コメディ・ライト小説(新)
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- 巫山戯た学び舎
- 日時: 2018/08/18 08:37
- 名前: 河童 (ID: EX3Cp7d1)
――僕らに普通は難しい。だから、皆で巫山戯て学舎生活を楽しむんだ。
初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童と申すものです。
コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。
コメント、アドバイス等はお待ちしております。
荒らし、誹謗中傷、チェーンメール等はお止めください。
『目次』
第一話「一人ぼっちの幸せもの」 >>01-08
第二話「アンドロイドとおっさん」 >>09-13
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 >>14-15、>>18
第三話「手首の行方」 >>19-22 >>27
第四話「変人の集い、始動」 >>28-34
第五話「愛と勇気と君の声援」 >>35-39 >>42-
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【kappa@1568】
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.11 )
- 日時: 2016/12/04 10:30
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
笛子緋色。彼は1年1組の副委員長である。癖っ毛が特徴的で、黙っているとだるそうな垂れ目もあいまって、なんだか儚げな印象を受けるが、中身は儚げのはの字も無い。お喋り好きで、人をおちょくるのが上手すぎる。身長も僕より10cm以上は高いので、なんだろうか、見下されているような気がしないでもない。
その性格もあり、僕はもちろん、壕持さんは僕よりももっと、笛子君を苦手としているのだ。……というか、彼女が誰かしらを苦手じゃないというのは想像できない。きっと彼女は全人類が苦手だろう。
「面倒事とは失礼な。俺は偶然見つけた友人達に声をかけただけさ。それとも、なにか声をかけられたら嫌なことでもあるのかい?」
「何を言っているのよ、嫌なことなんてあるわけないじゃない。逆に話しかけられるのが好きなくらいだわ」
「いや、流石に強がり方に無理がありすぎるでしょ」
壕持さんはベンチから立ち上がって言う。
多分壕持さんは笛子君の言葉を否定したかっただけなのだろう。僕の指摘を「うるさいわね」と一蹴した。
ていうか、と彼女は続ける。
「何しに来たのよ? かなりの人気者でいらっしゃる笛子様は、休みの日に私達のような下々の者に関わる暇なんてないと思われますが?」
「私達って、僕も下々側なの!?」
「何よ、自分が人気者だとでも?」
「いや、それはないけどさ……」
言葉を選ぼう。彼女の言葉は鋭すぎるのだ。そして、嫌味混じり――というか、嫌味そのもののように話す。
確かに、笛子君は人気者だとは思うけれど、だからといってここまで嫌味まみれに言うことはないだろう。嫌味というか、嫉妬?
「なんだよ、嫉妬かい?」
「ぜ、ぜぜんぜん嫉妬とかじゃ、あ、ああありませんけど? じ、事実無根のことを言わないでもらえます?」
図星すぎるだろ。目の逸らし方が尋常ではない。目を逸らすどころか、もう笛子君の方を見ずに、明後日の方向を向きながらうわ言のように喋っている。
別に私だって頑張れば友達できるし――と聞こえてきたのは気のせいだろうか。この子はやっぱり友達が欲しかったんだろうな。半本さんに話しかけられたときもなんだかんだ言って嬉しかったと思う。
想像でしかないけれど。
「まあ、それはそれとしてよ」
自分から話を振って話を逸らす壕持さん。やっと笛子君の方を見て、本当に謎だという風に彼を見上げる。
「さっきも聞いたけど、何しに来たの? 加賀坂はどうしたのよ」
「別に俺だっていつもアイツと一緒にいるわけじゃないさ。時々くらい皆と遊びたいんだよ。それに今アイツはあの2つ結いの子――」
「半本さん」
「そう、半本さんと一緒に遊んでるんだよ」
