ダーク・ファンタジー小説

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〜竜人の系譜〜
日時: 2013/03/30 21:54
名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)

皆様はじめまして!

『〜竜人の系譜〜』は、御砂垣赤さん、
幻狼さん、瑞葵さん、Towaによる合作小説
です。

頑張って書いていきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます(*^^*)


〜目次〜

†登場人物・用語解説†
>>1

†序章†『竜王の鉄槌』
>>2 >>3 >>4 >>5 >>6

†第一章†『導と手段』
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 
†第二章†『路と標識』
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
†第三章†『竜と固執』
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37 

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.28 )
日時: 2013/03/27 18:46
名前: Towa (ID: te9LMWl4)




「はぁ、もう夜か……」

 フィオが、すっかり暗くなった空を見上げて呟いた。
雲が多いせいか、あるいは周囲が明るいせいか、残念ながらほとんど星は見えなかった。
「なあ、もう宿に戻ろうぜ。俺なんか疲れた」
屋台の食べ物を食べ尽くしたお陰で、いつもより膨れたお腹をさする。
流石に食べすぎではないかと密かにスレインとキートは思っていたが、あえてそれは口に出さなかった。
「フィオ、大漁祭の目玉は“アーツ”の見世物だよ?日中は君の食べ歩きに付き合ったんだから、今度は僕達に付き合ってもらわないと」
キートの言葉に、スレインもその通りだと頷いている。
一瞬、まだ反論しようと思ったフィオだったが、朝から先程まで屋台を次から次へと渡り歩いた自分を思い出し、彼らの言うことはもっともだと感じて大人しく劇場の椅子に座った。

 ちなみに“アーツ”とはモーゼル街の若者達で構成された劇団であり、毎年必ず大漁祭の最終日、最後の催し物として公演を開くのだ。
内容としては、様々なものをモチーフとした衣装を纏った踊り子達が舞踊を披露する、というもので、その舞踊の美しさは他国でも非常に評判であった。
そのため、祭の目玉として、大勢の観客が観劇に集まるのだ。
「でもなぁ、見世物なんて一体何が楽しいんだか……」
ぼそりとそう呟き辺りを見回すと、老若男女を問わず様々な人が楽しげに劇場の椅子に座っている。
それどころか、立ち見席にも人がひしめいているのだ。
フィオにとっては、武道会での熱い戦闘を見ている方がよっぽど楽める。

 そんなことを考えている内に、舞台側から高らかに太鼓の音が響いてきた。
「始まるみたいだね」
そういうキートの声がして、フィオも前方に視線を移す。
すると、舞台に微かな灯が灯り、現れた複数の踊り子達を照らし出した。
全身に青く透き通った布を纏い、その踊り子はふわりふわりとそれをたなびかせ舞う。
おそらく、彼女達は海を表現しているのだろう。

 彼女達がひとしきり舞い終わると、今度はそこに美しい金髪を持ち、清楚な服を纏った女性が現れる。
「あれは……“ルーベルン”の……」

“ルーベルン”とは、この大陸に伝わる天地創造の物語である。

 先程の金髪女性が演じる大気の神は、ある時大空から海面に舞い降り、海の神と結ばれ子を孕む。
そして彼女が産み落とした大気と海の子供は、成長するまでしばらく海上をさまよい、美しい青年となった後に陸に上がった。
 それから彼は、太陽と月を作り、陸に種をまき草木を生やし、美しい世界を完成させる。
しかし、彼が育てた豊かな大地は、人間が世界を支配することでどんどん邪悪なものへと化していった。
空気は淀み、人間以外の生き物達は死に絶える——。
その様子を見た彼は、怒り狂い人間を全て滅ぼそうとする。
だが、そんな彼の前に現れた一人の人間が言ったのだ。
『神様、どうかもう一度だけ我々にチャンスを与えてください』と——。
彼は、その人間の真っ直ぐな瞳に、一度だけ世界再生の手助けをすることを約束し、大地をまた生命溢れる豊かなものとした。
ただし、もし再び人間が同じ過ちを犯すようなことがあれば、次こそは貴方達を滅ぼす、そう告げて——。

簡単にあらすじを言うと、こういったものだった。

 一見単純な物語ともとれるかもしれないが、舞踊を中心とした“アーツ”の演出の美しさに、観客は皆心奪われ食い入るように舞いを眺めている。
しかし、その時間すら忘れさせる舞台も、やがて終盤に入っていった。

 大気と海の神より生まれた子——薄い若葉を思わせる衣装を纏った踊り子が、断末魔のごとく叫び声を上げながら荒々しい舞踊を繰り広げる。
人間に破壊された大地を思い嘆き悲しむ、そういった場面だった。
そのあまりに悲痛な絶叫に、人々はごくりと唾を飲む。
役者の存在感に、圧倒されているのだ。

