コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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LosT WoRD
日時: 2013/02/06 17:59
名前: 狐乃宮 秋 (ID: 3w9Tjbf7)

LosT WoRD

StoRy
世界が度重なる戦争や災害の為、バランスを崩した時代。
大人達が求めるのは確かな金か。揺るぎない地位か。
……まぁ、そんなの俺には関係ないのだけれど。
失われた世界でのわけがわからないファンタジー。


ここからはネタバレ含みます。

chAraCTor
シェン 一応主人公
ラギ 一応主要人物
スタン 万屋
ルーチェ.ルーカス 北区スラムリーダー 最興の錬金術師
ライア 南区スラムリーダー 最強の戦闘狂
ストーム 西区スラムリーダー 最凶の薄愛主義者
ラグマ.A.トリスタン トリスタン家の子供
ジュダル.A.トリスタン トリスタン家頭首
先生 ラギの先生
里兎 サトー 佐藤 シェンの義父
ジャン・エルカール 2年前の事件の関係者 万屋の宿敵


WorD
旧時代 戦争前の時代
新時代 戦争後の時代 今
合成獣 キメラ 戦争の生物兵器
機会人形 戦争のロボット兵士
錬金術師 不可能のラインを見極める科学者
街 戦争後富裕層が住むセントラル
中、外 街の中、街の外
森 戦争の異物が残る沿岸部
トリスタン家 戦争の兵器開発第一人者
不老不死者のホムンクルス トリスタン家の計画

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Re: LosT WoRD ( No.7 )
日時: 2012/12/24 16:39
名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)

東西南北スラムのリーダー。
ハッキリ言おう。彼らは人ではない。
異形の姿をなし、人の心を持っていないわけではない。寧ろ、それぞれ個々の信念には熱く、理解者が多い奴もいる。
しかし、ヒトとハッキリ断言するにはみな口ごもる。
異様なのだ。ヒトにしては。
畏敬と畏怖の意味を篭めて外の血気盛んな連中はスラムリーダー達をこう言った。

「皆が皆、サイキョウだ」

この陸は歪な円を描いて残っている。その円の中心が“街”だ。いわゆる中である。その街を守るように防壁が張られ、それを堺にスラム層が広がる。つまりスラム層は円に真ん中が開いたドーナツのような形をしている。更に防壁が張られ、海に向かうとそこが“森”になる。人跡未踏の真のゴミ溜だ。
その死地と富裕層の間にあるスラム層。そこが統治をされていることなんかあるだろうか。あるわけない。しかし、それが広く浅くだが行われている。その統治者がスラムリーダーだ。
「つまりー。リーダー達はならず者達を腕っ節と頭の良さでとーちした、真のならず者だねぇ」
万屋が楽しそうに言う。あいつの楽しそうは純粋な楽しみに生まれながら多いに不純だ。その毒気に当てられたら、機会人形だって不調を来す。
「でぇ。ラギクンー。君はそのじんがいギリギリのヒトの所に行って何をしよーと言うのかなー??」
あいつはとにかくタチが悪い。あいつの一言一句、一挙一動、一期一会、とにかく一々タチが悪い。そこらに転がっている中毒者より、殺し屋より、マフィアより、クソオヤジ並にタチが悪い。
シェンは不機嫌を隠すことなく、万屋を睨んだ。
万屋は「おーこわー」と言ってオーバーに肩をすくめる。
「安心しろよ。あのトリスタン家絡みだよ?まともな話しではないよ」
ラギもオーバーに肩を竦めて見せた。
こいつは“中”のお坊ちゃんだ。野風に曝された雑草ではなく、温室で育った薔薇だ。
「あの御父様の御実験に御禄でもない御企が御隠れになられているんだ」
だが、こいつもタチが悪い。
ヌクヌクと育ったお坊ちゃん。肩書きはそうであっても、真実は分からない。話し方、態度に行動。全てをとっても外の危険なブラックリストに載った奴と同じ臭いがする。鼻を刺す異臭。鼻を狂わす香り。鼻も感じない無臭。それが漂ったら要注意だ。
「何か。スラムリーダー率いてその御父様に喧嘩でも吹っ掛けるのか?」
笑えない。また世界が吹き飛ぶぞ。
「爆弾人間か何かなのか?スラムリーダーって」
真相を知らない内は笑えるさ。
「全員ただのヒトだよ。キメラでもないし、人口頭脳でもないさ。錬金術師と戦闘狂と博愛主義者がいるケド?」
「あとそれから気狂い」
「いっそ錬金術師しかマトモなのがいなさそうなんだけど?」
「気狂いなんかいないし。錬金術師は多分意味が違うね。まぁ、その錬金術師は北のリーダーだから見れば分かる」
今向かっているのは北だ。ラギは始めて外から見る城壁に驚いた。中の陸地は高くなっている。だから城壁を高く感じても壮大だと思ったことはない。だが、外からの城壁は壮大を通り越している。
そして外の物が知識から飛び出し、現実に出て来た今は想像を超えて目を見張るばかりである。
外は上に行く程新しい。ドンドンと積み重ねて上に高くなるからだ。しかし、その積み木も境界線の城壁には到底届かない。道は整備されているようだが、その上に所狭しと屋台が並んでいる。開いていない店。怪しげな店。公然と犯罪スレスレの物を並べた店。
「あー。もっと怪しいのはちゃんと闇市で商売してっからダイジヨーブ」
それはちゃんとなのかは分からないが、とにかく驚くことばかりだ。
「あっ。ダイア。探してたネジ、スチームの所で売ってたぞ」
シェンは顔が広い。そして話しかけられる相手も話しかける相手も興味深かった。
ダイアと呼ばれたのは恐らく旧時代に作られた人口頭脳型の機会人形、ロボットだ。下の古いここと同じように、継ぎ接ぎだらけのボディで動く度にガタガタと軋む音がする。
「あのロボット……。」
「さっさと行こうぜ」
「ぁあ」
シェンに急かされて足を踊らせながら二人の後に続いた。

