コメディ・ライト小説(新)

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巫山戯た学び舎
日時: 2018/08/18 08:37
名前: 河童 (ID: EX3Cp7d1)

――僕らに普通は難しい。だから、皆で巫山戯ふざけて学舎生活を楽しむんだ。




 初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童と申すものです。
 コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。

 コメント、アドバイス等はお待ちしております。
 荒らし、誹謗中傷、チェーンメール等はお止めください。


『目次』

第一話「一人ぼっちの幸せもの」  >>01-08
第二話「アンドロイドとおっさん」 >>09-13
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 >>14-15>>18
第三話「手首の行方」       >>19-22 >>27
第四話「変人の集い、始動」    >>28-34
第五話「愛と勇気と君の声援」   >>35-39 >>42-




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【kappa@1568】

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.26 )
日時: 2017/04/22 13:24
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: A3jnu3NM)

>>23

 はるたさん、こんにちは。そして、こちらでは初めまして。他所ではお世話になっております。返信が遅れたとかいうレベルで遅くなってしまって申し訳ないです。イラストにうつつを抜かしておりました。

 かっぱえびせんは河童要素よりえびせん要素を推しているから、あれは河童界の裏切り者なのだと。美味しいですけれどね。やめられないとまらない。

 読んでいただき、ありがとうございます! コメディ・ライトとは言うものの、あんまりギャグ一直線の小説ってないなあと思いつつ書きました。笑っていただけたようで幸いです。文章だけで人を笑顔にさせるのは、とても難しいですね。

 半本を最近の中学生の平均、と言ってしまうと過言すぎるんですよね(笑) 元気であることは若さの象徴ですからね。恐らくふざまなで一二を争うくらい元気な彼女は、それくらい若いのでしょうね。と、爺のようにしみじみと思います。

 ネーミングセンスの大本は、クレヨンしんちゃんなような気がします。あそこまでぶっ飛んでいて、それなのに響きはすごくいい。そんな名前を目指してます。半本とどろき、という名前はとても気に入ってます。「轟」という漢字のごついというか、猪突猛進という雰囲気を、平仮名にしてふんわり包む。でも、猪突猛進なのは変わらないし、彼女の本質はもしかしたら、漢字表記の「轟」なのかもしれないです。

 セリヌンティウスのような友達がいたら尊敬するとともに、私は少し引きそうです。あんな人を疑うことを知らない人は、ちょっと怖いです。なんだかんだ言ってメロスがいるからこそのセリヌンティウスでありますからね。作中で友達がいない音桐にも、親友ができるといいんですが、はたして。

 壕持は最初もうちょっとデレてもトゲトゲしてたんですけれどね。どうしてこうなったのでしょうか。謎です。しかし、こうチョロい感じの女の子は最高なので良いです。半本は自分よりおかしい人の前以外では、ボケまくりますね。

 女子同士のくすぐりは、本当に可愛らしいです。やられた側はくすぐられた後咳き込んでますが。そこも含めて可愛らしい。

 転んでもただでは起きない壕持です。学級委員長をやる人は、大体変人だと思ってます(偏見)

 ありがたいお言葉、感謝感謝です。精進しますね。はるたさんも、更新頑張ってください!


>>24

 朔良さん、こんにちは。他所ではお世話になっております。

 いえいえ、読んでいただけただけで嬉しいのに、感想まで残していただけるなんて感謝の極みです。

 ギャグなんです! 自分のギャグセンスは人と合っているのだろうか、と不安になりつつ。読むだけでげらげら笑ってしまうような小説を目指してます。

 そうですねー、明らかに顔が一人称「僕」って感じなのに、「俺」っていうのがすごく好きなので。そして本当の一人称をばらされてしまえ。格好いいを目指すも、顔がどう頑張っても可愛い系の男子っていいですよね。あざと可愛いのも好きです。

 腕って返す返さないとか言うものだったっけ、と自分でも困惑しています(笑)絶対に自分が害を被らないところからちょっかいをかけるの、とてもおもしろいです()

 コメントを頂けて本当に力が湧きます。精進しますね! 朔良さんも更新頑張ってください!


