ダーク・ファンタジー小説
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- Lost memory【第二話】【参照2700突破!】
- 日時: 2016/07/14 19:36
- 名前: 幻灯夜城 (ID: EcIJT88K)
〜アナウンス〜
お久しぶりです。第二話「飯田守信」で一区切りをつけ、しばらく離れていました。新生活も始まり体が慣れてきたころ、何だか懐かしくなって久々に自分のハンネで何気なく検索をかけました。
それでは聞いてください。
「一区切りを付けた年(2014年)の夏大会で銅賞だった」
ありがとうございます(震え声)。
何時になるかは分かりませんが年内には、
「三話:橋場孝世」
の連載を始めたいと思います。
二年越しのため文体が変わっているかもしれませんが、そこはご了承ください。
——
初めまして…幻灯夜城と申します。
・・・えー
唐突に書きたくなってしまった作品(しかも処女作)でございます。
Lost memory 失われた、記憶。
即興かつほぼ初めての構想練り上げの作品のため、
至らぬ点が多々ございます。が、是非ともご一読を。
そして、感想&批評を下されば狂喜乱舞いたします(黙
——この作品が一時でもあなたの心を満たせれば、幸いです。
※当作品はオムニバス形式を予定しております。
※グロ描写等を含みますので、苦手な方はご注意下さい。
■目次■
序—神は言った。「何て残酷なのだ」と—>>1
序「ある少女の場合」>>2
第一話「塩崎智子」前半 >>3-6
断章「とある科学者の見立て」>>7
第一話「塩崎智子」後半 >>8-14
幕間「用語事典」>>15
第二話「飯田守信」前半 >>16-20
断章「変わり無し」>>21
第二話「飯田守信」中半 >>22-29 >>32-34 >>38-43
断章「治療のてがかり」>>44
第二話「飯田守信」後半 >>45-51
最新話 >>51
- 断章「とある科学者の見立て」 ( No.7 )
- 日時: 2013/09/01 01:11
- 名前: 幻灯夜城 (ID: bJ/FDpXT)
とある病院の資料室。静寂の流れるその空間。
その中の椅子に腰掛、テーブルに資料と思しきものを並べてそれを見つめながら手元に置いたノートに情報をまとめる男性がいた。
白髪に眼鏡。
まだ若いはずなのに、そのせいで歳を食ったような印象を受ける。
——コンコン、
「失礼します。」
ノック音の後に木製の扉が開かれる音。
若い青年の声に、座っていた男性は顔を上げてその姿を確認する。
そこにいたのは、黒髪で四角のフレームの眼鏡の男性。その手に青っぽいクリアファイルを持っており、遠巻きにちらりと文字が見える。
「ああ、君か。文也君。今日はどうしたんだね?」
「東雲博士。例の研究用の書類をお持ちいたしました。」
文也君、そう呼ばれた青年は東雲博士と呼ばれた男性の机の上にそのクリアファイルを置き、そして資料室にあった湯のみを手に取る。
そして、近くの台に置いてあったポットのボタンを押し、油のみの中に茶を注ぎながら、博士の方を水に彼は問いかけた。
「・・・博士、例の"ロストメモリー"患者がまた出ました。脳波、及びCTスキャンでも脳に異常は見られません。ですが・・・」
「ある時期の記憶だけがすっぽり抜け落ちている、そんな患者だろう?」
「え、ええ・・・。」
文也の言葉を次ぐように、東雲は受け取ったクリアファイルの中の資料を取り出しながら答える。
"ロストメモリー"
一昨年から確認され始めた奇病で、脳に腫瘍ができているわけでもなく、ヘマトームができているわけでもない。
頭部に損傷があるわけでもなく、脳波に特別異常があるわけでもない。それなのに、"一部分の記憶だけを失っている患者が出始めたのだ"。
学会では、患者に共通しているのが"思い出が消えている"という症状になぞらえて、この病気に"ロストメモリー"という安直なネーミングの名をつけ、現在治療法を探している。
だが、全くもって手がかりがつかめないのが今の現状。
「とりあえず、近親者がいたらケアをしてやるように言い渡すんだ。」
