コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 夏の秘密 【12.14 ファジーへ引っ越します】
- 日時: 2014/12/14 16:39
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: WoqS4kcI)
誰にでも、絶対に知られてはいけない秘密は存在する。
例えそれが、親友であっても、恋人であっても、家族であっても。
なぜ知られてはいけない?
その答えだって、鍵をはずすことはできないのだ。
これは、己を守り抜く、夏の戦い。
*******************
こんにちは。まーにゃと申します。
今は冬ですが、舞台は夏の小説です笑
コメディなのかシリアスなのか、非常に曖昧で迷ったのですが、こちらに投稿しました。
ぜひお時間のある際に、ちょろっと読んでみてくださると嬉しいです。
感想などもしありましたらよろしくお願いいたします。
◆訪問数100達成ありがとうございます。
◆全体的に少々描写の追加訂正を致しました。(12.14)
◇引っ越しのお知らせ >>28
- Re: 夏の秘密 ( No.19 )
- 日時: 2014/12/10 00:44
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)
「ちょっと、どうしたの! びしょびしょじゃない! 怪我もして!」
「あの……色々あったんだ……ははは」
困ったように、控えめに笑う桐ちゃんに抱えられた子犬が、わん、と元気に一吠えした。
****************
蓮香は本屋の帰りに、近くの公園で小さな子供たちの遊びの相手をしていて、気づかないうちに携帯の充電が切れていたらしくて。そして迎えに行った桐ちゃんが、公園にいた蓮香を見つけたところまでは良かったんだけど……。
そのすぐ後に、二人は公園の高い木の上に乗せられてしまった子犬を見つけたらしく。恐らくこの近辺の不良の悪戯だろう。子供たちからの期待と不安の目に耐えられなくなった桐ちゃんが、運動なんてまるで駄目なのに、木に登って子犬を助けようとしたんだとか。子犬はなんとか救出できたけど、案の定、肝心の自分が木から落ちて、そのときに顔に怪我をしたらしい。しかもそれにとどまらず、木から落ちた衝撃で、せっかく捕まえた子犬を離してしまったようで。驚いた子犬が近くの噴水まで猛ダッシュした挙句溺れてしまって、慌てて助けようと桐ちゃんが子犬の元へ駆け寄ったら、携帯が水没してしまったんだとか。
ハルくんが電話をかけてもつながらなかった理由がそれとは……。
桐ちゃんはテストの点数もいいし、良い子なんだけど、ちょっとドジというか、やっぱりどこか頼りない。
「この子犬ね……首輪してないし捨て犬だろうから、最初は警察に届けようとしたんだけど……。そんなことしたら保健所に連れて行かれる、って前田さんが……」
子犬を撫でながら、桐ちゃんがちらちらと蓮香の顔を見る。そうしているうちに蓮香と目が合ってしまったようで、桐ちゃんは、ばっ、と視線を逸らしてそれっきりだった。
そんな桐ちゃんにイラついたのか、蓮香は不機嫌そうに前髪を掻き分ける仕草をとっていた。
「そ、そっか! 蓮香、優しいじゃーん! この子犬を助けたかったんだねー!」
このまま蓮香にウザがられているだけでは、あまりに桐ちゃんが報われない。わざとらしい気もしたが、できる限りの明るい声を出してこの場の空気を塗り替えようと努めた。だがそんな努力も虚しく、別に犬を助けたかったわけじゃないわよ、と、しれっとした猫のような顔で一蹴されてしまった。
「そんなになってまで学くんが助けた犬を、殺されたくなかっただけよ」
つんとした態度を貫き通していた蓮香だったが、その台詞にきつい何かは感じられなくて。本当に、素直じゃないんだな、この子は。そう思わざるを得なかった。
「早くお風呂入りなさいよ。風邪ひいても私のせいにしないでね」
桐ちゃんから子犬を奪い取った蓮香は、吐き捨てるようにそう言っていた。
- Re: 夏の秘密 ( No.20 )
- 日時: 2014/12/10 00:51
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)
****************
「…………それにしてもだな」
最後の一口のカレーを食べ終え、スプーンを皿の上に手放す。談笑していた其々の声は弾かれたように止まり、皆がハルくんへと注目の視線を向けた。
「どうするんだよ、この犬は!」
わん!
