コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 月から来た猫
- 日時: 2016/07/10 10:18
- 名前: 瑞樹 (ID: Lnsp.uM2)
ザー...ザー...
上から降ってくる滴が、傷だらけの体に容赦なく打ちつける。
痛い
痛い
倒れて動かなくなった体を必死に動かそうとする度に激痛が走り、もう動かすことすら諦めてしまった。
このまま僕は、死ぬのだろうか。
___ああ、眠たい。
だんだんとまぶたが落ちていき、完全にまぶたが閉じようとした、その時。
ふいに滴が止み、僕は何者かによって優しく包み込まれた。
「かわいそうに」
浮遊感を感じ、抱き上げられたのだと理解する。
「もう、大丈夫だよ」
優しく、どこか切ない声と共に頭を撫でられる感触に、閉じかけたまぶたを必死に持ち上げた。
声の降ってきた方向に目をむけると、心配と慈悲に満ちた目と、目があう。
へにゃり、と安心させようとするかのように笑う、僕を助けた少女に心臓がどきりとし、顔に熱が集まる錯覚に陥った。
"ありがとう"と、せめて伝えたくて僕は口を開いた。
「にゃあ」
......そうだ、僕は猫だった。
*
初めまして、瑞樹と申します。
小説を書くこと自体、滅多にないので文章が拙くなるかもしれません。ていうか、なります。
更新も、とても遅いです。
それでも、どうか温かい目で見守っていただけると嬉しいです!
コメント大歓迎です。
これからよろしくお願いしますm(_ _)m
- Re: 月から来た猫 ( No.13 )
- 日時: 2016/05/07 08:36
- 名前: 瑞樹 (ID: mextbE/J)
僕を助けた少女により、薄汚れた体を洗われている最中、僕はチキュウに来る前の記憶を辿り、その記憶を呼び起こしていた。
*
僕の世界が崩壊した日。
それは、フォルトゥーナ王国が赤に包まれた日。
その日は、地を揺らすような怒号と、悲鳴の大合唱で目を覚ました。
急いでベッドから飛び降り窓の外を覗くと、真っ赤な炎が街を覆い尽くしていた。
ところどころで国民達がが自ら剣や斧を持ち、何者かと必死に、戦っている姿が視界に入る。
背後で扉が乱暴に開けられた音が聞こえたので、頭だけ振り向かせると、ステッラの父である大臣が肩で息をしながら僕が立つ窓側の方に駆け寄ってくる姿が見えた。
「チェーロ王子!無事でございますか!」
「僕は大丈夫だが、これは何事なんだ!?」
「どうやら隣国が同盟を破り、宣戦布告もなく侵攻してきた模様です!」
早口で大臣は状況説明を終えると、失礼します、と僕を担いで廊下に飛び出した。
「どこへゆくのだ!」
「ソーレ様から仰せつかった場所にございます!
そこにチェーロ王子をお連れするよう命令がくだっているのです!」
大臣の肩の上で揺られながら着いた場所は、方舟が収納されている城の地下だった。
方舟を見た瞬間、僕の中に湧いたのは怒りだった。
大臣の肩から自力で降り、大臣を睨みつけるようにして、大きく息を吸った。
「僕は、王国のために戦いたい!
戦って、皆を助けたいのだ!
なのに、何故母様は僕を逃げ道へと導くのだ!
