コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- の甼
- 日時: 2017/07/22 00:39
- 名前: Garnet (ID: z/hwH3to)
Welcome to ???street.
Nickname is,"KUMACHI"
Their birthday...4th May 2016
To start writing...7th May 2016
(Contents>>)
【Citizen】(読み仮名・敬称略。登場人物の括弧内は誕生日)
●上総 ほたる (5/4)
●氷渡 流星 (12/23)
●佐久間 佑樹
●柳津 幸枝
○ひよこ
○てるてる522
○亜咲 りん
○河童
☆ ただいまスレ移動措置に伴い、スレッドをロックしております。 ☆
☆ 『 の甼』は、新コメライ板へお引っ越しする予定です。 ☆
*
──────強く、なりたい
- Re: の甼 ( No.16 )
- 日時: 2016/08/07 22:17
- 名前: Garnet (ID: t6xACGFO)
>ひよりん様
↑↑すみませんふざけましたァァア!!(土下座)
コメントありがとう。
久しぶり! がーねっちゃんは元気です!()
もうっ、いきなりいなくなっちゃうんだから、しばらくほんとに元気なくしてたんだからね〜( *`ω´)フーッ
でも相変わらずなようで安心したよ【あのスヤァの絵文字】
くうまちはCOSMOSより1レス1レスが長いし、ストーリーがどういう方向にいくのかも、読者目線では予想しづらい。だからそういう意味でも大変だったと思う……お疲れさまです(笑)
好きって言ってくれて今軽く天井に突き刺さったよふっふっふ( ^ω^ )
うん、嬉しい!
もともとこの話って、GW頃に見た夢を文にしてるものなんだけどね。その夢の中では、ほたるがわたしで、流星はわたしの友達によく似た人なの。
流星と彼は、とても重なりあう部分がある。だから、途切れた夢の続きをわたしの手で紡ぎ直して、みんなを幸せにしたいと思った。それで、くうまちは生まれたのです!
現実世界の彼も、最近元気になってきたみたいで嬉しす。
静かで切ない感じ、まさにそれはあの夢の中の感覚!!
再現できたみたいでとても……【またスヤァの絵文字】
流星×ほたるのカップリングが人気なので、佑樹くん推しの人が増えてくれて彼も喜んでいると思います。
ほたるもおばあちゃんも嬉しそうに手を振ってるよ! 遊びにいくときはお土産に是非ぽ○ぽ○焼きを!(笑)
佑樹くんとお付き合いの際は可愛い妹さんもついてくるので、遊んであげてね←←←
いやいや、わたしなんてまだまだだよ【スヤァと汗の陳列】
語彙力ね……、文を書くのに少しは慣れてきたから、そろそろ勉強を始めてます(汗) ほかの作家さんの真似をするには抵抗があるから、自分らしくこつこつと。
でもいちばん大事なのは、わざわざ小難しく書くことじゃなくて、やさしく深く、読者さんがわたしたちに触れやすく書くことなんじゃないかな? と最近思うようになってまし。まる。(ここって年齢層低いし尚更ね)
楽しむ目的でやってるんだし、伝わればいいんだよ。うん。
あっ、こんなこと言ってると、またわたしのことを悪く思う人が出てきそうなので、この辺で止めとかないと……。
わたしもひよりんの『さよならばいばい、また来世』を読んでやばいしか出てきません( ^ω^ )←
やばいかもほんと、続きが楽しみ!
おばあちゃんは可愛いところがあるのでね、うん。あ、あれはただのボケだね、ボケもんGowwww((
はい、次からちゃんと真面目にお話をさせます。
これからもばしばし執筆を続けていくので、懲りずにほたると流星たちを見てやっていてください。
応援ありがとう。
ではまた!