「わ、分かりました。」
東雲は、資料の置いてあるテーブルに差し入れといわんばかりに茶の入った湯のみを置いた文也に対して対応を言い渡す。
用事はこれだけであったのだろう。文也は了承の意だけを示し、入ってきた扉を開けて部屋から出て行った。
「・・・ふぅ」
一人になったことで、再び静寂が流れ出す。
彼から受け取った資料へと再び目を映す。
「・・・"異能"なんて我々の生きているこの世界で本当に見れるとは思わなかったがね。政府もよく対応できたものだよ。」
そう、"ロストメモリー"患者の一部には、奇妙な現象を引き起こせる存在が出始めたのだ。それは老若男女問わず、引き起こせる人間と引き起こせない人間がおり、いわば"超能力染みた"現象である。
何も無いところに火を発生させた。
虚空から重火器を取り出した。
物体を瞬時に転移させた。
等々、常識では到底受け入れられないような現象ばかり。
一人や二人であれば政府は力づくで揉み消そうとしたのだろうが、それが10人、いや50人、いや100人、いや1000人。いや、それ以上もの報告が挙がってきているとなると下手に抑えることもできなくなる。そこで、政府は対策本部を設置し、法律も整えた。
"異能者特別法"
詳しいことを話すと長くなるが、用は"異能者がいられる社会を作る法律"である。警察署にそれ専門の課の設置を義務付けたり等など。
・・・長く、なってしまったようだ。
夜の帳。窓に張り付いた、蛾。
「・・・しかし、彼らは"何故戦うのだろう"。」
ロストメモリーの中で、"異能者"となってしまった存在は何故か戦おうとするような傾向が見られている。我々に認知できない何かを殺しに、夜の裏路地を走り、ビルの屋上を飛び交う。
最近増えた誘拐事件と何か関係があるのだろうか。考えすぎかもしれないが、彼らが現われた時期と誘拐事件が発生した時期は偶然かそれとも必然か、ほぼ一致しているのだ。
そして、各地の警察署から聞く内情。ロストメモリー対策課の妙な動き。夜間捜査や、署員の独断行動。
謎が、多すぎる。
湯のみに入った茶をすすりながら、資料とにらめっこ。
数分経過。
・・・やめた。
「・・・まぁ、考えるのは明日でもいいだろう。さて、今日は早めに切り上げるとするかな。」
今日はこれ以上考えても何も出てこない。そう確信した東雲は、窓に張り付いている蛾を一瞥し、資料室の電気を消して部屋から出て行った。
静寂の闇の中。
窓の外から見える景色の中に、学生服の少女が走っている姿があった。
だが、東雲はそれに気づくことは無かった。
- 第一話「塩崎智子」 ( No.8 )
- 日時: 2013/09/05 15:58
- 名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)
——太陽が地平線の果てにその顔を沈めた丁度その頃
「……はぁっ、はぁっ。」
今日に限ってやけに一通りが少ないこの商店街を、制服姿のまま智子は走っていた。未だ足取りも掴めない、クロキモノドモの姿を追って。
先ほど聞いた話が真実であれば、"若い女性ばかりを狙った"犯行は、クロキモノドモ同士が連携をとっていたということになる。
…何のことはない、"複数の被害が同じ時間に起こるわけが無いのだ"。
昨日の夜中、自分が手をかけたクロキモノドモは結婚詐欺師の記憶を奪っていたらしく、生まれ持った美麗な容姿まで奪い取れたソイツは狡猾にもそれを利用する形で"女性ばかりを狙い、記憶を奪い取った"。
そして、今日聞いたニュースも同じ話。若い女性ばかりが次々と行方不明になるという事件は、表向きには知らされていない記憶を抜き取られた人間がどうなるか、という性質を考慮したうえで、奴等の仕業であることがはっきりと分かっていた。
"ロスト"、"消滅"
ロストメモリー症状の患者の間ではこう呼ばれており、一般的には記憶をすべて奪われた死体は"世界という意志に忘れられる"。これだけ言うと何が何だか分かるわけが無いのだが、こう考えてもらいたい。
人間を人間たらしめるのは、その内に存在する経験や思い出。
ではそれらの元となっているものは何か?
