ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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OBR
日時: 2010/11/20 05:39
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

これから小説を書きます。

グロありですので注意してください。

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Re: OBR ( No.14 )
日時: 2010/11/20 13:01
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)


「誰にやられた……?」

綾野浩治(男子2番)の腫れあがった左足に薬臭いシップを貼りながら、波間黒男(男子21番)は尋ねた。

「秋山だ! あのくそやろう、いきなり蹴ってきやがったんだよ!」

綾野は顔を怒りに歪ませながら叫んだ。波間がシップの上から包帯を巻きながらそれを「しっ!」と制止した。

──くっくっく、バカめ。お前はお人よしだなあ、波間君。
秋山に蹴られた左足に包帯巻いてくれる上に、僕に殺されてくれるなんてなぁぁ。
ふふふふ、すぐには殺しはしないさ。青村サキ(女子2番)がやったみたいにカウントダウンしてゆっくりと灰皿で殴り殺してやる!

僕が勝つんだ!
ココでは今までできなかったことが色々試せるんだ!
殺人、死体遺棄、解剖、死姦……。未知の世界が僕を待っているんだ!
ここは宝庫だ……テレビとかでやってたことをたくさん実行できる夢の国だ……。

ここには下らない法律なんかないんだ!
法律という呪縛から逃れられた僕がどれだけ恐ろしい存在か、教えてやる!
ほんと法律なんてこの世には必要ない! 人間に眠っている素晴らしい才能を潰しているだけじゃないか!

僕の才能を見せ付けてやる。僕の開花した才能を見せ付けてやる。
波間黒男! 最初はお前だ!

「……波間」
「ん?」

医者の息子・波間黒男による応急処置が終わり、波間が立ち上がりかけたとき、綾野は低い声でポツリとつぶやいた。
そのとき、綾野の顔が醜悪に歪んでいたことに波間は気がついていなかった。

「今からカウントダウンするぜぇぇぇ。うふ、うふふふ。いくぞぉ。ごーぉ、よーん、さーん……」
「……綾野?」

波間は目を丸くした。綾野が何をいってるか、全くわからないといった面持ちだ。
綾野はイスから立ちあがり、背中に潜めていた灰皿を見せびらかすようにヌラリと取り出した。
ますます綾野の顔が醜悪と冷笑に歪んでいく。まるでシミが広がるように、醜悪さが顔を支配していく。自分中心に地球が回っているんだ、とカウントダウンが教えてくれているような気がする。

「にーいぃ……」

綾野はワザとカウントダウンのスピードを遅くした。
──くふふ! 早く終わっちゃあつまらないもんね! もう少し波間君には死の恐怖を味わってもらわないと!
いいなあ、カウントダウン。素敵だなあ。感謝するよ、青村。お前のおかげだよ、むふふふ……。

「いーちぃぃぃ……」

ついに綾野は灰皿を高く掲げた。撲殺準備。
これで波間もやっと理解したようだった。目が、カッと見開いた。

しかし、波間がその場から後ずさりすることはなかった。綾野に立ち向かうこともなかった。


もう、その必要もなかったからだ。

Re: OBR ( No.15 )
日時: 2010/11/20 13:05
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

ピッピッピッピッ




「あ?」

自分の真下あたりから聞こえてくる電子音に、綾野はひっくり返ったマヌケな声を出した。

──あ? 何の音だ? ちくしょう、僕のカウントダウン的撲殺法を邪魔すんなよ──って、この音、首輪から?