- Re: の甼 ( No.17 )
- 日時: 2016/08/09 21:22
- 名前: Garnet (ID: y36L2xkt)
「はいはい、仕切り直し、仕切り直し!」
とりあえず落ち着こうと、三人揃って温くなったお茶を飲んだ後。苦笑しながら、ぱんっ。とほたるさんが手を叩いた。
柳津さんは「歳だから仕方ないんじゃい!」と珍しくご立腹な様子だったので、お孫さんパワーで怒りを鎮めていただいた。やっぱり孫は可愛いみたいで。
僕も誰かの祖父になったら、その気持ちが少しは解るようになるのだろうか。そう思っていたところで、丁度孫からの説明が済んだ。
おほん、と祖母は咳払いする。
「わしの両親が、あの頃の明陽のリーダーだったところまでか。この家系は代々神に仕えていることも話したな」
「はい。すみません、話を遮ってしまって」
「構わん構わん!」
僕は本当に申し訳なくてしょうがなかったのに、彼女はさっきまでの不機嫌さが嘘のように笑っている。
顔はあんまり似ていないんだけど、人柄というか、オーラというか、そういうものはよく似ている。感情の切り替えが早いのも遺伝らしい。
かと思えば、またシリアスな雰囲気が、部屋の気温を二度くらい下げていく。
「けどなぁ、本当にギリギリの釣り合いは、たやすく崩されたのさ。」
…………柳津さんは、幸枝さんはまだ、幼く小さな女の子だった。三歳頃から、いつも忙しくしている両親に代わって村内にある伯母の家で面倒を見てもらうことになったのだが、いとこたちも、末っ子としてあっという間に幸枝さんを受け入れてくれた。
素直で、わがままも滅多に言わず、心の優しい子だと、伯母も子供たちも口を揃えるような性格で、よく家の手伝いもしたがる。そんな気立てのよさから、家の中だけにとどまらず、村中から可愛がられる存在になっていた。
感覚としては、現代にも通ずるものがある。たとえば、過疎、高齢化が進む、都市からかなり離れた島でたった一人の女の子が生まれたとしたら。島中の人が彼女のことを知り、そして孫のように可愛がる。狭い世界ではあるけれど、大切な姫になる。幸枝さんも、それに似た環境に置かれていたということだ。
そんな、苦しい中でも安らぎと笑顔が流れ行く毎日。もちろん、人々は『神様』に祈り続けている。
しかし、ある日を境に、小さなちいさな軋轢音が明陽村に響き始めた。
「あ、さっちゃん! 迎えに来てくれたんだね!」
「だって、あや姉に早く会いたかったんだもん」
あや姉こと綾子は、その言葉に口元をとろけさせ、わしゃわしゃと幸枝の短い髪を撫で回す。幸枝もまた、そんな反応に満更でもない様子だ。
学校の終業に合わせ、幸枝は、よくいとこ達の迎えに行っていた。一人遊びはするけれどあまり好かず、いつもいとこやその友達と遊びたがっていたのだ。
今日は宿題もないし、家の手伝いの当番も夕飯後の皿洗いだけだから、たくさん遊ぼうか!と言う綾子に目をキラキラ輝かせて、めいっぱいの笑顔で頷いた。
最初は校庭の土の上へのお絵描きから始まって、ふたりの様子を見かけた子供たちが、みるみるうちに集まっていく。鬼ごっこのオニがその人数に白旗を上げると、今度はかくれんぼをしようと、幸枝は彼らに提案した。
姫のお願いに当然のごとく意見は一致だ。
「じゃあ、鬼は隆一で決まりな!」
じゃんけんでもう一度オニが決められた。さっきの鬼ごっこでギブアップした男の子だ。
「えーっ、また僕〜?」
「いーじゃんか! お前、見つけるの得意だし!」
「そうだよ!」
彼があからさまに肩を落とすので、同級生の友達は、その背中をバシリと叩いて。
「うん……じゃあ、頑張るよ!」
「おーし! 60数えてから探せよな!! 圏内は、隣の林から、学校の敷地内まで」
「わかった!」
その場に彼が丸くしゃがみこみ、両手で目隠しをして数を数え始めたのを合図に、子供たちも散り散りに逃げていった。
「さっちゃん、わたしたちも隠れ場所探そうか」
「うんっ」
