コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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Link! 【現在23話】
日時: 2012/09/11 20:26
名前: 零華 (ID: KsKZINaZ)

あらすじ

科学と魔法の発達した世界。
そんな世界のとある魔導士ギルドに所属する最強タッグ アズマとハル(男)には毎回高難易度のちょっと危険な依頼が舞い込んでくる。
そんな二人の元にやってきた、(超)危険な依頼。
二人に降りかかる幾多の依頼を彼らはどう切り抜けるのか!?

目次…

第1話 依頼 >>001-010

第二話 新たな仲間 >>011-016
>>21 

第三話 ニコ・アルベルト >>022-029

第四話 転生 >>030-038

番外編 ゲームをしようよ >>19


コメ貰ったらかえします!
少し遅れるかもしれませんが。

旅行から帰ってきました。更新頑張ります!


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Re: Link! 【現在20話】 ( No.34 )
日時: 2012/09/07 16:24
名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「さて。二時間目はギルドについてでーす」
「はい」
あの後も授業は続けられ、二時間目に突入していた。
「ギルドの種類は大きく分けても小さく分けても三種類です。一つ、国連ギルド、国が運営・管理するギルドで、ギルド連合に加盟すると貰えるギルドカードを持っていれば誰でも依頼を請けれる。大きな街に一つずつ設置されてる。また、他国との戦争になった時、ギルドには攻撃してはいけない事になっているの。だから避難に遅れた人は皆此処に逃げ込むのよ。攻撃したら国籍など関係無しに罰を受けるわ」
「罰って?」
「今から説明する。二つ目は世界規模のギルド連合よ。これは各国の国連ギルドの最高責任者が集まって出来た連合よ」
「何で世界規模の同盟が出来ているのに戦争が起こるんだ?」
「世界規模のギルド連合は国家情勢に立ち入れないの。だから連合があっても戦争は終わらない。ちなみに世界ギルド連合の場所は極秘事項よ。漏れたら軍隊に攻め込まれるかもしれないからって言われているわ」
「場所知ってんの?」
「知らないわ」
キリの短い質問にカノンも短かく答える。
「世界ギルド連合は本当に大事が起こらないと動かないわ。そして三つ目が設立ギルド。色んな所から依頼が来て、それを請けて、成功すれば報酬が貰える。依頼にはランクがあって、Dランクが最高ランクで後はA〜Fの順に難易度が高いの。Dはdeathの略。勿論高難易度の依頼は報酬も多額よ。」
デスランクとはまた物騒な名前だ。と勝手に考える。
「自分のギルドカードにもランクがあって、請けれる依頼は自分のランク以下かそれと同等の依頼じゃないと請けられない。本気で請けたいなら誰かランクが上の人のパーティーに入れてもらって高ランクの依頼をクリアするしかないわね」
ギルドカードのランクを上げるには、GP ギルドポイント を貯めないといけない。貰えるGPは依頼によって変わり、Eランクになるには10P、Cランクになるには1000P、Bランク 10000P、Aランクになるには50000P
Dランクになるには500000Pが必要だと、しかもポイントが貯まっただけではランクは上がらず、ランクアップクエストと言う特別依頼をクリアしないと次のランクに上がれない——とカノンは言う。
「良く出来てるなぁ。例え誰かに手伝って貰ってポイントを貯めてもランクアップクエストをクリアする実力がないとランクアップ出来ない訳か」
ランクアップクエストは一人で請ける事が絶対条件なので、実力がない者はそこでふるい落としに掛けられるという本当に良くできた仕組みだ。
「早くキリが私のランクにこれるように修行しなきゃ」
ここで聞いてみたいことが生まれた。
「カノンってランク幾つ?」
「D」
「えええええっ!マジで!?」
キリは驚きの余り声が裏返っている。
「意外と実力者なんだよ、私」
「じゃあ滅茶強いって事デスカ?」
「うん」
カノンも自分で自分の事を強いと言うのだから相当な自信があるのだろう。実力者、実力主義者、強い、鬼。
「早くキリが私のランクにこれるように訓練しましょうか…………大丈夫よ。今度は攻撃の訓練だから」
サッと青ざめるキリを見て付け足し、防御の訓練をした所に移動。
「さあ、キリは好きなように攻撃していいわ。十分間で私に攻撃を一回でも当てたらキリの勝ち。遠慮何てしたら此方から攻撃仕掛けるわよ」
「よし……」
小さく呟いて、両手に黒球を出現させる。そしてカノンと同じように氷弾を連続発射する。
カノンはそれを風で難なく弾き飛ばした。
「まだまだ!」
そう叫んで突風を吹き起こす。カノンの動きが鈍くなった隙に岩弾を数十個発射した。
しかしそれはカノン魔方陣から迸る水流に砕かれた。
これでは埒が開かない。キリは考えていた作戦を実行に移した。水と風の力で雨雲をゆっくり呼び寄せる。
その作業をやっている最中も、氷弾や岩弾で攻撃を仕掛ける。
数分がたった。
黄色い魔方陣がカノンの下に現れる。同時に雨雲にも現れた。
ニヤリと笑い、その魔方陣に書いてある文字を詠唱する。
「雷よ今……その力雨……の雲より放出されよ?」
…………魔法は発動されなかった。
黄色い魔方陣は消え、後には爆笑しているカノンだけが残された。
「アハハハハッ!!キリ!あんた詠唱下手すぎ!アハッ……」
「初めて何だから仕方ないだろっ!」
初めてだから、というよりは詠唱する呪文が中二病過ぎて(中二病とは中学二年生が考えそうな言葉で、ブラッディデスダーク何たらとか聖なる剣マスターエクスカリバーとか……例を挙げるときりがない。)詠唱するのが恥ずかしかったのだ。
「くそぉ……雷よ今!その力雨の雲より放出されよ!」
再び魔方陣が展開される。しかし、カノンが水のドームを作り出し、雷を受け流した。
「もう十分たったわよ」
グウの音も出ない。
「さぁ、戻りましょ…………ププッ」
「笑うなぁ!」


