ダーク・ファンタジー小説
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- 〜竜人の系譜〜
- 日時: 2013/03/30 21:54
- 名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)
皆様はじめまして!
『〜竜人の系譜〜』は、御砂垣赤さん、
幻狼さん、瑞葵さん、Towaによる合作小説
です。
頑張って書いていきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます(*^^*)
〜目次〜
†登場人物・用語解説†
>>1
†序章†『竜王の鉄槌』
>>2 >>3 >>4 >>5 >>6
†第一章†『導と手段』
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19
†第二章†『路と標識』
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
†第三章†『竜と固執』
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.13 )
- 日時: 2013/02/16 07:42
- 名前: Towa (ID: CejVezoo)
「で、俺結局状況がよく分かんないんだけど」
屋敷で用意された夕食を終えたあと、フィオはスレインの部屋におしかけ、そう言って口を尖らせた。
「申し訳ありません、突然連れてきてしまって……」
「いや、別にいいんだけどさ……」
思いの外真剣に謝罪するスレインをみて、フィオは慌てて首を振った。
「……でもなんでこんな依頼引き受けるんだ?俺はまあ、もちろん早くヤムラ達の記憶を取り戻す手がかりを見つけたいのはあるけど……とりあえずそこまで急ぎの旅ってわけじゃない。けどスレインは仕事でサーフェリアに行かないといけないんだろ?こんなとこ寄り道してる暇ないんじゃないのか?」
不平、というよりは心配そうな表情で聞いてくるフィオに、スレインは微笑んだ。
「ええ、確かにサーフェリアにはなるべく早く行かねばなりません。しかしサーフェリアに行くためには、このツインテルデの街道を通らねばならないのです」
「ツインテルデの街道って……ああ、今回魔物が住み着いたってとこか」
「そうです。数ヵ月前、魔物が巣食ったせいで街道が通れなくなったため、魔物討伐に協力してくれないかとアレスタス侯爵に依頼されました。街道は様々な商人達が利用していますし、通行可能でないと物資の輸出入は困難……それにシュベルテとツインテルデも頻繁にやり取りをしていますから、私達にとってもこれは迅速に解決せねばならない問題なのです。そこで、どちらにせよその街道は通らなければならないわけですし、通るついでに魔物討伐もしてしまえば、サーフェリアへの道は開け報酬も頂けるので一石二鳥……ということで、依頼を引き受けたのです。ただの魔物討伐にしては、かなりの額が頂けるのですよ」
ふふ、と微笑むスレインに「報酬目当てなのか……」と呆れたようにぼやいて、フィオは窓の外を見遣った。
いつの間にか外は暗闇に包まれており、窓には自分の姿が映るだけで外の様子など分からなかった。
「て、いうかさ……スレインってもしかして結構偉い人なの?」
突然呟くように言ったその言葉に、スレインは首を傾げた。
「はい?」
「だってなんかここの侯爵はスレインのこと知ってたし、心強いとかも言ってたし……そもそも屋敷にスレインが顔覗かせただけでこの待遇だろう?もしかしてスレインって実は偉い人なのかなって……竜人に仕えてるって前に言ってたし」
フィオの言葉の意味を理解し、スレインは答えた。
「私はそんな大層な人間ではありません。ただシュベルテの王宮に仕える前、魔物討伐を生業にしていたのです。ですから魔物討伐によく人を雇っていらっしゃる方々の間では、少しばかり名が知られてるのですよ。決して地位が高いから、とかそういうわけではありません。私など、ただの下働きです」
「へぇ……」
フィオは、スレインをまじまじと見た。
女性らしい綺麗な顔立ちに、華奢な身体、決して戦えるようには見えない。
確かに出会った当初から拳銃を二丁腰に携えてはいたが、フィオはただの護身用だと考えていた。
(まあ……今のご時世、確かに戦えなきゃ旅なんてできないけど……)
それでも、スレインが魔物討伐を生業にしていたなど想像もできなかった。
先程も騎士が剣を振り上げた時、真っ先に反応したのもフィオであったし、その携えられた拳銃も使い込まれている形跡が全くない。
