ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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OBR
日時: 2010/11/20 05:39
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

これから小説を書きます。

グロありですので注意してください。

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Re: OBR ( No.4 )
日時: 2010/11/20 12:01
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

──なんだよ、このガキは!

まず一番最初に秋山悠斗(男子1番)はそう思った。そう叫びたくなった。黒岩純の恐怖の宣告を信じたくなくて、とにかく叫びたくなった。
ガキ——黒岩純は可愛い声して平気で「殺し合いをしてもらうわけで」と言い放ったのだ。

「つまり皆さんは今年度のプログラムに選ばれたわけで。プログラムに関して簡単なことは知ってるよね? 最後の一人になるまで殺し合う実験なわけで」

その言葉を聞き、ついに全員が「これ」が何なのか理解したことだろう。
現実逃避をする者はいなかった。
悲劇だったが、皆認めているようだった。あの宝くじの当選率なみの「プログラム」に選ばれてしまった、と。信じたくないという思いに、悲惨な事実が雀のように掠めて飛ぶ。雀がその思いをついばむ。やがて、事実は現実逃避を丸呑みにしてゆく。

悲しみと絶望に暮れる生徒が大半だった。
ある者はすすり泣き、ある者は悪口雑言をぶちまかしながら力いっぱいに床を殴りつけたり。

そして秋山も、ある種の怒りが沸いていた。
元々秋山は簡単なことでは落ちこむ生徒ではない。イヤな現実とはいつも真っ向から勝負してきた秋山だった。 ——プログラム──って、おいおい、そりゃあないだろう。
プログラムなんて、おいおい、そんなむかつく話はしらねーよ。なんだ、それ。すげえむかつく。ふざけんな。

プログラムってお前、それ、死ぬってことじゃねーのか。そうだよな?おい、は? ふざけんなよ。なあ?マジかよ?

「そんな……そんな……!」

プログラムに巻き込まれたことを認めてはいるのだろうが、絶望に暮れて泣きじゃくる女子生徒の一人が、一際高い嗚咽を漏らした。

赤井霧子(女子3番)だった。秋山の位置からは暗くて見えないが、泣き声だけははっきりと聞こえる。

「君は……赤井さんだね? 何も悲しむことはないわけで。あなたが優勝すればいいだけで。」

──なにいってんだ? コイツ、こんなときに──
なんだよその中途ハンパな口調は? てゆーかお前誰だよ? 子供はさっさと帰っておねんねしな。
てゆーか、プログラムなんだよな? これがドッキリだったりしたら、絶対学校やめてやる。つーか、ドッキリであってくれよ、マジで。

純は周囲を見渡してから一息つくと、やがて「プログラム」について詳しい説明を始めた。

Re: OBR ( No.5 )
日時: 2010/11/20 12:03
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

「さて、僕の名前は黒岩純といいます。純先生と呼んでほしいわけで。僕が今回プログラムの担当教官です。つまり君達の担任なわけで。旧担任の塚原先生は泣く泣く許可してくれたわけで」

──ふざけんな、このガキが「先生」だと? なにが「純先生」だよ?
なんでてめぇみたいな幼いガキに俺達は屈しなければならない?

恐らく一部の生徒は秋山と同じ怒りを胸中に秘めていただろう。
しかし、誰もなにもいえない。皆の目には専守防衛軍の肩に下がっているライフルが映っているからだ。それに、まだよく事態を理解していない者も多い。

プログラムという言葉は知っていても、果たしてそれを受け入れるだけの容量が彼らにあるかどうか、だ。

「じゃあプログラムの説明ということで。聞き逃すと大変なわけで。あとで地図を渡すけど、今君達は東京ディズミーランドにいるわけで。知ってるよね? 有名だからね。今の時刻は午後8時過ぎです。ちょっとね、テーマパーク側の都合でこの時間から始めないといけないわけで。どうせプログラム会場にして壊されるなら最後のライトアップをしたいとかいう要請で夜から行われるわけで。まあ、君達にはどうでもいいことなわけで」

──わけでわけでうっせえな! なんなんだこのガキは?
しかもなんで9月だっていうのにそんな暑苦しそうなジャージ着てるんだよ?
てめーみてーな季節外れは北海道の富良野にでもいってやがれ!

