ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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神は世界を愛さない 
日時: 2011/09/23 17:38
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

何度も作品を投稿し、申し訳ございません……。書いて書いて書きまくってやります。
色々コメントとか、参照とか気にしていた所もあった自分ですが、今回もう関係無くやります。
その結果を出せるように、やってみます。
頑張ります。人並みに。



【目次】
順序の始まり(プロローグ)>>1

〜第一幕〜
第1節:神はそこにいる
♯1>>2 ♯2>>3 ♯3>>6 ♯4>>7 #5>>10
第2節:神嫌い、人間嫌い
♯1>>11 ♯2>>12 ♯3>>13 ♯4>>14 ♯5>>19
第3節:世界は暗転する
♯1>>20 ♯2>>21 ♯3>>22 ♯4>>30 ♯5>>31
第4節:異常と異能の交差
♯1>>32 ♯2>>33 ♯3>>36 ♯4>>37 ♯5>>38
第5節:新たな日常=非日常
♯1>>39 ♯2>>40



【お客さん】
水瀬 うららさん
紅蓮の流星さん
旬さん
トレモロさん


コメント・励ましの言葉をいただき、ありがとうございますっ。

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Re: 神は世界を愛さない  ( No.31 )
日時: 2011/08/28 01:46
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

「土屋さん。この荷物は、どこに置けばいい?」
「あ〜うん〜。それは〜、そこらへんに置いといて〜。それと、土屋さんじゃなくて、希咲って呼んでいいよ〜?」

何部屋もある寮の中の一部屋。そこに私はいた。
土屋さんは今日から寮に住むことになるらしく、私はその手伝いとして此処に来ていた。
この部屋を使っていた前の人が綺麗好きだったのか、それともその前に使っていた人が去った後、用務員さんが綺麗に掃除をしていてくれたのは分からないけど、とても清潔感が溢れてて、居心地がいい感じがする部屋で、私もこんな部屋がいいな、と思ったぐらいだった。
寮は、個人部屋と各人数部屋とがあり、個人部屋はその名の通りに一人で住む部屋のことだけど、各人数部屋は一人以上ということになる。といっても、規則で一部屋に人数は3人までということになっている。理由は、あまり多く一緒に住まわせて、夜中など騒がしくされると周りの寮生にも迷惑だし、何より管理が難しくなるからだそうだ。だけど、それほど寮のルールは厳しいものじゃなく、よく5、6人で一部屋に集まり、遊ぶことだってよくある。それに、寮生じゃない生徒も私のように出入りが出来るので、結果こうして手伝いに買って出ているというわけだった。
ちなみに、土屋さんのこの部屋は個人部屋なので、土屋さん一人で住むんだそうだ。
私なら、すぐに各人数部屋を選んでしまうと思う。色々、寂しいような感じもするからだ。友達が居てくれた方が、楽しいしきっと良い。けれど、個人部屋しかほとんど空いておらず、探すのもまた面倒だし、という理由で土屋さんは個人部屋にしたんだとか。
ダンボールの箱をまとめ、折り畳んでいる作業を一度止めてから一息吐いた。

「ふぅ、大分片付いてきたかな」
「うん〜。雪ちゃんのおかげだよぉ〜、ありがとね〜」
「ううん。どうせ暇だし、この後も一人で帰るだけだから、別にいいよ」

そう言いながら、私は手に持っていた荷物を置く。
土屋さんは特に推薦で来たわけでもない、ただの普通の転校生。勿論、この寮にはスポーツ推薦で来た人もいるが、普通の生徒も寮を活用している人が多い。土屋さんのように、こうして寮の一部屋に転校初日から住む、ということはよくあることらしい。
楽しそうに鼻歌を弾みながら土屋さんはダンボールから荷物を取り出し、机などに仕舞ったりしているのを繰り返していた。
シャワーなども完備されているこの部屋は、そこらのアパートよりもずっと良い気がした。

