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心壊アラカルト 完結
日時: 2010/10/09 09:42
名前: アキラ (ID: STEmBwbT)

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なんだかんだ、未熟者ですね。

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Re: 心壊アラカルト ( No.63 )
日時: 2010/09/30 21:57
名前: アキラ (ID: STEmBwbT)

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「心配しなくても、もう大丈夫だよ」
「うん。 でも、やっぱり心配だから」
「心配って気持ち、せなが独占しちゃってるね」
「だね」

頭に包帯を巻いたせなは、足軽に石段をかろやかに下りて行く。
僕は彼女の荷物を手に、はしゃぐその小さな背中を見つめる。

「むふふー」
「……え?」

いきなり、せなが僕の胸元に顔を寄せてきた。
驚いた。

「な、なに」 「やっぱ、ユエっていい匂いするー」

小動物のように鼻を摺り寄せてくる。 それにしても、匂い。 昔から言われてきた。 ミエに、いい匂いがするって。

「夕飯の匂いみたいに言わないの」
「でもでも、すっごくいい匂い」
「……あ、そう」

当然のように吸い寄せられる頬を、そっとあいている方の手で押し返す。

「なに」 「いや、僕ら付き合ってないし」 「ユエがもっとせなの事好きになればいいんだよ」

無理な提案すんなよ。

「それは少し無理かな」
「どうして? 他に好きな子はいないんでしょ?」

鋭い眼光が、貫く。
でも、もうダメ。 そんな脅しには、のらないから。

「いないけど、それがせなを好きになる理由にはならないよ」

3年前、キミとはちゃんと、別れを告げたはずなのに。
どうして、またキミを捜してしまったんだろう。
せながゆっくりと僕の頬を平手で叩いてきた。

「……痛いよ」 

嘘。 痛くない。
せなは目を真っ赤にして、泣いているふうに見えたけど、すぐにへらっと笑った。

「どうせ嫌いになるならさ。 もっと嫌いになって。 せなを一番嫌いになってよ。 そしたら、その嫌いって心も、みーんなせなの物になるから」

歪曲して屈折して捻じれて。 
彼女は何を欲しているんだろう。 そんなことも分からないまま。

「好きになれないけど、大切な人だよ」

僕はどういう顔で、キミにこんな嘘を言ったんだろう。





両親が離婚して、僕は父親に引き取られたけど、呆気なく事故死。
従弟である弘夢が僕の保護者となって、1年ほどだった気がする。
中学2年の、夏休み。

母さんとミエが会いにやってきたのを、鮮明に思い出せる。
3年前にもなるのに。
ミエとは一つしか違わなくて、髪は金色だし煙草は吸うしで、ハッキリ言って道徳からは脱線した奴だった。

キレやすくて、暴力的で、そのくせ虫が嫌いだという、変わった性格。
顔は父親似だった。 これも覚えてる。

そして、3年前に墓地で変死体となって、猟奇殺人事件の被害者としてテレビで放映された。
原型を留めていないほどのグチャグチャの死体の改造ぶりに、母さんはおろか、誰もその顔を拝見できなかった。

