ダーク・ファンタジー小説

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〜竜人の系譜〜
日時: 2013/03/30 21:54
名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)

皆様はじめまして!

『〜竜人の系譜〜』は、御砂垣赤さん、
幻狼さん、瑞葵さん、Towaによる合作小説
です。

頑張って書いていきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます(*^^*)


〜目次〜

†登場人物・用語解説†
>>1

†序章†『竜王の鉄槌』
>>2 >>3 >>4 >>5 >>6

†第一章†『導と手段』
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 
†第二章†『路と標識』
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
†第三章†『竜と固執』
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37 

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.18 )
日時: 2013/03/25 22:27
名前: Towa (ID: EZ3wiCAd)

 普段の穏やかな声音からは想像もできない驚嘆の声が、スレインから発せられた。
状況をいまいち飲み込めないフィオは、そっとキートに向かって囁く。
「リベルテって……確か最近までツインテルデを領地にしてた国だよな?」
「うん。それなりに大きな軍事国家だ。一晩で滅びるような国じゃない」
スレインの驚嘆の理由を知り、フィオはああ、と納得したように彼女を一瞥した。
「一夜でって……一体なぜ……?」
「今調べておる。リベルテは最近近くの国々に片っ端から宣戦布告をしていてな、ツインテルデも例外でなかったため定期的に偵察を潜り込ませていたのだが……今朝の知らせによれば、リベルテは跡形もなく焼き払われ、消し飛んでいたらしい。既にこの辺りの国々には知れ渡っていることだが」
「消し飛んで……魔力の、竜人によるものでしょうか?」
「その可能性が高いな。民も建物も跡形もなく焼かれている。普通の火事ではこのようにはならないはずだ」
スレインは、絶句した。
あの国土を、それも軍事国家を一晩で焼き払うなど……
できるとすれば——
「あの……リベルテが宣戦布告した国々というのは……?そのどれかの国の仕業ではないのでしょうか?」
いつになく真剣な表情を浮かべるスレインの問いに、侯爵はゆっくりと首を横に振った。
「その可能性も考えたが、最近リベルテに軍隊が送りこまれたという情報はないのだ。いくらなんでも、リベルテを滅ぼすほどの大規模の軍隊が動けば、気づかぬはずがない。それに、国ごと焼き払うなど、民も領土も捨てるようなもの。他国との争いならば、相手国はリベルテを支配するため必要最低限の破壊行為しか行わないはずだ。焼けた地を得ても、何の得にもならないからな」
「ですが——」
「それより、リベルテはここ一年ほど、どの国とも連絡をとっておらず、中の様子が伺えぬ状態だったのだ。偵察も城門の壁を見上げることしかできなかったという……それ故リベルテの内部で何かが起きていたという可能性の方が考えられる」
「た、例えそうだとしても、焼き払ったというのは確実に人為的なもの。それを成せる竜人など、おそらくリベルテにはおりません……なぜ、国ごと焼き払ったのかは分かりませんが、やはり他国によるものではないかと……!」
「しかし……先程言った通り争った痕跡がないのだ。魔物の襲撃も考えたが、それもやはり気づくはずだ。何の前触れもなく瞬時に焼き払うとは……やはりリベルテ国内で巨大な魔力の暴発など、何かが起きたとしか……」
弾けたように侯爵を見上げ、スレインは首を横に振った。

「い、いいえ——」

——可能なのです。
軍も送らず、誰にも気づかれることなく、国一つを一晩で滅ぼすことが……!
あの国ならば、あの——!