そういえばそうだった。そもそも僕が壕持さんと一対一で遊ぶことになったのも半本さんが加賀坂さんとの用事ができたからだった。
壕持さんは加賀坂、と親の敵でも見てるかのような顔をして呟く。親友だからといってそれは友情が重すぎなような気もする。
「私の嫁になんてことを……」
「いや、壕持さんの嫁じゃないから」
「何よ! 音桐君の嫁だっていうの!?」
「落ち着いて!」
彼女は本当に半本さんが絡むと様子がおかしくなるな。とりあえず肩を掴んで落ち着かせる。やっと落ち着いたようで、ベンチに座り直す。いやいや、これからまた歩くんだから座らなくてもいいのでは。
そして話がぜんぜん進まない。笛子君も呆れて……いなかった。にやにやしているだけだった。
「仲いいね、君達。はははっ」
「まあ、友達? ですから」
「なんで疑問形なのよ」
また否定したがる壕持さん。先程錯乱したのが今更恥ずかしくなってきたのだと思う。
しかしそれを無視するように話を進める。
「で、皆と遊びたいらしいですけど……今僕――俺達2人しかいないですよ」
「皆他の用事があるっていうからさ。だから君達2人から仲良くなっていくことにしたんだ」
「はあ……」
わかるようなわからないような話だ。まず仲良くなっていくと言う考え方が僕にはあまり無い。友達が多い人は少ないやつとは考え方が根本的に違うのだろう。壕持さんもそういう顔をしている。
「でも、私達別に面白いことしないわよ? 今回も音桐君の知り合いとかいう胡散臭すぎる人に会いに行くだけだし」
「え、そんなに面白い事するんだったら最初から呼んでよ!」
「そんな風に思ってたの!?」
僕の知り合いをそんな胡散臭がられても……いや、あの人は胡散臭さの権化みたいな人だからな。胡散臭度で言えば藍央先生と並ぶレベルで。確かあの人は藍央先生と知り合いだったんだっけ。だったら胡散臭いのも頷ける。
そして、今日は僕のその知り合いに会いに行くという用事だったのだ。『面白いことになったからちょっと来い』と誘われたため、どうせなら友達と行こうと思いたち、提案したのだった。
「だって、音桐君に知り合いがいるっていう時点でもう怪しいじゃない」
「金で雇ったエキストラの可能性もある」
「そんな風に思われてたんだ……」
金で雇ったエキストラって。僕は友達が欲しいとは言ったけれど役者を呼びたいとは一言も思ったこともないし言ったこともない。流石にエキストラを雇い始めたら人として終わりだと思う。
「笛子君……だっけ? 私と意見が合うなんて奇遇じゃない。まあ認めてあげるわよ」
「光栄の限りだ」
そして笛子君と意見が合った壕持さんは、同士を見つけたとでもいうような顔をして笑っていた。それでいいのか。チョロイン2人目か。友達作らない主義はどこにいったんだ。
まあ話が進んだならいいか。
「じゃあ、僕の知り合いのところに笛子君も行くってことで良いんだよね」
「ああ」
「じゃあ、行こうか――」
「ちょっと待って」
と、壕持さんが口を挟む。また否定したがりか、と思ったが、どうやら普通に疑問を呈したかったらしい。
「せめてその人の名前くらい教えてくれない? 名も知らぬ人のところにいくのはちょっと怖いわ」
「そういえば言ってなかったっけ。うん、いいよ。教える」
僕の知り合いの――彼の名は。
安出井京。いい年こいたそこそこのおっさんである。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.12 )
- 日時: 2016/12/04 10:29
- 名前: 河童# (ID: DxRBq1FF)
「ちょっと待って私そんなの聞いてない」
「もうここまで来たのに何言ってるんだよ」
「そうだぜ。いくらおっさんに会うのが嫌だからって。その気持ちはわからなくもないが」
僕達はある民家のドアの前で立ち往生していた。赤い屋根の、大きめの一戸建て。見た目だけならなんだか仲良しな夫婦が住んでいそうな家。
しかしそこに一人暮らしのおっさんが住んでいるとなるとどうだろうか。途端、怪しくなってくる。いや、彼はただ家に住んでいるだけなのだが。やはりそういうイメージが付きまとうので、壕持さんは嫌なのだろう。
「いやいやいやいや。そういうことじゃないわよ。私はね、なんで見知らぬオッサンの家に入らなきゃいけないのかって聞いてんの!」