まだ出会って数日なのだから当然と言えば当然だが、スレインの素性というものには謎が多かった。
「まあ、実際私はそこまで戦力にはならないと思います。正直今回の討伐も不安だったのです。だからフィオが来てくれて助かりました」
「え、ああ、うん」
思考を巡らせていた頭を引き戻し、フィオは慌てて返事をした。
「なあ、ところで、その魔物っていうのはどういうのなんだ?」
「知りません」
「…………」
笑顔できっぱりと答えたスレインに、速答することじゃないだろうとフィオは思った。
「あ、でも手強いのは手強いようですよ。既に何人か討伐に向かわれた方々がいるようですが、悉くお亡くなりになったそうです」
「…………」
「もともと山にすんでいた魔物のようですが、侯爵様曰く街道を通る旅人を襲うようになった、と」
「…………」
「まあ大丈夫ですよ。竜より手強い魔物なんていませんもの」
「…………」
つくづく、彼女は強かだ。
先程から涼しい顔をして随分と恐ろしい発言を繰り返している。
フィオはそんな彼女の様子に息を吐いて、スレインに言った。
「……ま、いいや。明日の朝、いつどこに来ればいい?」
「そうですね……日の出前にまた私の部屋に、というのはどうでしょう?ここから街道まではそれなりに距離がありますし、なるべく早く出発しましょう」
「分かった」
そう言って頷くと、伸びをしてから部屋の扉へと向かう。
「それじゃ、また明日」
「ええ、おやすみなさい」
スレインの落ち着いた声を背に、フィオは部屋を後にした。
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.14 )
- 日時: 2013/02/16 07:47
- 名前: Towa (ID: CejVezoo)
日の光がようやく山々の間から差し込みはじめ、フィオは思わず目を細めた。
昨日まではあまり気に止めていなかったが、辺りには白亜からなる家々が並んでおり、その景色はミストリアにはない美麗さを感じさせた。
「ツインテルデって、なんかこう、綺麗な感じの国なんだな」
「そうですね。この国では美を司るリュート神を信仰していますから、町並みも自然とこうなるのでしょう」
ツインテルデ王国は、もともと隣国リベルテ王国の南部に位置する土地の一部であった。
しかし、軍事に重点を置く北部の人間とリュート神を信仰する南部の人間との間に激しい対立がおき、リベルテとツインテルデという別々の国家として独立することで、最近ようやく争いが収まったのだ。
その結果に納得のいかないリベルテ王国は、ここの国民達の生活を未だに脅かし続けている。
それでもツインテルデ王国は、国土の三分の一以上を占める森、その森で蓄積された雨水など、自然の恩恵が豊富なため比較的豊かな国として栄えているのだ。
「俺、今までミストリアから出たことなんて一度もなかったから、この辺りの地理なんて全然分かんないや」
そうはいいつつも、スレインに向かって振り向いたフィオの顔は、目新しいものへの興味に溢れていた。
先程までは慣れない貴族相手に悪戦苦闘していたフィオであったが、屋敷を出てからは実に楽しそうだ。
ミストリア王国は鎖国国家のような王国であるため、ほとんど他国との接触などしたことがない。
その上フィオの生まれ育った集落は、ミストリア内でも更に隔離されたような場所であるため、こうした異文化のものに触れるのは、本当に初めてなのだろう。
「この辺りは小国が連なっていますから、短期間で様々な国を回ることができますよ。色々と区切りがよくなったら、諸国を巡るのも良いかもしれません」
微笑みながらそう言ったスレインに、フィオは深く頷いた。
「ところでさ、魔物っていうのは具体的にどの辺にいるんだ?街道に入ってからもう大分歩いてるぜ?」
さっきまで立ち並んでいた家々もほとんどが姿を消し、辺りには木々が立ち並んでいる。
その木々を見回しながら、フィオはぼやいた。
「そうですね……割と頻繁に襲ってくるようなので、そろそろ出くわしてもおかしくはないはずなのですが……」
「割と頻繁に襲ってくるのか、それは初耳だな」
スレインの言葉に若干顔をひきつらせながら、フィオは周囲の気配を探った。
「……でもやっぱ、まだ何の気配もないな。本当にこんなとこに魔物が——ん?」
言葉を止め、腰の剣に手をやる。
「どうかしましたか?」
「しっ、……今、何かうなり声が聞こえなかったか?」
「そんなもの聞こえましたか?」
真剣な表情を浮かべたフィオとは反対に、スレインは緊張感のない声で答える。
しかし、やはり前方の茂みに敵の存在を確認すると、フィオは微かに後退しスレインを背に身構えた。
(——っ来る!)
