ダーク・ファンタジー小説
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- 〜竜人の系譜〜
- 日時: 2013/03/30 21:54
- 名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)
皆様はじめまして!
『〜竜人の系譜〜』は、御砂垣赤さん、
幻狼さん、瑞葵さん、Towaによる合作小説
です。
頑張って書いていきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます(*^^*)
〜目次〜
†登場人物・用語解説†
>>1
†序章†『竜王の鉄槌』
>>2 >>3 >>4 >>5 >>6
†第一章†『導と手段』
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19
†第二章†『路と標識』
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
†第三章†『竜と固執』
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.3 )
- 日時: 2013/03/28 11:07
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
†序章†
『竜王の鉄槌』
戸の開いた音で、ヤムラは目を覚ました。
夜が明けるにはまだ早い時刻で、鈴の音に似た虫達の声がまだ闇の中で絶え間なく響いている。
ふと目をやると、戸口のほうに見慣れた友人の姿がぼんやりと見えた。
ヤムラは吐息を漏らすと静かに布団から立ち上がり、足音を忍ばせて戸口へと向かった。
「おい、フィオ」
「……あ、すまん。起こしたか」
闇には溶けぬその淡い青髪が、ゆっくりとこちらに振り向く。
その表情を見て、ヤムラはすっと眉を潜めた。
「まさかお前、本当に行くのか?」
驚いたようにそう問うてきたヤムラを見上げ、フィオは深く頷いた。
「行くさ。俺が竜を殺して竜人になれば、金だって名声だって得られる。そうすれば皆を貧しさから救えるんだ」
そう言って着々と旅装を整えていくフィオを見て、ヤムラは今日二度目のため息をついた。
「そんなこと言ったって、竜族なんてそうそう出くわせるもんじゃないんだろう?出くわせたとしてもあんな化け物みたいなの、殺せるわけない」
「大丈夫さ。俺、王都じゃちょっとばかし有名なんだぜ?『フィオ・アネロイドは最強だ。あいつの出場する武道会で優勝するのはまず不可能だ』ってな。前の武道会でなんか、俺より一回りも二回りもでっかい大男達を一瞬でぶっ飛ばしたんだ!」
曇った表情を浮かべるヤムラとは対照的に、フィオは瞳を輝かせながら言う。
「あの英雄ジュエンだって、竜の生き血を飲んで世界を救うほどの力を手に入れたんだろ?それと同じことを俺がしたら、俺はミストリア王国中の有名人だ」
「お前、あんなお伽噺信じてるのかよ?……いいんだよ、お前はこの集落のために十分尽くしてくれてるさ。だから——」
言いかけた言葉を遮って、フィオは手早く側にあった荷物を背負い込むと勢いよく立ち上がった。
「心配すんな、リケール山脈のほうに竜が棲んでるっていう噂もあるし。竜なんかちゃちゃっと殺してすぐに帰ってくる。だから待っててくれ!」
「あっ、おい!」
とっさに伸びてきたヤムラの腕を振り切って、フィオは外へと駆け出した。
フィオの背中はあっという間に消え去り、目の前には暗闇が果てしなく広がっていた。
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.4 )
- 日時: 2013/01/01 17:34
- 名前: 御砂垣 赤 ◆BqLj5kPa5. (ID: zL3lMyWH)
リケール山脈の麓の村を通りすぎ、ちょっと歩いた所にある森。山脈に入る手前の、ちょっとした玄関の様なところ。先住民が暮らしていたらしい洞窟の中に、フィオはいた。別段休みに来た訳でもなく、かといって観光の為に来たわけでもない。では何故こんな湿った穴のなかで、仏頂面で胡座をかいて、しかも盛大に溜め息をついているのかと言うと、
「…………はぁ、」
フィオの目の前で焚き火を囲んでいる男たちが原因だ。
ざっと見六、七人の男たちは何れも屈強で、鶴嘴を持たせて鉱山に放り込めば、成程鉱夫にも見えるだろう。しかし、森で捕らえた熊の肉にかぶり付き、顔や腕等至る所に生傷がたえない男たちは、その辺にいそうな善良な一般人では無い。大きな町に行けば、こいつらの顔写真が沢山貼ってある事だろう。
(何でこんな事になってんだっけ?)
