ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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OBR
日時: 2010/11/20 05:39
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

これから小説を書きます。

グロありですので注意してください。

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Re: OBR ( No.9 )
日時: 2010/11/20 12:30
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

相川勝美(女子1番)はずっと震えていた。
秋山悠斗(男子1番)に襲われ(相川はそう勘違いしている)、そのままシンデレロ城の裏に隠れてから何分たっただろう。

相川は政府支給のデイパックから安物の懐中時計を取り出し、時刻を確かめた。
午後9時40分過ぎ。もう一時間以上ここにいるのだ。


相川は裏に身を潜めたまま、ずっと生徒名簿を睨んでいた。
そして生徒が一人、また一人とディズミーランドへと消えていくのを生徒名簿にチェックしていた。

彼女にはわかっていた。城から現れた生徒が、どこに向かうか。
すべて相川の支給武器である探知機が教えてくれた。

相川は2分ほど前にチェックした波間黒男(男子21番)の名前に視線を落とし、ホッとしたように笑みを浮かべた。

──よかった。周りには誰もいない。次はやっと亜夜の番だ。
怖くて怖くてたまらないけど……亜夜がいれば……大丈夫。亜夜は、とっても優しくていい子で強い子だもん。

貧乏な私を、いつも助けてくれた。亜夜がいれば──亜夜さえいれば──私は落ちつけるはず。

誰も信用できないけど、亜夜だけは信用できる。
あの秋山君も……やる気なんだ……秋山君のこと、好きだったのに。

どうして皆……どうして皆……変わっちゃうの?
綾野君も青村さんを殺そうとしていた。ここからじゃ見えなかったけど、落合君達もなんかもめていた。

どうして……?
どうして皆変わっちゃうの? 皆、貧乏で汚い私にも普通に付き合ってくれたいいクラスだったのに、どうして? 皆のこと、ほんとに大好きだったのに。


もう亜夜しか信用できない……小学校からの友達の、亜夜しか。



安西亜夜(女子21番)は、皆から「あよよ」と呼ばれていた。大抵の人は彼女をそのような愛称で呼び、それ以外の人は大体「安西」か「安西さん」だった。

しかし、相川だけは「亜夜」だった。
特に理由はなかったが、相川は昔から「亜夜」と呼んでいたので、それがすっかり定着してしまっているのだ。
なんだか相川は、それが自分と安西の「親友関係」を証明しているような気がして、嬉しかった。


と、そのとき。
彼女のもつ小型ゲーム機のような探知機が、小さく「プンッ」という電子音をあげた。

青色のドットは、自分。そして赤色のドットは自分以外の誰かだ。
シンデレロ城入り口の方向に、赤いドットが一つ。
──間違いない、亜夜だ。亜夜が出発したんだ。大丈夫、周りには誰もいない。

再三探知機を確認すると、相川は腰を持ち上げた。大して重くないはずなのに、グイッとデイパックが肩に食い込む。
この重さはこころの重さだろうか──


「亜夜!」


すぐに相川は安西亜夜(女子21番)の姿を発見した。
茶色に少し染めた髪が、さらっと肩にかかっている。その肩には政府支給のデイパックがかけられていた。
そして右手にはなにか、黒いモノが握られていた。拳銃ではないようだ。

「勝美?」

安西が素っ頓狂な声をあげた。相川が今の今まで待っていてくれたことに、やはり驚きを隠せないようだ。

「亜夜ー! 怖かったよー!」

親友の安西の姿を見て一気に緊張の糸が解けたのか、そのまま相川は安西に勢いよく抱きついた。
まだスイッチをいれたままの探知機がプオンプオンと警告音を発していた。

もちろん、安西がそれに気づかないわけがない。

「勝美、大丈夫だよ。なーんにも怖いことなんかない。ところで、この音、なに?」
「あ……」

相川はすぐに気づき、安西から体を離して探知機の電源をオフにした。警告音が静寂に吸い込まれるように止まった。

「ごめんね、私、怖くって……」

相川はセーラーの袖であふれ出る涙を拭いながら言った。
安西はそんな相川をニコニコと見つめながら、

「怖くなんかないよ。大丈夫。ねえ、それ何?」
「あ、これ? 探知機みたいなヤツだよ。これがある限り、私達大丈夫だよ」
「そうだね! でも、大丈夫なのは私だけで十分!」
「え?」

