ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Ebony girls dual Fencer 参照400
- 日時: 2011/09/09 01:23
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5640
こんばんは、そして、初めてのお方は始めまして、無名の作者でございます、だいこん大魔法というものです^^;ほかの掲示板では完成させていない作品が何個かあると思いますが(おいw それはおいといて・・・今回は初めて(シリアス全般のファンタジー)を書くという事で、作風を大きく変えて、一人称物語を変更いたしました。まぁ変えたところで結局駄作には変わりないのですが、温かい目でお見守りいただけると不肖だいこん大魔法、嬉し涙があふれんばかりです^^
というわけで、まず最初に注意書きをおいておきたいと思います^^
1、更新速度がとてつもなく遅いかもしれませんが、そのあたりは作者の気まぐれなので暖かいめで見守っておいてください^^;
2、中傷やわいせつな発言、荒らしなどは作者やお客様にも迷惑になってしまうと思われますので、控えるどころか絶対にしないでいただけるとありがたいです、もしもやりたいおかたは直ぐに戻るのボタンをおしてお帰りください^^
3、コメント、アドバイス(ここをどうしたらよく見えるか)などはいつでもまっておりますので、やっていただけると作者が喜びます^^
とまぁこんな感じになります。
細々とした設定などは、追々と追加させていく所存ですので、よろしくお願いいたします^^
なお、キャラクターたち【企画参加者さまも】を勝手に作者が絵に描いてしまいますがあしからず・・・
タイトルの意味 Ebony girls dual Fencer 【デュアルフェンサー 漆黒の少女】
†・・・First story(シャルル・S・リーネ ルート)・・・†
First Chapter Zero・・・【Variant】 >>1
First chapter・・・【Storage】>>2 >>3 >>4
Chapter II・・・【Dual Fencer】>>5 >>9 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>21 >>23 >>25 >>26 >>30 >>31 >>32
————————————————————————
†・・・Character・・・†
Hero 夜峰 黎迩 (やみね れいじ)
Heroine シャルル・S・リーネ(シャルル・シャドウ・リーネ)【漆黒の少女】>>24
Classmate 幸凪 遥 (こうなぎ はるか) 舟木 力也(ふなき りきや) ・・・Coming Soon
Enemy 【異形】(Variant)
Mad god 【企画進行度零パーセント】
Organization name 【デュアルフェンサー】
Organization 【企画進行度十二パーセント】
第一企画出演者 野宮詩織さま
(キャラクターネーム【暁寧々】ヒロインの同僚。十六歳にして女。能力は異次元の扉を開くことができ、そこからさまざまなものをだすことができ、いろいろと応用を利かせることができるという。二つ名は【次元の鍵守】)出演開始>>15
第二企画出演者 れおいさま
(キャラクターネーム【由詩】ヒロインの同僚。十七歳にして女。能力は自身の血を固めて刃に変える能力。その形はどこかトンファーにも似ているが、一言で表すのなら魚の胸鰭。二つ名は【深紅の剣士】)出演開始>>26
特別企画参加者募集中(敵キャラ【Mad god】・味方キャラ【Organization】)・・・URL参照
————————————————————————
物語をつかむためのあらすじ↓
これは・・・とある普通の少年が、仮初の空間を通して現実を知る・・・不可解かつ残酷な物語———
いったいなにがどうなってんだよ・・・その言葉は、自身が見慣れていたはずの街をなにかから逃げるかのごとく疾走する少年の口から放たれた。
夕闇に染まっていたはずの街は、また違う、別の色によって染め上げられてしまっていて、さきほどまで騒がしいぐらいにまでいたはずの人々は全員動かなくなってしまい、自分自身だけが動けるという状況に恐怖しながら・・・後ろから迫る、さらなる恐怖から必死に逃げ続けていた。
その少年の後ろからは、ケタケタと不快に笑う———人間の倍以上の体躯をもった、顔の位置にはピエロの仮面、服は道化のような格好をしていて・・・左右に三本ずつぶらさがる腕のさきからはひとつの手に五本ずつの巨大なナイフという・・・ごく普通の生活をおくっていて、ごく普通の人生をおくっていた少年から見たら・・・【化け物】としかいいようがない姿をしたその・・・【異形】が、近づいてきていた。
少年と【異形】の歩幅はぜんぜん違う。そのためか、少年が全力で走っても一向に距離は離れない。それ以前に、少年が少しでも失速してしまったらすぐにでも追いつかれてしまうような、そんな勢いだった・・・まるで、見ている側からだと【逃げる獲物とそれを狩りにかかるハンター】のような光景だった。
やがて少年は時間をむかえる。
全力で、限界を超えるほどの力で走り続けていた少年は、足を攣る。それは、運動をしているものでもかならずなる現象で、少年がそれにさからえるはずもなく———少年は地面に無様に転がった。
それをみた【異形】は———少年のことをあざ笑うかのようにケタケタと笑う。耳障りな声で・・・不快な声で———恐怖を煽るかのような、声で。
少年はそこで絶望する。自分が助かるのがもう絶望てきだとわかったから、少年は顔を青ざめさせて【異形】のほうをにらむ。そしてその瞬間・・・少年の顔に、疑問の色が浮かぶ。
そう・・・少年は見たのだ。【異形】の後ろのビルから———小柄な人影が落ちていくのを———
———なにも知らない、なにも記憶しない、ただの人間であるはずの少年と、【異形】の存在の意味を追うヒロインたちが繰り広げる・・・過去に囚われ続ける哀れな物語———
参照100突破、あらすじ文公開
参照200突破、企画参加者の作中設定の公開(新情報)
第一企画参加者 れおいさま
小説内名前 由詩
年齢 十七歳
性別 女
小説内設定【自らの血を使い刃とかえて敵を殲滅する【デュアルフェンサー極東支部】のエリート。シャルルとは同僚で、よくともに【異形】を狩るために仲もよい。シャルルが心を許している数少ない人の一人。だが基本的内弁慶というか、仲間内弁慶なため、人見知りが激しい。自身では強くないというが、その実力は【デュアルフェンサー本部】にも認められているほどで、【化け物ぞろいの極東支部】に移されるという経緯をへてシャルルと出会う】
第二企画参加者 野宮詩織さま
小説内名前 暁 寧々(あかつき ねね)
年齢 16
性別 女
小説内設定【異世界の扉を開き、そこから銃弾や弾幕、光の剣などを生み出すことができ、【異形】をも圧倒する力を振るう美女。【デュアルフェンサー極東支部】のエリートでもありシャルルが心を許す友人の一人。基本的に楽観的なのかどうかはわからないが、いつも軽く物事を見ているような言動をする。悪戯好きでちょっと困りものだが、その実力は誰もが認めるものであり、【化け物ぞろいの極東支部】でも一際目立つ存在である】
参照300突破・・・自作絵(シャルルと寧々)>>29
参照400突破・・・企画参加者の名前と代表作(複数ある場合は作者が読んで一番心に残っている作品、小説を書いていない方は作者がその人に抱いている印象)
れおいさま(複雑・ファジーの 不定期更新で短編やら書いてみる)
野宮詩織さま(誰もが知っている小説大会優勝作品、おいでませ、助太刀部!!)
