ダーク・ファンタジー小説

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悠久のカナタ(SF)
日時: 2012/07/11 00:31
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/

・あらすじ

悠久の時が流れる世界「エミリア」に住まう人々は、みんな不思議な力を宿した宝石を所有していた。一つは「テレパス」と呼ばれる通信能力。残りは……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・終焉へ向かうプレリュード篇

 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 >>02 >>03
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 >>04 >>05 >>06
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜再会と旅出〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜再会と旅出〜 其の二 >>11 >>12 >>13
 第一章 〜再会と旅出〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜再会と旅出〜 其の四 >>16 >>17
 第一章 〜再会と旅出〜 其の五 >>18
 第一章 〜再会と旅出〜 其の六 >>19
 第一章 〜再会と旅出〜 其の七 >>20 >>21
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 >>22 >>23
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 >>24 >>25
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 >>26 >>27
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 >>28 >>29
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 >>30 >>31

(1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 ( No.22 )
日時: 2012/06/18 22:12
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/12/

 ——絶島都市「ディレイト」。
 別名、大瀑布都市「ディレイト」。
 別名通りここは大瀑布に囲まれた都市で、上陸方法として「飛空艇」と呼ばれる「浮遊機関(エミリアルコア)」を動力源とした空飛ぶ船でしか行けない。

 ディレイトは首都エストレアのちょうど真裏にあり、天高くまでそびえ立つ巨大な古塔を中心に石造りの古めかしい街並みが周辺に展開している。
 聖都マギア・テラと同じく歴史ある都市である。
 都市中心部に立つ古塔には飛空艇専用ドックがあり、ディレイト上空では常に大小様々な形を成した船が飛び交う。ドックには他に停泊している船とは異なった豪奢な造りの飛空艇が一隻あった。

 ——Estoratte(エストラッテ)。

 それがこの船の名である。
 停泊時と運航時では、形が異なる一風変わった船。
 現在は、身体を休める鳥のように翼を折り畳んで佇んでいるが、運航時には高速飛空艇として、役割を果たす。
 エストラッテが飛行する姿を見た者はこぞって同じ言葉を呟くと言う。

 ——ガルーダが現れた、と……。

 そんな曰く付きとも言える、エストラッテの乗組員は現在ディレイトの街を満喫しており、彼らの指揮官たる人物らは街郊外にあるディレイト領主館にて「領主ディル」と折り入った話を展開していた……。


 「——そう、ですか。……ご冥福を祈ります」

 悲しげな面持ちで呟き、静かに哀悼の意を表した優女。
 彼女の名はカトレア。
 ミュリアに負けず劣らずの豊満ボディーの持ち主で常に「ニコニコ」と、笑みを忘れない。彼女のしなやかな腕に巻かれたブレスレットに装飾されている橙色の宝石が気品に溢れている。

 カトレアは「微笑の女神」と、称されており、誰に対しても公平に接する。
 そのため、男性からはもちろんの事、同性からの支持も高い。
 ミュリアもその内の一人で、彼女に憧れ——所作などの女性らしい嗜みを常に心掛けている。
 アリス曰く——ミュリアの丁寧口調はそこから来ているんじゃないか——と、推測されている。

 「……御恩感謝します」

 カトレアの正面に座る知的な中年男性——ディルはカトレアの厚意に会釈で返す。
 彼は先日、愛娘を流行り病で亡くしていた。そのため、意気消沈気味だったディルではあったが、悲しみに暮れている暇も無く。今、公務に勤しんでいる。

 「——ったく、何が何だかさっぱりだ」

 カトレアの左隣でぶつくさと嘆くツンツン頭で筋骨隆々とまではいかないが、それなりに良いガタイの男性——アウグス。首の太い彼の首元にはごついネックレスが下げられており、それに装飾されている緑色の宝石が色鮮やかである。

 アウグスは見た目とは裏腹に律義で、民衆からの信頼度は高く。
 そして、トウヤと結構仲が良かったりする。

 「……最近、多いからね」

 カトレアの右隣で顎に指を添えて思案顔を浮かべる優男——ルイはアウグスと違い、礼儀作法は忘れずに容姿も端麗で。身に付けるピアスに装飾されている黒色の宝石が怪しく光る度にミステリアスな彼の魅力を引き立てていた。
 ルイはそのルックスから女性から絶大な人気を誇る。