「ということでこのディズミーランドが殺し合い会場ってことで。皆さんはここで生命を賭けて友達と戦ってもらうわけで。いいかな? プログラムは四面楚歌だからね。情けなんかかけちゃあ自分が殺されるわけで。さて、もちろんこの会場から逃げ出そうとするものもいるわけで。そこで皆さんに首についてる特殊な首輪が大活躍するわけで」

そこで始めて秋山も黒塚も首輪の存在に気がついた。首元に指を絡めると、あるはずのない冷たい感触。
今まで薄暗くて気づかなかったのだ。どよめきが起こった事から、恐らく8割の生徒が気づいていなかったのだろう。

「その首輪は皆さんの心臓なんとかってのを計測して僕達のコンピューターに生死を常に教えてくれているわけで。更に君たちの行動は僕達に丸わかりなわけで。不審な行動をしていたらこちらから電波を送って爆発させることもできるわけで。脅しじゃないわけで。24時間誰も死者が出なかった場合は、戦闘放棄とみなして全員の首輪が爆発するわけで」

秋山の中で言い知れぬ衝撃が走ったため、周りの悲鳴とどよめきには気がつかなかった。
それぞれが改めてこの「プログラム」という慈悲もなにもないゲームに絶望したのだ。
戦わなければ死……。脱出も試みたら死……。逃げ場はない。この首輪が自分の首に巻き付いている限り。

「このディズミーランドはワイドパーク、バザールワールド、トゥモロータウン、トゥーンシティ、ファンタジーワールド、グロッキーカントリー、ウエスタンパーク、アドレンジャーランドの8つに分かれているわけで。ここはワイドパークにあるシンデレロ城内部なわけで。皆さんが出発してすぐにシンデレロ城は禁止エリアになるわけで。それから午前午後6時と12時──1日計4回。放送を行うわけで。そのときにこれまで死んだ生徒と新しい禁止エリアの発表をするわけで」

純は一息つき、

「禁止エリアは『1時間後にトゥーンシティが禁止エリアになるわけで』といった感じに放送するわけで。そしたら1時間経つ前にそこを脱出しなきゃいけないわけで。そうじゃないとそこが禁止エリアになり、これまた首輪が爆発するわけで。禁止エリアは1回の放送につき1個だけしか増えないわけで。それでも8回放送するとすべてが禁止エリアになっちゃうわけで。つまり2日以内に終わらないと結局は時間切れになるわけで」

——おいおい、そりゃあないだろう。

絶望と怒りを通り越して、秋山は自嘲じみた笑顔を浮かべた。人は極限状態に立つと思わず笑ってしまうっていうのは本当らしい。
いや、秋山だけかもしれないが。

「この8つのエリア外に出たら周りに控える兵士さん達が容赦なく君達を射殺してしまうわけで。そんな情けないことはせずに、皆が戦うことを総統様も望んでおられるわけで。ということで皆さん、頑張って戦って優勝を勝ち取れというわけで」

室内は不気味に静まり返っていた。
悲しみか、絶望か、はたまた怒りか。それともそれら全てか。とにかくなにかが生徒全員を包み込んでいた。

普通、この理不尽なルールに刃向かってくる生徒が何人かいるのだが、このクラスは一人もいない。
小人数ならわかるが、46人もいるこの大所帯クラスで。純や谷峨、兵士達もそれにはちょっと内心驚いているようだった。驚いていようがいまいが、これから殺し合いを強要させられる生徒達にとってはそんなことどうでもいいことだろうが。

「それじゃあ出席番号順に名前を呼んで、皆さんにここを出ていってもらうわけで。ランド内のものは自由に扱って結構。反則はないわけで。ここを出るときに兵士さんからデイパックを受け取るわけで。デイパックには食料と水と地図、そして武器が入ってるわけで。武器は当たりハズレがあるけど、ハズレの場合は他人を殺して奪えばいいだけなわけで」

