ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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WINGS
日時: 2009/09/23 02:09
名前: SHAKUSYA ◆wHgW10l3Y2 (ID: jYd9GNP4)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10976

こんにちはー、前の話が完結して嬉しいSHAKUSYAですー。
上の参照が私の小説です。

今回は魔法などの便利物を一切廃止し、銃と人間の小説を書いていきたいと思います。つまり、ファンタジーではなくただのヒューマンノベルになるわけで。

ここで注意。 必読!!!!!!

この小説はグロになると思います。なるべくそんなことは無いようしていきたいですが、心して閲覧を。

銃がよく出てきます。分かりにくいので細かな銃種の説明はしませんが、このあたりの事も心して閲覧願います。

荒らし、宣伝のみコメント、中傷、ギャル文字の乱用、雑談、喧嘩、その他、他の方々や主に迷惑のかかる言動はお控え願います。

この小説は時間軸や場所軸が変わった時にしか改行や空行を行っておりませんが、コレは主、基私の「面倒くさい精神」と「勿体無い精神」の表れだと思ってください。勝手で申し訳ありません。
現在試行錯誤段階ゆえ、改行、空行等の指摘はなるべく詳しくしていただけると助かります。
ただし、「ケータイでの読みやすさ重視」を目的とした、ケータイ小説のような極端な改行、空行の類は受け付けておりません。(改行する度に一行行をあける、時間軸が変わるごとに五〜六行以上の行をあける、など)

感想やアドバイス、誤字脱字報告は受け付けております。ありましたらお願いいたします。

ここではタメ口OKです。
しかし、私に対して極端な馴れ合い(「友達になろう!」発言、「○○持ってる?」発言、「どこ住み?」発言など)を求めたり、別の読者様と雑談をする事はお止め下さい。非常に迷惑です。

質問のある場合は一つずつ聞くのを繰り返すのではなく、なるべく一つにまとめ、一度にお願いします。そちらも方が此方としても楽ですので。

以上のことをよく守り、尚且つネットでのマナーなどを守れる方は、この小説をどうぞお読み下さい。

九月二十三日 注意事項を若干改正。少し詳しくしました。
同日       改行、空行に関する注意を緩和。何か改行や空行事項について言いたいことがありましたらどうぞ。

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Re: WINGS ( No.23 )
日時: 2009/11/03 16:14
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十五翔     結構グロなんで注意


 「人の命を粗末に扱うなぁ!」「責任とれー!」「人殺しー!」
 聞き飽きた台詞だ。
 そう思いながら、本日二十回目の罵声団を虚ろな気分で聞き流す。既に神経は疲弊しきっており、最早何を聞く気力も無い。総司令官室の一角、私は来客用の椅子に座り込んで銃を手にとる。

 今まで一度も人を死なせた事がない、とずっと言われてきた私は、今回の件で凄まじい罵声を浴びる破目になった。他の人に迷惑はかけたくないから、今軍内部の連中は皆出払っている。居るのは私だけ、しかし、それと気付かずに罵声を浴びせ掛ける人々。その中にはノスラトの婚約者だと言う女性も混じっており、私は一層傷付けられた。
 「責は私にあるか……。だろうな、この作戦に賛同したのは私だからな」
 自分でも吃驚するほどかなり自虐的になって来ている。私は銃の撃鉄の部分を引き起こし、引き金に手をかけようと思ったところで手を止めた。いかん、完璧に鬱だ。

 銃をほうり捨てようとしたその時、鋭く響く女性の声が聞こえた。確か、空軍第五班のヴァル小隊のミロン・ブラギンスキーの妻と言う女性の声だった気がする。その女性は、悲鳴にも似た金切り声で私に声を上げてきた。
 「貴方は人の命を簡単に掌握しても良いと思っているんですか!? ふざけないで下さい、貴方のせいで、貴方のせいで……私の夫は遺品すら遺さずに逝ってしまったんですよ! 何で貴方だけ、そんな所で何もせずに生き残っているんですか!?」
 
 銃をほうり捨てようとした手が、また止まる。そうだ、私はここでただ一人生き残り、何もしなかった。これは罪だ、罪だ、罪なんだ。贖罪する方法は一つしかないんだ。そう、私が死ぬ事でしか……。
 私は自然に紙とペンを取り出すと、何を思ったかダラダラと文を書き連ねていく。自分でも精神が異常だとしか思えない高位だが、自殺する直前の人間の気持ちとはこんなものなんだろうと勝手に解釈。
 文章を書き終えて、銃を放そうとしていた手が再び銃を握る。極自然に、銃口はこめかみにつき付けられる。
 これが唯一つの——贖罪だ。せめてもの罪滅ぼしだ。そう思うと良心の呵責も無いし、苦痛も無い。まして私は家族など居ないから、家族の心配をしなくても良い。いや、居るのは居るが私とは相対する立場に居る人間だ。私が死んだと伝われば、寧ろ喜ぶような人間だ。結局は心配する必要がない。

