コメディ・ライト小説(新)
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- 推しはむやみに話さない!
- 日時: 2022/07/01 00:45
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
自分の推しを教えると、学校生活即終了!?
何としてでも推しを隠し通せ!
一風変わった高校で、主人公(JK)は今日も今日とて、
推しはむやみに話さない!
どうもどうも、狼煙のロコです♪
『推しはむやみに話さない!』へようこそ。
予め言っとくと、この作品はやべえと思います。いろんな意味でね。
また、本作のキャラである前萌 寧音がまたすげえ奴で、明るめな空間にシリアスなパンチを与えてくれやがるかもしれません。
ご了承ください\(^^)/
一応既に終わりは考えていて、それに向けまったく肉づけしてない中身をねじ込む感じですかね。
まあ気が向いたら見てくれや。
伏線は頑張って入れたいところだが、難しいと思う今日この頃の私は、ラストまで見てくれることを望んでいます。
ご感想、ご指摘等ありましたら、本スレ、または雑談スレ『ナマケカフェ』にてお待ちしてます!
以上作者からの挨拶でしたあ。
『#目次!』
キャラ紹介 >>01
1話 >>02 2話 >>03
3話 >>04 4話 >>05
5話 >>06 6話 >>07
7話 >>08 8話 >>09
9話 >>10 一気見! >>02-10
【見えない!? アニメイトの刺客編】
10話(?視点) >>11
11話 >>12 12話 >>13
13話 >>14 14話 >>15
15話 >>16 16話 >>17
17話 >>18 18話 >>21
19話 >>22 20話 >>23
21話 >>24 22話 >>25
23話 >>26 24話 >>29
25話 >>30 26話 >>31
27話 >>32
背後鬼ルールまとめ >>33
28話 >>34 29話 >>35
30話 >>36←new!
一気見! >>11-
『#お知らせ!』
4/5 閲覧回数200突破!
ありがとうございます!
4/15 【見えない!? アニメイトの刺客編】スタート!
お楽しみに!
12/30 閲覧回数500突破!
ありがとうございます!
『#読者様からのありがたき返信!』
りゅ さん >>19-20 >>27-28
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.7 )
- 日時: 2021/04/01 14:17
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#小麦ちゃんのリボンは落ちない!』
ふぅ、今日も頑張ろう。
私はバッグを机の横に掛け、黒板に書かれた時間割に目を通す。
1時間目は数学。それを確認すると身体をバッグに傾け、筆箱と数学の教科書、ノートを取り出し、机の中に入れた。
一息ついたところで楓のほうに目をやる。
まあ、いつものように周りをクラスの子たちに囲まれていた。
楽しそうに時幻様の話をしているらしい。
もう一回息をつく。すると今度は一人の女の子が声をかけてきた。
「お、おはようございます。大柴さん……」
まだ話したことがない子だ。少しおどおどとした様子で、何度も瞬きをしている。
しかしこれはピンチだ! 私この子の名前、まだ覚えてない!
普通に聞いちゃって大丈夫か。失礼だよね。相手は私の名前覚えてるし……。
いや! そんなんじゃだめだ野花! 勇気を持て!
「おはよう! えっと、ごめん。名前は……」
私の言葉に彼女は悲しそうに眉を下げて、同時に顔を赤らめる。
「す、すいません。私の名前なんかいちいち覚えてないですよね」
「え、いやそういう事じゃなくて」
「いいんです! 私って影薄いですから……」
ひょえー!!! すごくネガティブな子だな。
っていうか影薄いのか? むしろ目立ってね。主に頭のそれ……。
彼女は大きく華やかな蝶々リボンを頭の真上につけているのだ。
私がまじまじとそのリボンを見ていると、彼女はさらに顔を真っ赤にして、今度はぺこぺこ頭を下げる。
「すいませんすいません! 私なんか気に障ること言っちゃいました?」
「ええ!? そんなことないよ!」
リボンが何度も何度も揺れている。今にも落ちそう……。
「あ、あの……やっぱり何か……」
「え?」
「えっと、えっと……また少し黙り込んでいるので……」
「え!? ごめん気付かなかった」
「ええぇ……」
やばいやばい。リボンに気取られ過ぎだ私! 失礼じゃないか。彼女も心配しちゃってるし。集中!