「……? いや、だって僕の知り合いだし――」
「普通中学生の知り合いって言ったら中学生だと思うでしょ! なにが悲しくて中年と仲良くしてるのよ! そもそも嫌な予感はしてたのよ、音桐君の知り合いなんて絶対何かあるなって。でも、それは性格だと思ったのよ。まさか年齢だとは思ってなかったわよ!」
「あ、性格もおかしいよ?」
「なお悪いわ!」
そうか、確かに中学生の知り合いと言えば同じ中学生――せいぜい高校生を思い浮かべるだろう。常識って難しいな。そう痛感する。
しかし、僕の知り合いというだけで変なイメージをするのはやめてほしい。僕だってまともな知り合いくらい……。……いなかった。というか、そもそも僕には知り合いがほとんどいなかった。友達がいないやつの知り合いが変なやつというのは、わからなくもない。
友達がいないということは、話す相手がいないってこと。話す相手がいないということは、つまり常識のすり合わせができないということだから。そんな理由で本人が変になり、類は友を呼ぶ現象により、変な奴としか仲良くなれないのだろう。
そして、このまま話し合っていても埒が明かないと思ったのか、笛子君がインターホンを押した。
「なっ……」
と、きっと中学校生活で絶対そんな顔をしないだろうというような驚愕の顔をする壕持さん。きっとまだ異論が有り余っているんだろう。
だが世の中は厳しいようで、普通にドアが開いてしまった。
「おう、宗谷。もう来たのか――ん? なんか多いな。まあいいか、入れ入れ」
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します」
「えっ、なんでそんなに軽く入れるのよ。ちょ、ちょっと! お邪魔します!」
なんだかんだ話していたけれど、案ずるより産むが易しとは昔の人はよく言ったもので、彼女はすんなりと家の中に入った。
その家の中は、外見から想像出来ないほどに散らかっており、何かしらの書類だの、文房具だのが床に散乱している。ちょっと待て、タンスが倒れているのは見過ごせない。散らかっているというレベルではない。
軽く入った笛子君も、嫌々だった壕持さんも、この家の有様を見て呆然としている。どちらも綺麗好きのようだから、尚更ここは見るに耐えないのだろう。
そして、どちらからともなくこう言った。
「お願いです、まずこの家を片付けさせてください」
そして30分後。やっと見れる部屋になった所で片付けは一段落したようだ。今日始めて会ったばかりだと言うのに、長年のパートナーのような手際で2人は掃除をしていた。僕はひたすら雑用をしていた。
「おーおー、随分綺麗な部屋になったもんだなー」
しかしこのおっさんは何もしなかった。というかさせなかった。最初は、笛子くんが指示を出していたのだが、まさか片付けたことにより、もっと汚くなるとは思わなかった。
その時の2人の顔は見ていられなかった。大人というものの幻想がこんな所で崩れるとは彼らも思っていなかっただろう。
少しだけ跳ねた茶髪に、まだ若さを感じられる切れ目。そして長身も相まって見た目だけならスーツの似合う社会人っぽいのだが、中身が家事ができないただのおっさんである。外見と中身がかけ離れているという点で、笛子君とは仲良くなれると思ったのだが、違ったようだ。
「音桐、そんな軽い考えで俺とこのおっさんが仲良くなれるとか考えてたのか……? やっぱりお前も変だよ」
「そうかな?」
「そうに決まってるわよ。そうじゃなかったらそもそもこんな事になってない」
「それは確かに」
この短時間で随分と笛子君と壕持さんは仲良くなったものだ。なんだか僕がハブられているみたいで少し寂しい。
「まあそんなことより、見せたいものがあんだよ」
「あんたのせいで私達はこんなに疲れてるんだよ!」
「あいだっ!」
2人のチョップが飛ぶ。まるで親戚のような仲良しさだが、これは片付けをしないおっさんとそれを片付けてあげた初対面の子供達ということを忘れないでほしい。
「そんなに言うってことは、随分面白い物ができたみたいだね?」
「おう、そうだ」
あまりにも可哀想だったので、助け舟を出す。
すると京さんはさっきまで殴られていたことを忘れさせるような明るく笑った。なんだろう、助け舟どうこうを抜きにしても、なんだか気になってきた。