ふたりは、もう染み付いた癖で手を取り合い、金色の光を纏いつつある太陽の方へ向かって歩き出した。
幸枝と綾子の前髪が、微かに風に揺れる。
向かうのは、勿論林のほう。
「あや姉、どこに隠れる?」
「そうだなあ……木にのぼるのは難しいか」
「できない!」
「だよね」
独特な土の匂いや、いつのまにか淋しくなったアブラゼミの声がさざ波を立てる林の中に潜っても、ふたりはまだ悩んでいた。
そう簡単には見つからないような場所に隠れたいと、口にはしないものの、ふたりとも考えていたのだ。
「やっぱり茂みの中でいいかなあ……」
と少々弱気が(?)覗き始めた幸枝に、
「だめよ、もっと頭をひねったほうが面白い」
「えっ」
枯れ葉や枯れ枝をばりりと踏み締め、お姉さんは余計燃え始めている…………。
そんな時。少し遠くの木の陰で、仲間の何人かがこちらに背を向けているのが見えた。気付いた幸枝が綾子に声をかけたものの、あそこに隠れてるんじゃない?と言ったきり、喉を鳴らして考え込むばかりで、ほとんど相手にしてもらえず。
そろそろオニがその恐ろしい目を光らせて探しに来るかもしれないのに、何ということだ。彼女はその小さな足取りで軽やかに、子供たちのいる木の下を目指して走っていった。
その頬を滑り抜けていく風がもう随分と秋の色を含んでいることを、彼女はまだ理解していない。
- Re: の甼 ( No.18 )
- 日時: 2016/08/17 00:19
- 名前: Garnet (ID: RnkmdEze)
やっと、その木の下にたどり着くと、さっきオニになった隆一へその辺の"葉っぱ"をかき集めて浴びせていた子とその友人が3人、素早く振り向いた。みんな9歳の同級生だ。
3人はしゃがみこんでいるため、幸枝との視線がよく交じりあって、彼らの表情にすぐ安堵が戻ってきた。
「もう、びっくりしたあ、さっちゃんか! 隆一かと思ったじゃん!」
そのなかで、色の黒い、目付きがきりりとした子が笑い掛けてきた。
名前は池本善明(いけもと よしあき)。畑を挟んで、幸枝の叔母の家のお隣に住んでいる一人息子だ。
「ごめんなさいっ。隠れ場所が決まらなくて」
「それならここで、一緒に隠れようよ。今さっき隆一が皆を捜し始めたし」
「えっ!」
「次はさっちゃんがオニになるかもね〜?」
にやり、白い歯をちらつかせ、柔らかい頬をつつくと、幸枝は笑いながら叫び、走り回った。
「きゃー!」
彼は、いとこきょうだいに次いで幸枝の扱いに慣れている。
冗談だよ、と言いながら、小さな頭をおさえるように撫でてやるその瞳は、もうひとりの家族のような、優しいものだった。
もしかしたら、本当は、彼女のような妹が欲しかったのかもしれない。
「おいおい、さっきの幸枝ちゃんの声でバレたりしないよな?」
少しふくよかな子、村澤裕人(むらさわ ひろと)が、善明の後ろでもうひとりの男の子と向き合って地面に座り込み、その細い目を向けておどおどしながら訊ねる。
「それはないよ。隆一、校舎のほうに走ってったから」
「よかった……」
彼は普段からそういうところがあった。お陰で、仲間からは小心者だの意気地無しだのと言われているのだが、善明は決して彼らのように軽いきもちでそう言うことはない。
そうして居心地の良さを感じたのか、このメンバーで落ち着いたようだ。
「さっちゃん、近くに綾子さんもいるんだよね? だったら、善明がいるぞって、連れてきなよ」
「うん! じゃあ、あや姉のとこに行ってく────……あれ? カエルさん?」
幸枝が身を翻そうと踏み出すと、善明の陰で、小さな生き物が目に飛び込んできた。
よく見てみると、さっきから無口な子が両手の中に優しく包むように、小さなカエルを抱き上げている。
彼、横井大和(よこい やまと)は、この辺では一番川の下流に住んでいる、歳の離れたふたり兄弟の、弟だ。
「ああ、3人でここで喋ってたら、足元にいてさ。手に乗せてみたんだけど、動かなくって」
「さっきまでは息をしてたんだけど、もう……」