と、その瞬間、前方の茂みから飛び出した巨大な影が、奇声を発しながら襲いかかった。
「なっ、……なんだよ」
飛び出した影の、見下ろす2つの光を見て、 フィオは思わず呟いた。
隣に立つスレインも、これには流石に目を大きく開けている。
太陽に反射する、ふわふわと手触りの良さそうな白い毛。
堂々とした太い足。
時折覗く鋭い歯。
二人を見据える、妖しい輝きを放つ目。
「これは……雪虎、でしたっけ?初めてみました……かなり北の方にしか住んでいないと聞いていたのですが……綺麗な毛並ですね」
少しばかりの恐れを滲ませたフィオの横で、 スレインはのんびりと言った。
いや、恐れなんかじゃない。
こんなの、大きさだけで言えば雷竜の比ではないじゃないか。
なぜさっきまでこれが茂みに潜んでいたと気づかなかったのだろう。
「スレイン、とりあえず下がってろ!」
「はい、頑張ってください」
間の抜けたようなスレインの応援を背に、フィオはすぐさま雪虎に向かって地を蹴り、抜き放った剣を首に突き立てた。
雪虎は短い悲鳴と共に首を振り、フィオごとその剣を凪ぎ払う。
剣が刺さったのは確かだったのだが、その巨体故に首を一刺した程度では致命傷になどならないようだ。
それどころか、切りつけられたことにより低い唸り声を上げ、牙を剥いて怒りを露にしている。
フィオは一つ大きく息を吐くと、キッと、雪虎を睨んだ。
そして勢いよく前に向かって跳躍し、脚の関節部分に力任せに剣を振り下ろすと、雪虎の骨の砕ける嫌な音がした。
続けて、よろめくその巨体を素早く這い上がると、眼球目掛けて剣を突き出した。
が、次の瞬間、背中に熱い衝撃が走る。
「——っ!」
咄嗟に後方へと宙返りし、地面に着地すると、ずきりと肩口に痛みが走った。
フィオが雪虎の目を突き刺したと同時に、背中をその鋭い爪でえぐられたのだ。
「ちっ……!」
小さく舌打ちし、足に力を込め立ち上がろうとする。
しかし力を入れると、背中の傷口から生暖かいものが噴き出し、痛みのあまり立ち上がることなどできなかった。
と、ふと顔をあげると、すぐ目の前にその鋭い爪が迫る。
(——っまずい!)
咄嗟に、フィオは腕を突き出し受け身
の体勢をとった。
だが、腕など突きだしたところで、あの爪を防げるはずもない。
全身を引き裂かれることを覚悟し目をつむって、腕に力を込めた、その瞬間——。
彼の手に小さな光が生じ、瞬時に鋭い光線となると、それはまるで生物の様に蠢きながらフィオを包み込んだ。
襲いかかった雪虎の爪は、その光に弾かれ一瞬の内に炭と化す。
「な、今のは……っ」
あまりに一瞬の出来事で、フィオは目を見開き呟いた。
(今のは——雷——?)
フィオは座り込んだ状態のまま、再び片足を失いながらも襲いかかってくる雪虎の存在を認めた。
そして目を突き刺すような光を覚悟し目を閉じると、その腕を勢いよく振り下ろす。
(さっきと同じ……全身の力を腕に集めるような、この感じ——!)
すると、再度凄まじい轟音と共にフィオの腕からうねるような光線が生じ、それは雷撃となり雪虎を飲み込んだ。
雪虎が、断末魔をあげる間もなく燃え尽きてゆく。
そして少しして恐る恐る目を開くと、跡に残っていたのは既に原型を留めていないその亡骸と灰だった。
「す、すげぇ……」
そう呟いて、フィオはぱたりと地面に倒れ込んだ。
あれが、雷竜の力というものなのだろうか。
全身の力を腕に集中させ、腕から雷撃が迸るようなイメージをする——。
(さっきのが……本当に俺の力……)
ちょうど竜の血を飲んだ後のような気だるさと、背中の痛みに苛まれながらも、フィオは清々しいような気持ちになった。
「フィオ!大丈夫ですか?」
慌てて背後から駆け寄ってきたスレインに、視線を向ける。
「あ、ああ……俺は大丈夫だ。お前は……」
「ええ、お陰さまで私はなんとも……。それより、背中の傷を……」
フィオは、背中をスレインに向けるような形で起き上がろうとした。
しかし、身体はまるで鉛のように重く、動こうとすると全身の骨が軋むような嫌な音を出た。
動くことなど、できそうもなかった。
「なんか……駄目だ、全然動けない……」
「さっき一気に魔力を放出したせいでしょう。慣れない内にあんなに魔力を使ってしまったら、身体に負荷がかかってしまいますから……」
「やっぱり、さっきのって雷竜の……」
「ええ、まさかいきなり使えるようになるなんて思いもしませんでしたが……とりあえずもう町に——っ!」
突然、スレインが言葉を切り振り返る。
そしてフィオもまた、反対側の茂みに潜む2つの光を見て、全身から冷や汗が噴き出すのを感じた。
(まさか……もう一匹——!?)