そう叫ぼうとして、スレインは我に返ったようにして言葉を飲み込んだ。
そして崩れるようにして跪くと、ゆっくりと頭を下げた。
「も、申し訳ありません。取り乱してしまいました……このような、私ごときが侯爵様の御前ではしたない真似を……」
「……いや……構わぬが」

 全身を、汗が流れていくのを感じる。
異常なまでの喉の乾きと手足は震えを収めようと、スレインは一つ大きく息を吸った。
「お、おい、大丈夫か……?」
スレインの見たこともないような感情の昂りに、フィオが心配そうに声をかけた。
それに対し、声は出さずに大丈夫だと頷き返すと、スレインは額を拭い立ち上がる。
「侯爵様、大変なご無礼お許しください」
「気にせずともよい……まあ、真相はまだ分からぬが、とにかくあのリベルテが潰れたとなれば様々な影響がこちらにもこよう。ツインテルデのこの騒がしさと警戒ぶりは、それが原因だ」
侯爵の言葉を聞いてから頭を下げ、スレインは笑みを浮かべた。
しかしその笑顔もどこか疲れているようで、先程までのはきはきとした態度は全く見えない。
それを感じ取りつつも、フィオとキートはただ押し黙ったまま立ち尽くすことしかできなかった。
「このようなお忙しいところに、申し訳ございませんでした。お教え頂き、本当にありがとうございます。私達はそろそろ失礼いたします」
「いや、礼を言いたいのはこちらの方だ。大した待遇もできずすまなかったな、マルライラ殿。馬はもう外に用意してあるだろう、使ってくれ」
「ありがとうございます」
そう言って踵を返したスレインに、半ば放心状態となっていたフィオとキートも慌てて続く。
その背に向けて、侯爵が最後に一言放った。
「マルライラ殿、父君によろしく頼む」
「……はい」
それに対しもう一度頭を下げ、一行はアレスタス侯爵家を後にした。

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.19 )
日時: 2013/03/28 12:22
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)


†第二章†
『路と標識』



  *  *  *


 遥か太古の昔、後に崩壊の期間とも呼ばれたこの時代。
世界には魔物がはびこり情勢は崩れ、人々はまるで狂ったように争いを始めた。

 そんな中、ジュエンという男が争いを修めようと一人立ち上がった。
彼は、竜の中でもその頂点に立つ光竜の身体に傷をつけ、そこから流れ出た血を飲み、 強大な魔力を手に入れた。
そしてその魔力を使い、草木を生やし河川を潤し、世界を再生させた。

 これにより崩壊の期間は終焉を迎え、人々は再び希望を取り戻す。

 これが、世界を救った英雄ジュエンの物語である。



「っていうのが、英雄ジュエンの物語だ」
 フィオは胸を張ってそう言うと、ちらと二人へ目を向ける。
「……うん、やっぱり聞いたことないかな」
「私も、聞いたことないですね」
そんな二人の反応に、フィオは信じられないと言ったような表情を浮かべた。
これまで知らない者などいないと思っていたが、どうやらこの英雄ジュエンの物語は、ミストリア王国のみに伝わるものだったようだ。
「そっか、知らないのか。ミストリアじゃあ知らないやつなんていないような伝説の物語なのにな。……世界で初めて竜殺しを成功させた英雄ジュエン!!しかも光竜!!かっこいいよな!!俺は昔からジュエンに憧れてたんだ」
目をきらきらと輝かせながら興奮するフィオに、思わず二人は苦笑した。
竜人に絡んだ伝説だということで、なんとなく興味が湧きフィオに話してほしいと頼んだわけだが、フィオはその物語を話終えてからずっとこの様子だった。
もちろん、大体の内容は理解できたのだから目的は果たせたわけだが、それでも二人は、フィオの興奮ぶりにまるで着いていけず、もはや苦笑する他なかったのだ。



 ツインテルデの街道を抜けて10日、フィオ、スレイン、キートの3人は、サーフェリア行きの船が出ているモーゼル街へと向かっていた。
ここ一帯は争いが多いため、どの土地をどの国が統治しているか曖昧な状態で、あまり治安も良いところとは言えない。
そのため、アレスタス侯爵から馬をもらい、三人は早くこの土地を抜けてしまおうと考えていたのだ。
ちなみに、フィオはミストリアで王都まで行く際に馬を利用していたし、スレインやキートも旅途中に何度も乗ったことがあるため、三人とも馬の扱いには慣れていた。
そして、馬を手に入れたことにより、徒歩よりもずっと早く旅を進めることができているのだった。