 ふと思い立った。一人で死んでも面白くない。どうせ死ぬのなら、散々愚弄して死んでやる。
 銃を握る感覚だけをやけにはっきりと感じる中、私は凄まじく遅いスピードで階段を降りる。自分でも遅いと思ってしまうほど遅いが、別に良い。私に妙に呆然とした気分で階段を降りる。
 本部の正面玄関を出ると、早速罵声の嵐が私の耳を劈いた。さっきから何度も聞いた言葉が耳の中を貫き、思わず辟易する。私が耳を塞いだ事に罵声団は何かが切れたのか、声を更に甲高く上げた。まるで融通の聞かない駄々っ子の泣き声のようで、気持ちが悪い。早い所ケリを付けてしまおう。何かもうどうでも良くなって来た。
 私は手に持った銃を罵声団の方へ徐に向けた。一瞬で静まり返る罵声団。その瞳には驚愕。多分、私は虚ろな目をしている。今の心境は特になし。空虚。虚。あるとすれば、今話している気持ちと五月蝿いと言う気持ちくらい。
 「五月蝿い。黙れ。喧嘩の直後で疲労している時にギャーギャーギャーギャー人殺しだの責任取れだの人命掌握だの叫ぶな。五月蝿い。あと言わせろ、何故私だけなのだ、責めるのが? 私は愚か者だとでも言いたいか? 国軍の連中だって大勢死んだ、なのに何故、私だけを責める? もう貴様等の期待に応えるのは疲れた。ここで今、私は死ぬ。葬式なんか挙げるな、私の死後は、この本部ごと跡形もなく壊してしまえ」
 遺書代わりの言葉に、罵声団がたじろぐ。良い気味だ。私は相変わらず空虚な気持ちで銃を自分のこめかみに当てる。誰かが「止めろ!」と今更の様に、しかも当然の様に言い放ってくるが、ここは現実だ。そんな声で留まる奴は、どこにも居ない。そんな絵空事、誰が信じるものか。

 そして私は、引き金を引いた。
 痛くは無い。後悔も自責も、未練も、何も無い。あるのは、空虚な気持ちだけ。
 そして意識は消えた。永遠に。


 銃声と耳を劈く凄まじい数の悲鳴。本部側からのほうだと、俺は直感する。嫌な予感に駆り立てられ、座っていたソファーから立とうとした。その時、俺はこの床が滑りやすいフローリングだと言う事と、まだ熱いコーヒーの入ったカップを持ったままだったということの二点に気付いた。
 しかし、時既に遅し。俺は見事足を滑らせソファーにダイブ、そして手からコーヒカップがはなれ、頭に降りかかる! そして激アツのコーヒーが! っ熱ぃいいい!
 「どわぁあああああ! あつつつつつつ! ドリス、ドリス、水水水水!」
 妻の名と水を連呼しながら俺は頭を抑えて大絶叫。そして妻、ドリスの叫び声も加わる。
 「わー、きゃー! ヴィル、ちょっと待ってて!」
 叫び声が家中に響きわたる。つくづく、子供達が学校に行ってて本当に良かったと思う。普段から威厳あると思われている俺が、こんな醜態を晒したら凄まじくみっともない。

 ヴィル、と言うのは俺ヴィルカの名を言い易くしたものらしい。一文字だけでも縮めたがるんだな、と俺は密かに思いつつ、熱さに転げ回る。いや、淹れたては凄く熱いんだよ、マジ。一回頭に零して見るといい。

 やっとの思いで淹れたてコーヒーの熱さ地獄から解放され、俺は一息。しかし、まだ肝心の叫び声の元がわからない。俺は頭にかぶせられたタオルで頭を拭きつつ、ドリスに用件を伝えて走り出す。同じ医者と言う職に就くドリスは俺のよき理解者、何も言わず、俺の零したコーヒーの片付けに専念してくれるらしい。だから俺も安心して軍勤めが出来るわけだが……。
 とりあえず、変な思考は排除して駆け出す。幸い本部と家は徒歩一分もかからない、それこそ目と鼻の先にある。と言うか窓から見えている。案の定、全力で走ったら十秒でついた。