人との戦い方を知らぬ国民でさえ必死に戦っているのに、何故僕だけが安全な...」
言葉は、続かなかった。
気付くと、大臣が僕を優しく抱きしめていたのだ。
「チェーロ王子。言葉を遮る無礼、お許しください。
王子には伝えなければならないことがあります。
ソーレ様も、国民も、この国が今回の戦に負けることを理解しております。
しかし、ソーレ様は、今、自ら剣を取り、最前線で戦っておられます。
国民も、剣や斧を手に取り、侵攻してくる敵軍に必死に抵抗しています。
それは、王子、あなたを守るためです。
王子に一分一秒でも長く逃げる時間を与え、生き延びてもらうために皆一生懸命戦っているのです。
チェーロ王子は、我々の期待の星であり、また守るべき対象であります。
王子を守る行為は、誰もが強制されて行っているわけではありません。皆自分の意思で動いているのです。
チェーロ王子には、皆の思い、くれぐれも蔑ろにしないでいただきたい。」
ポロポロ、と頬を伝う感触に、初めて自分が泣いているのだと知った。
「チェーロ」
服の袖で涙を拭き、声が聞こえた方を見遣ると、五年前のあの日から幼さが抜けたステッラが、腰に剣を吊り下げて立っていた。
- Re: 月から来た猫 ( No.14 )
- 日時: 2016/05/08 21:53
- 名前: 瑞樹 (ID: mextbE/J)
ステッラは無表情で、口を開いた。
「私は、あなたのことが、ずっとずっと嫌いでしたわ。
いつもいつも、立派な王様になるために勉強や剣術の練習に励んで、辛い日々の繰り返しを過ごしていたのに、それでいて愚痴をを零した事はありませんでしたよね。
ハッキリ逃げ出したいとも、結局言いませんでした。
今だって、皆があなたのために戦っているのに、まだ逃げようともしていない。
その態度が気に食いませんわ。」
ステッラは僕に背を向けると手をぎゅっと握りしめていた。
「早く、私の前から姿を消してくださるかしら。
私だって、国民と一緒に剣を使って戦えるわ。
...勘違いしないで。私はあなたのために戦うんじゃない。
だから、チェーロは早く方舟に乗って、ここを脱出しなさいよ。
私は、本当にあなたのことが大嫌......ッ!!」
両手で顔を覆った彼女に僕は近づく。
近づくにつれハッキリ聞こえる泣き声と嗚咽を、丸ごと受け止めるように僕はステッラを抱きしめた。
この世に生を受けてからずっと側にいた存在が今どう思ってるかなんて、この時の僕には手に取るようにわかった。
「ほんとは、嫌いじゃない!嫌いになんてなれない」
「知ってる。知ってるよ」
「嘘をついて、ごめんなさい」
「僕も。...約束、守ってあげられなくてごめん」
暫くしてステッラから離れると、お元気で、と言葉を残し今度こそ彼女は城の地下から走り去っていった。
「...今まで、ありがとう。迷惑かけて、ごめんなさい」
今さっきから側で見守ってくれていた大臣に深く礼をし、方舟の中に乗り込む。
ドアを閉めようとすると、大臣が待ったをかけた。
「この薬をお飲みください」
大臣が、うす透明の青みがかった液体が入った小瓶を僕の手に押し付けた。
「?これは...」
「この方舟の行き先にはチキュウが設定されてあります。
そしてこれは、そのチキュウで我々月人でも住めるようにと作られた薬でございます。
体のつくりがチキュウ人と少し違う月人は、きっとこのまま向こうに行くと面倒ごとに巻き込まれるでしょう。
しかしこれを飲めばチキュウ上に住むチキュウ人と馴染み深い"猫"の姿に変わり、面倒ごとを回避出来るはずです。
しかし、月の光に当たったり、何か強い思いがあれば元の姿に戻ってしまいます。
月の光の場合は光から隠れたら猫に戻るのですが、強い思いの場合はどうなるかわかりませんので、注意してください」
ありがとう、と薬を受け取ると、その薬を飲み干してドアをガチャンと閉めた。
ドアについている窓から大臣を見ると、大臣は目に涙を浮かべて敬礼した後、すぐに鞘から剣を取り出しながら外へ駆けて行った。
『発射3秒前』
アナウンスが流れて、地下の天井が開けていく。
『3・2・1』
副作用だろうか。途端に急激な眠気が襲ってきて、それに逆らえず瞼はどんどん落ちていく。
『GO!!』
完全に目が閉じる前に見た窓からの景色は赤色に染まっていて、それが炎の赤なのか、それとも血の赤なのか。
もうすでに意識が混濁した頭では判別することができなかった。
*
「シャワーを嫌がらない猫って、私初めて見たよ!」
少女は、僕の洗い終わった体を大きな布で拭きながら言った。
その気持ちよさに思わず、にゃあと声をあげると少女は満足そうに微笑んだ。
「そうだ、一応自己紹介しておこうか!
