ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 壊れたボクと儚い天使(グロアリ)
- 日時: 2009/10/09 16:34
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
シリアス&重たい&グロありです(汗)
それでもばっちこいやぁ!という人は、ご覧下さい。
■登場人物■
吉祥アキ(きちじょうあき)
17歳。5年前のある事件で、左目を失い、前髪で隠している。少年の割りにはキレイな顔立ちの為、時折噂される。あまり人と話さない。
鈴山梨乃
17歳。幼い性格の屋上登校。かなりの美人で、天真爛漫。8年前の監禁事件の被害者で、時折歪んだ表面を持つ。
東雲宇美
17歳。素行不良少年で、アキとは同じクラス。女子から異様にモテ、とっかえひっかえしている。アキは苦手らしい。
向坂安寿
16歳。他校の不良高校の1年。派手でその外見を裏切らない事も多々している噂。
主題歌
http://www.youtube.com/watch?v=-Wlg0VeBHus
エンディング
http://www.youtube.com/watch?v=vBCWe7nf3WY
- Re: 壊れたボクと儚い天使(グロアリ) ( No.23 )
- 日時: 2009/10/11 12:24
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
天使。
少し心が痛むの響きに、僕は眉をしかめた。
ていうか、この人は誰なんだ?
今まで見た事もないし、あった事もない。
その子が僕の横を通る。懐かしいような、花のような香りがした。
「ま、待って!」
呼び止めると、迷惑そうな顔で振り向く。
「どういう事だよ。僕はキミの事知らないよっ」
「まー、そうだろうな。会った事もねぇし」
「じゃあ、何で僕を知ってるんだよ」
「だから、言ってんだろ。俺は“あいつ”の天使だからって」
どうして……。
天使。
それは、×××が僕に問いかけた事だった。
──アキ、本当に天使は、いないと思うか?
キミはどうしてあんな事を聞いたんだろう。
僕がいないと答えると、キミは悲しそうな顔で俯いてしまった。
キミがこの世界からいなくなったと、キミの両親に聞かされたとき、僕は世界が崩壊したんだ。
キミのいない世界に、僕だけが残る?
そんなの耐えられないじゃないか!
キミは僕を見捨てて、永遠の存在になってしまった。
僕はキミの遺体も見れず、葬式にも来るなと言われて、毎日が暗闇だったんだ。
気づけば、さっきの男子生徒はいなくなっていた。
♪
天使はいるか?とキミに訊ねたら、キミは簡単に「いない」と言った。
でも、彼女は信じていた。信じたかった。
目の前にいる彼こそが、彼女の天使だと思いたかった。
だけど、天使は彼女に自らの存在を否定したのだ。
彼はいつも笑っていた。
幸せなんてものを溢れるほど持っていて、毎日当たり前のように笑顔でいる。
彼女がその幸せを分けてくれないかと言った時、彼は無邪気に微笑んで、
──今も、充分に幸せじゃん?
そう言って、彼女の心を崩壊させた。
彼女は幸せではなかった。
鈍感になるほど笑える彼が羨ましくて、愛しくて、憎らしくてたまらなかった。
どうして、そんなに笑っていられる?
