コメディ・ライト小説(新)
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- 推しはむやみに話さない!
- 日時: 2022/07/01 00:45
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
自分の推しを教えると、学校生活即終了!?
何としてでも推しを隠し通せ!
一風変わった高校で、主人公(JK)は今日も今日とて、
推しはむやみに話さない!
どうもどうも、狼煙のロコです♪
『推しはむやみに話さない!』へようこそ。
予め言っとくと、この作品はやべえと思います。いろんな意味でね。
また、本作のキャラである前萌 寧音がまたすげえ奴で、明るめな空間にシリアスなパンチを与えてくれやがるかもしれません。
ご了承ください\(^^)/
一応既に終わりは考えていて、それに向けまったく肉づけしてない中身をねじ込む感じですかね。
まあ気が向いたら見てくれや。
伏線は頑張って入れたいところだが、難しいと思う今日この頃の私は、ラストまで見てくれることを望んでいます。
ご感想、ご指摘等ありましたら、本スレ、または雑談スレ『ナマケカフェ』にてお待ちしてます!
以上作者からの挨拶でしたあ。
『#目次!』
キャラ紹介 >>01
1話 >>02 2話 >>03
3話 >>04 4話 >>05
5話 >>06 6話 >>07
7話 >>08 8話 >>09
9話 >>10 一気見! >>02-10
【見えない!? アニメイトの刺客編】
10話(?視点) >>11
11話 >>12 12話 >>13
13話 >>14 14話 >>15
15話 >>16 16話 >>17
17話 >>18 18話 >>21
19話 >>22 20話 >>23
21話 >>24 22話 >>25
23話 >>26 24話 >>29
25話 >>30 26話 >>31
27話 >>32
背後鬼ルールまとめ >>33
28話 >>34 29話 >>35
30話 >>36←new!
一気見! >>11-
『#お知らせ!』
4/5 閲覧回数200突破!
ありがとうございます!
4/15 【見えない!? アニメイトの刺客編】スタート!
お楽しみに!
12/30 閲覧回数500突破!
ありがとうございます!
『#読者様からのありがたき返信!』
りゅ さん >>19-20 >>27-28
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.22 )
- 日時: 2021/08/09 09:08
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#お嬢様は落ち着けない!』
「どうぞ、お手をお取りにですぞ」
イケメン執事さんは、細く綺麗な指を私に差し出してくれた。
私は応じて、自分の手を彼の手のひらにのせる。同時に私の手はしっかり握られ、そのまま軽々と身を起こされた。
無理やり引っ張られた感じはなく、むしろ心地良いほどとは。
この執事、できる!
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしましたぞ。まあ、これからもっと……」
「え?」
「いえ、なんでもありませぬぞ」
執事さんはコホンと軽く咳払いをして、何かをごまかした様子だった。
うーん。聞きたいことはたくさんあるけど、とりあえず、
「あなたたちはだれ」
先にその疑問を口にしたのは未来ちゃんだ。私もすかさず気になっていることを執事さんに伝える。すると執事さんは青く細い瞳を、さらに細くして、小さい笑みを浮かべ始めた。
どうやらこの質問も予測済みらしい。執事さんは左手を胸に、もう片方の手を後ろに回してまっすぐな姿勢のまま丁寧に腰を折った。
「申し遅れました。私たちは姫宮財閥の者でございますぞ。ご存知でしょうか」
「え! 姫宮財閥ってあの姫宮財閥ですか! す、すごい!」
執事さんは随分とあっさり言ったけど、これかなりやばい。
姫宮財閥は、世界中のアニメイト会社を抱える超巨大グループ。この世全てのオタクたちが憧れるようなめちゃくちゃな金持ちだ。なんでそんな人たちがここに!
あれ。未来ちゃんあまり驚いてない?