……。
…………。
………………。
やっぱり気になる!
「あ、あの! そのリボン!」
「え!?」
「ほ、ほら! その、気になるなぁ~って……」
「あ、こ、これですか」
彼女は頭のリボンを身体を震えさせながら指さす。
「そうそう! それすごいなって……」
「こ、これは……」
彼女がリボンについて話そうとした瞬間、
「どうしたのーー? のーちゃんに小麦ちゃん!」
楓が元気な声でやってきた。
この子小麦っていうんだ。楓、助かった! ナイス!
「え、私の名前……」
「あれ? 間違えてる? 明日野 小麦ちゃんじゃなかったっけ?」
「いや、合ってます! そうじゃなくて……よく覚えてくれてたなぁ、と」
楓は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに笑顔に戻る。
「なんだそんなことか~。私1年生の子全員名前覚えてるから! それにあなたのリボンすごい目立つし。『草木の町人』のクリスマスイベントで紫ちゃんがつけてたやつでしょ?」
「し、知ってるんですか!!」
「そりゃあね」
そうか! 永音がクリスマス衣装を着てたときのリボンか。どこかで見たことあると思ったんだよね。
楓はやっぱりすごいな。小麦ちゃんも嬉しそうに口元を緩ませている。
私も見習おう。
緊張が解けたのか、小麦ちゃんは安心したような顔で話し始めた。
「このリボンはお母さんに作ってもらったんです。えへへ……」
今だ! このタイミングで褒めるんだ! がんばれ私!
「うん! すごく似合ってる! 可愛いと思うよ。小麦ちゃん」
「そんな……私みたいなのが……」
小麦ちゃんはまた顔を赤らめて、顔を下に向ける。
相変わらずリボンが落ちそうだ。
「のーちゃんの言う通りだよ! 似合ってる似合ってる! 小麦ちゃんのお母さんはすごいね。私の親は不器用だから。あはは!」
楓がさらに褒める。
それに応じて小麦ちゃんの顔も下に傾く。
それでもリボンは落ちない。とても不思議だ。
小麦ちゃんは小さな声で「ありがとうございます」と呟いた。
あれ? そういえば……
「そういえば小麦ちゃん。なんで私に声をかけたの?」
「そ、それは……」
小麦ちゃんは少し黙った。だけどすぐに言葉を発する。
「用事は……済みました。すいません……」
何かを伝えたいような顔はしたけど、言いたくないならいっか。
そうだ!
「ねえ小麦ちゃん。私の友達になってくれないかな?」
「え!? 私が……ですか?」
「うん。私中学校ではあまり友達作れなくてさ。高校ではいっぱい作りたいんだ。だからいいかな?」
小麦ちゃんは再び黙る。少し悲しげな顔も見せる。
何かいけないことをいったかな? いや、大丈夫だよね。
そんなことを思っていると小麦ちゃんはまっすぐ私の顔を見る。
「私なんかでよければ……よろしくお願いします……」
「よっしゃあ!!!」
「えええぇ!?」
「え、あ、ごめん!」
やばいやばいうっかり心の声が……。シンプルに嬉しいなこれ。
よし! これからどんどん友達増やすぞ! 頑張れ私!!
「ごめん小麦ちゃん。うっかり心の声出っちゃったよ。これからよろしくね」
「え……」
小麦ちゃんはなぜだか驚いた顔をしている。
やっぱりなんかまずいのか……。
楓もなぜかクスっと笑っているし。
だけどやっぱり心配する必要はないらしい。小麦ちゃんは満面に可愛い笑みを浮かべてくれたのだ。
それに……
「はい! こちらこそ! 大柴さん!」
さっきよりもハッキリ、私の名前を呼んでくれた。
「いいねいいね二人とも! なんだか感動しちゃうよ! 小麦ちゃん、私も友達ね!」
楓は手を小麦ちゃんのほうに差し出す。
そっか! 握手か!