細目の子も、いつにも増して悲しそうな表情になる。
「ちょっと、わたしに貸して」
幸枝が手を差し出すと、大和は、目が隠れてしまいそうなほどの長い前髪を微かに揺らして頷き、カエルを、彼女の手のひらに移してやった。こう言っては何だが、彼はこう見えて、人に分け隔てなく接することができる、心の優しい子なのだ。
……幸枝はカエルをじっと見詰め始めた。その小さな身体は、まったく、動く気配が感じられない。
そんなころ、やっとと言うべきか綾子が別世界から帰還し、彼女を見つけて駆け寄ってきた。その目を綺麗な三角形に尖らせて。
「さっちゃん! もう、わたしを置いていかないでよ」
拗ね気味に手を腰に当てて言う。
しかし、幸枝はその声に反応を見せず、手の中にある何かを弄っていた。
理由なく人を無視するような性格ではないと解っている綾子は、恐る恐る彼女の目線に合うよう腰を下ろし、後ろから手元を覗きこんだが、その中身に失神しそうにさえなってしまう。仰向けに伸びたカエルを枯れ葉で撫でていたのだ。
思わず消え入るような短い悲鳴が上がった。
しかし、山村の娘がカエル嫌いだなんて情けない。しかもこの中ではいちばんのお姉さんなのだし、腰を抜かしてはいけない、いけない。精一杯の平静を装い、もう一度その白い腹を拝もうと身を乗り出すと、もうそいつは此方に背を向け顎を膨らませて、本来の姿に戻っているではないか。
そう思ったと同時に、その脚がゴムのように伸び、枯れ葉の海の中へ姿を消してしまった。
……小さな生命を救うことができた。それは喜ばしいことの筈なのだが。
「ふぇえ…………?」
この場に残ったのは、気まずい沈黙と、冷たい空気と、呆気にとられた綾子の声だけ。
そして、大和でさえ、幸枝に、バケモノでも見るような目を向けている。
「う、うそでしょう、幸枝ちゃん」
「え?」
そしてタイミングが良いのか悪いのか、丁度そこへ、かくれんぼのオニの隆一がやって来た。
がさり、と音を立てる枯れ葉たちに、彼らは青ざめた顔で、飛び付くように振り向いた。
「もう、やっとみつけた!」
彼は最初の様子からは想像できないほど嬉しそうに笑みをこぼしていたが、その異様な空気に気づき、みるみるうちに表情を暗くしていく。
力ない蝉の声が夕空に染み入るように消え失せ、強い北風が林を吹き抜けた。
一体、何があったというんだ。
幸枝は、彼に何かを訴えるように瞳を震わせている。
「りゅ、隆一。さっちゃんが、カエルを、死んだカエルを生き返らせちゃった」
この村の"ある種族"によく顕れる特徴だという、緑色をした、大きな瞳を。
- Re: の甼 ( No.19 )
- 日時: 2016/08/26 05:22
- 名前: Garnet (ID: iB2I6YCg)
「カエルさんは、やって来る冬に備えて、夏が終わればもう卵を産む。そうすると、今ぐらいには元気がなくなっちゃって、上手く歩けなくなることもあるんだって。それで、転んで頭を打つと、気絶しちゃったりするんだって。田んぼのおじちゃんが言ってたの」
茜色に濁る空の下、虫たちの歌で掻き消されてしまいそうな、幸枝の話し声が聞こえてくる。彼女の手を優しく握り歩いてゆく綾子は、そっかそっか、と相槌を打ちながらも、ずっと笑顔を見せることはなかった。
幼いながらにも、自分のしたことには気がついていた。例えそれが誤ってとられたことだとしても、すぐに弁解しなかった自分も悪い。……かくれんぼが終わって、そろそろ帰ろうかと皆が言い始めた頃から、綾子の表情を見て感じ取っていた。
「あや姉、やっぱりわたしが悪いんだよね」
歩みが止まる。
辺りを見回すと、この間の大雨で崩れた山が、いくつもの畑の上になだれ込んでいた。あの近くにある家に住んでいた村人は、あれ以来、兄弟の家に逃げ込んで帰ってこない。