 どんどんと舞台上の明かりが暗くなり、役者は人間を呪う、恨めしそうな呻き声をあげる。
その表情が、本当に人間とは思えぬような、恨みに満ちたもので、観客は思わず息を止めた。

——人間など、永遠に滅びてしまえばいいのだ。

この舞台では、役者が声を出すことはなかったが、誰もがおぞましいほどの人間への憎しみの声を聞いた気がした。
と、舞台上の一点にふっと明かりがつく。
『人間にもう一度だけチャンスを与えてください』
そう頼む人間が現れるのだ。
しかし、その人間役を見た神役の役者が、演技も忘れて瞠目したことで、観客全員の思考も停止した。
「——な!?」
そこに立っていたのは、役者ではなかったからだ。
黒い鱗のようなもので覆われた体、その肘や膝などには角のような突起物が生えている。
顔も、形は人間に近いものの、その目には白眼がなく、まるで黒曜石をそのまま埋め込んだようで、口は耳元まで割けていた。
明らかに、人間ではない。

 硬直する客席や劇団員達を余所に、それはにたりと笑った。
そして、それが神役の役者を指差すと、途端に役者の体が膨れ、弾け飛んだ。
肉体が、細かい血肉の塊となって前列の席にいた者達に降りかかる。
しかしそれでも、人々は動けなかった。
恐怖の念が、彼らの体を支配しているのだ。

 その様子に、それは更に満足げに唇を歪める。
「さあ、血だ。血を捧げるがいい、人間共よ——!」
す、と手が、客席の人間達へと伸ばされる。
そうして、それが再び人間を血肉へと変化させようとしたその時、ヒュ!と風を切り裂くような音がして、鋭いナイフがそれの腹部に突き刺さった。
「……ほう」
一瞬後、そのナイフを一瞥してから、それが飛んできた方向——フィオを視界に捕らえる。
「——お前は、なんだ……!」


Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.29 )
日時: 2013/03/28 10:36
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)



 フィオの投げたナイフが、劇場を恐怖という鎖から解き放った。

 一瞬の沈黙の後、一人の悲鳴が上 がったのを合図に、一斉に大勢の悲鳴が上がり人々が我先にと逃げ出した。
「……あれは、何だ?」
震える声を抑えて、フィオが訊ねた。
「……わ、わかりません」
恐怖の混じった声で、スレインが答える。
おそらく、魔物の一種なのだろうと、そう思っていた。
しかし、あそこまで邪な気配をもつ魔物を、スレインは見たことがない。
「答えろ!お前は、なんだ……!」
静まり返った舞台上で、フィオはきっとそれを睨み付け、全身に力を込めた。
そうでもしないと、手足の震えから握った剣を落としてしまいそうだったからだ。
全身から吹き出す汗、あのクラーケンと対峙した時さえ、こんなにも恐怖を感じはしなかった。

 それはまじまじとフィオを見つめ、ふと首を傾げた。
「貴様は、あの男ではないな」
「…………?」
怪訝に思って眉を寄せる。
あの男、とは一体誰のことだろうか。
しかし、そんなことを考えてる暇はなかった。
次の瞬間、背筋を鋭い殺気が這い上がってくるのを感じ、フィオは咄嗟に後方に跳んだ。
そして再び舞台に視線を戻した時、そこに既にやつの姿はなく、するとその時直前までフィオが立っていた椅子が嫌な音を立て消し飛んだのを認めた。

 にやり、とそれの顔が笑う。
フィオが寒気を覚える前に、彼の目の前に凄い速さでそれが迫った。
「——っ!」
反射的に、自分の体を守ろうと腕を顔の前で交差させるが、腕にとんでもない衝撃が走り、フィオの体はそのまま弾き飛ばされた。
「がはっ……!」
そうして頭から客席に突っ込み、フィオの意識が飛ぶ。
その隙を狙って、再度それがフィオに迫った。
しかし、そのまま彼に向かっていったそれは、寸でのところで水塊が弾き返した。
「フィオ、起きて!!」
キートは叫んで、素早くいくつもの水の弾丸を空中に作り出すと、それを貫かんと発射させた。
しかし、あっさりとそれは避けられてしまう。

 頭を振って気付けすると、フィオも改めて剣を握り直しキートの横に並ぶ。
「……貴様も、あの男ではない……」
それは、今度はキートのことを見つめ、そう呟いている。
「キート、スレインは?」
「他の人達と劇場の外に出したよ。本人は嫌がってたけど、今回の場合冗談抜きで危険そうだからね」
「そうか。ならいい」
そう言って、フィオは乱れた前髪をかき揚げる。
 二人で相対しても、全く勝てる気がしなかった。
ここまで圧倒的な力量差の敵と戦うのは、初めてかもしれない。
フィオは、ぐっと唇を噛んだ。
「キート、あいつの攻撃は一度でも受けたら確実に死ぬ……!とりあえずは避けるのに集中したほうがいい」
「分かった……!」
恐怖を、手足の震えと共に追いやり、二人ぐっと剣を握る腕に力を込め構えた。
そんな二人の様子に、それはまたしても笑う。
「ああ、気に食わぬな、気に食わぬ、その目……!」
そして、二人同時に走り出し、剣を振りかざした。
「「はぁぁぁあああ!!」」
それは微笑んだまま、ふっと目を細め、鋭い爪をくっと二人に向けた。


  *  *  *


————!!

