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流れる涙は罪色で
日時: 2010/12/27 15:29
名前: ルリ (ID: yL5wamFf)

初めまして。ルリと言います。
別のサイトでも同じ題名の小説を書いていますが、たくさんの人の感想が聞きたいのでここにも書こうと思います。
宜しくお願いいたします。

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Re: 流れる涙は罪色で ( No.1 )
日時: 2010/12/27 15:34
名前: ルリ (ID: yL5wamFf)

序章

 影さえも塗りつぶしてしまうような、暗く、寂しすぎる広々とした部屋。大人二人が両手を目一杯広げても手が端から端まで届かないほど大きな窓から、月明かりが部屋に差し込んでいる。けれど、それは客観的に見て大きいと表現されるであろう窓から入ってくる明かりにしては、少なすぎて。僅かという言葉に幸か不幸かしっくり当てはまっている。 大きな窓が一つあるその部屋に家具と言えるものはほとんど無い。唯一、壁に洒落た青の画鋲で留められた鏡だけが家具と言える。
 鏡は成人女性の平均身長ほどの高さ。成人女性三人が横に並んでも、一人もかけることなく映ることができるであろう。それほど縦横が大きい。それ程の大きさのだ円形の鏡は、滑らかな木にはめ込まれている。木は彫刻刀のようなもので彫られ、幾何学的な模様が付けられている。アンティークというものなのかもしれない。
 けれどその鏡が映すのは淀んだ、この世のものとは思えない色。強いて言うならば、灰色。そんな、何故か映している灰色がアンティークのような風貌の鏡を台無しにし、霊的な印象を抱いてしまう。いや、抱かずにはいられない。
 その前に、いる。鏡よりも僅かに低い背丈の、細身の女性が。その細身の体にぴったりのけれど折れてしまうのではと思わずにはいられないほど細く、雪のように白い腕を後ろ手に鏡に伸ばし、鏡の表面に手を当てている。あたかも、鏡をなでようとするかのように。
 目を閉じた女性はこの世のものとは思えないほど美しい。妖精、女神、天使。そんな伝説上の生き物に例えてもまだ足りない程の美しさを持つ女性は、永久とも思える時を経て整えられたまつ毛を僅かに揺らし、目を開けた。澄んだ湖のような大きな目は、セミロングとロングの中間あたりの髪と同色の栗色で。それは正しく優しさの具現だった。
 女性なら誰もが羨ましがる髪質の髪を緩やかに揺らし、鏡に向き直る。
「ねえ、若奈」
躊躇いと思われる僅かな間合いの後に女性はポツリと、柔らかで、綺麗な優しい声を口を小さく開き呟く。その声は修練を積んだ名士が吹くフルートのような綺麗すぎる整った声で。女性の美貌によく似合う、一度聴いたらいつまでも覚えてしまえるであろう声。
「私は貴女のことが嫌いじゃないわ。貴女の願いがこの結果を招く発端だとしてもね。何故なら——」
 故に誰かに伝えるという明確な意思が備わっているその声の主の気持ちが沈んでいるのは明らかだった。特徴的な、誰が聞いても好意的な声だから。それは酷く明らかで。
 けれどここにはもう、そんな彼女の声を聞く者はいない。沈んだ気持ちに気付く者はいない。
「すべての元凶は他の誰でもない、貴女ではない、私なのだから」

Re: 流れる涙は罪色で ( No.2 )
日時: 2010/12/27 22:24
名前: ルリ (ID: yL5wamFf)

 血を吐くように、けれどゆっくりと吐かれた綺麗な声はこの世の懺悔と絶望を小さく一つに凝縮させたかのようなどうしようもない悲しみが満ちていた。
 女性の表情は泣く寸前の顔で、けれど決して涙を流さないようにしようとするかのように、唇を千切れんばかりに噛みしめ、手を痛みが生じてしまうほど強く握っている。
「貴女が私に語った懺悔は結果論だわ。確かに貴女が言ったような解釈も出来るけれど、それ以外にも様々な解釈が出来る。」
 聖書を淀むことなく読む熱心な信者のように、つっかえることもなく紡がれる言葉は、他ならぬ女性の懺悔だった。
 間違い、けれど、優しかった今はもうどこにもいない彼女達に語る、女性にとって唯一無二の真実だった。
「雨乞いをした。その後に雨が降った。だから雨乞いをしたから雨が降った。貴方達が語った懺悔は、この延長にすぎない」
 彼女達の懺悔の否定。しかしそれは頭ごなしの否定ではなく、母親が子供に語るような、そんな雰囲気。そんな口調。
「全ての原因はこの私。貴方達に偽りの希望を与えてしまった私が原因。罪という鎖で締め付けられたこの私が原因。……だから」
 淀むことのなかった女性の言葉が、涙交じりになり、止まる。泣かないように、誰にも泣いていることを気づかれないように口に手を当てて必死に隠そうとする。けれど、そんなことは全く意味が無い。
 女性は誰がどう見てもむせび泣いているのだから。
「ごめんなさい。私に泣く資格なんて無いのに。いなくなるのは貴方達では無くて私であるのが最も望ましいのに。……貴方達はただ優しすぎて、自分に厳しすぎただけだったのに」

Re: 流れる涙は罪色で ( No.3 )
日時: 2010/12/27 22:27
名前: ルリ (ID: yL5wamFf)

 女性の泣き声は、静かすぎる部屋に、当然のように響き渡る。女性を責めるこの空間に響く。この空間に差し込む月明かりは罪である女性を消し去るかのように清らかに光り、周囲の闇は女性に絡みつき、かかるはずのない声を、女性に容赦なくかける。
 そんな幻想の声に含まれるのは、とてつもない悪意と敵意だけで、僅かばかりの情けも感じられない。
 お前のせいだ。
 お前のせいで皆不幸になる。
 お前は罪だ。
 消えろ。
 消えてしまえ。
 消える以外に罪を償う方法など無い。
 そんな声に、女性は。
「……っ。ごめんなさい。ごめんなさいっ」
 綺麗な声で子供のように、顔がぐちゃぐちゃになってしまう程大量の涙を流しながら。女性はただただ、懺悔の言葉を床にべたりとしゃがみ込んだ状態で呟いていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」

 そして、終わりは始まる。

Re: 流れる涙は罪色で ( No.4 )
日時: 2010/12/27 22:36
名前: 楓 ◆oAtfAdT0ro (ID: uWyu1tga)

初めまして。今日小説をはじめたんですね。
私も始めたばかりです。なんか難しそうな話ですね。
良かったら、私のとこも見に来てください。

Re: 流れる涙は罪色で ( No.5 )
日時: 2010/12/28 08:37
名前: ルリ ◆qQ6wK6czCM (ID: yL5wamFf)

楓さん

コメントありがとうございます。
お互い頑張りましょう。
時間を見つけて見に行きます。


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