こっちだ、と別の部屋に移動する京さん。僕達もそれについていく。
すると、予想以上の物がその部屋の中にあった――というか、いた。
2人の息を呑む音が聞こえた。
壕持さんは目を見開き、無言のままに驚く。笛子君は疑問を隠しきれないように口を開け、僕に疑問を問いかけてくる。
「なあ、なんだよこれ。音桐、聞いてたのか?」
「……いや、僕も初めてだよ、こんなことは」
「お、お前ら驚いてくれたみたいだな。ならよかった」
相も変わらず呑気に話すおっさん。しかしそんなことが気にならないほどに僕は――僕達はその光景に目を奪われていた。
そして、壕持さんが誰に言うわけでもなく話す。
「聞いてないわよ……。まさかおっさんの家に少女が監禁されているなんて……」
「いや、それは違う。こいつは、俺の制作した人間型アンドロイド『安泥杏』だ!」
「……人間型」
「アンドロイド?」
そう。その部屋には、謎の少女が目を閉じて椅子に座っていたのだ。
そして、安泥杏という名前のようなものを呼ばれた途端、ゆっくりと目を開き、言った。
「ハカセ 。アンドロイドは人造人間という意味なので、人間型アンドロイドは意味が重複しています」
と。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.13 )
- 日時: 2016/12/09 02:55
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
「ねえ安出井さん、私貴方のことを誤解してたわ」
「ああ、俺もだ」
「僕もだよ」
「部屋が汚いだけで、実はまともな人だと思ってたぜ」
「それがまさかね……」
「少女を部屋に監禁して博士なんて呼ばせてる変態だったなんて!!」
京さんを3人で取り囲み、絶叫する。赤い巻き毛の少女は、特に表情を変えることもなく、こちらを見ていた。
しかし京さんはそんな彼女とは正反対に、大慌てで僕達に反論する。
「違うって! だから、俺の開発したアンドロイドなんだって!」
「いくら独り身が寂しいからってその辺の女子を拉致してきちゃ駄目だよ!」
「だから違うってば! 杏からも言ってくれよ!」
僕達の追求に怖気付いたのか、彼が少女に呼びかける。そんなことをしても、拉致監禁の罪は無くなるはずもないのに。そして、呼びかけに、まるでロボットのように俊敏に反応し、杏と呼ばれた少女は話し始める。
「はい、ワタシ――は。安出井京博士の開発したアンドロイドです」
「そんなプレイに付き合わせるなんて! おっさん最低だぜ!」
「ああ、もう! 杏、ロケットパンチ!」
「はい」
迷走をしたのか、もはや人間に出すはずのない指示を出す。可哀想ではないか、そんな腕をもげという指示を僕達と変わらないくらいの女の子に出すなんて。そんなんだからいつまでたっても独り身なのだ。警察に通報しなければ!
と、安出井家の電話を探そうとしたところで、僕は膝から崩折れた。僕だけだけではない、先程まであれだけ責め立てていた壕持さんも、笛子君も、腰を抜かし、座り込んだ。
なぜなら――彼女の細腕が一直線に吹き飛び、握り拳が壁にめり込んだからである。
京さんが『それ見たことか』と輝かしい笑顔を浮かべていることだなんてどうでもいい。
「腕が……はず、れた?」
「まさか本当に……」
「アンドロイド、だったのか?」
「だから言っただろ! アンドロイドなんだってば!」
確かに真実だったが、別の意味で騒がしくなる。
それを見た今でも信じられない。腕が外れるなんてそんな巫山戯たことあるだろうか。僕は立ち上がり、めり込んだ杏さんの握り拳を触ってみる。……どう触っても、人間の肌のようだ。よくある、シリコンでぶよぶよとしている感触、というのはない。どんな材質を使ったらこうなるのだろうか。
壕持さんは、少女を頬をつねり、縱橫に引っ張る。そして、口が無意識の内に開き、
「ありえない……。ありえないわ、こんなこと」
と呟く。現実とは思えない。だからといって、夢なんかではない。
じゃあ、これは一体。
「……とりあえずさ。状況を整理しようぜ」
「そう、だね」
やっと落ち着きを取り戻した笛子君が僕達を正気に戻してくれる。
さて。今のこの状況。僕の知り合いが見知らぬ少女を監禁していたかと思っていたら見知らぬ少女は知り合いに製造されたアンドロイドらしい。
……。
