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魔術剣士と白き剣(第二章開始)
日時: 2015/08/26 07:22
名前: 宇佐悠兎 (ID: SDJp1hu/)

 まず最初に、はじめまして。宇佐悠兎(うさゆうと)といいます。

 クリックして閲覧いただきありがとうございます。
 この作品のタイトル、最後の『剣』は『つるぎ』と読みます。『けん』じゃないので、よろしくお願いいたします。

 タイトル通り『魔術』と『剣士』、そして『剣』もテーマになっていきます。基本的に文中に読み方は書きませんが、作中の『剣』は『けん』とお読みください。ややこしくてすいませんm(_ _)m

 では次から始めます。
 すぐ書けると思いますので、少々お待ちを。


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Re: 魔術剣士と白き剣 ( No.7 )
日時: 2015/01/27 02:51
名前: 宇佐悠兎 (ID: KCZsNao/)



 6


 本や二次元でしか見たことがない世界に圧倒される龍久と椎菜。
 それもそうだ。二人が今見ている光景は現実世界では到底見ることが出来ない景色なのだ。
 お嬢様やお坊ちゃまでも見れば言葉を失ってしまいそうな、左右に広く伸びる綺麗で清潔感のある大きな校舎。その校舎の玄関までは一〇〇メートルほどありそうな煉瓦の道が続いている。ちゃんと整備されているのか、土足で歩くのも恐れ多いくらい煉瓦の道も綺麗だった。
 煉瓦の道を左右から囲むのは綺麗な緑系の色の草が生い茂る広大な草原。何故か一人の小さい女の子が愛犬である大きな犬と戯れている光景が浮かびそうだ。草原の奥には大きな草が生い茂っている。森とでもいうべきだろうが、その森にさえも吸い込まれてしまいそうな神秘的な魅力を感じる。
 澄恋が開けた門の門柱に『私立茉莉花統剣学園(しりつまつりかとうけんがくえん)』と書かれた看板があった。おそらくこの学校の名前なのだろう。
 目の前の光景一つ一つに目を奪われていると、澄恋が二人の肩をちょんちょんとつついた。
「気持ちは分かるけど、景色はあとで存分に堪能できるわ。それよりも、二人には会ってほしい人がいるの」
 澄恋の声で現実世界に戻された二人は、彼女の後を追って綺麗な煉瓦の道を歩いて行く。
 龍久や椎菜としては、分からないことが連続して起きているため、今すぐにでも澄恋に問い質したいのだが、おそらく今から会いに行く『会ってほしい人』に聞け、とでも言うのだろう。
 龍久も椎菜も返答が予想できたので、今はその質問を胸の奥に留めておく。その代わりに龍久は別の質問を投げかけた。
「静河先輩、その会いたい人って一体どんな人なんですか……?」
「一言で言うなら個性的よ。自称〝図書室の主〟なんだけど、生徒たちの間では〝図書室の座敷童〟と呼ばれているわ」
 ますます分からなくなった。
 てっきり学園長的な人と会うのかと思っていたが、そうでもないらしい。座敷童、ということは小柄なのだろうか。大人だけど子供っぽい容姿なのか、子供なのに大人っぽい雰囲気なのか、その〝図書室の主〟がどんななのか興味が出て来た。
 澄恋は玄関で靴を履き替えると、二人にここで待つように指示して学園の中へと入っていく。戻ってきた澄恋が持っていたのは来客用のスリッパだ。持ってきてくれたらしい。
 龍久と椎菜はスリッパに履き替えて、無言で歩く澄恋の後をついていく。
