コメディ・ライト小説(新)
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- 巫山戯た学び舎
- 日時: 2018/08/18 08:37
- 名前: 河童 (ID: EX3Cp7d1)
――僕らに普通は難しい。だから、皆で巫山戯て学舎生活を楽しむんだ。
初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童と申すものです。
コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。
コメント、アドバイス等はお待ちしております。
荒らし、誹謗中傷、チェーンメール等はお止めください。
『目次』
第一話「一人ぼっちの幸せもの」 >>01-08
第二話「アンドロイドとおっさん」 >>09-13
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 >>14-15、>>18
第三話「手首の行方」 >>19-22 >>27
第四話「変人の集い、始動」 >>28-34
第五話「愛と勇気と君の声援」 >>35-39 >>42-
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【kappa@1568】
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.6 )
- 日時: 2017/01/11 00:15
- 名前: 河童 ◆PZGoP0V9Oo (ID: L0JcGsyJ)
そして朝の会が終わった後の10分休み。さて、教科書が渡されるから、名前ペンを出すために筆箱を出そうと思ったら。
「ねえ、宗谷くん、行くよ」
「え」
半本さんが声をかけてきた。
どこに? 聞くと、半本さんは、壕持さんのところ――と言って、僕の腕を掴み友達をつくらない彼女の席へ歩き出す。僕がみっともなくバランスを崩してよろけているころ、半本さんは無情にも僕の腕から手を離し、壕持さんの席に居た。僕も慌てて彼女の側に行く。
昨日会ったばかりの人の席の前で堂々と仁王立ちができる半本さんのメンタルは凄いと思う。しかし壕持さんは無反応。半本さんではなく机を見ている。なので半本さんは、壕持さんの顔の前で手をひらひらと動かす。それでも相手が無反応のため、半本さんは彼女の机をトントンと叩く。
その行動に壕持さんは、チッと舌打ちを返し、うっとうしそうにこちらを向く。流石にここまでされて無反応では居られないらしい。
「何?」
「友達になろうと思って」
本当にこの子、十分休みにガンガン話しかけていきやがった。しかも僕を巻き添えにして。巻き添えにされるのは慣れているけれど、こんな巻き添えは嫌だ。
「だから、嫌って言ってるでしょ? 貴方はその音桐君と仲良くやってればいいじゃないですか」
「貴女は嫌でも私が友達になりたいの。主義がどうとか、昔に何があったとか関係なく、ね」
「何と言っても無理。嫌なんです。ねえ、音桐君、貴方この人の友達なんでしょ? 止めてよ」
おおう? こっちに話が飛んできた。想定外のことが起きて、僕はうーん、と唸る。何かをしゃべろうと口を開くが、言葉が何も出てこない。ていうか、僕は巻き込まれただけなんだから止める義理とか無いような……。
いや、仮にも友達になったんだし、半本さんのやったことに対しての責任は僕が取るべき……なの、かな?
「ほ、ほら。半本さん、壕持さんもこう言ってることだしさ。無理に友達になろうとしなくても――」
「ねえ。どうして貴女はそんなに友達になりたいのよ。いい加減にしてよ、貴女の友情ごっこに巻き込まれる筋合いなんてありません」
おい。僕に振ったのにそれを遮って質問するってどういうことだよ。……まあ、いいか。この人達に関わるときは諦めが肝心だと、理解してきたぞ。
尋ねられた半本さんの方を見ると、『貴女は何を言ってるのよ』とでも言いたげな顔で溜息をつく。
「貴女は何を言ってるのよ」
本当に言った。
半本さんは続ける。
「私が貴女と仲良くなりたいなって思っただけです。理由なんてない」
「そう。私は貴女と仲良くなりたくないと思ったわ。理由なんてない」
