コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- LosT WoRD
- 日時: 2013/02/06 17:59
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: 3w9Tjbf7)
LosT WoRD
StoRy
世界が度重なる戦争や災害の為、バランスを崩した時代。
大人達が求めるのは確かな金か。揺るぎない地位か。
……まぁ、そんなの俺には関係ないのだけれど。
失われた世界でのわけがわからないファンタジー。
ここからはネタバレ含みます。
chAraCTor
シェン 一応主人公
ラギ 一応主要人物
スタン 万屋
ルーチェ.ルーカス 北区スラムリーダー 最興の錬金術師
ライア 南区スラムリーダー 最強の戦闘狂
ストーム 西区スラムリーダー 最凶の薄愛主義者
ラグマ.A.トリスタン トリスタン家の子供
ジュダル.A.トリスタン トリスタン家頭首
先生 ラギの先生
里兎 サトー 佐藤 シェンの義父
ジャン・エルカール 2年前の事件の関係者 万屋の宿敵
WorD
旧時代 戦争前の時代
新時代 戦争後の時代 今
合成獣 キメラ 戦争の生物兵器
機会人形 戦争のロボット兵士
錬金術師 不可能のラインを見極める科学者
街 戦争後富裕層が住むセントラル
中、外 街の中、街の外
森 戦争の異物が残る沿岸部
トリスタン家 戦争の兵器開発第一人者
不老不死者のホムンクルス トリスタン家の計画
- Re: LosT WoRD ( No.12 )
- 日時: 2012/12/29 07:58
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: EZ3wiCAd)
某日。某所。某錬金術師。
あいつが知ってか知らずかは知らないが、俺が知らない話しが知れ渡っていた。
「僕は大丈夫ですよ。何も感じません」
そうか?
「はい。父さんは僕じゃなく、アイツに気が向いているみたいです」
……。
「アイツが生まれたあの時から僕は父さんには必要がなくなりましたから」
よく笑っていられるな。
「フフ。だって、おかしいでしょ。僕は僕が必要とされなくなった途端、僕を必要としたんです。アイツを逃がしたのは先生ですよね。感謝してますよ」
俺は思うよ。アイツがここで生まれた時、コイツはヤバイと思った。だが、本当にヤバイのは枷が外れたお前なのかもな。
「そうですか?僕は所詮壁を越えようとしたこともないお子ちゃまですよ?」
そういう所はお前とアイツはソックリだよ。
前日。“街”トリスタン家。
どうやらこの家は相当におかしいらしい。狂っている。クルクルくるくる。オルゴールの延々と回るバレリーナの人形よりクルっている。
豪華絢爛な飾り。そんなのは見た目だけだ。きっとこの中にいる人はこの飾りの半分の価値もない。見た目だけの飾りにも及ばない。
俺は男に近寄り、小首を傾げた。
「始めまして。お父様」
最高に可愛い子ぶって。
人の子が生まれる為には、母親の子宮に生まれるわけだから生まれたその瞬間に母親との始めましての挨拶は済んでいる。しかし、父親となると一生合わなくても良い場合もある。
男は俺を見て、
「おぉ。君が」
と、だけ言った。
その時に周りの価値が彼らを飾る石ころの半分もない群衆から感服と、驚きと畏敬のざわめきが起こる。
お父様のひとことだけで。
だが、決して間違ってはいけない。
勘違いするなよ。これはてめえの力ではない。これはあくまで俺の、俺自身の為の力だ。
そして、サヨナラ。お父様。
俺のその企みを知っていた先生は首を振り、アイツは悪戯が成功した子供と同じに笑っていた。
そんなアイツの様子を見て先生は今度は頭を抱えた。
「ジュダル様。ラグマお坊ちゃん達を連れてまだ少し話があるんですが?」
先生の様なが体のいい、いいおっさんがお父様の前では敬語を形だけでも使う。でも、形だけというのを皆弁えている。だから、この家での先生の扱いは気難しいお父様を扱う様に難しい。