咄嗟には安西の言葉の意味が理解できなかった。そしてその言葉と同時に行った安西の行動も。
安西は右手に握っていた黒いリモコンのようなものを相川に向け、ポチっとスイッチを押したのだ。

Re: OBR ( No.10 )
日時: 2010/11/20 12:33
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

ピッピッピッピッ



突然、相川の首輪に付属している赤い小さな画面が点滅を始めた。ピッピッピという小さな電子音をあげながら。

「え? え?」

困惑する相川。なにが起こっているかわからない。安西がなにをしたのかわからない。
何故自分の首輪が音を出しているのかわからない。

これから何がおこるのかもわからない。

「勝美……あたしの武器、これなんだ」
「え? え?」

ピッピッピッピッ

「説明書にはガダルカナルワンタッチ起爆装置DK05って書いてあった。つまりねぇ、首輪を爆破しちゃうリモコンってこと」

ピッピッピッピッ

「え? く、首輪って? な、なに?そんな、そんな。ば、爆発す、る? え? なんで? ねえ?」
「ごめんねぇ。あよよは今日から大量殺人鬼になるの。前から憧れてたんだぁ。ほら、テレビでプログラムの報道やっててさ、いっつも優勝者の映像流すじゃん? 昔、優勝者ですっごくカッコイイ女の子がいてね、『あたしは41人全員殺したの。どう? すごいでしょ?』って言ってたの。あたし……それに憧れちゃってね」

ピピピピピピピ

「やだよ、やだよ、え、やだ……やだ、やだぁぁぁぁ!」

早まる電子音。
その電子音に合わせるように、相川のパニックも絶頂へと昇っていく。
全身が内出血を起こしそうなほどの、凄まじいパニックに相川は陥っていた。

首輪を無理矢理はずそうと掴み、その場にしりもちをついてもがき苦しんでいる。
震えて震えてもはや立つこともままならない。ただ、パニックするしか。

「歌手とか……グラビアとか……そんなのより、殺人鬼のほうがよっぽどカッコイイアイドルじゃない? 特にあたしみたいに可愛くてお茶目な殺人鬼っていいと思わない? どこぞの変態が『あよよ萌え〜』とか言いそうじゃない? えーと、なんだっけ? 3ちゃんねらー? けはははは」

相川を見下ろす安西の顔は、信じられないほど冷たく微笑んでいた。
目を細め、口元はニヤリと釣りあがっている。そう、徳永光明(男子18番)が出発するときに見た笑みだ。

「わぁぁぁ! 首輪、首輪、とれないよぉぉぉ!」

ピピピピピピピ

──死にたくない! 死にたくないよ!
どうして亜夜ちゃんが!? どうしていつも優しく接してくれた亜夜ちゃんが!?

死にたくないよ! 怖いよ! 怖いよ! 首輪が、首輪が、首輪が、首輪が!



「どどどーん!」



ピ————







ドンッ







小さな爆発音とともに、相川勝美の体が大きく揺れた。
更にそれと同時に、松浦にとっては世にも美しく映える、真っ赤な真っ赤な花火が上がった。

「たーまやー!」

安西はそれを愉快そうに眺める。血という名前の火花が消えずに自分の体のいたるところにかかっても、気にせずに。


安西は感動の余韻を数秒かみ締めると、首から上がぐちゃぐちゃになっている安部から探知機を拾い上げた。

そして何を思ったか、自分のセーラーの両袖を、肩から切り裂いたのだ。
つまり、安西は両腕を肩から指の先まで曝け出したような格好になったのだ。

腰を折り、相川の首から放たれた鮮血を人差し指でベチャッと触れる。
そしてそのまま松浦はその血で自分の両腕に不気味な化粧を描き始めた。

左肩のところに様々な文字。その下にひし形を4つ。その内側にまた文字。さらに下にも文字。その下は水疱瘡のような丸を点々と描いた。

右腕に意味不明な文字が描かれ、あとの模様は左腕のものと大差はなかった。
さらに松浦は自分の両足にも両腕と同じような化粧を施した。


30秒後には、そこに安西亜夜はいなかった。
代わりにいたのは──顔以外に「血の装飾」を施した殺人鬼だった。

──あはははは。あたしのカワイイ顔に血の化粧するのはちょっと気が引けるから、代わりに腕と脚にしてあげたよ。
これであたしを見る誰もがあたしを怖れるのね。畏怖するのね。このあよよに。