彼女が苦しんでいるのに、天使は助けてくれなかった。
憎い。
彼の左目を奪った時、あまりの痛さに悶絶する彼を見て彼女は微笑んだ。
優雅に。
可憐に。
壮大に。
まるで自ら天使になったように。
そして持っていたナイフで、白い羽衣を否定するように、静動脈をかき切り、真っ赤な悪魔へと化したのだ。
- Re: 壊れたボクと儚い天使(グロアリ) ( No.24 )
- 日時: 2009/10/11 12:45
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
昼休み、屋上へ行くと、いつものように梨乃がいた。
こちらを見て、笑って、また視線を元に戻す。
僕は弁当箱を二つ持って、梨乃に一つを差し出した。
「ありがと」
「どういたしまして」
梨乃は慣れない手つきで箸を扱う。
僕は少し間を置いて座った。
「あのさ、梨乃。梨乃って僕と同じクラスだったんだね」
「そうだよ」
「何で、授業に出ないのかなーって思って」
「梨乃、ベンキョ嫌い」
「……それだけ?」
「他に、何がある?」
つたない口調からすると、あまり学校にも行ってないのだろうか。
「梨乃はさ、昔……嫌な事があったりした?」
「えーっと……なかった」
やっぱり、東雲くんの言っていた噂は単なる嘘だったんだ。
「てかさ」
梨乃が続ける。
「嫌なことばっかりで、何がホントに嫌なのか、わかんない」
呆然と梨乃を見詰めていると、その視線に気づいたのか、こちらを見て、へへっと笑った。
僕はどう言っていいかわからず、
「そ、そうなんだ」
目を逸らした。
「アキ」
名前を呼ばれて梨乃を見ると、ひどく儚げな表情で、
「アキは、昔……嫌な事はあった?」
「そりゃ、ね……。人生生きていれば、嫌な事もあるさ」
「その左目を潰した女は、アキの天使だった?」
時間が、止まった。
正確には僕と梨乃だけの時間が止まった。
完全に思考回路が止まり、頭が働かない。
震えが襲ってくる。
「……んで、梨乃が……知って、るの?」
何とかそれだけ口にした。
どうして梨乃が僕の左目を知ってるんだ!
「眼帯、してたから」
「理由になってない!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。弁当箱を落とし、梨乃の両肩を掴む。
「どうして、梨乃が知ってるんだ!?僕の左目が、犀華によって潰されたって!!」
梨乃の表情がだんだん無になっていく。
空っぽで吸い込まれそうな瞳で僕を見つめ、淡々と、
「梨乃はアキの天使なんだよ」
そう言った。
犀華の事を知っているのは、この学校にはいないはずだ。
僕はあの事件があって、なるべく離れたこの高校を受験したんだから!
何で梨乃が知っているんだ。
「そっか。あの子、犀華っていうんだ」
「犀華に、会った事あるの?でも、犀華はもう死んでいるんだよッ!」
「アキ。奥深くに根付いた真実はね、なかなか見ようとしても見れないんだよ」
「どういう事!?」
「……もがけばもがくほど、焦りが出る。焦りが出れば手元が狂う。そして手元が狂えば壊れる。それだけ」
目の前が、真っ暗になった。
「真剣に答えてよっ!」
「梨乃はただ、見てるだけ。じぃっと、アキを見てるだけ。それだけ」
意味が全くわからない。
第一梨乃と犀華は面識があったのか!?
「朝倉犀華。彼女はどうして壊れてしまったんだろうね。人間ってわかんないね。複雑すぎて。だから、キライ」
梨乃が僕を突き放す。
尻餅をついて、僕がキッと梨乃を睨むと、梨乃は立ち上がって、恐ろしいものを見るような目で僕を睨んだ。
「り、梨乃……?」
「キライ……キライキライキライ大ッッ嫌い!!」
梨乃が両手で頭をかかえ、足をだんだんっと踏み鳴らす。恐怖で顔が歪んでいる。
「どうしてっ、どうして!?キライ、キライ!梨乃は梨乃じゃないッ!キライキライキライ!!」
一体、何が梨乃をおかしくさせているのだろう。
僕の天使は、目の前で苦しんでいた。
「キライキライキライ!真っ暗!何も見えないッ!一人ぼっち!キライキライキライキライキライ!!」
「梨乃っ!」
僕が梨乃に駆け寄る。
「キライッッッ!!!」
最後に梨乃が叫んで、がくっと膝をつき、
「げほっ、がはっ!」
嘔吐した。
黄色の液体が僕の制服と梨乃の長い髪にかかる。