私も小麦ちゃんに手を差し出す。
小麦ちゃんはリボンを揺らして、涙目になって……
私と楓の手を、両手を使いギュッと握った。
「はい! 何度も何度もですが、よろしくお願いします! えっと……大柴さんと……」
「ありゃりゃ、私の名前は分からないか」
「す、すいません……」
「いいよいいよ~。私の名前は綾谷 楓、楓とかあややとか呼んでね!」
「はい! あややさん!」
「おお、そっちいく。 いいねいいね!」
「えへへ……」
なんだか和やか。小麦ちゃんとはいい友達になれそう!
私たち三人は手をもう一度ギュッとして、大きな声で、
笑いあった。
その後、担任の篠崎先生がすぐに教室に来て、ホームルームが始まっちゃったけど、その短い時間での出来事は、私のこれからの学校生活をより良いものにする糧となったと。そう強く確信した。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.8 )
- 日時: 2021/04/02 13:09
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#時間と楓は止められない!』
キーンコーンカーンコーン
終礼を告げるベルがなった。
今日の授業ももうお終いだ。なんだか時間の流れが早かったな。
最後に篠崎先生が簡単な報告をして終了。
「みなさんこの学校に来て約2ヶ月経ちましたね。もう慣れましたか?」
何人かの子が小さく頷く。
篠崎先生はそれを見て、柔らかい笑みを作る。眼鏡の奥に見えるその細めた瞳からは、先生の優しい性格が溢れている。
本当にこの先生が担任でよかったな。
「そろそろ友だちも出来てきたでしょうか。高校の友だちは一生の友だち。みなさん、友だちは大切にしましょうね」
そうだ。たくさん友だちが作りたかったからこの高校に入ったんだ。
友だち作り、頑張るぞ!
「それでは今日もお疲れ様でした。週番さん、号令お願いします」
「起立、気をつけ、礼」
「さようなら」
途端にクラスにざわざわと会話が飛び交う。一緒に帰ろうと声をかける子や遊びに誘う子、急いで部活に向かう子など、それぞれが次のことに向けて動き始めた。
「部活だーーーー!」
楓が嬉しそうに両手をあげる。
「相変わらず元気だね~楓」
「だって楽しいじゃん!!」
鼻息を荒くしながら息込んだ。子供っぽいけどそれが楓の魅力でもある。
小麦ちゃんも私たちのところにやってきた。
「た、楽しそうですね」
「うん! 楽しいよ。小麦ちゃんの文芸部は楽しい?」
「え、楓まさか……」
「うむ、そうだ! 一年生みんなの入ってる部活も覚えてるのだー」
「ええ!? す、すごいです!」
「ふふふ、もっと褒めて~」
忘れてた。楓は化け物だった。私なんかとは次元が違うんだ。
しかし6月現在、このクラスの子たちの名前すら覚えられてない私は……。うん、今日暗記しよう!
それが友だち作りの第一歩だな。
興奮しているのか、小麦ちゃんはリボンをいつもよりも大きく揺らしている。楓は自慢げに腕を組み、小麦ちゃんから連発される誉め言葉を聞いて、優越感に浸っていた。
やっぱ子供だ。まあ事実すごいけどさ。
「はい二人ともそこまで! 楓は小麦ちゃんに部活はどうか聞きたかったんでしょ」
「あはは! そうだったね。それでどう? 小麦ちゃん」
すると、小麦ちゃんが途端に目をキラキラさせた。
「はい! 楽しいです! 本当に楽しいです! 今は『草木の町人』の二次創作書いたり、あ、オリジナルの小説も書いてますけど。あと部のみなさんとお互いに小説見せ合ったり、俳句や短歌を書いたり。あとっ、あとっ……」
小麦ちゃんは本当に文芸部が楽しいんだな。思わずにっこりしちゃう。
楓も頬を綻ばせて、小麦ちゃんの話にうんうんと頷いていた。
「部のみなさんは優しいし、それにそれに……あ、あれ? お二人ともどうしたんですか」
「いやぁ、小麦ちゃん可愛いなあって」
「そうそう、いつもその笑顔でいたほうが絶対いいって!」
「そ、そんな……」
小麦ちゃんは顔を真っ赤にして、小さく笑った。
「そ、そうだ! 二人とも何部なんですか?」
「私は女子バレー! のーちゃんは」
「美術部だよ」
「はあぁ、あややさんも大柴さんも素敵です」
まあ美術部っていっても描くのはイラストばっかなんだけどね。小麦ちゃんの感嘆のまなざしを目の前にそんなこと言えないなあ。
一方、楓は本当にバレーが上手くて、中学校のときは、エース。そして県大会出場まで決めていた。
あのときは二人で何度も泣いていたっけ。
きっと高校でも大活躍するだろう。
と、そろそろ……。
「早く行かないと部活遅れちゃうね」
「そうじゃん! 待ってろ私のバレーボール! 二人ともまたね!」
そういって楓は教室から駆け出していった。
「そ、それじゃあ私も……ま、またね……大柴さん! えへへ」
「結構積極的だねえ小麦ちゃん。私そういうの大好きだよ。それじゃ、またね」
「はい!」
こうして私と小麦ちゃんもそれぞれの部活へと向かった。
よし、今日もいい絵描くぞ! 目指すは六間くんを超上手く描くこと! 頑張れ私!