Re: LosT WoRD ( No.8 )
日時: 2012/12/24 16:16
名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)

今日ハ天気ガイイ日ダ。
空ガ青イシ、雲ガ白イ。コンナ日ハ天気ガイイ日……ラシイ。サトウガ教エテクレタ。
サトウ……。サトー。サートー。サトウ二最近会ッテナイ。
コンナ天気ガイイ、ラシイ日ハ、実験ヲスル。実験……。怠ケチャダメ。
錬金術師、実験。大切。タイセツー。万屋ー。タイセツー。ノバスー。
アア。コンナ天気ガイイ日ハ、楽シイコト起コリソーダナー。
デモ、楽シイコト、嵐。天気良クナイ。大荒レ。
雨、降ルカナ?
ストーム来ル。キット雨降ル。ピチピチ。ビシャッ。
「そうだ。雨降らせよ」
彼女は誰もが目を向けるであろう、しなやかな四肢をゆっくりと動かして椅子から立ち上がった。ビーカーが並び、アルコールランプの炎が揺れる暗い実験室の中、誰もいない室内。
彼女は一人で何かをし始める。最新型のコンピュータ、最新鋭の電子機器。一体彼女はどのように雨を降らせるのか。
「出来た」
すぐに彼女の楽しそうな声がした。

「え。ここ?」
「そう。ここ」
化け物並の力を持つサイキョウの錬金術師の家。というか研究室。
もう一度問おう。
「え。ここ?」
「何度聞き返されても現実は変わんねーよ。ここが北のリーダー、最興の錬金術師ルーチェの研究所だ」
最興の錬金術師の研究所。それは異様だった。
最初に目に入ってくるのは白い布。最後に見えるのも白い布。布、布、布。布、布、布布布布布布布布布。白白、白。白白白白白白白白白白白。
スカートを来た胴のない人のクッキーのような白い布の人形が丁度首吊りのように幾つもある。しかも、陰湿なことに吊るされたそれは頭が下でスカートが上。逆さに首を吊らされた人の不気味な人形が家という建物を埋め尽くしていた。
もう一度問おう。
「え。ここ?」
というか、何?これ。
「相変わらず。誰か呪ってそうな外装だな。今時こんなの知ってんのあのクソオヤジぐらいだろ」
言いながらシェンはその人形の邪魔なのを蹴り飛ばしてドアを蹴り開けた。
ガッシャーン。
硝子が割れる音がした。「ジャマすんぞー。ルーチェ」
無作法もここまで来ると清々しい。
「ルーチェー。これ一体いくらぁ?」
そして万屋が入る時には研究所の主の名前すら変わっている。ルーチェー。マヌケに聞こえる。
「うわぁ。不法侵入反対。暴力反対。君達にもお袋さんがいるだろう。田舎でお袋さんが泣いてるーーイタイ」
シェンが乱入して行った方から変な女の叫びが聞こえる。
「死んじゃう。殺される」
「誰が殺すか。この研究所警備員」
「ルーチェー。やっほー」
「ヤッホー」
ラギは今朝、キメラに殺されかけ、しかもそのキメラの主が自身の父親だと言う。大変ショッキングな状況にある。命からがら出て来て、頼りにしている人は今、
「誰かー。ヘルプミー。お助けー。おやめください、お代官様ー」
わけがあるかどうかも分からないわけの分からない叫び声をあげている。