>>25

 他所ではお世話になってます。コメントありがとうございます!
 寝る子は育つと言いますし、たくさん寝ることはいいことです。私も1日17時間睡眠とかして休日を潰したことあります。

 そうですねー、中学校以上は基本俺です。正式な場とかでは僕って言いますけれど。
 見栄をはって一人称を誤魔化すから、バレたときに恥ずかしくなるんですよね。音桐の一人称を俺にしたのはこのシーンを書きたかったからです(笑)
 台詞は、できるだけ現実でも言いそうな言葉遣いを目指してるのでそう言ってくれて嬉しいです。でも、劇のようにきらきらとした台詞は作ることができないので、羨ましいです。
 ギャグって、ボケも大事ですけれどそれに対するツッコミも大事ですよね。笑っていただけて嬉しいです!
 半本の名前は本当に気に入っていて、キャラの性格に合わせられたな、と。キリッで笑ってしまいました(笑)
 もしかしたら、1話の時点でだだ漏れかもしれませんね。思ってることが表情に出やすいのでしょう。

 不幸自慢はなんかこう、幸薄い少女っていいなっていう私の願望です(笑)
 さあ、後々どうなっていくんでしょうか。私もわかりません。
 所謂はずっとしょせんって読んでた派です。どこをどう読んだらいわゆるになるのか。漢字の不思議です。
 校歌、学校の中で絶対にたくさん歌うのに、なかなか覚えられませんよね。私はうろ覚えです。
 藍央は、クズなのになんか憎めないキャラ(にしたい)です。
 真面目一辺倒な先生より、こういう人のほうが慕われやすい気がします。というか私がこういう人のほうが親しみを持てます。
 友達がいることで青春はより楽しめるけれど、別にいなくても楽しめないわけではないですよね。

 友達を作るのに作戦を建てる意味とは。私もわからないです。壕持みたいな人を相手するなら、作戦建てないとじゃね、みたいな。まあ、普通にぶつかったほうがよかったみたいですがね(笑)
 変なことを何回も何回もすると、吹っ切れちゃいそうですね。紀州梅をどういう方向性で使いたかったんでしょうね。
 流されやすいタイプの悲劇。でもきっと音桐はうまくやってくれるでしょう。きっと。

 いえ、全然失礼じゃないですよ。
 語彙力は私もないので大丈夫です。面白いと思っていただけて幸いです。
 コメントありがとうございました!

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.27 )
日時: 2017/04/22 13:25
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: A3jnu3NM)

「あの笛子って人、馬鹿なの……?」

 という壕持さんの言葉が、虚しく宙に消えた。その言葉は、ここにいる全ての人の意見を総括していた。僕も、半本さんも、加賀坂さんも、そして言葉を発した壕持さんもすべて、笛子くんのしでかしたことが理解できていなかった。
 確かに、彼は悪戯好きな部分があるのだろう。人がびっくりしているところを見るのが大好きで、きっと今の僕達の顔を見れば、満足そうににやりと笑うのだ。
 壕持さんの発した言葉の後には、一瞬の静寂があった。そして、その静けさのあと、いきなり加賀坂さんが笑いだした。

「はははっ! さすが緋色だ! あいつ、何かあると鼻眼鏡だもんな!」
「はい?」

 何かあると鼻眼鏡、という言葉のおかしさを、彼女はわかっていないのだろうか。何? 笛子くんは鼻眼鏡を常備していて、誰かにそれをかけるのが日常茶飯事なのか?
 そんな意味不明な言葉に対して、正直聞くべきなのだろうかと思いつつ、僕は疑問を呈する。

「笛子くんは、そんなに鼻眼鏡好きなの……?」
「そうだなあ、私と緋色は、鼻眼鏡はソウルメガネだ」
「ソウルメガネ!?」

 どんどん彼と加賀坂さんの頭のおかしい所が露呈する。まず、ソウルメガネという変な単語が出ていることに疑問を持たないのがおかしいし、鼻眼鏡をそこまで好きなのだということもおかしい。
 そんなに好きなんだったら自分でかけろよ。

「安泥さんに鼻眼鏡をかける意味は……?」
「緋色のことだ、どうせ面白がってつけさせたんだろ。あいつ、人が驚いてる顔大好きだからな」
「やっぱり」

 結局彼は人を驚かせるのが好きらしい。ただ、その驚く顔を見ることができないのに、こんな変なことをして楽しいのだろうか? 驚愕した顔を想像して楽しんでいるのだろうか。
 とりあえず、こんな意味の分からない会話を続けても何にもならない。話題を変えよう。