「へー、このリモコン、首輪の後ろからでもちゃんと効くんだあ」


綾野は自分の顔がみるみるうちに青ざめていくのを感じた。首輪の電子音と、背後を貫いた楽しげな声が、綾野の中で不気味なレクイエムを奏でた。
イヤな予感しか漂わない。そんな、声だった。

後ろに立っていたのは、安西亜夜(女子21番)だった。
いや、綾野の記憶が正しければ、の話だ。なにしろそこにいる松浦はいつもの安西の面影など全くなかったのだから。

セーラーの肩から袖までを切り裂き、両腕を曝け出している安西。
その両腕に不気味な血の化粧を施している安西。
両足にも血の化粧を施している安西。
そして唯一血の化粧がされていない顔を、見た事もない様な冷笑に歪ませる安西。

どれも、綾野の知っている安西亜夜の姿ではなかった。

「わたしが両手を広げても、お空はちっとも飛べないが、とべる小鳥はわたしのように、地面をはやくは走れない」

その冷笑のまま、突然安西はなにかを唱え始めた。話し言葉といった感じではなく、なにかを朗読しているような口調だ。

その間も、綾野の首輪の電子音は止まらない。
綾野の背筋に走る焦燥感と相乗するかのように、そのリズムは早まっていく。

「わたしがからだをゆすっても、きれいな音はでないけど、あの鳴るすずはわたしのようにたくさんのうたは知らないよ」


ピピピピピ


──待ってくれ待ってくれ!
なんだよなんなんだよ! なにが起こってるんだよ! どうなるんだよ!
ああああ! なんだよ! わけわかんねえよ! なんなんだよぉぉ!



「すずと、小鳥と、それからわたし。みんなちがって、みんないい」





ピ————





ドンッ











とても短く、質素なレクイエムがあたりに響き渡った。
一瞬にしてウエスタン風のおみやげ店は紅蓮に染まり、それは綾野浩治の鮮烈な死を現していた。


波間黒男は、カウンターの奥にただ立ち尽くしていた。ただ、綾野浩治の首輪が赤い閃光とともに爆発する瞬間を見つめていた。
嘲りとも憂いともつかない眼差しを安西亜夜に突き刺しながら。


「……お前……そうか、人殺しになることにしたんだな」


およそ「安西亜夜」とは呼べぬその存在に向って、波間は冷たく尋ねた。
その声に抑揚はなく、あるのは氷点下の冷たさだけだった。それに、少しの怒りが差し込んでいるようにもみえる。

安西はつぶらな瞳を細め、

「なに怒ってるの? あたし、波間君のこと助けてあげたんだけど?」
「……助けた? それじゃ、お前は俺を殺そうとはしないのか? そうは見えないが」
「さあ? 気分しだいかなー。人は何者にでもなれるし、みんなちがってみんないいし、あたしはWa-hudi Binasiyati L-mugiri Wa-dammiriだしねー」

安西の言葉の8割は意味が読み取れなかった。いや、波間は意味を読み取ろうともしていなかった。
安西のその狂気の容貌を目の当たりにしているからだ。既に松浦亜夜は狂っている、と。

狂っているとわかっていても、波間は自分の喉から流れでる声を抑えきれなかった。

「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいこととは思わないのか?」
「生き物の生き死に? 君はどうなの? 君、医者の息子でしょ? 人を無理矢理生きさせようとしてるじゃない。君こそ生き物の生き死にを自由にしてるんじゃない?」
「そうだよ。だから俺はたまに医者という職業について疑問を覚えることがある。お前は疑問を感じないのか? 人を殺して、生き物の生き死にを支配して、何の疑問も感じないのか?」
「……みんなちがって、みんないい」

それが合図となった。
安西は下げていた首輪リモコンを波間に向け、スイッチを──しかし、そのスイッチを押したときには、もう波間の姿は彼方にあった。

波間は身をかがめながら、瞬時に裏口から飛び出して行ったのだ。もちろん救急セットはかかさずに。(さすがにデイパックを持つ余裕はなかったのか、デイパックは放置されていた)
ちなみに、波間が「診療室」をこの店に選んだ理由は、もちろん裏口があったからである。入り口からもし敵が来たとしても、裏口からすぐ抜け出せるように。




安西は波間と綾野のデイパックから水と食料を奪うと、それを自らのデイパックに押しこんだ。

──早く銃を手に入れたいな……。探知機とリモコンだけじゃあ、ちょっと心許ないし。


──波間君もバカだね。
自分の意見が他人の意見と合致するとでも思ってるの? そんなのありえるわけないじゃない。
脳みその大きさなんて人それぞれなんだから。みんな違うんだから。