「ねぇねぇ、雪ちゃん〜」
「ん? 何?」

作業の途中、土屋さんの方から私に声をかけてきたので、振り向いてみた。
相変わらずの笑顔と、温和な雰囲気で土屋さんは私を見つめながら言った。

「神嶋君と、幼馴染〜?」
「え、えぇ?」

突然そんな話題が来るとは思わず、慌てて返事をしてしまった。
今まで誰一人としてそんなことは聞いて来なかった。別に隠しているわけでもなく、ただ聞いて来なかっただけ。
それを、土屋さんが初めて私に聞いて来た。それが驚いたわけだけど、何でそんなことを突然言い出したのかというのも不思議なところだが、何故悟られたのかということがまず不思議だった。それも、転校初日目だからますます可笑しい気分になる。

「な、何でそんなこといきなり——」
「何だか焦っちゃってますね〜? ふふ、正解〜……だったり?」

同性からも思える可愛らしい声で、それも笑顔でニコニコと話されるわけなので、何だか色々な意味で勝てないなぁと思った。
私はため息を一つ吐くと、観念したように頷いた。

「やっぱり〜! えへへ、こういうの見つけるのは、得意なのですっ」

自信有り気に、胸を張って言った。笑顔は変わらず、そのまま私を見ている。幸せそうな人だなぁと印象があったけど、ますます印象が高まることになってしまった。

「何で……?」
「ん〜? そうだねぇ〜……そんな匂いが、したから……かな?」
「匂い?」

思わず私は自分自身の体のあちこちに鼻を押し付け、匂いを嗅いでしまった。その様子を見て、土屋さんは声をあげて笑い、「違うよ〜」と穏やかな声で言った。

「本当の匂いじゃなくて〜……そういう、感じ?」
「感じ?」
「うん、そうっ。雰囲気ともいいます」

うんうん、と頷きながら土屋さんは納得したように言う。幼馴染の感じ、雰囲気なんて全く出してないような気がする。たまに、そういう付き合いもあって世話を見ることはあっても、そこまで何でもかんでも、というわけではなかったから、全く気付かれてないものだと思っていた。
だけど、土屋さんの言うことでは、その雰囲気は出ていたんだそうだ。そのことに、私も少し驚きつつ、土屋さんはやっぱり色々凄いみたいだなぁと感心していた。

「幼馴染って、いいよね〜。凄く、仲良しそうなイメージあるなぁー」
「そんなことないよ。あいつは、無愛想、無感情、無表情で有名だよ。人と帰っても、イヤホン外さずに音楽ばかり聴いて、話聞いてるのかさえも分かんないし、自分で動こうとか、助けてやろうなんてことは無いし。ちっとも仲良しでもないし、幼馴染だから誇れるほどの奴じゃないよ」
「えーそうかなぁ〜?」

土屋さんは私の言葉をちゃんと聞いていたのか聞いていなかったのかは分からないが、首を傾げて呟いた。その様子に、何か違うと言いたそうな予感がしたので、「どうしたの?」と言ってみた。
すると、案の定土屋さんは「でも」と言って言葉を繋いできた。

「凄く、優しそうで……悲しそう? ——だったような……?」
「え?」
「うーん?」

最後の方は何だかボソボソと呟いたような感じで、よく聞こえなかった。けれど、そんなに大したことでもないだろう。私はそう思うことにして、深く追求はせずに、難しい顔をして首を傾げている土屋さんを余所目に、ダンボールを開けては中の物を出して折り畳んでいく。
そうしている内に、随分とスッキリしたように思えてきた頃、部屋を見渡すと、いかにも女の子というか、土屋さんらしいなぁという可愛い部屋が出来上がっていた。
特に目に入るのは、ぬいぐるみだった。数が凄く、ベットの傍に置いておくだけでは物足らず、机の方にも飾られたりと、沢山のぬいぐるみがあった。