僕を覗いては。

見るなと弘夢には言われてたけど、僕は飄然と、変わり果てたミエの顔を見た。
損傷というより、破壊と言った方が望ましい顔面。

「あー顔面よりは、肉と言った方がいいな」

間近でそれを見て、胃液が込み上げてきたけどゴクリと呑みこんだ。
その味すら、覚えてる。
忘れられないのだ。

僕は未だ、3年前の空間にポツリと取り残されている。


「ユエ」


突然、肩を大きく揺すられて目を明けた。
ボサボサ頭が目に入り、弘夢だと分かる。

「、 、 、 、 、 、」

声を出したつもりが、息しかでてこない。
頭が、痛い。 熱い。

「オレを見ろ」 

焦点を合わせる。 どこに、誰に、そこに?
弘夢に合わせて、て、て、。 
あー、ダメだ。
消去されていく。 間に合わない。

「っ、あぎぎぎぎぎぃ?」

ようやく出された声も、音のようにか思えない。
あれ?
ニンゲンだよな、僕。

「ユエ!」 「っ」

信号が、黄色の点滅から青に変わった。 
流れる人ごみのように、意識がハイスピードで移動する。 

ここは、僕の家だ。

せなを送って、帰って来たんだ。
ちなみに、あの忌々しい殺人鬼の兄弟と会ったのは、昨日。 土曜日。

うん、ちゃんと覚えてる。

「汗、すげーぞ」
「大丈夫だから……、ちょっと吐いてくる」
「大丈夫なわけねーだろ。 便所行って待ってろ。 タオル持ってくる」

重い足を引きずって、水洗トイレで大量に胃の中身を吐き出した。
苦い、臭いソレが全て流れたのを見て、部屋に戻る。

「………よかった」

吐くということは、まだ人間らしさが残ってるな。

Re: 心壊アラカルト ( No.64 )
日時: 2010/10/01 16:53
名前: 水妖 (ID: 8hgpVngW)
参照: 闇ヲ知ラナイ人間ガ居ルカラ、闇ハモット、広ガルンダ。

そう言えば、ミエと母ってどういうご関係・・・?
本編で言ってましたっけ?

Re: 心壊アラカルト ( No.65 )
日時: 2010/10/02 07:58
名前: アキラ (ID: STEmBwbT)

母って、あやかのことですか?
普通に親子です(*^^)v

ミエとユエは兄弟で、れっきとしたあやかの子です。
離婚時に、ミエだけがあやかに引き取られました。

こういう設定です。

Re: 心壊アラカルト ( No.66 )
日時: 2010/10/02 09:46
名前: 水妖 (ID: 8hgpVngW)
参照: 闇ヲ知ラナイ人間ガ居ルカラ、闇ハモット、広ガルンダ。

へぇへぇ←
有難う御座いました!!

メモメモ・・・←

Re: 心壊アラカルト ( No.67 )
日時: 2010/10/04 17:42
名前: アキラ (ID: STEmBwbT)

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週の最初、月曜日。 その放課後に、

「                」

窓ガラスが思い切り割れた。
教室にに椅子が吹っ飛んできて、それが放課後で生徒の大半が教室に残っていなかったから、怪我人はいなかった。

怒鳴る、というより叫んでいる学年主任の女教師。
椅子を投げたのは、先日何者かに突き飛ばされ、頭部に怪我を負った琴羽せな。

そんな華奢な体のどこに椅子を投げ飛ばす力があったのか知らないが。
せなは自分を見ている生徒たちを睨みつけ、もう一度、教室の椅子の脚を持とうとした。

「はい、ストップ」

その手の上に手を重ね、人工的に感情のスイッチをオンにする。
せなが、僕を見た。

「なに?」 「なにじゃない。 帰るよ」 「殺してないし」

チラと廊下を見ると、腰を抜かしてるハゲた理科教師が口をパクパクさせている。 魚みたい。

「殺しちゃダメだろ」
「なんで。 こいつら邪魔だよ」
「とにかく、これ以上騒ぎになったら停学になる。 僕に会えなくなるよ」

自分で言ってて恥ずかしかったけど、せなは小さく 「わかった」 と言って、椅子の脚から手を離す。
膝下丈のスカートを翻し、教師たちを一瞥して、

「て、て、停学だぞ! 琴羽」

そういう彼らの声を無視して。
思い切り引いているクラスメイトからの視線さえ、どうでもいいと言う風に。
山城と目が合って、何か言おうと思ったけど、せなの歩行ペースが速いから、叶わなかった。


「なんであんな怒ってたの」

校門を出て、口を開く。

「あいつら、せなの腕掴んで連れて行こうとしたんだよ。 汚い、バカみたい。 大嫌い」
「なんでそんな嫌うわけ? あの人ら何かした?」
「そんなんじゃなくて、ユエが好きすぎて、他の人間が汚く見えるだけだよ」

僕、そんなキレイな顔してないと思うんだけど。

「ユエ、きゃーいーよっ」
「……どうも」

いやいや僕男なんですけど。
薄暗い、曇り空の下、せなはペケーッとした明るい笑顔で、

「せな、ユエを愛しすぎて、他の人いらないよ」
「いらないなら、殺しちゃう?」
「かもね」

あっさりと、僕以外の人間排除計画を予測するせな。

「てか、絶対そうだよ。 ユエしかいらないよ」

あらら、確定になっちゃった。
やったー僕は安全地帯だぁ。

「僕はせなが嫌いなんだよ」 大切だけど。
「……それでも、せなはユエ好きだよ」 知ってるけど。

好きだと、何回言われたことだろう。
中学時代から、それは変わらない。 いつもいつも、この子は僕の体を傷つけては、楽しそうに。

──ユエのこの傷、せながつけたんだよね。

そんなに僕が恋しいなら、殺してくれてもよかったのに。


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