──他人を殺して奪えばいいだけって……てめぇ簡単に言うなよ……
はあ……なんだかもう、どうすりゃいいんだ……ってか、なんかむかつくな。どうしてこう勝手に物事を運ばれていかなきゃなんないんだろう。
てか、皆少しは歯向ってみろよ……。なんで皆そんな、萎えきってんだよ……。ちくしょう、俺まで萎えてくるじゃんか……。ただでさえわけわかんねーのに。わけわかんなくてむかつくのに。

「それじゃあ男子1番、秋山悠斗君」

あ……そういや俺出席番号一番だっけ……

Re: OBR ( No.6 )
日時: 2010/11/20 12:12
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

−PM8:20 ワイドパーク・「シンデレロ城」 







黒岩純担当教官に名前を読み上げられた秋山悠斗(男子1番)は、ゆっくりと立ち上がった。

──ちくしょうっ! 俺が一番かよ……あー、なにも考えてねぇ! あー、どうしよう! どうすればいいんだろう?
えーっと……くそっ、クロ(黒塚洋介)は13番だからまだまだ呼ばれないな……

かといって俺、一人で行動するのか?
四面楚歌の世界に一人、投げ出されるのか? くそっ、どうしよう?
ほんとむかつくほどわけわかんねえ。わけわかんなさがむかつきを呼び起こしたのか、それともその逆なのか、どちらかわかんないからまたむかついてくる。

ああ、むかむかする。脳みそがどっかいっちまいそうだよ。あれ、なんかもう、あれ。

「秋山君、どうしたの?」

純が小首を傾げ、不思議そうに言った。可愛らしい幼い顔つきをしている割に、その手は後ろポケットに仕込んである拳銃を握っていた。
秋山が立ったまま中々動かないので、「殺す準備」をしているのであろう。
プログラム担当官は「少しでも」プログラム進行を妨げる生徒は『消去』しても許されるのだ。

秋山は完璧なパニックに陥っていた。
突然のプログラム。突然の理不尽なルール説明。そして突然名前が読み上げられる。
頭が現実に追いつかなくて当然である。それが「普通」というものである。

──どうすればいいんだ?
俺、殺人なんてできないよな。うん、できない。それだけは確認できるぞ。むかつくほどわけわかんねえけど、それだけは大丈夫だ。よし。
ああ、くそ、とにかく今はここを出なきゃ……。

なんとか秋山の頭は体を動かすという命令を出すことに成功した。まるで脳みその半分が凍り付いてしまったようだ。


秋山はそのまま兵士から乱暴にデイパックを受け取ると、純達が入ってきた非常用扉を開いた。
兵士達とは違う、鼠色の背広を着こなした男がやけにじろじろと自分のことを観察していたが、気にしないことにした。


扉の奥は、汚らしいまるで刑務所のような横幅の狭い廊下だった。
そこだけは確実に「夢のテーマパーク」ではなかった。橙色の蛍光灯が、うざったくチカチカと点滅を繰り返していた。

非常用扉を閉じるときに、純の「2分間隔に出ていってもらうわけで。次は女子1番相川勝美さんなわけで」という声が秋田の耳に入ってきた。

──そうか……俺の次は相川勝美(女子1番)さんなんだ。
俺、男なんだ。しっかりしないと。相川さんのこと、守らないと。
このプログラムの結末がどうなろうと、別にいいんだ。俺は男なんだから、ビビらずに、好きな人のことを守らないと。

先の事は考えるな。
今を考えるんだ……。そう、そうすれば俺は、落ちつけるはずだ。俺はそういう人間なんだ。
先のことなんか考えない。いつも今を大切にして、そうやって生きてきた。もちろん失敗もたくさんあったけど、俺はこの生き方は正しいと思っている。

未来なんて、考えると辛いことばっか考えちゃうんだ。
そんな生き方、損じゃないか? 今が楽しいなら、今を楽しまないと。
未来の自分なんて、どうでもいいんだ。

──このゲームで生き残ったらとか、もし誰かに殺されそうになったらとか、そんな予想はいらないんだ。
今の俺にできること……そう、それは相川さんを守ることだけだ。男らしく、だ。