 道中、フィオはキートに魔力の操作を学んでいた。
竜人になったのはいいが、その力を戦闘に生かせないのでは意味がない。
そう感じ、フィオ自らキートに魔術を教えてほしいと頼んだのだった。

 スレインは治療や料理といった生活面での能力に長けていたし、夜間もフィオとキートを中心に3人交代で見張りをすれば全く問題がなかった。
また、ミストリア王国からほとんど出たことのないフィオにとって、スレインやキートのこれまで巡った異国の話や、出会った出来事や人々の話は、興味を引くものばかりだった。



 徐々に強くなり出した日差しは、だがまだ暑いというほどでもなく心地よい。
ここは北国のため、日差しは強くとも気温自体が低いためだ。

「しかし、そのジュエンさんという方が使った光竜の魔力とは、一体どのようなものだったのでしょうね。竜人が一般的に認識され始めた現在ですら、光竜と闇竜だけは目撃情報が全くありませんし……」
「川を潤す、は水竜の力、草木の再生は土竜の力でできそうだけど……光竜の魔力は、火竜、雷竜、水竜、土竜、風竜、全ての属性を使える、とか?あ、でもそうすると闇竜の存在に説明がつかないか……」
二人の推理を聞きながら、フィオは言葉を続ける。
「一説によると、光竜が司るのは再生の魔力、闇竜が司るのは破壊の魔力、みたいだけどな。ただこれには色んな説がありすぎて、よく分かってないらしいよ——……あれ?」
ふと、フィオは言葉を切って遠くを見つめた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんか……」
「…………?」
す、と腕を持ち上げ、その指で示したのは、道脇にある1本の木の根元。
「……人が落ちてる」

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.20 )
日時: 2013/03/28 08:54
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)


 駆け寄ってみると、道脇の1本の樹の下に青年が倒れていた。
と、いうよりも、仰向きになっているこの姿は、意図的に寝転がっているようだった。
薄茶色の髪は柔らかそうであるが、手入れをしていないのが一目瞭然で、すっかり伸びきって前髪が目の辺りにまでかかっている。
着ている服も汚れており、所々すりきれていたり、あるいは灰や煤のようなものが付着していた。