素朴な疑問を一つ、胸に抱いてみる。疑問は上がれど正答は上がらず。事は数時間前に遡る。
リケール山脈。扇状に広がった形の独特なこの山脈は、一ツ山とも呼ばれている。普通に見られる山脈とは違い、それぞれの山の標高に特徴がある。両端の山程低く、中央に依るほど高くなっているので、ある特定の角度から仰ぐと一つの山の様に見えるのだ。中心部では、標高は三千メートルのその山は、高さこそあまりないが、険しいことで有名だ。登山に来るような物好きな観光客も少ない故、リケール山脈の回りには、村は一つしかない。山脈に入る道も限られていて、そのなかでも一番楽で安全な道でさえ、死者が出るのだ。そんな、人の入らない禁域。竜の気に入りそうな山脈だ。フィオは、自分の推測と時折流れてくる噂から、確証を得た。
件の村へ辿り着き、食事と情報収集が目当てで食堂に入った。久しぶりの旅人が珍しいのか、直ぐにとある男と知り合った。
「へー。フィオってあんまり強く無さそうなのにリケールに行くんだ」
「強く無さそうは余計だ。つーか、オレは強いんだよ」
見た目十八才位の男。名は何と言ったか、リオだかミオだか、確かその様な名前だ。人当たりの良さそうな青年だが、一言多い。たまたま隣の席で、質問に答えて旅の目的を答えた所、こうしてバカにされたのだった。
「けど、一人じゃ危ないよ?」
何を思ったのか、リオ若しくはミオが言ってくる。
「いいし。オレ強いし」
「道具とか揃ってるの?見た目軽装だけど」
「…………。オレ強いし」
「関係ないと思うけど。道は分かるの?」
「…………………………………」
そこで断って置けば良かったと今思う。リオ若しくはミオの言う通りに進んで、盗賊に出くわしたと思ったらリオ若しくはミオが人質に取られて、大人しく従ってやったらリオ若しくはミオは盗賊の一員だったと言う下らないオチ。ああ。せめて疑えば良かった。道具なんて使わないじゃないか。随分と端折ったが、百々の詰まりは武器を奪われ身の物奪われさて後はどう料理するかと言う状態だ。
たまに男が気付いたように此方を振り向き、そして爆笑するの繰り返し。もう見飽きた。
(もういい。彼奴なんてこれからムカつく奴でいい)
そう密かに心の中で毒づく。もともと、じっとして好機を伺うような性分では無いのだ。寧ろ此処までよくも暴れずにおいた物だ。
手は後ろ手に縄で縛られている。穴の入り口は一つきり。見張りは二人。焚き火周りは、あのムカつく奴を含めて五人。いける。そう確信したフィオは徐に立ち上がり、男の一人を指して言った。
「おい。そこのおっさん」
声は凛として響く。一瞬だけ洞窟の中が静かになった。暫くして、示された男が口を開く。左頬に切り傷のある、おじさんとでも称されそうな男だ。
「おい餓鬼。誰に向かって指差してんだよ。状況が分かっていないようだな?」
「分かってないのはお前だよ。」
静かに微笑む。と言うより、口の端を少し上げただけだが、それでも効果はあった用だ。頬傷の男が息を飲む。やっと気付いた様だ。フィオは手を下ろした。さっきまで拘束されていた筈の手を。
狭い空間に声が響く。
「お前、縄はどうした?!」
分かりきった問いに、フィオは応じてやる。足元に落ちたままの物を拾い上げて見せた。
「此の事か?」
見ればその縄は途中で切れていた。これでは拘束の意味を成さない。更に驚くべきは、その縄の切り口だった。煌々と燃える焚き火に照らされた縄の切り口は、四方八方に散り散りになっていた。それを握るフィオの手首は、直線状に赤く、場所として血が滲んでいた。縄はそれなりに太い。それをこいつは、力業で引きちぎったのだ。思考がそうと追い付いた瞬間、頬傷の男は反射的にさけんでいた。
「っ囲め! 奴は丸腰だ!」
そう指示した男の判断は正しかった。唯一間違えた事。それは、標的にフィオを選んだ事。フィオは軽く姿勢を落として言った。
「丸腰なら勝てるとでも思ったか?」
その意味を理解しようとするより速く、フィオの姿が消えた。そして次の瞬間には、頬傷の男の後ろにいた。