 ——が、トウヤはルイの事を苦手意識していた。
 それは「俺とキャラが被る」や「いけすかねぇ〜イケメン」などと、称して一方的に敵対視していた。トウヤと違い、モテモテのルイに対する——まぁ〜ただの嫉妬から来るモノである。

 カトレア。
 アウグス。
 ルイの三名は「枢機卿」と呼ばれる高官で別名「三銃士」とも呼ばれており、首都エストレアの最高権力者である「クライヴ教皇」の元で働いている。

 ——そんな彼らが遠路はるばるこの地に赴いたかと、述べると……。

 ここディレイトでは近年、前述した「流行り病」で亡くなる者が他の都市に比べ多数現れ。その調査でここに訪れていた。
 この流行り病によって、彼女の——レアの雇い主も亡くなっている。が、未だに原因究明が果たされていない、未知の病である。

 「ディル様には少々酷な質問かも知れませんけれど、亡くなられた方々の様子に変化はありませんでしたか? 些細な事でも構いませんので……」

 先方を気遣うように優しく語り掛けるカトレアの表情は未だに憂いたままで、自分の事のように親身になっていた。
 彼女の問いかけに、ディルは首を横に振り。

 「いえ、特に変わった様子はありません。……御助力出来ず、すみません」

 思い詰めたような重々しい表情を浮かべたまま、ディルは頭を下げる。
 ここ最近、立て続けに彼の所に舞い込んで来る訃報に相当参っているようである。ディレイトの領主として、民たちの身を案じ、早急に事を対処しなければならないのだが、現状打つ手無し。
 指をくわえて、ただ迫り来る謎の脅威によって打ちひしがれるしかない。

 それは枢機卿の三名も同じ。

 この病が流行してからの数年間、全くと言って良いほどに成果を上げられずに現在に至っている。
 その苦悶の日々たるや……。
 凄まじい葛藤があったに違いない。
 ディルと同じく、自分たちを支持する民たちの不安を少しでも拭おうと最善を尽くしているが、結果は実らずにいる。

 「……そう、ですか。——ご協力、感謝します」

 会釈をするカトレアを倣うようにアウグス、ルイも頭を下げる。

 「いえいえ、こちらこそ……。遠路はるばるありがとうございます」

 軽い挨拶を双方は交わし、この会談はここで幕を閉じた……。

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 ( No.23 )
日時: 2012/06/18 22:14
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/12/

 領主館を後にした三名は、ディレイトにあるモール街に足を運び。少し、身体を休める事にした。
 賑わいを見せるディレイトモール街。
 あちらこちらから歓声が上がったり、至福そうな表情を浮かべながらショッピングを楽しむ若い男女。
 皆、この街で頻発する流行り病の存在をすっかり忘れてしまっているかのような気さえ起こすほどに楽しげなベールを纏っている。

 「……はぁ〜、今回も手掛かり無しか」

 モール街通り沿いにあるオープンカフェのテーブルに肘を乗せ、その巨体を支えるかのように頬杖をするアウグスが表情を歪めながら、そんな事をぼやく。

 【ジュルジュル】

 と、頬杖をついたまま、ストローを介して彼の様相には不釣り合いな気泡がシュワシュワ音立てる水面に浮かぶアイスクリームが特徴的なフロートソーダを口に含む。
 彼のその様をルイが「くすくす」と、口元を押え笑う。

 「君って、いつもそうやってぶつくさと嘆くけど……構図が全くと言って良いほどに合ってないよね。——そう、ジョッキビールがお似合いな感じ? それも木製のジョッキでグイッと一気飲みして、ほろ酔い気分な荒くれ者キャラでしょうに、君の容姿から鑑みるに……。——ホント、キャラブレ感が否めないね」
 「おい、ルイ。俺はお前に人物像を否定されるほどの事をしたか?」
 「いや、していないよ」

 しれっとした態度でルイはコーヒーをすする。

 「じゃ〜、何で一々俺につっかかって来るんだよ!」
 「う〜ん……」

 顎に人差し指を押し当て、視線を上方に向けてあざとらしく頭を悩ませ……。

 「——面白いから?」

 ニパァ〜と、ルイは満面の笑みで彼の疑問に答え、再びしれっとした態度でコーヒーをすするその様をアウグスは「ぐぬぬ」と、テーブルの下で拳を力強く握って、悔しさを滲ませる。