「で、安泥さん」
「はい」
「そろそろ京さんのところ、帰らない? もう時間も時間だし」

 公園内に設置されていた時計を見てみる。それは、5時半を示していた。渦杜中学校の門限は、6時。ここから京さんの家に帰るまでにはそんなに時間はかからないだろうけれど、僕達の家に行くまでには結構な距離があるし、30分程度はかかる。だから、そろそろ帰らないといけないのだ。
 それを理解してくれたのか、安泥さんは鼻眼鏡をつけたまま、

「そうですね。帰りましょうか」

 と言った。加賀坂さんが、『じゃあ私がロボットちゃんを送ってくから、かわいいくん達は帰りな』と、言った。白い歯を輝かせて笑っている彼女は、格好良かった。
 半本さんと僕がお礼を言って、壕持さんも加えた3人で公園から立ち去る。
 そして、2つに結った髪を揺らしながら半本さんは言った。

「あと1ヶ月もすると、運動会だね!」
「そうだね……運動苦手だから、あんまり嬉しくないなあ」
「まあ、そこそこにやりましょ。目立つの嫌だし」

 という壕持さんの言葉に、僕は驚く。もしかして彼女は、運動ができるのか? 友達がいないのに? なんだと、友達がいない人は体を動かすようなことがないから運動できない、と勝手に思っていたのに。なんだか裏切られたような思いになる。
 そんな風に壕持さんを見ていると、こちらをじろりと見て、

「何、音桐君。もしかして、友達がいない奴はみんな運動ができない、なんて思っていたの? 残念だったわね。私はそんな寂しい奴に思われたくないから家でひたすら踏み台昇降をして鍛えていたのよ」
「ふ、踏み台昇降を家でひたすらやっている図もかなり寂しいと思うけど……」
「なんですって! もしかして、あれをやっている時に姉と兄から呆れるような、可哀想なものを見るような目で見られたのはそのせいだったの」

 やっぱり、壕持さんは見た目に反してかなり残念だ。半本さんと肩を並べるレベルで。正直、壕持さんが何故友達を作らなかったのかがよくわからない。面白い性格をしているし、じっとしているだけでも人が寄ってきそうなのに。
 初対面の人と話す時の話題が、『今日もいい天気ですね』しかない僕と違って。

「まあまあ、そんな悲しいお話はやめて、楽しいお話をしようよ」
「さすが半本さん、その声は麗しく、人を心配している時の顔ですらも可愛らしいわ。さあ、楽しい話をしましょう。まあ半本さんがするだけでたとえ欠片ほどの興味もわかない話でも、愉快で心嬉しい話題になるのだけど」
「よくこの一瞬でそれだけの語彙力で話せるね……」

 彼女の半本さんへの心酔は、今に始まったことではないのでもう慣れてきた。半本さんへの好意は薄れるどころか、明らかに増えている。半本さんを褒めている時の壕持さんの目が、少し血走っているような気もしなくもないけれど、きっと気のせいだろう。友達がいない人の友情感というのは、えてして普通からいくらかずれている。
 しかし、半本さんにはどうしてあそこまで短時間で心を開いたんだろう。何か特別なことをしたのだろうか?

「特別なこと? いや、私はもっちーちゃんと一緒に帰ったりしただけだよ」
「いいえ、それは普通のことではないわ! 私と放課後3日以上連続で帰ることができた猛者は半本さんくらいよ! さすが半本さんね、忍耐力すらもある。素晴らしいわ」
「いやいや、もっちーちゃんと帰るのに忍耐力いらないよ。楽しいもん」
「ありがたき幸せ」
「壕持さんは王女に仕える騎士か何かなの……?」

 『そういう風に捉えても、まあ過言ではないわ』という壕持さん。どうやら過言だったみたいだ。
 そうこうしている間に、僕達の家も近くなりつつあった。夕暮れも赤みを増して、オレンジ色で街を彩っている。そう、5月に入ったら運動会シーズンになるのだ。学年委員会に入ってしまったし、きっと運動会での仕事もたくさんあるのだろう。大変そうだけれど、今日様々な人――約一名はロボット――と関わってみて、もしかしたら上手くいくかもしれない、と思いつつあった。
 そんな思いを残して、2人と十字路で別れる。夕焼けに染まる街に、半本さんと壕持さんが溶けていくのを、手を振りながら見つめていた。


第三話「手首の行方」 完

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.28 )
日時: 2017/05/04 15:45
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: vyWtoaEp)