あ、そういえばもうすぐ元木隆弘(男子22番)君がでてくるころだっけ。
すぐにでも殺していんだけど……この首輪リモコン、有効範囲は1メートルほどなのよね。すっごく残酷でいい武器なのに。

元木君が銃とか持ってたら、逆に危険に陥るし……ココは一度さっさとディズミーランドに行ったほうがいいね。



それに……ココで待ち伏せしてさっさと殺しちゃあ、つまらないしね。楽勝で殺人を繰り返すアイドルなんて、なんか迫力足りないし?








女子1番 相川勝美 死亡


残り45人

Re: OBR ( No.11 )
日時: 2010/11/20 12:42
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

−PM10:33 アドレンジャーランド −


網本貴子(女子15番)はひたすら走っていた。
複数の銃口が自分に向けられている。また発砲だ。鋭い炸裂音。銃口から細く立つ硝煙。

しかし、弾は1つも彼女に当たらなかった。掠りもしなかった。向けられている銃口は何十とあるのに。
弾が当たらないのはあまりにも当たり前であったが、網本はそれを気にせずにはいられなかった。

──ああ、こんなところに迷い込んでしまったのが私の運の尽き──。


網本貴子はアドレンジャーランドの目玉アトラクション、セレブの海賊の中をひたすら走っていた。本来なら小船で大航海時代の風景を楽しむアトラクションなのだが、今は楽しんでいる暇などない。

やけに豪華なバンダナを頭に巻いた複数の海賊達が、網本に銃を向けている。そして何のためらいもなく撃つ。
もちろん弾が出るわけない。甲高い音をあげるだけの銃だ。しかし、状況が状況だ。網本は焦らずにはいられなかった。

──早く出たい。ここから。早く、早く──。


網本は自らの意志でセレブの海賊に入ったわけではなかった。
ここを通りすぎようとした瞬間に、後ろから阿久津舞(女子5番)が凄まじい勢いで自分に近づいてきていることに気づいたのだ。
その手には包丁らしきものが握られていた。咄嗟の判断だった。逃げるために、網本はとっさにセレブの海賊に入ってしまったのだ。


中は暗かった。すべての照明は落とされ、うっすらと海賊達の姿が確認できるくらいだった。

まだ阿久津は追ってきているはずだった。
一刻も早く阿久津を撒く必要があった。しかし、周囲の海賊達がそれを邪魔した。
なぜ照明は落とされているのに海賊達のロボットは動いているのだろうか? そんな疑問などどうでもよかった。


網本の両手には、支給武器であるH&K MP5Kサブマシンガンが収められていた。恐らく、このプログラム中でも最強クラスの武器だろう。

一応防衛の意味で網本はこのサブマシンガンを手にしていたが、使うつもりはさらさらなかった。
例え今のように誰かに襲われても、使う気はなかった。「防衛の意味」といってもその言葉には「脅しに使う」という意味合いしか含まれていなかった。

網本は知っていたからだ。
暴力をしない者は絶対に救われる、と。それはこのプログラムでも全く同じことだ、と。



今の網本は可もなく不可もなく、といった感じの普通の少女だが、昔はかなりガリガリの子だった。

小学3年生のころまで両親に邪魔者扱いされ、ちょっと間違ったことをするとすぐに殴られていた。そう、つまり虐待だ。
邪魔者扱いされ続け、「あんたは貴子じゃなくてバカ子だね」とまで母親に言われ、ついに小学3年生の冬に捨てられた。

しんしんと雪の降る夜だった。
珍しく母親が「ケーキ買ってくるから、ちょっと待っててね」と網本に言い残し、網本を広場に残したまま、母親は2度と帰ってこなかった。

まともな服を着ていなかったから、すぐに凍えた。
広場にある箱ブランコに、一人で座っていた。箱ブランコを漕いでくれる人は一人もいなかった。

そのまま網本は、箱ブランコで眠りについてしまった。夢の世界へと飛び立つ際、網本は思った。「ああ、あたし、死ぬんだ」と。


しかし、そのときだった。
閉じたはずの瞼がキラキラと黄金色に輝き始め、瞼の裏に6歳くらいの可愛い少女が現れたのだ。
その子は金髪で、綺麗なウェーブを作っていた。瞳は青で、どう見ても東亜人ではなかった。

