コメディ・ライト小説(新)
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- 巫山戯た学び舎
- 日時: 2018/08/18 08:37
- 名前: 河童 (ID: EX3Cp7d1)
――僕らに普通は難しい。だから、皆で巫山戯て学舎生活を楽しむんだ。
初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童と申すものです。
コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。
コメント、アドバイス等はお待ちしております。
荒らし、誹謗中傷、チェーンメール等はお止めください。
『目次』
第一話「一人ぼっちの幸せもの」 >>01-08
第二話「アンドロイドとおっさん」 >>09-13
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 >>14-15、>>18
第三話「手首の行方」 >>19-22 >>27
第四話「変人の集い、始動」 >>28-34
第五話「愛と勇気と君の声援」 >>35-39 >>42-
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【kappa@1568】
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.16 )
- 日時: 2016/12/05 22:13
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
こんばんは。
初めまして、でしょうか……←
雑談掲示板の宣伝を見て、読んでみたい!!と思ったので読ませて頂きました←
まだ第1話までしか読めていないのですが……。(かなりスピードが遅いもので←)
すごく面白かったです!!
どう言い表せばいいのか分からないですが、キャラの名前のインパクトから口調や性格、行動……すべてに目が離せませんでした!
主人公の宗谷くんの心情描写が本当に好きです♪
こういう描写、私もできるようになりたいです(o´艸`)
また続きも読ませて頂きますね!
なんだか、早く早く感想が伝えたくて(大したこと言えてなくてすみません)コメントしました(笑)
これからも更新頑張ってください!
無理しない程度で。
陰ながら応援してます!
それではお邪魔しましたm(*_ _)m
byてるてる522
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.17 )
- 日時: 2016/12/06 16:23
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
>>16
てるてる522様、初コメントありがとうございます。はじめまして、河童と申すものです。
ありがとうございます、読んでいただけて非常に嬉しいです。
ギャグ漫画である以上、キャラが薄いというのは駄目でしょ! と思い、名前から性格から濃くしまくりましたw
主人公、気に入ってくださりありがとうございます! 続きも読んでいただけるということで、嬉しいしか言えないです……。語彙力ェ……。
精進します。ありがとうございました。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.18 )
- 日時: 2016/12/09 02:54
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
ぶわあ、と砂埃が私やまぐろちゃん達にかかった時には、蒼ちゃんは砂場にクレーターを作っていた。足と同じ形の深さ5センチメートルくらいの穴が、砂場にできていたのだ。……砂場だから当たり前だけれど。
「よし、砂で城作るぞ」
「よっしゃ、やる」
長袖のジャージの袖を捲りながら言う蒼ちゃんに、まぐろちゃんが乗り気そうに言う。砂場でお城作りって、もっと広い所でやるようなことなのではないだろうか。
そして私はこの日のために、自分の中で一番可愛いと思っている服――いわゆる一張羅というものを着ているので、砂場には入ることができない。
こういうことになるんだったら、私もジャージを着てくるんだった! せっかく仲良くなれるチャンスだったのに!
「あ、じゃああたしパスー。可愛いあたしが汚れるなんて嫌だもん」
「はいでたナルシスト発言。お前はそういう所を直せ」
「やだもーん。ね、とどろきちゃん。あそこのベンチでお話しよ?」
「ん、いいよ」
と、思ったら、正義ちゃんも砂場に入ってはいけないらしく、砂場、近くのベンチでお話することになった。この公園唯一の砂場だ。
そういえば、この公園には名前はあるのだろうか。
「公園の名前? うーん、気にしたことないなあ。無いんじゃない?」
「無いんじゃないって……」
「わざわざなんとか公園って呼ばないんだよね。私の家に近いからさ、近くの公園で遊ぼ、みたいな」
「ふうん」
そんなものなのだろうか。私は、名前がついているものやついているであろうものは、必ず正式名称で呼ばないと気が済まないのだけれど。
公園の近くに家があるのはいいな、と私は赤い屋根の家があることに気がついた。仲良しな一家が住んでいそうな、赤くて大きい家。正義ちゃんが住んでいても違和感なんて全然ないような。
彼女はあそこに住んでいるのだろうか。
私はあの家を指しながら言った。
「正義ちゃんってあの家に住んでるの?」
「えー? いや、違うよ。あたしはその隣のアパート」
「へえ、そうなんだ。ああいう可愛い家に住んでるのかと思ってた」
「えへへ、まあ可愛いあたしには可愛い家がふさわしいんだろうね」
「黙れよ」
「うわあっ! びっくりした」
それまで、クオリティが高すぎるお城を作っていたまぐろちゃんが、いきなりぶっきらぼうに言い放つ。今まで感情豊かに話していただけに、感情が抜け落ちた声を聞くと、落差が大きくて怖い。美術品のような御殿を作る手さばきも機械じみていて、まるでロボットのようだ。
しかし、いきなりあたりが強くなったなあ。正義ちゃんは可愛いのだから、そこは認めてあげてもいいのでは?