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.9 )
- 日時: 2021/04/08 18:34
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#りりり先輩は常人じゃない!』
急げ急げ、早くしないと遅れちゃう。
私は美術室に駆け足で向かう。上履きのつま先から奏でられる、軽やかなリズムが廊下に反響する。
それがまた小気味よい。っと、上履きなんざの音に酔いしれている場合ではない。
急げ急げ。
曲がり角が見えた。そこを左へ。奥に美術室が、扉を全開にして、まるで私を待ち続けているよう。
「すいませーん。遅れましたぁ」
美術室の扉を閉めながら、美術室を見渡す。
あれ? 部長がいない。ってうおおお。なんだこれ。でか!
「野花さん来ましたわね」
「あはは、のーちゃん遅いぞ~」
「ギリギリだよぉ」
部員のみんなが一斉に私の方を見る。若干の説教と笑いが美術室中に広がった。
「あ、のーちゃんきたきた。雪菜は遅れるらしいよ。だから扉はまだ開けたままで」
「あ、分かりました」
副部長のりりり先輩は椅子に腰かけながら、その輝く黒の長髪を揺らして、私の方を振り向いた。
私は先輩の指示通り扉をガラガラと開けながら、先輩をじっと見る。
女性までもを虜にするその涼しげで艶やかな奥二重、細くまっすぐに伸びる鼻筋、ほのかに赤く柔らかな唇、その中に可愛らしさを残した丸く透き通った頬……。
その百合のように美しい姿が今日もそこに存在していた。
はえぇえぇ、なんでこんな綺麗な人がこの学校に来たんだろう。芸能界にスカウトとかもされないのかな。
まあ気にしても仕方ないか……。
それよりももう一つ気になるものがある。
そう、円状に並べた椅子に座る、みんなの中心に君臨しているその……
「なんですかその巨大な物体は!!」
明らかな異質物体! 美術室に存在してはならないでか物! なんだこれは!
よーく見ると人間? じゃあ等身大フィギュア?
「これは等身大フィギュアだよ」
等身大フィギュアだったーーー! いやなんでや! どういう状況!?
りりり先輩がクスっと笑いながら私に言った。
「そんな目ぇ丸くしちゃって。ふふっ、まあ驚くのも無理ないね。これは私が持ってきたの。ちなみにこれは誰でしょう」
「あ! 時幻様だ」
あ、そうk──
「そう! 時幻様だよ! のーちゃんも読んだでしょ昨日の『草木の町人』! 何だあのセリフは! 『この町には一歩たりとも踏み入れさせない』だと! しかもそれを実現させてる! 時幻様かっこよすぎる! 愛おしい! 最高! 尊い尊い尊い尊い!」
「りりり先輩!?」
りりり先輩が豹変しちまったぁ!! 髪めっちゃブンブン振り回してるし……。立ち上がって謎ステップ刻んじゃってるしで、もはや恐ろしい。さっきまでの上品な面影もないよ。ひぇぇぇ。
「だからもう嬉しくて尊くて! 学校に連れてきちゃいましたあ! ついでにみんなにデッサンさせてこの喜びを分かち合って欲しかったのー!! 君もなろうよ時幻様派! 楽しく尊死時幻様派!」
や、やばいぞこの人! てかなんで持ってる時幻様等身大フィギュア……。
みんなも引いちゃってるよ。
もう理解できたぞ。りりり先輩がこの学校に来た理由!