網本は思った。この子は「天使」だ、と。
天使のシンボルと言われる頭の輪っかも翼もなかったが、なぜか彼女は「天使」だと思った。

天使と思われる子は、きらきらと黄金色の輝きを発しながらこう言った。

「暴力なき者は必ず救われます」

天使が発したのはその一言だけだった。
天使はそのまま溶ける様に、12月の寒空へと消えていってしまった。

夢だったのかもしれない、とは網本は決して思わなかった。
その直後、警察官が自分のことを発見してくれたから。そのあと母親に連絡し、色々あって叔母さんの家に引き取られることになったから。そして今そこでは凄く幸せだから。


──あの天使様が、私を助けてくれた。
あの天使様が、私を幸せに導いてくれた。
「暴力なきものは救われる」。その通りです、天使様。私は天使様のお言葉通り、今の今まで暴力を振るったことは一度とてありません。

軽くでも人は叩きません。
動物も殺しません。
虫も殺しません。蟻も殺しません。
殺虫剤も使いません。蚊も殺しません。体内にいる大腸菌も殺しません。

私は誰も傷つけません。
私はたくさん傷つけられたから、私は誰も傷つけません。暴力なき者は救われる──つまり暴力なき者しか救われないのですから。



絶対に誰も傷つけない。
それが網本貴子のポリシーであり生き甲斐であり約束だった。そのため、土井はクラスメイトからもとても好かれていた。
とても女の子らしいと、告白されたことも何度かあった。






突然、背中に走る激しい痛みと熱さ。
ズブズブとなにかを背中に刺し込まれていく感覚。

──やられた──

そのまま網本は成す術もなくうつ伏せに倒れた。網本を支えるものは当然なにもなく、強く鼻を打ち、ツーンとした痛みが脳内に広がった。

もっとも、その痛みよりも果物ナイフが突き刺さった背中のほうが断然痛むのだが。

「ひ、ひ、一人目ぇ! 見た!? 誰か見た!? これが本当のあたしなの! あたしはギャルなんかになりたかったんじゃないの! 見た!? あたしはもう同じ景色をぐるぐるぐるぐる回ってないでしょ!? ほ、ほほら!」

網本の背中からドクドクと溢れる血を見つめながら、阿久津舞は周囲にいる海賊に同意を求めていた。
相変わらず海賊達は、同じリズムで銃を鳴らしていた。まるで何かのバックミュージックのように。

「皆……死ねばいい……。あたしのことをコギャル扱いして……どうして誰も本当のあたしに気づいてくれなかったの……どうして誰もあたしの悩みに気づいてくれなかったの……真由美も、奈美恵も、どうしてなの……? 皆、死ねばいい。あたしのことなんかどうでもいいんでしょ……。コギャルのあたしなんか、邪魔なだけなんでしょ。いいよ、いいよ……あたしは変われるから……」

もう阿久津の呟きは誰にも聞こえていなかった。
阿久津は倒れている網本の近くにおちていたH&Kサブマシンガンを拾い上げると、まだブツブツと呟きながらその場を後にした。


パパパパンと、セレブの海賊達が銃を阿久津に向って連射しているように見えた。
もちろん、阿久津の体には一発も被弾しなかったわけだが。

Re: OBR ( No.12 )
日時: 2010/11/20 12:46
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

網本貴子(女子15番)はまだ生きていた。
もちろん、背中を刺されただけでそのまま昇天するような人間のほうが少ないだろう。
確かに致命傷ではあったが、まだ土井は息をしていた。その意識も朦朧としつつあったが。


─────痛い……背中が……痛い……。
もう駄目かな……私、海賊達に気をとられすぎて、すぐ後ろにまで加護さんがきてたことに気づかなかった。


ああ、あたし、死ぬんだ。


同じことを思った。母親に捨てられた、あの時と。

そのときだった。
網本の耳に、不思議な歌が聞こえてきたのは。

「Gaisu L-aadi Gara Yabgi Masrai Bil-haqqi Saufa Fa-saufa Afnihi Mai」

──なに? 何の歌?
東亜語じゃない? 何語? 英語っぽくもない?

もしかして──……天使様?
天使様? 天使様なのですか?