 彼女は先生方がいるであろう職員室や理事長室などを素通りして、一度校舎から外に出た。校舎の東側には屋根付きのコンクリートでできた道があり、その道の先には円筒状の大きな建物が聳え立っていた。およそ三十メートルはありそうな円筒状の建物へと、澄恋は迷わずに歩いて行く。
「あ、ちょっと……もしかしてこれが図書室? 嘘だろ!?」
「真実よ。この学園の図書室は本の数がやたらと多くてね。理事長の収集癖が原因らしいけど」
「……それって大丈夫なのか……?」
「でも、この建物九階分くらいあるよ? 本の数も、千や二千じゃ済まないかも……」
 椎菜が苦笑いしながら言う。
 澄恋が顎に手を添えて思い出すような口調で、
「……えーっと、確か億近いとか言ってたような? あれ、億は超えてるっけ? うーん、憶えてないなあ……」
 澄恋も大体の本の数はおそらく主と呼ばれる人に聞いたのだろう、うろ覚えだが億前後ということにしておこう。
 澄恋が図書室の思われる円筒状の建物の扉の前に立つ。どういうわけか扉は本のような外装になっており、図書室らしさのアピールだろうか、扉が開くのを本が開くさまと錯覚させたかったのか、妙なところで凝っている。
 扉の上には『LIBRARY』と書かれた表札がある。他の部屋はどれも日本語だったのに、図書室だけ英語なのは何故なんだろうか。
 澄恋が扉をノックして中へ入る。中の光景を見て、龍久と椎菜はさらに驚いた。
 ほんのりと灯る明かりに、照らされたシックな空間。中ももちろん円筒状だが、中は九階分に分けられており、各階に設置されている本棚にはびっしりと本が敷き詰められていた。
 本の冊数が億前後というのも納得できる。そもそもこれだけ多かったら数えるのも相当苦労するだろうな、と龍久は引きつった笑みを浮かべていた。建物の中心、一階部分には木製の地球儀型の巨大なモニュメントがあった。大きさにして二階に到達するくらい大きい。その地球儀はゆっくりと回転しているのが分かる。驚いたのは、その地球儀が浮いていることだ。どうやって動いているのだろう。
 図書室、という空間に驚いている龍久と椎菜を他所に、澄恋はここにいるであろう人物を呼ぶ。
「シャーロット! シャーロット、いるんでしょう? 出てきなさいよ」
 図書室では静かに、というのがマナーだが今はそれはどうでもいいらしい。大声で呼び続けていると、
「……なんじゃ、騒がしいのぅ……わらわの眠りを妨げるとは……」
 眠たげな声が、地球儀の方から聞こえてきた。尊大な話口調だが、幼さを残した少女の声に、違和感を感じずにはいられなかった。
「……またそんなところに……落っこちても知らないわよ?」
「くく、ほざけ。わらわがそんな失態をすると思うか? ここはわらわの部屋だ。落ちることなどないわ」
 地球儀から黒い影が飛ぶ。その影は龍久たちの前で軽やかに着地する。
 その人物の背は椎菜よりも低く、一五〇センチ前後といったところだ。ネコ目で大きな瞳が余計に幼さを際立たせている。うなじ辺りでまとめたツインテールもその要因の一つだろう。
 ツインテールにまとめている髪は金髪で、くすみ一つない綺麗な髪は、日本人ではないような印象を与えた。
「で、こいつらは一体何じゃ?」
「突然で悪いんだけど、この子たち。ちょっと見てもらえる? 多分特殊な子らだから」
 ふむ、と少女は腕を組んで二人をじっと見つめた。
 と思いきや、何かを思い出したような表情をすると、胸に手を当てる。
「自己紹介を先に済ませておこうか。わらわはこの学園の〝図書館の主〟ことシャーロット・メリア。気軽にシャロと呼んでもよいぞ?」
 少女の見た目で、八重歯を見せながらニッと怪しげな笑みを金髪のツインテールでネコ目の少女は見せた。