この頃、鹿なんかがその土を掘り返して、まだ未熟な野菜を食い散らかしたりしていく。そこを狙って猟師が撃ったりもする。今、村に渦巻く想いは、ひとつひとつ晴らしてやれるほど単純なものでもないのだ。大人の事情というやつで、仕方のないことなのかもしれない。また今も銃声が轟き、遠くから鶏の泣き声が掠れて聞こえてきた。
きっと、今日のことも悪い形になって表れる。
「さっちゃん、大丈夫だからね」
背の高い綾子が崩れるように膝をつき、ぎゅう、と幸枝を抱き締めた。
震えが心の奥まで入り込んできた。
「幸枝のことは、わたしが守るからね」
このひとの瞳の色は、わたしとは違う。
「無理、しないで」
*
2日後、あの話はヒレだらけの汚い魚になって、叔母の家族にも回ってきた。少しずつ食い違う恐怖と先入観は、人々の都合よく梳られ、村に蔓延したのだ。
善明と大和の母親、裕人の友人が流出源らしい。
「もう秋になるんだね」
静まり返る夕飯の食卓で、綾子が呟いた。
耳を澄まさなくとも聞こえてくる虫の鳴き声と、冷たい夜風。台風の合間の静けさが、未来を暗示しているよう。
幸枝が悪いわけでないことは皆よく解っているけれど、気づいたときには取り返しのつかない状態になっていて。さらに、幸か不幸か、この世代での碧眼持ちは彼女ひとりだけ。村の人たちが気味悪がるのも無理はない。
「ちょっと……母さん、幸枝のお母さんに話をしてくる」
空になった食器を机の上に揃え、叔母は思い立ったように突然立ち上がると、静かに外へ出ていった。
「どうするんだろ」
「幸枝のお母さんのことだから、きっと、もう知ってるよね」
その一言で思い出す。
自分は、忙しい両親に代わって、この人たちに面倒を見てもらっているんだと。自分は、この人たちに迷惑を掛けているんだと。
こんなに良くしてくれた人たちを、もうこれ以上困らせたくない。けれども、幼さが道を塞いで、それ以上の答えにたどり着けずにいる。
「ねえみんな、今日のお祈りをしよう」
だからわたしは、今やるべきことを、わかることをやるしかなかった。
縁側に皆で並んで、自らの指を絡み合わせ、目を閉じる。何処までも深い星空に、願いが届きますように。
神様に語りかけた言葉が一人ひとり違ったとしても、きっと、芯にある想いはひとつのはずだから。
後悔はない。
事の元凶であるわたしが二ヶ月ほどの時間を無駄にしてしまったことは、両親にも叔母にもいとこにも、勿論村の人たちにも謝った。これが、わたしたちで導きだした最善の解決策だ。
偶然か否か、村が荒れ始めたのは丁度わたしが産まれてからで、そのわたしは本来ならば周囲から浮いてしまう存在だった。そう、善明たちも陰口に交えるほど、災いと重なりあう人間だったのだ。それなのに、村の皆はこれまで家族同然に接してくれていた。だからこうするべきだと思った。ひとりで出ていこうって。
けれど、あや姉が「さっちゃんを独りにさせたくない」と言い出したのをきっかけに、一族みんなが、自分も出ていく、と次々に手を挙げた。涙が、止まらなかった。
そして…………とうとう冬が、目の前で此方に向かって重い足を引きずり始めた頃、わたしたち一族がこの村を出ていくことに、正式に決まった。本家も分家も問わない。
行き先は、この川を下った先にあるという、ここよりも大きな町。村長がそこの町長と昔にコンタクトがあったそうだ。更に村長は後始末までしてくれた。
大人たちが何度も頭を下げ合うその光景が、なんだか異様に見えたのを覚えている。
しかし、村を出ていく2日前、父が村民たちに、ある約束を取り付けた。
「私達はここを出ていきますし、向こうでは普通の人間として生きていきます。死ぬまで明陽に戻るつもりはございません。ですが、次の世代の者たちには、この場所で生きていてほしいんです。どうかそのときには、温かく迎え入れてやってください。────彼らに、罪はありませんから」
- Re: の甼 ( No.20 )
- 日時: 2016/09/06 09:29
- 名前: Garnet (ID: GlabL33E)
「どう、言えばいいんだろう」