「——見つけた……!」
目を見開きそう言ったルーフェンの声に、リークは即座に反応した。
「どこだ!?」
「さっきまで見世物やってた劇場みたいなところ」
「ちっ、間に合わなかったか」
顔を歪めて舌打ちし、リークが劇場のある方向を見据える。
そしてそちらへと走り出そうとしたその時、ふっと隣の影がうずくまったことに気づいて、慌ててそちらに視線を移した。
「おい、大丈夫か!!」
「……うん」
駆け寄って問うと、ルーフェンは弱々しく頷いた。
魔力がもうほとんど残っていないのだろう、ルーフェンにとって魔力の源である右腕が、微かに煙を出して小刻みに震えている。
「もう無理すんな!!とりあえず俺だけで行ってくるから——」
「無茶だよ。いくら君でも一人で勝てる相手じゃない」
ルーフェンはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
「けどお前、リベルテでもう力使い果たしてんだろ?その上魔法具もなしで上位の魔物となんか戦ったら——」
眉を寄せて、リークは呟く。
この男が追い込まれるような事態など、普通ではないのだ。
しかし、そんなリークの心配を余所に、ルーフェンはいつもの掴み所がない笑みを浮かべた。
「大丈夫さ。そう簡単に負けるはずないじゃない……君がね」
「俺かよ!!」
思わず突っ込みを入れてから、二人は勢いよく走り出した。



  *  *  *



 首筋に、すっとそれの爪が傷をつける。
それに恐怖を感じる暇もなく、フィオは着地した場所から弾けるように跳んだ。
すると、その着地場所がぐしゃりと陥没する。
「——はぁっ!」
フィオの剣先から、雷撃が幾本もの細い閃光となって、やつを包み込む。
しかしその雷撃は、それが手をかざしただけで呆気なく消失した。
そして次に、それが頭上へと手を持ち上げると、迫っていた無数の水の集合体を全て弾いた。
「ちっ……」
舌打ちして、フィオとキートはそれぞれ飛び退いた。

 乱れた呼吸を整え、汗で顔に張り付いた髪を払う。
受ければ即死、そう思い攻撃を避け続けることは、予想以上に辛かった。
フィオとキートは目配せして頷き合うと、タイミングを図って二人同時に飛び出した。
だが、それを引き裂こうとしたその剣先は、虚しく空を切っただけ。
「なっ、消えた……!?」
すぐに構え直して、二人は辺りの気配を探る。
少しでもやつを見失うと、次の瞬間には自分が消し飛んでいると思ったからだ。
そして、その姿を自分達の頭上に認めた時、二人は瞠目した。
それの指先に、見ているだけで頭痛がするような、邪悪な気を孕んだ黒い影が浮かんでいるのだ。

背中から、冷たい何かが這い上がってきた。
あの黒い影に、吸い込まれたら——そんな情景を頭に浮かべる。
だがしかし、それは笑って、黒い影をフィオ達にではなく客席の方に放った。
凄まじい音をたて、客席が破壊される。
するとそちらから悲鳴が上がり、二人は咄嗟に振り向いた。
その先には、逃げそびれたであろう幼い少女の姿があったのだ。

それは、その少女に向かって、笑みを浮かべた。
まるで嘲笑するかのような、そんな残酷で妖艶な笑みだった。
ついでそれが手をかざすと、少女の体がふわりと空中に浮き上がり、ぶくり、と膨れあがった。
先程の光景が脳裏を掠め、2人は目を見開き走り出す。
「——何をっ!!」
しかし次の瞬間には、耳をつんざくような断末魔が響き、少女の体は飛び散った。
人間の体が、ただの血肉と化したその時——肉の塊が周囲に飛び散り、残った骨と赤い液体が音を立てて地へと落ちる。
二人は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

「——くっ!!」
 一瞬の沈黙の後、フィオは地を蹴って剣を振り上げた。
「フィオ!!」
慌ててキートが制止の声をあげるも、それは届かない。
「だぁぁあぁあああ!!」
しかし、その剣はまたも空を切り、その勢いのまま地に刺さった。
すると、どすっ、と腹部に熱い衝撃が走り、生暖かい何かがそこから流れ落ちる。
「……っ!」
目をやると、腹部から黒い手が生えていた。
「先程のお返しだ」
やつが、そっと耳元でそう囁く。
そして次の瞬間には、生々しい音がして腹部から腕が引き抜かれ、そこから血が噴き出していた。
「……ぁっ……」
口からも血が垂れて、暗くなっていく視界の中でフィオはある人物の姿を捉え、目を見開いた。
「フィオ!今、今治療します!」
「す、スレ……イ……」

