コメディ・ライト小説(新)

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狐に嫁入り
日時: 2018/01/29 16:41
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

「たすけて頂いた狐です。恩返しにきました」
「鶴かよ」
「ところで結婚しませんか?」
「不審者かよ」

ラブストーリーと呼ぶには塩対応過ぎて、コメディと呼ぶには不可思議過ぎる。

残念で微妙なファンタジーイケメンと超絶パリピで人生謳歌しまくっちゃってる(本人談)JKが恋を……出来るのか? そんなお話。
久しぶりの投稿になります。コメント歓迎ですのでよかったらどしどしください!

登場人物

高坂こうさかめぐむ
高校2年17歳。塩対応に定評がある。自己評価が的確。成績は中の下といったところ。パリピ。流行りらしい黒髪ぱっつん。女の子大好き。

野崎舞花
高校2年16歳。骨太ぽっちゃりさん。細かいことは気にしない、愛の親友。

明石蒼馬
高校2年16歳。昔気質で頑固。どうやら好きな人がいるらしい。

桜木明日美
高校2年16歳。眉目秀麗成績優秀なリアリストだが、妙に戯けている。彼氏である修斗のことを心から信じ愛しているが恋っぽくはない。

白鳥しらとり修斗
高校2年17歳。眉目秀麗成績優秀だが天然。明日美と付き合っている。

第1章
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>10 >>13 >>15 >>20 >>21 >>23 >>27 >>28 >>33

Re: 狐に嫁入り ( No.1 )
日時: 2017/06/30 09:19
名前: 一匹羊。 (ID: 59tDAuIV)

この学校の立地が山奥なのは、何でも理事長の意向らしい。静かな場所で勉学に励むと同時に、自然を愛する豊かな心も育んで欲しいのだ——と、そんなのクソッタレだ。
「立地のせいで10,000倍は自然嫌いになった気がするわー、ホント無理」
「自然光で撮り放題なのはいいことじゃない?」
「いやそれ、普通の学校でも出来るから。寧ろここだと木立のせいで撮影の邪魔……まーい、入ってー」
そう言って手招きすれば、私の友人……舞花は、えーsnow? だなんてにやけながら入ってくる。はいはいsnowsnow。無駄に発言よくかましながら、ぱちり。あ、アプデしたやつ増えてる! そちらもぱちり。
「LINEに送っといて!」
「はいはい、送った送った」
「ねーアイちゃん今日帰りスタバよろー? 勉強会!」
「舞花そういってスマホから手ー離したこと、ありましたっけ」
「うっ」
「別にいいけど。はい、#いつメン最高 で投稿っと…」
察しの通り私は頭が軽い。いいじゃないか別に楽しければ。文明の利器最高。理事長が見ていたら嘆息を落としそうな風景である。流行りには乗っといて損はないし、実際それで滞りなく高校生活を楽しめる。チャラいだのなんだの拘る方が正直面倒臭い。ごめんな理事長。でも理事長がこないだいってた『スマホ20時以降手離し宣言』は流石にないと思うよ……。
「あー! 日誌終わったー! 帰ろ!!」
「お疲れー」
「のんちゃん、お水飲むー?」
「もらうー! もうまいぴーいい子過ぎ〜! ワテが彼女にするわ〜!」
立ち上がるやいなや舞花にぎゅうと抱きついた長身は明日美。チャラけたダンス部だが、これでクラス一位の成績なのだから侮れない。え? 私? 赤点は回避します。補習だるいし。
「お待たせ、まいぴー、めぐむん、修斗!」
舞花を抱き締めたままニコニコ。すると、パズドラをしながら待っていた男子2人が顔を上げた。
「おー、お疲れ」
「おら、俺にはお疲れ言わねぇのかよ」
「勝手に待ってたんじゃん」
「うわむかつく」
修斗は明日美の彼氏。それから修斗の腰巾着というかなんというか、とにかくいつでもくっついている蒼馬という男が私の幼馴染である。
「またすぐに喧嘩する。彼女出来ないぞ」
「勝ち組発言やめて修斗。俺はしばらくそういうのいいから」
「俺がいればいいって……? ごめん、俺には明日美という彼女がっ」
「告ってないのにフラれた。いや前言っただろ、俺はな」
「明日美が好きなの!? このケダモノ! 渡しませんからね!」
夫婦漫才かな? ほらもう、教室鍵閉めちゃうからねと促せば、2人ともどたどたと廊下に出てきた。男子ってアホ。