壕持さんはバッサリとそう言うと、これでこの話は終わりというように、机の上の本に目を戻した。
『ねえねえ』と半本さんが声をかけても一切無視だ。ちょっと半本さんがかわいそうになってきた。と思ったら半本さん、『ねえねえ』の声をミュージカル風に言ったり、チンピラ風に言うという芸をしだした。壕持さんもちょっと笑ってるし。本で隠そうとしても見えてますよ。
壕持さんがあまりにも無視をきめこむので、
「ねえ、宗谷くん。君も一緒にねえねえってやって!」
「えっ?」
という無茶振りをされてしまった。
その後、2人でダンスをしながらラップ調で『ねえねえ』を言ったり、『やっほー! みんなのアイドル、NE☆NEだよー!』とアイドル風に『ねえねえ』を言ったりしたのだが、その辺は割愛。
アホな真似をしたせいでもう予鈴1分前。名前ペンを鞄から出していないことに気付き、取り出してきてから着席する。
まもなくしてチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「よーし、全員着席してるな。じゃあ男子、教科書を下から取ってくるんで、手伝え」
げっ。これだから男子って損なんだよな。力の強い女子だっているし貧弱な男子も居るじゃないか。僕とか。
まあ、そんなことを言っていても仕方が無いので先生についていく。教科書ってどこにおいてあるんだろう? という疑問もすぐに解決した。1階にある技術室だ。木製の大きいテーブルに、教科書が置かれていた。規則的に並んでいるようなので、おそらくクラス順だろう。
「前から3番目の机にうちのクラスの教科書があるから、それを持ってきてくれ」
はーいと誰かが返事をすると、皆がその机に行き、教科書を持っていく。僕は美術の教科書だった。ただ、上巻下巻になっていたので、2人で持つことに。
2人で持つとなると、僕みたいな奴は友達がいないし、最悪1人で持たないといけないかな、と思っていたら、優しい誰かが持ってくれた。
誰だろうと名札を見ると、『山脈道理 羽端』と書かれていた。苗字がすごいことになってる! ええと、普通に読むなら、『さんみゃくどうり はねはた』かな? うーん、苗字が四文字って初めて見たぞ。
おっと、流石に感謝もしないのも山脈道理君に悪い。
「ありがとう」
「いやいや、これくらいいいよー」
優しい子だ。僕たちは1年生の棟に繋がる階段を登る。ついでに、名前の読み方を聞いてみた。
「うん? 名前? 山脈道理 羽端だけど」
「へえ。珍しい名字だね」
「あはは、よく言われる」
はばた君らしい。それよりも『山脈道理』のインパクトが強すぎるのだが。まあ、うん。世の中こんな苗字も居るだろう。
そう考えている内に教室についた。結構重かったな、美術の教科書。結構ペラペラなのに。僕は皆がそうしているように教科書をロッカーの上に置き、席に戻る。他の子も帰ってきて、先生も戻ってくる。……よく考えたら、先生、手伝ってくれとか言ってたくせに自分は何も持ってきてなかったな。ずるい。
「皆持ってきたなー。じゃあ廊下に近い方の席から教科書を順番に取ってこい。2冊持ってこないように注意しろよー」
一番廊下に近い列は僕の居る列だった。僕は席を立ち、教科書を取りに行った。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.7 )
- 日時: 2016/12/04 10:31
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
- 参照: トリップを変更いたしました
「ふぬう」
「どうしたの?」
皆が教科書に名前を書いている時に、隣の半本さんがいきなり声を上げた。
「なんであの妙案で壕持ちゃんと友達になれないのかな」
「いや、あんなテロみたいな話しかけ方で友達になる人なんてそうそういないと思うよ……」
『妙案』を、字のごとく『妙』な『案』という意味で使ったのでなければあの方法は妙案という言葉からかけ離れている。ラップ調に『ねえねえ』を言うとか、アイドル風に『ねえねえ』を言うとか、頭がおかしいとしか思えない。ほんと、あんなのをやるなんてどうかしてるよ。
まあ、やったのは僕なのだけれども。