「えへへ。ぬいぐるみが、好きなのです〜」

一際大きなぬいぐるみをもふっ、と胸の前で抱き締め、大事そうにそのぬいぐるみを撫でていた。その仕草がとても可愛く見えて、同性でもほんわりしたような雰囲気に飲み込まれてしまいそうになる。
きっとこれが、土屋 希咲という女の子の個性なんだと思った。

「凄いね。ぬいぐるみがほとんどじゃない?」
「あはは〜。多いし、目立つからそう思うだけだよぉ〜。でも、すっごくよく片付いた〜。雪ちゃんのおかげ〜、ありがと〜」
「いや、私なんて、土屋さんの……希咲、ちゃんの、3分の1程度しかやってないし……」

3分の1程度しかやっていない、というのは事実だった。土屋さんがこなした仕事、つまりダンボールの中から物を出して、整理するというちょっと面倒な役割なんだけど、土屋さんは私より何倍も動き、その整理をいつの間にかしていた。のほほんとしているから、動きが遅く感じられるけど、こういう仕事はかなり早いみたいだった。
そういう土屋さんは、私がそんなことを考えていることも知らずに、希咲ちゃんと呼んでくれたことに対して、凄く喜び、何やら笑顔で拍手までしていた。

「えへへ、ちゃんと名前で呼んでくれました〜。私はそれだけで十分だよぉ〜。それに、手伝ってくれたということ自体、感謝しないといけないと思うんだよー。だから、仕事をどれだけしたか、とかなんて、全然関係ないんだよぉ?」

右手の人差し指を立て、笑顔で得意そうに言う土屋さんを見ていたら、何だかそういうことを色々考えている自分が恥ずかしくなり、同時にバカらしくもなった。

「そうだね……。何だか、希咲ちゃんと居たら何でもハッピーになれそう」
「あっ、また名前で呼んでくれました〜!」

私の言った後半の言葉を聞いているのか聞いていないのかは分からないけど、部屋の中で拍手だけが鳴り響いた。
そろそろ、と折り合いをつけた頃に、私は立ち上がる。

「もう行っちゃいますか?」
「うん。あまり居ても、迷惑だと思うし……それに、お父さんも心配するかなぁって思うから」
「そうですね〜。心配させるのはダメだからね〜。さぁ、帰りましょう!」
「……って、何で希咲ちゃんも立ち上がってるの?」
「お出迎えしようとしたんです〜」

そうして希咲ちゃんは笑顔で立ち上がり、ぱたぱたと足を動かして私がいる玄関前へと行く。

「それじゃ、また明日ね」
「はい〜。今日は手伝っていただいて、本当にありがと〜」

敬語なのかタメ口なのかよく分からない口調を使う希咲ちゃんは笑顔で早くも丈が合っていないのか、多少服がぶかぶからしく、指で服を持って可愛らしくぶんぶんと左右に手を振って見送ってくれた。
こういう人が、男の子は好きなのかもしれない……。成る程、男の子が夢中になるわけだと、一人私はその姿を見て感心した。

(もしかして、あいつもこういう子の方が……)
「雪ちゃん? どうしたの〜?」
「あ、ううん。何でもない。それじゃあね」

私は勘付かれる前に、その場を早く立ち去ろうとドアを開き、言葉を告げた後、すぐにドアから離れた。
なので、最後希咲ちゃんが何を言おうとしていたのかがよく聞こえなかったが、少し聞いた感じだと、確か——なれないよ。そう呟いたような気がする。それが一体何のことを言っているのか、私は少し悩んだ後、別にまた明日にでも聞けばいいかと、そのことを特に気に留めないようにした。
寮を出ると、すっかり夕暮れで、今から帰ったら暗い時刻になっちゃっいそうだなぁと身を竦めた。