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.15 )
- 日時: 2013/03/13 22:39
- 名前: 御砂垣 赤 ◆BqLj5kPa5. (ID: 5MQ4cIeK)
予期せぬ客は訪れた。招かれざる事を知ってなお足を止めない姿には、畏怖を大きく纏った白い殺意が込められている。本来雪原に眩ませていた筈の大きな体躯は深緑の中に存在し、恐れと共に何かの大きな感覚を此方に植え付けていた。例えて言うなら崇敬。例えて言うなら感動。例えて言うなら神秘。本来此処にいる筈の無い雪虎は風景に映えていた。
新たに現れた二匹目の雪虎は、フィオの前に倒れて絶命を遂げた雪虎を見やると、それまで充満させていた殺気を違うものに変えた。人間と言う総称の生き物を恨む目から、フィオと言う個人を怨む目に。上書きされた憎悪が鋭い視線を伴って、上半身を起こしただけのフィオをふっと貫いた。
「──っ!」
余りに軽く、それでいて重い感情。回想から一気に目を覚まされたフィオは、この状況に戦慄した。調子にのって使い果たしてしまった力、動けない体、相手は万全、此方は不全。たった一匹ですら竜に頼ってしまっていたフィオに、今出来ることなど何も無かった。スレインの盾になったとしても数秒もつかどうか、戦いに行くなど言語道断。
(何か、何か無いのか?! 何でもいい、せめてスレインだけでも助かる方法は!)
疑問は上がれど、何れも解決策とは程遠い愚策だった。フィオ自身は時間かせぎにしかならない。雪虎の足は肉食動物の足だ。スレインも何らかの経験は積んでいる様だが、本人の動揺から鑑みるに何の役にもたたない。
行き詰まった。そう思ったとき、雪虎の体が軽く沈んだ。獲物に飛びかかる準備。それいがいには考えられない。
「っスレインにげ」
「無理だよ」
フィオの声を引き金としたその時、雪虎が飛び掛かろうとしたその時、スレインがフィオの言葉に驚いたその時、第三者の声が降ってきた。それは凛とし、厳とし、強とし、恐とさせる若い男の声。低いわけではないが響き、飛びかかる寸前の雪虎を止めた。
はっとして声の方向を向こうとした時、前方でくぐもった呻き声がした。見ると、さっきまで畏怖の対象であった雪虎の顔部分に水が密集し、酸素の供給を妨げていた。
「───」
形を絶えず変える水の集合体は、それを逃れようとする雪虎を決して逃がさない。取ろうとする前足は無力にも水のなかを通り過ぎ、結局何もできずに落ちる。そのままで暫く悶え、やがて雪虎は動かなくなった。どうっと言う重い音が土を踏みつける。それと同時にぱちんっと言う軽い音が現れた。音に吊られる様に水は一瞬にして消え、何もなかったかの様な静寂が刹那の間続いた。
「あんな状態で、雪虎相手に女の人が逃げ切れる訳がない。君だって解っていたから躊躇したんだろう?」
「───?」
それはいつの間にか近くに来ていた。白髪と呼ぶには些か光沢のある髪を肩までのばし、無造作に前髪だけ残して一つに縛っている。柔和で落ち着いた表情や背丈から推測するに、どうもフィオと同じくらいの年らしい。しかし、その少年が背負う雰囲気は余りに重く、軽く、そして大人びていた。年を置いてきてしまった仙人の様な印象を抱かせたのは雰囲気だけではない。少年は白を基本とした長いローブを着ていた。山籠りしている世捨て人の代表足る格好だ。それ故に浮世離れ。それ故にある距離感。
「君達は、旅人さんだよね」
山暮らしなのか、まったく日焼けしていない顔が口を開いた。確認のようで疑問のような問い。
「あ、あぁ」
「うん、奇遇だね。ボクも一般に旅人さんって呼ばれる部類に入るんだ」
「──へー。で?」
何処と無く間の抜けた会話が展開された。そのお陰なのか、随分と二人の緊張感は解け、フィオの体のおも苦しさも軽くなった。ローブは微笑を湛えつつ話す。その独特な話し方をフィオは疑問に思った。
「うん、特に何って訳じゃ無いんだけどね。所で旅人さん、何故雪虎達と対峙してたの?」
「そりゃ、雪虎退治の依頼だったからだろ」
「うん、そうだろうね。けど、そうじゃなくてさ、旅人さんは雪虎の存在に疑問は持たなかったのかな?」
「ぎ、もん?」
「うん、疑問だね」
ローブの少年は、何処か違う文字文献の様な不思議なしゃべり方で此方を翻弄した。
「雪虎は名前からわかる通り、この南部にいちゃいけない肉食動物だよ? それが此処にいる事に、疑問は持たなかったのかな?」
「──!」
沈黙が、降りた。
「──そう言えば、スレインも言っていたよな?」
「はい。しかし、あれは人伝に聞いただけだったので自信はありませんでしたが」