「テロって……。でも、宗谷くんはそのテロみたいな方法で友達になってくれたじゃない」
「ぐっ」
それを言われてしまうと言葉も無い。聞こえなかったふりをして僕は教科書に名前を書く。思うのだけれど、こういう、名前をひたすら書く作業って、学校側で名前のシールを作ってくれれば5分もせずに終わる作業なんじゃないだろうか。ネームペンのインクも無駄にならないですむし。
「半本さんは名前書き終わったの?」
「うん。ほら」
半本さんが教科書を差し出してくる。
うわっ、字うまっ! 書道でもやっていたのかというくらいの字のうまさだ。しかも書くのが速い。皆がまだ書き終わっていないのに、もう書き終わっている。
アルファベットと数字もうまい……。どんな鍛錬を積んだらこんな字になれるのだろうか。
「あはは宗谷くん、あんまりじろじろ人の教科書見ないでよ。恥ずかしいよ」
こんな字だったら恥ずかしがることもないのに。まあ本人が言うのだから恥ずかしいんだろう。
「話を戻すけど」
返した教科書の端を揃えながら彼女は言う。僕はまだ半分も教科書に名前を書いていないので、それを聞きながら名前を書く。
「なんであの子は友だちになってくれないのかな。すごく不思議だよ。SFだよ」
「この程度でサイエンス・フィクションを名乗られたらSFにすごく失礼だと思うけど」
もしくは、S(少し)F(不思議)。半本さんの思考回路が、という意味だったなら、SFで問題ない気もする。ほんと、半本さんの言動が読めない。今日の朝彼女から借りた小説より読めない。
「やっぱり計画を練り直さなきゃダメなのかなー。今度は待ち伏せでもする?」
「どんどん犯罪じみてきたけど」
「奇襲をかけるしかないかなあ」
「テロじみてきたけど」
「紀州梅をかけるしかないかなあ」
「それをやって何の意味があるの」
ちょっとふざけてないか、この子。目的を見失ってる気がする。
「一応、あの子と友達になるのが目的……何だよね?」
「うん、そうだよ?」
大真面目な顔で言う半本さん。『今更何言ってるの?』という声が聞こえてくるようだ。
「今更何言ってるの?」
言った。僕は友達になるの、そんなに乗り気じゃないんだけどなあ。ちょっと怖いし。やっぱり第一印象って大事だと思うんだよね。――あの子の僕に対しての印象も最悪な気がするけれど……。流石に変な行動をしすぎた。
「じゃあ、作戦を考える――」
よ。と言い切らない内に藍央先生が手を叩き、皆を注目させる。
「はいはい、じゃあ時間だから教科書をしまえよー。チャイム鳴るぜー」
と言った瞬間、見計らったかのようにチャイムが鳴る。
――起立、礼、着席。先生が言い、皆が着席した。ガラガラという椅子の音と、ざわざわというクラスメイトの話し声が混ざり合う。壕持さんは、やっぱり1人。凛とした表情で、本を読んでいる。カバーを掛けているため何の本を読んでいるかはわからない。
……しかし、あの子本読むの速いな。もう4回もページをめくっている。沢山本を読むと本を読むのも速くなるのだろうか?
「――やくん! 宗谷くん!」
「っ!?」
いきなりの声に僕は跳び上がってしまう。机に膝をぶつけた。超痛いぜ。
何かと思えば、半本さんだった。
「ほら、行くよ?」
「えっ、ちょ……」
なんて、抵抗するのも虚しくずるずると引きずられるように僕は壕持さんの机まで連れてこられる。
「ねえねえ、壕持さん」
「…………何」
不機嫌そうに、こちらを向く壕持さん。無視をしないのは、前回無視をしたことによって酷い目(ねえねえ地獄)にあったからだろう。かわいそうに。
まあ、犯人は僕だけれど。
「友だちになろ!」
「却下するわ」
即答。即答すぎる即答だった。『友だちになろ』の『な』の所で拒否された。
しかし半本さん、めげない。にこにこと笑みを浮かべて壕持さんに脇腹に手を添える。……何をする気だ? ……ん? なんとなく想像はついた。けどいや、まさか、流石に、いきなりあれは……。
「こーちょこちょこちょこちょこちょーお!」
「きゃあ! あ、あははははっ! ちょっと、やめ、やめなさい! やめてください! やめろっつってんでしょ聞こえないの!?」
「友達になったらやめるよー」
「ちょっと、ほんと、やめなさっ」