お茶のお代わりを戴いて、乾いた口の中を温めた。
文字に変換していたら原稿用紙が何枚あっても足りないだろう、というほどの思いを抱えながら未来に賭けたんだろうと思うと、言葉がごっそりと削がれていくような悲しみしか襲ってこない。
「そういう話って、初めて聞きました……何というか、今まで聞いてきた戦時中や戦後の、どの話とも違って……。遠い世界の、白昼夢、みたいな…………ごめんなさい、上手く言えません」
僕は人と話すとき、考えや思いを、先に頭の中で文章に組み立ててから声に変換するタイプだ。それが、ほたるさん達と出会ってからは嘘のように上手くいかない。今もそう。曖昧な感情の欠片を声にばらまいてから繋ぎ合わせるような、そんな不安定な話し方になってしまう。
見えない柵で囲われ仕切られた、小さな世界に生きてきた僕は、それこそ大海を知らずに育っていた。こんなギャップにも、一々対応しきれなくなっている。
でも。今の場所も、少し高いところから眺めてみたら、ただの水溜まりなのかもしれない。
人間がちいさいのか、それとも、世界がおおきいのか。
「謝る必要はないさ。ぼっちゃんなりにちゃんと聴いてくれたんだから、寧ろこっちが礼を言うべきだ」
「そうだよ、流星くん」
僕に向けてくれた笑顔が、一瞬だけそっくりに見えた。
本当に、強いなあと、思う。
「僕は弱い人間ですから……。何も、できませんから……。今でも、話を聴く位しかできないんです。そのせいで、大事な友達を失うことにまで、なってしまって」
机の表面の、流れるような模様をスクリーンに、目を細めて記憶のフォーカスを探し当てる。
明陽町から望む朝日は、とても美しいものだった。あとになってそれに気が付いた。あの人はそれをすぐに知りたいんだと言って、辛いのを心の奥に押し込んでまで山に登った。
「流星くんは、何も悪くないと思うよ」
自身への嘲笑が溜め息とともに漏れ出たと同時に、ほたるさんの声が聞こえてきた。
「少しだけ怖がりで、少しだけ冷たい場所があって、少しだけ、考えすぎちゃうだけなの。それは流星くんの持って生まれたものなだけであって、良いところでもあると思うの」
真剣に、まるで昔から僕を知っているみたいに言うものだから、吸い付かれるように心が彼女を見つめていた。でも彼女は、膝の上で握りしめた拳を見つめて、らしくなく、早口ではっきりしない言葉を走らせている。
「ほたるさん?」
「わたしは……、わたしは…………そう、思うの……」
垂れた髪に隠れて、表情はわからない。
でも、この光景には見覚えがあるような。出会ってから2日3日というわけでもないから、ただの思い込みかもしれないんだけれど。
「もう、いいよ。大丈夫」
伸ばした手が、小さな肩に触れたとき、ほんの少し震えたような気がした。
過去のことは、もうどうにもならない。まだ顔を上げてくれないほたるさんには申し訳ないけれど、柳津さんから一族の話の続きを聞くことにする。
「柳津さん、"彼ら"はその後、無事に月美で暮らせるようになったんですよね?」
「……勿論、苦労は絶えなかったがな。暮らし向きが安定するまでも、そして、してからも」
歩いて、船に乗って、また歩いて、歩いて、わたしたちは月美町にたどり着いた。話に聞いていた様子とは全く異なる、大きな場所に。最初は、川より南側の地区から月美に入ったのだけど、役所から町長さんに案内され付いていくと、橋を渡るんだと言われた。川の北側の地区に向かうみたいだ。
皆、自然と無口になりながら、橋の上を歩く。わたしは、先頭である両親の後ろであや姉と手を繋ぎながら町長につづく。
「大きいね、この川」
ふと上流のほうに目がいって、足が止まる。誰に言ったわけでもなかったのに、わたしのひとことで、行列が音もなく静止した。
水の奥にたくさんの宝石が沈んでいるみたいに、広くゆったりと蛇行する流れはキラキラと輝いていた。眩しいけれど、ずっと見ていたいと思うほど。
