ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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OBR
日時: 2010/11/20 05:39
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

これから小説を書きます。

グロありですので注意してください。

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Re: OBR ( No.24 )
日時: 2010/11/20 14:03
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

──なに!? なんなの!? 明石さんの意図が全く読めない!



雨宮小夜(女子17番)は息を切らし、走りつづけながら明石貞子(女子4番)に突然向けられた鉄の塊を思い出した。

──なんなの?
なんで明石さんはあたしのことを邪魔したの? 全くもって意味不明だ。あたしは政府の連中を呪殺できるのに、皆を救えることができるのに、どうしてそんなあたしの行動を邪魔するの? どういうつもり?

わからない。
あたしには奥村さんが全然わからない。奥村さんのことを救うことだってできたのに、どうしてそれを邪魔するの?
ああ、もう。ほんとに意味不明。ああ、むかつく。

まずは明石貞子を呪殺しなきゃいけなくなったじゃないの。
面倒なことになったきたなぁ……。全く、どれもこれも全部アイツの所為だ。あの女さえいなければ、もっと簡単に政府を呪殺できたに違いないのに。

むかつくったらむかつく!
呪殺してやる! アイツを成仏させてやる! 思い知るがいい! あたしの邪魔をした罰だ!


もう雨宮の頭の中には微塵もないのだろう。その「幽霊ババア」・明石貞子が丑の刻参りセットを自分に譲ってくれたことも、そのとき明石に思いっきり感謝した自分の姿も。

都合の良い思考回路を持ち、嫉妬深く、狙った獲物は逃がさない。
それが雨宮小夜という少女の全貌だった。接着剤みたいに粘着力の強い人間である。


とりあえずこのスプラッタマウンテンから脱出するために、緑のランプが輝く「非常口」サインの下にある扉を雨宮は押し開いた。
風がぶわっとウエーブがかった髪を靡かせる。

──よし、外に出たみたいね。とりあえずアイツから逃げないと。見てなさい、絶対呪殺してあげるから。


他人から見れば果てしなく意味のない「決意」を胸に押しこむと、雨宮はグロッキーカントリーにある湖に沿うようにして移動を開始した。
なにしろディズミーランドは道幅が広い。だから移動するときは端を通らなければかなり危険なのだ。そんなことは雨宮でもわかる。


湖に沿うように歩き始めたそのとき、雨宮は5メートルほど向こうに誰かが動く気配を感じ取った。自分と同じように湖に沿って移動している。柵に手を添えながら慎重に歩を進めているようだ。

──誰? ここは暗くてよくわかんない……。
二人、かな? 体格的にいっても女子かな……。二人ってことは明石さんじゃなさそうね。

どうしよう。話しかけようかな。
政府を呪殺するためにはたくさんの呪いがあったほうが好都合だし……。あ、でもその前に明石さんを呪殺しなきゃいけないんだった。
でも明石さんは嫌われてるから皆協力してくれるよね。うん、そうよ。そうに決まってる。話しかけようっと。


「ねえ! 誰?」


雨宮は脳内で「好都合的展開」を創造していたが、もちろん野村はそんなことには気づかずに前をゆく影に喋りかけた。ビクン、と二人の影の肩が跳ねあがる。肩が細い。やはり女子のようだ。

「だ、誰かいるの?」
「ああ、心配しないで。あたしはその、あれよ、こんなゲームに参加する気はないから。それに、皆を救えるかもしれないんだから。あたし、雨宮小夜」
「雨宮さん?」

その女子の声はまだどこか疑っているような雰囲気を帯びていた。
それはそうだ。雨宮はこのクラスではあまりよく思われていない存在なのだから。しかし、それは雨宮も自覚している。

「ああ、あたしのこと、信じてくれないかな。そりゃそうだよね。嫉妬深くて卑怯な女だもん。自分のことは自分が一番よくわかってるし……」

──なによ。なんで人を信用しようとする心がこいつらにはないのよ。
こいつらも呪殺してやろうかしら。ああ、ダメ。だめよ、小夜。怒りっぽいのを直さなきゃ。


心でそんなことを思いながら、雨宮はその2つの影に近づいた。
細くてスリムな体型の二人の女子生徒の姿が、雨宮の瞳に映る。

足立真由美(女子10番)と穴山奈美恵(女子12番)だ。
阿久津舞(女子5番)を中心としたアイドルグループのメンバー二人だ。
二人とも綺麗で歌が巧く、クラスの人気者。まさに雨宮とは対照的な存在である。