 着いた瞬間、俺は固まった。
 虚ろな瞳に虚ろな顔で立ち尽くす人々、地面に広がる血の海。その海に沈む、男性の影。茶色の帽子だけですぐ分かる、総司令官だ。見開いた目の瞳孔は開き切り、完全に事切れている事を示している。しかも、右手に銃を握っていることからして自殺。総司令官は、自分で自分の頭を打って自殺したのだ。しかも大勢の人の目の前で。

 俺は固まったまま、身動きがとれなかった。
 「レイ総司令官は……私達に向かって自棄気味に言葉を言い捨てたあと、私達の目の前で自殺しました。誰も止められなかった、私達が、あそこまで追い詰めていた事も知らなかった。……最後、言っていました。自分の葬式は挙げてくれるな、迷惑だと。遺体は、軍の本部ごと跡形も無く消してしまえと……」
 感情なき女性の声。ノスラトの婚約者だと言う女性だった。俺はそんなことよりも、言葉の方が気に掛かる。本部ごと遺体はなくしてしまえと言う事は、自動的にこの軍は崩壊、解散と言う事になるのだ。そんな、不味い。

 「と、りあえず、だ」やっとの思いで声を上げる。声が声になっていないような気がして仕方ない。「総司令官の、遺体をどうにかするのが、先決だ」
 暗く沈んでいた人々の顔が、ほんの少しだけ上がった。しかし、ここは素人が出来ることじゃない。一応俺は軍医と言う専門の職に就いているから、その辺りは熟知している。とりあえず座り込んだ人たちを遺体が目に付かないところまで下がらせるのが先決、話はそれからだ。

 悪いとは思いつつも一応突っ込んできた銃で脅しながら、何とか遺体が目に着かない場所まで人を誘導。携帯電話でドリスに助けを求めつつ、私服のシャツの暑苦しい袖をまくり、頭は首にかけていたタオルで邪魔にならないようきっちりと縛って、長ズボンの裾も邪魔にならないよう捲くりあげる。本部の窓に映る自分の姿は、さながら日本の大工か、若しくは清掃作業員のような格好だ。俺は思わず苦笑、そして、後ろに映る総司令官の変わり果てた姿を見てすぐさま真顔に戻る。
 俺ははっと気付いて本部の中に走る。一直線に医務室まで走り、ベッドに畳んでおいているシーツとタオルケットを一枚取り上げる。本当ならもうちょっと手のかけようもあるが、今は緊急措置だけで何とかするしかない。
 シーツとタオルケットを脇に抱え、ついでに入り口付近に立て掛けていた担架格納箱を引っ張り出す。若干引き摺りながら抱えて走り、俺は簡単に鎮魂の印を切ってシーツとタオルケットを遺体の上に広げる。丁度よくドリスが駆けつけて来た。
 「ゴメンよ、こんなこと手伝わせて」
 「何いってんのよ、私も医者、とーぜんながらこう言う後片付けなんか任されてきたような身なんだから。それより、私に謝るのはもう止めてよね。助けを求めておいて、謝るのは変でしょ?」
 ドリスの言う事は正しい。俺は素直に頷き、迅速に片付け作戦を開始。いや、片付けなんていったら失礼だとはわかっているんだけど。

 遺体の下から手をいれ、息を思いっきり吸って止め、全力で持ち上げる。死んだ人間は体重が二倍になるって噂を聞いたけど、これはちょっと……ッ!
 「重ッ……! ちょ、腰くるってこれ! マジ駄目!」
 ぶっちゃけ凄く恥ずかしい事を叫んでしまった。
 ドリスに手伝ってもらい、何だかんだ叫びながらも、何とかドリスが前もって広げてくれた担架の上に遺体を載せる。そして視線をドリスに送り、担架に渡してある二本の棒に手を掛ける。もう一度視線を送り、そして「せーの!」と言う掛け声付きで持ち上げた。バーベルを持ちあげる重量挙げ選手みたいな感覚だ。しかし、これは笑い事ではなく一大事。