それは、"記憶"である。
記憶無しには経験も存在できないし、思い出も存在できない。
そして、世界という箱の中にはその"記憶"が詰まった"人間"がおり、それらが大量に集まって社会のシステムなり何なりを構築している。
では、そのうちの一つでも中身を失った木偶人形になってしまったらどうなるだろう。答えは簡単、世界は不要なデータとして"処分"する。
仮説に関しては由緒あるようだが、こちらも有力な説の一部だ。
最も、普通の記憶喪失と同じように中身を失った木偶人形という"名無し"ができあがるだけだと提唱する学者もいるのだが。
話を戻そう。
クロキモノドモは記憶を抜き取り、抜き取られた人間は"消滅"する。
結果死体は消え失せ、その人物が存在したという証拠は無くなる。
結果、死体は遺棄されてもいない、捨てられてもいない。
だが、無いということは殺したという証拠も無くなってしまう。
だから警察も"行方不明事件"としてしか捜査することができないのだ。
無論、強盗等でも働いていればまた別なのだが。
だから、智子は連続行方不明の件を聞き、一瞬でクロキモノドモによるものだと察した。そして、奴等の特徴——これは後に述べる"偏食"という性質で、若い女性の記憶を欲するという結婚詐欺師と同じ獲物であったならば、狡猾なやつらのことだ、きっと協力するに決まっている。
数分。一秒が長く感じる。
こうしている間にも、誰かが毒牙に捕えられているかもしれないのだ。
放っておくことなんてできない。
守らなきゃ、守らなきゃとその足が速まっていく。
—あれ、何でこんな感情抱いているんだっけ。
——正義のヒーローに憧れていたわけでもないのに。
———私は無くした"中学生時代"に何かに巻き込まれたのだろうか。
- 第一話「塩崎智子」6 ( No.9 )
- 日時: 2013/09/11 12:35
- 名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)
——私には、力がある。
—みんなを守るための力が。
だけど、私には記憶がない。
みんなと過ごしていたはずの楽しい"記憶が"。
中学校には私は確かに通っていたはずなのだ。勉強もそこそこがんばれていたし、友達も……多かった"はず"。
だけど、そんな毎日の中で培ってきた友情も、汗水たらしてがんばってきたはずの部活も、優しかったはずの担任の記憶も。
全部、無くしてしまった。
ただひとつ。今でも思い出せることといえば私は冬位に入院したということだろうか。全身打撲の内臓破裂。医師も、あの状態からどうしてここまで回復できたのかが不思議で仕方がないと言っていた。
お父さんお母さんは泣いて喜んでいた、だけど私は喜べない。
みんなといたはずの記憶が無いのだから。
ただ、中学のことを聞こうとしても父さんと母さんは何も答えてくれないし、アルバムとかも意図的に隠されたりしてしたのか見つからない。
ただ、その時から私は力に目覚めて、"守らなきゃ"という思いに駆られているのは確かなのだ。
走る、走る。
悲鳴が聞こえたときにはもう遅いと私は私に叱咤する。
虫の集まる街灯が、閉められたシャッターが、人の少ないこの商店街の道が、夜の寂しさと孤独感を演出してくれる。
そんなものだから一層私の不安が高まっていくのは言うまでも無い。
他者の痛みは私の痛み。
私が、私が全部守って、あいつ等を刈りつくす。
他の誰にも任せたくない、私が守るんだ。
妄執、
智子の中の心情は"護る"ことに固執した何かといっても過言ではないのだろう。誰にも任せず自分が守る、そこまでの感情を抱くことは少年漫画等では時折見かけるが、現実では"異常"の領域。
「……あいつ等の気配も無い…っかしーな、確かにここら辺にいるはずなんだけど。」
不安と焦燥に駆られて走った当てにならない自分の勘だけを頼りにしてこの商店街を走りまわる智子。
その時であった。
「い……いや……来ないで……!」
はっきりとした声が聞こえた。若い女性の声だ。
どこだ、どこからだ。聞こえたということはこの近くのはずなのだ。
周囲を見回す智子、だが時間と場面転換は非情なものだ。
「げへへ…いいじゃねぇかねぇちゃん。ちょっと、触らせろ、な?」
下卑た声。聞くのも汚らわしい男の声であり、女性の敵。