Re: 魔術剣士と白き剣 ( No.8 )
日時: 2015/02/07 02:15
名前: 宇佐悠兎 (ID: KCZsNao/)



 7


 自己紹介を済ませたシャーロットは、胸に手を当てたまま自信ありげな笑みを浮かべながら誰かからの言葉を待っている。
 どうやら自分でもカッコいい自己紹介が出来た、と自信を持っているのだろう。それに対してのリアクションを期待してるらしい。ただその意図を理解できていない龍久と椎菜は互いに顔を見合わせ、意図を理解している澄恋は溜息をついた。
 ただ黙っているのは何故か申し訳なく感じた龍久は、迷うように視線を彷徨わせてから、
「……えっと、紅月龍久です。どうも」
「……あっ、か、香椎椎菜ですっ!」
 龍久とは対照的に椎菜はぺこっと頭を下げた。期待していたリアクションが返ってこなかったのか、急に恥ずかしさを感じたシャーロットの顔が赤くなりぷるぷると震えている。
 澄恋はシャーロットの肩に手を置いて、
「……まあ、そういうこともあるわよ」
 フォローになっているのかなっていないのか、微妙なラインの言葉をかける。シャーロットはがっくりと肩を落として、素人の龍久や椎菜でも分かるくらいの負のオーラを漂わせている。
「……それで、わらわは何をすれば良いんじゃ?」
 すっかり元気を失くしてしまったのか、やる気の失せた声で澄恋に問いかける。尚も澄恋は口調も態度も全く変えることなく、
「二人の診断よ。普通の子じゃないと思うのよ」
「何を言うか。どこからどう見ても普通の——」
 二人を視界に捉えたシャーロットの言葉が途切れる。彼女の大きな猫のような瞳でじっと二人を見つめると、さっきとは一転、何かを感じたかのように目を細めた。
「——奴じゃないようじゃな。澄恋、奴らに『ある』と確信したのは何故じゃ?」
「……実は今日、ちょっといさかいがあって……ちゃんと結界張ったんだけど、中に侵入出来ちゃってたのよ、この二人」
 澄恋の言葉にシャーロットは顎に手を添えて考える。
「……静河の結界は完璧じゃ。それなのに侵入出来るとは……」
 龍久と椎菜には二人の会話の内容は何一つ理解できないが、なにやら重大な事を話しているらしい。そしてその話の香中には自分達がいるということもなんとなくではあるが理解できている。
「……ふむぅ、少し調べてみるか」
「……あれをやるつもり?」
「一番手っ取り早いからのう。そこの女の方、ちょっと前に出よ」
 シャーロットが椎菜を一歩前に出させた。シャーロットはゆっくりと椎菜に近づいて行き、彼女の目の前に立つと、舐め回すように椎菜の身体をじっくりと見つめる。椎菜の顔が少し赤くなっているので、よっぽど恥ずかしいのだろう。
「よい胸をしておるな。Cはあるじゃろ」
「何の話をしてるんですかッ!?」
 思わずツッコむ椎菜。
 龍久と話していた時の彼女のツッコミのキレが戻りつつある。龍久は聞こえないふりをしたが、心のデータバンクは『Cはあるのか』と自動的にインプット作業を終えていた。
「照れるな照れるな。少し緊張を解こうとしただけじゃ。少し苦しいかもしれんが、少しの辛抱じゃ」