そう──みんなちがって、みんないいんだから。



男子2番 綾野浩治 死亡


残り43人


※金子みすず氏の代表的な詩を一部引用しました。
※「ブラック・ジャック」(手塚治虫著)からセリフを一部引用しました。

Re: OBR ( No.16 )
日時: 2010/11/20 13:07
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

−あよよの思うこと−







「アイドル」ってなんだと思う?
あたしは絶対的な存在だと思うなぁ。つまりね、生半可な覚悟で自分のことを「アイドル」とか自称してほしくないってこと。

阿久津舞(女子5番)ちゃん達なんかはもう、愚の骨頂のいい例だね。
アイドルっていうのはね、ただちやほやされてればいいってもんじゃないの。


悪いけどね、あなた達にはカリスマ性がない。つまり、才能がないの。なにやってもムダ。

努力でなんとかなるですって?
あのねぇ、あたしね、努力って言葉世界で一番嫌いなの。
努力努力って……バカじゃない? 必死んなって努力してるヤツはみんなバカ。みーんなバカ。
才能が全てとはいえないけどね、努力がすべてじゃないからね? なんでも努力すれば何とかなるって思ってたら大間違いもいいとこ。努力の上に才能があるんじゃなくて、才能っていう土壌の上に努力があるの。

努力してるヒマがあったら自分の才能見つけなさいっての。
下らないことで努力してさ、時間の無駄だと思わないの? バカ? バカでしょ? そんなことするなんて、バカにしか見えないよ?


あー、もう。ほんとに呆れる。

あたしはナルシストでもなんでもないけどさ、君達程度が低すぎるんだよね。
損ばっかしてる。皆損ばっかしてる人生。見てるこっちがつかれるんだよね。



あたしはね、待ってたんだよ。
自分の才能が生かされる日を。アイドルとしてのカリスマ性を発揮できる日を。

それは芸能界鮮烈デビューでも良かったし、地球を救うアイドルってのも良かったけど、やっぱり殺戮アイドルになりたかったんだよね。

あたしは自分の才能を自覚してるし、才能があるから皆あたしの元に群がるんでしょ?
みーんなあたしに惹かれてるんでしょ? 男の子はみーんなあたしの美脚に目がいっちゃってさ。


前にも言ったっけなあ。
プログラムの優勝者の映像流してて、その女の子がすごいカッコよくって。
すごい妖艶で冷たい目つきしちゃってさ。あたしは一目でわかったよ。この子は「最強」だって。


『あたしは41人全員殺したの。どう? すごいでしょ? ねぇ皆、殺し合いって楽しいよ?』


だってさ、その子。
すごいと思った。鳥肌が立った。あたしは今でもあの子の冷たい笑みを覚えている。肌を焼きつかされるような、妖艶な眼差し。

人殺しをなんとも思っていない目。
不屈の精神。
まさしく天才だった。この子は天才だった。


憧れた。
殺戮者に憧れた。どんなアイドルよりも可愛くてかっこよくて強い、殺戮者に憧れた。


変?
そうだねぇ、凡人の目から見たら変かもね。
でもね、生憎あよよは凡人に理解されるような人間じゃありません。伊達にアイドルやってないよ、あたしは。
凡人に理解できないからカリスマなんでしょ? そこんとこわかってる?


努力ばっかして汗ばっか流してるバカとは違うってこと。
なにもあたしは自分以外の連中は皆バカって思ってるわけじゃないよ。
皆だって何か1つはカリスマ性を発揮できる物事があるはずなんだから。

みーんな何かしら才能があるのに、努力ばっかしてる。
だからバカだっていってんの。もうバカばっかり。


だからね、あたしがクラスメイトを軽がると殺せる理由なんて、そんなもん。
ただ自分の才能に従ってるだけ。よくありがちな虐待経験とか復讐とか、そんなんじゃないし。
ただ殺したいだけ。ただ自分のアイドル的カリスマ性を発揮させようとしてるだけ。夢を適えて神様に匹敵するような存在になりたいだけ。