自分の敵。そして、この声で彼らがどこで揉めているのかがはっきりとわかった。わずかな反響からしておそらく狭い場所。
ということは。
「……あそこだ!」
そう言って智子が走り出した先は"建物と建物の間"。
立地の関係上どうしても隙間が出てしまい、できるこの空間の中から男女の声は聞こえてきた。ならば、そこにいるというのは十中八九あり得るというものだろう。
走る、
走る、全力で。
- 第一話「塩崎智子」7 ( No.10 )
- 日時: 2013/09/12 12:26
- 名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)
「——下賤なる行為。たった今この私が見たからには逃がしてはおけない。そこの男、婦女子に暴力を振るおうとした罪、あの世で後悔するといい!!」
確認せずに、路地裏の闇の中へ声高らかに宣言する。
さぁ、ショータイムだ、とかなんだとか、よくヒーロー物で見受けられるいわば"処刑宣言"のようなものを真似てみただけなのだが。
それでも、そういった言葉というものはやましい人間の心に響いてくるものがあるらしい。今まさにその女性の服を脱がさんとしていた男はうろたえ、目の前にいる謎の少女、智子に対して声を荒げる。
お決まりの、悪役の台詞。
「な、なんだてめぇ……やんのか?お前も"人形"にしてやるよ、ああ!?」
そして男がその手に出現させた獲物、それは——"針"。
予想は的中していたようだ。奴はクロキモノドモの内の一体。多分、数日前から騒がれてた誘拐犯の一人でもあるだろう。
そして……男は決定的な一言を発する。
「……てめぇ、その面どっかで見たと思えば……■■■を殺ったガキじゃねぇか!!ちくしょう、あいつからの最後の通達が来てたかと思えば…女攫って廃墟でいい思いのまま殺されたのはさぞかしあいつもうれしかったんだろうな、ああ!!?」
とりあえず目の前の智子を威圧できればそれでいいと考えたのだろう。
名前のところは不明瞭になってて聞き取れなかったが、今全部ぶっちゃけてくれたおかげでこの男が自分が殺した男とグルであったのが判明した。静かに、陽炎のように揺らめく殺意をかもしだしながら智子は壁に寄りかかったまま震える女性を一瞥し、そして男に問いかける。
「……一つ、問おう。お前は"何故女の記憶を欲する?"」
「んなもん決まってるんだろうが。"美味いからだよ!"」
存外、単純で奴等らしい答えであった。
所詮人間をくらってのっとったとしてもその本能はまさに"獣"。
美味しい食い物にありつけば何をしてもいい。
冷めた視線を男に送る。
そして、笑顔を一つ襲われかけていた女性に送り、
「目を…閉じていてください。」
「え…は、はい。」
言われるがままに目を閉じる女性。智子は彼女の方へと手をやり、即座に"能力"を発動する。
"短距離瞬間転移"
その瞬間であった。閉じていた女性の姿が"消えた"のだ。
智子が喋っているその隙をついて女性を持ち上げようと忍び寄っていた下種の男は、その勢いでへたり込んでしまう。
「てめぇ…何をしたあぁっぁぁぁ!!?」
だがその束の間、男は自分の料理を食われたことに憤慨して針を持ったままこちらへと飛びかかってくる。
1m、30cm、10cm。
「遅いんだよ。」
智子が一言つぶやくとともに、"智子の姿"も消えた。
男の針は宙をむなしく掻っ切るだけに終わり、肝心の智子は——男の背後に回る形で"転移"する。物質であれば制約を持たない単純にして強力な能力であるこれは、自分自身も転移させることが可能であった。
そして、智子は自らの両手に"ナイフを出現させる"。
『Memory Weapon』——これが彼女の武装であり、殺傷能力の低さを高い機動性と異能でカバーしている代物でもあった。
- 第一話「塩崎智子」8 ( No.11 )
- 日時: 2013/09/13 13:53
- 名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)
「ちょこまかと——!」
当たるどころか掠りもしなかったという事実と己のプライドが響き合い、怒りのハーモニーとして男の感情を揺るがす。
何だ、何だこいつは。どうしてこうちょこまかと動き、そして俺の針をかわしきってみせるのだ?