「丁度今日は涼しいし、走って帰ろ……」

私はそのまま校門をダッシュで抜けることにし、そのまま走った。その途中、野球部だかの掛け声が聞こえて来ていた。どうやらもう部活動も終わりのようだった。
校門を出て、分け目も振らずに走り出す。軽快に、あまり疲れることなく走って行く。
こうしていると、中学の時に陸上部だった頃を思い出す。それと同時に、憂のことが頭に浮かんできた。あいつは覚えているかな? あいつは、私の運命を変えている。
あいつは覚えてないかも知れないけど、私は中学の時のあいつもよく知っている。小さい頃から、あまり遊びはしなかったけど、私は、何故かあいつの姿は目で追ってきた。

「はぁ、私も、恩着せがましい……よね」

途中、立ち止まり、住宅街のところで一息を吐いた。既に周りは夜で、それが随分走ったのだということを感じさせた。あの中学の時の私みたいには、上手く走れないみたいだけど。
何で、何があいつをあそこまで変えたんだろう。同じ中学の子も、当然この高校に入学してきている人は私と憂の他にいる。けれど、憂の中学の時の評判などは、知らないというのだ。
あれほど、活気のあった憂の存在が。今とはまるで正反対、今が人間じゃないといえば、あの頃が一番人間らしかった。
だからだろう。私は、恩を返そうとして、そんないらないお節介を、私は今の憂にぶつけようとしているのだと思う。
一緒に暮らすことになったことはビックリしたけど、あまりの驚きのせいで昨日は友達の家に泊まってしまったけど、私は——

「何、やってんだろ」

自然と、涙が零れた気がした。だが、それと同時に、変に動きが遅くなった気がした。
動き、というのは時間の動き。つまり、周りの風景も何もかもが遅く感じる。何だろう、この感触は。変な感じだ。あまりの変な感じに吐気も起こしてしまいそうになるほど。それほど、奇妙な——


「——ミツケタ」


その刹那、私の世界は暗転した。

Re: 神は世界を愛さない 3話終了 ( No.32 )
日時: 2011/08/28 15:44
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

叔父さんの家に早々と帰った俺は、とりあえずシャワーを浴びることにした。まだ叔父さんがいないようだったので、神社にでもいるのかと思いつつ、風呂場に入る。
雪がいる為か、風呂場は清潔感で溢れており、汚れているところは全く無い。アパートの風呂場より全然良かった。さすがに一軒家だと思う。
シャワーを浴び、綺麗に風呂場を流した後、頭をガシガシと自前のバスタオルで拭き、体を全部拭いてから着替えた。
梅雨時期なので、少しジメジメした感じがいつもならまだあるのだが、今日はまだ涼しい方みたいで、ただ何となく風呂に入りたくなっただけのことだった。
それから居間へと戻ると、冷蔵庫を開いてお茶を出す。叔父さんが鳥龍茶が好きなようで、毎日冷蔵庫には鳥龍茶が常備準備されてある。その鳥龍茶のペットボトルを取り、ガラスのコップを取って鳥龍茶を入れる。それを一気に飲み干し、一息吐いた。
それから周りを見渡してみると、相変わらず誰もいない。一人という空間が、何だか凄くこの数日は無かったので、どこか不思議な感覚がした。元々、俺はこんな空間が好きだったのかと。

「……くだらない」

コップに再び鳥龍茶を入れ、また一気に飲み切ると、そのコップを洗面台の流しに置いて、鳥龍茶は元にあった冷蔵庫の中に入れておいた。
居間で寝られても困るだろうし、自分の部屋へと向かって階段を上って行く。自室を開け、布団が畳まれているのを広げて、それからその上へと寝転がった。
疲れていたのだろうか。蛙やコオロギの鳴き声など、こんなまだ夕暮れではない時には聞こえるはずもなく、すぐに眠りの世界へと落ちていった。




暗い闇の中。一体自分はどこにいるのだろう。
手を伸ばしても、光など、存在しない。ただ、無空間の闇しかないこの空間には、自分自身以外の存在がまるで無かった。
そして、今度は自分も消えてしまうかのように。この闇に、捕われて、寂しく、誰にも気付かれることも無く、ただ神に願うことしか出来ない人間の非力さ。
無情にも、闇という恐怖は人間の心に住み着いているようだった。