「先輩がこの学校に来たのって……」
「もちろん当たり前決まってる! 時幻様大好きな同士見つけて、めちゃくちゃに語りまくるためだよー!」
「や、やっぱりーーー」
「ちなみに時幻様派の代表してまーす!!」
「え……?」
一瞬、あたりがシーンと静まり返った。
それぞれの推し派には代表なるものが存在する。
一年生から三年生の誰でもなることができるのだが、そのためにはオタクの渋滞が起きているこの学校において、同じ同士から一番そのキャラを愛していることを認められなければならない。
それは本当に難しいことだと聞いている。それがここに、この美術室に一人。しかも『草木の町人』人気投票一位の時幻様ときた。
「え、みんな静まり返ってどした? もしかして知らなかった? それってみんな時幻様派じゃなかったりする? だったら…………」
そうか、この人は……。
「今すぐなろうよ時幻様派! 絶対に尊死時幻様派! さあさ待ってる時幻様派! みんな……時幻様派に、なろうぜーーーーーーーーーーー!!!!!」
ガチで、ガチでやばい人だーーーーーーーーー!!!!!!!!
りりり先輩がゆっくり、ゆっくり。一歩一歩に重みをかけ、不気味な表情で私に近づく。
「ねえぇえ、のーちゃん。あなた未公表派よね~~~? だったらぁ」
「ひ、ひええぇええ」
「あなたを時幻様一色に染めてあげる――――――!!!」
「い、いやああああああああああああぁああ」
それ以来、私はりりり先輩を恐怖の存在としか思えなくなった。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.10 )
- 日時: 2021/04/26 22:27
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#この日々を壊したくない!』
「はぁ……散々な目に遭った……」
「あははは、のっちーも大変だね~」
「だ、大丈夫ですか……」
今日の部活も終わり、私は楓、キキ、小麦ちゃんと一緒に帰っている。
空はもう夕闇に包まれ、学校からは下校するよう伝える放送が流れていた。
それにしても今日は本当に酷い目にあったよ。
時幻様の絵を何枚も描かされ、うぅ、思い出すだけで涙が……。
いつもは二年生が上手く抑えてくれるらしいけど、今日は休みだったし。一年生部員がみんな時幻様派じゃないという奇跡により、事前に先輩の本性を知れなかったしで、はぁぁあ。
楓はあんな人と一緒にいるのかぁ。
「楓ってりりり先輩と同じ時幻様派だよね。もしかしてずっと荒ぶってる感じ?」
「まあそうだね~。推し会議の時はひたすらに時幻様のこと語ってるよ。話し合いのために周りがなんとか静止させるんだけど、それでもなぜか髪だけがブンブン回ってるよ。あはは!」
「か、髪が……ですか?」
小麦ちゃんが怪訝な面持ちで首を傾げる。
「そうそう、意味不明だよね。一体何でできてるんだろう……」
「あ、それ確か夕星高校の七不思議の一つだってね」
りりり先輩、謎多き人物ってわけね。やっぱりちょっと、いや、かなりやばい人だ。
でも、時幻様への愛はきっと本物なんだろう。
ひたすらに時幻様語りを聞かされたけど、本当に細かいところまでしっかり見ていることが伝わった。私も負けていられないね!
「そ、そうだ!」
「ん~どうした? ちいちゃん」
キキは小麦ちゃんに優しく問いかける。さっき初対面したばかりなのにもう仲良しだ。
“ちいちゃん”なんて呼んじゃってるし。
小麦ちゃんもとても嬉しそうに微笑んでいた。
「と、突然なんですけど、夕星駅前のアニメイトで『草木の町人』の梅雨仕様のキャラグッズが販売されるらしくて……その、一緒に行きたいなあなんて」
え?
「おぉ! そうなのちいちゃん! 行こ行こ! あややとのっちーは?」
「私も行くー!! のーちゃんも行くよね!」
「え?」
これは…………。これはやばい。今回はかなりの危機だ。どうしよう……。
『草木の町人』の作者は作中の全キャラを大事にしていて、どんなに人気がないキャラでもグッズ化をしっかりしてくれる。
つまりだ。六間くんの梅雨コスが見れるってことだ!