ハルくんへの返事をするかのように、子犬が吠えた。その鳴き声に更に困った顔をしたハルくんが、子犬の頭を撫でながら、あぁ、と何とも言えない呻きを漏らす。
「ここで飼えないの?」
項垂れるハルくんはお構いなしに、温度の低い声で蓮香が問う。枝毛でもチェックしているのか、手に持った自分の毛先だけに視線は注がれていた。
「まあ最悪のところ俺はね、いいんだよ、飼っても」
「ハル、犬は嫌いじゃなさそうですしね」
只管に子犬の肉球を押しているハルくんに便乗して、純さんが反対側の肉球を押していた。
「ああ。でも悪いけど俺は責任もって飼える自信もないんだ。それ以上に、じぃちゃんが何て言うかなんだよなぁ……。っていうか他のみんなは飼えそうにないのか?」
ふと、今朝見たハルくんのお爺さんの姿が思い浮かぶ。
……確かに、あの様子だと快く賛成してくれるというのは、考え難い。だけど、私の家は妹が動物のアレルギーだから、代わりに飼ってあげるというのはできないだろう。他のみんなは、どうかな……?
心なしか、子犬が不安そうな目をしているように見えた。
「私のうちは妹がアレルギーで飼えないの……」
「ああ、それじゃあ犬は厳しいよな」
「あたしは何かと家をあけること多いから、毎日散歩できないかも」
「うん、それじゃあ犬は厳しいよな」
「うちは既に猫がいるので」
「そっか。それじゃあ、犬は厳しいよな」
「あ……僕は、マンションだから……ごめんね、ハル」
「だよな。それじゃあ犬は……って、ああ……」
連続の残念な解答に、ついに返事をするのも嫌になったのか、頭を抱えて黙り込んでしまった。皆で顔を見合わせる。やっぱり、この子犬は警察に連れて行くしかないのだろうか……。
誰もが気を落とした時だった。
「っ、よし! しょうがねぇ! 俺が、明日朝一でじぃちゃんに何とか頼んでみるわ! その代わり、今日は、なんとかバレないようにしよう。これは俺たちだけの秘密だ」
吹っ切れたのか明るい様子で言ったハルくんの言葉に、再び部屋に光が灯ったかのように、皆の表情も明るくなった。おまえ、ここに住めるんだよ。子犬の頭を撫でる蓮香は、珍しく穏やかに笑っていた。
「ね、ね! 名前、決めようよ!」
飼うとなれば、まず名前よね。みんなが、子犬にどんな名前を付けたいのか興味を持ちつつ、意見を募った。
**************
食後の休憩も終わったことだし、合宿らしく、各々夏休みの課題に手をつけてから1時間程が経過した出来事だった。
「せっかくの合宿1日目に勉強なんて気が乗らねぇよ。な、ビーフ!」
わん!