「未来ちゃん。やけに冷静だね」
「だってそこにローリエさんがいるんだからそのくらい読めてた」
「え? ローリエさん……って、誰だっけ」
「「「え?」」」
「え? なんでみんなして驚いて」
「あなた本気で言ってるの」
え、なになに怖い。いや、人の名前覚えてないのは悪かったけど、そこまでじゃ……いや! 相手は姫宮財閥だった! まって、私絶対まずいこと言ったじゃん。未来ちゃんも私が知らないことに驚いてるし。
えと、ローリエさん? だっけ。確かにどっかで、どっかで聞いたことあるけど。どこだっけえええ。
私が必死になって思い出そうとしていると、執事さんがゆっくりと近づいてきた。
「あなた、本当に知らないのですかですぞ?」
声がちょっと低い。怖い怖いオワタ。
「す、すいません。よく……思い出せません」
「そんなどこぞの音声アシスタントAIみたいなことをいって。
いいですかですぞ! この方はあなたと同じ夕星高校に通っているで有名な姫宮財閥の長女、姫宮ローリエお嬢様ですぞーー!!」
「そう呼ばれていますわ。ファサア」
執事さんは後ろのローリエという名の少女に、勢いよく両手を差し伸ばして、私と未来ちゃんにそちらを見るよう促した。
そして、そのローリエさんはというと、右手で髪をなびかせて得意げになっている。あとなぜか自分でファサアって言っている。
さっきの叫び声とセリフに、このノリ。あと低身長……はっ!
「あ、お、お、思い出しましたーーー。
60万で買った『草木の町人』のプレミアグッズ、『兎のモモちゃんと虎のシシちゃん獣化セット(実物大)』を学校で自慢して、その日の下校途中で盗まれた挙句、次の日泣きまくって、さらには一週間学校を休んだ、あの姫宮ローリエお嬢様ですねーーーー!!!
ちなみに身長は中学生並みいいいぃ」
そうか! さっきの「モモちゃーーーん! シシちゃーーーーん! どこですのーーー!!」って叫び声、聞き覚えあると思ってたけど、プレミアグッズが盗まれた翌日に全く同じセリフ叫んでたんだ。
同じ高校、しかも同学年の子のことを覚えていないなんて、私とことん記憶力ないなあ。
改めて自分のニワトリのような記憶力を憐れんでいると、突然、可愛らしい叫び声の主であるローリエ“ちゃん”が大声で喚きだした。
「さっきから、聞いていればなんて失礼な! わたくしの名前を忘れるだけにとどまらず、わざわざそんな昔の話を持ち出してくるなんて! 万死に値すですわ!
あと、身長が中学生並みってなんですの! 余計! 一言が余計ですの! わたくしは大人になったら八頭身になりますのよ! そこのところお忘れなく! しつ!」
ローリエちゃんは私に右手の指差しを決めながら、早口で怒りの感情をあらわにする。そしてさっきと同じく、話の終わりに“しつ”と言葉にする。多分、執事さんのことをそう呼んでいるのだろう。少し珍しい呼び方だ。
「はっ、お嬢様。いいですか野花様。お嬢様はご自身の身長の低さをかなり気にしておられます。
牛乳パックを一日一本は飲み、食事は人一倍多く摂り、毎日早寝早起きを心がけているのになかなか身長が伸びないことを嘆いておられるのです。入浴前にのる身長計の数字の低さにおののいておられるのです。
どうか、あまりいじめないでやって下さい……」
執事さんは悲しげのある目つきで、ゆっくり丁寧に話して、私に同情を誘う。それを聞いて、思わず笑いが、いや、涙がこぼれそうだ。
ああ、ローリエちゃんはそんなに大変な思いをしていたのか。私も少し言い過ぎた。
私は執事さんにしっかりと頷いて、非礼を詫びた。そして、誓いの握手を──
「ちょっとおおおおお! しつ! なぜあなたまで悪ノリをしているのですのー! 野花さんも今絶対笑おうとしてましたわよね!? なんですの! 身長が低いからってなんですの! 低身長にも人権はありますわよーーー! ムキーーーーー高身長が羨ましい!!」
「……と、茶番はここまでにして」
「終わらせましたの!?」
ものすごい勢いで繰り広げられる低身長論争。まだまだ続けたいところだが、未来ちゃんや周りの黒服さんたちが啞然としているので、そろそろやめなければならないのだ。
そうだ。相手の自己紹介を聞いたんだから、こっちもしないとね。
「そういえば、自己紹介がまだでした。私の名前は大柴野花です。夕星高校の一年四組にいます」
あれ? なんかおかしいような。
私は自分の発言になにか違和感を覚えた。が、まあ、唐突な自己紹介が違和感をおびき寄せているだけだろう。
私は変に難しいことを考えるのはやめ、未来ちゃんの肩を指でつっついて、自己紹介をするよう示唆した。当然ながら、未来ちゃんも唐突な自己紹介には半ば呆れている。
「一年六組の前途未来」
