたのは、置いておかれそうで怖かったからだよ。お前が憧れだったんだよ。
  いつも自信たっぷりで。頭の回転が速くて。自分の力で何かを救うことが出来て。
  中途半端で、人の機嫌を取ってばかりの俺とは違う。お前の自慢話が嫌いだったよ。
 
  年を重ねるごとに、相手の考えていることが薄っすら分かるようになってきてさ。
  お前の行動から、打算的に生きていることが読み取れて。自分を嫌っていることが分かって。
  すっごくムカついたんだ。俺の期待を返せよって。期待させたくせに何なんだよ。

  腹に一物抱えたまま笑うお前が嫌いだった。
  自分が信用されていないことが嫌だった。
 
 「今までごめん。嫌いって言ってごめん。相談相手になれなくてごめん。でも、見てるよ、ちゃんと。だからお前もちゃんと見ろよ。こっちを見ろよ! 昔みたいに、肩並べて話そう! 俺も素直になるから、だから信じてくれ!」

 
  ――気にしてもらいたかったんやろ。 
  ばあちゃんの言葉を思い出す。

  そうやけど、そうやったけど!
  ボクはもう成人済みなわけで。いとこ同士とはいえ、ボディタッチは恥ずかしいわけで。しかも
 ここ、職場の裏やしっ。

  あぁぁぁ、もう。なんやねんお前。毎回毎回。
  そういうところ、ほんまに。ほんまに。


  大っ嫌いや。


 「……好きって言えなくて、ごめん」
 「許す」美祢はフフッと笑った。


 「……寂しいときに、寂しいって言えなくて、ごめん。泣きたいときに、泣きたいって言えなくてごめん。しんどいって言えなくて、ごめん。助けてって言えなくてごめん。笑ってごめん。嘘ついて、ごめん。今までずっと、相談でできなくて、ごめん」

  両目から、熱い水滴が零れ落ちた。それは顎を伝い、床にしみ込んでいく。
  言ってしまったら、もう止めることはできなくて。

  ボクは美祢の背中に両手を回す。子供体温やなあ。あったか。
 「ごめんって言えなくてごめんな。ありがとうって言えなくて、ごめんな」
  



 (次回に続く!)
  
  

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