第四話『変人の集い、始動』

「気をつけ。これから、学年委員会の活動をはじめます」
「はじめまーす」

 気の抜けた声が、僕達が椅子を引く音と共に教室の中に響いた。入学式の時には咲いてすらいなかった桜の木には、もう青々とした葉が目立ち始めている。入学式が昨日のことのように思えるけれど、もう5月だ。
 学校生活は意外と順調で、山脈道理くんなど、クラスの人とも少しずつ話すことができている。そう、僕だって成長したのだ。いつまでも、昔のような自分ではないのだ。半本さんみたいにとは行かないまでも、クラスの中での立ち位置は悪くないところに落ち着いてきている。
 そして今、僕達1年3組だけでなく、学校全体が盛り上がっている。運動会が控えているからだ。運動会。スポーツデー。正直、僕みたいな陰気な民には縁がないものだと思っていたのだけれど、それはどうやら違ったみたいだ。
 渦杜中学校は『生徒の自主性を重んじる教育』をモットーにしているらしく、運動会内の障害物競争の内容を、各学年委員会が決めている。今日は、その障害物競走の細かなところを詰めるために、こうして委員会が行われているのだった。
 加賀坂さんや笛子くん、半本さんなど、見覚えのある人から、この子は誰だろうという人まで。しかし、どの人にも言えるのは、個性が強いということだ。学年委員会での常識人なんて、僕くらいしかいないと思う。それくらい、みんな頭が少しおかしい。
 学年委員会の委員長にまでなった半本さんを筆頭に、みんな。
 そんな十人十色どころか、1人で虹色に輝いているような人々が集まって、会議なんてできるのだろうか……? なんていう不安が漂いつつも、委員会活動が開始した。

「なあ、質問いいか」
「ん、どうしたの、蒼ちゃん?」

 手を挙げて発言する加賀坂さん。まだ何も始まってすらいないのに、何を聞きたいのだろうか?

「えっちゃん先生いなくね?」
「えっちゃん先生……? ああ、藍央先生ね。あ、ほんとだ!」

 知り合って1ヶ月の先生をもうあだ名で呼んでいる加賀坂さんのメンタルの強さは置いておくとして、なぜ藍央先生がいないのか。
 大方今日委員会があることなんてすっかり忘れて寝てたとかなんだろうけれど。そもそも、なんであんなちゃらんぽらんな先生を学年委員会というかなり大事なポジションの顧問に据えたのか。人事が謎である。
 そして、藍央先生がどこにいったのか話し合っているその時、教室のドアが開いた。
 そこには、少し目の赤くなっている藍央先生その人がいた。

「おー、ごめん寝てたわ。委員会やってるんだろ? 続けて続けて」
「続けて続けて、じゃないでしょう、藍央センセー。不真面目な先生は不真面目な生徒を生み出すんすよ?」
「まあまあ、そんな堅いこと言うなよ笛子クンよ。俺みてーな奴を反面教師にしてくれやー」

 なんて、飄々とした態度の先生。笛子くんですら煙に巻くとは。受け流された笛子くんは、特にそれを気にすることなく、にやにやとしたまま、

「じゃあ委員長、はじめよーぜ。障害物競走だろ?」
「あ、うん。そうだね。何か案ある人、いる?」

 そう半本さんが言うと、2、3手が挙がる。加賀坂さんと、あと2人は話したことのない人だ。
 1人は、黒いくせっ毛が肩の上くらいまである女子。名札を見てみると、『1年4組 笹木崎ささきざき 真姫まき』と書かれている。彼女が4組を代表する学級委員長へんじんらしい。
 そして、もう1人は彼女の後ろに座っている、困り眉と前髪が短く、横の髪をピンで止めているのが特徴的な男子だった。名札には、笹木崎さんと同じ1年4組という表記と、宮根みやね すばるという文字が書かれていた。あまり変な人には見えないけれど、やはり学年委員会ということで確実に変人だ。
 そして、半本さんが、加賀坂さんに発表を促した。そして、立ち上がって彼女は話し始めた。

「まず、最初は瓦を20枚割ってだな――」
「ストップ」

 と、加賀坂さんを遮ったのは、先程手を挙げていた笹木崎さんだ。半分呆れたような顔をしながら、やれやれという風に発言する。

「あのねえ、蒼。この障害物競走は人間が行う競技なのよ。わかる? ゴリラの競走じゃないわけ」
「ゴリラァ? こんなん簡単じゃないか。誰だってできる」
「まあ、ゴリラならできるでしょうね」