「うん、この辺の人は雪虎の存在すら知らない人が多いからね。この雪虎は、北で雪虎狩にあって逃げてきたんだよ。どうも、補食用に狩られたみたいだね。それの残党って所かな」
初耳だ。否、依頼主も知らなかったのかも知れない。何せ南の辺境の土地だ。北の事情を知っている方が可笑しい。
しかし、此れは、雪虎に非は無いのだ。
補食用に狩り出したのは人間。すむ場所は違えど、人間と言う種族に何の違いもないのだ。雪虎は唯逃げてきただけ。逃げてきた先で仲間が殺され、怒り狂った末にフィオと言う名称の人間に殺されただけなのだ。
「……生きたかっただけなんだ」
フィオは呆然と呟く。
「生きたかったから逃げてきて、生きたかったから襲って、けど、俺らも生きたかったから殺したんだ」
それは何の意味もない独白だった。例えて言うなら子供の屁理屈。机上にもないただの妄想。そんなことしたって雪虎に何の特もない懺悔。後にしか立ってくれない後悔。
「それは、どうしようもない自然の摂理だね」
ローブの少年は、変わらず続けた。感情の起伏も表裏も見分けられない、のっぺりとした声が耳をつく。
「旅人さんがどう思おうと、此の雪虎が死んだことには変わりはないし、もしこの雪虎が死んでいなければ、旅人さんも、そっちのお姉さんも死んでたろうしね」
ま、僕も殺したけど。と言う後置きが、それまでの避難を全て打ち消した。そう言えば、こいつは妙な事をした。遠目であった事と、混乱していた事からはっきりとは言えないが、こいつは何処からか水を集めていた。それを雪虎の頭部に纏わせ、窒息させていた。一言では表せられないような『不思議』な事。そう、まるでこいつが竜人であるかの様な。
その結論には、スレインも行き着いていたらしい。上品にも口許に手を当てて、ローブの少年を凝視している。
「もしかして、──貴方は水竜を殺したのですか?」
その問いに、ローブの少年は一瞬驚いて見せた。けど、その後にはもとに戻っていて、しかしどこか身に纏う雰囲気を変えて言った。
「竜人か。……うん、ほんとはちょっと違うんだけど、ま、似たような物かな。さっきの、旅人さんも竜人かな? 多分雷竜。どう? 旅人さん」
ローブの少年は、未だに座ったまま力の入らないフィオに確認してくる。どうも何も、間違ってなどいない。
「あってるよ。つか、旅人さんってのやめろ」
『旅人さん』。その言葉は、どうも心の底を掻き回して止まない。表現としては間違ってはいない。寧ろ合っている。けど、それは未だにフィオの中では禁句だ。どうしてもあの村の皆の顔をおもいださせる。
「ごめん。僕の名前はキート・スタシアン。君は?」
ローブの少年は、呆気なく名乗った。そのトントン拍子に毒気を抜かれ、フィオも普通に名乗った。それにスレインも続き、和やかな空気が流れる。その空気を、キートが破った。
「さて、フィオはまだ動けないよね?」
「お、おう」
「ここから町までけっこうあるし、僕はフィオを担いで向こうまでいけるけど疲れるからやりたくない。スレインに任せる訳にもいかない。うん、どうしようか?」
「お前が頑張ればいいと思う」
「嫌だ」
何なんだ? こいつ。凄そうな割りに凄くないのか? 若しくは凄い割りに凄くないのか? どちらにせよ、問題はこれからどうするかだ。
「しょうがない。ちょっと行った所に山小屋があるから、そこに行こう」
キートはよいしょ、と掛け声を呟いてフィオを持ち上げた。前言撤回まで五分もたってない……。
「うわ、軽い。フィオ、ちゃんとご飯食べてる?」
「あ、それ私も思いました」
「食べてる、ぞ? 週3は」
「うん、食べてるって言わないね。それは」
「大丈夫です。これからは栄養管理はしっかりやるので」
「うぇー」
「食べて下さいね?」
「……はい」
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.16 )
- 日時: 2013/03/28 08:29
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
歩いて少ししたところに、キートの言った通り山小屋があった。
おそらく、旅人や商人の休憩場所として用意されたものなのだろう。
中には、ベッドや調理道具など、一晩二晩過ごすくらいなら十分な道具が一式揃っていた。
もっとも、先程の雪虎がこの山に住み着いてからは誰もこの辺りを通っていなかったため、小屋は誰にも使われておらず埃っぽかったが。
「ベッドは二台しかありませんが……とりあえず今日はここで休みましょう。フィオも怪我をしていますし……」
「……誰が床で寝ようか?」
