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Blood Lily
日時: 2009/12/29 15:17
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

またまたまた消えた((汗

http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=12943

上記からどうぞ。

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Re: Blood Lily ( No.2 )
日時: 2009/12/29 19:41
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

ファーザーという謎の男に人格をのっとられたダッチを、リリーが三白眼で睨みつける。
ダッチがうっすらと不敵の笑みを浮かべた。
「キミら死神ごときが、私に勝てると思うのか?」
答えられなかった。
言葉が詰まる。
「キミが、ディオネアスの鎌を扱う子供だね?」
「………これは、私の鎌よ」
リリーが強く、しっかりと鎌を握る。
「それは、キミのではない」
「私のよッ! 誰が何と言おうが、これは私の鎌よっ」
やけになっているリリーを、怪訝な表情でノエルが見つめた。 彼女の顔に焦りが浮かんでいる。
「アンタ達の目的は何!? ただの独裁社会……ではないはずだけど」
「何故そう思う?」
「独裁社会にしては、行動が遅いわ。 政府を狙うのなら、修羅一族と戦争をしていた時期が丁度よかったのに……」
ダッチ、及びファーザーが歓楽の声をあげる。
それは、ため息に似た形だった。
「よく、気づいたね」
「目的は何なのよ」
「キミは、知っていると思うんだけどね。 我らの目的を」
ファーザーの言葉に、リリーは首を傾げ、ノエルはリリーからファーザーに視線を戻した。
「私は……何も知らないわ」
「キミには、“自覚”が無いんだよ」

ファーザーがニヤリと笑う。
「感情を失くして人形のままで生きていればいいのだよ。 そしていつしか自らが知る事になる。 暗闇も、絶望も、タヒぬ事の安心感も───」
「はい、ストップ」
ノエルがダッチの体に鎌を刺していた。 吐血する。
「安心せい。 リリーの鎌は刺してもタヒなねぇから」
その言葉で、リリーが驚いてノエルの手を見る。
異界を共存していないノエルが、自分のじゃない鎌を握っている。
その拒絶反応で、ノエルの手が軽く火傷を負っている。 
「ノエルっ、鎌を放してッ」
「黙っちょれ。 で、テメーは何なわけ。 本気で何がしてーわけ?」
ノエルがドス声で訊ねた。
「探しているんだよ」
ダッチの姿で、ファーザーが笑う。

「ディオネアスをね」

「ディオネアスは封印されたはずよッ」
「それが、魂はまだこの地上に在るらしい。 彼を蘇らせるのが目的……とでも言っておこうか」
「ざけんなッ!」
ノエルが痛みを堪えてリリーの鎌を深く刺す。
ファーザーにそれは効かないらしく、平然と笑っている。
「血肉を争う子供たち、せいぜい仲間集めでもしてるんだな」
そして、
ダッチが倒れた。
リリーが慌てて脈を計る。
「大丈夫、まだ生きてる」 「すぐ、運べ。 この孤児院の事を警察に知らせろッ」
リリーが事務所にある電話のダイヤルを押す。
ノエルは火傷した右手を震わせながら、
「あの女………」
黒髪の女性を頭に思い浮かべていた。

Re: Blood Lily ( No.3 )
日時: 2009/12/29 19:44
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

頑張ります!
>藍羽s

Re: Blood Lily ( No.4 )
日時: 2009/12/29 20:00
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

         第9夜
        追憶の果て


気絶しているダッチを警察に引き渡し、孤児院も一斉に家宅捜査が行われた。
「そう、それはお手柄だったね」
「ファーザー……そう奴は名乗ってた」
ノエルが孤児院の事務所の電話を借り、死神養育機関のフィーロと話していた。
「その男は、ダッチという男の人格を乗っ取っていたのかい?」
「ああ。 声は違うかったけど。 ……リリーに少し変な事ぬかしてた」
「リリーに?」
こくんとノエルが頷く。
「本当の目的は、自覚は無いけれどリリー本人が知っているって」
長く、沈黙ができた。
空咳をして、ノエルがフィーロに訊ねる。
「アイツ、大丈夫なんか?」
「………リリーは、それを聞いてなんて?」
「ホントに、判らんそーだった」
電話越しに、フィーロのため息が聞こえる。
ノエルは髪を掻き上げて、 「アイツ、俺らの声聞こえてんのかな」 悲しげな目で窓の外を見た。
雪が、溶け始めている。
「聞こえてるよ」
そう言うしかなかった。 本当は、彼女が何を想っているのか、何を頼って、何を信じて、
何を背負っているのかも、判らないのに。

