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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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*7*

〈美祢side〉
 
 「あいつに用?」

 俺が尋ねると、ツインテール少女は「はいっ」と応じた。
 紺色のセーラー服の上に、白色のパーカーを羽織っている。首を縦に振る度、結んだ髪の先っぽが揺れた。

「うち、桃根こいとっていいます。あ、一応幽霊です」
「ちょ、ちょっと待って、何その名前」
「? おかしかったですか? わたしの母親、編み物が好きで。そこから取ったんですって。可愛いので、自分も気に入っているんですよねー」


 ももね・こいとだって?
 なんだその、漫画とかアニメとか恋愛ゲームとかに出てきそうな名前は。
 自己紹介で名乗れば『え、その名前可愛いね!』と話題になる人間じゃないか。
 え? 俺の場合は名前負けして『ミネ・ダークネス! 飯行こうぜ』といじられるようになったよ、アーメン。

 こいとは空中を漂いながら、うーんと腕を伸ばしている。どうやら幽霊なのは確かなようだ。
 華奢な身体がうっすら透けているため、対面の位置にあるドアノブが彼女を通して見える。

「まあ、会ったのも何かの縁だ。こっちも自己紹介しておくよ。時常美祢だ。よろしく」

 作業用の椅子から立ち上がり、俺は彼女の方へそっと手を伸ばした。相手は幽霊なので、握手を交わすことは出来ない。それでも、初対面で何の挨拶もしなかったら失礼だ。

 こいとは「あははっ」と楽しそうに笑い、俺の前へスーッと移動する。そして、差し出した右手のひらから少し離れた位置……を手でなぞった。エア握手。

「よろしくお願いします、美祢さん。そういえば、貴方はわたしのこと視えるんですねっ」
「生まれつき霊感があるからな。そのせいで厄介な任務を押し付けられて、迷惑してるけど」
「もしかして、コマリさんのことですか?」

 知ってるのか?
 まあ、そりゃそうか。こいつは、コマリに会うためにこの家に来たのだから。
 っていうか、どうやって家の住所を特定したんだ?

「幽霊友達に教えてもらいました」と、こいとがニッコリと笑う。
「幽霊友達?」

「はい。わたし、去年事故で死んで幽霊になったんですけど、行く宛がなくて。ブラブラと街を彷徨う生活をしていたんです。その暮らしが一週間くらい続いたんですけど、ある日、交差点にたたずんでいる女性の霊を見かけまして。意気投合して仲良くなりました。そのあともちょくちょく知り合いが増えて」

 交差点にたたずむ霊…地縛霊みたいなものだろうか?
 彼女の話から察するに、こいつの正体は浮遊霊。
 霊には、地縛霊のように一定の場所のみで行動するタイプと、浮遊霊のように自分の意志で移動できるタイプがいる。こいとの場合は後者だろう。

「はい。幽霊の間で話題になっていましたよ。月森コマリって子の近くは居心地がいいって」
「居心地がいい?」
「彼女の近くを通り過ぎた子たちが、口をそろえて言うんですよ。『あー、めっちゃふわふわする』『羽毛布団で包まれているみたい』『極楽』って」

 コマリの逆憑きって、幽霊側からそんな風に思われているのか。
 人間代表の俺は、極楽とは正反対の方向にいるんだがな。日頃の態度と怠け癖、天然発言をもう少し治してくれたら、大分こちらのストレスが減るのだが。
 
「それで、皆がそこまで言うなんて、どんな人なんだろうと気になりまして。あ、10人中10人が★5つけたんですよ」
(何その食べログみたいな反応)という本心は、心の中に閉まっておこう。

 つまりこれまでの話を簡潔にまとめると。
 月森コマリと接触したことがある霊が、彼女の逆憑きの情報を仲間である桃根こいとに伝えた。そのことによってこいとはコマリに興味を持ち始め、とうとう家を特定してしまったと。

「なるほど。大体話はわかった。分かったうえで言う。帰った方がいい」
「ほんとですかっ!ってえぇぇぇぇ!??」

 こいとは分かりやすく口を曲げ、不満の意を表す。

「なんでですかっ。せっかくここまで来たのに! せめて挨拶だけでもっ」
「コマリの逆憑きは、霊を集めるだけじゃねえんだ。アイツがいるだけで急に雨が降るし、物は壊れるし、ポルターガイストも起きる。悪霊だって寄ってくるぞ。つまりこの家・俺の部屋はヴァイオレンスなんだ」

 そんなウザい・うるさい・鬱陶しいの3Uの場所にお前を入れたらどうなると思う?
 俺の負担がまた一つ増えるんだ。ああ、頼むからこれ以上俺の頭痛の原因を作らないでくれ。
 
「なーんだ、そんなことかあ」
「そんなこと!???」

 そんなこと、で片付けられる問題ではないんだけど!?
 怪訝な視線を向けた俺には構わず、こいとは空中からカーペットに降り立つと、右人差し指をくるくると回した。
 

「わたし、実はオオクニヌシの神と体を共有しているんですっ」
「……は?」
「なので些細な運気の変化の察知とか、悪霊退治とか。お手伝いできると思いますよ!」
「いや待って? オオクニヌシって何?」

 なんか突然、分けらからん単語をぶっこまれたんだけど。
 今までの話の流れが急にグルンと曲がって、俺は目を丸くする。

「オオクニヌシは、日本神話に出てくる縁結びの神様です。実は、幽霊になる時、色々あって神様の魂とくっついちゃいまして」
「は!? なにそれ!? ご、ごめん説明が全然分かんないんだけど」

 怒鳴った俺に対し、こいとはポカンとしている。
 なんで怒られたのか理解できないらしい。

「え、だってうち、幽霊で……、魂が二つあってぇ、そんでフラフラと宙に漂ってたら、交差点でお姉さんに会って、その人のおすすめの場所が、たまたまそこがココだったっていう話じゃん」
「『じゃん』言うな。何も解決してねえんだよ。勝手に語彙力を他界させるんじゃねぇ」
 顔をしかめた俺に、こいとはなおも口を開けたまま固まっている。

 俺なりに精一杯、こいとの話を読み解くと。
 幽霊は死んだ人の魂が実体化して生まれたものだ。通常、霊の魂はひとつ。
 しかし、何らかの形で、霊へと変わるときに他の魂と融合してしまうこともある…ようだ(?)。
 オオクニヌシの魂に、違う人間の魂がくっつき複雑に絡み合ったのが、桃根こいとだ(言い方はアレだが)。ゴースト・キメラとでも呼ぼうか。
 
 内容が支離滅裂で一ミリも理解できないが、コイツはどうやら複雑な事情を抱えているようだ。
 今すぐにでも深堀りしたいが、わざと回りくどい発言をしているところを見ると、聞かれるのを避けているようにも感じられる。ここは一旦、様子見と行くか。

「うち、オオクニヌシなんで、恋愛相談とかできるし、お手伝いしたいなーって思って! 悪霊じゃないですよ。ほら、こんなにキュートでかわいいしっ」

 頬に手を添えて、流行りの小顔ポーズをし出すこいとに、俺は幻滅してしまう。
 これから俺は、コイツとコマリを会わせなくちゃいけないってことか?

 えぇぇぇぇぇ、ほ、本気で言ってます……?
 こいつが良い霊だという証拠も、この先の未来が明るくなるという期待も、全然ないんですけど。
 ってか俺の仕事(&ストレス)がどんどん増えてきてるんですが、そこんとこ理解してますかね!!

 

 
 

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