コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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夏の秘密 【12.14 ファジーへ引っ越します】
日時: 2014/12/14 16:39
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: WoqS4kcI)

 
 誰にでも、絶対に知られてはいけない秘密は存在する。
 例えそれが、親友であっても、恋人であっても、家族であっても。

 なぜ知られてはいけない?
 その答えだって、鍵をはずすことはできないのだ。

 これは、己を守り抜く、夏の戦い。


 

*******************
こんにちは。まーにゃと申します。
今は冬ですが、舞台は夏の小説です笑
コメディなのかシリアスなのか、非常に曖昧で迷ったのですが、こちらに投稿しました。
ぜひお時間のある際に、ちょろっと読んでみてくださると嬉しいです。
感想などもしありましたらよろしくお願いいたします。

◆訪問数100達成ありがとうございます。

◆全体的に少々描写の追加訂正を致しました。(12.14)


◇引っ越しのお知らせ >>28

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Re: 夏の秘密 ( No.9 )
日時: 2014/12/13 23:39
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: WoqS4kcI)

 くじ引きで食事担当が決まってから、蓮香たち三人はすぐに夕飯の材料の買い出しへ行ってしまった。午後にかけて増々気温は上昇していくだろうから、これ以上暑くならないうちに、ということだった。確かに、ここへ来るまでも既に相当暑かったわけだし、賢明な選択だと思う。
 取り残された私と純さんは、出かける直前にハルくんが案内してくれた台所へ入り、冷やし中華の具だけ取り敢えず先に用意しておくことになった。
 この家の人は日頃あまり料理をしないのか、台所の電球は切れかかっていて、薄暗い。それだけでなく、換気扇はあるものの窓がないため、開放的な居間と対照的にじっとりとした嫌な空気が漂っていた。恐らく隣にいる純さんも同じことを感じただろうけど、人の家に文句をつけるのは常識的にどうかと思うし、純さんは常識的だから、そういうことを言わないのだと思う。蓮香あたりだったら、ずばりと文句を言いそうな気もするけれど。

「それじゃあ、純さん。早速野菜、切っちゃいましょうか!」
 冷蔵庫から野菜を取り出し、台の上へ移す。
 純さんは、人と違って瞳の色が紅い。もしかしたら、外国の血が入っているのかもしれない。背も高くて、さわやかで、安心できるから多くの女の子の憧れだと思う。本気で純さんを好きな子も、きっとたくさんいのんだろう。そんな純さんと二人で料理を作るなんて、なんとなく嬉しい。
「いえ。ほのりさんは座っていて結構ですよ」
 そう言ってきた純さんは、無理やり私を近くの椅子まで引っ張って、優しい顔で微笑んでいた。
 ……へ?
 いきなりのことで整理がつかず、まぬけにも「ストン!」と尻餅をつくように椅子に腰を落としてしまった。

 これは彼の親切心なのだろうけど、私だってクジで決まってしまったのだから、全てを純さんに丸投げしてしまうのは気が引けてしまう。それに仮にも女なのだから、男の子に料理を全部やらせて、隣で黙って座って見ているだけなんて、いけないと思う。いや。それとも純さんは、私みたいなアホ女には、料理なんてさせられないとでも思ったのだろうか。だとしたらショック……。私だって、これでも一応、趣味程度だけど台所に立ったりしているのに。
 それに。純さんには、さっきのお礼もまだしていない。ハルくんのお爺さんの肩を掴みそうになったとき止めてくれたこと。あのとき純さんが止めてくれなければ、ハルくんのお爺さんを怒らせてしまっていたかもしれない。もっと気まずい空気にしちゃっていたかもしれない。純さんが止めてくれたから、今こうやって合宿もスタートできたのだから、感謝しなきゃいけない。

「やっぱり私も手伝います!」
 悶々とするのは耐え切れない。純さんがボケっとしているうちに、彼が今まさに用意をしていた包丁を強引に奪い取ってしまった。(危険なので良い子は真似してはいけません)
 ……痛っ!
 勢い余って手の甲を少しだけ切ってしまったけど、流れるほどの血はでていないから、見て見ぬふりをしておいた。
「あっ……」
「私も当番なんですから! 手伝わせてください!」
 ちょっと口調を強くしてしまったせいか、純さんは驚いた目を見せていた。
 無理やり包丁取り上げちゃって、悪いことしちゃったな……。で、でも、純さんだって一人で作るって決めちゃって、ちょっぴり悪いんだから、お互い様! うん!
 目の前にあるきゅうりを切ろうと意気込んだところ、純さんが何か言った気がしたが、よく聞こえなかった。空耳かな? 純さんを見ると、彼の視線はどこか定まっていなかった。