 シャーロットが腕を伸ばす。彼女の指先は椎菜の胸元に触れる。そこからすぅーっと、シャーロットのの指の先から少しずつ椎菜の体内に侵入していく。痛みはない。だが、当の椎菜本人は何がどうなっているのか理解できていない。
「えっ!? なになに、なにこれ!? なんかのマジック!?」
 面白いくらいに慌てふためく椎菜だったが、次の瞬間椎菜の表情が一変する。
「……耐えろよ、香椎椎菜」
 シャーロットの言葉の後、椎菜の表情が途端に苦しそうなものへと変わる。
「……うっ!? あっ……ぐぅ、ぅあ……!」
 椎菜の口から苦しそうな声が漏れる。首を絞められている時のような声、とでも言えばいいのだろうか。喉の奥から絞り出しているような、声にもならない声。音ではなく吐息のように口から吐き出されている。
「……ぅ、ああっ!? ぃや……くる、し……!」
 椎菜の声にもならない呻きが響く。シャーロットが素早く手を引き抜くと、絃が切れたかのように椎菜は床に倒れ込んだ。
「香椎!? おい、平気か!?」
 龍久は倒れ込んだ椎名へと声を掛ける。
 倒れ込んだ椎名は呼吸を乱しており、身体から力が抜けているような気がする。顔色も悪いし、時折げほっげほっ、とむせている。
「おい、アンタ一体香椎に何を——」
「落ち着け、少年よ」
 シャーロットに食って掛かろうとした龍久を制するように、シャーロットは先ほどと同じように龍久の身体の中に手を親友させた。
「なっ!?」
「……ふむぅ、お! これか」
 途端、龍久にも苦しさが襲い掛かってくる。
 心臓を握られているかのような感覚。龍久の口からも、声にならない呻きが漏れる。
 シャーロットは龍久の身体の中で『何か』を掴みながら、
「……デカいな。相当な大きさじゃぞ、これは」
 感心したような声を上げるシャーロット。瞬間、シャーロットの表情が少しの驚きから、大きな驚きへと変わる。
 苦しんでいた龍久の手が、シャーロットの腕をがっと力強く掴んだ。苦しさで力の制限が出来ず、力んでいるだけかもしれないが、龍久はしっかりとシャーロットの腕を掴む。
「……なっ」
「……なにしてんだよ、アンタは……!」
 龍久がシャーロットを力強く睨みつける。
「……今、何をしてるんだ……ッ!?」
 シャーロットは素早く龍久の身体から手を引き抜く。龍久は床に倒れることなく、床に膝をついて呼吸を乱しながら、時々むせている。椎菜は割と回復したのか、まだ少し息が荒いが龍久に駆け寄り、彼の背中を優しくさすっている。
 シャーロットは二人の体内へと入れた手を見つめる。
 そんな彼女に澄恋が耳打ち知るように小声で話しかける。
「シャーロット、紅月くんさっき……」
「うむ、正直言ってわらわも驚いている。あのやり方は心臓を鷲掴みにされるような苦しさを味わうからな、あれをされている間はまともに身体を動かせんはずじゃが……」
 シャーロットと澄恋が同時に二人に視線を向ける。丁度龍久が椎菜に支えられながら立ち上がっているところだった。
「いやあ、すまんな。少々手荒な真似をしてしまった。今ので分かったことを発表しよう」
 わけが分からないまま、龍久と椎菜はシャーロットの言葉を待つ。
「紅月龍久、香椎椎菜の二人は『私立茉莉花統剣学園』への入学を認めよう! なに、学校側からはわらわが言っておく」