このクロキモノドモの能力は"刺した相手に毒を流してその相手を人形に変える"というもの。性犯罪者であった人間の願望、渇望が"弄びたいという"形で食らったクロキモノドモがそれを具現化した。
その能力の性質故に、
"当てれば必殺級の威力をもって相手を無力化できる"。
だが、裏を返せば——。
「動くなっつってんだろぉがぁ!」
怒りのままに針を背後にいる智子に突き出す男。
だが、またもその寸前で"智子の姿が消えてしまう"。
「遅いって——さっきから言っている!」
次に現れたのやはり男の"真後ろ"。このまま遊ぶ気なのか、いや…おそらくそうではない。この下種な存在と遊んでいる余裕など智子には無いし、あまり時間をかけ過ぎても次の日に支障が出てしまう。
短期決戦か、いや違う。転移という能力の性質上は一撃必中という精度の高いまねなんてリスクが成果と比例しないのであまり使いたくない。
転移に成功した智子。やはり憤慨して針をつきだしてくる男。
だが、その時にはもう既に終演の秒読みは始まっていた。
「っ!?があぁぁ!!?」
再び振り返り針を突きだそうとした男が突如苦しみ始める。腹部を押さえ、まるでそこから何かが突き破ってくるのを押さえるようにもだえる、もだえる。見苦しい。哀れみの意味で見ていられない。
ならば、せめてその醜悪な顔のまま"死ね"。
——ぶしゅうううううぅっ!!
コミカルにも聞こえてくるその音。何か、そう水がたっぷり詰まった風船に穴が開いてそこから一気に水が出てくる音に似ているだろうか。
そんな音が男の腹の中から外へとぶちまけるように響いてくる。
男にも、何が起きたのか分からなかった。
急に、"腹を何かでえぐられるような痛み"を覚えたかと思ったら、急にその痛みが無くなり、そして腹を見たら……
「あ。がああぁぁあああっぁぁぁああぁぁあ!!!?」
"破れた自身の腹から大量の黒い水が噴き出していたのだから"。
それを視認すると同時に男に痛みの感覚が戻ってきてさらなる醜い悲鳴を上げる。ああ、痛い痛い痛いいたいいたい!!!!
黒い水、それは"クロキモノドモ"の血液に他ならない。
外見は人間であっても、中身は奴らそのものなのだから。
路地裏に響く悲鳴、絶叫。
これだけ響いているのにも関わらず周辺住民が出てこないというすばらしいまでの静けさ。戦場にはおあつらえ向きだ。
——パシッ、
「泣け、苦しめ。それがお前が今まで奪ってきた命の痛みでもあるのだから。」
無慈悲に、普通なら黙って去ればいいものを言わなくてもいい言葉を苦しみうめく男にかけてやる。
何を、したのか。そう、智子は腹の中をイメージしてナイフを男の腹の中に"転移させたのだ"。『Memory Weapon』の性質の内の一つに、"持ち主の元に戻ろうとする"というものがあるが、智子はそれを応用したのだ。腹の中に転移したナイフ。それをたぐり寄せる智子。ナイフはそのたぐり寄せられる動作に従って動く、動く。寄生虫が腹の中を食い破るかのごとく動く、動く。
やがて、その薄皮を見つけて外へと飛び出すナイフはさながら"蝶"のように、蛹から成虫になるのだ。
——このまま放置すれば、男は死ぬであろう。砂となり、惨めに。