翡翠さま(コメディ・ライトの *。・二人の秘密・。*〜)
ヴィオラさま(シリアス・ダークの Redmoon night)
神様の懺悔さま(合作をやる予定でございます^^合作の話の進め方もうまく、頼れる方でございます^^)
焔錠さま(その物言い、その態度、なにもかもが魔王にふさわしい存在・・・かっけええっす、あこがれるっす←)
生死騎士さま(シリアス・ダークの 極彩色硝子【ステンドグラス】)
Neonさま(シリアス・ダークの 大好きだった君へ無様に生きた私より)
グレイさま(シリアス・ダークの 冥界の主は———)
菫さま(シリアス・ダークの 生徒会の秘密)
甘木さま(シリアス・ダークの 六道サイコパス)
秀元さま(二次小説(紙)の ぬらりひょんの孫〜短編集〜か〜も〜)
スフィアさま(シリアス・ダークの バスターワールド)
丸転さま(コメディ・ライトの 妹の小説にトリップした会社員23才。高校生やってきますっ!)
大王タコさま(・・・すべてが謎につつまれている。自分ではどんな印象をもっているのかもわからない・・・)
No315さま(前の小説でもいろいろとアンケートに答えてくださったりとお世話になったお方です、なんというかその温かい心は画面越しにも伝わってくるのですぜ・・・)
世渡さま(企画に参加してくださった神様の一人、その存在は明らかとなっていない・・・)
篠崎紅架さま(企画に参加してくださった神様の一人、名前からなんか美人さんな雰囲気が・・・)
IANAさま(二次小説(映像)の VOCALOIDで小説!)
風猫さま(シリアス・ダークの パラノイア)
美月さま(・・・うーん、なんていうんだろうか、名前から感じるにロリてきなイメージが・・・うへへww←)
ネズミさま(シリアス・ダークの 戦慄ユートピア かなり前の作品だ・・・)
jyuriさま(コメディ・ライトの バトルとお米と少しの勇気)
- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.1 )
- 日時: 2011/09/03 12:50
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
First Chapter Zero・・・Variant
「なんなんだよ・・・いったい・・・なにがどうなってやがる!?」
夕闇とも違う、ほかのなにかの色によって覆われた街の中を、一人の少年が疾走する。
少し茶色がかった髪の毛に、少しばかり鍛えられた体、それなりに整っている顔立ちをした、ごく普通の少年だった。
人並みをかきわけ・・・というよりも、動かなくなってしまった人の形をしたなにかを避けながら、その少年はなにかに怯えるように、なにかから逃げるように、息も絶え絶えになりながら全力で駆け抜けていく。
少年以外が誰も動かなくなってしまったこの街、夕闇ではない、ほかのなにかによってオレンジ色・・・いや、赤色に染め上げられたこの街は・・・あきらかに【異常】そのものだった。
街のすべての人間の動きが止まる、そんなことは、絶対に起こりえないであろう現象であり、ありえないものだった。
そう・・・これはありえない現象なのだ。
「くそっ・・・もう・・・どうすりゃいいんだよ・・・っ」
人並みをかきわけて疾走する少年は、後ろを振り返って絶望しきったかのような声をあげる。少年の体力はそれなりにあるようで、息がきれはじめているようにも感じ取れるがまださきほどと変わらない速度で走っている。だけど、その少年は完全に・・・逃げ切れないと悟っているのだろうか、諦めきった声でこういう。
「なんなんだよ・・・あの化け物はっ」
絶望しきった表情で、もう一度少年が後ろを振り返る。そう・・・その少年の視線の先には———【異形】があった。
動かなくなってしまった人々を蹴り飛ばしながら、少年以外が動いていないこの街を歩く、ひとつの影がそこにあった。それは、少年の身長よりもはるかに大きい、人間の倍近くの体躯を持った・・・道化師の姿がだった。
ピエロのような仮面をかぶり、道化のような服装をした【異形】は、その手に巨大なナイフを三本ずつもちながら、視線を少年へとむけて、仮面の下でじゅるり・・・とよだれをたらす。
それを聞いた少年は、顔を青ざめさせながらも必死に逃げる。少年と【異形】の距離は開いたままだが・・・なにせ大きさ、歩幅が違うため、少年が少しでも失速してしまったのなら、すぐに追いつかれてしまうだろう。それをわかっているからこそ、少年は本気で疾走し続ける。
まるで【異形】は・・・この【異常】の街の主であるかのように・・・そして、そこに迷い込んだ、自分の領域に迷い込んだ獲物を捕らえるハンターのように———少年に、狙いをつけ続ける。そして少年は・・・哀れな獲物、ハンターに狙われる獲物のように・・・ただただ逃げ回るだけ。
なにもすることはできない。というよりも、ただの人間がどうこうできるような相手ではないことはたしかだった。動かなくなってしまった人間を蹴り飛ばしながら歩いてくるようを見ていれば、その脚力がそうとうだということがわかる。もとより、その【異形】が走れば確実に少年は捉えられる。だがそれをしない。そういうことを考えると、この【異形】は本当にハンターなのかもしれなかった。
銀色の光を放ちながらゆらゆらとゆれるナイフ。その大きさは、人間が使っているようなちっぽけなナイフとは桁違いで、そこらへんに売られているような模造刀よりるはるかにごついもので・・・一回でも攻撃をうければ確実に人間なんてまっぷたつにされてしまうであろうことはたしかなものだった。
「ぐあっ!!」
そのとき、少年が悲鳴のような叫びを上げる。そのまま少年はごろごろと地面を転がっていき、うつぶせに倒れる。ハァハァ、荒い息をはきながら、必死に立とうとするが、しかしそれはかなわない。そう・・・今までずっと全力で、限界を超えてしまうぐらい全力で走っていたからこそおこった———そう、足を今この瞬間で、攣ってしまったのだ。
それをみた【異形】がケタケタと耳障りな声で笑う。その進行は止まらない。少年は振るえながらも顔だけを【異形】のほうにむけて・・・今度こそ完全に絶望しきったかのような目で、その【異形】を見ていた。
もう・・・確実に助からないことは確かだった。
「だ・・・だれか———たすけてくれ・・・」