ぁあ。俺死ぬかも。


今日ハシェンガ来タ。シェン。有名人。ユーメー。ユーメー。闘技場ノチャンピオン。オウジャー。万屋ノ敵ー。
デモ、二人仲良シ。
ストームトモ仲良シ。
知ラナイ子、来タ。シェンが連レテ来タ。
逆サテルテル雨降ラス。嵐来ル。
ァア。今日ハイイ天気、ラシイ。

錬金術師。
物理の法則を無視し、ゴミから金塊を作ることも可能な存在。そんなものは不可能だ。
旧時代にはそんな幻想を信じた狂信家もいたらしいが、新時代の錬金術師は多く、もっとリアルを生きている。
錬金術師は研究者だ。誰よりも現実を生きながら誰よりも夢を追う。
ゴミから金塊を生み出す。そんな出来たらいいことはどこからが夢でどこまでが現実なのか。それを見極めるのが錬金術師である。
ルーチェ.ルーキス。彼女は誰よりも何よりも現実を生きる夢想家である。最も興味をどこまでも膨らませる。最興の錬金術師。それが彼女である。
「だからね、逆さテルテルだよ。分かる?魂を人の形を象った人形に乗せて、それが血の涙を流せば空で神様がもらい泣きをして雨が降るの!分かる?ーーぐは」
自分が興奮して手を振り、その手に持っていたペンが吹っ飛び自分の頭にささっている。
「イタイ」
「それ、違うぞ」
半泣きになる錬金術師。白けた顔をする少年。
「テルテル坊主が晴れを呼んでくるから、それを逆さにして雨にするんだろっ。そして錬金術師が神を語るなっ。逆さテルテルを信じるなっ」
「一つ間違ったらゴーモンだねー」
「ぅぅ。佐藤が日本の偉大な技術だって言ってたのに」
「あんな奴、神様以上に信用ならん」
「ラギっ。今度はへそから紅茶を出すホースを作るから手伝ってね」
「普通に紅茶を沸かして下さい」
その方が早い。
ルーチェは20前半の女性だ。ラギからして見れば立派な大人の女性である。しかも、その外見は艶かしい出る所は出て、締まる所は締まった大人びた美しさがある女性だ。ショートカットの髪から甘い香りがして、白衣に包まれた四肢はしなやかなである。
それ故、言動とのギャップがひどい。シェンが可愛らしく思える。
「えぇ。食べた直後に寝たら遺伝子構造が異常を来たし、ヒトゲノムが牛ゲノムに変異体となって変わるのかの実験もしたかったのにー」
「変わりません」
「あれー。実験の被験者になる為に着てくれたのじゃないの?」
「違います」
美人を相手にしているのに、何故だろう。疲れる。
ルーチェは小顔をコクンと曲げてラギを瞳に写す。
「じゃあ、どうして?」
ラギはすぐには返事を返さなかった。
それは相手を見極める為にしたのだが、
「ルーチェー。ラギ君、困らせたらダメだよー」
「困らせてないわよ」
すると、今まで話には興味なさそうに研究室の最新型コンピュータや煙を垂れ流しにしていたフラスコを順々に眺めて行っていたシェンがラギに手でコッチニコイと示す。
〈ルーチェはパッと見では冷静、クールな女だが、内面は『今日ハ木ノ先ヲバラバラ二シタ掃除ノ道具ヲ、逆サ二壁二立テ掛ケテ、恨ミツラミ溜マッタ、イヤーなゲストヲ異世界二飛バシテヤローナ実験ヲショー』なんて考えしかないぞ〉
小声に耳元で、口元を手で隠しながら言われた。
〈悲しいことに、……すっげー分かる〉
〈だろ?〉
〈あと、『今日ハ天気ガイイカラ、薬物実験ショー』とか思ってそう〉
〈悲しいことに、……すっげー分かる〉
ここで生まれも育ちも違う二人のわけあり少年が意気投合した。
そして、その少年よりやや大人の方々は、
「でさー、サトーったら旦那捕まえてこれ今日からコドモぉとか言うんだよー」
「じゃぁ。ストームもシェン捕まえてこれ今日からバイトーとか言い出すのよ」
勝手にシェンの話題で盛り上がっていた。