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.30 )
日時: 2013/03/27 22:55
名前: Towa (ID: te9LMWl4)



 フィオの命が無事であることを知り、キートは安堵の息を吐いた。
しかし、フィオが戦力外になった今、自分もいつまであれと渡り合えるか分からない。

 水魔法は、空気中の水蒸気を利用して発動させるため、他の魔法に比べて
魔力の消費量が少ない。
だが、長時間水塊を打ち続けているこの状況下で、キートの魔力も流石に底をつきかけていた。
(——どうする……どうすればいい……?)
頭を回転させながらも、迷っている暇などないと判断したキートは、慣れた手つきで腰に差した細長い水瓶を掴んだ。
そしてその中の水を大気中にばらまき、魔力を発動させようとする。
水蒸気を集める手間を省くことで、より魔力の消費量を削減させようと考えたのだ。
ところが、その動作を繰り出す時間ですら、目の前の存在にとっては立派な隙だった——キートの眼前に、黒よりも濃い闇色の塊が迫る。
「——っ!!」
突然のとんでもない衝撃に、キートは壁際まで吹っ飛んだ。
瞬時に攻撃に使おうとした水塊を、壁と自分の間に回したことで失神することは避けられたが、背中を強打した瞬間に骨の軋む嫌な音がした。
(まずいっ……骨が……)
油断していた訳ではないのに、それが近づいたとき反応できなかった。
自分達とそれの間には、圧倒的な差がある。

——早く、早く立て。
そうして次の攻撃に備えなければ。

そう体に命令するが、所々骨が砕けたのだろう、指先ですらほとんど動かない。
が、結果的に、次の攻撃がキートを襲う事はなかった。

 鋭い銃声が大気を響き渡り、キートとそれの間を引き裂いたのだ。
キートは、その銃声のした方に目を向けて、顔を蒼くして絶句した。

そこには、肩を震わせながら銃を持ち立ち竦む、スレインの姿があった。
その銃口から煙が微かに出ていることから、今の銃撃が彼女によるものだというのは明らかだった。
「……愚かな」
(——っ、やめろっ!)
それに集まる魔力に瞠目し、キートは声にならない声を上げた。
そのスレインの足元で、意識を取り戻したフィオも、どうやら状況を飲み込んだらしく穴の空いた腹を押さえて立ち上がろうとしている。
しかし、両者とも身動きができない。

 もう一発撃とうとするスレインに、冷笑したそれが迫る。
そしてその鋭い爪が、彼女の体を引き裂こうとした——その瞬間。
耳も目も潰れるような、凄まじい閃光がスレインの背後から走り、それの体を貫いた。
そのあまりの眩しさ、轟音のせいで、3人の目と耳は一瞬感覚を失ったが、その閃光が白い稲妻だったと気づき一斉にフィオを見る。
しかし、フィオはもはや魔力を発動できるような状態ではない。
そもそもあの稲妻の威力がフィオのものでないことくらい、一目瞭然であった。
「……ちっ」
「こんばんは。やっと会えたね」
ふわりとスレインの前に立った二人の男は、先程の稲妻によって体を燻らせているそれと、距離を取って対峙した。
その見覚えのある一人の男——薄茶色の髪をもった青年を見て、スレインは目を見開いた。
「ルーフェン……さん……?」
「久しぶり、この間はどうも。ところで、他二人は大丈夫?」
「……生きては、いますが……」
「そう、なら良かった。あ、リーク、キートくん……あそこの銀髪の男の子こっちに連れてきてくれる?」
「あいよ」
リークと呼ばれた茶髪の少年は、ルーフェンの言葉に手をあげて答えると、壁際で倒れるキートの元へと向かった。
見かけはほとんどフィオやキートと同じか、あるいは少し年上かくらいの彼だが、その気配は鋭く、実力者であることを感じさせた。

「あぁ……あの男が……ぁぁ……」
 スレインがふとそれの方に視線を向けると、それは先程までの笑みとは打って変わった憎しみの表情を浮かべ、頭を抱えて何か呟いている。
その憎しみの視線は、他でもないルーフェンに向けられたものだった。
対するルーフェンは、先程までの余裕の表情は消したものの、取り乱すことなく凛とした態度でそれを見つめている。
道脇で爆睡していた人間とは思えないくらいだった。
「……ぁあ……貴様は、貴様は……」
「……君は何人殺した?何人の魂で出来てる?」
そうルーフェンが問いかけると、それはふらふらとした動きを止め、じっとこちらを見てから再びにたりと笑った。
「……沢山殺した……」
「リベルテの人間と、あとこの街の人間、かな?」
「リベルテ……?」
「君の生まれた国だよ」