お父様は無言の返事を先生に返す。
「っっったくお前にらのお父様はどうなってんだ。胸クソわりぃ」
「『まぁまぁ』」
「いい歳こいて何の調子こいてんだ。何だっ。将来現役精神かっ?! 俺と同じじゃん。胸クソわっりぃ」
「『まぁまぁ』お前も胸クソわっりぃから」
「だまれ。ラギっ」
『まぁまぁ』
「だから、だまれ」
先生は錬金術師だ。“外”の錬金術師では北区のスラムリーダーが有名らしいが、先生はあの戦争の兵器開発の第一人者である。
その男はとても頭脳型の錬金術師とは思えず、どちらかと言うと地下の賭け試合でキメラを相手に一戦交えてそうだ。
ここは本家地下の研究室であり、怪しい研究の成果が所狭しと並んでいた。合成途中のキメラのホルマリン漬けや新型の機会人形の設計図はまだまだ序の口。叩けばいくらでもホコリが出てくる所だ。
見慣れたここはいい思い出も悪い思い出も混在していた。
「それで、逃げ出すのはいいがアテはある……分けないな。お前引きこもりだから」
「言い方他にないの?」
俺はキメラの横にある新たなホルマリンを覗きながら言った。
一見すると何もないその中は実は無数の細胞が泳いでいる。今叩いたホコリの中でも速く片付けなくてはならないのがこれだ。
俺は顔を顰めた。
「同じ引きこもりでもさ。こんなの相手にするより俺は健全だね」
「どの口が言うか。生まれた時からここを出たことないだろ」
「ホムンクルス。まだこんなの作ってんの?飽きないね」
そこからは先生と俺の口の応酬が始まって、終わる時には耳を塞いでも意味がないようなものになった。
丁度、口の叩き合いがお父様に向いた頃。
「所でラギは結局どこ行くの?」
アイツが口を挟んだ。
「知るか。どうにでもなるだろ?」
「これだから引きこもり坊ちゃんは嫌なんだ。外でそんな考えが通じるか」
「先生だって、外にアテなんかないだろ」
新時代が始まる前の旧時代から本家の錬金術師だった男だ。根っからの中の人である。少々外の匂いがするが、それはこの際関係ない。今大切なのは実際に外なのか中なのかである。
だか、俺達の先生は豪快な笑い声をがははと漏らした。
「がはは。俺を舐めてもらっちゃ困る。アテぐらいあるさ。東西南北のスラムリーダーを訪ねてみな?」
「あの凄腕錬金術師?」
「それは北区のスラムリーダーだ。その錬金術師同様に、ネジが一本も一億本も外れたブッとんだ野郎が四人もいるんだ。まだまだお前の未知との遭遇は終わらないな」
「ネジが一億本も外れたら壊れてるだけだろ」
俺はそう答えながらも思っていた。
先生程にブッとんだ奴が、ブッとんだ野郎と言う相手はどんな人達なのだろうか。
もし、その人達と会えたら、会って話せたら。
もし、その人達がこのバカげた計画を踏み潰してくれれば。
俺は、ホルマリンの水槽の中で眠る無数の作り出された命が愛おしく、憎らしくて堪らない。
この 世の中にこんなことが起こり得ていいのだろうか。
この二律背反な思考回路はもうすぐオーバーヒートを起こして壊れるのだろう。
「不老不死者のホムンクルスなんてクソくらえだ」
俺の呟きにアイツは悲しそうな顔をしていた。
- Re: LosT WoRD ( No.13 )
- 日時: 2013/01/09 17:46
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: z6zuk1Ot)
前日。“街”トリスタン家地下。とある頭首ととある錬金術師達との会話。
「あれが逃げたか」
「ジュダル様っ。あれはこの計画の全てを知ってますっ。速く連れ戻す手当を」
「あれが多国の手に渡ったら……」
「縁起でもないことを口にだすな」
「あれがないと計画は頓挫するぞ」
「黙れ。見苦しい」
「……しかし、一刻も速く連れ戻さなければ」
「自我を持たせたのは間違いだったか。自我と言えば、この間造ったキメラ。今回はあれの精度を測るいい機会だ」
「まさか、ご自身のお子様をキメラに追わせる気ですか?」
「そんな。そのままの姿では帰らんぞ」