グループの中でも強気で勝気だった足立の表情は、今も特に怯えている様子はない。瞳は澄んでおり、どこか凛としている。
しかし、グループの中でもどこか下手で恐がりだった穴山の表情は、雨宮の姿を見て怯えきっている。足立の肩に両手を置き、疑いと恐怖に満ちた視線を雨宮に向けている。

その視線が雨宮はたまらなくむかついた。

──なによなによなによ!
皆皆あたしのことを信用しないで! 明石といい、ほんとこのクラスはクソばっかだ!
せっかくあたしが政府を呪殺してみんなを助けてあげるっていってんのに、誰もそれを理解してくれやしない!

もういい!
穴山と足立の二人も呪い殺してやる! あんたらみたいにすぐ人を疑うやつなんて、生きる価値なし! 信じるってことがどんなに大切かあんたらは何も知らない! あたしはあなた達を信じて話しかけたっていうのに!



ちなみに、雨宮は気づいていない。
丑の刻参りセットをスプラッタマウンテン内に放りっぱなしであることを。
もはや「妄想による呪殺」さえできない状態であるということを。

雨宮が穴山らに捨てゼリフを吐いてさっさとここを立ち去ろうと思ったその時だった。
雨宮の目の端がなにか「邪悪」なものを捉え、それを脳が認識する前に脊髄が反応して、即座に「それ」へと瞳を向けていた。そしてそれは足立と穴山も同じことだった。

「な、なにあれぇ!」

反射的に穴山がそう叫んだのも無理はない。そのとき雨宮も心の中でそう叫んでいたのだから。
そこにいるのは、多分安西亜夜(女子21番)なのだろう。多分。多分だ。雨宮にも確証はなかった。

スプラッタマウンテンの入り口から現れた安西亜夜。
見る度に人に甚大な恐怖を与えるその異常な格好。
あまりにも楽しそうな笑顔。
左手に収めてある探知機。
右手に収めてあるFNハイパワー。

──安西さん──だよね?
ああ、だめよ。そんなことはどうでもいいの。とにかくこの子から逃げないと。
殺される。ううん、殺されるなんてもんじゃない。世界史上最悪のことをやられる気がする。うう、なんなの、この気持ちは!

逃げないと。
でも体が動かない。
なによ、なんなの!


周囲の仄かなイルミネーションに照らされ、きらきらと煌びやかに点滅する安西亜夜。
もはやその姿は不気味以外のなにものでもなく、そこにいた3人を畏怖させた。

Re: OBR ( No.25 )
日時: 2010/11/20 14:10
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

「奈美恵ちゃん! 逃げよう!」

足立が逃げようと穴山の手首を掴むが、ビクともしない。穴山も雨宮と同じく、その場に凍り付いてしまったのだ。安西亜夜という究極のフリーザーによって。
まだ動けるだけの余裕がある足立の精神力はやはり強いと言えよう。強いと言っても、既にその表情は凍り付かされていたが。

「奈美恵ちゃん!」

凍り付いた腕を、もう一度強く足立が引っ張る。しかしビクともしないようだ。

「奈美恵ちゃんったら!」

段々と足立の声音も切羽詰ってくる。足立も早くこの場から逃げ出したくて逃げ出したくてたまらないのだろう。一時もこんなところにはいたくないのだ。


「奈美恵ちゃん! 早く!」
「…マ、マユちゃん……ダメ……ダメだよ…このまま…にげちゃ……」
「奈美恵ちゃん!?」
「あ……あれ……あれ……け、消さないと……だめだよ……あれ、逃げられないもん……あれ……は……消さないと……」

次の瞬間には穴山は足立の手を振り解き、安西に向って走り出していた。

「うあああああ!」

目の前にある恐怖をかき消すように、穴山は喉を震わせ、声という声を張り上げた。
穴山の長髪が風の中で踊る、踊る。ただ目の前の「恐怖」に向って突進する。恐怖をかき消すために突進する。