背中にフィオを乗せたまま、キートが言う。
そういえば、ベッド2台に対してこちらはフィオ、スレイン、キートの三人。
必然的に、誰かが床で寝なければならない。
「……普通お前だろ。俺は怪我人、スレインは女だし」
「えぇ、僕はフィオ達の命の恩人だよ?」
笑顔で黒い発言をするキートに対し、フィオが冷ややかな視線を送る。
その様子を見ながら、スレインが心配そうに口を挟んだ。
「私が床で寝ますよ。フィオは一刻も早く傷を癒さなければならないですし……キートもほら、ここまでフィオを背負ってきて疲れたでしょう?二人はベッドでお休みになってください」
「スレイン、そんなことしたらフィオの面目丸潰れだよ。ね、フィオもここは男としてさ、潔く床で——」
「お前も男だろ!!」
「……う〜ん、じゃあこうしよう。一つのベッドを僕とフィオ二人で使えば——」
「そんなの絶対嫌だっ!!だったら俺は床で寝る!!」
「フィオ、それはダメですよ。貴方は怪我をしてるんですから……床でなんて寝たら治るものも治らなくなってしまいます」
「ほらね、フィオ、僕と君は一緒に寝る運命なんだよ」
「そんなわけあるか!!っていうか、お前が床で寝ろよ!!」
しばらくの論争の末、結局一つのベッドにスレイン、もう一つにはフィオとキート二人が無理矢理寝ることとなった。
精一杯の抵抗を見せたのにも関わらず、なんだかんだでスレインに言いくるめられて、暖炉の火を眺めながらフィオはベッドに潜り込む。
もちろん、すぐ背中合わせにキートの気配を感じる状態で。
(……ま、いっか……別に)
今日の雪虎との遭遇で疲れたのだろう、家の中は先程の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
フィオももちろん疲労感はあったのだが、先程から何故だか妙に気が昂って眠れずにいた。
傷ももうスレインの治療のおかげで、ほとんど痛みを感じない。
(いや、治療っていうか……最近、傷の治りが早い……)
昔から生傷の絶えない生活を送ってきたからこそ分かることだが、傷の治りが異常に早いとフィオは感じていた。
どんな深手を追っても、一日休めばほぼ完治する。
これもやはり、自分の体を巡る竜の血が原因なのだろうと、フィオは思った。
時折パチッと音を立てて揺れる暖炉の光を見つめる。
(ヤムラ達は………どうしてるだろう)
ふと、故郷が頭に浮かんだ。
スレインと旅立ってから、いつの間にかもう7日。
ほとんどが移動時間だったため、あまり時間の流れなど気にせずにきたが、こうして改めて考えると、もうそんなに経ったのかとため息が出た。
「……くそっ」
小さく舌打ちして、天井を見る。
そしてそのまましばらく、煤けた天井を眺めていたフィオの耳に、すぐ隣で寝返りをうつ音が届いた。
音の方——キートが寝ている方を見やると、彼の目が至近距離でこちらを見ていることに気づいた。
「……眠れない?」
囁くような声で問うてきたキートから目を背けると、フィオも同じく小声で「ああ」と答えた。
「ところで、フィオっていくつなの?」
「……16」
「あれ、そうなんだ。じゃあ僕と同い年だね。ごめん、てっきりフィオは僕より年下かと思ってた」
「…………」
苦笑するキートに、フィオは再び冷ややかな視線を送り黙り込む。
しかし、昔からよく童顔だと言われているので、今更腹立たしくはない。
それに、キートの銀髪とその落ち着いた雰囲気に比べれば、確かに自分は子供っぽく見えるのだろうと、認めざるを得なかった。
フィオも正直、彼は自分より年上だろうとふんでいたのだ。
そんなことをふつふつと考えながら、フィオはふとキートの方を見て口を開いた。
「……おい、そういやさ」
「ん?」
「一応礼言っとく。助かった、ありがとう」
「ああ、うん。どういたしまして」
それを聞くと、フィオはまた目を背け、ゆら、と揺れる暖炉の炎に視線を固定した。
「……傷はまだ痛む?」
「いや、別に」
「……そうか、フィオは竜人だもんね」
「竜人って、やっぱ傷の治りとか早いのか?」
「そうだよ。人間離れした身体能力を身につけるからね。その分体への負担は大きいけど」
「……へえ」
「知らなかったの?」
「まあ、最近雷竜殺しに成功したばっかだから。スレインにちょっとだけ教えてもらったけど、色々とよく分からん」
最近はあまり思い出すこともしなかったミストリアでの出来事……本当につい昨日のことのようにも思える反面、どこか他人事のように感じた。
幼い頃から、竜人になることを夢見ていた。
しかしいざなってみると、自分の体を何か別の力に支配されるような、なんとも言えないこの感覚は、決して心地よいものではない。