「食い破られるのでは」
「黙れ。それで食い破られるのならあれもその程度だったということだ」
「しかし、あれが帰ってきませんと……」
「安心しろ。代わりのアテはある」
現在。“外”。諸事情によりラギの話を抜粋。
「ホムンクルスを作る為にはそのモデルが必要だ。お父様はモデルに自身の子供を選んだ」
「え?何でって楽だったからだろ? 目の前にある、手頃な若い身体が」
「嫌な顔すんなよ。まだ話しには先があるんだから」
「どこまで話したかな。それで、俺がモデルに選ばれた」
「不老不死者のホムンクルス。どうして人造人間なんて言われているのか。それは身体を人が造るからだ」
「例えば致命傷を受けて、それを治す身体を育てる方法を考えるよりも、人間を情報化してその情報を丈夫な身体に移し替える方が楽だと考えたんだな」
「その丈夫な身体が壊れてもまた別の代用品を探せば、その人間の情報は残るわけだから不老不死者と言えなくはないだろ?」
「そう。その通り! だから、モデルが必要なんだよ」
「だけどさ。実験で自分を情報化なんかされたらたまんないだろ?大昔にはヒトゲノムが解読されただけで人権問題にされたのに、俺は折れ自身を解読されるなんて胸クソ悪い」
「そうなんだ。それで逃げ出したんだ」
「そう呆れられてもね。ここからがまた、あのお父様らしい話しだよ」
「そもそもどうして人造人間なんかを造ろうとしたのか。俺が貴方達スラムリーダーを頼りにしたのか」
「話はあのそもそもの始まりの戦争に戻るよ?そうウチが武器開発をしたあの戦争。知ってるだろ?あの戦争は敗者を生んだが、勝者はどこにも生まれなかった」
「お父様はね、勝者を生みたいんだよ」
「その顔、そろそろ分かったみたいだね。そうだよ。お父様の目的は」
「戦争に勝つことだ」
「死を恐れない兵士は理想的だな」
現在。“外”。東区。
「なんっじゃこれ」
半分が屋根から倒壊している建物の前。男は頭をかいた。
「……なんっじゃこれ」
外では武器を見せないと意味がない。だが、この男はシャツにズボンにただの靴。という身なりで他に何もない。
男は「なんっじゃこれ」と何度も言いながらその倒壊した家に入って行く。
「うわ。キメラまで死んでるよ」
撃ち殺された合成獣が瓦礫と共に倒れていた。
「シェンの奴何してんだ?」
黒髪の男は言いながらも刺して気にはなっていないようで、今度は「何やってんだか」と何度も言いながら倒壊していない部分の三階にそのまま跳んだ。
ふわぁ。と、跳躍すると重力がそこだけないように静かに跳んだ。
「あぁ。あったあった」
今までの誰に向けた呟きとは違い、まるでそこに話し相手がいるかの様な言い方だった。
「これがないと違和感あんだよねぇ」
そう言って、一閃したのは一振りの日本刀だった。
「さてと、愛する息子はどこでなにしてんだか」
今日の天気はいいなぁ。
暇つぶしはどうしよう?
そんなどうでもいいようなことを考えながら、日本刀を腰に差す。
- Re: LosT WoRD ( No.14 )
- 日時: 2013/01/03 10:03
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)
現在。“外”。
「死を恐れない兵士は理想的だな」
ラギがどこか冷めた口調で言う。
「シェンには身に詰まる話だねぇ」
「まったくだ」
父親の所行による子供の被害も考えてほしい。
シェンの同意によって、部屋の暗さが更に暗くなった。
「何?シェンの親も怪しいことしてんの?」
「いや、クソオヤジは総合して大々的にクソだから」
「相変わらずね。二人共」
「クソオヤジがまともになったら今度こそ世界は滅ぶんだろうな」
シェンの遠い目が痛ましい。
厚顔不遜なシェンがこれほどまでにボロボロになる相手は想像するだけで恐ろしい。新時代になって、まともな人が死んで、非まともな人々だけが選別されて生き残ったのではないだろうか。
「とにかく。こんな世の中になってんのに、これ以上ぶっ壊れたらもう直る物も直らなくなる」