未来ちゃんはそれだけ言って、すぐ口を閉じた。誰に対しても、無愛想を改めないのはさすが、未来ちゃんクオリティ。そういう自分を曲げないところには好感が持てるなあ。
すると、私たちの自己紹介を聞いたローリエちゃんは、なぜか大声で笑い始めた。
「おーほっほっほ! それが自己紹介ですって? クラスと名前だけで自分を理解してもらおうなんて甚だしいにもほどがありますわ!」
今度は急に嫌味だ。低身長って言ったこと、相当根に持ってるな。
皮肉めいた言葉の次には、コツンと靴の音が響いた。そして、目の前には足を大きく開いて手の甲を口に近づけたローリエちゃんの姿。
その輝くような金色の髪は左右に揺れ、身にまとうピンク色のドレスが一瞬、ふわっと空気に押し上げられる。
「いいですの。本当の自己紹介とやらを見せてあげますわ」
「ああ、つまり汚名返上」
「違いますわよ!!」
折角のローリエちゃんの決めポーズはまた怒りによって、地団駄を踏む可愛らしい少女と化していた。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.23 )
- 日時: 2021/09/18 15:02
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#ローリエちゃんは髪を意地でもなびかせない!』
「心してお聞きなさい! わたくしの名前は姫宮ローリエ。あなた達と同じ夕星高校に通う美しきレディーですわー! この神秘たる美顔に敬服いたしなさい!」
ローリエちゃんは何事も無かったかのように得意げに決めポーズをしている。
そして美しいっていうより可愛い……。思わずぷにぷにしたくなるその丸い小顔が、ローリエちゃんの幼さを強調している。
その顔を覗き込むように、私は足を一歩前に出す。するとローリエちゃんは、ニヤリと不気味な微笑みで自ら顔を寄せ返してきた。
「あらあら、わたくしの美貌につい釣られてしまいましたの? いいですわ。お顔のお近づきの印に差し上げましょう1ファサア!」
「1ファサア!? 何なのそれ!」
私は目の前のローリエちゃんに小声で質問を投げかける。
そんな私を、ローリエちゃんは手のひらで静止させて、口元を私の耳に近づけた。
「ファサア」
オーマイローリエ! なんたる破壊力なの1ファサア! そのあどけない容姿からは想像できない艶やかな天使のささやき!
だめ、ここで屈しちゃう……。
「っていやいやローリエちゃん。さっきも言ってたじゃんファサアって! 髪をなびかせながら! 肝心のなびかせ要素は何処へ? 擬音語だけ残してどうすんの! 髪をなびかせないファサアなんて、空のプッチンプリンをプッチンするのと一緒だよ!」
私は右足を一歩引いて、腕を振り上げ、なびかせアンコールを繰り返す。
ローリエちゃんはそれを聞いて、上目づかいで右手のひらを勢いよく差し出した。
「その勢いだけは認めますわ。いいですわ。差し上げましょう4ファサア!」
その言葉と同時に執事さんから深い拍手が送られた。
「おめでとうございますぞ野花様! あの日本ファサア協会、通称NFKの会長を務めているで有名な姫宮財閥の長女、姫宮ローリエお嬢様から4ファサアも貰えるなんて! 4ファサアは、1スペシャルファサアと交換できますぞ!」
「ス、スペシャルファサア……! お願いします!」
普通のファサアでもあの破壊力なのに、スペシャルとまでなると一体なにが!
緊張のあまり、私の喉が大きく唾を飲みこむ。
ローリエちゃんは再び私に近づき、耳打ちを放った。
「ファサア……ファサア…ファサア…ファサア…」
お、おお……オーマイローリエ! まさかのエコーかよー! 確かにあちこちにスピーカーあるけどー。
「す、すごい。ファサアにエコーが……」
「エコー? 違いますわ。これは腹話術ですわよーー!」
「えーーーー何のために!?」
「面白いからですわーー!」
これもう腹話術の域超えてない? すごい響いてるんだけど!
それはそうとして。
「あのー、髪なびかせは無いのでしょうか?」
ローリエちゃんは一瞬、間を置く。そして、はっきりと言った。
「それは有料会員向けですわー!」
「無料会員の壁!」
そんなのって無いよ! あんまりだよ!
私は大きく膝を落として、この非情に対する失望をめいいっぱいに表現する。そんな私の背中を執事さんが優しくさすってくれた。
すると、しばらく黙っていた未来ちゃんが、私に冷たい言葉を浴びせてきた。
「なにしてるの早く立って」
「未来ちゃんが急に鬼監督になった……」
「そんなことよりライブどうするのみんな待ってる」
「あ!」
わ、忘れてたー。楓達ずっと待ってるかもしれないし急がなきゃ!