 凄まじく重たい担架を重い重いと唸りながらも運んでいく。俺は進行方向に対して背中を向けているため、歩きづらさも相俟って腰と足がつかれてきた。それでも何とか医務室の前まで辿り着き、俺は外に面した窓を足でこじ開ける。鍵を開けておいて良かった。
 「どっせい!」凄まじく変な声が出た。ドリスは俺が声を上げた瞬間噴き出しそうになったが、何とか堪えている。
 どうにかベッドの上に遺体を降ろすと、俺は急いで湯の出る蛇口にホースを繋げ、栓を捻って駆けだす。そろそろ腕と腰がヤバイ、自分も歳だなと変な事を考えながら、むせ返るような血臭を漂わせるアスファルトの地面に向かってホースを突き出した。瞬間、反動で吹き飛ばされそうなほどの勢いを持った水が噴き出し、後ろに踏鞴を踏む。ちょっと捻り過ぎた。それでも今から閉めなおしに行くわけにもいかないし、とりあえず踏ん張って流す。
 何とか全て洗い流し終えた後、医務室に逆戻り。水道の蛇口を捻って止め、とりあえず一息ついた。ふとベッドの方を見ると、ドリスが布を絞っている姿が目に映る。怪訝に思って近づくと、血塗れの遺体の血を拭いていた。
 「ドリスもようやるよ、全く……」「棺にはいるとき、血塗れで入りたいと思う?」
 即座に言い返したドリスの言葉に、言い返せる言葉は無い。いつだって正論のドリスに口論を仕掛けるなら、俺は辞書とそれを理解できるだけの頭脳が一ダースはいる。我ながら完璧すぎる妻を持ったものだ、と今更に思ってしまう俺。畜生、今一大事なのに。俺の気質も随分軍人に傾倒して来たものだ。やっぱり実戦を乗り越えたらこんな風になるんだろうなあ。

 変な思考と奇妙な心境は脇に置き、俺はイヤホンの回線を繋げた。この事を何時までも隠し通せる訳が無い、なら、今ここで言ってしまうのが早い。そう思ってのことだ。
 「皆、聞こえてるかい。…………総司令官が、自殺したって事だけ、簡潔に伝えておくよ」
 本当に簡単に伝えた結果が、これだ。
続く

Re: WINGS ( No.24 )
日時: 2009/11/03 16:23
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十六翔

堕ちた翼、羽となって散らん
 言葉が簡単すぎる事なんて知っている。でも、長々と話したところで信じてはくれない。ならば、現実を確認させるのが一番のショック療法。そう思って、俺は敢えて簡潔に過ぎる言葉を使った。
 此方からの一方的な通信しか今は認めていないから、確認の声やその他皆の声は何も聞こえない。それでいい、何か言われても、俺は受け止められるほど神経が丈夫でも無い。しかも、今は疲労しているのだ。
 「コレは本当のことさ。信じられないなら本部まで。真実は医務室にあるから」
 伝わっているのかも分からない言葉を最後、俺は通信を切る。通信が終わった後はもう疲れ果て、そのまま椅子に直行した。すぐさま椅子に飛び込み、身を預ける。ドリスが気遣いを見せてくれ、わざわざベッドのカーテンを閉めてくれた。これで何か変な感情を起こす事は暫く無い、と思う。
 とりあえずデスクに突っ伏し一息つくと、急に睡魔が襲ってきた。そのまま身を預ける。
 三秒後、俺の記憶は途切れていた。


 とても疲れたような表情に、私は心配になって遺体の安置されたベッドのカーテンを閉めた。金属の板に角のあるビーズか何かを零したような音と同時、退屈な色をしたカーテンがレールの上を滑る。ふとヴィルの方を見ると、疲れたような表情に笑みを浮かべていた。私も少しだけ笑いかけ、そっと視線を遺体の方にやる。
 いつも思うけれど、死んだ人は眠って居るようにしか見えないことが多い。勿論事故なんかで無残な事になって居る物もあるけど、老衰や病気で死んでいった人達は本当に寝ているようだ。私は何だか切なくなって、視線をヴィルの方に戻す。……机に突っ伏し、静かに寝息を立てていた。私が考え事をしていたほんの僅かな数十秒の内に、もうヴィルは寝てしまった。相当疲れているらしい。私は起こさないようそっとベッドからタオルケットを一枚抜き出して、静かにかける。
 そこでふと気が付き、私は空を見上げた。まだ五時だと言うのに、空はすっかり日が傾いて柿色になっている。
 「日の入りが早くなったわね。ネイリバーにも、秋が来たわ」
 私は他愛も無い一言を静かに呟き、少しだけ肌寒い空気に身を竦めた。