こんな世界は御免蒙りたい。だが、これ以上の世界なんて目も当てられない。
ストームが口の端をニヤリと歪めて見せた。
「いいね?“中”相手に戦争?」
瞬間。ラギはゾッとした。その顔と言い方は、お父様の計画を聞いた時よりも背筋が震える。人は死ぬ時に走馬灯というのを見るらしい。それを生きたまま目の当たりにしたような、死を間近に感じる瞬間だった。
「街の奴にはいろいろ言いたいことがあったんだ。あ。もちろん俺は街でここをゴミダメとかぬかしている連中も平等にこよなく愛でているよ?命は皆平等。俺は皆を神様と同じ様に愛してるからね。だから戦争になっても虐殺なんてしない。平等に、話し合いができるように話を持って行こう」
「何ですか。その怪しいほくそ笑みは」
「ほくそ笑んでいるのはーあっちもだなぁ」
万屋が何かブツブツとつぶやいている怪しい女、もといライアを指差す。
「戦争。戦争。戦い。戦い。戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦戦」
「あれはムシしろ」
シェンが首を降るが、比較的まともな常識人らしく見えていたライアがオカシイと証明されると胸が痛い。
「確かにこいつらはバカみたいに強い。だが、実際にバカなんだから救い様がねぇよ」
「こんなメンバーでトリスタン家をおそおーとは、ラギもそーとーなバカだねー」
そんな事をバカの頂点にいるような万屋に言われたラギの後ろである男は「こんなに平等に皆を愛せる俺って素晴らしすぃ。嫌。まてよ。皆が平等なら俺自身も皆と平等だ。もし、俺と誰かが溺れていたら、俺は俺と誰かどちらを助けたらいいんだ?!」と叫び、
ある女は「ちょっと待って。貴方も溺れてるんだからどちらも助からないんじゃない?」と叫び、
「だから、私が頭に皿をのせた緑色の魚人を合成獣としてつくるまで待ってて」と叫ぶ。
また別の女は「戦戦戦線戦戦線戦線戦戦戦線戦戦線戦線戦戦戦線戦戦線戦線戦戦戦線戦戦線戦線戦戦戦線戦戦線戦線戦戦戦線戦戦線戦線」と呟く。
ラギは物の見事な笑顔で言った。
「もうどうにでもなれ」
それはそれは輝かしい笑顔だったそうな。
- Re: LosT WoRD ( No.15 )
- 日時: 2013/01/03 12:38
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)
東区。
「これはーー変わったキメラだな」
先程拾った自分の愛刀で死んでからそう時間が立ってなさそうなキメラを突っつく男。短髪黒髪長身細身の男はむーと唸った。
「ライアがルーチェに頼んだか、ストームがルーチェに頼んだか、万屋がルーチェかバッカスに頼んだか、ジュダルがバッカスに作らせたか、シェンがルーチェと造ったか、大自然が新たな生命を作り出したか、神様が思いつきでつくったか、岩から生まれたか、桃から生まれたか」
ツンツン突きながら、話は生命の神秘にまで飛んで行った。
「よし」
一つ頷くと胸ポケットから携帯電話を取り出す。新時代で出回った映像記録昨日も立体情報昨日も何もない、旧時代の過去の遺産とも言える様な古い物だ。
ツーツー。
2コール目に相手は出た。
「シェ『死ね』」
ツーツー。ツーツー。ツーツー。
もう一度、同じ人物にかける。
ツー。「シ『ね』」ツーツー。ツーツー。
男は尸となったキメラの目を覗き込む。
「これはあれだね。反抗期だ。反抗期。もう可愛いことしちゃってぇ」
それから、男は今度は別の相手にかける。
「もしもし?万屋?オレオレ」
『拓哉ぁ?それともー新手のオレオレさぎぃ?』
「拓哉じゃねぇよ。拓哉誰だよ。5000000000000000000ドル寄越せ」
『人に物を頼むときはもっとてーねーにー』
「50000000000000000000ドルください」
『増えてねぇ?』
「万屋はそれを俺にくれるとして、マイソンいる?」
『さっき『死ね』、『ね』って携帯をまた壊してたねぇ。今ルーチェーが直してるよー』