「犬……?」
「狐でしょ」
「狐だよあれは」
「どう見ても狐」
「狐以外の何だと言うのか」
犬なんじゃない? 総攻撃を食らった舞花は照れて俯いている。うん、可愛い。当の狐はと言えば、苦しげに突っ伏して胸を上下させていた。真白い毛並みが血で汚れてしまっているのが痛ましい。校庭の隅、部活が粗方終わった木陰は暗くて、夜間灯が煌々と辺りを照らしている。木陰に歩み寄った。
「ちょっと、めぐむん。危ないよ」
明日美が私の袖を引く。そのカーディガンを脱いで、適当な木の棒に巻いた。狐の口元でゆらゆらさせてやると勢いよく噛み付かれる。腕だったら死んでたなこれ。
「大丈夫、大丈夫」
囁きながらさっと上着を狐に被せると、狐は一瞬バタバタと暴れてから大人しくなった。すかさず足を束ねるようにして両腕で持つ。大型犬の要領だ。苛々と口を出したのは蒼馬だ。パキンパキンと足元の枝を折りながら、私の腕を掴む。
「感染症とかあるだろ。やめとけよ」
「この状態で一晩置いといたら死んじゃうでしょ。足怪我してるし」
後は校庭脇の水道で大まかに洗ってやって、ポーチにある包帯でぐるぐる巻きにしてやれば応急処置完了だ。下手に薬は使わない、これ豆ね。
「ここから一番近い穴ってどこだと思う?」
穴を皆知っている前提で聞くと、苦笑が帰ってきた。
「案内するよ。てか高坂は手際すごいな」
「この辺に住んでると、野生の動物触ることが多くなってね」
「ああ、蒼馬も家この辺だっけ」
「そーそ。2人揃って地元民」
ど田舎の民を舐めてはいけない。小学校の体育中に猿が入ってくるなんてザラだ。因みに地元の高校を選んだのは愛などではなく、単純に滑り止めである。絶対受かると思ったのに。
「こいつ、しょっちゅう野生の動物に手を出すから冷や冷やすんだよ。猿ならまだしも狐は肉食だぜ? 気性荒いし」
「詳しいねえ、そうくん」
「こいつのせいでな!」
のんびりとした舞花の声も今は逆効果だったらしい。舞花を怯えさせたら殺すぞ。
そんなこんなで小さめの穴に狐を横たえ下山した私たちは、スタバに寄ってから帰宅した。

次の日。私が祠に向かって拝んでいると、明日美がぽんと肩を叩いた。
「珍しいね、めぐむんが神様拝むなんて」
この祠は高校が立つ山一帯の氏神を祀っているらしい。祠とは別に神社もあるとか。行ったことないけど。
「ん、ああおはよ明日美。昨日の狐の健康祈願してた」
「ひゅー、やっさし、惚れたわ。彼女になんない?」
「浮気」
「ノンノン、ふ、た、ま、た」
「浮気じゃん」
「にしてもなんでキタキツネがこんなところにいたんだろうね? ここ近畿だよ?」
「……それは……私も思ってたけど。まあ細かいことは気にしないで」
通常、狐といえば狐色とも呼ばれる黄金色の毛並みを持ったホンドキツネを指す。少なくともこの辺では。だが昨日見た狐は明らかに北海道などに生息するキタキツネだった。不思議なこともあるものだ。

「ファンタジー的、存在だったりして?」
「またまたまさか」

Re: 狐に嫁入り ( No.2 )
日時: 2017/07/10 16:10
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

2話

「結婚してください」
「不審者帰れ」
何故に私は下校中に和服姿の青年に土下座されているのか? 駅で舞花と別れたらこの仕打ち。私が何をしたって言うんだ。答えは永遠の謎である。以上、完。QED。さあ帰ろう。踵を返した私に青年はなんと土下座の体制から縋り付いてきた。
「待ってください! どうか話だけでも‼︎」
「話って結婚話でしょ⁉︎ 有り得ないから帰して! てか脚に触れるな!」
蹴り飛ばそうとしたらひょいと避けられた。今度は拳を出すがまたひょいと避けられる、ひょいひょい、ひょい。
「だあああ! あんた何⁉︎ 武術の達人⁉︎」
「ぴっ……よ、避けちゃってすみません。でも見えるから仕方ないんです」
「見える? 何がよ」
「あなたの行動の先が」
私は黙って携帯を取り出した。
「もしもし、警察ですか?」
「やあああ! 怪しいものではございません〜!」
「怪しいもの以外のなんだってのよ!」
そこで私ははたとおかしなことに気づいた。男は今私の前で土下座していた。つまり私の前にいたということだ。それなのに私はこんなにも目立つ……悔しいが美形の和服姿に気付かなかった。あからさまに妙だ。つまり……、
「畝の隙間に隠れてたってわけ、このド変態!」
「違います〜!」
「ここら辺田んぼで人通り少ないよね。やっぱり通報しよ」
「本当に! 僕の目を見てください……!」
そう言って指された瞳は妙に煌めいていた。だが断る。瞳キラキラのイケメンだろうが不審者は不審者なのだ。
「僕は実は……先日助けて頂いた狐の」
「鶴の恩返しかよ。通報します」
「きいてぇ‼︎‼︎」
「しかも求婚て。罰ゲームじゃん」
「僕の一世一代の告白を……」