「いや、整理してもさっぱりわからないわよ。なんでおじさんはアンドロイドを作ったのよ」
「ん? ああ、暇だからだ」
ここまで場を騒がせた元凶から、何やら軽い返答がなされたようだ。うん、もう一生京さんは黙っていたほうがいいよ。
あー、もう! と、壕持さんが言った。
「もう常識とかどうでもいいから、受け入れましょう? このおかしい状況を」
確かに、ずっとここで意味不明な点を挙げていてもキリがない。それよりだったら適当に受け入れて、面倒臭い解釈なんてしないほうがいいのかもしれない。
そして、改めて少女を見ると、赤い、羊のような巻き毛に、冬に着るような橙色の縦縞のセーター、なんだかふわふわとしたスカートに黒タイツ――と、肌を極力見せないような格好をしている。
顔は、いつまでも無表情だ。垂れ目がちのその目を覗いていると、吸い込まれていきそうだ。
「なんでそんなに厚着させてんだよ、おっさん。杏ちゃんが可哀想じゃないか」
「そりゃ、金がなくて肌の素材をそこまで買えなかったからだよ。肘の上辺りからかなり人間らしさは消えてるぜ」
「おい」
「わからなくもないよ」
「おい」
お金の問題は大きい。それだけは京さんと同意見である。
しかし、その服で隠された部分以外をみると、このアンドロイドは本当に人間にそっくりである。人間に近づけたロボットは、逆に人間らしくない部分が肥大化して見えるという、不気味の谷現象が、起こっていない。
この暖かい時期にこんな暑そうな格好をして、汗一つかいていないということを除けば、人間らしくなさが1つ残らず排除されている。
……ただ。
「人の名前の呼び方だけは片言なんだね」
「そうみたいね。ねえ、杏……さん? 私壕持っていうの。ちょっと呼んでみてよ」
「ホリモチ――さん」
「うーん。やっぱり片言かあ」
まあ、名前のイントネーションというのは訛りによってころころと変わるし、これも1つの方言だと思えば。
名前以外はかなり流暢な発音で、抑揚の付け方もほぼ完璧なのは凄いと思う。――そこに京さんの変態性を感じるのは気のせいと信じたいが。
「俺は笛子緋色っていうんだ。こっちは音桐宗谷。友達だ」
「友達ですか。私にはよくわからない概念ですが、どのようなものなのですか?」
「……ふうむ、友達の意味とは、深いことを聞いてくれるじゃないか。杏さん哲学的だな」
「そうですか」
笛子君、非日常に慣れ過ぎだろ。アンドロイドということを僕はまだ消化しきれていないのに……。
「そりゃあお前、蒼と一緒にいたらこれくらいの非日常日常茶飯事だぜ。まあ、アンドロイドは見たことなかったけどな」
「はあ……」
今頃加賀坂さんと一緒にいる半本さんの安全がかなり心配されたが、まあそれは置いておこう。
それよりも、僕も杏さんと話してみようかな。
「あの――」
「そうだ」
と、僕がかなり勇気を振り絞って声をかけようと思った所で、京さんが話し始める。なんだこいつ、今まで黙ってたくせに僕が話した瞬間喋りやがって。何タイミングを図ってるんだよ。
あーあ、これだからおっさんは嫌なんだよな、空気が読めない。一生黙ってればいいのに。
しかし、京さんはまだ話し続ける。
「こんなに人数もいるんだ、外に行って杏がどれくらい人間らしく見えるかテストしようか」
「おお、それはいい案だなおっさん!」
「確かに今までのおっさんとは比べ物にならないくらいいい案だわ。そろそろこの汚い部屋から出たかったし」
「たしかに」
「そんなこと思っていたのかお前ら……」
まあ、良い提案であるのは否定しない。タイミングはゴミだったけれどな。
そんな不満をぶつけるように、早く行こうよ、と僕らしくなくみんなを急かす。笛子君や、杏さんもそれに続き、僕達はこの汚い家から出たのだった。
第二話「アンドロイドとおっさん」 完
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.14 )
- 日時: 2016/12/04 10:29
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」
私は、ある日曜日の午後、制裁公園にやってきていた――もっちーちゃんや宗谷くんと遊べなかったのが少し残念だけれど。