「残念ながらそれは間違いだ。何故ならオレが、」
そして瞬きの間に頬傷の男が沈む。膝から力が抜け、受け身もとらずに安易に倒れこんだ。
「オレがフィオ・アネロイドだからだ!」
高らかに宣言し、その間にも二、三人と沈めていく。逃げようと背を向けたときに、既に土の味を噛み締めている。男たちは戦いた。そのなかに、あのムカつく奴がいる。そいつの隣の男が訪ねた。否、叫んだ。
「テオ、何なんだ彼奴は!」
(ふーん。テオって言うのか。まぁ、オレには関係ないけど)
聞かれたリオ改めミオ改めテオは、直ぐに答えを見付け出していた。一瞬まさかと疑い、次の瞬間目の前を吹っ飛んだ仲間をみて確信した。こいつだ。間違いない、と。
「フィオ・アネロイド。最近各地の武力大会で無敗のバケモノ。まさかこいつが……っ!」
驚愕。言いたい事を最後まで言うことは叶わず、テオは他の奴等と同じ様に土の味を知った。
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.5 )
- 日時: 2013/01/19 15:19
- 名前: Towa (ID: 0/Gr9X75)
「リケール山脈に竜が棲んでるっていうのは、昔から噂されていたことだ。でも別に問題はなかった。リケール山脈は鉱物がとれるような山でもないから登る必要もないし、竜だって本当にいるのかいないのかすら分からないくらい、なにもしてこなかったからな」
「でもそれが最近暴れてるのか……」
「ああ、そういうことだ」
一人残らず縄で縛り上げた状態で、フィオはリケール山脈に棲むという竜のことを聞き出していた。
もちろんテオ達は不機嫌そうに顔を歪め、さも教えたくないといったような風だったが、何気にナイフを首元に突きつけられているので仕方がない。
「まあ竜が大暴れしてるっていうのは最近よく聞くしな。……他にはあるか?
この時間帯によく竜が目撃される、とか」
「さあな、そんなもん誰も知らないさ。
竜のいる山脈に近づこうなんて考える奴はいない。俺達だってここより上は行ったことがないんだ」
「ふ〜ん」
「あ、でも——」
すると、今度はテオの隣で縛られている男から声が飛んできた。
「でも?」
「朝になるとよく咆哮が聞こえんだ、頂上の方から。」
「へえ……じゃあ朝に山頂に行けば、遭遇する確率が高いってことか……」
フィオは顎に手をあて、なるほどと納得したように頷くと、その後はっと顔をあげた。
「よし、分かった!ありがとな。あ、あとこれもらってく!」
「えっ、おい、こらっ」
フィオはテオの持っていた長剣を鞘ごと取り上げると、そのまま洞窟から走り出た。
「じゃあな!竜のこと、教えてくれて助かった!」
「待てお前!せめて縄を解いてからいけぇぇえええ!!」
テオ達の悲痛な叫び声は、洞窟中で反響したのだった。
翌早朝、フィオはまだ日も昇っていない、朝靄に包まれた森の中で目を覚ました。
野宿などほとんどしたことがなかったため、立ち上がり伸びをしただけでも身体中から骨の軋むような音がした。
「さて、と……」
フィオは持ってきた硬いパンを頬張り、昨日テオから強奪した長剣を腰に差すと、山頂の方向を見据え歩き出した。
ほとんど普段着ともいえるほど簡易な旅装ではあったが、幸いこの山を登るくらいならばどうにかなるようだった。
が——。
(問題は……竜と戦う時だよなぁ……)
フィオは深々とため息をついた。
(ナイフくらいは集落から持ってきたし……まあ剣はたまたま調達できたけど、鎧とかなくて大丈夫なんかな……)
貧しい故郷の人々の負担を少しでも軽くするため、フィオは度々王都に出稼ぎに行っていた。
そしてそれに加え、年に2、3回開催される武道会に毎回のように出場し、優勝しては賞金を手に入れていたのだ。
そのため、武術に——特に剣術に関してはかなりの自信があった。
しかし、今回は相手が人ではないのだ。
世界中を探しても、数十人しか成功した者がいないと言われる竜殺し——。
ヤムラ達には強気な態度で言い放ちここまで来たか、やはり不安がないわけではなかった。