くすぐったーっ! 強行手段に打って出たーっ! くすぐり――弱い人は本当に弱いからなあ。僕も弱い。特に脇。そして奇遇なことに、壕持さんも弱い側の人間らしかった。
友達ってこういうものだったかなあ? 友達がいなさすぎてよくわかんないけど、少なくともくすぐりから発展するのは違うと思う。
「ほらほら、友達にならないとやめないよお?」
半本さん、超笑顔である。今までで一番笑顔。一番輝いているよ。黒く。半本さん、実はサディスト疑惑。
「わかった、わかったから! なる! 友達になるから!」
「ほんとに?」
「ほんとにほんとに! ……あっ」
罠にまんまと引っかかった壕持さん。可哀想だ……。『あっ』って時の顔に、感情が何一つこもっていなかった。真顔をレベル化できるなら、もうカンストしているような真顔だった。
「……わかったわ。言ってしまった以上なってあげるわよ……」
「うわあ! ありがとう! よろしくね! 私半本とどろき! こっちは音桐宗谷君!」
「……よ、よろしく」
僕が挨拶をすると、壕持さんは真顔で頷く。……気まずい! 可哀想すぎる! うわあ、うわあ……。僕がやったわけでもないのに罪悪感が半端じゃない。心のなかで僕は彼女に土下座した。
そして、顔を上げた彼女の。
「次の時間――覚えてなさいよ」
ボソリと付け加えられた一言に、僕は怯えることしか出来なかった。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.8 )
- 日時: 2016/12/09 02:39
- 名前: 河童@スマホ (ID: DxRBq1FF)
さて。結局その後僕がーーいや、僕達がどうなったかというと。
「えー、お前らが委員長達……もとい、学年委員会のメンバーか」
現在時刻16時35分。委員会顔合わせの時間である。
藍央先生が面倒臭い者を見るような目で言う。確かに面倒臭いだろう。見るからに『曲者』と言える人たちが、ここーー生徒会議室に集まっているのだから。
長いポニーテールの少女、背の高いニヤニヤとした少年、癖っ毛で目が死んでいる女の子、地味なようで内に秘めた物がありそうな男子、などなどがそれぞれを品定めするように見つめている。
そしてそこに。
僕と、半本さんが。1年3組委員長と副委員長が居た。
こんなことになってしまったのはなんでだったっけ? 思い出してみよう。
確か、委員会決めの時だったと思う。藍央先生が、
「まず委員長と副委員長を決めるぞー。なったやつは自動的に学年委員会に配置されるからな。委員会の掛け持ちはできねえぞ」
と言い、まず、立候補を募った。が、まあ当然、委員長を自らやろうなんていう物好きはそうそう居ないので、全く手が挙がらなかったのだ。
しかし。その次に先生が誰か推薦する奴はいないか、と言った瞬間に、まさかと思う人が手を挙げた。
そう、壕持さんである。この時点で嫌な予感しかしない。友達を作らない主義の彼女が推薦する人物なんて、わかりきっていることだった。
お願いだから先生、壕持さんを発表させないでくれ!
「ん、壕持か。なんだ、推薦か?」
「はい、推薦です」
「誰だ」
「半本さんです」
うわあ。……うわあ! 反撃の仕方が陰湿だ! 仮にも友達にするような仕打ちではない。でも多分それを壕持さんに言っても『友達だからこそ推薦したのよ』とか言いそうだ。そして半本さんはそれをころりと信じてしまいそうだ。これが噂のチョロインという奴か。
ん? でも委員長は半本さんだとして、副委員長は誰になるんだろう? ……いやまさか、でもあの子ならやりかねない。
「えー。半本、お前委員長でいいか?」
「えっ……。いや、あの」
断れ! 断れ半本さん! チョロイン化を防ぐんだ! このままでは僕に火の粉がかかりかねない。
「じゃあ……やります」
おい!
僕の必死の願掛け虚しく、彼女は委員長になってしまった。せめて僕だけでも壕持さんの魔の手から逃げ出さなければ。
隣の半本さんを見ると、嫌そうな顔はしていない。何故だろう? やりたいわけじゃあ無いはずなのに。
「じゃあ次、副委員長……」
「はい」
先生が話した瞬間手が2つ挙がる。……2つ? 壕持さんはともかく、半本さんまで挙げている。おいおい、冗談もいいところだよ。やめてね? 僕を副委員長に推薦するーみたいな真似は。フリじゃないよ? 本気の懇願だよ?