でも、今日は別の友達と遊ぶのだ。加賀坂蒼ちゃん。ボーイッシュというか、男勝りというか、とにかく、格好いい子。同じ委員会で知り合ってから、ちょくちょくお話をしてもらうようになって、今日遊ぶ約束をしたのだ。
もっちーちゃんが殺気を放っていたけれど、私としてはあの子にも蒼ちゃんと仲良くなってほしい。あの子はきっと、寂しいんだ。孤独が好き、とか、友達を作らない主義、とか言っていても彼女もまだ中学生。人と触れ合うことが、本当に嫌いなわけがない……はず。
制裁公園はこの地域ではかなり広い公園で、休日になると小学生くらいの子から高校生以上の人まで様々な人が訪れる。
今日も例に漏れず人がたくさんいて、待ち合わせている蒼ちゃんが迷わないか心配だ。
とりあえず、いつも通り時間の30分前に着いた私は近くのベンチに腰掛け、バッグから文庫本を取り出す。宗谷くんはいつも私が早く来て何をやっているかが気になるみたいだけれど、そんなに面白いものじゃない。本を読んでいるだけ。ただ、私はこの時間が好きなんだ。人の声が聞こえる中で、本を読むというこの時間が。
100ページほど読んだ所で、、公園の入口の方から耳をつんざくような大声が聞こえてきた。
「真面目ちゃあああああああああっん! 私だあああああ! 返事をしてくれえええ!」
「はーい! ここだよー」
人間はここまで大きな声を出せるのか、というのが私の感想だった。最近は元気な子がいなくてなんだか残念なので、蒼ちゃんのような人を見ると感心してしまう。
そして、その声に比べて何倍も小さい声で返事したけれど、彼女は聴力も素晴らしいようで、気づいたときにはもう隣りにいた。……なんだか凄いな。同じ学年という事を忘れてしまう。
「よっ! 真面目ちゃん」
「真面目ちゃんはやめてってば。私は真面目じゃないよ?」
「何言ってるんだよ。とどろきが真面目じゃなかったら誰が真面目っていうんだ?」
「そりゃ、宗谷くんとか……」
「ああ、かわいい君か」
「その呼び方もやめてあげたら……?」
確かに可愛い顔つきをしているけれど。女子の間でも時たま話題に上がるのだ。『女装が似合う男子について』のような話題が。何を話しているんだ! と一喝されるかもしれないけれど、女子同士の会話なのでどうか許してほしい。女子の話はあまりとりとめのないものなのだ。
「蒼ちゃんも可愛いと思うよ?」
「おいおい、冗談はよしてくれ。こんな顔で可愛いとか、ないぜ」
「やーん、照れてる、可愛いー!」
「やっぱとどろきは個性強いな……。まあそんなところも大好きだがな」
「ありがと!」
本当に、蒼ちゃんは可愛いのだ。学校では校則で結んでいるけれど、今日はほどいて腰辺りまであるロングヘアーに、格好いい三白眼。髪の毛をいじるって、なんだか女の子らしくて憧れる。私は昔からずっとこの髪型だからなあ。服装が青いジャージなのもなんだか決まっていて可愛い。
そして、身長も凄く高くて羨ましい。横顔が凛々しくて、もし私が男子だったら彼女に惚れているかもしれないな、なんて考える。
「それで、今日はどこに行くの?」
「ん、そうだな……」
わくわく。基本的に遊ぶ時は私が企画するので、人からの計画に沿って何かを行うのが好きなのだ。
「決めてない」
こけた。ベンチから落ちてしまって、スカートが汚れてしまった。手で土埃を払う。期待を裏切られてしまった。予想以上にびっくりした。でも蒼ちゃんはそんなこと気にしていない様子で、
「まあ、私の家の近くに公園があるんだよ。そこにいこうぜ」
「この公園じゃ駄目なの?」
「ああ。だって、そこには面白いやつがいるからな!」
「おお」
なんだなんだ、蒼ちゃん決めてないなんか言って、私を楽しませてくれるような事を言ってくれる。私は人と会うのが大好きだ。いつか全世界の人とお友達になるのが、私の夢。
しかし、蒼ちゃんの言う面白い人っていうのは誰なんだろうか。とても気になる。蒼ちゃんほどの面白い人が言う面白い人なんだから、それはもう並大抵の人じゃないだろうな。
「じゃ、行くか」
「うん」
そうと決まれば行動は迅速に。私も蒼ちゃんも思い立ったが吉日タイプなので、目的地が決まると同時に公園から出た。
まだ4月ということで、公園の桜の花びらが道路にびっしりと落ちている。来年は、宗谷くんやもっちーちゃんとお花見ができたらいいな、なんて。
「そういえば、とどろきは部活入るのか?」
「うーん、今考え中。委員会で手一杯になりそうだし、入らないかもなあ」