 「ゴホン」

 彼らのやり取りを牽制するかのように発せられた一つの咳払い。
 そこにはカトレアの姿があり、紅茶を嗜みながら薄眼で二人の事を見やって、何か念を送っているように見受けられた。
 彼女の念もとい視線にルイは頬を掻きながら苦笑いを浮かべ、アウグスはぶすっと口を結ぶ。

 「——全く。ルーもアウもこの非常時に何、ふざけあっているの」

 嘆息交じりに発せられたカトレアの言葉には気苦労感が滲み出ていた。
 今、休憩こそしているものの彼女にとって気が休まる日なんてモノは存在しない。
 取り組んでいる事柄を解決するその時までは……。

 「いや、まぁ〜。カトレアの気持ちも分かるけどよ〜」

 頭を掻きながらチラチラとアウグスはルイに視線を送る。

 「そうだよ。気負ってても仕方がないよ。休める時に休まないと、もしもの時に疲労で身体が動かないとかダメでしょ」

 アウグスのアイコンタクトを上手く受信したルイはそれとなくカトレアの身体の心配をする。
 二人とも、彼女がここ最近、思い詰めている事を察していた。
 愛娘を亡くしたディルほどではないにしろ、カトレアは自分の無力さに嘆いていた。

 それはアウグスやルイも同様なのだが、人一倍責任感の強い彼女は——全て自分が至らないばかりに今もこうして見えない恐怖に民たちが怯えている——と、変に解釈してしまっている側面があるが故に少し危うくはあった。
 そんな彼女を間近で見ていると心配せずにいられず、気分転換が出来ればと彼らはふざけあっているのだが、全く効果は見られない。

 ——とは言え、普段からアウグスとルイはこんな調子なので彼女を気遣ってふざけあっている振りをしているのか、どうかは定かではない。

 「……私は大丈夫です」

 別に苦じゃないとばかりに答え、カトレアは紅茶を静かにすする。
 それが心配なんだよとばかりに二人は小さく嘆息を吐き、各々自分の飲み物に手を伸ばして、それを口に含む。

 《——結構、強情だね》

 テレパスを用いて、ルイがアウグスに言葉を送る。

 【——今に始まった所じゃないだろ】
 《そうだけど、彼女……最近、てんで睡眠を取ってないの知ってるでしょ?》
 【知ってはいるが……俺たちにはどうしようもないだろ、こればっかりは……】
 《……早期解決。——これしか、無いのかな》
 【ああ、そう言う事だな】

 そこで交信を終え、二人は少しばかり殺伐とした雰囲気の中、黙々と飲み物を口に運び続けていると——突然、頭の中にノイズが響く。

 《——何何?》
 【——誰からのテレパスだ?】

 [——すみません、私です]

 〈——その声はミヤちゃんね。何か、緊急?〉

 カトレアがテレパスの送信主を「ミヤ」だと断定した。
 ミヤはクライヴ教皇の秘書で、かなり生真面目な性格の持ち主。そのため、少し彼女の事を苦手とする者が多い。

 [はい、緊急事態です。私と教皇さまは現在、拘束されています]
 《……なぜか、危機感を感じられないのは僕だけ?》
 【まっ、しゃあないわな。ミヤの口調が淡々とし過ぎているからな】
 〈で、ミヤちゃんたちを拘束している賊はどこの誰なのかしら?〉
 [それが……]

 そこでミヤは言い淀み。カトレアたちは自ずと小首を傾げてしまう。
 本来の彼女なら躊躇う事無く、ずけずけと物を言うのだが……今回は珍しく躊躇を見せたからである。

 [私たちを拘束している人物は——彼、なんですよ……]

 一呼吸置いて告げられたこの抽象的な言葉でミヤが誰の事を指しているのかを瞬時に察した一同は見計らったように表情を強張らせ、小さく頷いて見せた。

 〈……そう、分かったわミヤちゃん。——至急、エストレアに帰還します〉

 先方に言葉を残したカトレアはアウグスとルイを見やり、意思疎通を図る。
 皆、同じ気持ちなのか力強い眼差しが彼女に送られ、カトレアは命令する。

 「——クライヴ教皇ならびに秘書ミヤを救出に現在の任を破棄。至急、首都エストレアに向かいます」

 『了解』

 束の間の休息は即、幕を閉じ。彼らは乗組員たちにこの件を通達。
 急いでエストラッテの出航準備を済ませ、大瀑布都市ディレイトから離脱する。
 エストラッテは折り畳んでいた翼を大きく広げ、空を羽ばたくその姿はまるで目撃証言にあった大怪鳥のように面妖でありながらもどこか物々しさや可憐さを感じられた……。