ハルくんとじゃれながら、高い声で鳴いた。
「……一応翻訳しますが、牛肉ですよ」
「当たり前だろ。良い名前じゃんか」
苦笑、いや、それを通り越して、確実にドン引きしながら言った純さんの翻訳は、ハルくんの心には響かなかったらしい。どういうセンスしてんのよ……蓮香の呟きも虚しく、ビーフの鳴き声にかき消されていた。ビーフ……か。私の考えた「プリン」の方が、可愛らしい名前で良かったと思うんだけど……。まあ、くじ引きでそう決まったのだし、それに飼えるようにハルくんがお爺さんに頼んでくれるわけだし、仕方がないか。
「ね、ここ教えて」
ビーフの名前騒動は余所に、先程からつまずいていた数学の問題の解き方を、桐ちゃんに尋ねる。嫌な顔せず応じてくれた彼は、優しく丁寧にそれを教えてくれて、つまいづいていたのが嘘のように答案を埋めることができた。
「ありがとう。さすが学年トップ、やるじゃん!」
褒めたつもりで言ったものの、そんなんじゃないよ、と彼らしくない少しきつい口調で返されてしまったことに驚きは隠せなかった。けなしているわけでもないのに、どうしたというんだろう、一体。
直後ハルくんと目があったが、すぐに逸らされてしまった。何なんだろ……。
- Re: 夏の秘密 ( No.21 )
- 日時: 2014/12/10 00:32
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)
「ごめんね、何か気に触ること言っちゃったかな?」
大人しい子が怒ると怖い、と聞く。きっと桐ちゃんもそれに当てはまるのだろう。怒るとまでいかなくとも、若干様子がおかしかったのが気になり、顔色をうかがった。
「いやっ、そんな……広井さんは何も悪くないよ。僕こそ、本当にごめんなさい……ちょっと、疲れてるのかも」
目も合わせず、消え入りそうに言う姿からして、もういつもの彼に戻ったということが分かった。 やっぱり、さっきのは何かの間違いだったのだろう。課題も切りの良いところまで進んだので、パタリとノートを閉じた。
「それなら良かった。でもさっきのは、ふざけてたとかじゃなくて、ちゃんと本心だからねー? だって桐ちゃん、この前の定期試験でさ——」
また、クラス1位だったじゃない。
そう、言おうとしたときだった。
「ほのり!!」
突然大声で名前を呼ばれて、口を噤んでしまった。ハルくんだ。
何よ急に、びっくりするわね。蓮香はだるそうに文句を口にしていたが、私は何も返すことができなかった。ハルくんの表情が、この上ないほど必死であったからだ。
「ほ、ほのり……ア、アボカドの日本名は、ワニナシなんだぜぇ?」
……。
まさか、それを言うために、大声だしたの? そう言わんばかりに部屋中が一瞬の静寂に包まれた。
小さな、虫の鳴き音が聞こえる。今日は、夏なんだ。
「……ご、ごめん、僕ちょっとトイレ……っ」
吐き気でも催したのか 、蒼白な顔をした桐ちゃんが立ち上がる。口元を抑える彼の目は潤んでいて、苦しそうなのが一目瞭然であった。介抱しようと咄嗟に立ち上がろうとしたが、そんな私よりも早く動き出したのが、ハルくんだった。
「おい、学——」
ハルくんが桐ちゃんの右手を掴む。
「うるさいな、離せよ!!」
そこには、ハルくんを拒絶する桐ちゃんの姿があって。
本当にそこにいるのが桐ちゃんなのか信じられないくらい思い切り手を払いのけられてしまったハルくんは、ただ呆然とそのままの形で立ち尽くしていた。自分のしたことに動揺しきってしまったのか、どこかおかしい桐ちゃんは、この場から逃げるように部屋を飛び出して行ってしまった。
「追いかけないで良いんですか?」
「…………良いんだよ、あんなの」
ドアの方を一瞥したハルくんは、直ぐに私たちへ向き直って、へらりと笑った。
違う。ハルくんは笑っているけど、笑っていない。
きっと、ものすごく傷ついている。
あんな風に拒絶されて、しかもその相手が普段から大人しくて優しい桐ちゃんだなんて、傷つかないはずがない。
こうなってしまったのは、きっと私の発言した言葉に原因があったんだ。何が駄目だったのかは分からないけど、私がそれを言うまでは、普通であったのだから。仲の良い二人が、突然こんなことになるなんて、どう考えてもおかしい。
……いや。本当にこれは、突然、なのだろうか……?