「そっか。私も多分部活しないと思う」
一昨日――金曜日に、部活説明会が行われた。野球部やサッカー部など、運動部はもちろん、文芸部、家庭科部、美術部などの文化部も充実している。部長の人達が揃いも揃って強烈だった。
野球部の部長がサッカーについて語り始めたり、文芸部がいきなりダンスを踊り始めたり、なんだかもう滅茶苦茶だった。いい意味で。
だから、入ってみたいのだが、学年委員会は中々忙しいみたいで、部活や勉強と両立するのが難しそう。残念。
「さて、ここだ」
10分位経ったころだろうか、唐突に蒼ちゃんが止まって、背中にぶつかってしまった。しかし、蒼ちゃんは微動だにしなかった。どんな体をしているんだろう。
そして、蒼ちゃんが指差した方向を見ると、小さめの公園があった。ブランコがあって、滑り台があって、おしまい。
申し訳程度の砂場に、人影が見えた。予想していた人よりも小さい人のようで――。
「え?」
声に出して驚いてしまう。なぜなら。
その人影は、超無表情な幼女と、正反対に表情が豊か過ぎるくらい豊かな幼女だったからだ。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.15 )
- 日時: 2016/12/09 02:52
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
人は見かけによらない、という。
たとえば、見た目が明らかに不良な子が、熱い優しい心を秘めていることだってあるだろう。たとえば、毒舌まみれの不良少年が、前髪をきっちりと分けた、眼鏡をかけて、柔和な笑顔を浮かべていることだってあるだろう。
しかし、だからといって。
明らかに無表情な子が声色豊かに弾むように話してきたり、どう見てもただの純粋な女の子というような子が、抑揚がついているだけの、棒読みのような話し方、というのは見かけによらないの枠を外れすぎていると思う。
「はじめまして! あたし、木使正色っていいます! よろしく!」
と、この子は、ひたすらに棒読みで、淡々と、単調な声で、それなのに表情はころころと変わり、それらがちぐはぐに絡み合ったようだった。
前髪が跳ねた、上の方で結っているつやつやした黒いツインテール。おっとりしたイメージをもつような垂れ目。薄い桃色のワンピースを着ていて、表情も合わさり、外見は可愛らしい少女といった感じだ。
「……私は、無元智相。まあ、よろしく」
正色ちゃんの隣で、しゃがんで砂をいじっている彼女。顔からは、どんなことを思っているのかわかりにくい……どころか、わからない、無表情。しかし、正色ちゃんとは正反対に、声から気だるげさが溢れている。顔から想像できないのに声から気持ちがまるわかりである。
そして、短い黒い髪の毛を上の方でちょこんと結い、フリルが袖や襟などに沢山ついている、まさに女の子というシャツやスカートが妙に似合っている。Tシャツにはフリルだけでなく、『I love Teddy Bear』という文字がハート付きで印刷されており、女の子感が増し増しである。
「よろしくね、正色ちゃん、智相ちゃん!」
「な、こいつら面白いだろ? 正義とまぐろ」
「せ、正義とまぐろ?」
蒼ちゃんの言葉に困惑する。正義とまぐろという、どう頑張っても隣に並ぶことはないだろうという言葉のチョイス。文脈から察すると、この2人を指しているのだと思うけれど、いや、それにしても、ちょっと。正義はともかく、まぐろちゃんって。もはや人間ではないじゃん。
「あの、蒼ちゃん、まぐろはちょっとかわいそ――」
「いや、いいんです! あたし達で決めたあだ名なので」
「ん、そうなの?」
「はい!」
と、棒読みで言う正色ちゃん。顔はにこにこと笑っているので、やっぱり不思議な感覚に陥る。
「じゃあ、その呼び方で納得してるんだ。えっと……どっちがまぐろちゃんでどっちが正義ちゃんなの?」
「あたしが正義! やっぱり正色――正しきだからね! 智相がまぐろ! 智相――血合いだし!」
「私は別に、そのだっさいあだ名を認めた覚えはないんだけど」
「えー? 覚えやすくて可愛いあだ名だと思うけど!」
ほんとに、混乱する。棒読みの子が表情豊かで、声色豊かな子が無表情で。何が何だかわからない。どうしてこんな話し方なんだろうか……?