次の瞬間、穴山の長髪が大きなステップを踏むように先ほどまでとは違う踊りを踊った。
頭から何かが飛び散り、ガクンと体が崩れる。その体の崩壊に合わせるように長髪が乱れた踊りを開始する。まあ、その踊りもすぐに終わったのだが。

司令塔を失った穴山奈美恵の体はそのままうつ伏せに崩れ、もうピクリとも動かなかった。
ただ大量の血がその頭から流れ出るだけだった。


それを見届ける足立の表情は、誰かが引っ張ったかのように引きつっていた。
もはや声も出ない状態だろう。足立は、顔を引きつらせたまま一目散に逃げ出した。雨宮はその姿を見送ることなく、ただその場で凍り付いていた。

「どう? 小夜ちゃん。あたし、銃の腕すごくない? 初プレイなのに」

安西亜夜(女子21番)が信じられないほどの「恐怖」を纏いながら雨宮小夜(女子17番)に歩み寄る。当然こちらに向けられているものは、その残酷すぎる笑みと、拳銃。


もはや雨宮の体は完璧に凍結していた。体だけではなく、当然頭も既に氷点下レベルだ。
なにも考えられない、なにもできない。そしてそれはもうすぐ「死」がくることを意味していた。


ゴリッ


その場に立ち尽くしている雨宮の額に、安西は銃口を押しつけた。微妙な熱が雨宮の額に伝わるが、そんな熱では凍り付いた雨宮を溶かせるわけはない。

「たっ……たっ、助けて……?」

やっと唇から出たその哀願の言葉も、すぐに安西の愉快な声にかき消された。

「やーだよ♪」


そして乾いた銃声がグロッキーカントリーに木霊し、返り血が安西亜夜の体に新たな血の化粧を施した。今度は脳みそ付き。


安西亜夜は息でフッと硝煙を吹き消すと、無残な雨宮小夜を一瞥することもなく踵を返した。


「Gaisu L-aadi Gara Yabgi Masrai Bil-haqqi Saufa Fa-saufa Afnihi Mai...」


不思議な歌を口ずさみながら。


女子12番 穴山奈美恵 死亡
女子17番 雨宮小夜  死亡


残り38人


Re: OBR ( No.26 )
日時: 2010/11/21 06:17
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

−AM3:50 ファンタジーワールド −


あれはなんだったんだろう。

今思えば、あれは人間じゃなかったのかもしれない。

人間じゃないのならば、あれは一体なんだったんだ?
俺は無神論者だから悪魔とか信じていない。だからこそ説明がつかないのだろうか?安西亜夜(女子21番)について……



「タカくん?」

その森本零生(男子23番)の声で、元木隆弘(男子22番)はハッと夢から醒めるような感覚を覚えた。
視界がパーッと明瞭なものになっていき、脳みその汚れもスーっととれてゆく。どうやら自分は相当考え事をしていたらしい。

「ああ、すまん。なんでもない」

──そうだ、余計なことは考えちゃだめだ。
安西はハカセを殺した。だがそれはもう過ぎ去ったことだ。いつまでも気にしてちゃだめだ。
いや、違う。俺は安西のことを気にしているのか? あの……とてもじゃないがうまく恐怖を表現できない安西亜夜のことを……?

いや、どっちにしたって同じじゃないか。
過ぎ去ったことを気にするな。あの戦いは過ぎ去ったけど、プログラムはまだ全然過ぎ去ってなんかいやしない。今も進行中だ。
銃は俺が持ってるんだ。安西のようにやる気のヤツは大勢いるんだ。俺が守らなければならない。俺とレイの命を。


元木は森本とともにファンタジーワールドを慎重に進んでいた。
一歩一歩踏みしめるたびに、吹雪のような寒気と緊張が二人を襲う。そしてそれは足を進ませるにつれてどんどんと上昇していく。

元木は右手でルガーP09を構えつつ、左手は首にかけている懐中時計を握り締めた。姉の形見だ。


──姉ちゃん、やっぱり俺、姉ちゃんみたいになれないみたいだ。
姉ちゃんみたいに、やる気になっているヤツにまで声をかけることなんてできないよ。結局俺は自分の命が一番大切のようだ。俺に覆いかぶさっている偽者の俺が、そう主張している。