「駄目だよ、甘やかしちゃ。こういうやつは徹底的に潰さないと」
「怖いなあ、まぐろちゃん」
その台詞も感情が抜け落ちているので、なんだか怖く感じているように聞こえなかった。
すると、蒼ちゃんが私達を呼んだ。
「おーいお前ら! 城が! キャッスルができたぞ!」
「おー! ……おおお?」
「ん? あれあれ?」
「ねえ、加賀坂ちょっと」
と、私達が困惑するのも無理はないと思う。なぜなら、おそらく蒼ちゃんが作ったであろう部分のお城の砂が、どう考えても魔物のようななにかなのだから。
「ん? なんだ」
「なんで砂の城作るって言った本人がモンスターを作ってるわけ?」
「いやいや、お前の目は節穴かよ。どう見ても城だろ、キャッスルだろ、パレスだろ」
「節穴はあんただよ。どこが城なの?」
まぐろちゃんが私達の言いたかったことをすべて言う。蒼ちゃんを、『加賀坂』と呼び捨てにしているのはびっくりだ。基本的に蒼ちゃんは『加賀坂さん』とか、『蒼さん』と、さん付けされているから、そんな風に呼ばれているのが新鮮で面白い。しかも、小学生が。
そして、蒼ちゃんがその言葉は間違いである、と認めるためなのか、砂の魔物を指でさす。
「ほら、まずはここが窓だろ? んで、これが――」
だけれど、悲しいかな。私にはその窓と言われたものは魔物の口にしか見えない。ぐにゃり、と曲がりくねった砂の魔物は、零れ落ちている砂の粒によってますます怖さを示していた。
「うーん、蒼ちゃん。私にはそれはお城に見えないかなあ」
「なんだって!? なんでだ、私は小学校の時絵の賞に入ったんだぞ……」
「え? それで?」
正義ちゃんが口を挟む。言っちゃ駄目! 私もちょっと思ってしまったけれどそういうことは言っちゃ駄目! でも、賞を取ったのは本当なのだろう。胸を張り、目を開き自慢げに言うその姿は、嘘を言っているように見えなかった。
「動物園の象を描いたんだけどさ、『この世の闇を表した良いポスターですね』って褒められたんだぜ?」
「この世の闇を表した良いポスターって象の絵を褒める言葉ではないと思うよ蒼ちゃん……」
「いや、私の絵はきっと他の人の想像をかき立てる素晴らしいものなんだよ!」
「なんてことだ、こいつポジティブすぎるぞ!」
まぐろちゃんが大きい身振り手振りを加えながら言う。悲壮感漂う声だけれど、無表情でドン引きのポーズを取っているのは、ただのギャグにしか見えない。
正義ちゃんも呆れて、砂の城らしきものに近づく。
「こんなの城って言えないよ。城っていうのはもっとプリティで、可愛いものじゃないと駄目なの!」
「プリティと可愛いで意味被ってるよ」
「些細な言葉の間違いを指摘するなんて、まぐろちゃん性格悪いよ!」
「お前が言うな」
口喧嘩が始まるかと思ったら、そのまま仲良しな雰囲気だ。やはり、口ではなんだかんだ言っていても、本当に絆が深いんだろう。今日見ていただけでもわかった。
あと、蒼ちゃんのセンスもわかった。まあそこが可愛いんだけどね。
すると、蒼ちゃんが拗ねたように言った。
「そんなに言うならお前が作ってみろ――」
よ、と言い終わる頃には、『それ』は砂の城に突き刺さり、粉砕していた。人間の手首から先がそのまま飛んできたような『それ』は、見れば見るほどに本物のようで。ありえないことだ。人の腕が飛んでくるなんてことは。
だけれど、それは紛れもない現実で。私達はその手首を、崩れ去った城を見つめることしかできなかった。
呆然と立ち尽くす私達を正気に戻したのは、聞き覚えのある声である。
「すいませーん! そっちに腕行きませんでしたかー?」