 フィオは馬を下り、跪いて覗き込んだ。
全体的に色素の薄い睫や肌、よく見れば美青年と称してもおかしくない顔立ちだが、だらしなく伸びた前髪やその薄汚れた服装が、全てを台無しにしている。
フィオは、その青年の肩を軽く叩いた。
しかし、反応はない。
そもそも、馬の蹄の音にも自分達の足音にも青年は全く反応を示さない。
「おい、あんた。どうし——」
どうしたのか、と声をかけようとして、フィオは言葉を止めた。
微かな寝息が聞こえてきたからだ。
「その人、寝てるの?」
キートも馬を降り、ひょいとフィオの隣から覗き込む。
「いやでも寝るったって……なんでこんなところで?」
街道でも、魔物はもちろんのこと、こんなところで熟睡すれば、即座に盗人に目をつけられるだろう。
見たところ、特別高価なものを身に付けているわけではないようだが、決して貧民層の人間の格好ではない。
特にその左耳につけた紅い耳飾りは、全体的に色素の薄いこの青年の中で、際立って存在を主張している。
この存在感からして安価なものでないのは一目瞭然、これを盗めば、それなりの値で売れるだろう。
いつからここで寝ているのかは分からないが、今まで盗人に遭っていないのが不思議なくらいだった。
「旅人さんがこの辺りで休憩しているだけならよくある話だけれど、寝てるのは珍しいよね」
混乱した頭を抱えるフィオに、キートは応えた。
「呼吸は正常ですし、少し体温が低めのようですが問題視するほどではありませんね……本当に、ただ寝てるだけみたいです」
スレインも青年の様子を伺うと、首を傾げてそう言った。
「ただ寝てるだけって……それにしても普通起きないか?」
特に小声でもない会話がこんな至近距離で繰り広げられれば、普通は目覚めるはずである。
しかし青年は熟睡しているようで、目覚める様子がない。
「こいつ……放っておくわけにもいかないよな。この辺、夜は冷えるだろうし、盗人も出るかもしれないし」
「そうですね。起きるまで、少し待ってみましょうか」
フィオと同じように、スレインはわずかに身をかがめて青年を見ると、それからキートに視線を移した。
「蹴ったら流石に起きるんじゃないかな?」
「はぁ?」
キートの提案に、フィオは呆れたように彼を見上げた。
「蹴っ飛ばしたら流石に起きるさ」
笑顔で楽しそうに話すキート。
いつものごとく、穏やかな顔をして黒い発言を繰り返す。
「お前……そんな赤の他人いきなり蹴り飛ばすなんてできるわけないだろ」
「そうですね……まあ、無理に起こす必要もないですし……」
「でも気にならない?どうしてこんなところで寝てるのか……早く聞いてみたいと思わないかい?」
「それは確かに気にな——」
「あ……!?」
フィオの言葉を遮ってキートが青年の様子を再び伺っていた時、すごい勢いで青年の上半身が起き上がった。
「だっ!?」
「ん……」
「えっ!?」
起き上がった青年の額が、彼を覗き込む体制をとっていたフィオの顔面に直撃した。
「——っぅぁ……!」
あまりの痛みに、顔面を押さえて悶える。
目から火花、とはまさにこの感覚だろうと思いながら、そのまま地面に転がった。

「……ん……?」
 透き通るような、深い鳶色の瞳がゆっくりと開かれた。
青年はぼんやりと悶えるフィオを見つめ、静かに口を開いた。
「あれ……どちらさま?」
まだうつらうつらと眠そうな表情を浮かべながら、青年は次にキート、スレインを見上げる。
そして最後に再びフィオを見て、不思議そうに首を傾げた。
「私達は旅の者です。先程ここで倒れている貴方を見つけまして……」
スレインは、応答不能なフィオを一瞥してから、一度キートと顔を見合せると答えた。
すると、青年はああ、と声をあげる。
「なるほど。それはそれは、ご親切にありがとう。でも大丈夫ですよ、寝てただけですから」
「は、はあ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、青年はスレインに対し笑顔で答えた。
「なんでこんなところで寝てたの?」
「ん?ちょっと疲れただけ。途中で食べ物も水もなくなっちゃうし、色々あってね。お腹すいたし眠くなったから寝ようと思って——」
「だからって、こんな道端に寝るやつがあるかっ——!!」
青年の言葉を遮り、うっすらと眼の端に涙を浮かべたフィオが怒鳴った。
悶えるほどの痛みは去ったようだが、よっぽどの衝撃だったのだろう、その額は赤く腫れている。
「大体あんた、荷物もろくに持たないでこんなとこでなにやってんだよ!!」
「……君、大丈夫?額のところすごく腫れてるよ……痛そ——」
「あんたが急に起き上がってきて俺の顔面に頭突きしてきたんだろうがっ!!」
思わずフィオが青年の胸ぐらを掴んだ。
それを慌てて止めようとするスレインだが、その緊張感とは裏腹に青年は納得したようにぽんっと掌に拳をおく。
「通りで!僕もなんか頭ずきずきするなと思ってたんだよ、ごめんねぇ」
なんともつかみどころのないその態度に、ますますフィオの頭に血が上った。
「この——っ」
「まあまあ、フィオ、落ち着いて」
スレインがなだめるようにその腕に手をおくと、フィオは渋々といった様子で青年の胸ぐらから手を引いた。
それから彼女は穏やかな表情で青年に視線を移すと、軽く頭を下げてから言う。
「あの、先程食べ物も水もなくなったとおっしゃっていましたが……私達丁度食事にしようと思ってたところなんです。空腹でいらっしゃるようですし、よろしければ貴方もいかがですか?フィオ、キート、彼も一緒に、いいですよね?」
「僕は構わないよ」
「は!?」
唐突な提案に対してキートは微笑み頷いたが、フィオは絶対に嫌だといった様子で首を振る。
しかし尋ねたにも関わらず、スレインはそれを無視した。
「え、いいんですか?」
柔らかな物言いのスレインに、青年は少し驚いた様子で問い返した。
「ええ。困った時はお互い様ですし……」
「わ〜、ありがとう」
「おいこらっ、ちょっと待て!」
微笑みあう二人の脇で、フィオが突っ込む。
しかしキートが諦めろと言わんばかりにその肩を軽く叩くと、フィオも呆れたような表情のまま押し黙った。
そのフィオの様子に苦笑すると、それからキートは一歩前に進み出た。
「ところで、僕はキート・スタシアン。キートって呼んでね」
にこりと微笑み、銀髪の少年が名乗る。
「私はスレイン・マルライラ。……えっと、彼はフィオ・アネロイドです」
スレインもキートに続き名乗り、それからふて腐れて名乗ろうとしない青い髪の少年を示した。
すると青年は髪や肩を叩き、埃や煤のようなものを落とすと、三人を見渡した。
「キートくん、スレインさん、フィオくん、ね」
伸びた前髪の隙間から鳶色の目を覗かせ、青年は微笑んだ。
身長は三人よりも頭一つ分高く、その中性的な顔立ちは、人とは違う奇妙な雰囲気を感じさせる。
「僕はルーフェン・シェイルハート。どうぞルーフェン、と」