 ——こうして、二人は何も詳しく理解できないまま、とんとん拍子で話が進んでいった。

Re: 魔術剣士と白き剣 ( No.9 )
日時: 2015/02/15 01:50
名前: 宇佐悠兎 (ID: KCZsNao/)



 第二章 私立茉莉花統剣学園


 1


 ここで、話は物語の冒頭に戻る。

 ひょんなことから魔術剣士育成の学校に入学することになった龍久は、自分を驚かせた光景の前に再び立っている。
 どうやらここ一週間の間で、シャーロットは本当に龍久と椎菜の入学手続きを済ませたようだ。昨日、学校で澄恋から『明日から茉莉花に編入するから』と言われ、しかも寮生活などと言われ、用意を急いで済ませたのだった。
 どうやら家具などはあとから運んでくれるようで、今は必要最低限の衣類や日用品しか持ってきていない。
 澄恋からは待ち合わせ場所は初めてこっちに来た時の路地裏を設定されており、椎菜がまだ来ていなかったので、先にこっちに送ってもらったところだ。
 自分自身では元の学校では転入の手続きを済ませていない。その点に関しては澄恋も問題無い、と言っていたが、本当にそうなのだろうか。それはそうと、澄恋も転入という扱いになるのだろうか、と考えていると、
「うわっ!」
 背後から小さな悲鳴が聞こえてくる。
 振り返ると、龍久と同じようにパンパンに膨れたリュックサックを背負っている椎菜の姿があった。龍久と目が合うと、彼女は少し頬を赤くしてにはにかんでみせた
「よう、遅かったな香椎。もしかして、おばあちゃんの説得に苦労したとか?」
 椎菜は転校してきてから、祖母と二人暮らしになると聞いていた。もしかしたら孫の身を案じて、中々承諾してくれなかったのだろうか、と心配する。それはそうと、自分も親にはなんも言ってないなーと思いながら、説明するのも面倒なので、とりあえずは黙っておくことにした。
「え、ううん。おばあちゃんの説明自体はそんなに時間掛からなかったよ。えっとね、三分くらいで終わった」
 カップ麺出来んじゃねーか、と心の中でツッコミながら、よくそんな短い時間で済んだなー、と感心する。
 話を聞けば全ての事情を話し終わった後、おばあちゃんは『やりたいことをやればいいよ』と言ってくれたらしく、そこは助かったという。
 時間がかかったのは荷造りで、あれもこれもと詰め込んでいたら背負えなくなるほどの量になってしまい、減らすのに時間がかかったという。
「なんにしても良かったな。まあお前は二回目の転校か」
「うん。まさか私も一週間のうちに二度の転校をするとは思わなかった」
 などと話していると、虚空に浮かんでいる黒い穴から澄恋が出てくる。いや、正しくは『入ってきた』と言うべきなのかもしれない。
「……前にも思ったんですけど、これなんなんすかね?」
 龍久は未だ虚空に浮かんでいる黒い穴を指さしながら問いかける。椎菜も知りたかったようで、こくこくと頷いている。
「そうね……これは今のうちに教えておくか」
 澄恋は懐からカードのようなものを取り出した。掌で覆い隠せるほどの大きさのカードだ。
「一週間前は使わなかったけど、今回はこれを使ったのよ。これは茉莉花の生徒が外に行く際に学園から渡されるカード。簡単に言えば転送装置みたいなもの」
 一度使えばカードは消えてしまうため、外に出る際には行き用と帰り用で二枚渡されるらしい。今回は大目に四枚渡されたらしく、余った分はあとで学園に返却するようだ。
 行ける場所は自分が一度行った場所に限られるらしく、自分が行ったことがあるのならば、どこへでも転送できるらしい。ちなみに、学園は異世界にあるわけではなく、日本の森の奥底にあるが、それでは街に出る時にかなり不便なので、この転送装置が作られたらしい。
「へー、便利だな」
「見た目は何の変哲もないカードなのにねー」
 澄恋から見せられたカードをまじまじと見つめながら二人は言う。
 子供のような反応に小さく息を吐きながら、自らの子供を見るような慈愛に満ちた表情を浮かべる澄恋。関係を知らない人が見れば、今の三人は弟と妹を見守る姉のように見えるのだろうか。
「さて、そろそろ学園に行くわよ」
「あの、シャーロットさんは……?」
 椎菜が控えめに手を挙げながら問いかける。
 言われてみれば、彼女がまだ来ていない。澄恋と一緒に迎えに来ると思っていたのだが、澄恋は首を横に振った。
「彼女は来ないわよ。今も図書室の中よ」
「なんでだよっ!?」
 言ってみれば彼女のせいで龍久と椎菜はこっちに転校してきたようなものだ。彼女が勝手に決めなければ、龍久や椎菜もまだあの学校で過ごせていたかもしれないのに。
 澄恋から龍久の肩に手を置いて、彼に落ち着くように促す。
「しょうがないのよ。彼女には彼女の事情があるのよ」
「事情だぁ?」
 龍久は訝しむような口調で言うと、澄恋は小さく頷いた。
「私も詳しくは聞かされてないんだけど、魔術上の都合で彼女は学園の外には出られないらしいの」
 明らかに嘘っぽいが、文句を言っても来ない奴は来ない。今は澄恋の言葉に従う方がいいだろう。渋々といった様子で、龍久は椎菜と一緒に校門をくぐった。
「で、俺達は何をすればいいんだ?」
「まずは学園長さんに挨拶じゃないかな?」
「あー、今学園長いないのよねー」
「なんでだよっ!?」
 本日二回目の龍久のツッコミが炸裂する。しかしそう言った澄恋もやれやれ、といった様子で額に手を当てている。
「うちの学園長、放浪癖があってね。まともに学園にいたことないらしいのよ」
 オイオイ大丈夫かこの学校、と早速先行きが心配になってくる龍久。学園長がいない学校なんてあるのか、と思いながらも澄恋の先導に従って校舎内に入っていく。
 彼女がある部屋の前で足を止めた。その部屋には『応接室』と書かれている。
「学園長の代わりは、理事長が務めてるのよ。この部屋にいるわ」
 澄恋は二人にそう言う。
 理事長もさぞかし迷惑だろうなー、と思いながら中にいる男性か女性かも分からない人に同情の念を抱く。
「とりあえず、彼女への挨拶は済ませちゃいましょ」
 澄恋が応接室のドアをノックする。
「二年の静河澄恋です。紅月龍久と香椎椎菜を連れて来ました」
 扉越しに『どうぞ』と促される。声音から推測するに女性だ。それも年配の。女性だったのか、と龍久が少々意外に思っていると、澄恋が応接室の扉を開けた。

Re: 魔術剣士と白き剣 ( No.10 )
日時: 2015/02/28 03:07
名前: 宇佐悠兎 (ID: KCZsNao/)