(……竜人になれたら、金も手に入るしそれなりの地位にも就ける。でもやっぱり、そう簡単にはいかないよな……)
そんな漠然とした不安を抱えながら歩いていると、ちょうど横合いから柔らかな光が差し込んだ。
「……朝か」
白い光に、思わず目を細める。
「そういえば、もうすぐ頂上……」
と、その呟きとほぼ同時、地が割れるような咆哮と凄まじい稲妻が、前方の木々をなぎ払ってフィオに襲いかかってきた。
「———っ!?」
咄嗟に地を蹴って横に飛び、うずくまる。
そして閉じていた目を恐る恐る開けて、フィオは絶句した。
後ろに延びていたはずの森が、焼け野原になっている。
先程の稲妻が走った部分の木々が、炭化し燻って煙を上げているのだ。
ぞっと背筋が泡立つ感覚に、フィオは立ち竦んだ。
「うそ、だろ……こんなすぐに出くわすなんて……」
はっと我に返ったように腰の剣を引き抜き、木々がなぎ倒された前方を睨んだ。
するとその時、ざあ、と強い風が吹き抜け、その視界が開けた先に黒い塊ようなものが現れた。
鋭い牙に鋭い爪、フィオの身長の5倍はあるであろう黒い巨体、まるで水牛のような角が生えた頭部。
そしてその巨体の背からは、蝙蝠の翼を巨大にしたような翼が生えており、その体表は微かに電気を帯びているのが見てとれた。
(——雷竜……!)
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.6 )
- 日時: 2013/01/06 10:48
- 名前: Towa (ID: h4V7lSlN)
その金色の瞳が、ぎょろりとこちらを向く。
その眼を見ただけで、全身から冷や汗が噴き出し、脚はがたがたと震えた。
それでもフィオは、掌に必死に力を込め剣を構えた。
——勝てる気など、しない。
存在だけで、膝をつきたくなるほどの威圧感。
本音を言うなら、今すぐにでも逃げ出したかった。
——けれど。
「ここまで、来たんだ……!絶対に倒す……!」
恐怖心を奥へと押し込めると、地面を蹴ってフィオは走り出した。
すると、首の皮一枚といったところを細い光となった雷撃が走る。
「ぅわっ——!!」
その恐怖を感じる間もなく、次の瞬間肩に熱い衝撃が走り、フィオ地面に叩きつけられた。
雷竜の爪が、フィオの肩に食い込んだのだ。
「……くそ……!」
血がのろのろと噴き出す肩を押さえ、フィオはすぐさま立ち上がると雷竜の後方へと回った。
(よし、あいつ、眼がついてきてない——!)
素早く移動したため雷竜は狙いを定められていないと確信すると、フィオはその背を駆け登った。
そして、腕に渾身の力を込めて、雷竜の後ろ首に剣を突き立てた。
「なっ——硬っ……!!」
竜の怒り狂う咆哮を背に浴びながら、フィオは脇に飛び降りる。
首ならば一撃で致命傷を与えられるとふんで仕掛けたのだが、鱗が硬すぎてとてもじゃないが斬れない。
「くそ、やっぱり鱗の薄い腹側を狙うしかないか……」
視線の先には牙をむいて威嚇する雷竜。
恐ろしく光る鋭い爪がしきりに地面を掻き、今にも飛びかかろうとしているようだった。
襲ってきた爪を、跳躍して避ける。
と、不意に雷竜が翼をはためかせた。
その巨体が空に浮かび、それによって生じた風圧に、体勢が崩される。
「——うわっ!」
その衝撃で、先程えぐられた左肩口から、血が噴き出る。
「……あいつ、飛ぶのかよ……!」
空を見上げて、フィオが呟いた。
そこまでの高さではないが、空に剣は届かない。
(そうだ——ナイフを投げれば……!)
フィオは懐からナイフを取り出すと、雷竜の眼に向かって思い切り投げつける。
が、それは簡単に雷竜の翼によって起こされた風圧で弾き飛ばされた。
しかし雷竜の意識がナイフへ逸れたその数秒間で、フィオは素早く近くの木に這い登り跳躍すると、雷竜の翼に飛び付いた。
そして、まるでしなる鞭のように暴れる雷竜から振り落とされぬよう、必死にしがみつきながらそろそろと頭部の方へと移動すると、その眼に剣を深々と突き刺し、引き抜いた。
——ギャアアァァアア!!