町の中はとても賑やかなのに、ここはとても静かだ。風の声以外は何も聞こえなくて。今わたしは、夢でも見ているんじゃないかと思い始めた頃、あや姉がわたしの手を握ったまましゃがんで、同じ目線で川面を見据えた。
手袋ごしにも温もりが伝わるこのときが、幸せだったことを覚えている。
「さっちゃん、この川はね、明陽で流れていたのと同じ川なんだよ」
「そうなの?」
「うん。繋がっているの。ここに来るまでの間も、近くでわたし達と一緒に走ってたのよ」
「そっかあ、川が大人になったから、皆も優しくなったんだね!」
「え……? ふふふっ……そうだね!」
あや姉がわたしの頭を撫でる。お母さんが微笑む。お父さんと町長さんも笑顔になる。他のみんなにも、次第に明るさが戻ってきた。わたしには皆が笑っていた意味はわからなかったけど、元気になってくれたのならそれで十分だから、一緒になって笑った。
「さ、行こうか」
あや姉が、肩をとんと叩いて、立ち上がった。わたしも頷いて、再びお母さんたちに付いていくことにした。またね、川さん。
……旅の間、彼女の目付きが引き締まっていくのを実感していた。明陽村にいたときより、心が強く、しなやかになったんだ。
迷いのない瞳は美しく川の光を受けて、前を向いていた。
わたしもあや姉みたいになりたいな。
「藤波さん」
それにしても、これから向かう町の北側はどんな風になっているんだろう。と胸を躍らせていたら、先頭の町長さんが、本家の苗字を口にして、両親に向かい合った。
彼らが急に歩くのをやめてしまったので、あや姉はお父さんの背中に激突しかけながら止まった。わたしと手を繋いでいたお陰で、人間ドミノにはならなかったみたいだ。
「これから、何を見ても、聞いても、驚かないでください。我々も最善を尽くしたつもりでございます。……これ以上は、町が安定しません……」
お母さんがその言葉に、不安の滲む表情でお父さんの横顔を見やった。
サブリーダーをしていた頃、表の仕事をしていたのはお父さんだ。それぞれの家庭を廻ったり、集会や行事の司会をしたりと、そういうことがあまり得意でないお母さんに代わって、いつも前に立っていた。
逆に、緻密な作業や重要書類の管理、近隣の首長との会談などを、お母さんは要領よく丁寧にこなすことができる人だ。今回のことも、村長にはサポートをしてもらったが、自分たちでできることは自分たちでやりたいからと、お母さんが中心に、月美町長たちと話し合いを重ねてきたのだ。明陽村長には、わたしたちがいなくなってからのことの処理だけを、任せてある。
だってわたし達は、これから一生、帰ることができないのだから。
「明陽村長とは昔のよしみですから、私としては、あなた方を喜んで受け入れたいと、準備を進めてきました。しかし……此方もこちらで、守るべき人たちがいる」
町長はそう言うと、白髪も薄くなっている頭を掻いて、列から外れた。そしてそのまま、ゆっくりと歩いていったので、戸惑いながらも橋を渡りきることにした。
無償の恩恵を受けるとなれば、その分、犠牲になるものは多いだろう。子どもら以外の皆が覚悟できていることだ。それでも、わたしたちの道のりには、山谷どころか沼や化け物が出る。
もう、なるようにしかならない。
父は乾いた唇で、色の無い声を発した。
「これは、何だよ」
彼らの後ろ姿を見上げているわたしは、これから起こることがどんなに惨いことなのか、理解するのに大変な時間を要してしまうのだけど。これがわたしの犯したもうひとつの過ちだったのかもしれない。
……低い土手から見渡す先には、人の影も形も見当たらぬ、生活感の無い北地区の景色が広がっていた。
田も畑も、民家も、魂が抜けてしまったかのように寂れていた。
「お前、このこと知っていたのか? 黙ってたのか?」
父の問いかけに、母は応えなかった。誰の口からもため息すらこぼれないのが、よくよく考えたら不気味だったと、綾子はのちに語っている。
近いうちに始まる河道整正の大規模な工事のために、北側の町民は、南側に移住したんだそうだ。