と、心の中で土下座をする僕をよそに、話は進んでいく。
「ええと、じゃあ、半本。推薦だな?」
「はい、推薦です」
先程と全く同じ答え方をする半本さん。なんで友達になって1日も経っていないのにそんなに心通じ合ってるんだよ。なんかギャグみたいになってるけれど僕にとってはかなりの問題なんですけれども。プロブレムですけれど。
「誰を推薦するんだ?」
「はい、宗谷くんです」
はい僕の人生終わった。教室にあふれる『宗谷って誰?』感が痛い。びしびし僕に突き刺さっている。まさか半本さんに裏切られるとは思っていなかった。
恨みがましく彼女の方を見ると、半本さんがかなり切羽詰まった表情で、
「死なばもろとも!」
というアイコンタクトを送ってきた。いやいやいやいや、死なばもろともじゃないんですけれど。何巻き添えにしてくれてるんだよ! おかしいでしょ! そんなに嫌だったんだったら最初自分が推薦された時断ればよかったんじゃないか!
しかも壕持さんがこっちを見ながらすごい笑顔で親指立ててる! 笑顔が怖い、なんて現象初めてだ。
「ええ、じゃあ、音桐。それでいいか?」
断れ僕。簡単なことじゃないか、『嫌です』の4文字を言えばいいだけだ。片手で収まる文字数でしょ? 口に出すのなんてもっと楽だよ。一秒もかからないわけだ。しかも『嫌です』と言えば先生も『ああ、そうか』で会話が終わる。それに対して『わかりました、やります』と言えば『えええー!? やるのー!?』的会話が行われるに違いない。クラスが騒がしくなり、先生に注意されることは想像できる。僕のせいでみんなが怒られるなんて嫌じゃないか。そう、僕は別に、『面倒臭いから』みたいな自分勝手な理由で断るわけじゃあない。皆の為を思って、クラス全体のプライドを保つために断るのだ。
そう、断ればいいだけなんだ。さあ、今口に出せ僕。あの4文字を!
「わかりました、やります……」
そして今に至る。はい、こんなことになったのは僕の意志が弱いせいでした。ええ。
しかし、やるしかない。自分でやると決めたからには、この学年委員会で生き残るのだーー。
第一話『一人ぼっちの幸せもの』 完
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.9 )
- 日時: 2020/12/25 18:33
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
第二話「アンドロイドとおっさん」
ーーある4月の日曜日の午後、制裁公園という随分物騒な名前の公園に、僕はいた。
前までなら、こんな友達が多そうな人が多いところになんて来なかったが、もう違う。そう、今日の僕には友達がいるのだから! 半本とどろきさんと、濠持四美さん。だましうちみたいな方法で友達になったが、友達は友達だ。
そして、僕が来たのはその友達ーー濠持さんとの待ち合わせの為だった。本当はもう1人、半本さんとも遊ぶ予定だったのだけれど、少々事情があったのだ。
以下、回想。
「ごめん、次の日曜日、遊べなくなっちゃった」
「え、どうして?」
「は?」
一昨日、金曜日の放課後、僕達は帰り道一緒に歩いていた。その時に、半本さんは遊べないことをカミングアウトした。
それに対して、壕持さんが初めて会った時と同じように、睨む。しかし、その敵意は、前と違って半本さんに向かってはいない。彼女はもうあれから半本さんにぞっこんなのだ。半本さんは壕持さんを『もっちーちゃん』、壕持さんは……普通に『半本さん』と呼んでいる。ただ、刺々しい呼び方から、柔らかい感じに変わった。
そして、壕持さんが今敵視しているのが――加賀坂蒼さん。彼女は、同じ学年委員会――つまり、委員長もしくは副委員長だ。加賀坂さんは、1年1組の委員長をやっている。委員長というより、番長といった感じのようだが。
腰まであるポニーテールに、ツリ目の三白眼。身長が僕よりも高く、髪を短くすればもう男子と言っても過言ではないような容姿だ。一人称こそ『私』だが、話し方はかなり荒っぽく、男らしい。そしてコミュニケーション能力の塊のような人物で、委員会の自己紹介の時点で、僕や半本さんなどに話しかけまくり、友達となったのだ。……かなり強引だったが。