私は声がした方向を無意識に見る。
やはりその声は彼のものだった。そう、つい最近会ったばかりの私の友達。走ってこちらに向かってくるのは、宗谷くんだった。
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 完
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.19 )
- 日時: 2016/12/14 02:24
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
第三話「手首の行方」
「すいませーん! そっちに腕行きませんでしたかー?」
自分で言って馬鹿みたいだと思った。でも、こうとしか言えないだろう。だってまさか、壕持さんが、杏さんに『ロケットパンチしてみてよ』なんて言うとは思っていなかったのだ。京さんが途中でコンビニに寄ってしまって、笛子君と壕持さんのやりたい放題フィールドになってしまった。その結果がこれである。
あれだけロボットだなんだとびっくりしていたのに、今では慣れに慣れまくって指示までするとは……。
どうやって腕のことを誤魔化そうかな、と思いながら腕が飛んでいった方向に走っていくと、見覚えのある人影が2つ見えた。
「あ、宗谷くん!」
「よっ、かわいい君」
「半本さん……と、加賀坂さん」
「なんだ、私はおまけか?」
「そういうわけではない……です」
テロリスト系友情感こと、半本さんと、最強の女子中学生こと、加賀坂さん。そういえば、彼女達は今日遊ぶ約束を、してたとかしてないとか言っていたような。でも、2人だけでこんな大きくはない公園で、何をしていたのだろうか。特に、加賀坂さんが着ている青いジャージが砂まみれで、砂場には、片方は城、もう一方は謎の生物という、意味の分からない砂の像があった。まさか、加賀坂さんが作ったとか? いやいや、彼女は美術が大得意と豪語していた。こんなむごいものを作るわけがないだろう。きっと、彼女達の前に来ていた子供が作ったのを壊さないように、幅跳びでもしていたんだろう。
……幅跳びをする女子中学生というのも、よく考えたら頭がおかしいが、まあ考えるのはやめておこう。
対して、半本さんのオレンジがかった白のTシャツと、赤い、ひだのついたスカートにはほとんど砂がついていなかった。
しかし、砂場に落ちた腕を拾ったときのものだろう、スカートの裾が少しだけ汚れていた。
「半本さんですって?」
「うわあっ!?」
柄にもないような大きい声を出してしまったけれど、それは仕方ないと思う。だって、先程まで笛子君と一緒にコンビニの駐車場にいたのに、半本さんが話した瞬間に壕持さんが僕の隣にいたからだ。
そして、彼女は、半本さんを見て天使を見るような笑顔を浮かべたあと、加賀坂さんを見てまるで初対面のときのように睨みつけた。
「貴女ねえ、半本さんを私から奪おうとしたって無駄なんだから!」
「何を言っているんだこいつは……」
「もっちーちゃん、蒼ちゃんとも仲良くしよ?」
「いくら半本さんとはいえ、そのお願いは聞くことができないわ」
「もう」
半本さんは困ったように微笑む。その笑顔を見て落ち着いたのか、壕持さんは引き下がる。
「……ていうか、2人だけでこんな狭い所で何やってたの?」
「え? 2人じゃないよ?」
「え?」
と、言われても、周りには半本さんと加賀坂さん、壕持さん、そして僕しかいない。特にこの公園には隠れられそうな場所はないし、もしかして半本さんは幽霊でも見たのだろうか?