 と、至って普通の指摘をする彼女。もしかしたら、ただただ変人が集まっただけのグループだと思っていた学年委員会にも、僕のようにまともな人材がいたのか! なんて思っていたのも束の間。『私がゴリラではない提案をしてあげましょう』という言葉の次に笹木崎さんが言ったのは、お世辞にも普通とは言えなかった。

「こういうのは人間がやるのを前提に考えるのよ。人間はスリルを好むわ。だから、スタートと同時に足元から爆竹を出現させて――」
「いやいやいやいや」

 期待させておいてこれかよ。もうこの時点でまともさなんて1%もない。下手すると瓦割りよりも意味不明な提案に、つい僕は口を挟んでしまった。
 すると、笹木崎さんはなぜ僕が彼女の発言を遮ったのかわからないとでも言うかのようにこちらを向いた。

「あら、どうしたのかしら宗谷くん。私のこのパーフェクト提案に何か問題でも?」
「いや、問題しかないでしょう……。そんなことして怪我でもしたらどうするんですか!」
「宗谷くん、こんな言葉を聞いたことはないかしら?」
「なんです?」

 そう言って、笹木崎さんはこちらを指でさし、2秒ほどタメた後、自信満々な表情で言った。

「一発だけなら誤射かもしれない」
「そんなわけないでしょっ!」

 柄にもなく大きな声を上げてしまった。しかし、これはもう僕の手ではどうしようもできないくらい、頭のおかしい人しかいないらしい。
 やはり、こんな変人の集団で、なにかを決めようとするのが間違いなのではないだろうか。本当にこの会議がまともに終わるのか、不安すぎる。こうやって、困惑とともに学年委員会へんじんのつどいは、始動するのだった。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.29 )
日時: 2017/05/05 11:53
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: 9mZpevdx)

 爆竹だの、瓦割りだの、いちい指摘しているとキリがないことにようやく気づいたので、話を変えることにしよう。頭のおかしい人にまともな話をするのは、馬に念仏を理解しろというくらい無理な話である。
 そういえば、加賀坂さんと笹木崎さんの他に、もう1人手を挙げている人がいなかったっけ。宮根――くん? その人はまだまともそうだ。きっとこの人なら僕を助けてくれるはず、そう信じて僕は、

「笹木崎さんと話してても、もう埒が明かないから、宮根くんの意見を発表してよ」
「宗谷くん、人畜無害そうに見えて私への当たり強くない?」
「気のせいです」

 むう、と言いながら座る笹木崎さん。話をすればちゃんと座ってくれるあたり、頭のおかしい中ではまともである。
 しかし、半本さんはこの変人の意見になにも疑問を持たないのだろうか? と思って彼女の方を見てみると、黒板に向かって蛙かなにかのように跳ねているのが見えた。どうやら、今までに出た意見を書こうとしたが、黒板の一番上まで手が届かないらしい。
 半本さんはうちのクラスだけでなく、学年全体を見ても小さい方だ。彼女が、人を見上げずに会話したのを見たことがない。
 そんな彼女に黒板などという高い壁と闘わせるのは酷だし、手伝ってあげようとすると、

「いや、大丈夫! 私、身長、大きいから! だから、昴、くん! 発表! してて!」
「え、あ、うん」

 やたらと区切りをつけて喋っているのは、ずっと跳ねていて息があがってきたためだろう。
 必死の闘いによって、『瓦割り』と読めなくはない字が黒板に書かれたのを見て、宮根くんは話し始める。お願いだから、まともなことを喋ってくれ。

「うーんと、障害物競走だし、麻袋に足を入れてジャンプして進む、みたいなのがいいと思うな」

 思っていた以上に、彼はまともだったらしい。ありがとう、宮根くん。そしてごめん。君を笹木崎さんや加賀坂さんのような変人と同じくくりに入れてしまって。
 正直、学年委員会にはもう常識人はいないだろう、と思っていたのだ。普通の人の皮を被った変人はいても、皮から身まで常識人なんていない。そう思っていた。そこに彼が現れたのである。砂漠の中に落とした針を見つけたような、そんな喜びがある。
 しかし、彼の発表が終わったときに、口を挟む人がいた。笛子くんだ。彼が何かに口を出すという時点で、僕には嫌な予感しかしない。