(1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 ( No.24 )
日時: 2012/06/19 21:08
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/13/

 ——時系列。
 首都「エストレア」行き、列車内。
 山岳地帯を走る列車に揺られながら長かった黒髪を一つに結んだユウが、

 「——で、何か心当たりでもあんの?」

 向かいに座るトウヤに言葉を投げかける。
 クラリスを目覚めさせるために旅立った彼らだったが、目的地も定めずに出発したこの旅にユウは少し不安を抱いていた。

 「まぁ〜な。アリス」
 「はいはい。出せば良いんでしょ?」

 ユウの隣に腰掛けるアリスが徐に衣服に身に付けている可愛らしいブローチに触れ、例のメガネを顕現させる。
 そして、そのメガネを掛けるとトウヤの事を見据えた。

 「何を調べればいいの?」
 「エストレアにある——パーソナルジェム研究所を粗方……」
 「は? まぁ〜いいけど……」

 アリスはトウヤに頼まれた調べ物をするため、目まぐるしく変化するレンズに映し出されている映像を眼球の動きだけで追い始める。
 黙々と作業に徹するアリスの集中力は凄まじいモノで眉一つ、瞬き一つ……。
 そして、呼吸すらしていないほどに感じる境地に達していた。

 トウヤが唐突に口走った「パーソナルジェム研究所」は彼らが持っている——この世界の住民が各々所有しているアクセサリーに装飾されている宝石を調べる機関で、その宝石の事を「パーソナルジェム」と呼んでいる。

 「——ねぇ、トウヤ。どうして、パーソナルジェム研究所なんてモノをあの子に調べさせたのかしら?」

 情報収集に徹するアリスも感じていた疑問を代弁してトウヤの隣に腰掛けるミュリアが問いかけた。

 「ん? ああ、それはだな——」

 彼女の問いにトウヤは徐にポケットを探り始め、そこから見覚えのあるアクセサリーを取り出し、それを見たユウとミュリアは顔色を変える。

 「おい、トウヤ。大丈夫なのか? 勝手に持ち出して……」
 「ええ、私もユウの意見に賛成ですわ」

 二人が見たそれはクラリスの左手に収まっていたリングだった。

 一年半前より以前の頃……。

 ——当時、彼女が身に付けていたリングとは変わり果てた姿になっている。それは紛れも無く、リングに装飾されている宝石が黒ずんだ色になってしまっているからである。
 昔は銀色に輝く綺麗な宝石だったのだが、今はもう見る影もない……。

 「まぁ〜大丈夫だろ。それにサンプルは必要だろ? 俺の事よりも……お前はどうなんだよ。ユウ」
 「は? 何だよ、突然……」
 「……お前。クラリスの銃を勝手に持ち出してるだろ?」
 「え? そうですの?」


 ——レアの小屋、出発前。

 馬鹿騒ぎをしていたトウヤたちは旅立つ前にクラリスに一言挨拶をして行こうと、彼女が眠る部屋に出向いていた……。

 「——じゃ〜、姫っち。俺たち行くけど、寂しくなって枕を濡らすなよ」
 「……うわ、ウザっ……」

 クラリスに対するトウヤの投げかけにアリスは見るからに不愉快そうな表情を浮かべて身体を震わせる。

 「アリス。そういう事は当人に聞こえるように言わないとただの陰口になりますわよ」
 「それもそうね——うわ! ウザっ!」
 「……言い直さなくても十二分に聞こえていましたが……」

 「がっくし」と、肩を落として項垂れるトウヤをスルーし、アリスとミュリアはクラリスとの別れを惜しむ。
 その最中、ユウは部屋にある可愛らしいタンスの上段部分を開け、そこから丁寧に保管されていた拳銃を——銀色の装飾が眩しい二丁拳銃の内の一丁を徐に手に取ると、それを懐に忍ばせた……。