「それじゃあ私、野菜切るので、純さん、卵つくるのお願いしても良いですか?」
「……あ? え、ああ……」
 先程から妙に落ち着きがない純さんに卵をお願いすると、これまた余所余所しい返事が戻ってきた。どうしたって言うんだろう。急に。もしかして、冷やし中華好きじゃないのかなあ? いやいや、そんなまさか。
 切れかかった電球特有の音と、換気扇の音、それと野菜を切るまな板の音だけが響き渡る。話しかけても、どうも会話が続かず(というか純さんがあまり聞いてくれない)、淡々と時間が流れた。薄暗い部屋でこうも静かだと、先程まであんなに暑かったのが嘘のように、涼しくなってくる。涼しくというより、冷ややかといった方が正しいだろうか。

 私は、暗い場所が嫌いだ。こういうところにいると、昔見たアニメを思い出す。
「小さい時に放送していたアニメなんですけどね、主人公がお友達とトランプをしていたら、突然停電になってしまったっていう話があって」
 無言になると怖いので、気づいたらそのアニメの内容を口にだしていた。
 純さんは聞いているのか分からないけど、私は話を続けた。
「そうしたら、その主人公、暗闇でお友達に首を噛まれて、殺されてしまったんですよ」
 当時幼かったというのもあるけど、アニメの内容に衝撃を受けて、泣いてしまった程だった。だからこそ今でも記憶に焼きついて消えない。そんな怖い記憶も、純さんと共有できたら、少しは怖くなくなるかもしれない。そんな期待も少しあった。

「なんとそのお友達、実は吸血鬼だったんです……!」

 あっ!
 手元が狂い、切っていたトマトの赤い汁が、純さんの顔に向かって飛び散ってしまった。
「わっ、ごめんなさい!」
 慌てて布巾を取ろうとした瞬間だった。
 ガチャン!
 天井の方から重たい機械音がしたと思ったら、切れかかった電気が完全に切れて、換気扇まで働くのを止めてしまったのだ。「て、停電?」突然にして光を奪われ、思わずどきりとした。
 何も、あのアニメを思い出した直後に停電にならなくても……勘弁してよ。
「純さん、大丈夫ですか?」
 どういうわけだか、その質問に返答はない。
 そしてこれが、私の意識の最後となった。

Re: 夏の秘密 ( No.10 )
日時: 2014/12/09 19:16
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)

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 ——お姉ちゃんなんて、死んじゃえ!
 真っ赤に目蓋を腫らした妹のほのかに、力いっぱい枕をぶつけられたところで、夢から醒めた。

 ぼんやりと霞む目に、だんだんと天井の木目の色がはっきりと映ってくる。涼しい風が頬を横切った。扇風機、だろうか。身体には薄いタオルケットが一枚かけられていて、その柔らかさには懐かしさを覚える程であった。一方身体は、海水を吸った砂を纏っているみたいに重くて。上半身を起こすことすら難しく感じた。
 額にひんやりとした感触を覚えて、手で触ってみる。それは冷水に濡れたタオルであった。
「あ……ひ、広井さん、目……覚めました? 暑さで、気を失ってたんだよ」
「ん……桐ちゃん……?」
 やっとの思いで身体を起こすと、夕飯の買い物に出かけたはずの桐ちゃんが、私の顔を覗き込んでいて、心配そうに、それでいて安心したようとも取れる笑顔を見せてきた。タオルケットをはだけさせようとすると、まだ安静にして、と言われてしまった。

 私……どうしちゃったんだろう。確か、純さんとお昼ご飯を作っていて……。
 お昼ご飯……?