体は痙攣をおこし、梨乃はがっくりと力尽きている。
僕は急いで携帯を取り出した。
「し、東雲く……っほ、保健の先生呼んでッ!」
- Re: 壊れたボクと儚い天使(グロアリ) ( No.25 )
- 日時: 2009/10/11 15:18
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
体操着に着替えて、僕はどんよりとした気分で保健室のベッドに横になっていた。
梨乃は、右のベッドで眠っている。
「起きたか?」
東雲くんが傍にいた。
「……あ、ありがとう。先生、呼んでくれたんだ」
「モチ。んで、この鈴山は今度は何やらかしたんだ?お前の制服、ゲボ塗れで担ぐの少しためらった」
僕は先ほど起こった衝撃の様子を話した。
どうしよう、犀華のことも話そうか。それは、嫌だ。
彼女の事は、僕の心で封印したい。
「突然、狂いだしたんか」
「その言い方、やめてよね」
「悪ぃ」
「東雲くん、梨乃が昔事件の被害者だったって言ってたよね……。それ、何?」
東雲くんの表情が少し変わった。
真剣になったというか。
「監禁事件、だとよ」
「監禁?」
「昔、三人の少女が誘拐されて、暴行・監禁されるという事件が起こったらしい。そのうちの一人が、あの鈴山梨乃みてぇだ」
「詳しいね……」
「調べてみた。……俺のダチの妹が、その事件に巻き込まれたからな」
更なる驚きで、僕は上半身を起こす。
「東雲くんの……っ、友達の妹さん?」
「ああ。死んだけどな。生き残っているのは、あいつともう一人らしいぜ。まぁ、そのあと一人はわっかんねぇけど」
「……っ」
僕が黙っていると、東雲くんがパイプ椅子に腰掛けた。
「んで、お前は何があったんだ」
「え…?」
「昔、お前に何が合ったんだよ」
「……それはッ、
「ずーーっと前から気になってたんだけど。その左目の眼帯、どーしたわけ?」
僕の記憶が、さかのぼって行く。
あれは、僕がまだ小学6年生の時だった。
- Re: 壊れたボクと儚い天使(グロアリ) ( No.26 )
- 日時: 2009/10/11 15:37
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
第五章
繋がれた螺旋の記憶たち
朝、学校へ行くと犀華が来ている。
それだけで僕は嬉しかった。
男の子みたいな短い髪で、でもキレイな顔立ちをしていて、おおざっぱで明るい性格の彼女は、クラスで孤立していたものの、みんなの憧れだった。
強くて、可憐で、たくましい。
女子達もそんな犀華を羨ましそうに見ていた。
僕が犀華と仲良くなったのは、小学6年生の時、犀華が転校してきてからだった。
隣の席になって、犀華は僕にキレイな笑顔を向けて、
「キミ、女の子みたいだね。可愛いっ」
僕の頭を撫でたんだ。
僕は自分が女の子のような顔をしている事が、少々嫌だった。クラスの女子から「可愛い」なんて言われて恥ずかしすぎる。
でも、犀華は違った。
友達でも恋人でも、男でも女でもない、不思議な存在だった。
僕は犀華が居てくれるだけで幸せだった。
毎日が甘色で、あたたかくて、輝いているように見えた。
──犀華の様子がおかしくなったのは、夏休み明けだった。
9月の秋に、僕と犀華は初めてプリクラを撮った。
「恋人かー!」
って友達にからかわれたけど、僕たちの間には、本当に恋愛感情なんてものはなかった。
「秋だねー。アキの季節じゃん」
少し伸びた髪が女の子らしかった。
「ホントだね」
「ねぇ、キレイな星だっ!見える?アキ」
「うん、見えるよ」
僕は純粋な壊れやすい心を持った子供で、その時も星を単純にキレイだと感じることができた。
学校の屋上で、僕と犀華は寝転んだ。
「テストで出たよね。夏の大三角形」
「もう、忘れた〜」
「デネブ・アルタイル・ベガ!」
「秋だからね。見えないよ」
吸い込まれそうな、感覚。
溶けていきそうな、感情。
ゆっくりと時間が流れていく。僕達はほぼ無言で空を見ていた。
「人って死んだら天国に行くのかな〜」
ふいに、犀華がそう言いだした。
「悪い事したら、地獄だね」
「天国に、天使はいるのかな」
御伽噺だよ。
そんなの、いるわけないじゃないか。
「いないよ、んなモン」
「本当に?」
犀華が上半身を起こして、僕を見ていた。