 ——現在。

 「……いいだろ、別に……」
 「まぁ〜別にいいけどさ。もし、お前がその気なら、俺だって剣の一本や二本貸してやっても良かったんだぜ? ——あっ、アレか……。愛するクラリス姫の想いを胸に奮起する王子様って所か?」

 気色の悪い笑みを浮かべながらトウヤがユウの事を見据える。
 その視線に堪らず、ユウは、

 「うっ……」

 顔を背けて、表情を見せないようにした。

 「ふふふ、ユウが照れてますわ」
 「て、照れてねぇ! 何、言ってんだ! エセセレブ!」
 「今は何を言われても効果はありませんわよ。ふふふ……」

 ミュリアまでにもイジられ、辱めを受けたユウは苦々しい表情を浮かべて堪える。
 彼がミュリアの事を皮肉って「エセセレブ」と呼ぶのは、自分たちと同じように貧乏人のくせに一々礼儀やら所作やらを口酸っぱく指摘して来る彼女の性格。話し方や立ち振る舞い、見た目の少し気取った感を総称して、そう呼んでいる。

 「——はぁ〜。相変わらず、アンタたちはうるさいわね……」

 情報収集を終えたのか、正気に戻ったアリスがメガネを外して目を擦る。
 そんなアリスに調べ物を頼んだトウヤが、

 「何か分かったのか?」

 先ほどのやり取りは無かったかのように澄ました顔で投げかけた。

 「分かったも何も……セキュリティーがきつくて、さすがのアタシも限界……。これ以上、続けていたら倒れてしまうわ」
 「その時は俺が——いえ、何でもありません……」
 「……ったく、で。どうするの?」

 このアリスの投げかけに一同、眉をひそめて思案顔になった。
 しばらくして、リーダーであるトウヤが何か良い案でも浮かんだのか手を叩き、

 「——潜入するか?」

 そう口ずさむ。

 「は? またかよ……」
 「アタシはその案に同意しかねるわ。死にたいのなら別だけど……」
 「それなら、お爺様に頼んでみたらどうかしら?」

 『はぁ!? ジジイに頼むぅ!?』

 ミュリアの言葉に他の三人は雁首揃えて同じ言葉を述べた。
 彼女が話すお爺様とはギルド「エストレア」本部にいる総括の事で、その人物は首都「エストレア」の最高権力者でもある。

 その人物に頼めばあるいはと、思ったミュリアが提案したのだが、トウヤ、ユウ、アリスの三人は表情を歪めて、首を縦に振ろうとはしなかった。

 「……ミュ—。それがどういう事か、分かってて言ってるんでしょうね?」
 「ええ、分かっていますわ。けれど、背に腹はかえられない、ですわよね?」

 覚悟を決めたと熱意が伝わって来るほどの真剣な表情を浮かべるミュリアにアリスは表情を歪めながらも、小さく頷く。
 そのやり取りを静観していたトウヤとユウは、

 「なら、決まりだな〜」
 「だな〜」

 と、他人事のように話し。そこで井戸端会議は終わり。
 各々終点駅である首都「エストレア」までの列車の旅を満喫した……。

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 ( No.25 )
日時: 2012/06/19 21:11
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/13/

 ——数時間後。

 首都「エストレア」第三階層、中央ターミナル。
 昨日、トウヤたちが訪れた時とは違い。
 中央ターミナル内にはこれから世界各地へと赴かんとする人々や観光もしくはトウヤたちのように帰省した人々の群れが川の流れのようにうごめいている。

 ——その中にトウヤたちはいた。

 なかなか思うように進まない現状にある少女はイライラして、足を忙しなく動かしながら舌打ちをし。

 ある少年は久しぶりの故郷に心を躍らせ。

 ある少女は涼しげに微笑む……。

 そして、ある少年は人が多く、揉みくちゃ状態になってる事を良い事に——押し付けられている柔らかい感触を堪能しながら鼻の下を伸ばす……。

 各々募る想いを胸に抱きながら舞い戻った首都「エストレア」は地下二階、地上十階の超巨大タワー型シェルター都市で、この世界「エミリア」の全人口の半分近くはこの都市に住んでいる。
 階層ごとに都市の機能が別れており、玄関口たる第三階層。
 第一階層と第二階層は下水処理施設やごみ処理施設などの公的処理施設がある。