「愛! 何されてる⁉︎」
「蒼馬ぁ」
正直ここまで幼馴染が頼りある姿に見えたのは初めてだ。私は必死に手を振った。
「助けて! 不審者なの!」
ところが、幼馴染は慌てない。……それどころか嘆息しやがった。おい、仮にも幼馴染の女子が貞操の危機に陥ってんだぞ。
「僕は不審者じゃありません! 正真正銘先日の狐の」
「愛」
喚き続ける自称狐からぷいと目を背け、蒼馬は不機嫌に言った。
「コレの言ってること事実だ」
「は?」
ドスを効かせた声にも蒼馬は動じない。本当に呆れ返った声で、いつか来るとは思ってたが早かったな、なんて呟いている。
「こいつはマジの狐だ。俺の家が昔陰陽道やってたのは知ってるな?」
「え、まあうん。本家とかあるよね」
「その関係で俺にも妖怪が見える。お前無駄に獣に優しいせいで、しょっちゅう狙われてたんだぜ」
「ええぇ⁉︎」
明石あかし蒼馬。昔は京都で大きく名を上げた陰陽師の家だった、とは小学生の頃に蒼馬自身から聞いたことだったが、まさか私がそんなことになっていたとは。てか妖怪って実在したのか……と疑いかけて首を振る。蒼馬はそんな下らない嘘を付かない。
「そうか、じゃあ君が印を施してたんですね」
自称狐改め狐はゆるりと立ち上がって微笑む。先程まで汚い地べたに這っていたのに、その和服には汚れひとつない。てか印って何? もう無理、話がぶっ飛び過ぎてる。蒼馬はそんな姿を見てどこか悔しげに片頬をあげた。
「誰かさんに破られたけどな」
「それで、通報を止めてくれたということは、僕らの仲人になってくれるんですか」
ウキウキと告げる狐。ポジティブだな……。
「私絶対嫌だから。あなたを助けたのは傷付いた獣をほってほけなかったから。てかあなた私のこと噛んだし。しかもいきなり求婚とかありえない、非常識すぎ。後将来性がない。獣だよ?」
ばしびしと切り捨てると、ついに狐は俯いて震え始めてしまった。言い過ぎた? やばい、妖怪とか言ってたし変なことされたらどうしよう……。
「ファンタスティックです! 僕益々あなたのこと好きになりました!」
「いや聞いてた? あなた私のこと噛んだよね?」
「噛みました。申し訳ない。マーキングだったとでも思ってください」
「私だからよかったけど他にやったら流血沙汰だよ」
「よく言い聞かせておきます」
「いやあなたのことね?」
煌めく瞳が更に潤み始めて、どうやって抜けようこれ、と考えていた瞬間パンパンと蒼馬が手を叩いた。2人振り向くと、蒼馬は半眼で狐を指差した。
「仲人になんざ絶対ならない。通報を止めたのはややこしくなるから。それよか、お前が悪鬼じゃないか確かめる方が俺には大事だ。……勝負しやがれ」
一間。
狐はにっこりと、それはそれは綺麗に笑った。
「いいですよ。僕が勝つから」
「俺が勝ったらお前には消えてもらう」
「熱烈ですね。僕が勝ったら?」
「愛の前に現れるのを許す」
いや勝手に許すなよ。……とは言えなかった。蒼馬は今まで見たことないほど真剣な表情で狐を睨んでいる。だってこんなの、2人で私を取り合ってるみたいで……。
「陰陽道家の生まれとして悪鬼はほっとけねえ」
あっはい、そうですよね。知ってた。
「あはは、かっこいいですね。お名前は?」
「先に名乗るのが筋だろ。まさか愛に名乗ってないとか言わねえよな」
「あっ。愛の魅力に夢中で名乗り忘れてました」
途端、狐は元のぽやっとした雰囲気に戻ると、私の元で三つ指をついた。というか、呼び捨てなのか。
「カガリと言います。苗字はないので婿入りさせてください」
「婿入りさせない。後呼び捨てすんな。高坂サンって呼んで」
「なるほど、蒼馬さんより今は下と……与えられた愛の試験、乗り越えてみせます、高坂さん!」
どこまでポジティブなんだこいつ?
「俺は明石蒼馬。蒼馬でいい」
そう言った瞬間、また空気が変わった。蒼馬は挑むようにカガリを睨んでいる。カガリはおっとりと笑った。
「自信家ですね」
「あんたは随分と慎重派だな」
そう言った蒼馬は一枚の札を取り出した。
「真名じゃねえだろ」
「おまけに物騒な人ですね。呪縛符ですか」
「ああ。本当の名前ならかかってた」
「蒼馬! そんなことまで……⁉︎」
私が知っていたのは蒼馬の家が昔陰陽道をしていた、それだけ。まさか彼にも力があるとは思わなかった。
本当はやめてほしい。カガリは力のある妖怪なのだろう。そんな妖怪と本気で勝負して勝つ力が16の蒼馬にあるとは思えないのだ。でも、蒼馬はやる。こうなったらテコでも動かないから。いつもそうだった……あれ?
いつもってどんな時だっけ?