怖い話が苦手な僕は、少し表情が固くなる。
「いやいや違うよ! 幽霊とかじゃないって、本当にいたもん。ねえ、蒼ちゃん?」
「んー? いや、いなかったかもしれないなー」
「もう、蒼ちゃん! 面白がってるでしょ!」
にやにやと笑いながら言う加賀坂さん。多分、腕が飛んでくるなどという怪奇現象にびっくりして、逃げたのだろう。どこにいったのかはわからないけれど。
すると、くしゃり、と草を踏み分ける音が聞こえた。その方向を見ると、『I love Teddy Bear』と書かれた、フリルが着いたシャツを着ている、小さい女の子がいた。
「あの子が半本さんと加賀坂と遊んでたって子?」
「え、うん。そうだけど……」
壕持さんが聞くと、半本さんはそう答えた。しかし、不思議そうな顔しながらだ。まるで、私達と遊んだ人はもう1人いるとでも言いたそうな表情である。
女の子が、こちらへ近づいてくる。にこりともせず、大人びている印象を受けた。そのぼうっとした無表情は杏さんを想起させる。
そして、僕達の近くに来て、淡々と喋った。
「ごめん、ちょっと家に忘れ物をしていたんだ」
「えっと、うん……うん?」
「あれ、知らない人だ。こんにちは、私は無元智相。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします」
抑揚のない、まるでカンペを読んでいるような棒読み。しかし、無表情だし、その表情のない声も似合っていると思う。
だけれど、半本さんはまだ不思議そうに、無元さん……だったか、の顔を覗き込んでいる。偽物を見ているようだ。
「ちょっと、蒼ちゃん。これって……」
「ああ。あれだろ、腹話術。腕が飛んできてちょっと怖いから、片方を囮にしようみたいな」
「そういうこと。じゃんけんで負けて私が囮なんだ。トランシーバーから声出してるの」
そして、半本さんと、加賀坂さんと女の子は話し始めてしまった。小さな声だからよく聞こえないが、なぜだろう、無元さんが先程よりかなり生き生きと、声色豊かに話しているような気がするのは気のせいなのだろうか。
「じゃんけんで決まる囮……。でも、警戒するような人じゃないよ?」
「だって、あいつが逃げるんだもん……。あいつ、絶対無茶振りなアフレコするよ」
「やりそうだ」
「とにかく、私がアテレコされてること、言わないでね」
「わかった」
話し終わると、加賀坂さんはにやりと笑った後にこちらを向く。
「こいつはさっき言ったとおり、無元智相。さっきから私らと遊んでた奴だ」
「ふうん……。幼女と遊んでいたのね」
「そ、そうなんだー! 全然もう、実は2人で遊んでたとかそういうのじゃ全然ないからー!」
「う、うん」
なんだか半本さんの話し方がいかにも嘘ついてます、という感じだが、でも彼女は嘘を吐くような人ではないだろう。加賀坂さんならまだしも。
そんなことより、腕だ。杏さんの腕を返してもらおう。
「え? 腕? ああ、これね。いいよ、はい――」
「そんなことはさせない」
手首が僕に渡ろうとした時、無元さんがそれを奪った。何をするんだ、いきなり? なんだか盗んだ張本人が1番理解できない、というような顔をしているが、それはこっちの台詞である。なぜ奪った。
「これは私のものだ、返してもらう! ……え? お前のところに行く? これを持って? ちょっと、だから無茶振りすぎでしょ! いやいや、そんなことしたくないんだけど――っておい! 切りやがった」
なにかボソボソと呟きながら彼女は走って公園を去っていく。最後まで困惑した表情をしていた。謎である。まるで、誰かにアテレコされていていきなり無茶ぶりをされているようだ。そんなわけはないけれど。
「え? え? ……え?」
「ははは、面白いことになりやがった」
いきなりすぎることに驚く僕と壕持さん。だけれど、なぜか加賀坂さんは余裕綽々で。
「よし、あいつらを追うぞ!」
と、言ったのだった。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.20 )
- 日時: 2016/12/17 01:05
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
僕は、腕を持って逃げた彼女を追いかけに、加賀坂さんと公園近くの道路を歩いていた。急いで追いかけたほうがいい、と言ったのだが、自信たっぷりに『大丈夫だ! 急がば回れ!』と返されてしまったので、仕方なく歩いている。
しかしなぜ加賀坂さんと……? わざわざ僕と行く意味はあったのだろうか。
「で、なんで僕と加賀坂さんだけであの子を追うの?」
「なんだ、私とは不満か?」
「そんなわけじゃないけど、半本さんとか、壕持さんとかと行けば……?」