なにも不自然なことはないでしょう。
才能を発揮させてなにがいけないっつーの。あたしはたまたま自分の才能が「殺戮」だっただけだし。
ちょっと凡人と違ってるからって、凡人がそれを抑圧する理由はないじゃん。人はすぐ「異常」とかいう言葉であしらってくるけど。精神鑑定? 笑えるね。鑑定されるような安っぽい精神、人間誰も持ってないと思うけど。


あたしの自由でしょ?
ねぇ、あたし、何か間違ってることいってるかな? もし間違ってると思ってるんなら、それはあなたが間違ってるんの。
自分自身が間違ってるから他人を否定できるんの。個人の主観で物事の良し悪しを決めないで。



別にクラスメイトに恨みはないよ。
友達も結構いるよ。
でも、そんなものはただの障害でしかないの。
あたしがあたしになるための障害。
皆、そういう障害を乗り越えて理想の自分になるんだよ。

夢っていうのは、実現までの道に色々と障害があるから夢っていうんだよ。

あたしの障害はクラスメイト。
アイドルスターになるための障害は、45人のクラスメイト。

皆となにも変わらないでしょ?
これでも不自然だって思うの? これでもあたしが間違ってるって言うの?みんなちがって、みんないいのに?

あたしが間違ってるとか思う人は、根本的なことを忘れてるんだよね。
人殺しは犯罪?
そんなこと百も承知だよ。だけどね、法律だかなんだか知らないけど、所詮は夢を縛ってるだけじゃない?
人殺しになることも立派な夢。他と変わらない立派な夢。ただ、「法律」とかいうのでイメージが悪くなってるだけ。皆、騙されてるよ。「夢」は皆素晴らしいってことを忘れてる。

人殺しになることも立派な夢。
泥棒になることも立派な夢。
詐欺師になることも立派な夢。
世界を破滅させようと思うことも立派な夢。


そうだよねぇ。
綺麗なモノが「夢」だなんて、誰が決めたの?
将来なりたいものがあるなら、どんなものでも立派な夢でしょう?









あたし、何か間違っていること言ってるかな?

Re: OBR ( No.17 )
日時: 2010/11/20 13:16
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)


−AM1:09 ワイドパーク −


午前1時ともなると、睡魔に襲われても仕方なかったが、状況が状況なだけに元木隆弘(男子22番)の目と頭はギンギンにフル稼働していた。


先ほどの黒岩純の放送で、相川勝美(女子1番)の他にも網本貴子(女子15番)が死んでいることを知り、少なからず元木はショックを受けていた。
悲しいという感情ではなく、ただ誰かが死んだことに重圧なショックを受けていた。背中から押し寄せてくるような、イヤな衝撃。

「人は簡単に死ぬ」ということを改めて思い知らされ、そして今自分も死ぬ可能性をおおいに抱えている。
その感覚がリアルだったが、あまりリアルじゃなかった。なんとも複雑な気分に元木は襲われていた。

──あー、12時から1時間経ったってことはトゥーンシティが禁止エリアとかいうのになっちまったよな……。
エリアが狭くなると、必然的にクラスメイトの密度が上がってくる……ってことは——

っと。
変なことは考えちゃあいけない。今一緒にいる森本零生(男子23番)の他にも仲間が欲しいが、果たして俺を信用してくれるクラスメイトが何人いるか。

あーあ、こんなことになるんならもっと友達作っておけばよかった。
変な見栄張って、プライドお高くしちゃってさ。なになに? 俺は友達を選びますってか? ばーか、人付き合いが苦手なだけだろ、俺。
そうやって俺、いっつも自分に逃げ口作ってやがる。都合のいいようにカッコイイ理想の自分を作っちゃってさ。

皆は俺のことを石黒煉(男子4番)みたいなクールなオトコって思ってるみたいだけど、完璧勘違いだ。
俺は根っからのクールなんかじゃない。クールを気取ってるだけ。本当は友達とか彼女とか欲しいんじゃないの? はあ。

