コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~
日時: 2015/10/24 11:07
名前: 逢逶 (ID: KG6j5ysh)
参照: http://0ja.jp/song/A2008042322.html

こんにちは。

逢逶(あい)です。

未完結作品ばかりなのに新しい作品を作ってしまう私です。
更新していない作品を消して行こうと思います。

私の小説の書き方は、携帯小説風になってしまうかと…なので嫌な方はUターンをお願いします。

今までの書き方だと、1話1話がとても長いので読みやすいように短く済ませます。


アドバイス、コメントなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。




*First Season EPISODE*
episode0 >>1 episode10 >>11
episode1 >>2 episode11 >>12
episode2 >>3 episode12 >>13
episode3 >>4 episode13 >>14
episode4 >>5 episode14 >>15
episode5 >>6 episode15 >>16
episode6 >>7 episode16 >>17
episode7 >>8
episode8 >>9
episode9 >>10

*First Season END* >>18

*Second Season EPISODE*
episode0 >>19 episode10 >>29
episode1 >>20 episode11 >>30
episode2 >>21 episode12 >>31
episode3 >>22 episode13 >>32
episode4 >>23 episode14 >>33
episode5 >>24 episode15 >>34
episode6 >>25
episode7 >>26
episode8 >>27
episode9 >>28

*Second Season END* >>35

*Third Season EPISODE*
episode0 >>36 episode10 >>46
episode1 >>37 episode11 >>47
episode2 >>38 episode12 >>48
episode3 >>39 episode13 >>49
episode4 >>40 episode14 >>50
episode5 >>41 episode15 >>51
episode6 >>42
episode7 >>43
episode8 >>44
episode9 >>45

*Third Season END* >>52

*Fourth Season EPISODE*
episode0 >>53 episode10 >>63
episode1 >>54 episode11 >>66
episode2 >>55 episode12 >>67
episode3 >>56 episode13 >>70
episode4 >>57 episode14 >>71
episode5 >>58 episode15 >>72
episode6 >>59 episode16 >>73
episode7 >>60
episode8 >>61
episode9 >>62

*Fourth Season END* >>74

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Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.22 )
日時: 2015/05/12 18:44
名前: 逢逶 (ID: 6k7YX5tj)

episode3
title 早すぎる再会

家路に向かう足を止めた。
シェフに会いたくなった…、

来た道を戻る。
シェフの元へかけて行く。

息を切らし、店内へ入った。

「いらっしゃいませ。って、え?」

シェフは、とても驚いていて。

「…え、どうしたの?」

シェフが私に近づいて、お客さんの視線もこちらへ向く。

「…あの、えっと…」

「外、出よっか?」

「はい…」

シェフの真っ赤な顔に目を合わせられなくなった、照れ屋な私。
店を出て裏道へ行った。

「…え、っとどうしたの?」

「…あの紙の、お礼が言いたくて」

「お礼なんて良いよ。俺も強引に渡しちゃったし」

「いえ、嬉しかったです。私の気持ちに気付いてくれる人がいて…嬉しかったです。本当に…ありがとうございます」

「…照れるなぁ」

「…」

「…名前聞いてもいい?」

「はい…。小枝蓮です」

「蓮ちゃんって呼んでもいい?」

「はい…私も名前聞いていいですか?」

「うん…。俺の名前は永江朔」

「朔さんとお呼びしても…?」

「…朔くんが嬉しいかな」

「朔くん。わかりました」

「うん。また、会える?デートしたいな」

「そうですね。時間ある時デートしましょ」

「…空いてる日ある?」

「いつでも大丈夫です」

「明日とかは…?」

「え…大丈夫ですけど、お仕事は…?」

「明日は定休日」

「そうなんですか。じゃあ会いましょ」

「うん、番号交換しよっか」

「はい」

番号を交換した。

「じゃ、仕事戻るね」

「はい。では、また明日」

「うん、ばいばい」

「さようなら」


私は歩き出した。
心はぽかぽか温かくて、この人とならって思えた。
裏切られ続けた今までを忘れさせてくれるような力強さを感じる人だった。

…なんてね、私を助けてくれる人なら誰でもいい。


私はもう、崩れかけてたんだ。


「…あれ、蓮ちゃん?」

…遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

どうして…?