「昴、お前そんな普通のこと言ってたら学年委員会でやっていけないぜ?」

 なんていうことを言うんだ笛子くんは。逆に異常なことしかしてこなくて、よくこの人達は生きてこれたなあ。そして、加賀坂さんがそれに続く。

「そうだぜ、すばなんとか。そうやって普通のことばっか言ってるから、お前の名前忘れちまったわ」
「いやいや! おれの名前の3分の2覚えてるのにその先の文字がわからないのはおかしいでしょ!」
「いやー、忘れちゃったわー。須走だっけ?」
「違う! おれは静岡県にあった小山町と合併された村じゃない!」

 そしてカオスになっていく会議。コントが入る会議とか聞いたことがないぞ。
 笹木崎さんも乱入して、さらに渦巻いていく。もう収集がつけられないのではないか、というところで、ようやく黒板に全ての意見を書き終えることができた半本さんが言った。

「みんなさ、考えてみて。この競技に参加するのは、普通の人なんだよ。爆発には耐えられないし、瓦も割れないの」
「そういえばそうだったな! 忘れてた!」

 そんな当たり前のことを再確認しないといけないレベルで、この人達は意味不明らしい。まあでも仕方ないかな、なんて納得しそうになっている自分が怖かった。いや、なに頭のおかしい人を理解しているんだよ、僕。僕は、普通の人なんだ。
 あまりにも変人が多すぎて、少し毒されてしまっただけで、僕は普通の人だ。こういう時はお金の話を考えよう。
 500円玉というのは、硬貨の中で1番お金らしいと思う。なぜなら、金色だからだ。単純だと思ったかもしれないけれど、これはとても重要な事だ。『お金』というのに赤色や青色だったらどう思うだろうか。がっかりすると思う。『忍者』なのに忍んでない忍者を見て何だあれ、と思うのと同じように。
 そう、500円は硬貨の中で、唯一名前負けしていないお金なのだ。素晴らしい。500円玉は神だと、普段から思っているのが、こういうパニックすらも撃退できるとは、500円玉の神様度がさらに上がった。
 そんなお金のことを考えているうちに、議論は終結しようとしていた。宮根くんの提案した、麻袋に足を入れて跳ぶ、というものだ。よかった、まともなものになるみたいで。
 だが、学年委員会は忙しい。この議論が終わっても、僕達にはやることがある。
 それは、運動会のポスター作りだ。変人のセンスは果たしてみんなに受け入れられるのか、とても心配なのだけれど、これも仕事だ。やるしかない。
 さあ、どんなポスターになるのか。今1人1枚渡された、白い画用紙を見つめた。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.30 )
日時: 2017/05/08 22:10
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)

「ねーねー、宗谷くん描けた?」
「うーん、あんまり何描けばいいのかわからなくて……」

 白い白い紙を見ていると、一度ポスターを描くために教卓ではなく、僕の前の席へ座った半本さんが、振り返って話しかけてきた。中学校に入ってから、はじめての運動会のため、ポスターを描けと言われても、何を描けばいいのかがわからないのだった。
 シャープペンシルを持ってはみるけれど、くるくるとそれを回したあと、すぐに手は動かなくなってしまう。
 僕も他の人が何を描いているのかが気になっていたので、その意味でも、半本さんに話しかけてもらえたことは幸いだった。
 自分は何も描いていないということを伝えてから、彼女のポスターをちらりと見る。半本さんの紙には、鉛筆で描かれたラフのようなものが見えた。そこからでも、僕との圧倒的な画力の差が見えた。アタリ……って言うんだっけ? そういうものを僕は描いたことがないけれど、なんかこう、人を描くにあたっての下描きのようなものと聞いたことがある。今までは漫画かなんかがやっているイメージだったけれど、こうやって直に見てみるとそういうテクニックは本物のものなんだなあと思う。