「タカくーん、ねえ、動かないの?」

森本零生が目をまんまるくしたまま、元木の顔を覗きこんだ。



元木と森本は、ずっとワイドパークに身を潜めたままだった。

それは元木の提案だったのだが、そのような提案をしたのは、元木は石黒煉との合流を切望していたからだ。
それで無闇に動くよりも、ディズミーランドの中心であるワイドパークにずっといたほうが見つけやすいし、安全だ、と提案したのだ。


そして二人はワイドパークの中心にある「ウォルト・ディズミー像」の後ろに寄りかかり、石黒のことを目だけで探していたわけだが、未だに見つけられていない。

3時間半も石像に寄りかかっていたので、森本の背骨と腰骨も悲鳴をあげていた。いくら優しくて受け身な森本零生でも、この不毛すぎる苦痛は耐え難いものがあるようだった。

「動いたほうが効率いいと思うよ? 多分煉くんもどこかに身を潜めてるんだよ」

「んー……」

──そうだろーなー、多分ほとんどのクラスメイトはどっかに身を潜めてるだろうな。
プログラムなんて、怖くて怖くて仕方ないもんな。なにが最後の一人まで殺し合いだよ。全く、自分が正気でいられてることが不思議でたまんねーや。「クール」を演じつづけてそれが染みついちゃったんだろうな。最悪だ、俺。

今動き回ってるヤツは、このゲームに乗ったヤツか、なにか他の目的があるヤツなんだろうな。
俺だって、煉と合流できたら「行動」したい。もし合流できたとして、その後どうするかなんてわかんねーけど。
なあ千夏姉ちゃん、希望なんて寄せ集めればいっぱいあるよな? ゴミ箱の中だって捜してやるよ──。



と、元木はさりげなく遠くのゴミ箱に視線を合わせた。視線がゴミ箱に重なると同時に、何故か違和感も重なってきた。

──あ──?
なんだ、このふざけた違和感は。なにかがとんでもなくおかしい気がするぞ。おいおい、あはははは、ゴミ箱が一人手に動いちゃってるよ、なんだ、あれ、おいおい、って、落ち着け俺。

「レイ」

元木はもうすぐ消えそうなロウソクの炎のような声で、森本に囁いた。

「ん?」
「あのゴミ箱、見ろ」

元木がルガーP08で指し示した方向に、森本も幾分緊張を顔に浮かべ、向いた。
数秒後、森本が生唾をゴクっと飲む音が静寂に混じって響いた。

「う、動いてるね……」
「動いてるよな……」
「うん……」
「……どうする?」
「……なんか、放っておいちゃマズイ気がする……」
「レイもか? 実は俺も……」
「……近寄ってみる……?」
「イチかバチか……だな」

全くもってそれは不思議だった。
空き缶やら紙屑やらが詰め込まれているゴミ箱が、もぞもぞと微妙に動いているのだから。
だが明らかにゴミ箱が動いているのではなく、ゴミ箱にいる「何か」が動いているのだ。そうじゃなければゴミ箱が動き出す理由などない。

果たしてそれは何なのか?
元木も森本も沸き踊る好奇心を抑えきれなかった。こんな状況で好奇心が行動に左右する二人なのだから、二人の精神状態はまだまだ安定してるといえる。


元木はルガーの銃把を両手でしっかりと握り締め、森本は支給武器であるバタフライナイフを開いたカタチでしっかりと握り締め、あたりに警戒を払いながらその「動くゴミ箱」に近寄った。
いざ近づいたら、その警戒をゴミ箱に集約させる予定だった二人だったが、その必要はなかった。

ゴミ箱の動きが止まり、空き缶やら紙屑をあたりに撒き散らしながら、「正体」が現れたので。

Re: OBR ( No.18 )
日時: 2010/11/20 13:17
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

「ハカセじゃないか! なにしてんだよ!」


ゴミ箱から、まるで何かのパーティーの罰ゲームのようにゴミだらけの姿で現れたのは、白沢博士(男子14番)だった。
白沢は瞳をぎょろつかせながら元木と森本の姿を興味なさげに一瞥し、俯き、なにやらブツブツと呟きはじめた。