「Qulu Mai L-wailu Lil-mustamiri Allahu Akbaru Ya Biladi Kabbiri」

天使様なのですね?
ああ、そうですね。やはり暴力なき者は救われるのですね。助かりました……。
私……もう、苦しいのはイヤなんです。なにもしてないのに、あの時みたいに苦しむのは……。

この世は血も涙もないものだと思っていました。
けれど、あなた様が言ってくれた「暴力なきものは救われる」という言葉が私に希望を与えてくれたんです。

そうですよね?
なにもしてない者が、罰を受けていいわけありませんよね?

「Wa-hudi Binasiyati L-mugiri Wa-dammiri……。貴子ちゃん、何笑ってるの?」

天使様、私はあなたに感謝しきれません。感謝しても、感謝しても。

「貴子ちゃん……。何者でもないということは、何者にでもなれる可能性があるということ」

天使様……また私をお救いになってくださるのですね。暴力なき者を救ってくださるのですね。

「何者でもないということに気づいたら、何者にでもなっていい」

天使様、質問があります……。
時々聞こえてくる、「ピッピッピ」って音は一体なんですか? ああ、これが救いの音色なんですか?

そう考えれば……とても美しい音色ですね。
段々とリズムが早くなっていきますね。これはもうすぐ私が救われるということなんですね。




──私は、当然だけど、虐待がとても苦痛だった。
お母さんもお父さんも、私のことをあんなに──
でも、どんな思い出もみんな美しいんだよね。きっと。天使様に出会って、私、わかったの。
天使様に救われて、私わかった。





──イヤな出来事は、それが救われるためにあるんだ。そして後に想い出となるために。







天使の音色が止まり、代わりに小さな爆発音があたりを包み込んだ。

安西亜夜(女子21番)は首から上が消失し、血みどろになっている網本貴子を一瞥すると、クスっと微笑んだ。
安西の手には、首輪爆破リモコン。

安西の顔以外の全身は血で装飾されており、もはやクラスメイトの知る「可愛いあよよ」はどこにもいなかった。

「発展途上ならね、人は何者にでもなれるの。血で血を拭い、血で血を弄ぶ者にもね」






そこにいたのは天使でもなんでもなく、狂気と野望を2乗に携えた悪魔だった。


女子15番 網本貴子 死亡


残り44人


Re: OBR ( No.13 )
日時: 2010/11/20 12:55
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

−AM12:00 ウエスタンパーク −


『はい、第1回目の放送なわけで。まず死んだ人を発表するわけで。女子1番相川勝美さん、女子15番網本貴子さん。以上2名。うーん、ちょっと少ないわけで。もっともっと積極的に殺しあってほしいわけで。それじゃあ禁止エリアを1つ増やすわけで。これから1時間後にトゥーンシティ全体が禁止エリアになるわけで。少しでもそこに入ったら首輪が爆発するわけで。それでは、第1回目の放送を終了するわけで。頑張って欲しいわけで』


安藤陽子(女子22番)と鮎川麻美(女子19番)はウエスタンパークのマイルコングバーというレストラン内でその放送を聞いていた。


相川勝美と網本貴子が死んだ。
死んだ。
もう2度と二人とは会えない。話せない。二人とも死んだ。死んだ。

そう思うと、鮎川麻美は少し感傷的な気分になったが、所詮は「少しだけ」だった。

──別に誰かが死んだことに悲しむ必要なんてないじゃない?
どうせ皆死ぬんでしょ? 一人しか生き残れないんでしょ? そんなルールなのに、誰かが死ぬために涙を流してたらキリないじゃない。

最初は混乱してたけど、なんとか落ちついた。
もう「死」についての覚悟はできてる。ちょっと痛いけど、新たな旅立ちと思えばいいのよ。……こんなに早く旅立ちが来るとは思わなかったけど。


そう、私達にはある目的がある。
その目的を果たせれば、多分私達は満足して死ねると思う。「死ぬ」ってことはそれほど悲しいことなんかじゃないはずよ。死が終わりだって誰が決めたのよ。




鮎川と安藤陽子は、運良くすぐに合流できた。二人とも混乱しきっていたため、その合流は全くの奇跡といえる。

二人は大親友だった。他に友達を作ろうとせず、いつも二人の独自の世界を築いていた。
そして二人は──二人の世界を邪魔する者を粛正した。つまり、イジメだ。

二人の世界を邪魔する者などいなかったが、安藤達は勝手に干渉してると判断し、イジメを繰り返していた。
ちょっと前まで「目障りだから」という理由で淡路底美(女子20番)に陰険なイジメを繰り返していた。