「山田さん…」

私の目の前に立っていたのは、KISSTILLの山田蒼だった。

「…ちょっと、話したいことあんだ。一緒に来て?」

「嫌です…もう、関係ないですから」

「あやふやなことがありすぎるでしょ?」

「…」

腕を引かれ、どこかへ連れて行かれる。
帽子とマスクでしっかりと変装をした山田さん。

「…これからメンバーと食事の予定あってね」

「…」

黙り込んだ私を不思議そうな顔で見る山田さん。
話が弾むわけないでしょ。

「あ、ここ」

街外れの、小さな店。
こんな庶民的な店で大人気アイドルグループが食事…?

店内へ入り、案内された個室へ抵抗も出来ないまま連れて行かれた。

「…へ?!なんで小枝さんがいるの?!」

伊藤さんの気の抜けた声が部屋に響く。

「…連れて来ちゃった」

ぽりぽりと、わざとらしく手で頭をかく山田さんに四人は呆れ顔。
そうだよね…折角の食事なのにね…

「…座って」

「…」

無言で椅子に座った。

「…結城くんとは順調?」

伊藤さんは運ばれて来た料理を口に入れながら言う。

「まぁ…順調です」

「だろうね、マークついてるし」

マーク…?
意味がわからない私に、伊藤さんは苦笑いをしながら首を指差した。

「…あ」

キスマーク…

「…へぇ、マネ辞めて男と遊んでんだ」

「…関係ないです」

「まぁ、そうだね」

何事もなかったかのように食事するKISSTILLに、腹が立った。

「…で、結局何が言いたいんですか?」

「…まぁまぁ。そんで?結城くんとは付き合ってるの?」

「いえ…」

「へぇ。付き合ってもないのに…そんなこと出来るんだ?」

「出来ますよ」

「結城くんのこと好きなの?」

「好きじゃないです」

「結城くん以外に、そういう関係の人はいるの?」

「最近会ってませんけど、いますよ」

「…へぇ」


…何かを探るように、私への質問は続く。
伊藤さんとしか話してないけど…、


他の四人の目も本気だった。



二度と会いたくなかったこの人達。




早すぎる再会。


私は、落ちて行く。

Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.23 )
日時: 2015/04/04 21:55
名前: 逢逶 (ID: 9yNBfouf)

episode4
title キス×キス×涙

「…何ですか?」

何故か、壁に追いやられた私。
背中がひんやりする。

私の顔の横には、森さんの手。

会話の途中、急に立ち上がった森さんは私の手を引き部屋の中で四人が見ている中、壁ドンをした。

「じゃあさ、俺ともキスできるわけ?」

「…」

「好きでもない俺とキスできる?」

すぐ目の前にある顔。
鋭い目が、私を見つめる。

私が返事をする前に、森さんの顔が近付いてきた。

「森さん!」

「え?」

森さんはぴたっと動きを止めた。
私は顔を近づけ、森さんにキスをした。


驚いた顔。ゆるゆると揺れる焦点があっていない瞳。
動揺している?

私はふっ、と鼻で笑う。

…あのままじゃ、〝無理矢理〟だった。
相手の許諾無しに、キスをするのはやっぱり男の証拠。
だから、自分からキスをして…、男に幻滅することを避けた。

もう、辛いから。

「…私、帰りますね」

「いやいや、待てよ」

「まだ何か?」

山田さんが私を引きとめようとする。

「…俺、好きだって言ったよね?蓮ちゃんに告白したよね?俺…、蓮ちゃんの携番消せないでいるんだよ?…蓮ちゃんは誰とでもできるの?たとえ、自分のことが好きな人が目の前にいても…男とキスできるの?」

「…そんなこと聞かないでください」

山田さんの泣きそうな顔は、私の心を少しだけ締め付けた。
だけど、私はそんな人。
お願いだから好きにならないで?

「…俺も、本当にキスするとは思わなかった」

森さんも、険しそうな表情で呟くように言った。

「…蓮ちゃん、俺にキスしてよ」

「いや…、意味わかりません」

「そのままの意味だけど?」

山田さんの要求の意図がわからない。

「…できません」

「…じゃあ俺からしちゃうよ?」

「…」

このままだと帰してもらえない…。

私は椅子に座る山田さんの肩に手を置いてキスをした。

「…」

「帰りますね」

「…待って」

「しつこいですよ?!」

…あ、れ?