「——きろ」

何かが聞こえた。そんな闇の中で、何かが聞こえた気がした。
一体何だろう。そう思って耳を澄ましてみる。

「——きろっ!」

叫んでいるのだろうか。よく分からないが、少女の声だということは分かった。それも、聞き覚えのある声だ。
何だっただろうか。よく思い出せない。この闇の空間は、そんなことさえも拒絶して——

「起きろっ! この異常人間!」

その瞬間、何か痛みが脇腹に突然走っていく。何だろう、この痛みは。視界が突然真っ白になり、その瞬間、黒と白の混じったテレビの砂嵐のようなものが脳裏に走り、次に気がつくと、目の前に電灯の光と、どこぞの少女の姿があった。
仁王立ちをして、悠然と立つその姿はとても印象がある。神殺し、だったか? そんな感じの人だったように覚えている。
脇腹がズキズキ痛むのは、多分この少女が蹴ったからだろう。俺を相変わらずの冷徹な目で睨んでいるその表情からしても、笑えない冗談だった。

「一体何の用——」
「何の用じゃないだろッ! お前が起きていないと、というか、お前から私のブレスレットやらに触れてこないと、私は力を発揮することが出来ないんだよッ!」
「そんなこと知るか。今言われても。俺は人間だから、勿論寝るぐらい自由にしてもいいだろ」
「寝るな。ずっと起きていろ。そして、お前が私の所に来い。人間風情が、それぐらいしろ。お前如きの小さな人間が私の力を奪ったなんて……恥さらしもいいとこだ」

ぶつぶつと少女は変わらない冷徹な目で俺を睨みつつ、言葉にして呟いていた。
とりあえず、この少女は力が奪われたことを俺の責任としている所からしてとんでもない八つ当たりのように俺は思えてくる。何せ、俺は被害者同然のはずだった。いきなり神隠しだとかで殺されそうなハメになり、挙句の果てにはその俺を殺そうとした奴を倒してくれたヒーロー的なこの少女が、俺を殺そうと襲いかかってきた。どう見ても、俺が独自でこういう結果にしようとしてこうなったわけではない。勿論、この少女にも非はないことは無いとは思うのだが、俺に全責任を傾けるのはとんだお門違いだとは思っている。
ということもあって、この少女が俺に全責任を負わせているような形にしていることが気に食わないわけだった。

「身勝手すぎるんだよ。俺は別に関係なんて——」
「関係あるだろ。現に、お前の腕に触れたら私は力が戻る。お前が鍵となっている以上、関係あるとしか思えないだろうが、この人間風情が」

こいつは人間風情が、というセリフが口癖なのだろうか。見下しながらそんなセリフばかり言っているような気がする。
それに、この少女が言うように、全くの関係がないということは証明できない。逆に、関係のあることが証明できてしまう。あぁ、面倒臭い。

「んで、一体何の用だ」

俺は観念し、少女に聞き出すことにした。
すると少女はゆっくりと口を開き、言葉を放った。

「神が現れた。討伐しに行くぞ」

少女は俺の腕を掴み、立たせると、窓の方から出て行くつもりか、俺の部屋の窓を開き、そこから飛び出そうとする。

「待てッ! お前、今は人間だろッ」
「ッ、そうか」

気付いていなかったのだろうか。少女は飛び出す寸前で足を止め、腕を差し出して来た。このまま能力が戻ったのなら、そのままこいつ一人で助けに行けばいいのに、と考えたが、言ったら言ったでどうなるのだろう。
少女のブレスレットに目掛けて、俺は手をかざした。電撃の走るような感覚、頭がいじられているような感じが襲いかかり、俺は思わずへたりこんでしまう。