もはや「邪魔するからイジメる」というのは名目に過ぎなかった。
二人は大した理由もなく、ただ弱いものイジメをしていたのだ。淡路のように無口な女子はイジメやすかった。


しかしある日、転機が訪れた。



安藤陽子は支給武器であるグロック17を手で弄びながら、あの日のことを思い出していた。


──ふざけんじゃねーわよ、青村サキ(女子2番)のヤツ。
なにが「弱い者イジメはやめなさい」だよ! 私達をそこらのいじめっ子と一緒にするんじゃねーわよ!

私達に干渉しやがるから淡路のクソを粛正してただけじゃねーか!
なにが「イジメはよくない」よ!



そしてそのあと、青村サキはイジメの旨を担任に伝え、淡路底美を励ました。
怖くて周りの皆が誰もしなかったことを、青村はたった一人でやってのけたのだ。

しかし、その伊藤の正義ぶった行為が安藤と鮎川の精神を逆撫でした。


──見てろよ! 青村サキ!
必ずあんたを殺してやるから! 死ぬ前にあんたに「粛正」してやっから!どうせ私達は生き残れねーわよ! だったら青村を殺して満足に死んでやるわよ!

私達に最大の干渉をした青村サキ……許すわけにはいかねーわよ。
丁度いい機会よ! もうプログラムに選ばれたことに嘆いてる場合じゃねーわよ! 丁度いい機会と思うのよ!


絶対私達はあんたを殺してやる! 青村サキ!
躊躇いなんてものはとっくに捨てたね。死ぬ前にやりたいことをやり遂げたいって思うのは、自然なことでしょ? その内容がどうであれね!








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−AM12:11 ウエスタンパーク −


「二人……か」

思ったより死者が少なくて、波間黒男(男子21番)は人知れずホッと息をついた。

波間はウエスタンパークの小さなおみやげ店のカウンターに腰を落ち着かせていた。
カウンターの上には支給武器である救急セットが物言わぬまま置かれていた。

おみやげ店に電気は通っておらず、相変わらずの薄暗さだった。外から入ってくるイルミネーションの光が唯一の光源だった。
ウエスタンパークらしく、中はテンガロンハットやらモデルガンやらのおみやげが綺麗に配置されていた。


波間黒男は「やる気」ではなかった。
もう既に自分の人生を捨てていた。プログラムに選ばれたと宣言された時点で、自分の人生を捨てた。
捨てられたんじゃなくて、自ら捨てた。

波間は病院長の長男息子で、将来を約束された男だった。本人も医者になる気はまんまんで、幼い頃からその才能を垣間見せていた。
医者というものは素晴らしい。と、波間は思っていた。

波間は人付き合いが苦手で、特に決まった親友はいない。が、それでも構わなかった。
将来医者になれるのなら、どんな苦痛も構わなかった。



しかし、「プログラム」だけは別だった。
プログラムだけは、すべての将来を見事に断ち切ってくれるものだった。波間の将来は消えてなくなってしまった。だから人生も夢も捨てた。

しかし、「生き甲斐」だけは捨てていなかった。
支給武器が「救急セット」だったから、まだ生きようと思った。まだ死なない、と思った。


──皆を助けよう。
もしケガして誰かがココにやってきたら、俺はただそのケガを治療してあげよう。
俺は将来医者になれないのだから、ここで医者になるしかないんだ。

父みたいな素晴らしいお医者になりたかったけど……もうその夢も適わない。
でも、父さん。ここで傷ついた皆を治せば、俺は素晴らしい医者として認めてくれますよね?

俺は自分の使命を全うする。
傷ついた皆を救う。そいつが「やる気」であったとしても、そいつが既に誰かを殺していたとしても。
俺は医者として誰かを救いたい。それだけだ。



波間が小さく息をついた、そのときだった。
突然「ザッ」という足を引きずるような足音が聞こえて来たのは。そして顔をあげたそのときには、既にその人物が目の前に映っていた。

「波間……!?」
「……綾野……」


そこにいたのは片足を引きずっている綾野浩治(男子2番)だった。


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