 
 ぼやけた声に、俺は目を覚ます。頭が重く、耳鳴りも凄い。それでも何とか重たい体を頭を上げると、大勢の飛んできた軍の皆に囲まれ、ドリスが四苦八苦していた。俺はその光景で重い頭も耳鳴りもぶっ飛び、慌てて駆けつける。色々と言いたてる皆とそれに反論するドリスを無理矢理引っぺがし、俺は皆の抑制に入った。あああ、何て疲れるんだ、今日は。
 「ちょ、ちょっと待ちなって。俺の妻を責め立てたって何も出てこないから。とりあえずさ、一回落ち着いて」
 「こんな状態で落ち着けんのはアンタだけやで。皆アンタの通信を聞いてぶっ飛んで来たんや、いきなりこんな事があって、落ち着けると思うか? それに、アンタに嫁はんがおったとはなー」
 「いや、思わないけど。ここで一般人を責めてもしょうがないじゃないかい? あと、俺にもちゃんと嫁いるから! どんだけ切り替え早いのさ!」
 相変わらず汪都班長の言葉に返答するのは疲れる。思わず溜息をつきかけて、俺はそのため息を喉で飲み込んだ。流石に色々変な誤解とかトラブルは避けたい、ここは穏便に行きたいところだ。
 事のあらましを説明する為、俺は重たい頭を抱えつつ口を開いた。

 全ての次第を説明し終えて、俺はついに耐え切れなくなって溜息をつく。誰も指摘しないでくれて良かった。が、同時に疲労も襲ってきて、俺はふら付く体を膝に手を添えて耐える。暫くそのままの状態でいると、不意に声。
 「総司令官の最後の言葉、何か分かりますか?」
 少年の声で敬語。しかし、ヴァルグスの声とは全く違う、ミステリアスな雰囲気を秘めた声。何とか顔を上げると、明らかに色素が欠乏しているとしか思えない白さの肌に、染めたにしては鮮やか過ぎる銀髪に青紫の瞳を持つ無表情な少年が俺の眼の高さと同じ目の高さに居た。たしか、僅か十四歳の若年にして副司令官の大役を任された少年——ノア・グレイ副司令官。
 俺は逆らう事も出来ず、記憶を引っ張り出す。疲れていて上手く記憶が引っ張りだせない。それでも何とか記憶の切れ端を掴んだ。そこから引き出すのは簡単だ、俺は記憶を引っ張りだすスピードと同じ速さで言葉を告げた。
 「葬式はあげてくれるな、迷惑だ。遺体は、軍の本部ごと跡形も無くなくしてしまえ……だった、です」
 間延びした静寂。誰も彼もが複雑な表情をする中、ノア副司令官だけは無表情のまま、事実と言える、しかし受け止めたくない事実を突きつけた。
 「総司令官の言葉は、遠回しにこの軍を解散しろ、と要求しているようですね。恐らく総司令官の意思は固い……政府が要求したら、地縛霊にでもなって出てきそうですね。僕達は逆らう事など出来ません、遺志に従う他ないでしょう」

 再びの静寂。今度はノア副司令官も何も言わない。しかし数秒後、声が再び静寂を突き破る。
 「その選択しかないんですかね、ノア副司令官」
 イザリ班長の声だ。恐らく彼が、一番ショックを受けているに違いない。あまり表には出していないが、イザリ班長とアジガヤ班長とノスラト報告官はかなり仲が良かったと言う。親友を二人も失ってしまい、更には総司令官を失えば、相当心に深い傷を付ける事になる。それでも、イザリ班長はこの軍で働こうと言うのか? 凄まじい精神力だ。俺には理解できない。
 しかし、そんなイザリ班長に告げたノア副司令官の声は冷たかった。
 「これ以外ありませんね。心意気は買いますが、僕としても総司令官の命令は絶対、逆らう事は出来ませんから」
 「……そうか。ならいいさ、スッパリ諦めるよ」
 諦めが良すぎる。俺にはイザリ班長の潔さを一生かかっても理解できないだろう。結局のところ、俺は凡人なのだ。

 時は無情に流れていく。早く全員が決断をしないと、遺体的な問題が大変だ。秋だからまだしも、夏だったら蠅がたかり始めるような時間が既に経過している。その事を切り出そうと口を開いた瞬間、ノア副司令官の声が同じ事を言った。
 「皆さん、決断をお願いいたします。総司令官の最後の命令を守るか、さもなくば背くか——決めてください」
 その言葉には有無を言わせぬ厳しさと、背けばどうなるかと言う脅しが含まれている。こうなると、誰も反論は出来ない。全員が一瞬の戸惑いの後に、頷いた。俺も頷く。
 もう、心に決めていたことだから。