秋山はその決意を胸に、ディズミーランドへと出る扉を押し開いた。
途端に赤、黄、青、緑などの様々な眩しい光が秋山の目を一斉に刺激してきた。

「な、なんだよ、コレ……?」

思わず声をあげて驚いてしまったが、すぐに純のセリフがフラッシュバックした。

『どうせプログラム会場にして壊されるなら最後のライトアップをしたいとかいう要請で夜から行われるわけで』

そう、その純の言葉通り、ディズミーランドはいつものように華々しくライトアップされていたのだ。
建物1つにたくさんつけられた様々な電球が夜の闇を切り裂き、このシンデレロ城は青い光に映えている。
そう、ここは紛れもなくいつもと変わらないディズミーランドなのだ。客と従業員が一人もいないということを除けば。


──こんなところで……戦うのかよ……。
クロ達ともよく来た事あったよな……。楽しく遊びあったのに、今度は楽しく殺し合いか? ああ、むかつくな。


……そうだ、武器が入ってると言ってたよな。
……極力使いたくはないが……一応確認ぐらいはしておくか。


デイパックのチャックを開くと、中にはディズミーランドのパンフレット(恐らく地図だろう)と、ペットボトル2本、パンが1つとスナック菓子が一袋入っていた。
そして肝心の武器は、ナイフだった。

秋山はそのナイフを手に取り、詳しく調べてみる。

──刃渡り30センチほどか……ナイフについては詳しく知らないけど、誰がどうみても凶悪なナイフだよな……
先っちょにギザギザがあるし……どう考えても人を殺すために作られたようなナイフじゃねぇか……。

秋山は沸きあがる不快感を感じていた。改めてこの国の政府というものを憎む気持ちが燃え上がってきた。

──中学生なんかにこんなナイフ持たせやがって。
いつかお前等にこのナイフを──


そこで、秋山の思考は中断されることになる。後ろから怯えきった女子生徒の声が聞こえたので。

「秋山君……!?」
「相川さん!」

そこにいたのは、今しがたシンデレロ城を出たばかりの相川勝美(女子1番)だった。
少しボサボサした肩までの髪に、袖が破けているセーラー服。そして意外と可愛らしい顔をしている。今は涙でぐしょぐしょになっていたが。

「相川さん、待ってたんだよ。一緒に……」
「いやっ! 来ないで!」

──え?

一瞬、秋山は放心した。相川が自分の姿を見るなり、涙を流しながら後ずさりしたからだ。

──え? え? 俺、なんかしたか? え?

「相川さん?」
「来ないで! やめて! 来ないで!」
「なに言ってんだよ? 俺は────」
「やだ! だって、だって秋山君、そのナイフ見て、笑ってたもん!」

更に放心する秋山を恐怖の眼で見つめていた相川は、そのまま秋山に背中を向けてシンデレロ城の裏側へと急いで逃げ出していった。
ライトアップが彼女の背中のセーラー服の汚れをくっきりと映えさせていた。何故か、その汚れが秋山の目にイヤに焼きついた。

Re: OBR ( No.7 )
日時: 2010/11/20 12:15
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

──俺は──笑っていたのか?
笑ってなんかいない。きっと相川さんの──勘違いだ。ライトアップの微妙な明暗で、俺の顔が笑っているように見えたんだ。

じゃあ何故俺はそれを否定しようとしなかった?
元々自信がなかったんじゃないのか?
元々相川さんを守り通せる自信がなかったんじゃないのか?

だから俺は彼女を呼びとめなかったんじゃないか?
俺は──結局なにがしたいんだ?


「秋山ァァァァ!」


しかし、またもや秋山の思考は中断されることとなる。
今度背後から聞こえてきたのは、ダミ声の凄まじい咆哮。

灰皿をてにした綾野浩治(男子2番)だった。
凄まじい殺気を携えながら、灰皿で秋山に殴りかかってきたのだ。

間一髪で、秋山はそれを横に飛んで避ける。バランスを崩した綾野の体はそのまま草叢に転がった。
だがすぐに立ちあがり、再び灰皿を振り上げてきた。

「シネェェェェ!」
「おい、綾野!」

──畜生!なんなんだよコイツ!
なんでもかんでも人のをパクるヤツだったから元々嫌いだったけど、本性はこんなヤツなのか? ただの野獣じゃないか!