思い返すとこんな感じ。
「おうおうお前音桐っていうのか。ふーん、まあ見た目がかわいい系の顔してるから『かわいい君』な」
「は?」
「そしてそこの2つ結いちゃんは半本。見た目が真面目だから『真面目ちゃん』な」
「え?」
ちなみに初対面である。初対面でいきなり呼び捨て、そしてアダ名をいきなり付ける。半本さんも顔負けのコミュニケーション能力である。
身体能力も素晴らしいらしく、拳でプレハブ破壊だの、2段ジャンプができるだの、ガードをするだけで相手の拳が砕けるだの、半本さんどころか人間顔負けの噂がどんどん流れてくる。
話はそれたが、この加賀坂さんと半本さんが仲良くなっているので、壕持さんはご立腹なのだ。
なので、半本さんが遊べない事に対しての反応が、睨みながらの『は?』なのである。また加賀坂なんですか、という意味が込められている、『は?』だ。
ぼくはそれをなだめるためにも、フォローを入れる。きっと加賀坂さん関係じゃないよという期待を持って。
「まあまあ、壕持さん。半本さんにも予定があるんだからさ……。で、どういう用事があるの?」
「えっと……」
言葉を濁し、頬をかく半本さん。気まずそうに彼女は、
「蒼ちゃんと遊びに――」
「あの女また半本さんを誑かしてんのかよ」
「壕持さん! 言葉遣い!」
もはや女子の言葉遣いではない。あの女とか言ってたし。気迫だけなら加賀坂さん並だ。
「だから、遊ぶのはまた今度に――」
「いや、良いわ」
「え?」
僕と半本さんが同時に反応する。今までは、半本さんが来ない時点でもう遊ぶのはご破算だったのだが、何故今回は断らなかったのだろうか?
「私も音桐くんとも話してみたいしね……。まあ、半本さんが居なくても人とコミュニケーションを取れることを証明してみせるわ」
最初は驚いて、口を開いた半本さんだが、すぐに笑顔になる。今までで一番の笑みだ。
そして彼女は壕持さんの肩を掴み、揺さぶる。そして周りに聞こえるくらいの大声で言った。
「ありがとう! 宗谷くんはとってもとっても良い人だから、ぜひ仲良くしてね!」
以上、回想。
こういう事情のため、僕は今制裁公園のベンチに座っているのだった。この公園は僕の近所の中では一番広い公園で、ブランコや異常に長い滑り台がある。
僕は、待ち合わせの時間の5分前に来たので、暇になってしまう。ちなみに半本さんは30分前に来るらしい。何をしているのか非常に気になる。そして壕持さんは絶対に時間ぴったりに来る。体内時計が確実すぎるくらい確実なのだろう。
なので、5分時間がある。読書をするにも何をするにも中途半端な5分という時間。僕は公園の景色を見ていることにした。
まだ桜が咲き誇っていて、花見をしている人も多い。ざわざわとした人混みをBGMに、僕は眠ってしまいそうになる――。
「ちょっと」
飛び起きた。比喩なんかではなく、本当に飛んだ――跳んだ。ベンチに足を打ってしまったがまあ良いだろう。寝っぱなしは流石に失礼過ぎる。
そんなに大きな声ではないのに、こちらに響く声。そしていきなり跳んだ僕を不思議そうに眺める彼女。
「そんなに驚かなくてもいいのに。別に殺そうって言う訳じゃないわよ」
「そ、そう……」
そして、彼女は僕の隣へ座る。少し疲れたらしく、ここで休憩を取るみたいだ。
「この公園、私の家から遠いのよ……。ちょっと休ませて」
「うん、わかったよ」
壕持さんは、ふう、と溜息をついた。
こうして、僕達の休日は始まっていく――。
- Re: 巫山戯た学び舎 ( No.10 )
- 日時: 2016/12/04 10:30
- 名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)
ベンチに座っていた壕持さんは、首をこちらに傾ける。
「今日はどこに行くんだっけ?」
「ああ、今日は僕の知り合いの人を紹介するよ」
「知り合い……ッ!? は? 今知り合いって言った? 貴方今あの言葉を言い放った!?」
「はい?」
いきなりこちらに掴みかかってくるくらいに近づく壕持さん。正直女子とここまで近づいてしまうのは緊張するのでやめて欲しい。今日はピンの色や形が違うんだねなんてどうでもいい事を考えることで思考を別の方向へ持っていく僕。非常に見苦しいものである。