「いや、息子がどーも反抗期らしくて、それでもさっき一瞬で『死ね』の一言を息子と共同制作してしまったよ。まったくツンデレで可愛いんだけど俺の息子」
『その息子の夢が叶うといーねー』
「俺に死ねってか?」
『お好きにドーゾー』
向こうから楽しそうな声が聞こえてくる。溺れたらどうするかや助からないとかセンセンセンセンセンセンセとか。
「ところで今暇?俺は俺で暇で暇で麻痺しそうなんだケド。あ。ヒマとマヒって似てる。それでおもしろそうなことないか?大金稼げるの。何か家半壊してっから」
『そんじゃねぇ』
思い出したように笑う様子から察するにこの家を半壊にしたのはこいつだ。と気付き、
また厄介ごとを起こすな。と気付き、
男はあやしくほくそ笑んだ。
電話の向こうからいけすかない男の声が機会音となってやって来る。
『“中”との戦争に特攻してみるぅ?』
「ハハハハハハ。ハハハハハハハハハハハハ。ガハッ、クッ。ガハハハハハハ。ハッハッハッ」
男はむせるまで笑い、むせてからも笑い、
「何それ。ちょー楽しそう」
男は子供の純粋な笑顔を浮かべていた。
それはそれで悪い事の予兆にしか周りからはみえないのだが、それよりももっと直接的な悪い事が起こっていた。
万屋の間延びした声の後ーー。
『あれ?!ー、ーーうゎぁっ。ちょ、ちょっと。ーー、ーーーーー、ま、待って。なん、で! ジャンがぁ』
ツーツー。ツーツー。ツーツー。ツーツー。
後には無機質な音が鼓膜を揺するだけ。
男は自ら電話を切り、また携帯を胸ポケットに、そして愛刀を腰の鞘に納めて立ち上がる。
パンっパン。
二礼二拍手一礼をして、
「我が嫌味で好きでもない友人とも言い難い知人とは言いたくない無関係でありたい人として見るのも面倒な人物に黙祷を」
大して捧げる気もないだろう黙祷を捧げていた。
- Re: LosT WoRD ( No.16 )
- 日時: 2013/01/04 17:26
- 名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)
一方その頃北区。
『死ね。死ね。いいから死ね』
こちらはこちらで青年が、銃をぶちかましていた。
ジャン.エルカールという青年は親の仇を撃つかのように銃弾を万屋に打ち込む。金髪にそばかすのある顔には左頬に幾何学的で、または全く無意味な様な刺青があり、顔の半分を埋め尽くしていた。
『くたばれ。とにかくくたばれ』
さっきから万屋の命の終息を願うことしか言わない口から流れるのは、変声器を通した不明瞭な声。
スラムリーダ達より一見異質な青年はいきなり部屋に乱入したかと思うと、これまたいきなり銃に悲鳴をあげさせてラギに悲鳴をあげさせた。
シェンがラギごと伏せがなければ、ラギにも数穴が空いていたに違いない。
「誰だよ?」
「ジャン.エルカール。南のライアの闘技場の審判だよ」
「何で万ヨロヅヤを殺そうとしてんの」
『死ね。くたばれ。滅びろ』
「前に俺経由で万屋から買った銃が暴発したんだ。それであの声と刺青」
『抹殺されろ。暗殺されろ。撲殺されろ。刺殺されろ。殺されろ』
「万屋の唯一の天敵だ」
つまり、万屋が殺されかけているのは自業自得。ラギが巻き込まれたのは単なる不運。
「なぁ。もうあいつ置いて行かないか?」
シェンの意見には大賛成だ。
「ライア。ストーム。ルーチェ。もう行こう」
ラギが頷いたのを見てシェンが三人を呼んだ。三人共、返事を聞くまでもなく出て行く。本当にこの三人か?というほど息があっていた。
数分後。北東スラムの祭り街。
「おい。あれ」
「あぁ。南北のライアとルーチェに東のガキだ」
「ちょっ。まずいって。あんなイカレ野郎共が集結して、またスラムを吹っ飛ばす気か」
「西に逃げるか?」
一行はこの上なく目立っていた。
「ん?誰だ。あの二人」
ストームは顔を公開していないから女組と違ってわからない人が多いし、目立っても問題はない。しかし、問題はラギである。
ラギには今、懸賞金がかけられている。しかもスラムの人間は戦争によって生活や身内を奪われた者ばかりと言っても過言ではない。トリスタン家の者と暴露たら相当によくない。