しかしだ。問題が一つある。
それは…………
お金が足りない可能性があるということだーーー!!
はっきり言って今月は大ピンチなのだ。梅雨仕様のキャラグッズが出るなんて知らなかったから、ネットショッピングで六間くんのぬいぐるみを買い漁ってしまった。
しかししかししかし。ここを逃せば次はない!
ついにこの時が来たな……。
いざ! お年玉の貯金解禁!!
待ってろ梅雨コス六間くん! 私が買ってあげるからね!
「のーちゃん? もしかしてダメ?」
楓が心配そうに眉尻を下げる。
「もう、そんな顔しないで楓。もう決まってるじゃん」
「やっぱり……」
「もちろん、行くに決まってんでしょーーー!」
楓はそれを聞き、ホッとしたように一息つき、またいつものニコニコ笑顔に戻った。
やっぱり楓にはその顔が似合っている。
「だよねだよね! のーちゃんがこんな機会逃すわけないもんね!」
「そ、それじゃあこのみんなで行けるんですね!」
「そうだねちいちゃん。そうと決まれば、早速日程を決めよっかー」
「じゃあ今週の日曜日でいいんじゃない」
「そうだねー!」
私たちはワクワクしながら日曜日の予定を決めていった。
その夕闇に染まった時間は本当に楽しくて、小麦ちゃん含めた四人の仲がより深まっていく気がした。
これからも、こんな時間が過ごせたらいいな。
「それじゃ、決まりだね。いやー日曜が楽しみだよ。あ、そうだ! 未来も誘っていい? まあいつもみたいに断れると思うけどね。あはは」
「キキちゃんは相変わらずだね~」
「み、未来さんですか?」
「そうそう、私の恋人~」
「ええ!?」
「自称でしょ。キキ」
「あはは、厳しいね~のっちーは」
こんな他愛もない会話をいつまでも続けられたら…………ん?
私はサッと後ろを振り向いた。
「どうしました? 大柴さん」
「いや、なんか後ろから視線を感じて……」
「え?」
小麦ちゃんが不安そうに私の顔を覗く。大きなリボンがぷるぷると震えていた。
後ろには結局だれもいないし、小麦ちゃんを不安にさせちゃだめだよね。
うん、きっと気のせいだ。
「ごめん、私の勘違いだったみたい。心配させてごめんね」
「そう……ですか」
「どうしたののーちゃん?」
呑気な声が前方から聞こえる。だけどその声に安心させられる。
「ううん、なんでもない」
そうだ、いちいちこんなこと気にしても仕方ないよね。うん、仕方ない!
あ、もう曲がり角だ。
「それじゃキキ、また明日~」
「うん! ばいばいのっちー、あやや。そういえばちいちゃんはどっち行くの?」
「あ、キキさんと同じ方です!」
「おお! じゃ一緒に帰ろっか!」
「はい! 大柴さんとあややさん。今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。それじゃ、また明日ね…えへへ」
小麦ちゃんは頬を紅潮させながら手を振った。リボンをゆらゆらとさせて。
「ばいばい、小麦ちゃん! キキ!」
「またね小麦ちゃん」
私たちも大きく手を振って、二人と曲がり角で分かれた。
ふと楓を見ると目をキラキラさせていた。
「ああ、日曜日が楽しみだよーー!」
「そうだね、私も……えい!」
私は楓のお腹をつっつく。楓はきゃっ、と可愛い悲鳴を上げて、口を尖らせた。
「あ、のーちゃんやったなあ!」
楓もいたずらな瞳で、私の髪をくしゃくしゃとさせた。
私たちはいちゃいちゃしながら、今日も一本の電柱へと歩を進める。
今日は本当に色々なことがあった。
時幻様の話で盛り上がったり、りりり先輩が豹変したり……。
そして、小麦ちゃんが新しい友達となった。うん、
私の高校生活ってほんと最高!
そうだ、クラスのみんなの名前覚えるぞ! がんばれ私!