頬が冷たい。
触れてみると、濡れていた。

あー、泣いちゃってるし。

「…どうして泣いてるの?」

「…えと、これは…」

「…本当はキスするの辛かったんでしょ?」

「そんなこと…!」

「…蓮ちゃん、何を抱えてるの?…俺さ、言わなかったけど蓮ちゃんがいつも辛そうな顔してるの気付いてたよ?」

「…え」

「ねぇ、俺…蓮ちゃんのこと何も知らない。…知りたい」

「…私のことは誰もわからなくてもいい。私だけが知っていればいい」

「…わかった。仕事決まった?」

「無いですよ」

「…マネもう一度やってくれない?」

「私が?!」

私とは最低な思い出しか無いでしょ?
それなのに…もう一度だなんて、無理だよ。

「…うん。蓮ちゃんはマネとして仕事は完璧だよ。俺達が大事にしてるツアーができるように調整してくれたし、会議での案も革新的で実現できたらKISSTILLの新しい世界を創り出せる。蓮ちゃんが必要なんだ」

そんなの…断れないじゃん。
これから新しく仕事を見つけられる自身も無いし…

「…良いんですか?」

「…うん。お願い」



私は、KISSTILLの仕事に戻ることを決意した。

自分から辞めたのに…勝手かな。
でも、必要とされていることが素直に嬉しかった。


「俺…小枝さんに当たって、必要ないとか言っちゃったけど訂正する。本当は必要だから」


伊藤さんの言葉が妙に胸に響いた。


あの時の〝必要ない〟が消えた。

Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.24 )
日時: 2015/04/08 06:23
名前: 逢逶 (ID: IqVXZA8s)

episode5
titile 首筋

山田さん曰く、社長は私の帰りを待っていたらしく話はスムーズに通ったようだ。

「…じゃあ明日からよろしくね」

KISSTILLはさっきのキスなんて気にしていないようだ。
だから私も愛想笑いで、店を出た。

「…めんどー」

フラフラと家へ帰り、そのままベッドへ倒れ込んだ。
今日を思い返す暇もないまま、睡魔により目を閉じた。



「おーい、おーい」

誰かの声で目を覚ます。
はっ、と目を開けると光がいた。

「…え、なんでいるの?」

「なんでじゃねぇよ。昨日全然電話出てくれないからさぁ、心配になって来たら鍵空いてるし?」

「だからって、入ってきて良いわけないでしょ」

「ごめんって、許して?」

「はいはい。…あ!今何時?!」

光は腕時計を見て時間を確認しようとするけど、その前に私は掛け時計を見た。

「…八時。やばい!」

「え?!何が?」

「仕事あるから、じゃあね!光も出て行って!」

確か迎えは八時半。
シャワーぐらい浴びとかないと…、

バスルームへ直行し服を脱ぎ捨て、大急ぎでシャワーを浴びた。

髪を乾かす暇もない。

新しい服を出して、大急ぎで着た。

「…よし!」

髪をわしゃわしゃバスタオルで拭いて、ぼさぼさのまま家を出た。

よし、間に合う。


八時半ちょい前。
山田さんが車に乗り込んだ。

「…おはよー」

「おはようございます」

車を走らせながら挨拶をする。

「…髪濡れてね?」

「今日八時に起きてシャワー浴びてきたので」

「ふーん。髪…束ねた方が良いんじゃない?長いと邪魔じゃない?」

「そうですね、後でします」

「俺が結ぶよ?」

「…いや、良いですよ」

「俺、上手いんだよ?妹いるからさ、いつもやらされてたもん」

「へぇー!妹さんいるんですか」

「うん、ほら右手出して」

理由もわからないまま、右手を山田さんの方に向けた。

「もーらいっ」

あ…、右手にあったゴムをとられた。
こりゃ、やる気だな。

「…大丈夫なんで」

「遠慮するでない。てか俺が結びたいだけ」

そう言って、後ろから髪を持って…
様子が見えないから、何をしているのか気になる。

「…よし!できた!」

嬉しそうな山田さんがバックミラーにうつる。

「ありがとうございます」

確認してみると、いたって普通のポニーテールだった。
まぁ、でも…変なアレンジ加えられるよりはよっぱど良いか…。

「…ねぇ、変なこと言ってもいい?」

「はい」

「首に…キスマークあるけど」

はい?
光と昨日した時は…、キスマークはつけられなかった。
でもその後誰とも…

…もしかして今日の朝?!