「じゃあ早い方がいいですね。今日の夜、校庭に来てください。思い出の場所です」
「わかった。……お前が一番力を出せる場所でもあるんだろ、どうせ」
「蒼馬さんの霊力が馴染んだ場所でもあるでしょう? win-winの舞台設定だと思いますけどね」
やめてよって言いたい。妖怪の嫁になるのも嫌だ。でも、結果的に私のせいで幼馴染を……大切な人を失いたくないんだ……。
「愛、そんな顔すんなよ。俺は死なないしこいつを消す」
「悪鬼確定してません? 大丈夫ですよ高坂さん。僕は愛する人の大切な人を殺したりしない」
「校庭には来るなよな。危ねえから」
「ああ後、無理強いもしません。時間かけてくどきます」
だから俺が勝つっつってるだろうが! 蒼馬が叫んだのも聞かずカガリはモミジを残して消えた。季節外れに真っ赤に紅葉したそれを見て、そういえばうちの高校の名前も紅葉高等学校だななんてことを考えた。
いいか、絶対来るなよ。そんな言葉をかけられた後、私は途方に暮れて突っ立っているしか出来ることがなかったのだった。

Re: 狐に嫁入り ( No.3 )
日時: 2017/07/09 19:03
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

3話
「あいつほんとお前が好きだな」
「はい?」

LINEのグループ通話。私は信用できる親友——舞花、明日美を入れて通話していた。以前助けた狐だと名乗る青年に求婚されたことを。因みに蒼馬のことは話していない。もし信じてもらえなかった時、頭のおかしい奴だと思われるのは私1人で十分である。と思ったのだが、舞花は「なんだかお伽話みたいで素敵だねえ」とぽわぽわ、明日美に至っては「リアリストのめぐむんがそんな下らない嘘吐くわけがないので信じる」などというとんでもない理由で信じた。信じやがった。マジかよ。私は未だに信じてないぞ。
「なんていうか、目の前で紅葉残して消えてさー。天然と言うか馬鹿というかすごいポジティブな狐だった」
『あのコンちゃんそんなキャラだったんだねぇ』
『でもめぐむんに噛み付いてたよね、思いっきり』
何故か感慨深げな舞花と呆れ声の明日美に、私は調子に乗って前のめりになる。
「でしょー⁉︎ だから私はあいつがファンタジー的存在なのは百歩譲って認めるけど、あいつがあの狐だなんてのは認めない!」
「酷いじゃないですか」
「はぇ!?」
『え、今の男の声何⁉︎』
『アイちゃん彼氏……?』
「違う!」
私は頭を掻きむしって叫んで声の主を鷲掴んだ。
『アイちゃんがこんなに慌てるの珍しーねー』
『いやまいぴーそんな場合じゃないでしょ。めぐむん、大丈夫? 不法進入?』
そう聞かれると私の手の中の……狐はくたんと頭を落とした。
「不法進入なのかもしれません。ごめんなさい。でも彼氏じゃありません、フィアンセなんで、んぐっ!」
狐の口から流暢に流れる日本語に、我慢ならず私は狐の顎から鼻面を握り締める。
「明日美。例の狐が部屋ん中入ってきた……」
親友は何処までも冷静かつ現実的だった。
『ストーカーじゃん、通報しよう』
「だよね、そうなるよね、じゃあ一旦通話切って」
「違います! 違うんです待ってください〜!」
『110番じゃないよ、地元の保健所にね』
「的確かつ冷酷な判断⁉︎」
「あ、それならかけ慣れてるから番号覚えてるわ」
「僕に逃げ場はないんですか‼︎ 妖怪虐待反対‼︎」
じたばたと暴れる狐を尻目に、番号テンキーを出した、その時だった。
『でもおかしいね。その時蒼馬いなかったの?』
『ふえ? そうくん?』
ついさっきの状況をぴたりと言い当てられて私は狼狽する。
「い、いたけど」
『何で言わないのさ。関係者だったんじゃん。てか求婚されたって、求婚だけで済んだの?』
「……なんで明日美そんなに鋭いの? エスパー?」
蒼馬の家のことまで言わなければいけないのか? いや本人の許可なしには、というか蒼馬は本当にこの白い狐を殺すつもりでいるのだろうか。白い狐は以前とは打って変わって大人しく、黙ったからと下ろせば行儀よく座ってたまに鼻面を私の手に擦り付けてくる。人型の時よりよほど可愛げがあって、殺すだなんて言ってる蒼馬に少し戸惑いを覚えるほど。というか、もし負けたら?人にも化けられる狐と闘って本当に蒼馬は平気なの……? 頭はぐるぐる回る一方で、つるりと求婚だけでは済まなかったことを肯定してしまった。