でも、なんだか聞いたら駄目なような気がする、なんとなく……!
「そういえばなんでお前らそんな喋り方なんだ? 今気づいたけど」
言っちゃたよ蒼ちゃん! 私が気を使って言わなかったことを! ……まあ、それも蒼ちゃんらしいのかな。私がフォローしていかなきゃいけないな。
それにしても本当に気になる。この際だから聞いてしまおう。わくわく。
「え? そりゃもちろん、お互いの声当てするために決まってるじゃん」
「は?」
声を揃えて、さもそれが当然であることのように言われた。そして、それに合わせたわけでもないのに私達も同じように声を合わせてしまう。お互いのアフレコという意味のわからない言葉に、そこから言葉を継げない。
やっとのことで、その言葉の意味を聞くと、やはりそれを疑問にも思っていないようで、逆にこちらのことを不思議に思っているように言った。
「誘拐された時に、片方の声を腹話術で当てられるようにしてるんだよ」
「はあ」
そもそも誘拐された時という前提がおかしい……。この2人は実はものすごい危険な子なのかな? 容姿は普通に可愛い女の子達だけど。
「いや? あたし達は普通に友達のいない小学4年生だよ?」
「じゃ、じゃあなんで誘拐されること前提で……」
「念には念を? こんな時に備えて? みたいな台詞あるじゃない? それを言ってみたいの。『誘拐されちゃった! でもこんな時に備えて腹話術を覚えているぞ!』みたいな」
「いや、そんな時に備える必要はないと思う……」
「ははは、やっぱこいつら面白いな!」
そんな問題かなあ。まあでも、面白い子達というのは本当だし、お友達になりたいな。
と、思ったところで、私も自己紹介をしていないことに気づく。
「そういえば、私の名前言ってなかったね。私は半本とどろき。中学1年生なの」
「半本とどろきちゃん」
「馬鹿、さん付けしろよ」
怒気をこめて智相ちゃん――まぐろちゃんが正義ちゃんに言う。無表情に見えても、この子は礼儀正しいいい子なのかもしれない。
小学4年生だというのに、いい子だなあ。正義ちゃんも無邪気で可愛いし。
「ちょっとあだ名を考えますね、とどろきちゃん!」
「敬称を使え。年上だぞ、敬えよ」
「いやいや、いいよ。呼び捨てでもなんでもオッケー!」
「じゃあとどろき」
……。智相ちゃんは実は礼儀を重んじているわけではないのかもしれない。いや、呼び捨てでもいいよとは言ったけれど、まさか躊躇なく呼び捨てるとは思っていなかった。でも、さんとか付けられるよりはいいな。本当は宗谷くんやもっちーちゃんにも呼び捨てで呼んでほしいのだけれど、なぜか拒否されてしまう。
あの2人とは、もっと仲良くなりたいな。
すると、蒼ちゃんが言った。
「じゃあ、自己紹介も終わったし、遊ぶか!」
「それいいね、賛成!」
と、私が言い終わる前に蒼ちゃんは砂場に突っ込んでいた。