 第四階層から第十階層には居住区や商業施設などがあり、階層が一つ上がる度に等級が変わり、第九階層と第十階層はいわゆる貴族区画となる。
 第五階層にはエアポートがあり、飛空艇で遠方に向かう際に使用する。
 ただ、列車より料金が高めで、目的地も列車に比べやや少ない。

 そして、第十一階層には研究施設などがあり、ここは基本的に関係者以外立ち入り禁止階層となっている。
 そこにトウヤたちは知り合いでもあり、育ての親でもあるギルドの総括兼首都「エストレア」の最高権力者「クライヴ教皇」の許しを請い、立ち入らんとしていた。

 ちなみに第十二階層は、名目上あるとされているが——実際の所、第十一階層より上はただ空が広がっているだけで何もなかった。
 最高権力者である教皇に尋ねれば、何か分かるかも知れないが……。

 「——ふぅ〜、やっと抜けた〜」
 「……全くよ」
 「相変わらず、ここは人が多いな……」
 「活気があってよろしいかと」

 ようやく中央ターミナル構内から抜け出たトウヤたちは、人の群れから解放された事でホッとして安堵の表情を浮かべていた。
 ただ、混雑する中央ターミナルを抜けたからと言って、人の量は減った訳でもない。
 トウヤたちが現在、休憩がてら腰を下ろすベンチの周辺を今もなお、大勢の人々が往来している。

 「さてと——ジジイは今どこにいると思う?」

 ベンチに腰掛けるトウヤが自分同様にベンチに腰掛ける他の三人に話しかけた。

 「大聖堂にいるんじゃない? アレでも一応、教皇だし……」
 「ギルド本部にいるって事も考えられますわ。総括ですし……」
 「どこだっていいよ、別に……。見つけ次第、締め上げて無理やり許可を取らせば良いんだから」
 「——おいおい、物騒な事を言うなよ。ご老人を大切にしないといけないんだぞ〜」
 「……感情こもってないですわよ、トウヤ」
 「良いのよ。あのジジイにはそれぐらいの事をしても罰は当たらないわよ。むしろ、世のため、人のためよ」
 「そういうものかしら?」

 『そういうもんだろ(ものよ)』

 区切りがついた所で、トウヤたちは重い腰を上げて、歩き出した。
 この都市を支える巨大な主柱に連なって配備されている筒状の転送装置「エスカルト」と呼ばれる装置に大勢の人が乗り込む中、トウヤたちもその装置の一つに乗り込む。

 ——と、重力など関係なくそのまま吸い寄せられるよう形で上層部に向かって、トウヤたちは上昇して行った……。


 ——首都「エストレア」第六階層、居住区第四番地。
 第三階層にある中央ターミナルから世界各地に向かって伸びる線路がミニチュア模型にしか見えぬ高さを誇る第六階層。が、それでも地上数千メートルしかない。
 最上階である第十一階層は地上八千メートルを優に超す場所にある。

 ここ第六階層の居住区にトウヤたちが暮らす自宅兼アジトがあり、

 「ジジイに会う前に下準備が必要」

 と、言うトウヤの発言で立ち寄る事になった。
 アジトには各自一部屋、プライベートルームを所有しており、各々の嗜好に染まっている。
 ユウの部屋は何の飾りっ気のない殺風景な場所にポツリと、中央にベットが置かれてるだけの寂しい内装。

 隣のクラリスの部屋は彼女の趣味なのか、ツギハギだらけのブサイクなぬいぐるみや土産コーナーで良くある意味の分からない置き物などが小奇麗に並べられた部屋の中にレースが付いたお姫様ベットがある、少し童話っぽい内装。

 クラリスの部屋から少し離れた所にアリスの部屋があり、そこには小難しい書物や古書などが乱雑に置かれた——お世辞にも綺麗とは言えない場所に彼女は適当にスペースを確保し、そのまま床でゴロ寝している、ごみ屋敷的な内装。

 その隣にあるミュリアの部屋はアリスの部屋と違い綺麗に整理整頓され、クラリスの部屋とは違い、年頃の女の子らしい可愛いぬいぐるみや小物などが小奇麗に並べられた部屋の中にゆったりと出来る大きさのベットが置かれている、お嬢様っぽい内装。