「だって、私と真面目ちゃんが行ったら、ユリリンが妬むだろ?」
「ゆ、ユリリン?」
「壕持」
いや、なんとなくレズっ気はあるような感じはしていたが、だからといってユリリンは……。中学生女子に付けるあだ名としては、不適切なのではないだろうか? ユリリンって。それ以外に候補はなかったのだろうか。
そんなことより、僕と行く理由だ。確かに彼女と半本さんが一緒に行ったら壕持さんが嫌がるけれど、じゃあ半本さんと壕持さんで行けば良いのではないだろうか。
「いや、私がこんな面白そうなことに首を突っ込まないわけがないだろ」
「こんな面倒臭いことには首を突っ込まないほうがいいんじゃない……?」
「面倒臭いってのは、面白いってことだ。事あるごとに面倒臭いっていう奴は、人生の楽しさを知らない奴。駄目だね、生きていることはこんなにも楽しみに溢れているってのに」
「はあ……」
よくわからない。面倒臭いことは面倒臭いことだと思う。だって、腕が飛んでくるなんて、普通は事件だ。杏さんがアンドロイドだから良いものの、これが人間だったらどうだ。バラバラ事件のできあがりである。
こうなるともう面白いとかそういうレベルの問題ではなくなる。……そういうえば、彼女に腕の話をするのを忘れていた。僕は、杏さんがアンドロイドであること、飛んでいった腕はロケットパンチをした結果、という事をかいつまんで報告した。
「ふうん……アンドロイド。面白そうじゃあねえか! よっしゃ、やる気出てきた! その安泥って奴と会ってみたいぜ」
「じゃあ、早くあの子を探して帰ろっか」
「だな。じゃあ本気で探すか」
「本気?」
そう言うと、加賀坂さんは僕を抱きかかえ、ひょいっと近くの塀に飛び乗った。俗に言う、お姫様抱っこというものを、女子にやられてしまった。ふつう、こういうのは男がやるのではないだろうか……。でも、加賀坂さんは背も僕より高いし、顔もかっこいいしで違和感がない。僕がやるより、何倍も。
塀に乗った彼女は、僕を姫抱きしたまま、走り出した。
「ちょっと!? こ、ここ、塀なんだけど!?」
「知ってるよ、そんなこと! 大丈夫だ、絶対落ちねえ!」
「ええ……」
そんなことを会話している間にも、スピードはどんどん上がっていく。バイクに乗っているような、そんな体感速度だ。しかも、最低限の揺れ以外はなにもしない。落ちるどころか、地面にいるよりも安定しているのではないだろうか。加賀坂さんの伝説は、『水面を歩いた』だの、『鉄板を自力で歪めた』だの、人間離れしたものばかりだった。それは嘘だろう、と思っていたが、もしかしたら真実だったのかもしれない。
加賀坂さん、本当に女子――というより、人間なのだろうか?
「は? 私は人間だよ。何言ってんだお前は」
「だ、だよね……」
それは、抱きかかえられている、手の体温からわかるけれど、しかし人間離れしている。しかも、まだ12歳かそこらの女子なのに。加賀坂さんが大人になったらどうなるのか、想像してみたら、僕の背筋に冷や汗が垂れた。
「どこに行ったんだあいつは……」
「この速さで見えるの?」
「ははは、このくらいのスピードで獲物を追えなくなってたら駄目だろ」
「えもの……」
その言葉の響きに、好奇心が沸いた。しかし、聞いてしまったら大変なことになってしまうような気がして、何も言わなかった。
すると、突然加賀坂さんが大声を上げた。
「あそこだ!」
「え?」
加賀坂さんが路地裏らしきところを指さすが、僕はスピードが速すぎてすべてのものがぼやけて見えているため、なにもわからない。もしかしたら、目が悪いだけなのかもしれないけれど。
と、思っている内に、僕は空を飛んでいた。つまり、加賀坂さんが僕を抱いたまま、その路地裏までジャンプしたのだ。突き上げるような浮遊感。ジェットコースターに乗っているかのような感覚に、僕は顔面蒼白だった。絶叫系は苦手なのだ。
「よっと! 着地成功! ほら、降りろ!」
「いやあの、今具合が悪いからもうちょっと待って……」
「ん? まあいいけど」
対して加賀坂さんはぴんぴんとしている。また加賀坂さん人外疑惑が大きくなってきた。
彼女が目を向けた方向を見ると、先程まで点と線だったものが、クリアになっていた。ピンクのふわっとしたワンピースを着た、黒いツインテールの女の子と、逃げ出した張本人。未だにその無表情は崩れていない。
あくまで表情を崩さないまま、その女の子は言った。
「お願いだから、腕を奪ったことは謝るので許してください!!」
今までの棒読みの口調ではなく、誠心誠意謝意を込めて。彼女は叫び、土下座した。
そういえば、今までの声はなんだか機会を通したかのようなノイズ音が入っていたような気がしたなあ、と僕は呆然とするしかなかった。