テントに戻り、雑談に花が咲いた。
「私としてはキリが上級魔法を使えた事が驚きなのよねー」
上級魔法は発動する際に呪文の詠唱が必要で、キリが使用した魔法も威力こそカノンに受け流される程度だが一応上級魔法だ。
「うーん……魔力はそれほど減った気がしないなぁ」
「何か特殊な力……黒球に何かあるのかしら」
魔法は発動するのに魔力が要る。上級魔法は使用魔力量が大量なため生半可な魔導師が使用すればたちまち魔力をごっそり持っていかれ、無気力状態になってしまう。
「私と比べても比になんないレベルだけどねー」
「そりゃDランクだもんな。俺なんてまだギルドカードすら作って貰ってない」
「攻撃も出来るようになったし早く街へ行きましょうか」
「まずは何処へ?」
「バックランドよ。今一番近い街だからね。そこでキリのギルドカードを作って貰いましょう」
「んー。了解。今日は疲れたからもう寝る」
そうカノンに告げ、テントへ入ろうとする。後ろからカノンが付いてきた。
「どうした?」
カノンは無言で笑い掛ける。しかし笑っている顔とは裏腹に何か冷たい物を感じる。地雷踏んだか?気に障ること言ったかなぁ、状況を検分するが何も思い浮かばない。
「ぐはぁ!」
いきなりカノンの右ストレートが肩に入った。
「このテントは一人用よ!それとも何!?私と同じテントで寝るとでも言い出すの!?」
「いや…………一緒に寝るか寝ないかは別としてさ、このテント絶対一人用じゃ無いよね」
いくらなんでも縦横5mのテントが一人用ということは無いだろう。
「いいから早く寝なさいっ!!」
そう言い、テントに入ってしまうカノン。
「おーいちょっとせめて寝袋を……」
カノンの後に付いて中に入ろうとするキリ。それが間違いだった。
入り口の垂れ幕を開けようとすると、本日二度目の右ストレートが飛んできて、キリの顔面を的確に捉えた。
地面に倒れ込むキリ。そこに寝袋が投げられ、「おやすみっ」と恥ずかしげに言われる。実はカノンは整理整頓が大の苦手で、この日もテントの中には下着等が散乱していた、と言うのは後日談である。