「それが副作用のようだな。それにしても、不便な荷物だ、お前は」

少女はそう言うと、俺の腕を引いたまま豪快に外を飛び出していった。叫ぶ、なんてことはしなかったが、それでも空中を飛んでいる。そのままふわり、と宙に浮いたかと思うと、くるりと回転して猫のように華麗に着地した。俺はその勢いに任されるがまま、着地する。少し足が痺れたような感覚がしたが、そんなことに構っていられる暇もないのか、少女はそのまま飛び飛びでそこらの木や家の屋根を縦横無尽に飛んでいく。既に周りは暗く、どれほど寝たかも覚えていない俺にとっては混乱することばかりだった。
それに、このままだと俺の腕が引き千切れそうだ。

「おいっ! どこに向かってる!」
「神のいる場所に決まっているだろう」

その神のいる場所とやらを聞きたかったのだが、そんなことはお構いなしのようだった。
暫くそうして行くと、住宅街の中へと入って行った。そこで急に立ち止まる。丁度住宅街の人気のない場所として有名な所だった。
やっと静止した少女は、よく見るとあの機械仕掛けの剣を持っていない。どこかに隠し持つ、なんてスペースは少女には無いと思うが、どこにもそれは見つからない。

「よし、入るぞ」
「え?」

有無を言わずに、少女は地面へ自分の手を押さえつけるようにしてかざした。すると、その瞬間——世界が暗転した。




「ここは……どこ?」

気がつくと、私は何も無い世界にいるような感覚だった。
実際、目の前の風景は暗く、闇が広がっている。所々に電灯があるようで、バチバチと消えたり付いたりを繰り返している。
この場所は見覚えがあった。ここは、そう、住宅街だ。私はここで、どうしていたんだっけ?
考えてみても、よく分からなく、更には頭痛まで起こっている始末だった。

「痛い、頭……」

頭を押さえ、ため息を一つ吐くと、すぐにその場にあったベンチへともたれかかるようにして座り込んだ。
一体、今何が起こっているのか。分からないことだらけなのはいいとして、気だるい感じがどうしても拭いきれない。
ぼんやりと目の前を見つめていると、その電灯がたまにしか付いたりしないその奥の方から、何やら人影のようなものが見えた。
ゆっくり、私がいる方へと近づいていく。一体何だろう。もしかして、憂? そんなわけ、ないか。
色々考えてはいたけど、こんな暗い、人気のないような場所で人と出会うなんて、あまり良い予感がしない。

「一体、誰……?」

暗闇の中から、段々と姿を現していく。
そして、その人物は薄っすらと電灯を背景に、姿が見えた。


「——ようこそ、私の領域テリトリーへ」


その姿は、紳士的に微笑む、人間であって人間でない、"何か"だった。

Re: 神は世界を愛さない ( No.33 )
日時: 2011/08/28 18:15
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

電灯の明かりだけが照らす世界。そんな不気味な世界がそこにはあった。
そして、その中に私はいる。夢と信じたいけど、この頭痛が現実のものだということを示してくる。
紳士は頭を押さえて頭痛に苦しんでいる私を見て、微笑む。そしてわけのわからないことを言った。

領域テリトリー……?」
「ふふ、そうです。貴女は、まさに私の手中にいるというわけなのです!」

手品師がマジックを完成させ、観客を沸かせた時の自信満々な笑みを浮かべつつ、両手を広げていることを連想させる雰囲気をこの紳士からは出ていた。
なんだか、苦しい。頭痛のせいなのかは分からないけど、息苦しい感じがする。

「苦しいですか? ふふふ、そうですねぇ、貴女は多分苦しいです!」

両手を広げたまま、自信満々に言う紳士だけど、私の耳には全然届いていない。耳鳴りのような音が聴覚を遮り、正常な考えを頭痛が遮り、視界を息苦しさの似たようなものがぼやけさせている。
どうなってるんだろう、私。