 2


 応接室はとても重い空気に包まれていた。
 四角いテーブルを挟むように置かれたそれぞれ三人用のソファ。片方には龍久と椎菜、澄恋が座っている。もう片方には何故か図書室から抜け出したシャーロット、そして理事長と思われる女性が座っていた。
 肩のあたりで切り揃えられた薄い紫色の髪に、すべてを見通すような切れ長の目、顔には深いしわが刻まれており、女性の顔も整っているためか、そのしわが彼女の厳しそうな性格を表に出している。
 理事長と思われる女性はピンと背筋を伸ばし、龍久や椎菜も一目見て驚くほどの美しい姿勢だ。一方で彼女の横に座るシャーロットは足を組み、右腕をソファの背もたれの上に載せるという、ホスト顔負けのイケメンポーズだった。
 応接室の重い空気に龍久と椎菜、さらには連れて来ただけで直接的な関係はあまりない澄恋までもが緊張している中、姿勢を正そうとしないシャーロットを一瞥し、理事長は口を開いた。
「シャーロット、何ですかその姿勢は。だらしないですよ」
「そう固いことを言うな。学園長の奔放さを見習ったらどうじゃ?」
「あの人を見習っては学園が崩れます」
「お主は気を張りすぎじゃ。わらわはあの男の性格は結構気に入っておるぞ?」
 くくくっ、と小さく笑いながら返答をするシャーロット。
 理事長も何を言っても無駄なのを悟ってか、溜息をついた後再び龍久たちに向き直る。龍久たちも一段と背筋を伸ばし、相手に失礼のないようにしようと心に誓ったところで、
「あまり緊張なさらないでください。私はただあなたたち二人と話をしたいだけですから」
 理事長がそう言った。
 だが理事長の切れ長の瞳に見つめられては、緊張せざるを得ない。龍久と椎菜は頷くが、その表情はどこか恐怖の感情が潜んでいた。
 そんな二人を見て理事長は、
「……私の顔、そんなに怖いですか?」
「ぷっ、くくくっ……だから言ったであろう……気を張りすぎだと……!」
 シャーロットは手で口元を隠しながら、必死に笑いを堪えた声で言う。
 仕切り直すように理事長が咳払いをする。笑いを堪えているシャーロットの頭頂部にチョップをお見舞いし、黙らせてから話を本題に移した。
「では、まず初めに確認したいのですが、あなたたち二人は、本当に魔術剣士の家系ではないのですね?」
「……多分、違うと思います。親や祖父母からもそんな話聞いたことないし」
「……同じく、です」
 そもそも自分の家のご先祖様がどんな人かだったなんて、知ってる人の方が少ないだろう。だが、一般的には知られていない魔術剣士だったとしても、親はともかく祖父母は孫を喜ばせようと話してくれそうなものだ。
 だが、龍久も椎菜もそんな話はもちろん聞いたことがない。自分の家族ならば、口外しないように釘を打って話せばいいようなものなのに、二人は魔術剣士について初耳だった。
 理事長は二人の返答に、顎に手を添えて考え始めた。
「……では、偶然静河家の結界を破ったと?」
「理事長、それについてお伝えしたいことが」
 澄恋が遠慮がちに手を挙げる。理事長は視線で話すように促すと、澄恋は小さく頷いてから口を開く。
「……私、その時戦っていた、というのもあるんですが……結界内に誰か侵入した場合は、なんとなくそれが分かるんです。でも、二人の場合はそれがなくて……」
「ほう、それは面白いのう。結界に関しては右に出る者はおらん静河家の結界に侵入しただけでなく、それを張った術者に気付かれずに侵入するとは」
 シャーロットが口角を上げながら嬉々として言う。理事長や澄恋、龍久と椎菜までもが真剣な表情なのに対し、彼女は何処までも軽薄だ。
 そんなシャーロットを咎めるように、理事長が咳払いをする。
「まあ、その特異性は後々調べるとして、最後に問います。あなたたちは、これから魔術剣士になる——その覚悟は出来ていますか?」
 理事長の質問に龍久と椎菜がお互いの顔を見合わせる。
 正直、二人はなし崩し的にこの学校に入ったのだ。偶然二人の魔術剣士との戦いに巻き込まれ。結界に侵入したから、とこの学校に連れて来られ。図書室の変人にあれよあれよとこの学校にいきなり編入させられ。
 はっきり言って覚悟なんて整える暇もなかったし、やりたくもないことを無理矢理にやらされている状況に他ならない。
 だが、ここまで来ればもう引き返せない。思えば龍久は学校をやめる際も大して感慨はなかったし、むしろ学校の授業なんて寝るだけで聞き流しているのだ。
 変わり映えのない毎日に、少し嫌気が差してきたのかもしれない。
 それに、もし一人だったら最後まで抵抗して、あのつまらない日常に留まっていたかもしれない。覚悟を決めることもなくここまで来たのはきっと——。
 龍久は、椎菜に向けて微笑みかける。
 不意に見せた見たことのない表情に、椎菜は頬を僅かに赤くして目を逸らす。その様子に龍久は気付くことなく、目の前の理事長に告げる。
「覚悟なんてねーよ。信念も目標もやるべきことも、今の俺には一つたりともねぇ。だから——」
 龍久は隣にいる椎菜の肩に手を置いて、
「これから見つけるよ、全部。こいつと一緒に」
「わ、わたしも。紅月くんと一緒に!」
 椎菜も同じように龍久の肩に手を置いてそう宣言する。
 理事長はフッと優しい笑みをこぼす。シャーロットもくくっ、と小さく喉を鳴らして笑った。