最悪…

「ハメられた…」

「ハメられた…?」

「いや、なんでもないです」

「…気になる」

「…これをつけたのは光です。今日の朝に」

「じゃあ…、今日の朝したってこと?」

「…してませんけど、寝ている内につけられました」

「…そっか」

元気のなさそうな声。

しばらくの沈黙の後、山田さんの指が首筋をつーっ、と撫でた。

「…なんですか?」

「妬いてるの。俺だって蓮ちゃんのこと好きなのに…触って良いのは結城くんだけだもんね…」


心なしか、胸が高鳴った。


でも、きっと…、

私の全てを知る時…、


私を嫌いになるんだろうな…。

Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.25 )
日時: 2015/04/10 21:25
名前: 逢逶 (ID: 9AGFDH0G)

episode6
title されるがまま

今日はKISSTILLでの収録が三本。
山田さんだけが、二本。

現在、収録中。

持ち前のトーク力で、存分に盛り上がっているスタジオ。

…マネージャーさん達は私に普通に接してくれて、心地悪くは無かった。

「…ね、小枝さん…ちょっと出よっか」

「…でも収録」

糸村さんは、いいから、と私の手を引いてスタジオを出る。


「…どうかされましたか?」

「…えっと、マネージャー戻ってきたのはどうして?」

「戻ってきてほしい、と言われたので」

「…じゃあ、そもそもマネージャーになった理由は?」

「仕事が無かったからです」

「…やる気あるの?」

「やる気あるから戻ってきたんですけど」

「辞めた理由は?」

「私は必要ないと思ったので」

「…本当はもう一度戻ってこれると思ったんじゃない?たった数日で戻ってきて。辞める時の覚悟はそんなもの?…小枝さんにはもう少し覚悟を持って欲しい」

糸村さんの言っていることは正しくて、反論する気はなかった。
私が謝れずに俯くと、糸村さんは大きく溜息をついた。

「…小枝さん、俺の言ってることわかる?」

「はい、わかります。すいませんでした」

目一杯頭を下げた。

「…謝らないでよ。怒ってるわけじゃないし」

私が頭を上げると、糸村さんはぎこちなく私の頭を撫でた。

「…」

「…言い忘れてたことがある。…俺は小枝さんのことが好きだよ」

目を見開く私。
穏やかな表情なのに、感情が見えない糸村さん。

「…それは、」

「もちろん恋愛感情。あんな言い方したけど内心小枝さんが戻って来てくれて嬉しいんだ」

…二人目。

私はゲームに浸かっていた。
今でも…、落とせたという興奮が渦巻いておかしくなりそうだ。

「…返事とか、いいから。彼氏いるのはわかってるし」

「…いませんよ」

私は咄嗟にそう言った。
…糸村さんの気を引こうともがく自分がいる。

「…この状況で彼氏いないって言う?俺、期待しちゃうな」

「期待しても良いですよ?」

瞬間、糸村さんは私を抱き寄せて優しく口付けた。
受け入れるのは、糸村さんを嫌っていないから。
テレビ局の廊下だということを忘れて、しばらく降り注ぐ唇に酔いしれた。