「というか、フィオは宮廷には仕えないの?」
「……ああ。それ、やめたんだ」
「なぜ?」
「……先に、俺の故郷の奴等の記憶取り戻したいから」
スレインが、隣のベッドで身動ぎした。
自分達の声で、目をさましてしまったのだろうか。
もしそうだったら申し訳ない、そんなことを思いながら彼女を一瞥し、フィオは再び暖炉に視線を戻す。
「俺、ミストリアの集落で生まれたんだけど……とにかくその集落貧しくてさ。食うもんもなし、家がないやつだっていっぱいいた。だから俺、ずっと、竜人になって金持ちになるのが夢だったんだ。そしたら、集落の皆を助けられるだろ?でも10日くらい前に雷竜倒して、集落に戻ってみたら、皆俺のこと覚えてなかったんだ」
「フィオのことだけ?」
少しためらいがちに聞いてくるキートに、フィオは頷いた。
「まるで最初から、俺なんかいなかったみたいに……本当に綺麗さっぱりと。俺のことだけ」
「……そう、そんな話、聞いたことない」
「はは、スレインもそう言ってた。あ、ちなみに俺そのあと混乱して集落から逃げ出して、近くの林でぶっ倒れてらしい。まあ、ろくに竜殺しの傷治してなかったし……スレインは、その時俺のこと助けてくれたんだ」
キートは、「そうなんだ」と一言呟いただけだった。
聞いてはいけなかった、そういった気まずさを感じているのかもしれない。
「……それで、記憶を取り戻す方法って……何かあてがあるの?」
「いや、あんまないな……でも、サーフェリアに行けば、竜人が沢山いるだろ?それも本当に、生ける伝説みたいなすごい人達がさ。だから、その人達に聞けば何か分かるかもしれないと思って、ひとまずサーフェリア目指してる。スレインは、よく分からんがシュベルテからサーフェリアへの使者なんだと」
「……何か分かるかもしれない、か……」
「ん……?」
「いや、なんでもないよ」
いまいち聞こえなかったキートの呟きを聞き返したが、彼はそれを答えなかった。
その代わり、フィオの肩をとんとんと叩き言った。
「……ねぇ、フィオ。僕も、君達についていっていいかな?」
突然の言葉に、思わず黙り込む。
まさかこんなことを言われるとは、微塵も思ってなかったからだ。
「いや、別に……俺は構わないけど……でもなんで?」
「ただの暇潰しだよ。僕も少し、興味があるんだ。サーフェリアの竜人さん達に」
暗闇だったためよくわからなかったが、常に笑みを浮かべていたキートの表情が、少し強ばった気がした。
そういえば、キートだって竜人なのになぜ宮廷に仕えていないのだろうか。
そもそも彼はどこの国の人間で、なぜ旅をしているのか。
先程から自分のことを聞き出されてばかりで、全く彼のことがわからない。
それに気づいたフィオは、キートの方を振り返り口を開いた。
「おい、キート。ところでお前も水の竜人、なんだよな?水魔法使ってたし……お前こそ、宮廷には仕えないのか?」
「……いや、本当はね、僕は竜人じゃないんだ」
「は?じゃあなんで魔力を……」
「竜人ではないけど、竜の力は使える。竜化ってやつだよ……」
「竜化……それって——」
「さあ、そろそろ寝ようか。これ以上起きてるといくら君でも傷に響くよ」
「え、ああ」
意図的だったのか、あるいは偶然だったのか。
「それってなんだ?」と聞こうとした自分の言葉を遮られたその雰囲気に、フィオはこれ以上は何も聞いてはいけないような気がして、大人しく目を閉じた。
「おやすみ——」
その声を最後に、フィオの意識は闇に落ちた。
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.17 )
- 日時: 2013/03/25 22:25
- 名前: Towa (ID: EZ3wiCAd)
* * *
まるで、生き物がのたうち回っているような、そんな炎を見ていた。
大地は燃え、地は割れ、至る所に血が散っている。
人々は皆、もう燃えてしまっただろうか。
否、ここにいたのは、もはや人ではなく——。
リベルテ王国——。
どうか、この地に再び花が咲きますように。
* * *
翌朝、肌を撫でる冷気に、フィオは目を覚ました。
半分寝ぼけた状態で辺りを見回し、すでにこの寝室にはキートとスレインの姿がないことを確認する。
(…………)
いつ眠ったのか、いまいち覚えていない。
どうやら、キートにおやすみと言われ、そのあと素直に眠ってしまったようだ。
朝の冷えた空気をいっぱいに吸い込み伸びをすると、フィオはベッドから飛び出し寝室から出る扉を開けた。
すると、そこには既に朝食を食べ終えたであろう、キートとスレインの姿がある。