 覚悟を決めることなくここまで来たのはきっと——。
 彼女と、香椎椎菜と一緒なら、楽しくなりそうな気がしたからだ。

Re: 魔術剣士と白き剣 ( No.11 )
日時: 2015/03/23 04:10
名前: 宇佐悠兎 (ID: KCZsNao/)

 3


 現在は昼休み。
 私立茉莉花統剣学園でも昼休みは存在し、その時間帯は魔術剣士を目指す生徒たちも、一般の学校に通う生徒のように、友人とお弁当を食べたり、食堂や購買に向かったりなど、いたって普通の光景が広がっていた。
 そんな中、図書室にいる椎菜、澄恋の二人と、元々図書室にいたシャーロットは、椅子に座ったままがっくりと肩を落としている、いや気力を使い果たしたような龍久をじっと見ている。
 真っ白に燃え尽きたような龍久を、巨大な地球儀のモニュメントの上に座りながら、シャーロットが口を開く。若干内股気味で座っているのが、応接室での彼女と違って可愛らしく見える。
「で? 龍久はなんでそんなに疲れとるんじゃ?」
 呆れながら問うシャーロット。
 その質問を待っていたかのように、龍久がゆっくりと顔を上げていく。全体的に白く見えていた彼の姿も、今は色彩を持つようになってきた。
「……そりゃ疲れるだろ。どの休み時間も、クラスメートやら他のクラスの奴らからの質問攻め! 耐えれるかっての! あー疲れたぜ、こんちくしょー!!」
 どうやら転校生ならば必ず通る道、同級生からの質問攻めを食らったらしい。
 しかも普通の学校ならいざ知らず、される質問も大体の予想がつく。しかしここは魔術剣士を育成する特殊な学校だ。普通の質問もされはするが、元は一般人である龍久にとっては、答えを詰まらせるような、もしくは答えられない質問も出てくるのだ。
 椎菜も同じく質問攻めを受けていたらしいが、何故だか龍久より全然元気にしている。これは一体何の違いが出たのだろうか。
「まあそれは仕方がないのう」
 くくくっ、と愉快そうに笑うシャーロット。彼女が半ば強制的にこの学校に編入させたため、龍久が疲れている原因の一部に彼女が関わっていることは間違いないのだが、まるでそんなことを気にしていないかのように、他人事のように笑う。
「それで、実際にはどんな質問されたの?」
 澄恋が興味深そうに聞いていくる。
 ここでも質問されるのか、と龍久は少しうんざりするが、教室での質問攻めに比べると屁でもないので、嫌な記憶を辿りながら思い出していく。
「えー……と、たしか……なんで魔術剣士になったのだとか、どういう剣を使うのだとか、どういう魔術を使うのだとかだったな……」
 どれも答えを詰まらせ、答えられないものである。
 質問をされた場合、龍久はトイレに逃げ込む。だが、その手は次の休み時間では使えなくなり、電話がかかってきたふりをして離脱した。三時間目は手が思いつかず、質問攻めをもろに受けてしまったらしい。
「ったく、なんで高校生ってのは遠慮を知らねーんだよ!」
「同じく高校生であるお主が言うか」
 シャーロットは椎菜に視線を受けて、
「椎菜は? どういう質問をされたのじゃ?」
「わたし? わたしは……好みの異性のタイプとか、紅月くんとの関係とか、男子生徒には今日の放課後の予定とか聞かれたかなー」
 普通の学校でされるような質問だった。
 嘘をつくのが苦手な彼女は全て真実を答えたようなので、生徒が変な捉え方をしない限り、椎菜と龍久が恋人と思われることはないだろう。ぶっちゃけると、龍久としてはそれが一番の心配の種だったので、椎菜がミスしていないことをを知り、ほっと安堵の息を吐く。
「そういやシャーロット。俺たちに魔術剣士のこととか教えてくれよ。俺まだよく知らねーんだけど」
「あ、わたしも。自分のなるものくらい、ちゃんと把握しておきたいし」