 本部の解体、及び遺体の埋葬は、一階の主要な柱十二箇所に爆薬を設置し、それを爆発させることによって他の階を連鎖的に落とすと言う、重力落下式の方法がとられた。
 「三、二、一、点火!」イザリ班長の全てを振り切るような声と共に、点火ボタンが押される。瞬時に導火線へ火がつき、十二の火の蛇が進む。俺はそれを虚ろな気分で眺めていた。なんと言うか、今は何も考えたくない。

あっという間に火の蛇は導火線を食い散らし、本命の爆薬に火を付けた。瞬間、耳を劈く大音声と共に柱が砕け散り、四十階分の建物が一気に下へ落下。それは連鎖的に下の階を押し潰し、ガラスの破片や鉄骨、コンクリート等を周りに撒き散らす。
 それは、翼が地に潰えた瞬間だった。誰も涙は流せず、誰も感慨を持ってはいけない、無残な墜落の瞬間だった。

 後分かったことだが、この破片弾によって俺の家の窓ガラスが二枚ほど粉々に砕け散っていた。
 ドリスが割れた窓ガラスの枠にダンボールを張りながら、静かに声を上げてきた。
 「とうとう、翼も堕ちたわね……。アレほどまでに支持され、アレほどまでに罵倒された軍はないわよ」
 「いうなよ、ドリス。翼は第七次デルト連邦大進軍の戦いで最初の犠牲者、ノスラトを出した時に、既に堕ちていたんだ。本部が崩落した瞬間、翼はただの羽毛と化し、散ってしまった。もう終わりだよ」
 何の感慨も無く俺は返す。ドリスは寂しそうに微笑み、「そうね」と肯定の声を上げた後、静かに付けたした。
 「翼は羽となって散らん。寂しいけれど、これは第二の人生の幕開けだと思えば、少しは気が楽になるんじゃなあい?」
 なるほど、発想の転換だ。ドリスの発想にはいつも驚かされるよ、全く。
 俺は頷くと、「翼堕ちても、また羽ばたくさ」と静かに返しておいた。
続く

Re: WINGS ( No.25 )
日時: 2009/11/04 00:44
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 最終翔

過去と決別
 本部の跡地は既に瓦礫も片付けられ、その広い敷地を生かして公園が作られている最中だと聞いた。
 解体後に見つけられたが、本部の下には何十もの抜け道が作られているらしく、皆の間では総司令官がミオ補佐官から逃げるために作ったんじゃないかと噂されている。正直、あの忙しそうな総司令官にどうやったら抜け道が作れる暇を作り出せたかが謎だが、僕は一応この噂を信じているほうだ。だって、あの総司令官なら出来そうだし。

 工事音が未だ響く中、元本部の前を通る。軍解散後、僕とついでにデガイは本軍の方に移動したのだ。盲目で銃器以外扱った事のない僕にとって、軍以外で何か物事を果たせる確率はほぼ無いに等しい。それもまた随分情けない話だが。
 「はぁー……」何となく溜息をついてみる。僕の後ろでほぼ空気の存在と化していたデガイも溜息をついていた。まだ二十代の男が二人してじじ臭いため息をつく光景はあまり想像しないで欲しい。女の子からの人気が落ちるから。
 「それにしてもデガイ、本軍に移行してから怪我が増えたよね……」
 何となく僕の言い放った声に、デガイは無言。しかし、すぐに声が返ってくる。若干投げやりな声で。
 「本軍に行ってから運がつきましたね。この軍の頃は随分色々な攻撃を切り抜けてきたものですが」
 確かに。僕もかなり運が尽きたらしく、デガイの指示を付けても銃弾を受けることが多くなってきた。お蔭でこっちは実戦を潜り抜けるたびに病院送りが確定してしまい、本軍近くにある総合病院の先生ともすっかり顔なじみになってしまった。なんと言うか、凄く情けない話だ。もしかしたらいずれは閑職とかに回されるかもしれない。うわああ、いやだあああ。

 色々と沈んだ気持ちで道を歩いていると、不意に後ろからデガイの手が引き止めた。僕は素直に足を止める。どうやら目の前に人が居るらしいが、わざわざ引き止める必要がどこにあるのか良く分からない。しかし、その疑問はすぐに払拭された。
 「デルト連邦軍の人ですよね、貴方は。見た事ありますよ」デガイの声に、僕は身構える。しかし、静かな「身構えるな、敵意は無い」と言う声によって強制的に身構えるのを止めさせられる。どうにもこうにも気分が落ち着かないが、気配からも確かに敵意は感じられない。それでも落ち着かずに頭の中でもやもやしていると、鋭い声がもやもやを打ち払った。
 「デルト連邦国軍副司令官、アルフ・グレイ。ノア・グレイの兄だ。デルト連邦大攻勢防衛作戦に参加したものなら、私の姿を見た者は何人かいるはずだ。貴方もそうであろう、デガイ報告官」