そうだ。石黒煉(男子4番)もやる気なんだよ。姉ちゃん煉のこと知ってるだろ?
あいつもやる気なんだよ。矢田陽介(男子24番)も汚い思想もってるんだよ。

こいつらは俺の数少ない友達だ……姉ちゃん、俺、せめてこいつらだけでも説得しなきゃ駄目だよな?
親友として、絶対に救うべきだよな? そう、俺はそう思う。でも、俺を装っているクールな俺がそれを拒んでる。


なぜだ……?
なぜ俺はあのとき煉に声をかけられなかった……?
怖かったわけじゃない……。そう、説得しても無意味だって、「俺」が悟っていたからだ。
俺は最悪な野郎だ。親友なのに説得すらしてないんだ。する前から無理だって決め付けてやがる。


俺は世界一俺が大嫌いだ。
クールで冷たい自分が自分に染みついて離れようとしない。ただ装っているだけなのに。それなのにそれがすっかり染みついている自分を殺したくてたまらない。


姉ちゃん、俺……どうすればいい……?

Re: OBR ( No.27 )
日時: 2010/11/21 06:17
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

「タカくん? 聞いてる?」
「え? あ、ああ、スマン」

どうやら自分はまた考え事に沈んでいたらしい。
——くそっ、過去のことをどうこういってどうなるっていうんだ。

「煉くんと矢田くんを見つけるんでしょ?」
「おう、もちろん。あいつらを見つけて、絶対、話を……」

──ほらな、また「俺」が勝手に口走ってる。
そう、それが本心のはずなんだ。なのに、何故心のどこかで俺はすべてを否定しているのだろう。
どこまでが俺で、どこまでが偽者なのか。

吐き気がする。
何故こんなめに合わなければならない?
なぜこんな極限状態に放りこまれてまで偽りの自分と戦わなければならない?

俺は……いつから俺じゃなくなったんだろう……?




ふと、元木の視界は一段と不気味な建物を捉えた。
ホーンテッド・マンホールという不気味なアトラクションだ。
その建物がこの状況と重なって不気味に見えたからだろうか、とにかく元木はこのアトラクションが気になった。

「レイ、あのアトラクション、なんていうんだ?」
「ん? ああ、ホーンテッド・マンホールだよ。人気アトラクションだよ。行った事ない?」
「ディズミーランドは小さい頃いったっきりなんだよ。うちは両親とも多忙だったからね」

──それに俺が中1のときに、姉ちゃん死んじゃったから。
あの日から母さんも父さんも抜け殻みたいになっちゃって……どうしてんのかな、今ごろ。

「じゃあそのホーンテッドなんとかってとこに入ろう。なんか胸騒ぎみたいなものがしたから、誰かいるかもしれない」
「胸騒ぎ? なんかドラマみたいだね!」

森本は目を輝かせてはしゃいだが、いやはやそれどころではない。
元木は心の底では、ホーンテッド・マンホールに誰もいないことを祈っていた。口先では石黒を救うとか言ってるが、それも虚言。結局はいざとなったらなにもできないのだ。

それでも元木はクールな自分を装うために石黒と矢田を見つけなければならない。
もはや元木の中には何本もの細い糸が複雑に複雑に絡み合っている状態だった。どれが正しい自分なのかもわからない。



二人はますます慎重の糸を張り巡らさせながら、ホーンテッド・マンホールへの侵入を開始した。

必ず誰かがいる。少なくとも元木はもう思っていた。いや、感じていた。

ホーンテッド・マンホール内は暗く、奥に進むと外からのイルミネーションの光も届かないほどの暗闇になってしまった。
ここまでの暗闇は見たことがないというほど暗い館内。ぼうっと仄かに見える墓石がまた不気味さを2倍にも3倍にも引きたてている。
床はコンクリートでできているため、否が応でも響く靴音がここに元木達がいることを示していた。

──まずい……こんなに足音が響くんじゃあ、こっちが相手の存在に気づく前に殺されたりして。こっちに潜んでるヤツは当然俺達より夜目が利いてるだろうし。

やる気のヤツが潜むにはもってこいの場所だしな。外観が不気味だからまず近づく人は少ないだろうし、もし誰かが入っても足音で気づく。そしてそこに向って銃かなんかを連射すればいい。

まずい。こりゃまずいな。
いくら煉と矢田を説得したくても、声をかける前に殺されちゃ適わない。
ここは出よう。なにもここに煉達がいるって決まったわけじゃない。危険だ。ここは出よう──


「誰だ!?」


逃げよう、と森本に耳打ちしようとしたまさにそのときだった。
──最悪だ。なんでこうタイミング悪いんだよ。
いや、でも待てよ。声をかけるってことは、やる気じゃないのか?