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.21 )
日時: 2013/03/28 09:01
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)

「絶対怪しいだろ!」
 乾いた小枝を拾い上げながら、フィオは口を尖らせ呟く様に言った。
「ん?何が?」
そんな彼と同じように、林を歩きながら薪となる枝を拾い、キートは問い返す。
「何が……って、あのルーフェンってやつだよ」
「そう?」
どうでもいい、といった風に答えるキートに、フィオは怒ったように言葉を荒げた。
「そう、だ!あんな丸腰状態で道端に寝るなんて、どう考えたって怪しいだろ!そもそも荷物だってほとんど持ってなかったし……俺らが通ってきたような処なら小国も並んでるし、まああの荷物量でも分かる。でもこの辺りには国どころか街もないんだぞ?」
「と、いうかさ、もしかしたらあの人リベルテの人じゃないかな?」
「え?」
「だって見たでしょ、あの服についた灰や煤。リベルテは国ごと燃えて滅びた……それが大体10日ほど前の話。僕らはゆっくり来たけど、ここからリベルテまでちょうど徒歩で10日くらいだし、彼がリベルテから避難してきた人だと考えたら辻褄が合うよ。荷物も用意できなかったんでしょ、火事になったらそんな用意はできないからね」
拾い集めた薪を示し、もう十分だろうとお互い判断すると、それから件の青年がいる方へと足を向けた。
スレインとルーフェンは今、道脇の木の傍で食事の用意をしているはずだ。
「まあ、確かに……でもそれって、住んでた国がなくなったってことだろ?そしたらあんな能天気でいられるはずない」
「それは……そうだね」
「だろ?……ってか、大丈夫かな、あんな得体の知れないやつとスレインを二人っきりにしてさ」
思い出したようにフィオが言うと、キートは苦笑した。
「フィオって結構心配性だよね。……そんなにスレインのことが心配なの?」
「なっ!?そういうことじゃあ……!!」
「大丈夫だよ。あのルーフェンって人、確かに怪しいけど、悪い感じはしなかったじゃない」
まるでフィオの意見を聞き入れようとせずに、キートは微笑む。
そして視界に入ったスレインに手を揚げた。
「……悪い感じはしないって、そんなのなんの理由にもならないだろ……」
呆れたように脱力して、フィオは呟いた。
そしてスレインの方へ歩き出すキートに、フィオは溜息を吐いて続いた。