そうつぶやいてみるものの、当然のように、この【異常】の街に少年と【異形】以外動いているものはいない。だから、間接的に少年を助ける、助けられるものは誰一人としていなかった。それを理解しているはずなのに・・・少年は、幻覚でも見たかのように、あるひとつのビルの屋上を見上げた。
そこにはひとつの影があった。
小さな影だった。【異形】のように、巨大な、あきらかに人間ばなれしているような影ではない。そう・・・それは、普通の人間と同じような、いや、少し小柄な人間の影が、そのビルの屋上にちらりとだけ見えたのだ。
「・・・は・・・はは、まさ、か、自殺しようとして・・・あそこで動きを止められたって言うやつか?」
絶望しきっていながらも、少しばかり皮肉な笑いをしてみせる少年。だが次の瞬間・・・その影が、突然ゆらりと揺らいだのが、少年の目に映った。
「なっ!?」
それをみて少年は愕然とする。その影は、屋上から飛び降りたのだ。何の前触れもなく、動かないと思っていたその人影が、突然屋上から飛び降りたのだ・・・そして、その落下先には———【異形】が、いた。
「なにやってんだよあの馬鹿!!くそっ・・・なんとかしねぇと———」
自分が動いたところでどうにかなる問題ではないとわかっていても、みすみすと、自分以外に動けるやつを殺させるわけには、死なせるわけにはいかなかった。場合によってはおとりに使えるかもしれないとか、そんなことを少年は思っていたりもしたのだが、そこらへんは気にしないでおこう。
少年は、動かなくなってしまった足に鞭をうって立ち上がる。無理をしているのがあきらかにわかるように、少年の右足、攣ったほうの足はブルブルと震えていた。だけども、もう少しの距離まで迫ってきている【異形】と、その上から落下してくる人影をみて・・・やるしかない、と、動きはじめる。
【異形】が再びケタケタと耳障りな声で笑う。少年の必死な姿を見て笑う。少年はそれに屈辱など覚えない。むしろ恐怖しか覚えない。だけども・・・みすみすと、自分の目の前で誰かを殺させる、死なせるわけにはいかない・・・その信念だけで、少年は動かなくなってしまった足に鞭をうって、再び全力で走り出す———【異形】のほうにむかって。
【異形】の笑いはそこまでだった。少年の突然の行動に唖然としているのだろうか、【異形】の動きが一瞬止まる。それを見た少年は、確実に自分の限界を超えるほどの力で走り、落ちてくる影の真下にスライディングする。その人影は、少年にそのままキャッチされて、少年はその人影をキャッチしたとみるやそのままお姫さまだっこの形で抱えあげて【異形】とは反対方向にそのままダッシュして逃げる。
冷や汗をかき、緊張しきった顔で少年は無理やりり笑顔をつくって、その自分が無茶してキャッチした人物の姿を見る。
そしてその瞬間———少年は、目を奪われた。
そう、それは女の子だった。少年が十五、六さいの外見だとすれば、その少女の外見はあきらかに少年のものよりは下だった。いってしまえば、十二、十三あたりぐらいの年齢をした女の子だったのだ。あきらかに日本人ではないであろう、煌びやかな金髪は片方でむすばれていて、サイドポニーという髪型になっている。目をギュッと瞑っていて、唇をぎゅっと引き結んでいるところを見ても、その少女の美しさは隠し切れない。幼いながらも完璧な美しさをもっているといっても過言ではなかった。体重はおそろしいほどに軽く、足もすらりと綺麗で、美しい。だけど———それだけではなかった。その少女の姿・・・服装が、あきらかに【一般人】のそれではなかったのだ。
黒い漆黒のマントをはおっていて、その下からのぞくのは漆黒の、シンプルな形をしたワンピース。手元を覆う手袋のような形をした防具、膝から下を覆い隠す漆黒のレギンス———そして、少女の首からたれる、十字架をかたどった漆黒のアクセサリー・・・。
コスプレともいえない、どこか不思議な姿をした少女だった。もしもこの状況じゃなければ、少年は確実にこの少女のことを痛いやつだとかいっていたのかもしれないけれども・・・それでも、少年は少女に目を奪われてしまった。
やがて、少女が目を覚ます。来るべき衝撃がこないことを不思議に思ったのか、その目を———あきらかに普通の人間とは違う・・・輝くような・・・紫色の瞳を———あける。そしてその目で———少年のことを捉える。
だが次の瞬間だった、少年が生存本能とでもいうのだろうか、後ろからせまる意思をもたない【殺気】を感じ取って、少女のことを無意識に強くだきしめてそのまま横に転がっていく。その瞬間、少年がさきほどまでたっていたところを、銀色のナイフが通り抜けていく。
・・・まさしく、間一髪だった。
だがそこで怯えているわけにも行かず、少年は少女のことを地面におろして、【異形】のほうを睨み付けながら立ち上がる。少女はそんな少年のことを不思議な目でみつめているが、少年はそんなことは無視して、【異形】にむかって一歩、一歩と歩き始める。
そう・・・どうしてか少年は、この少女のことを守りたい、とか思ってしまったのだ。
美しい外見に目を奪われたから・・・とかそういうのもあるかもしれない。だけども、それとはちょっと違うような・・・それでも、少年は納得のいかない思考を振り払って、憤怒の形相と化した【異形】を怯えながらも強気な瞳でにらみつけて・・・一歩一歩と近づいていく。
そのときだった
「・・・まって」
清んだ、とても優しく、綺麗な声が、少年の耳をうった。
その声の主が誰なのかはすぐにわかった。少年は後ろをふりかえって、その少女のことを見つめる。その少女はいつのまにか立ち上がっていて、少年の服のすそをきゅっとつかんで、フルフル、と頭をふった。
「あいつはあなたのような人間がどうにかできるような相手じゃないのです」
そして、こちらに憤怒の形相で迫ってきている【異形】を指差す。
だが少年は、そんなことわかっている、といって
「だからといって・・・このまま逃げてたってどうせ捕まっちまうだろ?だったら・・・」
「大丈夫」
少女が、少年の決意というか、思いというか、それをさえぎって言葉を口にする。
「さっきは着地に失敗しそうになったけど、私はあなたみたいに弱くないですから」
そういって少年の体を思い切りひっぱって、無理やり後ろにさせる。そのまま少女は【異形】にむかって歩きはじめる。当然のように少年は、それを止めようと叫ぶ
「まて!!まさか囮になろうってんじゃないだろうな!?だったら俺が———」
「囮?」
そして一瞬、少女が振り返る。そこにはあからさまな自信の表情が浮かんでいて・・・あからさまに、少年を馬鹿にするような表情が浮かんでいた。