 ルーフェンとそれの間で繰り広げられる会話が理解できずにいたスレインだったが、リークによって運ばれてきたキートを見て意識をそちらへと向けた。
キートは気を失っているらしく動かないが、どうやら生きてはいるようだ。
「あんた、治療できるか?」
リークの問いに、スレインは頷く。
「ええ、大丈夫です。この状況では応急処置しかできませんが……」
「十分だ」
そう言ってリークは立ち上がると、ルーフェンと同じように目の前の存在を見つめた。
それは、まだあの稲妻による衝撃を抱え動けずにはいるようだが、先程に比べ体から昇る煙も少なくなっており、顔にも少し余裕が浮かび始めていた。
そろそろ攻撃を仕掛けてくるのかもしれない、そう考えて、スレインはかすかに身震いした。
「おい、ルーフェン。どうする?」
「多分数が多くても変わらないだろうから、とりあえず僕がやるよ」
「だったら、魔法具がない分は俺の魔力で——」
(魔法具……?)
その言葉に、スレインははっとした。
そして脇に置いてある荷物から、例の麻袋を引っ張りだしルーフェンとリークの前に突き出した。
「魔法具って、これじゃあありませんか?」
その瞬間、ルーフェンの目が見開かれた。
リークの方は、一瞬なぜお前が持っているんだ?という疑問の表情を浮かべ口を開きかけたが、ルーフェンがその麻袋を受けとり歓喜の声をあげたことでその声は遮られた。
「うわぁ、ありがとう!そっか、これ貴女達のところで置いてきちゃってたのか!」
目を輝かせながらその袋を抱きしめ、中から赤、黄、緑の宝珠を取り出す。
すると次の瞬間、その3つの玉はふわりと浮かび上がり、ルーフェンの周りを浮遊しだした。

その光景を、まるで夢見るように眺めていたスレインだったが、しかしリークの声で現実に引き戻される。
「おい!くるぞ!」
声に反応して咄嗟に視線を戻すと、あの闇の塊がこちらに迫っていた。
だが、その塊は轟音と共に現れた炎にかき消され、相殺される。
どうやら、その炎はリークが放ったものだったようだ。
「——っ、ルーフェン、やっぱお前に任せる。俺じゃあ無理だ」
「うん、リークは結界よろしくね。……短時間でやる」
「……了解」

 これまでの飄々とした雰囲気を捨て去り、ルーフェンはすっと目を細めた。
そして目の前のそれを見据え、勢いよく手を前に出す。
すると、浮かぶ緑色の宝珠が光ったのとほぼ同時、舞台の床を突き破って、巨大な岩が姿を現した。
その岩は、まるで人間の腕のように伸びそれに掴みかかり、最終的には他の位置からも隆起し飛び出した岩が、巨大な一つの岩の塊となってそれを飲み込んだ。
だが、その岩はゆらゆらと振動しており、中からは悲痛な呻き声のようなものが聞こえてくる——そして、何かを発動させる気なのか、その岩の中心部からすっと黒い魔方陣が現れた。
しかし、それを全く問題ないといったような様子で、ルーフェンが手をかざすと、その魔方陣が書き換えられるかのようにして外側から内側に、金色の別の魔方陣へと変わっていく。

「耳塞げ!」
 戦闘に目を奪われていたスレインに、ほの紅い膜のようなものを周囲に張ったリークが叫ぶ。
一瞬なぜそんなことを言われたのか理解できなかったが、慌てて手で耳を塞ぐ。
目の前では、ちょうど黒い魔方陣が、完全に金の魔方陣へと姿を変えた時だった——と、次の瞬間。
目の前が、深紅に染まった。
それを飲み込んだ岩を包み込むほどの、巨大な火柱が上がったのだ。
否、火柱というよりは、もはや溶岩が吹き出したといったほうが正しいかもしれない。
確かにここから発せられた轟音は、まともに聞いていたら耳がおかしくなっていただろう。
リークの張った結界も、この熱風から自分達を守るためのものだったのなのだと、スレインはその時気づいた。

 数秒の後、火柱が収まった後を見ると、そこには灰だらけの床と、ほぼ原形を残していないそれの姿があった。
手足は溶け、ほとんど胴体と頭だけになった状態のそれは、剥き出しの目玉をぎょろぎょろと動かした。
「……ぁ……ぁ……消えたく……ない……消えたく、ない」
微かに、漏れるように出たその声を、ルーフェンは確かに聞き取った。
「すまなかったね、君はただの被害者だ。……せめて、人として安らかに眠ってほしい」
穏やかな声音でそう言った後、ルーフェンが再びすっと手をかざすと、その手に答えるように黄色の宝珠が輝き、天から垂直に雷撃が降り注いだ。

 雷撃に備えて目と耳をきつく塞いでいたスレインは、静けさを感じ取ってから恐る恐る目を開けた。
するとそこには、ルーフェンと、床に染み付いた漆黒の影のようなものしかいなかった。



Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.31 )
日時: 2013/03/27 22:59
名前: Towa (ID: te9LMWl4)