私の名前は、花乃 千陽!ち、は、る。ね?」
ちはる。
なんとも可愛いらしい名前で、彼女にとてもよく似合っている。
褒めたくても言葉が通じないので、黙りながら彼女の話を聞いていた。
「あなたのいい名前、思いついちゃった!」
待て、僕にはチェーロという素敵な名前が!
今さっき黙ろうと思ったのについ、にゃあにゃあと声をあげてしまった。
「夜空、はどうかな?ほら、あなたの毛が真っ黒で夜の空みたいだなって思ったの!あと、あなたの黄色い目が月のように見えたから」
人の、いや猫の意見を聞かない彼女によって付けられた名前は、案外いいものだった。
「にゃあ」
いいと思うよ。その気持ちを込めて一鳴きしたら、彼女もそう受け取ったのか、嬉しそうに僕の名前を連呼する。
「夜空、夜空。これから、よろしくね」
よろしくね、ちはる。
にゃあ、という僕の鳴き声は、彼女の部屋に木霊した。
- Re: 月から来た猫 ( No.15 )
- 日時: 2016/05/08 13:07
- 名前: 桧 譜出子 (ID: WqtRIGcg)
瑞樹さん、こんにちは。
お褒めいただきありがとうございます…。
瑞樹さんの意見も、貴重ですよ!!
いつでも待ってます!!(*´ω`*)
- Re: 月から来た猫 ( No.16 )
- 日時: 2016/05/21 22:20
- 名前: 瑞樹 (ID: mextbE/J)
桧 譜出子 さん
返信遅れてすいません。
僕の意見に価値があると思ってくださってることがとても嬉しかったです!
貴重だと言ってくださってるのを見た途端僕は内心お祭り状態です(笑)
更新遅れ気味ですが、最後まで付き合ってくださると本当に嬉しい限りです!
よろしくお願いします!
- Re: 月から来た猫 ( No.17 )
- 日時: 2016/05/21 22:29
- 名前: 瑞樹 (ID: mextbE/J)
「あれ、雨が降ってる」
僕が、ちはるの膝の上に丸まっている時、なんてことないように彼女が呟いた。
ゆるりと首を動かし窓の外を見てみると、先日彼女に拾われる前に自身の身体を叩きつけていた滴が、上から下へ次々と落ちていくのが見える。
あれは、雨と言うのか。
またひとつ賢くなったとひとりで満足していると、彼女は小さく「あ、」と声を漏らし、僕の身体をいつもより温かな手で、そっと膝の上からおろし立ち上がった。
「夜空、ちょっと出かけてくる!すぐ戻ってくるからいい子で待っててね」
僕に向かって頬を紅潮させながらニコリと微笑むと、ちはるは鞄を掴んで足早に玄関から外へ飛び出していった。
*
時計の短針の先にある数が5から9に移っても、ちはるは未だ帰ってこない。
その事実にどうしようもなく不安を覚える。
今までも、ちょっと出かけてくると言って外へ出ていったことはあったが、こんなに遅くまで帰ってこなかったことはなかった。
どうしたんだろうか、と考えている内に、ふと。
先ほどの彼女に違和感を感じたことを思い出した。
いつもより温かかった手。
赤みを帯びた顔。
二つとも些細なことだが、それでも違和感を感じたのだ。
そして、僕はこの症状に思い当たることがあった。
小さい頃。
僕も度々似た症状がおき、その度にステッラが必死に看病してくれた。
『チェーロ。これはね、『風邪』って言うの。
風邪を引いたとき、冷たい場所にいたりしたらますますひどくなっちゃうわ』
ステッラはそう言うといつも僕を抱きしめて、ステッラ自身の体温で温めてくれていたのを思い出す。
雨は、とても冷たい。容赦なく体温を奪っていく。
もしかしたら、ちはるは風邪を引いていたのではないか?
それで、冷たい雨で風邪をひどくしてそれで_____
ほぼ確信に近いそれを頭から導くと同時に、僕は窓の傍に駆け寄った。
ちはるを、助けに行こう。
窓の外を見ると、すでに雨は止み、薄暗くて厚い雲の隙間から綺麗な月の光が差し込んでいた。
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