Re: LosT WoRD ( No.9 )
日時: 2012/12/25 18:09
名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)

「ちょっ。お前っ!やめてくれ! 降参だ。降参するっ。やめてくれ」
「おじさんさー。今俺がアンタを無慈悲に殺すと思ったろ?」
「……へ?」
「だ、か、ら。アンタは俺が残酷に、残忍に、無惨に、悲惨に、アンタを惨殺すると思ったろ?」
「惨、……へ?」
男はオーバーに首を振る。
「ヒッドイなー。俺は聖人君子、道徳主義者、心優しいハクアイシュギシャだよ?そんなことしないよ」
男に対峙していたおじさんが、その言葉を飲み込んだあと、生への希望に顔が輝く。
おじさんの姿はボロボロ、傷だらけ。対する男は長身の細身の男だ。姿は無傷でその片手には黒光りする小型銃。
おじさんには男の手のその銃が記憶に新しい。
おじさんはずっと心で言い続けていた。
『俺は悪くない。仕方ない。仕方なかった。俺は悪くない。仕方なかったんだ。社長に言われて、仕方なかった。仕方なかったんだ。やらないと俺は無職だったんだ。仕方なかった。だから、俺はーー』
「うん。おじさんは悪くない。こんな殺傷力の強い小型の大量生産可能の銃を密売したのは、おじさんには仕方なかったことだよ」
まるで心の中を読んだかのように男は言った。
「おじさんは悪くない。言っただろ?俺はハクアイシュギシャだ。だからおじさんを無慈悲に殺したりしない」
みるみる内におじさんが安心し切った顔になる。
「仕方なかった。おじさんが広めたこの銃でスラムの子供が大量虐殺されたのも、おじさんが銃を広めたから仕方なかったんだ」
「……へ」
おじさんの思考が男の言った意味に気付く前にことは起こった。おじさんは自分の胸に熱い何かを感じる。激しい感情などでは決してない、体感的に熱い何か。つまり自分の血を。
「俺はハクアイシュギシャだから」
男が二度目の銃弾をおじさんにきめる。
「おじさんを虐殺なんてしない」
俺は、死ぬのか?
昨日までは街でヌクヌクと暮らして来た。外に追い出されて一晩。俺は、死ぬのか?
三発目。四発目。
「安心しろ。愛を持って殺してやるよ」
それは、“外”では明確な明示された法だ。男はその法そのものだ。
「いい夢が見れたらいいな。おじさん」
ヌクヌクと暮らして来た男は今やヒヤヒヤに冷えて来た。


熱気がむわーんと漂う。
男達は拳をあげ、言葉にならない叫び声をあげている。
「今日はオーナーが出るらしいぞ」
「ああ。だから見ろよ、この観客。興味はあの小僧は出ないのか?」
「あのガキは見てねぇ。はは。これであのガキまで出ればまた世界が吹っ飛ぶぜ」
お上品とは程遠い、お下品な男共が興奮してギャーギャーと知能のない獣のごとく叫んでいる。
ここはスラム層きっての闘技場だ。
人と人が拳で語り合ったり、キメラとキメラが闘ったり、人とキメラが闘ったり、機械人形と人とがやりあったり。とにかく何でもある。
真ん中の闘技場を中心に客席が心ばかりある。無骨な作りは最低限だけ。どうしてここがスラム層きっての闘技場なのか。それは簡単な理由だ。顔触れがいいのである。
闘技場を束ねるオーナー。その人物は南区のリーダーであり、その人こそこの活気を生む本人だ。
強いのである。これが。
「今日の相手はだーれだ?」
今日も楽しそうに敵を探す。その表情は狂喜に満ちていて、清純無垢な子供を彷彿させる。
「今日は暇だから、闘って、闘って、闘って闘って闘って闘って闘って、闘って闘い抜こう!」
戦闘狂は今日も獲物を捉えて離さない。
南区の大将はただ純粋に闘いを嗜む。足を交互に動かして歩くように、三食の食事を口で食べるように、毎朝目を開けて毎夜目を閉じるように、日常の生活、息をするように日常生活として。