誰もいない廊下は、気分を高ぶらせて行く。

「…あ、やばいなぁ。続きしたくなっちゃった」

「…駄目ですよ。続きはまた今度」

頬を火照らせ、私を熱い視線で見つめる糸村さんにお辞儀してスタジオに入った。

収録はまだ続いている。
何も知らないKISSTILLは楽しんでいた。


収録は無事終わり、次の現場へと移動する。

車内は静かで、山田さんの疲れが伝わった。


「…蓮ちゃんさ、糸村と何してたの?」

急な質問。
仕事中も周りの状況を把握しているんだ…。

「…何もしてませんよ」

そう言うしかなかった。
納得してもらえないだろうけど。

「嘘つかないでよ」

「嘘じゃないです」

「…具体的になに話してたの?」

「仕事の話とか…?」

「なんで疑問系なんだよ」

「…さぁ」

「…あ、トイレしたい。コンビニ寄って」

時間は無いが、コンビニの駐車場に車を停止させた。

「後ろ来て」

トイレしたいんじゃないの…?
言われた通り、後部座席に移動する。

「…糸村とキスしてたんでしょ?」

「…」

「言わないなら」

そう言って引き寄せられて、半ば強引にキスをされた。
受け入れるしかない。

私は、そのままキスを続けた。

体ががカタカタと小刻みに震える。
激しいキスは…、景都を思い出す。
だから、嫌い。



…されるがまま。

Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.26 )
日時: 2015/04/16 20:08
名前: 逢逶 (ID: rqG2u1s0)

episode7
title 革命

「ね、なんで受け入れてるの…?」

「さぁ?」

「彼氏いるんでしょ?」

「さぁ?」

私は鼻で笑って、運転席に移動した。

「トイレはいいんですね」

「うん」


車を走らせる。

それから十分程で次のスタジオに着いた。

車を降りて、スタジオに入る。
山田さんは気まずい感じで近寄っては来ない。

挨拶をしてから、楽屋に向かう。
廊下が長い割に会話はなくて、思わずため息をついた。

「…今ため息ついたっしょ」

山田さんに気付かれて、どう答えたらいいのかわからなかった。
聞こえないフリをするわけにもいかず苦い顔で黙り込む。
早く楽屋につけ、と思うけどまだまだ遠い。

「…ため息とかつかないでもらえる?嫌な気分になるから」

ため息にも理由はあるのに有無を言わさない山田さんの冷めた目。
呆れて何も言えない。
無視をすることにした。

「…無視かよ」

山田さんの声はか細く消えた。

楽屋に到着し、山田さんの着替えを外で待つ。
大物芸能人が集う今回の収録は、大人気長寿番組の五時間をこえる大特番。
今日はその内の二時間の撮影。
KISSTILL所属事務所もかなり期待している。

「…着替え終わったよー」

山田さんが楽屋から出てきて、大物への挨拶回りが始まった。
一人一人丁寧に挨拶して、少し雑談をする。
必ず山田さんへ聞かれるのは、忙しいんでしょ?ということ。
売れっ子は凄い。

「よろしくお願いします」

最後の挨拶が終わり、楽屋へ戻る山田さん。
私は、トイレに向かった。

…メールをしよう。


あの優しい男性に。

あの優しいコックさんに。

あの人は無理矢理キスなんてしない。

〝強引にキスされました。朔くんに慰めて欲しいです。
今日お店に行ってもいいですか?〟

気を引くためのメールを朔くんに送った。

返信はすぐに来て、その文面に涙が出そうになった。

〝もちろん
辛くなったらいつでも来て〟

…気を引こうとしたことが恥ずかしくなった。
朔くんは良い人。

朔くんと正面から向き合って恋をしたい。

私は一人にやけながら、収録を眺めた。


収録終了後、急遽会議があると連絡が入った。
ツアーの構成の意見が事務所側と食い違っているようだ。

山田さんを車に乗せ、急いで言われた場所に向かった。
十分ほどで到着。
他のメンバーとマネージャーさんはすでに到着していて、上着を脱ぐ間も無いまま会議は始まった。

「事務所は、将来三十代に突入した時を考えてひたすらかっこいい…例えば、ダンスナンバーでミステリアスな楽曲を中心に構成するべきだと言っているんだ」

でも…前回の会議では、KISSTILLは若さを活かしたポップで元気な楽曲を多く歌いたいと言っていた。
事務所の将来を考えた意見は良く分かるけど、これはKISSTILLのライブで…、ファンとKISSTILLが楽しまなければ意味がない。

「…俺は、かっこいいだけじゃ嫌だ。俺たちらしいツアーにしたい」

…考えろ。

どうすれば成功する?


案が通るかどうかも分からない状況で私は口を開いた。


世界を変えてみたいと思った。


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