 火から取り出したパンに、干し肉と香辛料、とろけたチーズを挟んで食べると、なんとも言えないほど美味しかった。
非常食用の水を含ませて焼くだけのものではあったが、スレインの焼くパンをフィオは気に入っていた。
そしてルーフェンも同じくそれを気に入ったようで、美味しいとパンを頬張り噛み締めていた。
「ところで、ルーフェンさん。貴方にお聞きしたいことがあります」
まだ口をもごもごと動かす青年に、スレインが切り出た。
ルーフェンは口にはいったものを飲み込むと、疑問符を頭に浮かべ首を傾ける。
「これからどうなさるおつもりですか?」
「北に行きますよ」
まるで当然だとでも言うかのように、ルーフェンは答えた。
「北……ということはモーゼルへ?それともサーフェリアに……?」
「ひとまずは、モーゼルへ」
「モーゼルへって……そんな丸腰でいけるわけないだろ?あんたなんでちゃんと旅装整えないんだよ」
先程一度考えることを放棄した問題だが、フィオは怒りを含んだ口調で問うた。
確かに、先程キートの言ったようにルーフェンがリベルテからの避難民であれば、丸腰である理由を問うのは酷なことかもしれない。
しかし、フィオにはこの飄々とした青年が、国を失った人間には見えなかった。
「……整えたんだけどね、全部ダメになっちゃったんだ」
「なんでダメになるんだよ?」
「色々あって、ね」
「だからその色々ってなんなんだよ!!」
「それは秘密だよ」
「だからそういうところが怪し——」
「落ち着きなよ、フィオ」
声を張るフィオを、キートが制した。
「だって食べ物も水もなきゃ、俺らが一緒に次のモーゼルって街まで行くしかないだろ!俺はこんな怪しいやつと旅するのは嫌だ!」
この青年を完全なる悪人だと決めつけているわけではないが、やはり素性が全く分からない者と道中共にする気になれなかった。
しかしキートはあまりその辺りのことは気にしていないようだし、スレインも遠慮しているのか遠回しな聞き方しかしない。
そうなれば、自分が聞くしかないとフィオは思ったのだ。
だが、そんなフィオの怒りの原因であるルーフェン本人は、笑みをこぼす。
「そう、フィオ君は優しいね」
「なっ……!」
「でもごめんね。僕も本当に詳しくは言えないんだ」
ルーフェンの声音は、どこまでも穏やかだった。
フィオは、自分がこんなにも必死に言っているのに優しいねなどと間の抜けたことをいうこの男に、一瞬腹立たしさを覚えた。
しかし、この一種暖かさをも感じるような声音に思わず押し黙る。
「僕は別に、一緒にモーゼルまで行ってほしいなんて厚かましいことは言うつもりないよ」
「食べ物もないのにか?」
「うん、まあどうにかなるんじゃないかな」
「どうにかって……」
フィオはため息をついた。
なんだかこの男と話していると、ここまで必死になっていることが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「まあ、とにかく、本当にありがとう。ご馳走さま。僕のことはあまり気にしなくていいから、君達は君達の旅を続けてよ。……恩返し、したいところなんだけど、今は何も持ってないから。せめてこれ以上迷惑はかけないようにするよ」
ルーフェンは立ち上がり、そう言って微笑んだ。
「しかし、私達もサーフェリアへ向かっている途中です。サーフェリアへの船が出ているのはここより北のモーゼルか、あるいは西のカルダットの二つの街です。だから私達も——」
「だったら、カルダットにいった方がいいよ。モーゼルは少し危険、というか僕といると危険かもしれないから」
「なんでだよ?」
「色々あって、だよ」
またそれか、とフィオは小さく舌打ちする。
つくづくこの男とは気が合わない、そんな腹立たしさを感じながら、フィオはルーフェンから目をそらした。









Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.22 )
日時: 2013/03/27 01:28
名前: Towa (ID: JIRis42C)

「それじゃあ、本当にありがとう。どうぞ、貴殿方の旅に多くの幸せが訪れますように」
 そう言って手を振り去っていくルーフェンの後ろ姿を見送りながら、フィオは小さくため息をついた。
妙な疲労感、とにかく自分は、あの男ととことん相性が悪いのだろう。
半日も時を共にしてなどいなかったが、フィオはそう感じた。
「ところで、どうしようか?カルダットに行く?」
次の行き先を決めようと、キートが再び旅支度を整えながら問う。
「モーゼルにしようぜ。カルダットはここから少し西だろう?北のサーフェリアに向かうんだったら、北にあるモーゼルからの船に乗った方が絶対近い。そうだよな、スレイン?」
「…………」
「……スレイン?」
返事かえってこないことを不思議に思い、フィオがスレインの目の前で手を振る。
すると、スレインははっと我に返ったように彼を見た。
「す、すみません。何でしょうか」
「モーゼルに行くか、カルダットに行くかってこと!」
放心状態となっていた彼女の見つめていた先が、先程ルーフェンの去っていった道だと気づき、フィオは顔をしかめ答えた。
「そう、ですね……当初の予定ではモーゼルに行くつもりだったのですが……ルーフェンさんの言っていたことも少し気になりますし……」
「あんな訳わからないやつの言うことなんか信じなくていいだろ」
「まあ、確かに不思議な方ではありましたが……ん?」
ふと、スレインの視線が道脇の一点で止まった。
その視線の先を、少年二人の目も追いかけると、そこには麻袋が一つ転がっていた。
「……あ……あれって……」
「うん、さっきルーフェンって人が持ってたやつだね」
「忘れてしまったんでしょうか……」
「…………」
「…………」
「…………」

 しばらくの沈黙の末、フィオはどかどかと大股でその袋に近づくと、乱暴にそれを掴みあげた。
大きさにしては、かなり重量感がある。
「かっ、勝手に開けるのは……」
「いいんだよ!忘れてったあいつが悪いんだから……よっと」
他人の荷物を勝手に漁ることに抵抗を感じたらしく、スレインは制止の声をあげたが、フィオは構わず袋口の紐をほどき中身を地面にぶちまけた。
「これは……?」
まるで錘を落としたような音を立て袋から出てきたのは、6つの透き通った玉であった。
それぞれ赤、青、茶、黄、緑、黒に近い色をしており、その周りには繊細な金細工が施されている。
「これは……なんでしょう?ただの宝珠、というわけではなさそうですし……見たことがありません」
「うん、僕もだよ。……とりあえず、安いものじゃあなさそうだね」
「…………」
しばらく、三人は頭を抱えただ呆然とそれらを眺めた。
よく見ると所々傷や汚れがついており、そこからもただ鑑賞したり飾ったりする宝珠ではないことは明らかだった。
しかし、これを見つめているとまるで吸い込まれてしまいそうな、そんな不思議な感覚に陥る。
「はぁ……これ、あいつに届けるしかないよな」
「うん、そうだね」
「そうですね」
もううんざりだという雰囲気を醸し出しながら言ったフィオの言葉に、二人が頷く。
モーゼルまではあと二日もかからない。
こちらには馬があるのだから、徒歩で言ったあの青年にはすぐに追い付くだろう。
「……全く、あいつ、何も持たずに行ったのかよ」
「ルーフェンさんが持っていらしてたの、この荷物だけでしたものね」
「色々あって、とかなんとか言ってたけど、どうせ食料とかその辺もどっかに忘れてきたんだろ」

 木に繋いでいた馬に荷物を括りつけ、三人は旅装を整え馬に跨がる。
「仕方ありませんね。行きましょう、モーゼルへ」
スレインは苦笑しそう言って、あの青年が行った道を辿る。
その背に続いて二人も馬を走らせ、三人はモーゼルへと向かった。




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