「この程度の【異形】に、私が負けるはずないのです」
そして———少女が、十字架に手を当てる。それに呼応するかのようにして、十字架が漆黒の光を放ち始めて・・・その光が少女の右手を包み込み始める。それはやがて細長く伸びていき————シンプルな、西洋の剣の形をした、漆黒の剣となる。
唖然とする少年に見向きもしないで、少女は走り出す。その速度はあきらかに人間のそれとは違う、いくらどんなアスリートでもここまでの速度はだせないってぐらいに早く———【異形】との距離をつめる。
【異形】はそれに反応することができなかったが、一瞬おくれてナイフをふりかざす。それを少女はひらりと、あっさりとかわして、剣を【異形】の足を狙いにして横薙ぎに振るう。それは、あからさまに軽やかな動きで、とても力が入っているようには思えなかったが・・・その斬撃は【異形】の足をあっさりと切り落として、【異形】が悲痛なばかりの絶叫をあげる。
だが少女の動きは止まらない。そのまま大きく跳躍して【異形】の腕を、切り落とす。そしてその腕が地面に落ちる前に一度足場にして、もう一度跳躍をする。次に斬ったのは首だっだ。【異形】の首は断末魔をあげることなく切り落とされて、そのまま地面に落ちる———そして、切り落とされた【異形】の破片は、赤黒い・・・だけども、けして人間の血ではないものを流しながら、その姿を薄れさせていく。
だが少女の動きは止まらない。そのまま【異形】を何度も何度も何度も何度も引き裂き、最終的に【異形】の原型がどうなっていたのかわからなくなってしまうほどにズタズタにして、少女は一度舌うちをする。
「うーん・・・やっぱり今回のも【狂い神】じゃなかったね・・・ちょっと大きかったから期待してたのですけど」
そして、完全に置き去りにされてしまった少年は———ただただ唖然として・・・そして、助かったという安堵の息とともに・・・こんな言葉がでてきたのだった。
「いったい・・・なにがどうなってんだ?」
未だ動かない人々、未だ変わらない町の【異常】をみつめながら———少年は改めて、夜峰 黎迩は改めて———自分がどうしてこんなことに巻き込まれたのか・・・という記憶を、たどり始めた。
- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.2 )
- 日時: 2011/08/18 05:10
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
First chapter・・・Storage
さかのぼること九時間前
その日はいつもとかわらない、普通の・・・男子高校生、というよりも、普通の一介の高校生として、あたりまえすぎる光景のもと朝が始まった。
夜峰家の長男であり一人っこである黎迩は、両親ともども共働きのために、毎朝用意されている朝飯を一人で食べる、というところから朝が始まるといっても過言ではなかった。
「・・・ねむい」
誰にいうまでもなく、黎迩はそんな言葉をもらす。
夜峰家はもともと、古い旧家とかそういった類のものではなく、むしろごく一般的な普通の家庭だ。父方のほうがだいぶ長くから夜峰家を相続していると聞くが、ただそれだけである。
適当に朝飯を食いながら、黎迩は時計を見上げる。するとそこにはと七時十分という時間が記されており、学校までの距離がだいたい十分もかかんない距離であるために、ぜんぜん余裕だな、とか思いながら、テレビをつけることにした。
テレビには、朝のニュースが流れており、天気予報だの政治経済がどうこうだのといったさまざまな情報が飛び交っているが、どれも黎迩の頭に入ってくることはない。そもそも、朝のニュースはだいたい記憶に残らないものがおおいというか、むしろまじめに見ている人は少ないんじゃないかと思っても不思議ではないぐらいじゃないのか?と黎迩は誰にいうまでもなくそんなことを思う。むしろ頭に残るものっていったらだいたい天気予報ぐらいしかないのもそれはまた事実なので、気にせずにニュースを左から右に受け流しながら朝飯である食パンをほおばりながら、その隣にあるサラダにドレッシングをかける。
簡素に食事といえるぐらいにシンプルな食事なのだが、別に黎迩は気にしない。むしろ、昼にガッツリといつも食べているために、朝飯はあんまり多くしないでほしいといったのは黎迩のほうなので、文句が言えるはずもない。
適当に飯を食べ終えた黎迩は、食器を片付けることなくそのままリビングをあとにして、自室のある二階の部屋に戻り、鞄の中に適当な道具を詰め込み始める。高校とはいっても、毎日教科書を持ち帰っているわけでもなく、そういった規則もないので、だいたいもっていくものは授業とは無関係のものばかりなのだ。
まだまだ時間がありあまっているために、黎迩はどうしようか、と一瞬思案顔になるが、すぐさま今日は朝風呂でもしてくかな、とか思ったりもして、二階の、黎迩の部屋の隣にあるぜんぜんおきてこない、このまま寝てたら学校遅刻するぞといいたいぐらいおきてこない妹の夜峰裕香の部屋をちらりとだけ見て、おはようと小さくつぶやき、もう一度一階に下りて、今度はリビングのほうには向かわずに、そのまま風呂場に直行する。
洗面台と隣接している風呂場は、さほば大きくはない。かといって、せまいわけでもないので、まぁいってしまえばありきたりの風呂場というものだ。
黎迩は、寝巻きであるジャージを脱ぎながら、ふと思って洗面台のほうに目をむける。洗面台の近くに洗濯物を入れる籠があるために、どうしても洗面台の近くで着替えないといけないのだ。その洗面台には当然のように鏡があるわけで・・・そこには———少し茶色がかった髪の毛、ジャージを脱いで、シャツ一枚になったからわかる少しばかし鍛えられた体、それなりに整っている顔立ち、鋭い目つき・・・一言でいってしまえば、あまり目立つようなタイプではない、普通の少年の姿がそこにはあるわけで
「・・・そろそろ髪きろうかね」
とか鏡を見ながら思ったりするわけで、だけどそう思ったところで結局髪の毛を切れるのは親がいる休日のどちらかしか無理で、しかも今日は週の始まりである月曜日のために、あと五日ぐらいまたないといけないという現実をつきつけられたりもして、ちょっとだけ元気がなくなる。
そんなことを考えててもしょうがないな、と自分に言い聞かせるかのようにして黎迩は鏡から目をはなし、脱ぎ終わった洗濯物を洗濯籠にいれて、ちょっと贅沢な気分になった朝風呂を開始するのだった。