未来ちゃんもやけに焦ってる感じだし、そろそろローリエちゃんとのおふざけも止めにしないとね。
「ローリエちゃんごめん! 私たち早くライブに行かなきゃいけないの。ローリエちゃんも一緒に行かない?」
私はローリエちゃんに微笑みながら誘ってみせる。
ローリエちゃん面白いし友達になりたいしね。
でも、返答は返ってこなかった。
ローリエちゃんは横にいる執事さんに話しかける。
「しつ。そろそろ準備は整いましたの?」
「……はい。お嬢様、本当にいいのですかですぞ? 後には引けませんぞ」
「構いませんわ」
え、なに。何を話しているの。
何やら悪い予感が背筋を凍らせる。
すると、私の左手が誰かに握られた。
未来ちゃんだ。
「逃げるよ」
「え? それってどうい──」
私が全てを言い切る前に、未来ちゃんは私を引っ張り走り出す。
向かう先は前に見えるエスカレーター。
しかし、さっきまで周りにいた黒服の人達が、私たちを阻んだ。
「どういうこと!? 状況が理解できない!」
私は今、ここで何が起きているかを理解するのに精一杯だ。
だが、なぜか未来ちゃんは、この場に置いても冷静さを保っているようで、周囲を見渡している。
そこに生まれる沈黙。
……。
そして、ローリエちゃんの返答は遅れてやってきた。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.24 )
- 日時: 2021/09/25 16:24
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#すぐに真実は言わない!』
コツン
厚底の靴から発せられる軽やかな音。
その音の高鳴りに、胸の鼓動が早くなる。
「ライブのお誘い感謝しますわ。野花さん」
ローリエちゃんのドレスがゆっくりと揺れる。
「でも、私がライブに行く意味は無いんですの」
金色の髪が小さく浮かぶ。
「それは、とある二つの目的でここに来たからですわ」
「目的?」
コツン
また、靴が床を叩く音。
気づくと目の前には、ローリエちゃんが無機質な笑みを浮かべて立っている。
そして、右手を前に突き出して、人差し指を立てた。
「一つ、そもそも今日このイベントを開催しているのは、私たち姫宮財閥だからですの。つまり、運営を任されていますのよ」
あ、そっか! 運営を任されている以上ライブなんて見てる暇ないってことか。こんな大人数で来ているのも納得だ。
「なるほどー。それで、二つ目は?」
明らかに変わっている空気感。私はそれを感じ取りながら、もう一つの目的とやらを聞いた。
ローリエちゃんは続ける。今度は人差し指に加え、中指も立てた。
同時に私の手に強い感触が伝わる。
見ると、未来ちゃんが私の手を握っていた。
なんだか少し震えているような。大丈夫かな?
「二つ、それは……」
私は未来ちゃんの手を握り返す。
大丈夫。きっと。
ローリエちゃんはゆっくりと息を吸った。そして、そのまま言葉を発する。
「モモちゃんとシシちゃんを探しに来たからですわーーー!」
「なるほどぉ?」
ローリエちゃんが元気な声で腰に手を当て、なぜか威張っている。
でもまた明るい空間に戻った気がした。
それにしても、なんだそんなことかー。変に心配し過ぎちゃったかな。
私に絡まる緊張の糸は綺麗にほどける。その安心感から、胸を撫でおろす。
そういえば、モモちゃんとシシちゃん探してるって……。
「もしかして、盗まれたプレミアグッズまだ見つかってないの?」
「その件はもう解決しましたわ! もちろん犯人は社会から抹殺させていただきましたわ。おーほっほっほ」
ローリエちゃん。めっちゃ悪い顔してて怖いよ。
「ってことは、今日は単純にグッズを買いに来たってこと?」
「ええ、今日という日をどれほど楽しみにしていたということか。ああ、愛しのモモシシちゃん。あなた達のグッズは買いつくしてあげますわよー!」