「ねぇ。もしかして、ハルくん、桐ちゃんと何かあった……?」
「あ? 別に、何もねえよ。心配すんな」
「でも……さっき目があったとき、変に逸したでしょ?」
何かがあったのなら、教えてほしい。絶対に私を笑わせる、とハルくんが言ってくれたのなら、私も、ハルくんを心から笑わせてあげたい。そんな偽りの笑顔じゃなくて。傷ついている顔なんて、みたくない。
「だから、何もねえって言ってるだろ……!」
「っ……う、嘘よ、二人とも絶対なにか隠してる! 急に大声で名前呼んでまでして私を黙らせて! 私はただ、定期試験の話を——」
話が拗れる程、身体が熱くなっていう事をきかない。
何かを隠しているのは、私も同じなのに。最悪だ。本当に、最悪だ。
「ッ……学は何にもやってねぇよ! 俺は、あいつを信じてるんだ! お前らは疑うかもしれねぇけど、俺はあいつを絶対に信じてる、あいつは悪くない! そうだろ、俺!」
ハルくんの怒鳴るだけ怒鳴った言葉の最後は、自分自身に向けられたようなものに変わっていて。
自分の部屋で頭冷やしてくるわ。バツの悪そうに吐き捨てたハルくんは、ビーフを抱いて立ち去って行っってしまった。
「……居心地、悪る。お風呂行ってくるわ。じゃあね」
ばたり、と閉められる扉の音がする。蓮香が、出て行ったのだろう。
私は下を向いたまま顔をあげることができなかった。気を抜いたら、自分の情けなさに泣いてしまいそうだった。そうなったら、また純さんを困らせる。泣くなんて、卑怯だ。そう思う程、崩れてしまいそうだった。
「……ハルにはハルの焦りがあって、学には学の悩みがあって、貴女には貴女の想いがある。上手くいかないのは、当然ですよ」
ふと、頭の上が暖かくなって、顔をあげる。優しく頭を撫でる純さんが、居た。
「蓮香さんが出たら、お風呂に入って、温まって、眠ってください。きっと、ほのりさんの夢では皆が笑っています」
張った糸が切れたように、純さんにしがみついて、泣いた。
何かを隠すのも、隠されるのも、夏も、妹も、私も、なんだか辛いものが込み上げて、何に泣いているのか分からなくなるほどに。
純さんの暖かさは、優しい笑顔は、ハリボテでないと良いな。背中をさすられながら、思った。
- Re: 夏の秘密 ( No.22 )
- 日時: 2014/12/10 15:21
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: DIeJh8tY)
◆02 血脈
泣きながら嗚咽するほのりの背中を、大きくそしてゆっくりとさする。
困った人だ。
女というのは、昔から決まって情緒不安定な生き物だ。
迷っていたと思えば笑いだし、怒っていたと思えば泣きだす。それが女なのだから、いちいち驚いていたらきりがないのは百も承知だ。特に、このほのりという人間は、はたから見て一直線で素直な分、子供じみたところがあるから、どうして怒っているのか、どうして泣いているのか自分自身でも理解できていない可能性が高い。云わば赤ん坊みたいなものだ。そういう人間には下手な励ましは不要だ。ただ同調してあげるだけでいい。そうこうしているうちに、自分自身の力で案外落ち着きを取り戻すものだからな。
「……ありがとう、純さん。もう、大丈夫」
俺にしがみついていたほのりは、そっと身体をはなし、涙で濡れた顔をふわりと綻ばせていた。さっきまでわんわん泣いていたのが嘘のように、落ち着いた顔付きになっている。こうしてじっくり見ると、ほのりはその性格に似合わずどこか大人っぽい顔立ちをしているように思える。学校へ行けば女なんて腐るほどいるが、その誰よりも、とりわけ大人びている。まるで本当の成人みたいだ。
「そうですか。ほのりさんが元気になったみたいで、良かったです」
まだ涙で濡れているほのりの頬をハンカチで拭い、微笑む。
「純さんって、ほんと親切ですよね」
「いえ。そんなことは」
「親切ですよ。それに嫌味もないっていうか……どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
少なくとも昼間、こいつの血液をいただいたことの償いではない。
「そうすることに、理由なんていらないですよ」
もっとものは単純に、そうしていなければいけないから、やっているだけだ。