「あ、黎迩く〜ん、おっはよ〜!!」
「あ・・・ああ、幸凪、おはよう」
朝風呂にはいって、今日はなんかいいことがありそうだぜ・・・とかなんとかいろんなことを考えながら家をでたのが八時十分の出来事となる。
学校指定の制服に着替えた黎迩は、そのまま鞄をもって家をでて、それからだいたい五分ぐらい歩いたところで一人の生徒に捕まったのである。
黎迩の家は住宅街の真ん中らへんにあるために、そう、黎迩とおんなじように、近いから、といったふうな理由で・・・水無月高等学校に通う生徒がそれなりにこの場所を通るのだ。別に学校に行く道がひとつというわけでもないのだが、この道が一番の近道であることを知っている生徒は多いらしく、黎迩もそのうちの一人だった。
黎迩は、後ろのほうからかかった声の主が誰だかだいたい予想がついていたので、振り向きざまに返事をする。その黎迩の視線のさきには、同じく水無月高等学校の指定の制服をきた・・・幸凪遥、という名の女子生徒の姿があった。
黒髪のショートヘアーで、身長もそれなりにあって、体のメリハリちゃんとしている。指定の制服であるセーラー服とプリーツスカートという組み合わせは、彼女の活発的なイメージをさらに際立たせているようにも思えるほどだった。スカートの中から伸びる足はそれなりに鍛えられているのだろうか、ほっそりとしていながらも、引き締まっているイメージがあった。
だが・・・黎迩は正直、この女子生徒を苦手としていたのだ。
実際問題、黎迩は普通すぎるタイプの人間で、こういった活発てきでかわいらしくてなんというかちょっともてそうなタイプの女の子とお友達てきな関係にはべつになってもかまわないのだが、あれなのだ、ちょっと元気すぎて黎迩のテンションがついていけないところが多くあるのだ。だからだろうか、黎迩はちょっと元気を、朝風呂にはいって得た元気をちょっとばかし失いつつ・・・
「そしてさようなら」
「え、ちょ・・・、ちょっとまってよ黎迩君!!そんなあからさまに私を避けるような態度とらないでよぉ〜!!」
「ふっ・・・俺は朝からそんなテンションの高いやつと知り合いになった覚えは・・・」
「とかいいながらさっき挨拶したじゃん!!」
早歩きで歩きだそうとした黎迩の肩を、がっしりと両手で捕まえる。それによって黎迩は前に進むことができなくなり、想像以上の力に拘束されながらも、なんとか逃れるための手段を頭の中でいろいろと模索し始める。しかし
「黎迩君、しばらくみないうちに成長したわね〜ん・・・」
とかいいながら、遥が黎迩のあたりまえのように平べったい胸に手をのばしてくる。さすがにちょっとばかし鍛えているとはいえ、女性のそれほどもりあがるわけではないのが男の胸・・・否、胸筋というものだ、黎迩の胸は遥の手にすっぽりとおさまり・・・
「ちょっ・・・おま・・・」
「ぐへへへへ・・・こうすりゃええのか?こうすりゃええのか〜?」
「あっ・・・やめ・・・ってなにしやがる!?」
黎迩が若干強引に遥の拘束を解き、引きつった笑顔で遥のことを見る。というよりも、美少女が朝っぱらら男子生徒にセクハラするっていったいどうことだよとかそんなことを思っていたりもしたのだが、当然それを口にだすわけでもなく
「それはもちろん、愛しの黎迩ちゃんを愛でるために・・・」
「まて、おかしい、俺は男だ、そしてお前は女だ、OK、これどういうことかわかる?」
「つまりあれだね!!愛があれば関係ないってことだよね!!」
「・・・じゃ、俺急いでるから」
「って黎迩く〜ん、冗談だってば〜!!」
顔を少し赤らめながら、黎迩は早歩きで再び歩き始める。それを後ろから遥がとてとてと追いかける。
一言でいってしまえば、美少女に愛しのだとか愛でるだとか、愛だとかいわれるのはものすごく恥ずかしいのだ。だから黎迩は顔を見られないようにいつもの数倍早く歩く。そう、黎迩はこういったタイプ、恥ずかしいことを平気でいってのける元気娘が苦手なのであった。
毎日が平穏で、なにもない、普通の日常を生きていく日々・・・そんなことに、黎迩は退屈していた。
別に、つまらないとかそういうわけではなかった。今のように、苦手だけれどもおもしろい遥とかが周りにいたりして、つまらないはずなんてないのだ。だけれども・・・なにをするにもやる気がなくなってしまった黎迩にはもう、この日常を、平穏すぎるこの日常を覆せるほどの、気力など残っていなかったのだ。———そう、なにもかもを失ってしまった・・・自分自身といってもいい———剣道というスポーツを失ってしまったあの日から———黎迩にはもう、なにをするにもやる気がなくなってしまったのだ。
キッカケは些細なものだった。大会で、たまたま同じところで習っていた先輩とあたり、その先輩が黎迩に負けろといってきて、それでも黎迩は剣道を本気でやっていたから、当然のごとくそんなせこい手を使うような先輩のことを圧倒して倒した。そして黎迩はその大会で優勝し、先輩は一回戦敗退となった。
そのときの屈辱からなのだろうか、先輩は黎迩に嫌がらせをするようになった。始まりは黎迩の胴着に落書きをすることからだった。だがそれはしだいに派手になっていき、小手を隠され、黎迩専用の竹刀を真ん中からへし折られ———最終的に、黎迩本人にたいしても、嫌がらせの範疇をこえたその行為を———するようになっていった。
最初は黎迩が横を通ったときに肩をぶつけるものから始まった。それは当然のごとくエスカレートしていき———裏に呼び出し黎迩のことを集団で圧倒し、ボロボロの雑巾みたくしたあとに、サイフを奪っていった。そして———そんな日々が、二ヶ月も続いたのだった。
黎迩はそのころは中学二年生で、当然のように、そんなことを親にはなせるわけもなく・・・そして、自分でもその過激になっていくいじめ・・・誰も味方ではなくなってしまったその現状を解決できるわけもなく———唯一相談できる相手であった妹の裕香に多大な迷惑をかけ———その事件は、起こるべくして起こってしまった。
誰も奪ってはいけない———人の夢・・・黎迩の夢を、その先輩は・・・奪った。
いつもと同じように、道場の裏に呼び出されて、いつもと同じようにボロ雑巾のようにあつかわれていた黎迩にむかって・・・先輩は、ゲラゲラと笑いながら———こういったのだ。
(黎迩く〜ん・・・最近ちょぉっと反抗ぎみだねぇ?上下関係ってのをわきまえない餓鬼には教育が必要だなぁ?)