 シャーロットは地球儀から飛び降りると、音もなく着地した。十数メートルくらい高いところから飛んで音もなく、とはどうやったのだろうか。もしかしたら今のが魔術かもしれない。
「ふむ、そうじゃの。お主らには教えねばいかんな。じゃが、その前にお主らに渡さねばならんものがある」
「渡さなきゃいけないもの?」
 同時に首を傾げる龍久と椎菜。
 シャーロットは腕を組みながらこくりと頷いた。
「お主らは魔術剣士になるために必要な物を持っとらん。なんだか分かるか?」
 問われて考える龍久と椎菜。
 今日は質問の日か、とあとで今日が何の日か本当に調べたくなる衝動に駆られながら、考えて絞り出した答えを自信満々に告げる。
「度胸?」
「気合い?」
 龍久と椎菜が答える。
 その答えに、がくっと転びそうになるシャーロットだが、咳払いをして気を取り直すように背筋を伸ばして言う。
「違う。剣じゃ、剣」
 剣? と二人が首を傾げると、いつの間にか図書室の本棚から適当に抜き取った本を読み始めている澄恋が口を開いた。
「ええ。魔術剣士っていうくらいなんだから、県は必須でしょ。まさか、何も持たないままこの学校で過ごすつもりだったの?」
 剣が必要なのは大体分かっていたが、そういうものは学校から支給されるものだとばかり思っていた。なんせ龍久と椎菜はごく普通の一般人なのだ。剣の入手ルートなど分かるはずもない。
 だが、
「支給なんてされるわけないでしょ。この学校にいるのはみんな魔術剣士の家系なんだから。みんなにかしらの剣を持ってるわよ」
 そういえばそうだった。
 この学校でのイレギュラーは、腰に剣をぶら下げている生徒たちではなく、腰からぶら下げる剣を持たない龍久と椎菜なのだ。
 だからシャーロットは、そんな二人に剣をプレゼントしてくれる、というのだが、
「……でも、シャーロット。なんも持ってないように見えるけど?」
「ふふふっ。今はな。どうせならお主らに選んでもらおうと思ってな」
 自慢げにシャーロットが笑いながら、地球儀の根元付近についているスイッチを押す。
 すると、ごごごごごごご、という鈍い音とともに図書室全体が揺れ始める。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「きゃっ!?」
 思わず龍久にしがみつく椎菜。折角の密着の機会だったのだが、いきなりの減少に全く噛み締める余裕を見いだせない龍久。
 二人が混乱し知恵る間にも揺れは続くが、徐々に弱くなっていく。すると、大きな本棚がずれており、その下に地下へと続く階段が出現していた。
「な、なんだこりゃ!?」
 驚く龍久たちを無視しながら、シャーロットはその階段を下りていく。
「お前らも早く来いよー」
 シャーロットに促され、龍久たちも恐る恐る階段を降りていく。地価は薄暗く、懐中電灯が無ければ少し進むのに苦労しそうだった。シャーロットは懐中電灯で前を照らしながら進む。
「よし、ちょっと待っていろ」
 そう言ってある扉の前で止まるシャーロット。ぽえっとから鍵を取り出し、差し込み口に鍵を入れて捻る。扉が開いたようでがちゃ、という音ともに扉が少し開く。
「さあ、お主らに剣をやろう。好きな物を選んでよいぞ」
「……こ、これは……!」
 扉の先には信じられない光景が広がっていた。

 壁やショーケースの中、木製の専用の立てかけに首脳されている何本もの剣。その数も十や二十などではなく、軽く百に達しそうなくらいにある。シャーロットはこの中から好きな物を一本、龍久と椎菜に渡そうというのだ。
「……シャーロット、これは……」
 呆然と呟く澄恋に、シャーロットはニッと口角を上げて笑う。
「すごいじゃろう。わらわの武器庫。というよりは、コレクションルームかの」


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