「半本さん、すごいね。僕とは大違いだよ。何描いてるの?」
「うんとね、まず真ん中に大仏がいてー」
「だ、大仏」

 どうやら、絵は上手いけれど、センスがかなり独特なようだ。何をどうしたら運動会のポスターに大仏様が登場し始めるのだろうか。頭のいい人の思考回路はよくわからないなあ、と思いつつ、右隣の人の絵を見てみる。半本さんは、前を向いてまた描き始めた。
 右隣は、宮根君だった。彼の絵はどのようなものなのだろうか。覗いてみてみると、とてつもなく上手い絵、というわけではないけれど、安定した絵柄――とでもいうのだろうか。とにかく、下手ではない絵だった。どうして、この学年委員には絵の上手い人が多いのだろうか。
 上手いなあ、と呟くと、宮根くんがこちらを向いて、そうでもないよーと言った。
 上手い人ほど謙遜するのだ。絵が上手い人の『こんなの簡単に描けるよ』と、勉強ができる人の『この問題は簡単だからやってみて』は信用しないことにしている。確実にその絵であったり勉強だったりの説明で、僕の知らない単語がぽんぽん出てくるからだ。
 実力がある人は、実力がある人々ワールドで生きてきたから、その中の常識で語るのだ。だから、僕達のような一般の人々はわからない。
 そして、僕と宮根くんの話を聞いたのか、彼の前の笹木崎さんがこちらを見て話しかけてくる。

「宮根くん、こういう芸術系も、勉強も、運動も、全部そこそこできるのよね。私、勉強がそこそこできるくらいだから羨ましいわー」
「えへへ、嬉しいな」
「まあでも、人間欠点がないと面白くないのよ? そこの宗谷くんも、お友達がいないというところがあってこその面白さだもの」
「ちょっと待って、僕の友達がいない話、そこまで広まってるの?」

 まさかクラスを越え、初めて会った人にすらそのことを指摘されるとは思わなかった。もう、僕は友達がいないことを堂々と発表し、面白がられた方がいいのだろうか。と、いうか僕野どこが面白いのだろうか。

「だって、宗谷くんさ。友達がいないって聞いた割には、私の支離滅裂なお話に突っ込むっていう結構勇気いることするじゃない? 」
「支離滅裂だとは思ってるんだ」
「あったりまえじゃない。あんなの冗談よ、冗談。笛子くんとか、蒼とかはもう昔から私の冗談癖を知ってるから何も言わないのよ。宮根くんはまともだからいちいち律儀に突っ込んでくれるけどさ」

 やっぱり、一応彼女はまとも枠に入っているらしい。かなり堂々と冗談を喋っていたから、まさかお遊びでそんなこと言っていたなんて、驚きである。
 そんな気持ちが表情に出ていたのか、僕を見てにやにやと笑う。笛子君とはまた違うタイプの笑みである。人を騙して笑う、例えて言うなら詐欺師のような笑いだ。

「……ねえ、今私の笑い方を見て、すごく失礼なこと考えなかった?」
「ぜ、ぜんぜんぜん?」
「ぜんが1つ多いわよ、この阿呆」

 動揺がわかりやすすぎた僕に、呆れつつ笑う彼女。なんだか、いじりやすそうな奴だなあ、と思われている気もしないでもない。

「話は戻るけど、そうね、蒼が言っていることは全部あれ大真面目に言ってるから。あれは反論しないといけないわ。ほんっとうに、あいつは他の人も自分と同じゴリラ系ヒューマンだと思いこんでる」
「ゴリラ系ヒューマンという言葉がとても気になるんだけど」
「造語よ。格好いいでしょう?」
「笹木崎さんって、ネーミングセンス死んでるんだね」
「結構辛辣ね、あなた。本心からこの言葉はとてもクールで素晴らしいものだと思ったのだけれど」

 やっぱりセンス死んでるよ、と言おうと思ったけれど、ここは流石に口をつぐむ。なんだろうか、やはり変人というのはセンスがおかしいから変人なのだろうか。きっとそうなんだろうなあ。
 笹木崎さんは、そろそろポスター描かないといけないな、と言って前を向く。そして、それと同時に宮根君がこちらに話しかけてきた。

「音桐くん。きっと、真姫さん君のことかなり気に入ったと思うよ。面白い人は、大体好きだから、あの人」
「ええ、僕面白くないと思うけどなあ」

 なんてこそこそと話していると、再度癖っ毛の彼女がこちらを向く。真ん中で分けた黒髪を揺らして、僕と宮根くんに言った。

「私が面白い人を気に入るのは本当だし、宗谷くんと、とどろきちゃんを好きになったのも事実よ。だからとっとと仕事をしなさい、宮根くんもね」

 その言葉は、厳しいながらも優しさが込められていたように聞こえた。なんだか、色々な人に関わってもらって、学園生活が上手くいきそうな気がしてきた。
 少しにやけてしそうになるのを抑えつつ、自分の黒い髪を触る。少し、照れてしまう。きっと、渦杜中学校は楽しい生活になってくれるだろう。窓の外を見ると、雲ひとつ無い青い空が見えた。


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