そして———道場から、ひとつの木刀をもってきたのだった。
ほかの、黎迩をノリでいじめていたやつらも、さすがにそれはやばい、といった。だけども、当然のようにそれはとまらずに———黎迩の左肩に、思い切りたたきつけられた。
それがきっかけで———黎迩の左肩は骨折、幸いにも一年でその怪我は治ったが、親がその事件をしって、今のこの街に引越して、黎迩には剣道をやめるようにと告げた。当然のように、左肩は直ったはいいけど、これ以上剣道は続けられないという医師の判断というか、医師の宣告により・・・黎迩の夢は、そこで絶たれてしまった。
当然のように黎迩は絶望した。どうして自分がこんな目にあわなければならない、どうして自分が———自分が———と、何度も何度も、そんな言葉を吐きながら、泣き続けた。妹の裕香は、そんな黎迩をはげましたりしたが、黎迩は反発して、傷つけた。そしてその自分のその行動に・・・黎迩はまた絶望したりした。そんな日々が一年続いて———ただただなにもすることなく、高校にはいって———普通すぎる、日常を送るようになった。
だからこそ———黎迩はつまらなくなくても、退屈を感じていた。自分がなにもしていないのなんて信じられなかった。自分が夢を絶たれたなんて、信じられなかった。だから現実から逃げて———ただただ、平凡すぎる、平穏な日々をすごしていた。
そこで一度、黎迩は空を見上げる。空は、澄み切ってはいないものの、綺麗な青色をしていた。ところどころに灰色の雲が見えるところから、雨がふるのではないかと伺えるけれども、今日の天気予報ではべつにそういうことはいっていなかったので、気にしない。
「黎迩く〜ん!!まってってぱぁ〜・・・ちょっ・・・ほんとにまってください」
後ろからちょっとかわいそうなぐらいに弱気になってしまった声が聞こえて、ようやく黎迩は後ろを振り返る。頭から、失ってしまった夢の記憶を消し去り、再び現実を逃避して、黎迩は後ろを振り返る。そこにはちょっと涙目になってしまっていた遥の姿があって、黎迩はそれに少しだけドキッ・・・としてから、ハァ、と一度ため息をついて
「言うことは?」
「ご・・・ごめんなさい」
「ん、よろしい」
そこで一度黎迩はニヤリ、と意地悪気な笑顔を遥にむけて、遥がそれに頬をふくらませておこったぞ〜、てきな雰囲気を放ちはじめる。
それを見て再びはぁ、とため息をついて、黎迩たちは通学路を歩くのだった。
- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.3 )
- 日時: 2011/08/15 13:34
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
「ふぅ・・・やっとおわったぜ」
あの後、遥と一緒に学校にきて、ちょっとばかしクラスメイトにからかわれたりなんなりしたあと、授業が始まり、ようやく四時間がおわって時刻十二時五十分。椅子の背もたれに意気消沈したかのような雰囲気で黎迩がそうつぶやく。もともと勉強は苦手なほうではないのだが、やる気がないために授業とかを聞いているだけで眠くなってしまうのが黎迩の常だった。先生のわかるようでわからない説明を適当に聞き流して、そして聞き流しているだけでは暇すぎるのでいろいろな暇つぶしを模索して四時間を過ごして、ようやく待ちに待った昼休みなのである。
「なぁ夜峰・・・お前最近ちゃんと授業うけてんのか?」
「舟木・・・お前が俺にそれをいうのか?」
黎迩が椅子の背もたれに力なくもたれかかっていると、隣の席から声がかかってくる。そこには、黎迩と同じく水無月高校の男子生徒の制服をきた、ちょっと生真面目そうな顔立ちをした・・・舟木力也という生徒がいた。
あからさまに馬鹿にしたかのような態度でこちらにそういってきた力也は、黎迩にこそそうはいっているものの、その生真面目そうな顔立ちとは裏腹に、勉強をそっちのけで毎日授業中にいろいろな一人遊びを実施している、いってしまえば別の意味でのさぼり魔だった。だからこそ黎迩とは気が合うのだろう、黎迩は親しげにいう。
「毎日毎日へんなことばっかりやりやがって———集中したくてもできないだろうが」
「なにをいっている、集中できないのはお前の集中力がもとからないからだろうが」
「・・・うん、それいわれたら反論はできないんだけどね」
「わかったのならばよろしい・・・っと、さて、今日も購買にいくのか?」
「あー・・・購買、飯か・・・うん、行こうか」
よっこらせ、と力也が机に手をかけて椅子から立ち上がる。黎迩をそれを道地も、まだ絶つ気力がなかったために、ノロノロと机に手をかけて、ゆっくりと立ち上がる。そのさまはまるで老人のような動きで———
「夜峰・・・俺、いいとこの老人ホーム知ってるんだけど———はいるか?」
「・・・?なにをいってるんだお前は」
突然まじめな顔でそういってきた力也に対して、黎迩はちょっと心配そうな目で力也のことをみつめる。その目はまるでこいつ精神やばいんじゃないのか?俺がなんとかしてやらないと・・・とか思っているようにも見えた。
「いや・・・自覚がないんならいいんだけどさ、じゃ、行こうか」
それに気がつくことなく、力也が鞄のなかから財布を取り出して、黎迩を促す。黎迩もノロノロと自分の鞄から財布を取り出して、行こうか、と力也の肩を借りながらいう。やはりそこで力也は黎迩にたいして、老人を見るかのような優しい目つきになるが、黎迩は気にしない。
「あら、黎迩く〜ん、それとついでに舟木く〜ん、今日も購買いくの〜?」