「わかるわかる。モモシシちゃん良いよね! 頑張ってね」
モモちゃんとシシちゃん。『草木の町人』のキャラであり、鬼胡桃 双葉ちゃんによって作られたぬいぐるみ達だ。
双葉ちゃんは『自分の作ったぬいぐるみに生命と感情を与える』能力によって、この二人を可愛がり、共に戦っている。
モモちゃんは兎、シシちゃんは虎。通常はぬいぐるみのままだけど、戦う時は獣化する。
そして、双葉ちゃんは最初敵キャラで、主人公達をかなり苦しめるんだよね。
でも、本当はすごく優しい子で戦いたくなんてなくて。自分の存在意義を見失っちゃってたんだっけ。それを見つけるために敵の手下になってたんだよね。
最初の戦いでは双葉ちゃんは不利になって結局逃げちゃうけど、二回目では見事仲間に引き込むことができるんだよね。そしてその時の主人公の名言が……と、自分の世界に入り込んじゃった。
いけないいけない。
そういえば、私はまだ未来ちゃんと手をつないでいる。
もう大丈夫だとは思うけど……。
私は未来ちゃんに笑顔を見せてみる。
でも、まだ未来ちゃんの手の震えは残っている。本当にどうしたんだろう。
「未来ちゃん、大丈夫? もしかして暑くて調子悪いとか」
「……大丈夫」
未来ちゃん、いつもより口元に元気がないよ……。
「それよりあなたはいいと思うの?」
「え、何が?」
「みんながライブに行ってる間にローリエさんはグッズを買おうとしている」
「た、確かに! それは同じオタクとして許せないような」
私はローリエちゃんのほうをまた向く。
すると、ローリエちゃんはギクッと、一歩足を下げた。
「そ、それは……」
「ローリエちゃん! ローリエちゃんが運営側だとしても、やっぱグッズを買う権利はみんな平等であるべきだよ!」
「ギクギクッですわ!」
私がローリエちゃんに軽く文句を言ってる時だった。突然未来ちゃんは言った。
「ローリエさんその茶番はもうやめて」
「え? 未来ちゃんどうしたの」
「あなたまだ気づいてないの?」
え? どういうこと?
ていうか……。なんでみんな急に真顔になってるの?
あれ、またこの妙な雰囲気。
「あら、どういうことですの? 未来さん」
ローリエちゃんは小さく首をかしげながら、不敵な笑みを浮かべていた。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.25 )
- 日時: 2021/11/21 11:32
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#目的は二つじゃない!』
未来ちゃんは淡々と話を始めた。
「あなたがここに来た目的は二つだけじゃない」
「え、それってどういうこと? ローリエちゃんには他にも目的があるの?」
「ある」
まるで確信しているかの物言いだった。
なぜ未来ちゃんがそう思うのか。仮にそれが本当だとして、ローリエちゃんがその別の目的とやらを隠すことに何か意味はあるのか。
何も分からず、私はただただ混乱する。
そんな私を特に気に掛けることもなく、未来ちゃんは続ける。
「思えば違和感ばかりだった」
「違和感?」
確かに、私もさっき少し感じたけど......。
ええっと。そう、私の自己紹介のとき。
「ローリエさんあなたにいくつか質問がある」
「あら、なんですの?」
ローリエちゃんは笑顔を崩さず、未来ちゃんに耳を向ける。
『何か』を疑われているのに、満面の笑みを浮かべているのは少し気になるけど、まあ大したことではないか。
小さな疑念は頭の片隅に置き、私も未来ちゃんの話を聞く。
「まずなんであなたはこの階でモモちゃんとシシちゃんを探しているの?」
「ああ、確かに、モモちゃんとシシちゃんがいるのって五階だよね。でも、この階に双葉ちゃんがいるから勘違いしたのかも」
「ええ、野花さんの言う通りですわ」
「イベント関係者がグッズの配置を知らないわけない」
た、確かに!