Re: Link! 【現在21話】 ( No.35 )
日時: 2012/09/08 18:35
名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「キリー。起きなさいー」
ノンビリした声で起こしに来たのはカノンだ。
「……ん……眩しい」
起きた途端に朝の日差しが降り注いで目を直撃し、目を擦りながら朝の挨拶。
「おはよーカノン」
「おはよう。早速だけど訓練ね」
その途端にキリが飛び起きた。
「攻撃と防御どっち?」
「両方」
語尾にハートマークが付きそうな口調で言われガックリ肩を落とすキリ。
「15分で防御しながら攻撃して来なさい」
毎度お馴染みになった事前説明を受けこれまたいつもの場所に移動する。
「キリ。いくわよ」
「うぃっす、師匠」
返事が終わった途端に訓練が開始され、氷弾が飛んでくる。
「またそれですか」
「なめてもらっちゃ困るわよ」
火の壁を作り出し防御。防御した後にカノンをチラと見ると不敵に笑う姿が写った。
片手を天に向けるその姿が陰る、太陽を巨大な氷が覆い隠していた。
「————発射っ!」
カノンの掛け声と共に氷がキリへ向かった。
「……ヤバイな」
実際、本当にヤバくなったら、「ヤバイな」などと言っている暇はない。キリにはちゃんと作戦があった。
一瞬で黒球を作り巨大化、それを投げるとシャボン玉の様にふわふわ浮いていた。黒球の中に氷がすっぽり入った。
パチッ。
キリが指を鳴らす。黒球が炎上した。大きすぎる氷も炎に包まれて溶け始める。
そして起こる爆発、氷が急激に熱され皹が入り、砕け散った。
炎を纏った氷片が二人に降り注ぐ。
この後突風を巻き起こし氷片を弾き飛ばす予定だったのだが、氷片が大きすぎた。弾き飛ばされなかった氷片が目の前に墜落した。
「あっつつ!」
氷とはいっても炎を纏っている。周辺温度は60を軽く超える。
カノンの方も似たり寄ったりの惨状だ。落下してきた氷片が熱でまた爆発し、二人で揃ってたたらを践む。
「カカカカッカノン!何とかしてぇ!」
「熱いっ!囲んで!氷囲んで!」
キリは上下に跳ねながら魔法陣を編んだ。地面から岩壁が競り上がってきて、氷を囲んだ。
「ふぅー」
「まったく、無茶するから……」
「あの氷の塊が無茶じゃ無いとでも!?先にリミッターを外したのはカノンだぁっ!」
「あれが本気だと思う?」
「………………」
茶化す様な仕草で言われて絶句する。
「朝ごはんは街に着いてからにしましょ」
「腹減ったぁ」
現代日本人の感覚として、1日三食旨い飯、というのは当たり前だ。
キリが小さい頃に父は母を捨て何処かへ行ってしまい、母は朝から晩まで仕事ずくめだったので、朝や晩御飯はキリが作っていた。
その努力の賜か、キリは料理がかなり上手い。
キリがご飯の事を考えている間にもカノンはテントを手早く畳み、消した。
「なにやったの?」
「空間収納魔法。指輪一つ着けるだけで使えるようになるから便利なのよねー」
カノンの『指輪』と言う言葉が気になり脳内の知識を引っ張り出す。
この世界では指輪と呼ばれるマジックアイテムを着ける事で特定の魔法や能力を使える様になる。
指輪以外でもネックレスやブレスレットが存在するが、やはり小さくて何個か嵌められる指輪が重宝するらしい。
中には指輪等についている魔力の元、魔石を手術で体内に埋め込み、擬似的に能力を得る事件も過去にあったと記憶にはあった。過去とあったが、意外と最近の事だ。1、2年前の事で、確か魔石を埋め込んだ人が町で暴れて………………続きが気になる所だが、この先の記憶がない。