Re: LosT WoRD ( No.10 )
日時: 2012/12/26 16:13
名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)

「それでー、とにかく北区のりーだーの所まで連れて来たけどぉ。家出の意味はなせたのかー?」
「……びっみょーだな」
「一人目がルーチェだしな」
「どういう意味でかなぁ?」
「そういう意味でだよ」
「……びっみょーだな」
「びっみょーだねぇー」
「失礼じゃない?私は高位の錬金術師なのよ?」
「それだけ聞くと頼りになりそうなのにな。だが、安心しろ。俺はそんなお前もこよなく愛しているから」
「……びっみょーな慰めだな」
「びっみょーだねぇ」
「ルーチェは変わり者だかんね。里兎の心友だし」
「お前に変わり者言われてもな」
「安心してくれ。俺はそんなお前も愛してる」
「変わり者に愛されても」
「びっみょーだな」
「びっみょーすぎ」
「安心しろ。俺はスタンもシェンもそこの知らないガキも愛してる」
「びっみょーどころかうぜえ」
「びっみょーだね……ってか二人増えてね?」
ラギには見覚えがない二人がいつの間にか会話の中に増えていた。
「……だれ?」
シェンがあくびをしながら片手でありありと面倒臭そうに片方を指差す。
「それが南区のスラムリーダー、最強の戦闘狂」
もう片方。
「んでこれが西区のスラムリーダー、最凶の薄愛主義者」
シェンが始めに指差した最強の戦闘狂は、ルーチェより少し若そうだった。シェンに近い動きやすそうな格好で何の飾り気もない。胸をツンと張って、背筋を伸ばし、片足に体重を委ねて立っている。腕を組んだその姿は圧倒的な格好良さがある。
格好いいのだ。憧れるような、眩しい格好よさ。波を打つ髪も、締まった身体も、女らしいラインも全てが格好いい。
最強の戦闘狂は名に相応しい、格好いい女性だった。
二人目の最凶の薄愛主義者は男だ。
黒い上着に身を包んでいる背の高い男。よく目を凝らすと、すでにその黒が血に染まった黒なのがすぐにわかるが、シェンと同じ細身でシェンと違い、長身の男である。
「ストームは来るって言ってたけど、ライアも来たんだ。いらっしゃい」
ルーチェは二人に魅惑的な笑みを送る。
「シェンがここにいるって聞いてね。シェンー。どうして最近闘技場来ないのよ。クソガキは来ねえのかぁって醜男共がしつこいのに」
「クソガキ、醜男」
「最近は金があったし、万屋の殺し合いやキメラ狩りで忙しかったんだよ」
「殺し合い、キメラ狩り」
「こら。変な所ばっか拾うな」
ライアはラギをペシンと叩く。躊躇ない一撃だったが、大して痛くない。最強というには、ライアは他の二人に比べて普通な感じがする。
後にシェンはライアをこう語る。
『普段のアイツはそりゃあ普通だよ。何たって、闘技場を一人で切り盛りしてんだから。でもな、一度獲物を見つけ、それを狩ることに目覚めると手が付けられない。ライアにとっては、闘うことが息をすることなんだよ。ライアにしてみたら、普段の獲物がいない時間なんて眠っている時間と変わらないんだよ。俺はあんなに戦闘を心から受け入れる奴を見たことないね』
そしてラギ自体、その覚醒したライアを見ることになるのはすぐそこだった。
「それで、君だれ?」
「シェンのトモダチ?」
「それはないでしょー」
「ないね」
「うぜえ」
ラギに興味を持ってくれているのは嬉しいが、この珍メンバーでは話が全く進みそうにない。
マトモそうなのが誰もいないのだから。
「えっと。俺はラギっていいます」
「ああ。ラグマでラギね。あのトリスタンの家から家出するような子がいるとはね」
ストームがラギを見ながらニコニコと言う。
時間がこの不気味な黒尽くめの死に神に止められたかと思った。
「何で?」ラギの疑問視が口から出る前に、ライアが声を上げる。
「トリスタン家で家出?誘拐でなくて」
その発言にもつっこみたいが、ヨロヅヤとシェンにストーム、この短時間で自分の出処が三人にもバレた。勿論『僕はトリスタン家の家出野郎です』とかいう名札を付けて歩いているわけではない。
「何で分かったんだ?」
あまりに真剣に聞いたから、その場の空気が一瞬静まる。
シェンが言い辛そうに口を開いた。
「何で、て言われてもなぁ」
赤毛をくしゃと撫でる姿は相当に疲れていた。