するとそこで、教室の端のほうに集まっていた女子グループのうちの一人・・・まぁ遥なのだが、その遥が、黎迩たちにむかって手をふりつつそういってくる。それに黎迩はめんどくさそうな目で振り返るが、舟木は・・・女子に声をかけられたからだろうか、なぜかちょっとウキウキしたかのような目で振り返って
「ハッハッハ、やだなぁ幸凪さん、俺がついで?冗談じゃない、夜峰こそが俺のついで———」
「ハッハッハ、なにをいってるのかな舟木君。黎迩君がついでだったらこの世界の人間すべてついでだよ」
「くっ・・・おい夜峰!!てめぇその汚らわしい手を俺の神聖なる肩からどかしやがれ!!」
「態度一気に豹変したなお前・・・」
「うるせぇ!!くぅっ・・・幸凪さんみたいな女子に好かれているお前がうらやま・・・じゃなくてお前を殺したいぜ・・・」
「まぁ・・・そんなことより、幸凪、なんか用か?」
若干めんどくさげにため息をした黎迩の隣では、やはり憎憎しげに黎迩をにらみつけている力也とその他男子生徒たちの姿がある。それを確認した黎迩は再び深いため息をつくが、そんなことおかまいなしに遥がこういう。
「黎迩君たち購買いくんだよねー?」
「ん、まぁそうしないと昼飯がないからな」
「昼飯を買いに行くのー?」
「だからそういって———」
「じゃぁ黎迩君はその昼飯を買いに行く必要がありませーん」
「・・・は?」
意味がわからない、といったふうにため息をついた黎迩は、こっちこい、と手招きしている遥のほうに歩いていく。その間にも力也たちは憎憎しげな視線を黎迩に送っている。だが遥はそんなことに気がつくことなく、そのまま黎迩にこいこい、と手招きをし続ける。
黎迩は、女子のグループに近づくにつれ、若干気後れしたかのような態度になるが、そんなことお構いなしに遥が黎迩の腕をとり———言うのだ。
「これをみなされ!!」
そう、そう遥が意気込んでいったさきには———ひとつの、ちょっと女子が食べるにしては多すぎないかと思われるほどの大きさの弁当がおかれていた。
それを見て黎迩は———自分の命が危険だ、と直感で感じとった。
バッと後ろを振り返り、その振り返り際に拳を振るう。するとその先には血走った目をした力也の姿があって———その拳は力也の鼻に強烈にヒットした。
「くっ・・・」
だが敵はまだいる。なにをするまでもなく弁当を食べていた男子たちが突然立ち上がって、みんなして血走った目を黎迩にむけているのだ。
普段はおとなしいやつから超筋肉もりもりなやつまでもが黎迩に殺気とも似通ったその気を漂わせて———一歩一歩、ゆらゆらと、生気をなくした幽霊のような足取りで———近づいてくる。
「そう・・・このお弁当は・・・わ、私がれ、黎迩君のためにつくったものなのです」
黎迩が冷や汗をかいて、まるで世紀末の魔物と相対しているかのような気迫でおもむろに立ち上がった男子たちをにらみつけている間にも、遥が、遥らしくない、ちょっと小さく、弱気な声でそんなことをつぶやく。だが黎迩はそれに反応することができない。まるでゾンビのように立ち上がった力也が黎迩の前に立ちふさがり、黎迩がその脳天に肘轍を叩き込んで、再びノックダウンさせたはいいが、その力也の動きに反応したかのように動き始めた・・・統率のとれすぎている男子たちに引っ張られ、そのまま女子グループの反対側の教室の端っこにつれていかれ———どこから取り出したかもわからない縄で体をギュゥギュウに縛られる。
「えー、これより、被告人———夜峰黎迩の公開処刑を始める。異議があるものはそれを唱えてもいいがそれが通ることはけしてないだろう」
「異議なーし!!」
「ちょっ・・・まてお前ら、俺が異議ある、異議あり異議あり!!」
「なお被告人の言葉には誰も耳を貸してはいけないことにする」
「て・・・ちょ・・・お前ら本当にふざけ———」
「ふざけているのはお前だ!!忘れたのかあの規約を!!」
「っ!!」
「我々は誓いあったではないか———世紀末のあの日に、我々一年四組男子生徒一同は———女子生徒とは適度な付き合いしかしない・・・と」
「・・・っ」
「なのに貴様は・・・私たちを裏切った・・・よりにもよって私たちのアイドル・・・女神・・・まじ天使である幸凪遥さまに弁当をもらおうなどといううらやま・・・じゃなかった、もらおうなどという規定違反の行為を犯した———」
「そ・・・そうだった・・・俺は・・・お前らを———」
「わかってくれたか———同志よ・・・」
「ああ———もう二度とこんなことはしないよ・・・」
縄を解かれながら、感動したかのように目をうるうるとさせた黎迩と、さっきからなんか裁判官っぽいしゃべり方をしていた、どうしてかぜんぜんピンピンしている力也と見詰め合う。そう・・・この二人はついにわかりあったのだ。もう・・・これをきっかけに、この二人の絆は———不滅になるのだ———
「黎迩く〜ん・・・も・・・もしかして、私の弁当とか、いらなかった?迷惑だった・・・?な・・・なら・・・ごめんね?」
「ま、まつんだ幸凪!!別に迷惑なんかじゃないぞていうかむしろうれしいっていうかありがたいって言うか———」
「そ・・・そう?なら———「えー、ただいまより、被告人を公開処刑にいたす」いいんだけど」
「ってもうやだこのクラス・・・」
再び縄に縛られながら黎迩は———あきれたかのようなため息をはくのだった。
- Re: Ebony girls dual Fencer ( No.4 )
- 日時: 2011/08/15 18:48
- 名前: だいこん大魔法 (ID: qd1P8yNT)
「おう夜峰、一緒に帰ろうぜー?」