焦る私に、明日美は『やっぱり』との反応。さらに追い討ちをかけに来たのは舞花である。
『んーでも確かに、そうくんいつもアイちゃんのそばにいるよね』
「わ、私の側じゃなくて! 私の側に居てくれてる明日美の側にいる修斗にくっついてるんだよ!」
『あ、やっぱりそういう認識なのね。まあいいや、ダーリン呼んでるから後はそっちから聞いて。私は塾』
「えっ待って明日美」
『どもー、ダーリンです』
「うわああぁぁ勝手に修斗呼びやがった!」
聞き慣れた低くて柔らかい声がむっとした様子で『蒼馬のこと聞きたくないなら帰るぞ』と言う。嘘ですダーリン様教えてください。
「僕も将来的にはダーリンと呼ばれたいものですね、ハニー」
「どうしたの変質者。その姿で喋らないで変質者。夢が壊れる変質者」
もふもふをこよなく愛す私的にこの毛並みの綺麗なキタキツネの中身がアレだというのは耐えがたいことなのだ。
『本当に狐が喋ってるのか?』
理系らしく証拠を求める修斗のため、私はビデオ通話に切り替えた。
「お初にお目にかかります。カガリです!」
カメラの方こそ見ないが声に合わせて口が動いている。修斗のことだ、口の動きに合わせて誰かが声を当ててるんじゃないか? なんて言うに違いない、と思っていたのだけれど。
『ただの肉食獣がこんな大人しくしてるわけないな、信じるよ』
「君らカップル割と簡単に信じるよね」
『ハニーのベストフレンドの言うことだからな』
「冗談も割とわかりにくいよね」
天然だからねえと笑う舞花。ごめん、素敵だねの一言で信じたあなたのセリフじゃないと思うよ。
「それで、修斗。蒼馬のことって?」
『その前に今日の経緯を教えて。どんなことが来ても驚かないし言いふらしたりもしない。野崎、そうだよな?』
『もちろん!』
舞花が即答したのを聞いて、私は全てを話す覚悟を決めた。
途中カガリが口を挟もうとしたりして大変だったが、蒼馬の家のことまで含めて、全て話し終えた。勿論、今日の夜の校舎である出来事に関しても。30分くらいかかって、真っ赤な西日が頰にかかって来ていた。もうすぐ夜だ。
長い話を終えた安堵でふぅと吐いた溜息は、思いも寄らず修斗とダブった。
『大体分かった。けど……始まりは高坂とは言えど、親友になれたって俺は思ってたんだけど、何にも話して貰えてなかったんだな。今日のこともさ、危ねぇのに……』
しんみりと、少し寂しげな彼は、そのままの響きで告げた。
『あいつほんとにお前のこと好きだな……』
「はい?」
ガチトーンで返してしまった。
『あいつほんとにお前のこと好きだな』
「繰り返さなくていいです。有り得ないです」
『おまけに伝わってないのか……可哀想に』
「な、……ない愛は、つ、伝わらないって」
「僕の愛は有りますよ!」
「求めてない愛は受け取らない。で、何を根拠にその……蒼馬が私のこと好きだって言うのよ」
どもってしまうのは、それこそ幼稚園の頃同じ布団で昼寝したような仲の蒼馬だから。不本意ながら誰よりも見て来た異性だ。誰より知っている自信がある。思春期でさえあいつとの腐れ縁は途切れなかった……あれ?
『入学してから少しして、あいつの方から話しかけて来たんだよ。それも、俺が明日美と付き合い出してから。自分のクラスメイトの顔でさえ曖昧な時期に、他クラスの奴に何の繋がりもなく話しかけてくる奴って稀有じゃね? まあ俺も友達欲しかったからLINEで喋るようになって、その内気が合うなってことで高校でも駄弁るようになって。したら明日美の親友の高坂が蒼馬と幼馴染って言う。俺って勘良いし頭いいしさ、はっきり聞いたわけ、お前高坂の側にいたくて俺に近づいた? って。そしたら肯定されちゃうからもー俺ビックリ。熱烈過ぎねぇ? 好きなのかって聞いたらそんなんじゃないけど側で見てないとあいつは危険だからって言う。高坂が野生の狐助けちゃった時はこういうところかな? と思ったけど今の話ではっきりした。お前護られてたんだよ、蒼馬に。産まれてから今まで』