「聞こえてる。 リリーには僕らの声が必ず、聞こえてるんだよ」
「………だよな。 普通に返事するし」
はははと、フィーロの笑い声。
「んで、俺らこれからどーすりゃいいわけ?」
「その孤児院の設立者を探っていき、裏社会のルートを探すんだ。 反政府側にいくために」
「オッケー。 で、シヴァはどうなわけ?」
「ああ、大丈夫。 トト達の方へ向かわせるように言ったから」
「相変わらず、治るの早ぇな」
「そうだね」
「あと、さ。 フィーロ」
「ん?」
「…………シンシア、元気?」
フィーロが息を詰まらせる。 長く吐きながら、
「多分、元気……だと思うけど、何で?」
「何となく」
ノエルが扉の外を見る。 リリーがノエルを待っていた。
「ゴメン、俺もう行くわ」
「うん。 行ってらっしゃい」
「おう」
電話を置き、事務所から出る。
リリーが白い息を吐いた。
「長かったわね」
「立ち話♪ シヴァはトトらの方へ向かったって」
「よかった」

本当にそう思っているのか定かではなかったが、ひとまず安心はしているようだった。
「リリー」
「何?」
ノエルがニヤリと笑う。
「………何よ、気持ち悪い」
「うん、ちゃんと聞こえてるなーと思ってね」
「………? そこまで耳は悪く無いわ」
「うん、わかってる」


          
           †

電話を置き、フィーロが少し眉を潜める。
しばらく何かを考え、長くため息。
「フィーロ司令官?」
「あ、何でもないよ。 ミリア」
「そうですか」
眼鏡をかけた、知的美人な女性が書類に目を通す。
司令官助手で、フィーロと同期のミリアだった。
「そういえば……シンシアさんはどうなってる?」
「相変わらずです。 兎のぬいぐるみを持って、まるで子供みたい」
「ご飯はちゃんと食べてる?」
「量は少ないですけど、まあ食べてます。 ……どうしたんですか、急に」
いや、と軽く手を振り椅子に座る。
手を組み、遠くを見ながら考える。
その脳裏に、黒髪でアイスブルーの瞳を持つ女性が浮かんだ。

───フィーロの坊や。

そう、彼女は呼んだ。
彼のことを。

Re: Blood Lily ( No.5 )
日時: 2009/12/30 15:37
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

「はぁ!? 夜逃げぇぇぇええぇ!? 」
耳元で大声で怒鳴られたため、リリーがしかめツラを越えて明らかにノエルを睨みつける。
ノエルは事務所の机に乗り出して、受付の女性にキスしそうなほど顔が近い。
「は、はい……。 いえ、夜逃げというか行方をくらましたというか、孤児院が警察の家宅捜索に入り、その後日に契約を一方的に打ち切って行方が判らないというような」 「それ、夜逃げだろ!! 」
ノエルの勢いで、女性が半泣きになっている。
「ノエル、あんまり怒鳴ったら失礼よ。 それに、さっきから視線が痛いの」
「ちょっ、手がかりなのに行方不明ってどんだけだよ!! 」
「当たり前よ」
リリーが当然そうに、
「この前の孤児院の件、ニュースに流れるくらいなんだから、裏社会の奴らが気づくのだって想定内の事でしょう。 逃げたっていう事は、やっぱり設立者は“裏”の奴らだったのね。 確信したわ」
「俺がそこまで考えてると思ってたのかよ」
「思うわけないじゃない」
これも当然そうに言い返され、ぐうの音も出ないノエル。
「でも、ここまで馬鹿だったとは思わなかったわ」
「リリー、さっき大声出してすんませんでした」
「判ればいいわよ」
怒りの原因が判り、ノエルがホッとする。
「で、その設立者の名前は何だよ」
「………ロバート・ジェンキンス様です」
「おい、名前覚えたか?」 「簡単な名前だから……、でも偽名も考えられるわね」
口に手を当てて考えるリリーをじっと見て、少しだけ女性が首を傾げる。
「何?」 それに気づいたノエルが女性に訊ねる。
「あ、いえ。 あの、えーと。 こちらの死神さんのお顔立ちがどこかで見たことのある顔だったので」
「へー」
リリーは少し怪訝そうな顔をしたが、特に気にも止めなかった。