ラギは今、舞踏会に出るような仮面をつけて、フードを目深に被った完全なる不審者とかしていた。
本人にしてみれば、半分は自分の為と言っても残りいくらかは、スラム層の人間を守るために動いているというのに、この今の状況に涙するしかなかった。
クソっ。何で俺が。
不審な目で見られるのはまだいい。良くないがこの際、もういい。だが、まるで死神や悪魔を見るような目が体を射抜くのだ。
「もう好きにしてくれ」
さっきからシェンとストームが自分を見て大爆笑を隠さないのも腹が立つ。
「それで、ハハッ。く、苦しい。ガハ。正面衝突で、ハハハハッ、いいのか?クっ」
「そ、そんな、フフッ、おもしろい格好で、ハハッ腹いたっ、お父様の前、に、かはは。現れて大丈夫?ククっ」
「普通にしゃべれよ。もういいよ。どうにでもなるよ! なるようにしかならないよ! どうにもならないよ! もう一度ぶっ壊れろ! こんな世界!」
仮面の奥で頬を熱い物が伝う。すでにラギの世界は崩壊していた。
機会人形のダイアまでもが、遠巻きに見ている。
「もう、ムリ。ハハッ。ハハハハハハ。ワァハハハっ。がはっ。ハハハハハハ」
とうとう限界を突破したシェンが悶え苦しむ様に転げまわりだす。
白い色の仮面に隠されているだけで、ラギの青筋も限界を迎えそうなほどピクピクとしている。二人は今にも殺し合いを始めそうだった。
そんなラギには気づかない遠巻きの野次馬も、普段は闘技場や森で冷徹にも思われるシェンが路上で大笑いをしてしにかけているのだから尚の事気持ち悪いとでもいう様に更に一歩後ろに下がる。
この赤毛の少年が実は相当に笑い上戸であるのは、少年に少しでも気に入られたなら直ぐに分かるのだが、なんせ『何でも、あのガキはもともとは黒髪だったってのに、あの赤毛は今までにやられたたキメラや人の血に染められた赤毛らしい』なんていう、無茶な噂まで立っているのである。
「心配するな!俺はそんな土埃つくシェンも変態仮面なラギも平和的に愛している。もちろんトモダチ的な意味でなっ!! 人類皆兄弟! ん?そうしたらライアとはファミリーになれないのか?? ……それは違うだろっ、俺っ。海はみんなの母ではないか?! そうだ人類皆兄弟姉妹父母祖父母っっ!! これでみんな家族だ。さぁ。我が息子達よっ! お父さんの胸に飛びつきなさいっっ。……ちょっと待ってもう、我慢出来ん。ーーーっーー!は!ハハハハハハっ。何だその変態ごっこっ! 昼間っからっっ!! 公衆道徳を考えろっ!」
こっちはこっちで頭がぶっ壊れた残念な男が真昼間から公衆道徳を弁えない狂った叫びをあげていた。
それに対し、仮面青年はーー。
「うるっっさいわ。我慢できねぇならホローをしょうとすんなっ! 誰が息子だっ! クソな大人はお父様と先生でまにあってんだよっ!!」
キレていた。
今この時に、常識人的だった唯一の青年まで決して踏み入ってはならない道に踏み入ってしまったのだ。
「ヤル? みんなでヤル? ヤっちゃう??」
今度は高らかに女の妖艶な声が響く。見た目だけなら指折りのライアが恍惚とした目を疑う様なキラキラした目で叫んだのだ。そのキラキラは文字で表すのなら『セ・ン・ト・ー・☆・セ・ン・ト・ー・☆』というキラキラである。
このままでは、この商店地区が吹き飛ばされかねない。ルーチェは『た、たら、たたたん〜。しんがたばくだん〜〜』と叫び出しているし。
野次馬達は気づいた。ここで逃げ出さなかったらこの輝かしい太陽を拝むことは二度と出来ないと。
『お天道様に顔向けできる人生じゃねぇが。あの世をランニングする気はない!!』
誰もがそう思い、皆が一斉に回れ右をした。
後には四人の狂人が閑散と残される。
だが、野次馬達の判断は正しかった。
彼らが逃げ、狂人達が一触即発の状態になった時ーー。
ぼっかーっっっーーっ、ン!!
擬音化するとファンシーな爆音が“中”と“外”の境界線に響き渡ったのだから。
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