 そして、リーダーであるトウヤの部屋に——ユウと部屋の主たるトウヤは足を踏み入れており、ユウの部屋とは違い、オシャレなインテリアなどが置かれ、部屋にあるクローゼットの中をトウヤが、

 【がさごそ】

 と、何かを模索していた。
 しばらくしてその何かをようやく探り当てたのか、クローゼットから徐にそれを引っ張り出すと、ユウにこれ見よがしに提示しながらトウヤは気色の悪い笑みを浮かべたのだった……。

(1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 ( No.26 )
日時: 2012/07/02 21:27
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/14/

 ——首都「エストレア」第十階層、大聖堂。
 トウヤたちのアジトがある第六階層よりもさらに高い位置にあるここは、空高く漂う雲が時折、覆い被さる事があり。下界を見下ろすとほとんどのモノがかすんで見えた。

 途中、立ち寄ったアジトを後にしたトウヤたちはまず第八階層に向かう。
 そこにはギルド本部があり、総括としての職務に勤しんでいるのならそこにいるだろうと足を運んだが、先方の姿は無く。顔見知りである受付嬢の自律人形——エミ—に尋ねた所、

 「現時刻は大聖堂にいますよ」

 と、教えられ。第十階層にある大聖堂まで足を運び、現在に至る……。
 ここ大聖堂には孤児院があり、そこでトウヤたちは育った。
 もちろん、クラリスの兄——クラウスも……。


 「——準備はいいか?」

 とある一室の前でトウヤがそんな言葉を投げかける。

 「……こ、これで本当に成功するんでしょうね?」

 「もじもじ」と、何かを恥じらうアリスの口調が普段の高圧的なモノと打って変わって、たどたどしいモノになっていた。

 「——ああ、必ず成功するさ。な、ユウ」
 「え? ああ、そうだな——プッ!」

 普段見せないアリスの態度に堪らず、ユウが吹き笑う。そんな彼にすかさずアリスが物凄い剣幕で睨み、その視線に勘付いたユウは身体を強張らせてしまう。

 「——ふむ……少々、キツイですわね……」

 ある一部分がなかなかフィットしないのか、入念に服装を正そうとするミュリアの動作にトウヤが「ニヤニヤ」と、気色の悪い笑みを浮かべながらその様を堂々と見つめ。
 ユウはチラチラと直視しないようそれを見つめる。

 「……ったく、これだから男は……」

 そんな彼らに冷やかな視線を送るアリスは嘆息を吐いた。

 「——ゴホン……準備が整ったのなら作戦実行だ」

 態度を改めたトウヤの掛け声で一同は小さく頷き、各々の持ち場に就き。

 【コンコン】

 と、扉にノックをして。アリスとミュリアがその部屋にティーセットを持って入って行く。後の二人はもしもの時のために外で待機。

 「——し、失礼します……」
 「失礼します」

 彼女らが入った部屋はクライヴ教皇の執務室で、お茶を淹れにメイドとして潜入したのだが……メイドに変装するために必要な服は全てトウヤの所持品である。

 『なぜ、そのようなモノを持っているのか』

 と、ユウたちが問うと、

 「もしもの時の嗜好チェンジに必要だろ」

 と、言う返事が来て、一同はドン引きしたのだった……。

 「——はて? どこかでお嬢さん方と会ってはいないかの〜?」

 立派に伸びた白いアゴヒゲをさすりながら、お年を召した方が——ターゲットたるクライヴ教皇がメイド姿の二人を見てぼやき。ヒゲをさすった際、その手に身に付けていたリングに装飾されている赤色の宝石が煌めく……。
 教皇は職務中だったのか、卓上には書類が広げられていた。

 「いやですわ。新手のナンパですの? 教皇様」

 顔見知り中の顔見知りである、教皇の言葉にミュリアは冷静に微笑み返す。
 その間にアリスが慣れない手つきでカップにお茶を注ぎ、それを持って教皇の傍まで近寄り、

 「そ、粗茶です……」

 と、たどたどしい笑みを浮かべながらお茶を渡した。

 「ああ、すまないねぇ。しかし——」

 再び、アゴヒゲをさすりながら教皇は細目で彼女らのある一部分をじっくりと見比べるように眺めた。
 「ふむふむ」と、満足げな表情を浮かべつつも、とある少女に向ける視線だけは少し冷やかなモノで、その人物を見る度に「ふん」と小馬鹿にしたように教皇は嘲笑い。
 その度にその少女は、後ろ手に力強く拳を握って、表情こそたどたどしいながらも笑顔を絶やさずに保ってはいるが……その仮面を外せば鬼のような凄い形相の少女が待ち構えている。