「貴女は、私に神隠しされたというわけです! 貴女は、面白い! ふふ、そして美味しそうですねぇ!」

ニヤニヤと、不気味に笑っていることだけは確認できた。何が紳士だろう。今は、ただの下衆な男にしか見えなかった。紳士服を着こなし、シルクハットを被った奇妙な人間の雰囲気とは思えない"何か"を放つその男は、ゆっくりと私に近づいてくる。

「こない……でっ!」
「おやおや、声が出せるなんて驚きですね。ふふ! ますます食事が楽しみになってきました」

声が出せることが驚きだということは、やっぱりこの男が私に何かしているとしか思えなかった。でも、そんなことって有り得るの?
これが夢ならどれだけ楽だろう。今の声だって、二酸化炭素しか吸って出してないような気がしてならない。頭を押さえ、喉を押さえながら何とか出した言葉がアレだった。

「貴女は面白い! もっと苦しませてもいいんですけどね……。うるさいのは、私は嫌いですので」

その瞬間、男は私の傍まで来た。一瞬の間に、男は私の腹元辺りに手をやり、そしてグッと何か得体の知れない力で押される感覚がした。
膨れていき、やがてその力が集中して、私の腹元に抉られていく。ドクン、と心臓の跳ねる音がした。

「おやすみなさい? ふふふっ!」

奇妙な男の言葉が、耳元で囁かれて、私はあまりの腹元に与えられた激痛によって完全に視界が遮られた。




幼い頃の記憶は、思い出したくなかった。
私は、そもそも親という存在がいなかった。ずっと白い、殺風景な部屋の中に閉じ込められ、子供が遊ぶ玩具がそこらに散乱している。
私は、ずっと一人だった。というより、私はどうして此処にいるのかが理解できなかった。その時はまだ、凄く幼かったから。
周りの人間の話は薄っすらと聞こえて来る。それは夢にも出た。

『まだあの子、小さいのにねぇ』
『誰がこれから面倒見るのかしら』
『児童擁護施設に入れられるそうよ。可哀想にねぇ』

あぁ、私、一人なんだ。
自然と思うようになった。私は、ずっと一人なんだと。ずっと一人で、これからも生きていかなくちゃいけない。
私は、幸せになりたかった。

『——遊ぼう』

ある日、そんな声が聞こえてきた。少年の声で、私に話しかける人なんて、施設の偽善染みた大人しかいなかったのに、私と同じ年頃の男の子が、私に声をかけてきた。
ゆっくりと手を差し出して来て、私はその手をゆっくりと握った。
そこは公園だった。施設を抜け出して、私は公園によく居た。悲しいという感情はあまり起きなかった。目の前で楽しそうに騒ぎながら、私と同年代の男の子と女の子達がはしゃいでいる。そんな姿を見て、私は初めて人間は嫌いだと思ってしまった。
でも、その男の子は、公園でただ一人、幽霊のようにして座っている私を見て、手を差し伸ばした。
その手は、暖かい。太陽のような手だった。

『遊ぼう』

ハッキリと、男の子はそう言った。私は、その男の子の手に引かれるようにして、立ち上がった。
ゆっくりと歩いて、男の子は私の目を見つめて言った。

『どうして、泣いてるの?』

さすがに驚いた。泣いているとは思わなかった。私は、必死で涙を拭って普通を装った。けれど、男の子はそんな私の顔を見て、笑った。

『きっと、大丈夫だよ』

その一言で、私はどれほど救われただろうか。
幼い私の記憶は、そこで閉ざされている。それ以上、幼い時の記憶は思い出せない。ただ、私には親がいない。だから、今のお父さんだって、私とは血の繋がりの無い人でしかない。
本当のお父さん、お母さんなんて、この世にはもういない。けれど、私にとっては今のお父さんが家族という代名詞。
お母さんは、少し前に死んでしまった。私を、大切にしてくれた人。お父さんは今でも優しいけど、よくお母さんと苺狩りに行ったりもした。その記憶は、鮮明に覚えている。
でも、私の中は空白ばかりだった。空虚な感じが、どうしても拭いきれない。
中学の時、私がとある事情で落ち込んでいた時だった。あの暖かい手が、私に差し伸べられてきた。