耳が麻痺するような凄まじい悲鳴と共に、雷竜はばたばたともがきながら墜ちていく。
フィオは雷竜を蹴り、その落下速度より早く、地面に突撃するように着地した。
(——いける!)
剣を上空につき出すように構え、落下してくる竜の胸まで一気に迫った。
腹側ならば背中側と比べて鱗が薄く、なんとか人間の力でも斬ることが出来そうだ。
「——だぁぁああああ!!」
その叫び声と共に、フィオの剣が垂直に雷竜の胸に突き刺さる。
そして一瞬の硬直の後、雷竜は今までで最も凄まじい咆哮を上げてのたうちまわった。
突き刺すと同時に剣を抜き、フィオは素早く後方に飛びのいた。
——グァァアァアアア……
悲痛な咆哮を残し、雷竜が崩れていく。
まるで闇に沈んでいくように、その姿は塵と化し消えていった。
フィオはその時初めて、安堵の息を吐きだしたのだった。
先程の雷竜の胸を貫いた剣を見下ろすと、そこには滴り落ちる赤黒い血がべっとりと付いていた。
フィオは、ごくりと喉をならした。
抵抗がないわけではない、だが——。
剣先に付いたそれを、一筋なめとった。
「————っ!」
その次の瞬間フィオは瞠目し、胸を押さえてよろめいた。
全身から噴き出る冷や汗を拭いもせず、ただただ荒い呼吸を整えようとする。
「はっぁ……ぁ……!」
全身の血が、沸騰するように熱い。
心臓のみならず、身体全体が脈打ってるかのような感覚に陥った。
「——っ!」
耐えきれず、木の幹に身体を打ち付けるようにして寄りかかり、ずるずると座り込む。
そんな何とも言えぬ圧迫感を感じつつ、フィオは微かに笑みを浮かべた。
「ゃ…った…………!」
荒い呼吸を繰り返しながら、フィオは両手を天に突きだし眼を見開いた。
「雷竜を、倒した——!!」
その叫びを最後に、フィオは意識を手放した。
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/03/28 12:18
- 名前: 御砂垣 赤 ◆BqLj5kPa5. (ID: 6kBwDVDs)
†第一章†
『導と手段』
地獄と言う言葉が何を意味するかなんて分からない。生まれて十何年の少年に聞いても尚更だ。けど、今分かった。何となく、分かった。
あのあとどうなったのか、実はほとんどよく覚えてない。夢現を往き来しながら、それでも故郷への道順は覚えていた。どっかの偉い国への報告より、まずさきに皆に知らせたかったし、安心させたかった。あの幼馴染みに会って、実在の事実を教えてやりたかった。
後悔割きに立たずとは良く言ったものだ。けど、今は後に立てる余裕もない。そのくらいに打ちのめされていた。
何時ものアーチが見える。あれを潜れば皆に会える。意気揚々と入っていった後、聞かされた言葉に耳を疑った。
「おっ? 旅人さんかい? こんな辺境の町へようこそ」
野菜を売るおじさん。暴れる度に怒られた筈。
「あら。旅人なんて久し振りね〜」
刺し子屋のおばさん。たまにパンをくれた筈。
「外から来たの? ねぇ、外ってどんなところ?」
親友の弟。あいつに会うたびに遊びをせがまれた筈。
「あんまり旅人さんを困らすなよ」
親友。何かと気が会って、竜を倒しに行くと決めたときも止めてくれた、筈。
なんだよこれ。冗談きついって。全員グルで騙すなよ。
「……ヤムラ?」
小さい声は掠れた。誰も、皆誰もフィオの事を覚えていない。町長、役場長、肉屋、酒屋、そしてヤムラ。
『しかし私は今でも思うのだ。私は、人々を辿るべき道から外してしまったのでは無いだろうか……と』
『あんなお伽噺』
物語の不幸話だってこうはいかないだろう。
「どうした? 旅人さん。何か気になるのか?」
ヤムラのその一言にとどめを刺された。半反射的に身を翻して、もと来た道を走った。
逃げた。親友から、逃げた。