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.11 )
- 日時: 2021/04/16 19:34
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#私たちからは逃げられない!』
ふふっ。あの子はいい仕事するわねえ。
まあ、『会長』くんに選ばれたんですものね。それなりの働きはしてもらわないと。
それじゃ、あの子の活躍を会長くんに報告しましょうか。
手に持つスマホの画面を見る。そこには四人の女の子たちが仲睦まじくはしゃいでいる様子が写っている。
ふふっ。可愛そうに。あなたが推しを隠していなければ、こんな面倒くさいことにはならなかったのよ。
ねえ、大柴 野花ちゃん。
スマホをカメラから、通話の画面へ切り替える。会長くんに電話をかけようとしたが、ちょうど向こうからかかってきた。
ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ
ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ
スマホから発せられる可愛らしい小鳥のさえずり。私と会長くんの間でどんな会話が繰り広げられるのかも知らずに、ただただ無垢に、純真に鳴き続ける。
ピヨピヨ、ピ──
こんなに健気で愛おしい鳴き声も、私の人差し指一つで残酷に断たれる。いつか私に用がある人が現れない限り、小鳥はもう一度歌うことを許されない。
まあ、そんなことどうでもいいけれど。
早速、スマホに向かって唱える。
「他人の秘密は百合の味」
これが、組織の一員であることの証明となる合言葉。この言葉を唱えない限り、会長くんと話すこともできない。
「もしもし。俺だ。何か進展はあったか」
「ええ、あったわ。それも大きな」
ああ、会長くんの低音ボイスはいつ聞いてもいいわあ。痺れちゃう。
「詳しく」
もお、せっかくのかっこいい声も使わなかったら、宝の持ち腐れなのに……。
会長くんは口数が少ない。そのおかげでこの組織が部外者にバレず、三年間も守り続けられたのでしょうけど、それでももったいないと感じてしまうわ。
「どうやら今週の日曜、夕星駅前のアニメイトに行くらしいわ。ここまで絶好のチャンスもないわね。で、どうするの? 確実に仕留める?」
イエスの返事を期待していた私だったが、会長くんからは意外な返事が返ってきた。
「いや、今回は一年生に任せる」
「え? それはなんで」
「……俺たちはもう三年だ。もうすぐで卒業もする。今のうちに教育をしておかないと、この組織が潰れてしまうだろ」
へえ、会長くんったら自分が卒業した後もこの組織があり続けて欲しいのね。さすが。
でもそれだけなのかしら?
「他に理由はないの?」
「もちろんある。お前も知っている通り、今年は未公表派の一年生が多い。その分この組織に入るのも増えたがな」
「ええ、そうね。そうしないとこの組織の活動が、思うようにいかなくなってしまうものね」
私たち組織は、未公表派の推しを暴く活動をしている。だって、わざわざ夕星高校まで来て、推しを秘密にするなんて……その裏にはすごく面白そうな事情がありそうじゃない。
まあ、あくまで私の考えだけれど。会長くんの真意は分からないのよね。
会長くんは話を続ける。
「それでだ。もしも初っ端から二、三年生が一年生の推しを暴きに来たらどうなる。他の奴らに不審がられるだろ」
「あら? 今までもそうだったんじゃない? まさか気づいてなかった? ふふっ」
「……」
あらあら黙っちゃって。かーわいい~。まあなんだかんだで、この組織は守れているんだから大丈夫だとは思うけれどね。三年生になって不安になったのかしら。
「まあいいわ。要するに一年生に任せればいいんでしょう」
「そうだ。指揮は俺が執るがな」
「分かったわ。それじゃ私は引き続き情報収集をするわね。大柴 野花ちゃんの件はよろしくねぇ、会長くん。ふふっ」
「ああ、それじゃ切るぞ」
会長くんは終始淡々とした口調で話し続けて、通話を切った。
それにしてもまだ六月なのにねえ。野花ちゃんはほーんと可愛そう~。
後はあなたの運よ。頑張ってね。ふふっ。
そういえば、会長くんが期待の新人が入ったとか言ってたわね。もしかしたら……ふふっ。楽しみだわ。
私はもう一度、野花ちゃん含めた四人の女の子たちの写真を見てから、スマホをバッグにしまった。
そのまま、次に推しを暴く子を誰にしようか考えながら、家に向かう。