「やめろ!」

サッカー部で鍛えた脚は伊達ではない。秋山のローキックは綾野の左足を見事に捕らえた。
図書室常連で体を全く鍛えていない綾野はそのまま大きくバランスを崩した。

灰皿を落とし、バランスをうしなった綾野は左膝を抑えて痛そうにその場に倒れこんだ。

「くあぁぁぁあ!」

よほど痛かったのか、綾野浩治は凄まじい叫び声をあげていた。そのままポックリ逝ってしまってもおかしくないような叫び声だ。

秋山はそのままナイフで綾野を殺すこともできたのだが、もちろん秋山はそんなことはしなかった。

綾野浩治をそのままに放置すると、デイパックを背負いなおし、そのままライトアップされたディズミーランドへと脚を走らせた。
綾野が起き上がって自分を追いかけてこないように、出きる限りの高速で。


──くそっ! これ以上シンデレロ城付近にいるのは危険すぎる……!
とにかくどこかに、身を潜めないと……!

ごめん……相川さん、クロ……!
どこかでまた逢おう、必ず……!


残り46人

Re: OBR ( No.8 )
日時: 2010/11/20 12:20
名前: sasa (ID: LSK2TtjA)

──綾野浩治(男子2番)。
彼に友達はいた。しかし、その友達は彼のことを友達だとは思っていなかった。

彼は自分が嫌われていることを知らなかった。
自分の悪口を影で言われていることを知らなかった。
自分が嫌われているなんて、ちゃんちゃらおかしいことだと思っていた。


綾野に対する最も多い悪口、それが「パクリ魔」だ。
とにかく何でもパクるのだ。何に関しても他人の行動をマネする。そう、彼はマネすることだけで生きてきたのだ。


例えば、テレビや街などで見かけた面白いギャグや冗談などはすかさずメモしておく。
そしてそのネタを披露して、周りを白けさせるのだ。

他にも「読書感想文コンクール優秀賞記録本」とかいう本の中にある読書感想文を、平気でそのままコピーして夏休みの宿題のノルマを達成させたりもする。

頭の良い人がいれば、その人に聞いて同じ生活習慣を体に身につけさせたり、モテモテの人がいればその人の髪型を真似る。
そしてそのモテモテの人とファッションまでをもコピーする。


とにかくパクリまくる男。
それがパクリ魔・綾野浩治だった。




──いててて……! くそう、秋山のヤツ思いっきり蹴りやがって……!
なんで秋山みたいなつまんねー野郎がナイフとかいう「イイ武器」なんだよ……。僕のは灰皿とかいうくだらない武器じゃないか。

しかし、まあ、どうやらアイツはこの楽しいゲームを「やる気」にはなってないようだな。ナイフで僕を刺し殺さなかったことがいい証拠だ。けっ、臆病者が。

全く。ただのフヌケだな。
一人しか生き残れないのに、なぜ「やる気」にならないんだか。全く後先のことを考えない連中がこの世には多すぎる。人は殺せないって、そんな良心人間なら簡単に捨てれるだろ。誰しも憎い人物を殺したいと思うことがあるんだからな。

思ったことを実行してもいいゲーム。それがプログラム。簡単じゃないか?


「さて……と」


眼鏡の奥に怪しい笑みをちらつかせながら、綾野は立ちあがった。しかし、どうもまだ秋山に蹴られた左足がズキっと痛んだ。
思わずよろけてしまう。

──ちっ……もしかしたら骨に異常があるかもな……。
少し脚を休めたいところだが……ところがそうはいかない。


なにしろ次に出てくるのは女子だ。誰だったかは忘れたが(どうでもいいことは覚えない主義でね)女には変わりない。

か弱い女を灰皿で撲殺だ、ふふふ。
うん、中々ステキだな。昔、なんかのドラマで見たぞ。灰皿で撲殺する犯人を。
あれ、前前からマネしたいと思ってたんだよなぁ。殺人だけは平和な日常じゃあマネできないからなあ。