「あらあら、勘違いも甚だしいですわね。わたくしの担当はあくまでもライブだけですわ」
「え?」
私は思わずその場の雰囲気に合わない素っ頓狂な声を出してしまった。
てっきりアニメイト内の運営を任されているから、ここにいると思ったのに。
ならどうして、わざわざライブ会場から離れるんだろう。
もしかして、本当に。
「じゃあここにいるのって、本当にモモシシちゃんを買うためだけってこと? じゃあ周りの黒服さん達がグッズの配置を知ってるのかな......あれ?」
本当に何が何だか分からない。
私は首をかしげて、自分の混乱を分かりやすく表現する。
すると、今度は未来ちゃんが私の疑問に答えるかのように、さらに言葉を紡ぎだす。
いつもの大人しい未来ちゃんとは、明らかに様子が違った。
「ローリエさんがここにいる時点で誰もグッズの配置を知らないということ」
「......」
ローリエちゃんは何も言わずに、未来ちゃんの言葉を聞き続ける。
それでも、決して可愛らしい笑みは崩さない。
その笑みが余計に私の思考を乱す。
反対に、未来ちゃんは鋭い口調をさらに尖らせていった。
「とてもライブの運営を任されているとは思えない行動だしかといって黒服さん達の人数は買い物の付き添いというにはあまりにも多すぎる」
周りには無言で立ち続ける黒い服の集団。ここから見るだけでも五十人くらいはいそう。改めてその数の多さに身震いしてしまう。
とりあえず、一旦情報を整理しよう。
ローリエちゃんがここに来たのは、アニメイト内の運営と買い物のため。そう思ってたけど、ローリエちゃんの担当はライブの方で、つまりここに来たのは買い物のためだけってことになるんだけど。
でも未来ちゃんは黒服さん達の人数が買い物をしに来たにはおかしいと......。えーーーと。
「つまり、どゆこと?」
そんな単純な質問が、私の思考回路から脱線して飛び出してきた。
それに対して、未来ちゃんも非常に簡潔な答えを返した。
そして、その答えは、未来ちゃんが最初に言っていたことでもあった。
「ローリエさんがここに来た目的はまだ他にある」
「そうなの? ローリエちゃん」
私が視線を移すと、そこには、小さくうつむいたローリエちゃんがいた。
この張り詰めた空気と混乱に、私は少なからず不安を覚える。
一瞬の静かな間。私がそれを打ち破ろうと、口を開こうとしたときだった。
──吹き出したような笑いが響いた。
その正体は、口を大きくにやつかせたローリエちゃんだった。
「ふふふ、ふふふふ、おーほっほっほ! なかなかに面白い発想ですわね、未来さん。ですが、それも一つの茶番に過ぎないのですのよ」
「どういうこと? ローリエちゃん」
手を口元に当て、高らかに笑うローリエちゃんに、私はまたシンプルな疑問を口にする。
「わたくし、一つ黙っていたことがありましたわ。あなた達、さっきの館内アナウンスは聞きまして?」
「うん、聞いたけど」
「言っていたでしょう。準備のために、アニメイトから出るようにと。そう、わたくし達は中に人が残っていないかの確認という目的を含めて、ここに来たのですわ! これも立派な『運営のため』でしょう?」
「あ、そっか」
考えてみれば当たり前だった。黒服さん達がこんなにいることにも改めて納得をする。至極当然の返答に、私は首を大きく縦に振る。
とりあえず、これで解決かな?
ちらりと未来ちゃんの口元を見て、様子を確認する。しかし、私にはそれだけで未来ちゃんの気持ちを汲み取る技能はまだなく、結局言葉で尋ねた。
「未来ちゃん、これで大丈夫? ローリエちゃんに別の目的なんてないと思うけど」
「私は複数質問があると言った」
どうやらまだ納得してないようだった。未来ちゃんの強く鋭い言葉に私は思わず、ごめんと呟いた。
「これ以上は長くなりそうだしあと一つだけ質問をする」
「構いませんわ」
ローリエちゃんは肩をすくめて、余裕げにしている。
未来ちゃんが何を言おうとしているのか、私には分からない。
だけど、次の質問も何事もなく、すぐに解決して終わるだろう。そう思っていた。が、未来ちゃんが口にした言葉は、少し衝撃的なものだった。
「あなたはなぜ私たちの自己紹介前から『野花』という名前を口にしていたの」
......。
「あ」
私の喉からまた、自然と声が出た。いや、出てしまった。
未来ちゃんの質問が、私が自己紹介のとき感じていた違和感を、明確な疑惑に変えた。
そうだ、そうだ。確かにローリエちゃんが私の名前を。いつだっけ?
お、思い出せ、私!