  *  *  *


——3日後。

「はぁ、暇だ」
 部屋の窓から街の大通りを眺め、フィオは何度目とも知れぬ文句を吐き出した。

 今からちょうど3日前、このモーゼル街は突如化物に襲撃された訳だが、被害はそこまで大規模ではなかったため、街自体は既に明るい雰囲気を取り戻しており、劇場の復興に向けて人々が動いていた。

「……で、なんでここにこいつらがいるんだ!!」
「は?」
「…………」
フィオは、包帯の巻かれていない方の腕で、向かいのベッドに横たわる薄茶色の髪の青年と、その横で林檎にかじりついていた焦茶色の髪の少年を指差した。
「なんだよ、いちゃ悪いのか?俺達はお前の命の恩人だぜ?」
「うっ……」
リークのその言葉に、フィオは詰まった。
スレインから、フィオとキートが気を失ったあとの話を聞いていたからだ。
『ルーフェンさんとリークさんがいなければ、私達は今頃死んでいました』と。
「だ、だけどっ!なんで別の部屋行かないんだよっ!」
「仕方ないだろ、こいつは寝てるだけだからって病室追い出されたんだよ!」
「じゃあそいつ起こせよ!」
「こいつにとっては大事な睡眠なんだ!」
「こら、二人とも、あんまり大きな声は出さないでください。ルーフェンさんはまだ寝てるんですから」
「うん、僕も骨に響くから、そんな大声は出さないで」
スレインとキートに注意され、二人は黙りこんだ。
しかし、そのあとも大人げなく目をあわせては威嚇しあっている。

 あの惨劇のあと、駆けつけてきた役所の人間に事情を説明したスレイン達は、まとめてそのまま病院に投げ込まれた。
しかし、腹部に風穴の空いたフィオは、流石の回復力で僅か1日で意識を取り戻し、3日経った現在では既に歩けるようになっていた。
また、全身複雑骨折のキートも同じく、ほとんど歩けるような状態であったし、スレインも軽く肩を怪我しただけであったため、包帯は巻いているものの全く生活に支障はない状態で、あと1日休めば3人とも病院から出られるだろうというところだった。
だが、問題はルーフェンであった。
ほとんど無傷でいたのにも関わらず、あの闘いの後「眠いから寝る!」と宣言し、そのまま丸3日一度も起きていないのだ。
「あの、……本当に大丈夫なんですか?ご飯も食べてませんし……やはり一度起こした方がいいのでは……?」
「いや、これは寝てるって言うか、仮死状態みたいなもんだから、そういうのは気にしなくていい」
「仮死状態、ですか……?」
「ああ、こいつここ最近馬鹿みたいに魔力使ったから、こうやって回復してんだよ。ま、流石にそろそろ起きるだろうし」
「は、はあ……まあ回復してるなら良いのですが……」
渋々といった様子で納得し、スレインはルーフェンを覗きこむ。
すると、やはり彼からは規則正しい寝息が聞こえてくる。
どう考えても寝ているようにしか見えなかった。
「そういえば、初めて会ったときも寝てたよね、道端で」
「道端!?」
なんとなく出会ったときのことを思い出して呟いたキートの一言に、リークは思わず声を上げた。
「なに、こいつ道端で寝てたの?」
「うん、そうだよ。大の字になって。だから僕達が起こして、一緒にお昼ご飯食べたら、そのままその宝珠みたいなの忘れていっちゃったんだよ」
「ぶっ、なるほど」
リークは、思わず口から出そうになった林檎の欠片を慌てて飲み込み、けらけらと笑った。
「うん、でまあ、そんな感じの出会い方だったから、まさかルーフェンがサーフェリアの宮廷魔導師だったなんて微塵も思ってなかったんだよ」
「はははっ、まあ、そうだろうな。こいつ威厳もなんもないしな!」
リークのこの言葉に、フィオ、スレイン、キートの三人は密かに同意した。
特にフィオとキートに関しては、あの化物との戦闘の際気を失っていて、ルーフェンの魔力を目の当たりにしていない。
そのため彼の印象と言えば、だらしない格好で道端に寝ていた男、それしかないのだ。
「あ、でも——」
ルーフェンのベッドをばしばしと叩きながら笑い転げるリークが、ふと言った言葉に、三人は首を傾げる。
「お前ら、これからサーフェリアの王宮来るんだったよな?スレインがなんか用があるとかで」
「はい、そうですが……」
「だったら、サーフェリアの民衆達の前では一応こいつのこと『さん』付けくらいはした方がいいぞ。こいつ一応、サーフェリアの宮廷魔導師長様だから」
「「え!?」」
「…………」
あまりにも軽い感じで明かされた衝撃の事実に、フィオとキートは目を見開いた。
既に彼が雷属性、火属性、土属性の魔法を使用していた姿を見たスレインは驚きを顕著にすることはなかったが、ルーフェンが竜人だったというだけで驚嘆していた少年二人の衝撃は大きかった。
なにしろ、サーフェリア王国の宮廷魔導師長と言えば、世界でただ一人5匹の竜殺しを成功させたという、世界最強を謳われる魔導師だ。
予想していた人物像との差に、面食らうのも仕方がないことだった。