うふふ、僕はこのプログラムってゲーム、大好きだよ。
今までできなかったこと、色々試せるんだから。

秋山のときは試せなかったけど、相手がオンナノコなら確実に殺せるな。
誰かはわからないが、出席番号的にも剣道部の熱海良子(女子11番)、綾瀬紀子(女子18番)ではないだろう。あの二人はちょっと手強そうだ。「灰皿撲殺」なんて初めてやるんだから、弱いコで試さないとね。


ふふふ、撲殺ってどんな感じなのかなあ。楽しみだな……。灰皿で相手の顔がボコボコになる瞬間……ああ、想像が膨らむなあ。


そして、綾野が灰皿を構えて待ちうける扉が、キィィという悲鳴をあげて開いた。
にやっと綾野の唇が釣り上がる。灰皿を握り締める右腕を振り上げる。

──誰かは知らんが、僕の為にシネェェェェ!



ガラス製の灰皿を力いっぱい振り下ろす。
地球に宿る重力に力を乗せて、一心に振り下ろす。
その先には綾野にとっては心地よい「感触」が待ちうけているはずだった。

しかし、またしても綾野の一撃は空を切った。

「くっ!」

脇に、人の気配。
──ちくしょっ! また外したか! なんでこうちょろちょろちょろちょろ──ええい、死ね死ね死ね死ね!

「死ねぇぇぇぇ!」

と、そこまで威勢良く叫んだものの、綾野は灰皿を振り上げることができなかった。

草叢には──ベレッタM84をこちらに向けた青村サキ(女子2番)が片膝を立てて綾野のことをまっすぐに睨んでいた。

一瞬にして、綾野の体が固まる。
風船がしぼむように、綾野の中から威勢が抜けていく。

──じ──じゅう? ピストル?
そんなもの──なんで僕に向けるんだ? それは──え? 人を簡単に殺せてしまうっていう──

青村──サキ?
ああ、こいつが女子の2番だっけ? こいつのこと──僕、全然知らない──
いや、ていうか──そ、そんなもの下ろせよ。銃なんて、そんな危ないもの人に向けちゃあ──

「消えて」

青村サキは、銃を下ろさぬまま、ハッキリとそう言い放った。
その大きな鋭い瞳には、なにかが燃えあがっているかのようだった。

「5秒以内に消えて。そうしないと撃つから」
「え? え? 撃つって──な、なにを?」

完全に綾野はパニックに陥っていた。周囲のライトアップとは別に、綾野の視界はイヤにチカチカしていた。

──眩暈が──

「5、4、3、2、1」
「え? あ──ちょ、ちょっとまっ──」






パンッ





銃声とともに、マズルフラッシュが炸裂した。
銃弾は青村が外したのか、それとも外させたのかはわからなかったが、とにかく綾野には被弾しなかった。
脇の雑草の一部がちゅんっと根こそぎ消えただけだった。

青村サキはまだ綾野に銃口を向けている。硝煙が細く立っているのが、綾野の位置からでも十分わかった。

「ひゃ、ひゃ、ヒャアアア!」

殺される、という恐怖。
銃口、という恐怖。
銃弾、という恐怖。

様々な恐怖がカタチとなって綾野浩治を襲った。恐怖は綾野の脚に「今すぐ逃げろ」と命令した。
綾野の脚はすぐに命令に従い、普段は見せないような凄まじいスピードでライトアップされたディズミーランド内へと消えていった。

──ひぃ、ヒィィィ!
こ、これが殺されるってヤツか! こ、これが銃口を向けられる恐怖ってヤツか!
は、はははは、ハハハハ! 青村、パクらせてもらうよぉ! そのカウントダウン!

ハハ! ハハハハハ!






一方、青村サキの方は計画通り綾野を追い払ったことを確認すると、ベレッタM84を腰に刺し込んだ。

青村はさらっとしたポニーテールの髪を揺らし、そのまま颯爽とディズミーランドの光の中へと消えていった。


──ごめんね、今はここで待つことはできない。危険な輩が多すぎるから。
あなたに逢いたいけど、今は無理。でも、いつか必ず逢いにいくから。


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