私は、頼りない記憶の引き出しをひたすらに開けては中身をひっくり返す。一つの記憶を見つけるために。
そしてついに、ひっくり返って落ちていく記憶の一つが、直接脳に流れ込んできた。
「ちょっとおおおおお! しつ! なぜあなたまで悪ノリをしているのですのー! 『野花』さんも今絶対笑おうとしてましたわよね!? ──」
お、思い出した! ローリエちゃんは私の名前、もう知ってたんだ。
あれ? でもそれだけなら別に、
「別におかしくはないと思いますけれど。接点はなくとも、名前を知る手段なんていくらでもありますわよ。ましてや同じ高校に通っているのですから」
そうだよね。そんなこと言ったら楓なんて、学年全員の名前覚えてるし。まあ楓の場合は、全員と接点があるのかもしれないけど。
でも、確かに私は違和感を感じたんだ。なんだろう、まだ何かが足りない気がする。
「確かにそうかもしれない」
未来ちゃんはローリエちゃんのいかなる反論にも、その口を止めることはない。
既に、次に言うことが決まっているかのように。
「あなたが名前を知っているだけなら何もおかしくはなかった」
未来ちゃんは淡々と、ただ淡々と言葉を紡ぎだす。
「問題なのはあなたが野花の名前を口にしたときに本当に合っているかの確認を本人にしなかったこと」
「あら、そんなのは言いがかり──」
「そして」
ローリエちゃんの言葉を遮り、未来ちゃんはただ、ただ言葉を発する。
「あなたの執事さんまでもが野花の名前を口にしていたこと」
そのとき、私の胸の中の違和感が、綺麗に溶けていくのを感じた。
そして、溶けきった違和感の中にもう一つの記憶。
「はっ、お嬢様。いいですか『野花様』。お嬢様はご自身の身長の低さをかなり気にしておられます。──」
それは執事さんの言葉。私の名前を添えた綺麗な声色の記憶。
どうして、私の名前を執事さんも知っているんだろう。
私って、もしかして、有名人!?
「残念ながら野花は学校で目立つようなことはしていない」
未来ちゃんに速攻で否定された......。
「それにも関わらずあなた達は知っているまるでそれが当然かのように」
「......」
未来ちゃんは口を閉ざした。ローリエちゃんの返答を待っているようだ。
でも、肝心のローリエちゃんは顔から笑みを消して、何も言わずに黙っている。
この雰囲気の中で私も何を言えばいいか分からず、口をつぐむ。
執事さんも、周りの黒服さん達も、ずっと目を閉じて、ただ立っているだけ。
必然的に生まれる静寂。
この無音の空間は、明らかに、悪い未来を告げている。
それが、私には分かってしまった。
この静かさは続いた方がいいのか、悪いのか。
私にはもう分からない。
ただ、当たり前だが、この時間がいつまでも続くわけはない。
また、言葉が響く。
「思えば違和感ばかりだった」
ローリエちゃんが何も喋らないからか、未来ちゃんが再び言葉を発した。それは静寂を破るのと同時に、ローリエちゃんに追い打ちをかけるものでもあった。
「偶然私たちはアニメイト内に残されて
偶然私たちは鉢合わせて
偶然そこにあなたがやってきて
偶然ぶつかって
偶然あなたも執事さんも野花の名前を知っていた」
確かに、今までの出来事は偶然だ。
でも、未来ちゃんはそれをまるで、
──必然とでも言いたいようだった。
「ローリエさん答えてあなたがここに来た別の目的を」
すると、今まで黙っていたローリエちゃんもついに、口を開いて、
笑った。
「おーっほっほっほっほっほっほ!!! 素晴らしい、素晴らしいですわ! 未来さんったらとても賢いのですわね。そんな細かいことにまで目を向けているなんて! まるで、『最初からわたくしが何かを隠していることを知っていたみたい』ですわね」
「え、それって」
「ええ、未来さんの言う通り、私には第三の目的がありますの」
私は途端に全身に寒気を感じる。もしかしたら、薄々分かっていたのかもしれない。それでもそんなこと、考えたくなかったのかな。
未来ちゃんは第三の目的を聞く前にさらに言葉を加える。
「おそらく野花にぶつかったのは私たちをアニメイトの中にとどまらせるため
中に人がいないか確認しているのはライブの運営のためだけじゃなくてこれから始めようとしている『第三の目的』のための邪魔者がいないかの確認のため
長い雑談もその時間稼ぎ」
それを聞いて、青ざめる私とは対照的に、ローリエちゃんは輝く笑顔を見せる。
「すごいですわ! そこまで分かってしまうなんて! おーほっほっほ。これはもう言い逃れもさせてくれませんわね。いいでしょう。教えて差し上げますわ! わたくしがここに来た第三の目的を!」
これが、私の穏やかな高校生活の終わりを告げる、すべての始まり。
もう戻ることはできない。
それが私に向けられた『強い意志』だから。
決して拒めない。私は受け入れるしかない。
この、恐ろしく不思議な運命を。
「わたくし姫路ローリエは
──あなたたちの推しを暴きに参りましたわ」
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.26 )
- 日時: 2021/12/30 13:08
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#さすがにこれは落ち着けない!』
「わたくしがここに来たのは、最初からあなた達の推しを暴くためだけですわ。ねえ? 『未公表派』の野花さんと未来さん」
「え、モモシシちゃんのグッズを買いに来たっていうのは?」
「嘘、ですわよ。わたくしはあなた達の推しを暴く、ただそれだけのためにここに来た。それだけのために今日のイベントを開催しましたの。すごいでしょう? これが姫宮財閥の令嬢の力ですわ!」
私たちの推しを暴くためにこのイベントが開かれたって。え、え、え?