Re: 狐に嫁入り ( No.4 )
日時: 2017/11/15 19:26
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

4話

「僕じゃなかったら死んでますよ」
容赦無さすぎてワロタ。

夜中の学校と言えば、数々のロマンスやら怪談やらはたまたミステリーの舞台となる場所だが、まさか全て網羅するとは思わなかったなあと遠い目をしながら私は嘆息した。因みに、私が2人の男性(片方人外)に取り合われている、という現状自体がミステリーである。何が起こった。私が考えるに、あの狐が何を血迷ったか私に恋しているのは確定にしても蒼馬は違う。蒼馬はマジで自分の縄張りに悪鬼がいることが許せないだけだ。先程蒼馬の家に電話をかけたが、お母さんも「あらあらまあまあ〜」という感じではなくて、「どうしたのめぐちゃん、蒼馬に宿題でも聞けばいいのかしら?」という対応だった。息子の片恋相手への態度では断じてない。いつもお世話になっております。そういえば、あいつは昔から縄張り意識が強かった。ウサギかよってレベルだった。特に寝ているところを邪魔すると容赦なく叩かれた。目が開いているのかと疑うレベルの的確さで鳩尾を狙ってきた。やっぱあいつウサギだ。因みに鳩尾に入れられそうになったときは、正当防衛の名の元に遠慮なく金的させて頂いた。あいつとはそういう仲で、決して守る守られるだの、ましてや恋沙汰だなんて関係ではないのだ。それに私は、自分の身くらい自分で守れる。
狐も『男の決闘の前です。婚約者の側にいるのは無粋というもの』なんて言いながら消えやがった。殴る暇なかった。
「アイちゃん? ぶつぶつ怖いよ?」
「えっ声に出てた?」
「うん。思いっきりだよー」
「心配なんだろうけど、静かにな。これ一応不法侵入だから」
私たち—私、舞花、修斗は夜中の校舎裏にいた。蒼馬には来るなと言われたが、やはり心配なのだ。修斗が夜中私たちと一緒にいていいのかと明日美に聞いたところ、ここで行かなきゃ男じゃないから振ってたと返ってきた。頭のいいカップルはわからない。後、成績優秀なのはわかるし、塾にいるのわかってて電話した私も悪いけど、授業中に通話に出るのはどうかと思う。先生可哀想に泣いてたよ?
「にしてもどこから入るんだ。やるのは校庭なんだろ? 踊り場から普通に見えるから教室まで入らなくてもいいとしてさ、学校に入らねえと」
「そうなんだよー。あれ、あれ園田くんじゃない? 園田くーん」
「ちょっ、舞花、大声は……園田?」
同じクラスの男子だ。なんでこんな所にこんな時間にと、私は声をかける。
「どうしたの? 忘れ物?」
「う、うん。古典のノート忘れちゃって……君たちはどうしたの?」
園田、結構喋るな。教室は人見知りーって感じで大人しくしてるのに……説明しあぐねる私をぐいと押して修斗が頭を掻く。
「俺たちは夜の学校探検組。一緒に観てるドラマに似たようなシーンがあってな、真似したくなった」
「ふーん、楽しそうだね! いいと思うよ! ……でも入れないでしょ、普通にやっても。おいでよ、入れる場所案内してあげる。先輩に教えてもらったんだ」
そうして案内された場所は獣が掘った穴のように見えた。案外深く、壁にも亀裂が入っている。、
「うっわ、こりゃひどいな」
「だよね。古い校舎だからかな。でもこのおかげで明日当たっても大丈夫。感謝しなくちゃね」
園田は先に穴を潜り抜けると、廊下の窓から「大丈夫だよ」と言ってくる。カッターシャツは泥で汚れていた。舞花がおっとりと笑った。
「園田くん、サバイバルなんだあ」
「それはちょっと違うと思う。舞花、汚れない? 大丈夫?」
「汚れてもいい服着て来たもん! もしいざという時には、アイちゃんを守るのは私なのだー」
「は? 愛しい」
「はいはい、ラブラブなのは分かったから通ろうな」