『きっと、大丈夫』

そんな根拠の無い言葉だけど。けれど、私の幼い頃と一致している。
私は、その言葉をかけてきた憂を、幼い頃の"あの男の子"と組み合わせた。
だから、幼馴染。私と憂は、幼馴染。
憂からすると、私は中学の時に会った、私の"義理の親"繋がりの間柄だろうけど、私は違うよ。
私は、もう、壊れてる。一人になるのが、寂しいから。私は、平気な振りをしてるだけ。
クズ人間は、私のこと。クズ人間っていうのは、人間的にクズだから言うんでしょ? 
私は、幼少のそんな欠けた記憶に一致する憂を、幼馴染だと勘違いして、そのままにしているだけ。
ただ、逃げてるだけ。私が、一番のクズ人間。

「一人は……嫌だよ……ッ」

震える体を、必死で闇の中へと隠して、隠して。
笑っていたら、我慢してたら、きっと助けてくれるかな。


神様、お願いです。私を一人にしないでください。

Re神は世界を愛さない ( No.34 )
日時: 2011/08/29 18:41
名前: 堀衣モン ◆cQgJ6Z9tnA (ID: MIiIBvYo)

微妙というか、登場人物が厨二くさい
まじめなキャラがほかの小説と比べるとやや不足ぎみ
あと、会話の時はキャラごとにかっこの形を変えてもらえると読みやすいのだが?
(例文)
「なあ、タリス、……彼らは無事だろうか・・・?」
『戦場での気遣いは、騎士への侮辱だぞ。心配ない!』
「…そうだったな、すまない」

みたいに


>>35
別に罵ったりする目的で言ったつもりはありませんが
不快な思いをさせてしまったのなら謝ります。
ごめんなさい。
人の作品をどうこう言うなど愚論でした。
私のような痴呆をどうかお許しください。

Re: 神は世界を愛さない ( No.35 )
日時: 2011/11/29 23:08
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)

>>堀衣モンさん
あぁ、そうなんですかw
厨二臭いですかー。ならバトルものとか、皆厨二臭くなると思いますけどねw
まじめなキャラが他の小説と不足気味ですかw小説によって、キャラそれぞれ使い道はありますから、まじめなキャラがあまりいない小説もそりゃあるでしょうw
かっこの形を変えるんですかwwごめんなさい、吹きましたwいい冗談ですねぇw
じゃあ逆に言いますが、三点リーダー全然使えてないですね。それと、かっこの形をキャラごとに変える?基本中の基本もなってないですね。
いや、いいですよw別に言ってもらってもwそれだけ此処のレベルが分かるってなもんです。
所詮こんなものですよねw心配しなくても、もう僕は此処を去りますし、大丈夫です!w
実に面白いです、このサイトはw実力云々ではなく、知名度云々でモノが決まる。ちゃんとした基本のなっていて、僕が見習いたいぐらいの人がしっかりとした意見をくれるならまだしも、貴方の言うことはしょうもないですw
いくら僕を罵ろうが勝手ですが、自分の落ち度を示していっているのは気付いてますでしょうか?

ありがとうございます。改めてこのサイトにいる意味が無くなった気がします。また投げ出すのは自分としても嫌なので、この話がどれだけ面白くなくても、描写がダメでも、キャラが単調でも、実力不足でも、キャラクターが厨二臭くても、まじめなキャラが不足気味でも、話すキャラごとにかっこを変えていなくても。
何か書いてる途中で笑えて来たwwなんだコレw
とりあえず、キリのいいところまで行かせてくださいw宜しくお願いしますー。



いや、少し言葉が過ぎました。
他人の小説にとやかく言うのは普通だと思います。ですが、個人的に思う小説の基本からして外れていましたので、あんな言い方をしてしまいました。
僕の方も不手際があったと思います。八つ当たりみたいになってしまいました、すみません。


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