悲しげな、泣きそうな顔で、
「アキ、本当に天使は、いないと思うか?」
僕はしっかりと頷いて、
「いないって。幻想、御伽噺、空想だって。だいたい、天国とかがあるかどーかもわっかんねぇのに。犀華は信じてるんだ。意外だ──」
一瞬の出来事だった。
左目に、鋭い痛みが走る。
「ッッ!!」
両手で抑えて、眼球がない事に気づいた。右目をギョロッと動かして辺りを見ると、転がっていた。
犀華の手にはナイフが握られていて、その刃が血で真っ赤だった。
「せ、せい、か……」
痛みに耐えれそうにもなく、僕は必死で歯を食いしばる。熱い。
「天使は、本当にいないんだ……そっか」
犀華はそう呟いて、自分の首にナイフを押し当てた。
「犀華ッッ!!」
僕の叫び声が、夜の世界にこだまする。
犀華の首から鮮血が流れ、僕の服を塗らした。
華奢な体が倒れ、脊髄反射で痙攣を起こしながら、びくびくっと体だけが震えている。
僕は世界の終わりがきたかのように、叫んでいた。
- Re: 壊れたボクと儚い天使(グロアリ) ( No.27 )
- 日時: 2009/10/12 08:45
- 名前: テト (ID: VZEtILIi)
救急車が来たけれど、僕は正直自分が呼んだのか覚えていない。
気づけば放心状態の僕は、病院のベッドの上で包帯を顔に巻かれていた。
さっき起こった悪夢が走馬灯のように流れ出す。
医者から、左目はもう再生できないと言われた。
神経が切れて、原型を留めていないほどぐちゃぐちゃになっていたそうだ。
僕は説明を聞き終えると、
「犀華は……どこ、ですか……?」
「会うかい?」
看護婦さんに連れられて、犀華がいる集中治療室の前に僕は立たされた。
「ここからは、会えないの」
「……」
「今、とても危険な状態だから、会えないのよ」
「……」
会えない。
こんなに、扉一枚の境界線が行く手を阻んでいる。
そう思うと、どうしようもなく絶望が溢れてきた。
「吉祥くん……?」
名前を呼ばれて振り返るのに、5秒はかかった。
「あなたが……っ、吉祥くん……?せ、犀華と一緒に居たっていう男の子は……っ」
犀華の両親だろうか。キレイな人達だった。
女の人が僕の両肩をがしっと掴む。
「ね、ねぇ……っ。どうして、犀華はあんな事したの!?あな、あなたが何か言ったんでしょう!?どうして、止めてくれなかったのッ!!」
この人は何を言ってるんだ?
男の人も怖い顔で僕を殴った。
「犀華はッ、お前のせいで死んだんだッ!!お前が悪いんだッ!お前が犀華に何か言ったんだろうッ!」
「びょ、病院ですっ!止めてくださいッ」
看護婦さんが言うのも聞かずに、二人は僕を責めたてる。
「お前が、犀華を殺したんだッッ!!」
僕のどこかが、音をたてて静かに崩れた。壊れた。
体中が震え、幻聴が聞こえる。
コロシタコロシタコロシタ……。
僕は立ち上がり、ズキズキと痛む頭を抑えて、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
全てを拒絶するように叫んだ。
それから後の事は正直覚えていない。
病院のカメラで確認を取った時に見た映像には、僕が病室の壁を赤く染めていた。
自分の頭部を壁に押し付けて、永遠にそれを繰り返している。
皮膚は破れ、出血し、僕はそれでも打ちつけた。
全てを忘れようとするために。
「……」
「それで、中学の3年間は病院に居た。中学2年のときにやっと1年生の勉強を始めたんだ」
東雲くんはずっと黙っていた。黙って僕の顔をじっと見ていた。
「……なあ、その犀華っつー子、死んだんか?」
「多分。もう彼女の両親には会っていないけど、死んだと思う」
「……」
「だから、梨乃は僕の天使になるって言ってくれた人だから、助けたいんだ」
「そーか」
東雲くんが俯いたまま、
「でも、俺はまずお前をどーにかしねぇといけないって思うんだけど」
「僕?」
「お前、ここ最近鈴山にかかりっきりだろ。もし、その犀華つー子が生きてみろよ」
「ないよ。犀華はもう死んでる。だって、血管切ったんだよ?」
赤く染まる、犀華。
その映像を消すために、何度頭を打ち付けただろう。
「でも、もし“生きてたら”──?」
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