ただ単にカノンがその先を覚えていなかったということだろうか。
「カノン?体内に魔石を埋め込んだ人はどうなったんだ?」
「1年前のあれね。えーーと……うーん、思い出せない…………何か頭に靄がかかっている感じ。あの後体内に魔石を埋め込む事が重罪になった事は覚えているのよねぇ」
「靄?」
地球でなら正しく記憶障害やアルツハイマーの類だろう。カノンに限ってアルツハイマーなど有り得ないだろうが。
まだ少し気になったが、カノンが荷造りを終えてしまって、出発になる。
「あの前にいってた空間移動魔法は使わないの?」
「あの魔法には5つの壁があるの。一つ 魔力量。一つ その場所の形や地形。一つ その場所の香りや雰囲気。一つ その場所の名前。一つ 適性。特に大きいのは魔力量と適性。この2つで移動魔法を使えるかどうかが大体決まってくる」
更に行った事がある場所にしか行けないこともあって使用者は少ないとカノン先生に説明され、納得のキリ。
早速出発、と歩き出そうとした所をカノンに止められる。
移動強化魔法を付けて行きましょ。提案される。
「まぁ俺にはバイクがあるからなぁ」
エンジンを掛けてあったバイクを見て呟く。
「ん?風魔法を使えば空を飛べるんじゃないか?」
飛行機はエンジンで前に進む力を上昇に使うんだったはずだ。だとすれば横向きの風と上昇気流を起こせば飛行は可能だ!
そう結論付けてバイクに跨がる。
強力な気流が起き、バイクが宙に舞い上がった。
「そんな!」
カノンの前で常識が覆った。風魔法では空は飛べない、そう唱えた学者は誰だったか。
実際、俗にいう瞬間移動が使える世界でわざわざ飛ぼうと考える人物が少なかったことと、この世界に飛行に関する知識が少ないこと等が関係して、文明が発達してこのかた何千年の間、空を飛ぶなら魔鳥という考えしか出ていなかった。
「カノンも乗る?」
キリが問いかけ、カノンも恐る恐るバイクに跨がった。
バイクが舞い上がり、二人が元いた平地は小さくなっていく。
「すごい!どうやって飛んでいるの!?」
キリとしては魔力とバイオエネルギーの燃料を開発している世界で飛行技術が無いことが驚きだ。しかも魔法で風を自由に操れる世界で。
「しっかり捕まって!」
カノンに忠告を入れ、宙返りをする。その後急上昇。
そこから急降下する。
「きゃーーーーーーーーっ!!!!!!」
カノンの悲鳴が響き渡る。キリはジェットコースターは行ける口なので涼しい顔だ。
地面すれすれで降下を辞めるなんて危険な事はしたくなかったしする自信も無いので、程々に降下をストップすると、後ろから荒い息遣いが聞こえる。今更ながら、カノンが完全にキリに抱き付く|態《てい》になっている事に気づく。後ろからの荒い息遣いはカノンだ。
「ハァ……ハァ……街に着いたら覚えてなさい」
恐い囁きを、冷や汗を掻きながら何とかスルーした。話題を変える。
「それにしても広い森だね」
「北の森っていう……名前こそ森だけど規模は樹海ね。そういえば何で北の森なのかしら。どちらかといえば西なのに」
二人が向かっている街はエリオ大陸最西端の国にある街だ。
「そろそろ下に降りなさい」
「まだ数分しか乗ってない……」
カノンがため息をつく。
「街に空飛ぶバイクで乗り込んでって無傷でいれると思う?迎撃されるわよ」
迎撃なんて物騒な言葉を聞いて速やかにバイクを下に向かわせる。
「後どれくらい?」
「2km位かな」
それなら直ぐか、そう呟きエンジンをかける。
石畳の一本道を軽快なリズムで走るバイク。