「待ってくれ。俺達はその、このゲームに参加する気はない」
「その声……元木? 他にも誰かいんのか?」
「ああ、僕だよ僕。森本」
「レイか。なあ、どうする?」
「いいんじゃないか、こいつらなら一緒にいても」
「まあ元木達が俺達と一緒にいたがるかどうかわかんないけどな。俺達は動くつもりもないし。元木! レイ! まあとりあえずこいよ!」

既に元木も森本もその声の主が誰かを理解していた。そして気配から他にも数人が周りにいることを感じ取っていた。(実際喋っていたし)

元木は森本と顔を見合わせたあと、声がするほうへと歩み寄った。
意外と近くにその声の主達はいた。大きめの墓石によりかかっている3人の姿は、近づくとさすがに目でもそれが誰かを確認することができた。



そこに座っていたのは落合章二(男子8番)と鬼塚清吉(男子9番)。
そして血まみれでいくらかぐったりしている津川楓(男子17番)だった。

Re: OBR ( No.28 )
日時: 2010/11/21 06:25
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

ファンタジーワールドのホーンテッド・マンホールにて元木隆弘(男子22番)、森本零生(男子23番)と落合章二(男子8番)、鬼塚清吉(男子9番)、津川楓(男子17番)の2つのグループは合流した。


まず元木と森本は津川の姿を見てそりゃあもう絶句したが、とりあえず落合が「まずお前達の経緯を教えてくれ」と言ったので元木はそれに従った。

矢田陽介(男子24番)のこと。
それから森本と合流したこと。
石黒煉(男子4番)と高梨信雄(男子15番)の襲撃をうけたこと。
更に突然現れた安西亜夜(女子21番)に白沢博士(男子14番)が殺されたこと。(そのあと高梨も殺されたのだが、元木達はそれを知らない)


元木は安西について多くは語らなかった。いや、語れなかった。
すべてが未知数である安西亜夜については、ただ「やる気だ」としか言えなかった。

「安西と戦ったのか? どうだった?」

安西亜夜という名前がでた途端、ぐったりと目を半開きにさせていた津川が突然目の色を変えてそう尋ねた。

「どうだったって……」

当然その問いに元木は困惑した。
このプログラムという無慈悲なゲームの真っ只中で、クラスメイトの力量を「どうだった?」と目を輝かせながら問うヤツがどこにいるというのだ。いや、実際にここにいるのだが。

そもそも元木も森本も津川楓については何も知らないに等しい。というか、誰も知らないだろう、彼については。普段から結構話していることが多かった徳永光明(男子18番)あたりなら少しは性格を知っているかもしれないが。

いや、津川のことを知ってる知らない云々の前に、目の前の津川は血まみれになって大怪我している状態だ。その状態で平気に喋る津川の存在は、まさに人間味を帯びていなかった。

「安西亜夜……? あいつ、やばいのか?」

信じられない、と言った面持ちで落合が呟いた。その特徴的な無造作に伸ばした長髪はこの暗闇の中でも伺えるほどボサボサだ。

「でもハカセを殺したのはほんとだよ! 僕も信じられないけど……まさかあのあよよが……」

森本の言う「あよよ」という固有名詞。このニックネームはもちろん安西亜夜のものだ。しかし、元木があのとき見た安西は「あよよ」なんていうかわいらしい単語は決して付け加えられないほどおぞましかった。

いや、逆に「あよよ」という単語が合ってしまいそうな——奇妙な可愛さを携えたままの——狂気——……そんな感じだった、と元木は記憶していた。もちろん頭に留めておくだけで、それを口に出すつもりはないが。

「なあ鬼塚、それよりお前等の経緯を教えてくれよ。一体津川はどうしてこんな、血まみれに? てか、やばいだろ、これ」
「いや、まあ色々あってさ……。とりあえず俺達はだな」

ツンツンに立った髪をボリボリと掻きながら、鬼塚はその唇を動かせ始めた。


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