「どこかが壊れましたね」
呟いた壮年の男は、黒い髪に黒い瞳、ネクタイにジャケットと平凡な姿で、座椅子に座っていた。とん、ととん、と指が飴色の机を叩く。
「悪鬼ならば結界に弾かれているからその可能性は薄いでしょうが……今夜は悪戯っ子が多いようだ」
がたり、男が立ち上がると、どこからともなく杖が現れる。それを手に取って彼は笑う。
「さて、愛の障害を乗り越えに行きますか!」

「あ、蒼馬はもういるぞ」
「そうくん和服だ。かっこいいー」
「……なんか校庭の様子いつもと違くない? あちこちに札が貼ってある」
「お前がさっき言ってた結界符とかいう奴じゃないのか。前準備してたんだろ。愛されてるな」
「だから私たちはそんなんじゃないって……」
そう言いながら、声が聞こえるよう窓をほんの少し開ける。ここは一番端っこの階段、校庭の2人から見える可能性は薄いが、なんとなく私たちは大っぴらには見えないようにしていた。
「何かうたってるね、そうくん。カグツチとか聞こえる」
「歌ってはないだろ……なんて言うか語ってる? アニメでよくある感じ。おおすげ、腕に火ぃついた。なぁ高坂、見ないのか」
私は修斗を無視した。だって何だか嫌なのだ。私の知らない蒼馬。私に教えてもらえなかった蒼馬がいるなんて、それをこっそり覗いているなんて……なんか、情けない。未だ朗々と響く蒼馬の声に耳を傾けながら私は叫んでしまいたい気分になった。

「やっと来たか」
! 窓にかじりつく。カガリは会った時の姿ではなかった。あの時は少し色素の薄いストレートの短い髪と目の少年、と言った姿だったが、今は流れるような白金のポニーテールに、目は金色。顔立ちだけはそのままに、ファー付きの羽織の下に洋服を着ていた。
「相変わらず物騒な人ですね。この結界符、僕じゃなかったら死んでますよ」
またそんな危険なことしてたのか、蒼馬……。
「人間に変化しなくてもいいんだぜ。本来の姿、見せてみろよ」
「僕はいつだってありのままですよ。で、ここに入れたのでもう認めてもらえませんか?」
辟易とした声とは裏腹に、カガリは楽しそうだ。
「そういうわけにもいかねぇ。お前が高位の妖怪ならこれくらいパスできる。高位な悪鬼なんて最悪中の最悪だ。ここで始末してやる」
「なら、って仮定ですね。どうやって確かめるんですか?」
「決まってんだろ」
蒼馬はビッと、何か白い紙を取り出し高く掲げた。
「追い詰めて尻尾出させんだよ!」
瞬間蒼馬の和服の袂から、白い紙がぶわっと躍り出た。その1つ1つがみるみる内に矢へと変わり、カガリに迫る。アニメを見ているようだった。危ないと思った瞬間、カガリは黙って片手を掲げた。瞬間真っ青な火が壁のように伸び上がり、矢を焼き尽くす。
「狐火……やっぱりかよ」
「あなたの破魔矢じゃ僕は、殺せないみたいですね?」
「あぁ……だから力を借りるんだよ!」
蒼馬は素早く手を9字に切ると、すと目を閉じて朗々と呼んだ。
「ハヤアキツヒコ! 悪鬼を払い清浄にせよ……急急如律令!」
返って来たのは静寂だった。一間、軽やかな笑いが響き渡る。
「いやー、まさか十神を呼び出そうとするとは思いませんでしたよ。そこまで行ったら流石の僕でも敵いませんからね、平伏します。ハヤアキツヒコは僕を払う気はないようですよ?」
「……俺なんか若造の元には降りなかっただけだっ。認めねえ」
「僕は貴方を認めますよ。明石蒼馬さん、あなたをライバルとしてね」
「そうだよ……もういいじゃん、蒼馬ぁ……やめようよぉ……」
「そうくん、汗ばんでる……」
「さっき呼んだの古事記に出て来た神様だったぞ……そんなの身体に入れようとしてあいつ大丈夫なのか? なぁ、止めた方が」
バサバサバサ! けたたましい音と共に、紙が舞い上がり……人が2人現れた。
「悪行罰示式神! すごいですね、蒼馬さん」
「何悠長に敵褒めてるんだ……はあ、こいつらは、お前を、逃さない」
「ええ。流石に」カガリの背中、青い炎が大量に燃え上がった。「厳しいです」
2人が炎とかち合った、その瞬間。
「何見てるの?」
「園田……? 帰らないの?」
私は慌てる。この状態を、園田に見せるわけは行かない。てててっと階段を降りた……背中から、声が追いかけてくる。
「アイちゃん。今日うち古典あったっけ」
目の前で園田が倒れた。