「あああああ!!!」

 冷やし中華のイメージが即座に浮かんできて、この夏一番の大声が出てしまった。そのせいで桐ちゃんは動悸でも走らせてしまったのか、胸に手を当て咳き込み始める。どうしたの、急に。そう聞いてきた彼は、涙目だ。
「ご、ごめん! 冷やし中華、作り途中なの思い出して! お腹空いたでしょ? 今すぐ作るから……っ!!」
 そういえば、くじ引きでご飯作りを担当することになり、純さんと冷やし中華を作っている最中だったんだ。純さんから包丁を取り上げて、野菜を切っているときに停電になったところまでは覚えているのだけど、それ以降のことが全く思い出せない。
 とにもかくにも、早く手伝いに行かないと、純さんに迷惑がかかってしまう。それに、皆だってお腹を空かせているはずだ。こんなところで寝ているわけには——。

「落ち着いて。斉藤君が作ってくれて、もう皆食べたから……」
「え?」
 時計を見ると、既に時間は15時を回っていて。そこで初めて、私が2時間以上も寝てしまっていたという事実に気がついた。
 結局、私は純さんに任せきりにしてしまったのか。
「斉藤くん何も怒ってなかったし、気にすることないよ」
 桐ちゃんは気をつかってそう言ってくれたが、それでもやっぱり少しショックだった。夕飯は必ず、美味しいご飯作らなくちゃ。まだ思うように力の入らない拳を握って気合いを入れた。


「そう言えば、他のみんなは?」
「あ……ハルは食後の運動って言い出して……結構前にテニスに行ったんだ」
 斉藤くんを無理やり連行してね。一拍空け、桐ちゃんは苦笑しながらその言葉を付け加えた。純さんも、すっかりハルくんのペースにのみ込まれつつあるんだなあ……ははは。
「蓮香も一緒に?」
「いや、前田さんは……居間で、僕が貸したCDを……聴いてて……」
 その返事は予想外だった。桐ちゃんが無類の音楽好きだというのはハルくんから聞かされていたから知っていたし、蓮香も学校の休み時間によく音楽を聴いていたのを見たことがある。でも二人ってCDを貸し借りするような仲だったっけ? お昼を食べているときに、音楽の話題でも膨らんだのだろうか。
 案外この合宿は、元々そんなに接点のない人同士が仲良くなるきっかけにも、役立っているのかもしれない。ハルくんと純さんも、よく考えれば、そうだ。
「ふうん。私が起きなければ、蓮香と二人きりだったのに。お邪魔だったかな? あはは」
「へ!? いや、そんなこと……っ」
 慌てた様子で赤面する桐ちゃんに、心が和んだ。
「ごめんごめん、冗談。さーてと、私も何か軽く食べようかなー」
 からかわないでよ、と、珍しくちょっぴり不満そうにする桐ちゃんを尻目に笑って、私は荷物を纏めた部屋へ向かうことにした。

 健康保険証……もっとしっかり隠しておこう。

 今回はこの程度で済んだけど、もし何かあったときに、病院に届けるとかで保険証を見られてしまったら大変だ。
 当然ながら誕生日も記されてしまっているそれを、どこに隠そうか。廊下を歩いているとき、そのことで一杯だった。

Re: 夏の秘密 ( No.11 )
日時: 2014/12/09 19:51
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)

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 ここに隠せば大丈夫かな……。
 健康保険証を、鍵つきの日記帳の最後のページへ挟む。両親が死んだ苦しみが少しでも和らげばと思い始めた日記だったが、毎日つける習慣が未だ抜けなくて合宿にまで持ってきてしまったのが、役にたった。財布に入れておいたままでは何かの拍子に見つかってしまいそうでもあるけど、鍵のついたこれに隠せば見つかることはそうそうないだろう。できるだけ、予想できる危険は予め避けておきたい。なにしろ、これから2週間みんなと暮らすのだから。

「ほのりさん、起きたんですか」
「わっ! 純さん!?」
 突如背後から聞こえた声に、心臓が突き抜けそうになった。
 首の骨でも外れそうな勢いで振り向いた私に、そんなに驚かないでくださいよ、と、純さんはあっけらかんとした様子であった。
 び、びっくりした……。まさか保険証隠しているの、見られてないよ、ね……?