そうやって、俺は人に近づいて、人から血液を奪い、己の欲望を満たしていくだけの、醜いヴァンパイアだからだ。
それは俺が吸血鬼の息子として生まれてきた段階から定められている運命だ。人間と共存し、人間に優しく振る舞い、そして人間を欺くよう身体の芯からプログラムされている。優しくするのは欺くための単なるプロセスに過ぎない。そのように「強いられた思いやり」を本物の思いやりと呼べるかどうかは知らんが、少なくとも俺はお前のために親切心を働かせているのではないことは、事実だ。
- Re: 夏の秘密 ( No.23 )
- 日時: 2014/12/11 00:44
- 名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: WoqS4kcI)
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平静を取り戻したほのりは、ハルくんに謝ってくる! なんて、居間を飛び出していってしまって。つくづくズレた女だと思わされる。少し一人にしておこう、とか、思わないのだろうか。自ら厄介ごとに首を突っ込んでいき、上手くいかなければ動揺する。平たく言えば馬鹿のすることだ。
だが俺は、そんな馬鹿な人間が嫌いじゃない。
寧ろ好きな方だ。
この世に存在する全ての人間が優秀であったら、それは非常に住みづらい世の中になっていると思う。適度に馬鹿が散りばめられているからこそ、優秀な人間が力を発揮できるのだ。そういう面では、馬鹿は世界の潤滑油だ。
そして、ほのりのような馬鹿な人間がいるからこそ、円滑に血液を頂戴することができるのだから、吸血鬼としてもそんな馬鹿には感謝をしなければならない。
誰もいなくなり、がらんとした居間に胡坐をかく。窓の外から鈴虫の音が届いてきて、自然とリラックスできるような気がした。
良く考えれば、こうも長く人間と接したのは久方ぶりじゃないだろうか。これは想像以上に、精神的に疲労がたまる仕事だ。
思い返せば、そもそも俺がハルに合宿に誘われたのは、ほのりのついでみたいなものだった。ハルは隣の席だったほのりを誘ったついでに、後ろの席だった俺にも声をかけただけの話だ。ほのりを誘ったこと自体気まぐれだったようだから、その気まぐれのついでだなんて、俺に対する思い入れはかなり少ないはず。そう考えるとあまり良い気はしない。まあ、結果として参加すると俺が自分で決断したのだから、ハルを責めるのは筋違いというやつだろう。合宿に参加すれば人間の血液をいただき放題かと思ったのが、運のつきということだ。実際は想定していたよりチャンスはないし、かえって俺が吸血鬼であることを隠す方に労力を使ってしまう。
しかし明日以降はどうなるかまだ分からないから、ここで見切りをつけてしまうには、まだ早いのかもしれない。「人間」として友達ごっこに付き合うことも、一つの社会勉強だからな。悪いことだけではないはずだ。
——それにしても。
学は大丈夫なのだろうか。
ほのりはハルのところへ行ったようだが、ハルよりも、気になるのは学の方なのではないだろうか。彼女はそこまで考えていないのだろうが。
俺はハルが言っていたほど、学のことを弱い男だと思ったことは無い。単純に差ほどの関わりがないから分からないというのもあるが、それでも、学がここにいる誰よりも地道で努力家なことに間違いはないと思う。そうでなければあれだけの成績を維持すること、そして惜しみもなく他人に勉強を教えてあげることなどできるわけがないだろう。そういう側面を見れば、100%駄目な男という評価はできないかと思う。
しかしあいつが身体的に軟弱者であることは、誰がどう見ても事実だろう。
心配するほどまでではないが、気にかかると言えば気にかかる。
——カチャ
ふと、表の縁台の方から物音が聞こえて、咄嗟に立ち上がる。まさかそこに人がいるわけがないだろうが、人間の集団の中に身を置いているという状況から些か神経が過敏になっているようだ。胡坐なんてかいているところを見られたら、作り上げてきた俺のイメージが崩れ落ちるからな。気を抜けない。
野良猫でも尋ねにきたのだろうか。
物音の正体を確認するべく、そして外の空気を吸い込むために、居間の障子を勢いよく開いた。
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