Re: Blood Lily ( No.6 )
日時: 2010/01/02 12:22
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

上級都市最南端にある、ルルヘム。
最も中級都市に近く、最も中央区から遠い街。
どこに居ても変わらない漆黒の空の下、リリーとノエルがその街に足を踏み入れる。
「かなり広い街ね」
「最南端だけあって、雪は中央区と比べると少ねーな」
街の感想を短く述べて、リリーがパンフレットを見る。
「観光名所にもなってるらしいわね」
「マジで? あー、中央区と違って木とかよっけあるけんな」
せめてそこは自然と言うべきだろうがとリリーは思ったが、あえて何も言わずに街の警備員に自分たちは『死神』だという事を告げる。
どこの街でもありがちな反応をされ、気にもとめずに二人は歩き出した。
「ここに、孤児院を設立した人がいたって聞いたんだけど」
「ジェンキンス氏だっけ? てか、ソイツもう夜逃げしたんだろ?」
「でも、事務所の方に行けば何か判るかも知れないでしょう? ……いつも思ってたけど、ノエルってあまり頭使わないわね」
「マジで? 知らんかったー」
バカにされている事にも気づかず、ノエルがにやける。 リリーはそんなノエルを哀れげな表情で見ていたが、
(バカが移りそう)
スルー。

街の住人からのありがちでもう飽きてきた視線を受けながらも、ジェンキンス氏の居た場所に急ぐ二人。
しばらく行くと、
「死神、の人ですか?」 「?」
愛想よく笑顔を振りまいている、少年が声をかけてきた。
長い金髪を三つ編みにして、年はノエルと同じぐらいだ。
「誰ですか?」 少しだけ、リリーが警戒心を高める。
「あぁ、俺はヴィンスっていいます。 死神さんが居るもんですから、何か合ったのかと思いまして」
「こちらの事情です」
「そうですか」
尚も笑顔を崩さないヴィンス。 
「ちょーどいい。 お前、ジェンキスって奴知ってるか?」 ノエルが訊ねると、ヴィンスが驚いたように、
「旦那の知り合いですか?」 「旦那?」
知り合いなのか、親しい名称だった。
「俺、旦那とはちょっとした知り合いなわけ」
「彼が夜逃げした事は知ってますか?」
「………はぁっ!?」
ヴィンスが本気で驚いたような顔をする。
「夜逃げ? え、夜逃げぇ?」
「おお。 ちょいしくじって、夜逃げしたわけ」
ノエルの大雑把な説明に、ヴィンスの目が白黒する。
呂律が完全に回ってない。
「な、んで? な、な、な!!? 」
「落ち着いてください」
「うっそやーん。 マジで!? 」
ヴィンスも初耳だったのか、酷く混乱している。
ノエルが呆れたように、
「知り合いなのに、知らんかったんだな」
「全然。 ほへー、旦那が……。 へぇ」

「ジェンキンス氏が、孤児院を設立したのはご存知ですか?」
「あぁ、うん。 知ってるけど」
「その孤児院が、政府の法律に違反して人身売買を行っていたんです」
実際、あの後事務所のロックつきの金庫に保管されていた書類に、これまでの商品(人間)の事が克明に記録されていた。
「で、ジェンキンス氏が何らかの形で裏社会と繋がっているのかと確信したわけですが」
「へぇ」
ヴィンスはしばらく上の空だったが、 「事務所、調べます?」 二人にそう言いだしてきた。
「いいんですか?」
「旦那が居ないなら、いいんじゃないですか?」
あっさりと言われ、リリーは少し怪訝そうだったが、ノエルは 「ちゃっちゃと終わらそうぜ」 欠伸をしながら賛同した。
「では、お願いします」 「こっちです。 付いてきてください」
ヴィンスが二人の先頭に立ち、背を向ける。
そして、小さく小さく呟いた。


「キクリ、他を追跡しろ」


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