「なななな、な、なんか、見ました!? 私、別に何も隠したりしてないですよ!!」
「は、はい?」
「そそ、その、テテ、テニスはもう帰ってきたんですね!」
「……ほのりさん?」
「あっいや! てっさっ、さっき、あの、本当ごめんなさい! 夕飯はちゃんとやる、夕飯!」
「いえ。気にしないでください。それより——」
「あああああ! 蓮香と桐ちゃんなら別の部屋にいます!」
「いや、そうじゃなくて、今、何も隠したりって——」
「あああああ!! それ、いえ、なんでもない! それ間違いです! その、そう、コマネチ! コマネチの練習していて、あっ、見られちゃったかなぁー、なんて! あはっ、あはは!」

 どきどきと脈打つ鼓動はそう簡単に落ち着きを取り戻せるはずもなく、起きたての身体には強い刺激だったようでめまいすら覚えた。ごまかす為に、咄嗟にかなり苦しい言い訳をしたが、自分が上手く笑えているのかどうかも判断することはできなかった。純さんはというと、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、こっちを見ていて。
 やっぱりこの言い訳は無理がありすぎたか……?
 絶対絶命とも思ったとき、だった。

「っ、くく、くくく……はははは!」

 純さんが堪え気味にくすくすと笑い始め、やがて遠慮なく笑ってきたのだ。そしてそれのみならず、私の頭に手を乗せて、くしゃくしゃと髪を撫で回してきたときた。いつもの純さんらしくないこれには、まるで狐につままれたような気分になった。
「な、なんですか急に、そんなに笑わないでくださいよ、もう」
「あははっごめんなさい、つい、面白い子だなぁ、って」
 変に疑われた様子もなさそうだし、良かったのだけど……。それにしても、そんなに笑わなくても良いじゃない。まあ、結果オーライか。
「とにかく、貴女が無事なようで、良かったです」
 優しい声を出す純さんは、もういつもの紳士的な彼に戻っていて。彼の真剣な目を見たときに、一斉に顔が熱くなった。コマネチ練習してる、とか、純さんに思われてしまった。嘘を隠すための嘘とはいえ、もう少しまともなものを考えられなかったのか、私は!
「それじゃあ、ハルもシャワーを浴び終わる頃だろうから、交代してきますね」
 部屋を去るときの振り向き際。「練習、頑張ってください」なんて、ちょっぴり悪戯に笑って八重歯を見せてきたものだから、ますます恥ずかしくなった。

Re: 夏の秘密 ( No.12 )
日時: 2014/12/09 20:14
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)

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 台所へ向かうべく一階に降りつつ、先程の純さんの悪戯っぽい顔が浮かぶ。それを振り払いながら、溜息をついた。ああ、本当、もう少し可愛い言い訳をすれば良かったな……。そもそも言い訳をすること自体がよくないことなのに、その内容に対して後悔しているなんて、かなりずれていると自分でも思う。それでも、あの言い訳はあまりにも最悪だったと、冷静になった今思わざるを得なかった。
「……」
 階段を降りきり、暫く考えごとをしながら、冷たい廊下を歩く。その間どこかへ意識が散歩に出かけてしまっていたのだけど、不意に居間から出てきた誰かとぶつかり、目が覚める。
 蓮香だ。
 ぶつかったときに、蓮香が持っていたのであろうCDが廊下へ落ちて蓋が開いた。
「わっ、ご、ごめんね蓮香。ぼーっとしていて」
「いえ。大丈夫よ」
 それより具合はもう良いの、CDを拾いながら聞いてきた彼女に、完全復活です、なんてわざとらしく元気な声で答えた。
「それが桐ちゃんに借りたっていう噂のCDね。良い曲だった?」
 オレンジや黄緑を基調とした奇抜な柄のそのCDジャケットは、ショップやテレビのCD売上ランキングリストに並んでいたのを見たことがない。もしかしたら、マイナーなものなのかも……。
「学くんって幽霊みたいなくせに意外と良い趣味もってんのね」
 薄く笑いながら言った蓮香のその台詞は、私の質問への答えの代わりだろう。どうやら蓮香はこのCDが気に入ったらしい。率直にそう言わないところが、彼女らしくてどこか微笑ましいかった。

 さてと。
 純さんがシャワーから戻ってきてしまう前に、夕飯の下ごしらえを始めなくては。昼食のときにはみんなに迷惑をかけたから、今度は私が美味しいご飯を作ってお詫びしなくちゃいけない。
 またあの薄暗い台所へ一人で行くのは少し気が引けるけれど、そんなことを言っている場合ではないはず。
「夕飯こそは私もちゃんと作るから、たのしみにしててね」
 蓮香に言い残して台所へ向かおうとしたときだった。
「あのさ」
 突然手を掴まれたから、驚いて足を止める。
「大丈夫なの? あんた」
 訝しげな顔を見せる蓮香の質問の意味が分からず、首を傾げた。具合のことを言っているのかな。でもそれなら、さっき言ったはず……。
「具合のこと? 本当にもう大丈夫。心配かけてごめんね」
「違うわよ。斉藤くんの話」