ゴミ箱にもぐらのように潜りこみ、突然現れて目をぎょろつかせ、いきなり独り言をぼやきはじめる。
客観的に考えてもそれは凄まじく異様であったが、白沢をよく知る者はそうとは思わない。

白沢は大月恭樹(男子7番)とは性格が反発しあう磁石のように正反対で、白沢は超非科学的な思考の持ち主だった。
なにか不思議なことが起きると、すぐに挙動不審をはじめ、延々と呟きながらその事象についての仮説は10個や20個も立てる。
そしてその仮説を大月や他の生徒に延々と説き伏せる。大月がなにか反論をしても、「証拠はあるのかね?」の一言で押しつぶす。

一言でいえばただの自己中なのだが、どこか愛嬌があり、何故か好かれているクラスメイトだった。
その非科学的な論理も、聞いていてたまに面白いこともあるからだろう。既にあだ名は「ハカセ」で全国共通だった。


挙動不審と非科学的思考をもつ男・白沢博士。
やはりハカセはこのプログラムについても非科学的なことを考えはじめちゃっていたのか──と元木は深い溜息を思いっきりついた。

白沢は不思議な出来事に直面すると挙動不審になるクセをもっており、今回のゴミ箱騒動(?)もその挙動不審の一環だろう。
しかし、この「プログラム」は法律にもある、いわば「科学的」なものだ。
白沢は本当に不思議な出来事に対してしかいくつもの仮説を立てたりはしない。(例えば教室の電気が急につかなくなったり、クラスで飼っている熱帯魚が急にエサを食べなくなったりした時などは、非科学的思考が炸裂する)

つまり、今回は結局はただの現実逃避であり、白沢もまた「狂った生徒」なのだ。
本来科学的であるはずの「プログラム」を非科学的なモノと捉え、ひたすら現実逃避に走る。そう、ただの狂乱でしかない。


「待てよ待てよ待てよ。これは夢——ではないはずだ。そうだ、意識はハッキリとしている……ということは、宇宙人による洗脳か? 洗脳が俺達にこんな幻影を見せつけているのか? そうだ、それなのか? 確か宇宙人に誘拐された経験を待つイギリスのレコヨス・デソー氏は、幻影を見せられたと述べていた。と、するとこれが宇宙人による幻影なのか? なるほど、よく見るとどれも作り物っぽいな」


こうなると、もうもはや白沢は手のつけようがないことを元木も森本も知っていた。
自分の中で考えられる仮説をすべて出し尽くすまで、ずっとああやって呪文を唱えたままだろう。現実に目を向けずに、非科学的にすべてを説明しようとしている。
その姿は、このプログラムという状況下ではいつより何倍も哀れに見えた。ただの悲しい現実逃避にしか見えなかった。

「元木君に森本君。ちょっと仮説を25個ほど考えてみたんだ。聞いてくれないか? まず第1に夢説。うん、これはないよね。次に隕石襲来説。ほら、隕石が落ちると磁場が狂うって言うじゃない? 磁場が狂うと人間の大脳に影響を及ぼして──」

その話に途中まで適当に相槌を打っていた二人だったが、すぐにその相槌も止まった。
白沢の話に呆れたのではない。大体白沢の話には最初から呆れている。

その瞬間、元木は、首から下げている姉の形見の懐中時計が凄まじくいとおしくなった。
目の前に広がっている信じられない光景を見つめながら、元木はすがるような思いでその懐中時計を握り締めていた。

──な、なんで──?
──なんで? なんで──?


歯がガチガチと鳴った。顔が引きつっているのがわかる。
それに相乗するように、懐中時計を握り締める手も震えた。



「それ」はシンデレロ城の影からゆっくりと現れた。片手には銃を握り、照準はしっかりとこちらに合わせて。


相変わらず、その石黒煉(男子4番)の顔はクールで穏やかだった。


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