そんな僕の苦悩を知らない風に、壕持さんは興奮しながら言う。
「貴方に知り合いがいるなんて……。私と同族だと思っていたのに……。友達どころか知人もいない、それが貴方の個性だったはずでしょう?」
「でしょう? と言われても……」
そんなに失礼なことを思われていたのか。さっきの緊張を返してほしい。個性が知人いないって悲しすぎるし壕持さんがそっち側だというのが悲しみを加速させる。
散々言ってやっと熱が冷めたのか、彼女は元の位置へ戻り、髪をかき上げる。
「しかし不思議よね。貴方、別に性格に問題があるわけじゃないのにどうして友達が出来ないのかしら。外見?」
「あの、僕も傷つくことくらいあるんだよ?」
「私がそれを知らなかったと思ってるの?」
性格が悪すぎるんだってだから。そんなんだから友だちができないんだよ。とは言わないけれど、流石に外見悪いねって直球で言うのは酷いと思う。
たしかに僕はあまり格好良くはないけれど……。
「でも、外見も別に悪いわけじゃないのよね」
「え?」
意外なセリフが彼女の口から飛び出してきた。外見も別に悪いわけじゃない? 壕持さんが人を褒めた? あの毒舌については中学生最強とさえ言えるような彼女が? 呼吸をするように非難し、歩くように批判する彼女が?
「流石に私そこまで性格悪いと思われていたとは思ってなかったわ」
「あれ? いつから壕持さん心読めるようになったの?」
「全部声に出てるのよ!」
なんと。まさか口に出していたとは。口は災いの元と言うのは本当らしい。
壕持さんは僕を見て溜息をつく。ああ、僕のせいで彼女に迷惑をかけてしまった。
「だから声に出てるんだって……。それはともかく、別に貴方顔が悪いわけじゃあないと思うのよ。三白眼な感じの眼も、タレ目と合わさってなんだか可愛い系の顔になってるし、髪型も眉上で切っててイメージを崩していない。ファッションも普通に悪くない。背も普通。総合的に見て、中の上くらいって所?」
「ちゅ、中の上……」
評価が高い……のだろうか? せめておだてるんだったら上の上くらい言ってくれてもいいと思うのだが、しかし彼女の評価だ。いつも通り厳しい審査をして、その結果が中の上というのは、かなり高い評価なのだと思う。
……高い評価という言葉ほど、僕に似合わない言葉もない。可愛いもちょっとどうなんだ。ここは男子として! 男子として格好いいと言ってほしいのだ。
ということを彼女に言うと、
「はあ? それは無理よ。身の丈を考えなさい、鏡を見なさい。貴方の顔は可愛くはあっても格好よくはないわ。女装顔よ」
「女装顔!?」
もうそれは貶しているんじゃないか。どうして彼女の話は最後のオチで評価を下げるんだろうか。さっきまでだったらまだ、『良いこと言ってくれたな』で終わっていたのに。
しかし、女装顔……。女装顔か……。
「では何故貴方に友達ができないか。それを教えてあげるわ」
「お、おお……!」
やっと本題に戻してくれた壕持さん。流石にもうこれ以上評価が下がることはないだろう……。女装顔よりインパクトのある批評は彼女にはできまい。
――壕持四美、敗れたり!
「それは――」
「そ、それは?」
そこで彼女は一旦止める。なんでそこで焦らすんだよ、意地悪だなあと思ったが、それは違ったようだ。何故なら。
「やあやあ諸君! はろー。こんな所で会うなんて奇遇じゃん! ちょっと一緒に遊ぼうよ」
と、喧しい、全体的に赤いイメージの男子がこちらを見て手を振っていたからである。
彼の名は笛子緋色。――1年1組の副委員長、つまり、僕と半本さん、加賀坂さんと一緒の学年委員会の委員なのだ。
それを見て、壕持さんはまた溜息をつく。僕もつきたいくらいだ。それくらい、彼は喧しいし、眩しすぎる。半本さんがいるときならまだしも、僕達陰気組には、勝ち目のない相手なのだ。
壕持さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、話を続ける。
「貴方が友達が出来ない理由は、そのネガティブな性格と」
「こうやって面倒事をぽんぽん引いてくる運の悪さよ」