 純さんの話?
 溜め息混じりに言う蓮香は呆れたような顔つきである。 
「あの人、やっぱ何か変よ」
「純さんが? 特に私はおかしいと思わないけど……」
 確かに、昼食作りをしているときは何だかそわそわしていて、いつもの純さんらしくはなかった。だけどさっきの純さんは、優しくて親切な、いつもの彼にもどっていたのを私は知っている。蓮香のいう、変、とはなんのことを言っているのか良く分からなかった。
「まったく……。貴女みたいに、素直すぎるやつが狙われんのよ」
「狙われる、って?」


「殺されたりして」


 蓮香の真顔を見たとき。
 まるで背中とシャツの隙間から氷の塊を落とされたような、冷たく、身の凍る感覚が一瞬にして全身を走った。
 動揺して、視線が泳ぐ。
 どうして、この子はそんなことを言うのだろう。
 どういうつもりで言っているのだろう。
 楽しくも、悲しくもない、その顔にある気持ちは何なのだろう。
「冗談よ」
 口元だけ笑った蓮香は、それじゃあ夕飯期待してるわ、それだけ言って二階へ向かって歩いて行ってしまった。
 ……冗談、か。素直にそう思わせてくれる様子を見せない蓮香の後ろ姿に、私はただ立ちすくむだけで、未だ薄い寒気が消えなかった。

Re: 夏の秘密 ( No.13 )
日時: 2014/12/09 20:41
名前: まーにゃ ◆znJHy.L8nY (ID: oOaw6UvZ)

 桐ちゃんに看病され、純さんに秘密を見られそうになり、蓮香におかしなことを言われ——この流れを辿り、そろそろハルくんに会いそうな気がしていたが、早速予感は的中してしまう。
 蓮香が私のもとを去ったすぐ後に、今まさにシャワーから出てきたばかりのハルくんがずいずいと近づいてきた。

 ——殺されたりして。

 蓮香に言われた強烈な一言をハルくんも近くて遠い場所から聞いていたらしく、彼女と仲が悪いのか、とか、喧嘩をしているのか、とか、女の争いを繰り広げているのか、とか、色々心配をされたのでソフトに否定しておいた。
 決して蓮香と仲が悪いと思ったことはない。だけど、仲が良いとも言い切れない。
 私は彼女のことをそれほど良くしらないし、知る機会もあまりなかったから。きっと彼女も私のことをそう思っているだろう。それは、蓮香だけに言えたことではない。純さんや桐ちゃんのことだって、深く知っているというわけではないのだから。そう、ハルくんのことだって、知らないことだらけだ。
 みんなの距離を縮めて思い出をつくるための合宿、とハルくんは言うけれど、本当のところ、思い出をつくれるのか疑問がのこる。そもそも思い出ってつくろうと思ってつくるものなのかな。
 みんなと仲良くなりたいけれど、そこにいつも引っかかるのは“秘密”のことで。
 みんなを騙し続けている私に、みんなと仲良くなる資格なんて、あるのだろうか。それを考えると、適当にやり過ごした方が良いのか、なんて考えすら浮かんできてしまって。それは、この合宿を企画したハルくんに傷をつけるような行為で、居た堪れない。
 私は、何がしたくて高校へ入学したのだろう。何がしたくて、この合宿へ来たのだろう。

「そーだ! 良いこと考えた!」
 パチン、と指を弾きながら、ハルくんがにんまりと笑う。
「みんなの家に家庭訪問に行こうぜ! 仲間の家族を知ることも大事じゃん? 本人が恥ずかしくて言えない失敗談とか、おもしろいこと家族が教えてくれるかもしんねぇよ?」
 何を言い出すかと思えば、とんでもないことで。それはもう、爆弾を投下されたようなもので。蛇の巣に蛙をプレゼントするようなもので。
 ——あなたと同じ歳の妹がいる私の家に、どうして招待できるのだろう。
 続けざまにハルくんが嬉しそうに、嘗て目の前を通り過ぎたことのあるという純さんの家(豪邸らしい)の話をしている。
 その頃私は、どんな言い訳をして断ろうか必死に考えていたのだけど。

 また、言い訳か。


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