こんな大勢の人が集まるイベントの発端が私たち?
どうして? 意味が分かんないよ!
「えっと、つまり......ローリエちゃんは、私たちは......だから......それは」
私はただ頭を抱えて、自分でもよく分からない言葉をぶつぶつと呟くしかなかった。
そうでもしないと、思考が完全に停止してしまう。
そんな私を鼻で笑って、ローリエちゃんは続ける。
「さらに、あなた達二人だけをアニメイトの中に残すためにわざわざライブまで開いてさしあげましたのよ。おーっほっほっほ!」
「ライブに向かう人波から私たちを押し出したのはローリエさん達ね」
私とは正反対に、未来ちゃんは冷静さを保っている。
どうして、そんなに平気でいられるの?
「あら、大正解ですわ。人波に流されるあなた達二人が近づいたら、人波から押し出し、鉢合わせをさせる。そしてわたくしが野花さんにぶつかることで、ここにとどめる。あとは、茶番で時間稼ぎをして、推しを暴く邪魔者がいないかを確認するだけですわ」
「じゃあじゃあ、運営のために、アニメイトの中に人がいないかの確認っていうのも嘘なの?」
言葉に出してから気づく。自分の質問が的外れであることを。
「愚問ですわね。中に人がいないかの確認は、運営のためでもあり、邪魔者の排除のためでもありますのよ」
「あ、うん......」
完全に冷静さを失っている。私はとりあえず、深呼吸をした。
落ち着いて、落ち着いて。
「ふぅう、はぁあ」
そんな私を見てか、またローリエちゃんはクスクスと笑っている。
「混乱してしまうのも無理ありませんわね、ふふっ」
私はとにかく深呼吸を続ける。
すると、私の背中に温かい感触が広がった。とても落ち着く。
見ると、未来ちゃんが私の背中をさすってくれていた。
「落ち着いて」
相変わらず低く冷たい口調だった。でも、なぜか、逆に安心してしまう。
「ありがとう、未来ちゃん。もう大丈夫だよ」
小さく笑ってみせる。だが、未来ちゃんは特に反応を見せず、そう、と一言呟いて、手を離した。
私はじっとローリエちゃんの目を見て、言った。
「どうして、そんなことをするの?」
そんな純粋な疑問が私の口からこぼれる。
私の推しがバレれば、キラキラな高校生活がまもなく終わりを告げる。
そしてまさに私の、いや、私たちの推しを暴こうとする存在が目の前にいる。
この妙な静けさのある空間の中で、一人だけ微笑んでいる。それも無邪気な幼い子供のように。
そして、あどけない笑顔を保ったまま、ローリエちゃんは言葉を返した。
「簡単に言えば、『復讐、そして恩返し』ですわ。あなた達がこの意味を知る必要はありませんわよ」
幼い笑顔には似合わない言葉が並ぶ。意味は分からないけど、それはいい。私が聞きたいのは一つだけ。
「それは、本気? 心からの想い?」
「ええ。嘘偽りの一つもございませんわ」
ああ、本当のことを言っている。ローリエちゃんの目を見れば分かる。とてもまっすぐな瞳だ。でも、『無理やりにそうさせられている』ようにも見えた。
私にはそれがなんだか分からないけど、ローリエちゃんが、自分から本気だと言っているんだ。私はそれを信じるしかない。
そして、ローリエちゃんが本気なら、強い意志があるなら、私はそれを受け入れる。
「分かった。で、どうやって、私たちの推しを暴くつもりなの?」
「あら、急に物分かりがよくなりましたわね。まあいいですわ。推しを暴くと言っても、ただ脅すだけでは面白くありませんわ。だから、とあるゲームを考えてきましたの」
「ゲーム?」
なんだか、すごいことになりそうだ。
未来ちゃんは最初から予想がついてるっぽいけど。
私はローリエちゃんに耳を向ける。
すると突然、ローリエちゃんは髪を大きくなびかせて、左手を腰に当て、右手で私たちを指さし、靴で床を叩く。
さらには大きく息を吸い、とびっきりの決め顔で、言葉を放った。
「あなた達には、私たちとアニメイトで、鬼ごっこをしてもらいますわ!!!!」