 僕は思わず「ふぁ?」とマヌケな声を上げてしまう。そう言えばノア副司令官と似ているけど、こんな声は聞いた事がない。
 どうにもこうにも、僕は盲目な為に軍人の顔を良く知らない。だから声で記憶するほかないのだが、彼の声は記憶の底を浚っても全く出てこない。どうやら、僕が参加した時に彼の声を聞いていないか、さもなくば僕が参加する前の攻勢でデガイが聞いているかのどちらかだ。多分後者のほうだとは思うが。
 「私も良く覚えていますよ。たった一人でこの地に乗り込み、一個の小隊を全滅させたと言う事件があっては、嫌でも覚えさせられます。その戦場の鬼が、どうしてここへ? 地味に花束も持ってますが」
 僕を置き去りにして話が進行している。でも、一個の小隊を全滅させた事件は何年か前に聞いた。それは、病が元で盲目になる一年前の出来事だったと良く覚えている。つまり、僕が軍人になる前の話だ。知らなくても仕方ない。
 思考に耽る僕を置き去りにし、アルフ副司令官は声を上げる。
 「何、レイ・ラングス総司令官は私がまだ小さい頃の幼馴染だったからな、追悼の意を込めて、だ」

 絶句。
 総司令官の幼馴染と言う人間を、僕は初めて聞いた。総司令官に家族や友人の話を持ち掛ける事は軍の中のタブーとされており、総司令官の過去を知る者は誰も居なかったのだ。総司令官亡き今、過去の話を聞けると言うのだろうか。
 そこまで考えたところで、アルフ副司令官の声が上がる。
 「そこまでレイ総司令官と仲が良かったと言うわけではなかったが、子供の頃は別段不思議なところも無い、歳相応の平凡な人間だったと覚えている。彼が変わったのは、十三歳の頃だ」
 十三歳、と言えば、総司令官が軍を引き継いで軍人になった頃。どこかで零していたのを聞いた事がある。
 「デルト連邦の全力攻勢の中での作戦……俗に言う“デルト大虐殺”と言うもので、彼の家族は一人残らず殺された。彼以外の全員が生皮まで剥がされ、肉塊になって道端に打ち捨てられていた。……その時、私はデルト連邦国軍の者達によって、デルト連邦軍側の兵士となっていた。そして私は、彼の家族を虐殺した兵士の内の一人だ」
 信じられない一言に、僕は露骨に眉を顰めて見せる。まさか、総司令官の家族を殺した人間が目の前に居るなんて思いも寄らなかった。反射的に身構えようとするが、何か言いたそうな気配が漂っていた為堪える。再び声が上がる。
 
 「直接私が手を下したわけでは無いが、虐殺の様子は目の前で見せつけられた。今だからこそ身の毛の弥立つ光景だったが、その時は生き残りたい一心だったから、殆ど恐怖は感じなかったと言ってもいい。そして彼も、その虐殺の様子は見ていたはずだ。戸棚に隠れるレイ総司令官と、目があったからな。恐怖と絶望と怒りに満ち満ちた目をしていたな」
 どこと無くしみじみとした口調で、一旦話が途切れる。通行人が通る様な音は響いてこないが、どことなく奇妙な空気がその場に漂っていた。僕とデガイは何も言わず、ただ視線を送る。仕方ないと言うように、アルフ副司令官の声が再び上がった。
 「それからだ、彼が変わり始めたのは。異常なほど人の生死に敏感な感覚を持ち、しかし軍人でも震え上がるほどの冷酷さを持ち合わせた。私も一年前の攻勢の時、彼に出会って心底驚いたよ。敵に向ける瞳には、慈悲の感情が一欠けらも無かったんだからな。それどころか敵など眼中に無いような、考え事をしている瞳だった。つまり、敵に対して欠片ほどの感情も持ち合わせていなかったのだ」
 「総司令官がそんなに慈悲のない人間だとは思えませんがね」
 思わず反論の声が上がっていた。本部で見せる総司令官とはまったく正反対の顔を、彼は語っているのだ。しかし、アルフ副司令官の説明はどこまでも真実を話しているようにしか聞こえない。
 「目の前で見たから分かる。考え事から解放された瞬間、彼は敵に対して道端の糞でも見るような視線を向けて来たよ。それに、特に私に対しては憎悪の視線を向けていた。あの時の事は忘れていない、とでも言いたげな瞳だった。しかし、聞く限り戦争が終わった後は敵に対しても慈悲を駆けていると聞く。どちらが本当の総司令官なのかは、結局の所分からん」
 遠回しにぶつけられた疑問に、答えることが出来なかった。どちらも総司令官の姿である事は明白だが、双方が百万の言葉を費やしたところで総司令官と言う一人の人間を本人以外が語る事は出来ない。いや、本人にも語る事は出来ない。