しかし、ちゃんと木机の上に一人分のスープが用意されているところを見ると、フィオの分も作っておいてくれたらしい。
「あ、おはようございます」
「おはよう、フィオ」
「おはよう、すまん、寝過ごした」
苦笑しながら水場で顔を洗い、スレインに示されたスープを飲む。
「いえ、寝過ごしたというほどではありませんよ。それより、傷の具合はどうですか?」
「もう治った!」
「そうですか、それは良かったです」
スープをすごい勢いで飲み干すフィオを見ながら、スレインはにこりと微笑む。
この食べっぷりからして、本当にもう傷は大丈夫なようだと判断したのだろう。
「ところで、スレイン。これからどうすんだ?」
「一度、アレスタス侯爵の元に戻ります。雪虎を討伐したことを報告に行かなければなりませんから……キート、貴方も行きますよね?」
「うん、行くよ。……あ、というか、僕これからサーフェリアまで、君達について行きたいのだけど、いいかな?」
思い出したようにそう言って、キートはスレインに問う。
それに対してスレインは頷くと、一瞬申し訳なさそうな表情で言った。
「ええ、もちろんです。昨晩、貴方達の会話を聞いてしまっていたので」
スレインのその言葉に、キートは特に驚きを示す様子もなくありがとうと礼を言うと、今度はフィオの方に視線を向ける。
「そういうことだから、フィオ、よろしくね」
「おう、よろしく」
食べ終えたスープの皿を片付けながらフィオも頷き、その様子を見てからスレインは口を開いた。
「……さて、それではそろそろ出掛ける準備をしましょうか」
* * *
——おい、そっちはどうなった!
——情報は入ったか!
フィオ一行がツインテルデの町へと入った時、アレスタス侯爵家前は昨日に比べ非常に騒がしかった。
軍の人間と思われる人々が頻繁に行き交い、町人達もざわつきひそひそと何かを囁きあっている。
「……なんだか、随分と騒がしいですね」
「うん、何か起きたのかな……」
「とにかく、アレスタスんとこ行って聞いてみようぜ」
フィオが促し、三人は辺りの様子を伺いながらアレスタス侯爵家の塀に向かって歩き出した。
「止まれっ!」
すると、門に立つ騎士二人が、一行を見て長槍を交差させた。
「何者だ!!ツインテルデ国民ではないだろう!!」
「私達は街道の魔物討伐を依頼されていた者です。アレスタス侯爵にお目通り願いたいのですが……」
「証拠を示してもらおうか!!」
スレインは、無言で懐から既に封の切られた手紙を取り出して、騎士に手渡した。
どうやら、件の正式な依頼状のようだ。
すると、それを受け取った騎士は二人で顔を合わせ、しばらく何か囁き合うと一人がこちらに視線を戻す。
「しばらく待——」
「その必要はない」
声は、門の奥から聞こえた。
重い音を立てて、鉄の門が内側から開かれていく。
その先に現れたのは、アレスタス侯爵その人であった。
「申し訳ない、マルライラ殿。どうぞ入られよ」
三人が通されたのは、昨日と同じ一室であった。
相変わらずきらびやかな調度品類が並んでおり、フィオは思わず目を細める。
「して、無事に帰ってこられたということは、討伐は成功したと考えて良いのかな?」
「ええ、雪虎2頭、討伐いたしました。帰り道でも散策いたしましたが、魔物とは遭遇しませんでしたのでもう心配はいらないかと」
「そうか、ご苦労であった。これで街道もまた使えるようになろう。さて、報酬は何が良い。言ってみよ」
言葉では感嘆の意を示しながらも、侯爵の心ここにあらずといった心中を、三人は感じ取っていた。
雪虎を倒したのはもちろん事実なのだが、場合によっては討伐が成功したなどと出任せを言っている可能性もあるというのに、この侯爵は確かめようとしない。
倒した虎の頭でも持ってきていればまた別だが、証拠もないのに報酬の話など切り出しているあたり、街道の方の件はもはやどうでもいい、といった様子だった。
「そう……ですね。では、馬を三頭、頂けますか」
「ふむ、よかろう」
侯爵は頷くと、手近にいた老年の従者を呼び馬の手配をする。
その様子を見ながら、スレインはふっと息を吐くと一歩前へと進み出た。
「侯爵様、一体何の騒ぎなのでしょう?」
その問いに、侯爵はぴくりと反応し、スレインを見つめた。
「この騒ぎ様、ただごとではないように存じますが……。私達はこれから旅立つ身、外界で何か起きたならば把握しとうございます。よろしければ訳をお聞かせください」
「…………」
スレインの凛とした態度に、侯爵は唸った。
言いづらいことなのだろうか、渋々と言った様子で口を開く。
「……リベルテが、一夜にして滅んだのだよ、マルライラ殿」
「リベルテが!?」
その瞬間、スレインの瞳は大きく見開かれた。