「いや、でも——こいつ、その、ルーフェン……さん?は、宮廷魔導師長なんだよな?そんな人が魔力切れするような相手って……あの化物は一体なんだったんだ?」
ふいに、今思い出しても恐ろしくなる——極上の笑みを浮かべながら人間を肉片へと変えていったあの血塗られた化物を思い起こして、フィオが身震いした。
ずっと、あの化物の正体を聞こうと思っていたのだ。
「ああ、あれは、単なる魔物だ。ただちょっと特殊な、人間の憎悪から生まれた魔物。ルーフェンが魔力切れしたのはまあそれもあるけど、主な原因はリベルテを焼き払ったことさ」
「——なっ!?リベルテ滅ぼしたのってこいつだったのか!?」
「あ、やべっ」
リークは慌てて口を閉じたが、時既に遅し。
フィオは怒りの混じったような表情で、こちらを睨んでいた。
「おい、それどういうことだ!なんでそんなことしたんだよ!?そのせいで一体どれだけの人間が死んだと思ってるんだ!!」
——国が、故郷がなくなるような想いが、どれだけ辛いことだかわかってるのか!!
ベッドから降り、フィオは掴みかかるような勢いでリークに迫る。
しかし、リークは至って冷静な態度でそれをあしらった。
「おい、落ち着けよ。言っておくが、こいつに非はないぞ。リベルテを全焼させたのだってちゃんと理由があったはずだ」
「なんでそんなこと言い切れる?」
「勘」
「勘で片付けるな!!」
「うるさいやつだな。こいつは無意味な殺戮なんてしない。詳しい事情はまだ聞いてないけど、それだけは確かだ」
「——ですが」
ふと混じったスレインの声に、一同の視線が彼女へと集まった。
フィオとリークの言い争いの中で、高い彼女の声はよく響いたのだ。
「ですが、どんな理由があろうとも、多くの人間の命を奪っていい理由にはならないはずです。たとえリベルテ側に非があったとしても、それはどうせリベルテ政府に問題があったということでしょう?何の罪もない民衆達まで焼き払った理由はなんなのでしょう?」
「さあな。でもそんなの綺麗事でしか——」
「サーフェリアは、リベルテに宣戦布告されたのではないですか?しかしそのとき、リベルテなど戦う価値もないと相手にしなかった。けれどその反面、軍事国家として急成長を遂げていたリベルテを、目障りだとも思っていたのではないでしょうか?あと十数年経てば、もしかしたら無視できないくらいの軍事国家になるのかもしれない、自国を脅かす存在になるかもしれない、と。だから今のうちに潰そうと考えた。でも貴殿方はできるだけ戦争を起こすようなことはしたくなかった。なぜなら、そんなことを行えば、ただですら少ないサーフェリアの軍隊がサーフェリア内にいないことを他国が知り、奇襲をかけてくるかもしれないから。だから1つの国くらい消し飛ばす力を、規格外の絶大な魔力をお持ちの、そちらの宮廷魔導師長一人を送り込み、他のどの国に気づかれることもなくリベルテを焼き払った。違いますか?」
一瞬、室内が静まり返った。
控えめなスレインが、ここまで気を昂らせたことにリークも驚いたのだろう。
そしてフィオとキートは、アレスタス侯爵家でこの話題に異様に食いついていたスレインを思い出した。

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.32 )
日時: 2013/03/28 11:02
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)