 いつか聞いた事がある。フィオル・マグナスと言う元デルト連邦の兵士が聞いた、総司令官の言葉を。
 「軍の連中は、私が背中を押さずとも飛翔できる。私の様に、過去に引き摺られて高みを目指せない者達ではあるまい」
 もしかすると、総司令官は家族を虐殺され、その現場を見てしまった過去と、虐殺した者の中に自分の幼馴染がいた過去と、決別を果たしたかったのかもしれない。いや、決別したつもりで、決別できていなかったのかもしれない。今となっては真相も闇の中だが、何となくそう思う。
 「私の用件は以上だ。いつか戦場で会うときがあれば、また」
 アルフ副司令官の声と、軍靴がならす音と空を切る音が同時に響く。僕は敢えて笑みを浮かべながら、威儀を正して敬礼しておく。一瞬の対峙が続いた後、ふたたび軍靴の音が響いた。その音は遠ざかり、そして消えて行く。
 数瞬の奇妙な静謐。そして、声。
 「……宣戦布告、ですか?」
 「まあね」
 デガイの声に、わざと気軽く返す。デガイは「どうしてそんなに飄々とできるのか、私には理解できませんね」とじじ臭い溜息混じりの声を返してきた。僕はそれを笑いながら、再び歩き出す。デガイも少し遅れてついてくる。
 工事音は遠く小さくなり、いずれは別の音に紛れて消えて行く。それは、過去からの決別と思っている。アジガヤやノスラトと言った親友を失うのは確かにつらいが、それに感けて前にすすめないのは堕落した人間だ。
 僕は、本部に向けて歩みを進めた。



最後ぐだぐだでスイマセン……。私の創造力ではこれが限界でした……。

Re: WINGS ( No.26 )
日時: 2009/11/09 17:57
名前: あんず ◆3uIQO01mdA (ID: HiUuyCRY)

こんにちは。鑑定結果です。
ただいま私情によりちょっと忙しい時期でして全部読むことができなかったため、最新更新三話を鑑定させていただきます。申し訳ありません。

/*基礎結果

できています。
私なんかでは鑑定しきれませんでした。本編の結果をみてください。
描写は特に素晴らしかったと思います。
あと、最初のほうを少し読んだんですが、少し詰めすぎて読みづらさがあったな、と思いましたが、後が読みやすくなっててよかったと思います。

/*本編結果

第十五翔〜

>自殺する直前の人間の気持ちとはこんなものなんだろうと勝手に解釈
△罪を償わなければいけない、と欝状態に陥っている人が自殺する直前の人の気持ちを考えるほど余裕があるかな、と思ったんですが

>いや、居るのは居るが私とは相対する立場に居る人間だ。
△「居るのは居るが、」ここは、「居るには居るが」です。あと、漢字だと不自然な感じがしたので「いるにはいるが」のほうが自然かな、と思いました。

>私は凄まじく遅いスピードで階段を降りる。自分でも遅いと思ってしまうほど遅いが、別に良い。
△「自分でも遅いと思ってしまうほど」っていうのは不自然じゃないですか? 遅いって言ってる時点で遅いことは自覚できると思いますが。

>本部の正面玄関を出ると、早速罵声の嵐が私の耳を劈いた
△本部の正面玄関に出るまで、罵声は届かなかったんですか? 総司令官室で聞こえていたのに、それはないと思いますが(私の勘違いであったらすみません)



/*最後に

とても面白い作品でした。
十五翔以外しかなにも言えなかったですが、読みやすく、描写の量も多くてとてもよかったと思います。
時々難しい漢字があるので、振り仮名をふってあればよかったと思います。
私の指摘した部分の変更は任意でお願いします。
また、私が言っていることが全てではありません

Re: WINGS ( No.27 )
日時: 2009/11/09 19:54
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)

>あんず様
遅くなってすいません。鑑定ありがとうございます。
むー……やっぱり細かい文章は出来ていませんねえ。以後の改善点が見つかりました。

鬱の人の気持ちって描写し難いです。もーちょっと人の個性とかを出せるように頑張ります。

鑑定ありがとうございました。重ねて感謝申し上げます。


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