昼休みの喧騒がなにごともなかったかのように、時間はすぎて、放課後、黎迩の隣に座っていた力也がそういう。黎迩はそれにちょっとだけすまなさそうな顔になって
「すまん、今日はちっとばかし商店街いかないといけないんだわ」
「あー・・・なんか前にもいってたな、たしかお前の好きなアーティストのCDが発売だったんだよなぁ・・・よし、なら俺もついてってやるよ」
力也が胸をはってそういう。それはただたんに暇だったために言った発言なのかもしれなかったが、正直黎迩は、一人でいくよりはこいつといったほうがつまらなくはないかも、とか思っていたりもして、だから別段断る理由もなかったから
「きてもいいけど、べつになんもないぞ?」
「いや、ちょっぴり俺もCDとかたしかめたいし、ちょうどいい機会だからな。」
黎迩がちょっと気だるげにしながらも椅子から立ち上がり、鞄をとる。それにつられるようにした力也も椅子から立ち上がる。ちょっとだけ夕暮れに染まった外を一瞬だけ見た黎迩は、部活だといってさきにいってしまった遥の席を一度だけ見て、まぁ平凡もいいかもね、とか再び現実を逃避するかのようにして頭の中でつぶやく。なにかをしなければならない。なにかをしなければ自分が自分ではなくなってしまう。その対象が剣道で、剣道で夢をつかもうとした。だけどそれがなくなってしまった今・・・新たに何かをやらなければならないのに・・・それをしない自分、そしてそれを逃避している自分の姿はひどく・・・穢れているはずだ。なのに、遥はどうしてかそんな自分に好意をよせてくれていて———そしてそれをみて自分は———また、現実を逃避してしまうのだ。だから・・・また、それを黎迩は、頭の中から消し去る。
「・・・どうした?夜峰、どこか悪いのか?」
「・・・いや、なんでもな———」
「ああ、そうか!!頭が悪いのはもとからだったか!!」
「お前・・・死にたいようだな」
「うるせぇリア充、裏切り者・・・思い出したらムカムカしてきたな、おい、残っているお前らだけでもいい!!すぐに【撲滅裁判】の格好になってこいつのことをぶちのめ———」
「って冗談じゃねぇぞ!?」
昼間の悲劇?を思い出した黎迩は一目散に鞄を持って走り出す。その間にも後ろからそいつを止めろ!!とかいう声が聞こえてきて、それに反応したクラスの男子たちが黎迩を止めに立ちはだかるが、それを意図も簡単にすり抜けて黎迩はニヤリ、と笑う。もうすぐそこにドアがあったから。あとはそれを引いて外にでてしまえば、廊下を一直線に走ってあとは外にでるだけだ。そこまで考えたところで・・・黎迩は、絶望することになる。
そう・・・教室のドアの前。黎迩に立ちはだかるようにして現れたのは・・・超ガチムチ、筋肉もりもりのレスリング部の男子・・・竹中
翔太だったのである。
その体格差は相当なものといってもいいであろう。黎迩の身長よりはるかに大きい身長、横幅、そして制服の腕のすそをまくっていなくてもわかるように浮き出ている筋肉の筋、足の太さなんていってしまえば黎迩の倍ぐらいあるといってもいい。
そう・・・そこを通り抜けるのは、ある意味では不可能といっても過言ではなかった
「よし、いいぞ竹中君!!そのまま夜峰を抱擁しろ!!」
「くそっ・・・冗談じゃねぇからな!!」
こんな硬そうな男に抱きつかれてたまるかといった勢いで、黎迩は駆け出す。その瞬間に、竹中がサッカーのキーパーのような構えになって、黎迩を通さないといわんばかりに目を細める。だがしかし、黎迩はそれにまるで萎縮したかのような気配を見せることなく———そのまま、広げられた足にむかってスライディングし、又を抜けるようにしてすべり、そのまま教室のドアを足で無理やりこじ開けて、廊下にでるやいなやすぐさま体制を立て直して、走り出す。
竹中は呆気にとられたといわんばかりの顔になり、ほかの黎迩を止めようとしていた男子生徒たちも、黎迩のとっさの判断力と行動性を見て、呆気にとられて動けなくなってしまうが———
「お・・・お前ら!!夜峰を追え!!絶対に逃がすんじゃないぞぉっ!!」
一足早く冷静になったといってもいいのかわからないけどとりあえずは戻った力也の声でみんなも我に帰る。そして黎迩ででていった扉にむかって一目散にかけだして、廊下にでる。当然のように黎迩の姿はもう廊下にはなくて、完全に逃げられたことが証明された。
「さ・・・裁判長!!被告人に逃げられました!!」
男子生徒の誰かがそういって、力也のほうを見る。力也は、それに心底ガッカリとしたようにうなだれて———
「しょうがない・・・今日はあきらめるか。各自撤退、今日の目標をロストした以上、明日に持ち越さなければならないからそのときまで体力をのこしておくように、以上だ!!解散、解散だ!!」
商店街に行く約束をさっきしたばっかりなのに、それまでも持ち逃げされてしまった力也は、本当に悔しそうな顔をしながら、そう悲痛に叫ぶのだった。
そして・・・黎迩は後悔することになるのだ。ここでもしも、黎迩が力也たちに捕まって、処刑というなの拷問をうけていれば、もしかしたら———あんなものにまきこまれてしまうことなんて、なかったかもしれなかったのに・・・どうして———こんなことになってしまったんだろうと後悔することもなかったのに———どうして———こんな大変な思いをしなければならないんだと絶望しなくてもすんだのに———そういまさら思ったところで、動き出した物語・・・歯車は、誰にも止められない。それを作り出した本人でさえ———それを動かす———本人で、さえ。
この掲示板は過去ログ化されています。