 少しの沈黙の後、リークがはぁ、と1つ息を吐いて口を開いた。
「……リベルテに宣戦布告されてたのは本当だ。だがルーフェンがリベルテに行ったのは、そんな理由じゃない。リベルテがここのところ音信不通で、明らかに様子がおかしかったから、その原因を突き止めに行っただけだ」
「……それで、なぜ焼き払うことに繋がるのですか?」
「それは知らん。こいつに聞け」
「リベルテの民が一人残らず、生ける屍(アンデッド)になっていたから」
返ってくるはずがないと思っていた声が返ってきて、リークとスレインは思わずぎょっとしてベッドの方を見た。
そんな二人の心境を余所に、「おはよう」と伸びをしてルーフェンが上半身を起こす。
「生ける屍(アンデッド)って……」
「文字通りだよ。一度死んだ人のその死体が、なぜか動くってやつね」
予想もしなかった単語が返ってきたため、部屋にいた全員が黙りこんだ。
「リベルテの様子がおかしいから見に行けって命令を受けて行ってみたら、なんとびっくりリベルテは生ける屍(アンデッド)の巣窟になってたんだよ。で、とりあえずそれをどうにかしないとと思ってね。……生ける屍(アンデッド)を唯一倒せる方法、何か知ってる?スレインさん」
「……!、炎で燃やす……!」
「その通り。だから僕はもういっそと思って国ごと焼き払ったんだ。本当に国全体腐った死体ばっかで、空気も吸えたもんじゃなかったよ。持ってた食料とか全部腐っちゃうし」
重苦しい話の割に、なんとも間の抜けたような声でルーフェンは言った。
「で、でもなぜ生ける屍(アンデッド)が……?そんな大量発生するなんて、聞いたことがありません」
「ああ、そうそう、僕もそれが謎でね。でもよーくリベルテを探ったら、ちょうど城壁に囲まれた領土全体が巨大な魔方陣になってたんだ、それも人間の憎悪から魔物を産み出すという禁忌魔術の魔方陣。……つまり、リベルテ政府がこそこそと何をやっていたのかというと、自国民を生け贄に使って、その国民達から生まれた憎悪の念を源に上位の魔物を産み出してたんだ。まあ、実力的に勝てなさそうなサーフェリアも含め、色んな国に宣戦布告してその国全てを魔物の力で滅ぼそうとでも考えたんだろうね」
あまりにも壮絶な話に、スレインだけでなくフィオやキートも絶句した。
戦争に勝ち、国の地位をあげることがそこまで大切なことなのか。
国民を犠牲にしてまでやるようなことなのか。
憎悪にまみれて死んでいった国民のことを考え、スレインは吐き気に襲われた。
「ただ、召還した魔物は別に操れる訳じゃない。それをリベルテ政府は認識してなかったんだ。だから禁忌を犯して魔物を召還したのはいいものの、その魔物はリベルテにいる人間全てを殺し始めた。上位の魔物に殺された人間は、肉体が滅んでも染み付いた憎悪の魂が永遠に生き続けるから、生ける屍(アンデッド)となる。その結果、まあ国全体が生ける屍(アンデッド)だらけになったってわけ。僕はそのことに気づいて、その魔物がまた別の国や街で殺戮始めないように止めるつもりだったんだけど……その気配を追ったら、どうやら魔物は北のここ、モーゼル街の方に既に向かっていたようでね、慌てて追いかけたんだ。まあただ僕もリベルテ全焼させたのでヘロヘロだったし、だからと言ってサーフェリアに戻る時間はなかったから道端で寝てたわけなんだけど」
「……では、貴方は魔物がモーゼル街に潜んでいた可能性を考え、私達にカルダットへ行くように言ったのですね?」
スレインの問いに、ルーフェンは頷いた。
「まあでも実際、君達がこのオーブ……あ、オーブっていうのは僕の魔法具で、この宝珠みたいなやつね。これ届けにモーゼルに来てくれて良かったよ。君達が劇場で魔物の足止めしてくれてなかったら、被害はもっとすごいことになってただろうから。……とまあ、こんな感じ。スレインさん、これでいいですか?」
ルーフェンの言葉に、スレインは肩を震わせた。
そして深々と頭を下げ、謝罪する。
「すみません……なんだか私混乱してしまって、とても失礼なことを……」
「いやいや全然。気にしないでよ」
穏やかな声でそう述べて、ルーフェンは勢いよくベッドから立ち上がる。
そしてまるで辺りの重苦しい雰囲気をかき消すかのように、明るくリークに声をかけた。
「さて……リーク、そろそろ帰ろう。こんなに城空けちゃったから、すっごい仕事溜まってるかも……。このこと王様に報告しなきゃいけないし」
「じゃあもう今日帰るか?」
「船ある?」
「モーゼルから出るのは明後日までなかったから、サーフェリアから呼んだ」
「仕事が早いねぇ、流石リーク!」
「ま、お前より早いのは確かだな」
「えぇ……ひどい」
「で?お前らはどうする?」
「はい!?」
突然話がこちらに飛んできて、スレインは慌てて返事をした。
しかし、彼女が何の話かいまいち理解できていないことをリークは感じ取って、もう一度同じ質問を繰り返した。
「お前らはどうする?って。今サーフェリアから船来てるから、俺達はもう今日出発する。だから一緒にその船乗ってもいいぞ。ただ明後日モーゼルからもサーフェリア行きの船は出るから、お前たちがもうちょいここで休んでいきたいならその明後日の船に乗ってもいい。どっちにする?」
「「「今日一緒に乗せてください」」」
「よし分かった。あ、ただしあれな。俺達はお前らを、上位の魔物と戦った重要参考人みたいな形で連れてくから、王宮についたらちゃんと協力してくれよ」
リークが凄まじい早さで話を進め、さっさと病院を出ていく手続きを始める。
「なんかリーク、カザルといないとしっかりするね」
「うるせぇ!」

 その日、モーゼル街をクラーケン含め魔物達の手から救ったということで、ちょっとした有名人となっていたフィオ達は、足早に病院から出るとサーフェリア行きの船に飛び乗ったのだった。


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