しかし、のんびりしたドライブはカノンの声により終わることとなる。


こんにちは! ( No.36 )
日時: 2012/09/10 20:37
名前: 3年い組 (ID: ZEtdBFlK)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13524

どうも!こんにちは、3年い組と申します。
コメント・ご指摘ありがとうございます。
どんな作品を書いてらっしゃるのか見にきてみました。
凄い文才を持っておられますね。カッコいいです!!
今後もよろしくお願いします。
コメディ・ライト小説でも全く同じものをやっています。
そちらの方が若干進んでいますので、そちらもどうぞ。

Re: Link! 【現在22話】 ( No.37 )
日時: 2012/09/11 20:25
名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

三年い組さん
有難うございます!
文才があるなんて…嬉しいです!

Re: Link! 【現在22話】 ( No.38 )
日時: 2012/09/11 20:25
名前: 十六夜 (ID: KsKZINaZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「!!!!」
「どうした」
サイドミラーに写るカノンの表情が緊迫そのものだったので焦る。
「…………血の匂いが」
カノンは獣人族だ。嗅覚が鋭く、人間よりか何倍は鼻が良い。
キリは無言でアクセルを踏んだ。
一分程でキリにも血だと分かる匂いが漂ってきた。
「キリっ、前!」
前方に人影が確認出来る。恐らく3人、いや4人か。
バイクを横に倒して、けたましい音と共にバイクを止め、走り出す。移動強化魔法をかけていないカノンと比べたらキリの方が速い。
走ってくるキリを見て、笑みを浮かべる陰があった。
「キリ!避けてっ!」
左右に閃く青い魔方陣。その真っ只中に飛び込んでいた。
「避けてっ……」
キリの両手に茶色い魔方陣が出来、左右の人影ごと土壁で覆いつくす。
中で発動したらしい魔法は、キリではなく魔法を使った本人達を氷漬けにしたようだ。
キリは道が開けている所に出た。
そこでは正に、|殺し≪・・≫の最中だった。
明らかにカノンと同じ獣人族だと分かる猫ミミをつけた家族が————正確には両親が戦っていた。
相手は盗賊。しかも4人だ。対して獣人族の夫婦は後ろの子供を守りながらの戦闘。
圧倒的に不利な状況だった。
キリが魔法を放とうとしたとき、それは起こった。
盗賊の一人が女の喉元を槍で一突き、そのまま女が槍で持ち上げられ、もう一人の盗賊が女の首を切断した。ドサリと重い音をたてて落ちた顔。目の前を飛ぶ紅い液体がかかった。紛れもない血はさっきまでは生きて体を流れていた筈で。
だからこそ温かい血を被ったキリは、叫びたい衝動を抑え、必死に頭を働かせる。
(どうすれば3人を助けられる……全体魔法を使えば巻き添えを食らってしまうだろうしかといって一人を的確に狙えるはずもない)獣人族の夫は、目にも止まらぬ速さで動いていて、魔法を使ったら当たってしまいそうで恐い。
その間にも、妻を亡くした事で怒り狂っていた夫は、精悍な顔を血に濡らし、目に狂気を据えて舞っていた。
右から来る槍をかわし、目の前に振り下ろされた剣を魔法で弾き返す。と同時に子供達を土のドームで覆い防御を施す。
だが、そんな彼を神は見放したらしい。
夫の動きが一瞬鈍くなった。その隙に盗賊が剣を振るった。剣は首ではなく耳を削ぎ落としていた。
キリは盗賊の残虐な悦びに浸る顔を見て、確信する。
この盗賊はわざと外した。
この盗賊は、恐怖に歪む顔を見たくてわざと耳を狙ったのだ。
盗賊の一人が、揺らいだ夫の腹に槍を突き刺した。
「やれ」
低い声が響く。
二人の盗賊がキリに、もう一人は子供達に向かった。
と、キリの耳に、声が届いた。
「こ……子供達だけ……は」
皆まで言う前に、夫が倒れ込んだ。

——————箍が、外れた。

辺り一帯が、黒いドームに包まれ、漆黒の闇がキリを含め盗賊や子供達を覆う。
キリが指を鳴らした。漆黒が消え、盗賊達も消え、子供達も消え、樹も消え、地面はクレーターが出来、その空間には空気すら存在しなくなった。そこに居るのは、意識を失い倒れたキリだけ。
やがて、何も存在しなくなった空間に、周囲の空気が流れ込み、轟音と共に大規模な衝撃波が起きた。
ドームがあった場所の外に存在した樹もバラバラになり、切り刻まれ、倒れる。

そして静寂が訪れた。


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