Re: LosT WoRD ( No.11 )
日時: 2012/12/26 16:57
名前: 狐乃宮 秋 (ID: .GCH7A/G)

東の“森”某所。万屋と少年。

「朝から何だよ。かったるい」
「だんなぁ。いい仕事ショーカイしろ言ったのは旦那だよー?」
万屋が寝床に乱入して来た。
片手に小型の銃を持って、「見て見てこれぇ。安くするよぉー。買わない?」などとほざいて。
「どの口が『買わない?』とか言ってんだ。この前の銃暴発して撃った野郎共々吹っ飛んだぞ」
「旦那にきれぇな花火を見せてあげたくてー」
「俺に売りつけたよな?」
「一番近くで花火がよく見えるねー」
「あの世まで見えるねー」
「ははー。だんなぁ。笑顔こわー」
最近はスラム層もまとまりが出来てきた。ライアの様に表立った『力』が知れ渡り、ルーチェの様に存在を認められる『知識』も広まった。挙句はストームだ。ストームの存在はスラム層に広まりながら、その“ストーム”がどこのどいつなのかは一部の人にしかしれていない。陰から覗く『法』が出来て悪さを思いとどめる人も増えた。
しかし、それでも違法ドラッグや密輸武器などは跋扈している。
万屋の存在こそ違法である。
「で、今回は何?」
「高収入ー。高利益ー。高価格ー。公害ー。鉱毒ー。絞首刑的な依頼だー」
「今言ったことの半分は意味ないな。じゃあ死ね。ここで死ね。今すぐ死ね」
「ひどー。
とにかくぅ、“中”からの依頼でねぇ。逃げ出したキメラを捕まえろーだって」
「そっか。じゃあとにかく後で噛み殺されろ」
「ひどー」


現在。スラム層北区。ルーチェ.ルーカスの研究所。

「はああああぁぁぁぉぉぉぁおああああおあ」
叫び声が響いた。意味がわからない。あり得ない。何じゃこれ。そんな叫びが。
その主は、息が苦しくなったのか一旦叫び声を止める。そして再び息を吸ってーー。
「はぁぁぁぁぁぉぁあああああぁぁぁぁぉぁああ」
「はぁぁぁいいいぃぃぃぃぃ」
「うえお。いつまで繰り返すんだよ」
シェンを区切りに、ラギは顎が外れたような顔で、ヨロヅヤから渡されたチラシをバシバシ叩く。
「だって、これぇっ。これ。これっ!!!」
「お前の指名手配という名の捜索願だな」
ラギの不機嫌な顔がデカデカと載り、その下に額がケタ違いの懸賞金が載っている。
「やるねぇ。スタンやストームでもまだ賞金首にはなってないわよ」
「安心しなよ。生死は問うってなってるじゃん。生け捕りだよ生け捕り」
「安心しなよ。賞金首も俺はこよなく大事にするから」
敢えてもう一度。
「はあああぁぁぁぁ」
しかし、これは溜息だ。深い深い溜息だ。
「お父様が家出息子を探してるんじゃ?」
「あのお父様が俺を探してるのであってるよ。でもさ、それって愛する息子でなくて愛する実験材料を探してるんだよ」
ルーチェが「私の実験材料にはなってくれないのに」と口を尖らせる。いや、誰の実験材料にもなるつもりはない。
「それはまた、シェンの親子関係並にバイオレンスな親子だね」
シェンのよく分かるぜという、視線が悲しい。
「ぁぁ。もう、頭にきた。いいや。まだ東のリーダーにはあってないけどもういいや。全部ゲロってやる」
その場にいた四人が口を開ける。
「は?」
「お父様の企みを全て話してやる。全て壊してやるっつてんだよっ!!」
「えっと……」
「だ、か、ら、」

「不老不死者のホムンクルスの計画を全部ゲロってやる!」

五人の顔が五人五色に変化した。


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