Re: 狐に嫁入り ( No.5 )
日時: 2017/07/26 23:44
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

5話
「戦略的提携だ」
何でもいいから早く助けろ!

倒れた園田の身体からみるみる伸び上がった影が、やがて大蛇の姿になる。何だこれは、園田は妖怪だったの? 変化していた?
影の中2つ青い目が瞬き、影がズルズルと伸び上がり、私に襲いかかってくる、2人は、駄目だ、間に合わない——!
「言ったよね、アイちゃん」
——え? 舞花?
「私がアイちゃんを、守るって!」
私の前に立ちはだかったのは、見慣れたぽやぽやした小さな女の子……舞花だった。手には鏡を捧げ持っている。大蛇は鏡に弾き飛ばされた。シュウウ、舌を出して威嚇。舞花はそれに負けじと鏡を掲げた。
「——あまねく精霊の皆々方、かしこみかしこみ申し上げる! 我が矢に宿られ、魔を破る光とならん!」
舞花は鏡の中からにゅるりと出てきた大きな弓を、ぱしんと小気味のいい音を立てて取る。光り輝く矢をつがえて、パッと離した。矢はまっすぐに大蛇に向かっていき、力強く刺さる。悲鳴。これ、一体……⁉︎
「舞花、どうしてそんな」
「アイちゃん下がって! ……っつ」
隣に踊り出た私を庇った舞花が、大蛇の巨大な尾に打たれてどうっと転がる。
「舞花!」
打ち付けたらしい腰に手を遣っていた舞花は、私の声にばっと顔を上げた。睨まれる。初めて見る、親友の険しい表情に私は怯えた。
「動いちゃだめ! あいつまだ、死んでない……!」
大蛇がゆっくりと鎌首をもたげる。両目がギラギラと欲を反射して、浅ましく光った。修斗はと目を走らせると、踊り場に既にいない。彼は合理主義だから、人を呼びに行ってくれたのかもしれなかった。なら心強いけれど、逃げたのかと思うと胆から冷える。
「舞花、逃げよう!」
「大丈夫……!」
よろけながら舞花は立ち上がる。だめ、動いちゃあいつの標的になる……!
「ならないよ」
私に剥かれた牙が、舞花の矢に弾かれる。え、私今喋ってない。立ち上がった舞花は私の前に立ちなおも弓矢を構えた。
「こいつはアイちゃんが狙いなんだ。理由は、今はわかんないけど……」
今は? いつかはわかるの? どうして舞花はそれを知ってるの?
「戸惑うのは分かるけど抑えて! 大丈夫、私はアイちゃんを守りたいだけの、巫女さんだから」
巫女……?

「悪鬼の多い夜だなオイ」
朗々と響く声。白い紙の嵐が大蛇を縛り上げた。
「蒼馬!」
「ありがとうございます舞花さん。僕も負けていられませんね」
涼やかに転がる声。青い火がその姿を照らし出す。
「カガリ!」
呼びながら舞花を抱き、窓から入ってきた二人の後ろに飛ぶ。隣にいたのは汗だくになった修斗だった。
「ごめん、呼びに行ってた」
ナイスでしかないよありがとうと言えば、穏やかな笑みが返ってきて怪我はないか? と案じられた。イケメンかよ。
「修斗!」蒼馬が何故か修斗に噛み付く。修斗はやれやれといった調子で笑った。
「はいはい何もしてませんよ」
会話とは余裕だな。舞花はぐったりと私に寄りかかっている。大丈夫だろうか、もしあの弓矢を使ったせいだとしたらと考えて胸が詰まった。
バチン! と盛大に蒼馬の放った紙が破れる。しゅるるる、と息を吐く大蛇。くぱりと大きく口を開くと揃った牙が鈍く光った。
「くそっ……狐! 戦略的提携だ! 狐火で動きを止めてくれ、俺の式神がやる!」
蒼馬の横顔を汗が伝った。


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