 こういう状況になると初めから分かっていた一同ではあった。
 だからこそ、外で待機している二人はテレパスを使用して、辱めを受けている少女にエールを熱心に送っていた……。

 〈……ああ、殺したい……。殺(や)っても良いわよね?〉
 【た、耐えるんだ! ここでお前がキレたらシャレにならん!】
 (トウヤの言う通りだ。この作戦の命運はお前に掛かってるんだからな)
 〈……じゃ〜後でこのジジイ、殺(や)っても良いわよねっ? ねっ?〉
 【その感情は心に留めておいてください。俺——まだ、捕まりたくないから】
 〈……だったら、いつなら良いのよ? このエロジジイを殺(や)った所で世界なんて滅びはしないわよ〉
 (……滅びはしないだろうが、混沌の渦に巻き込まれる事は確かだな……)
 〈……チッ、分かったわよ……〉

 彼らの必死の説得で世界は混沌の渦に巻き込まれる——すんでの所で踏み止まる事が出来た。もし、彼らがいなければあるいは……。

 「……あ、あの〜教皇様。私の話を——」
 「何じゃい。ワシはこう見えて忙しい身でな、話なら後にしてくれんか?」

 屈辱に耐えながらも笑顔を絶やさずに言葉を発したアリスの言葉を遮るように教皇が少し表情を強張せながら苦言を呈した。

 「……な、何でもありません……」

 門前払いを食らったアリスは素直に食い下がりながらも後ろ手に拳を強く握って、震わせる。
 そのやり取りを遠目で静観していたミュリアが「やれやれ」と、小さく息を吐き。ここで選手交代する事になった。
 後方に下がったアリスと代わって、ミュリアが教皇に優しく微笑み掛けながら、ゆっくりと近づいて行く。

 「——ねぇ〜、教皇様。私の話を聞いてくださらない?」

 小首を傾げながら訴えかけるミュリアの微笑みに素っ気ない態度を取りながら職務を勤しむ教皇だったが——少々気になるのかチラチラと、彼女に視線を向ける。

 その動作にミュリアは「……ウフフ」と不敵に微笑み。
 もっと自分の顔が見えるようにご自慢の身体ごと教皇に密着させる。
 教皇の膝の上に横向きに座ったミュリアは徐に教皇の身体を指でなぞり。
 その流れのまま、

 「ねぇ〜、教皇様。私の話を聞いてくださらない?」

 と、教皇の耳元で甘美な声でもう一度、尋ねてみた。
 彼女の一連の流れに教皇は天に召されらんとばかりに身体を震わせ「ニヤニヤ」と、気色の悪い笑みを溢す。

 「——ゴホン、話とは何じゃ?」
 「私——一度でいいから、十一階層を見学してみたいのです。ダメですか?」

 ウルウルと上目遣いで教皇の事を見つめながら訴えかけるミュリアに、教皇はだらしのない表情を浮かべながら頭を悩ます。
 重要な施設がある第十一階層に関係者以外通す訳には行かない。

 「しかし——」と、教皇は密着されて目の鼻の先にそびえ立つ双山に目をやられてしまう。
 トウヤの見立てで着用させられたメイド服だったが……彼の想像以上に、彼女の果実が立派に育まれており、その部分だけはちきれんばかりに膨らんでいた。

 「どうかなされましたか? 教皇様」

 視線が自分のある部分に向けられている事を承知の上でそんな事を素知らぬ顔をしながら微笑み掛ける——小悪魔モードのミュリア。

 「な、何でもないぞ!」
 「そう? それで……許可は頂けますの?」
 「ふ、ふむ——ちょびっとだけなら……」

 と、教皇は徐に机の引き出しから一枚の紙を取り出すと、そこに押印した。
 そして、それを彼女に手渡すと——調子に乗ったミュリアが、教皇の耳元に口を近づかせ、

 「ありがとうございます。教皇様」

 「チュ」と、音だけだが教皇の耳元に打ち付けると、教皇は身悶えてだらしのない表情を浮かべながら昇天した……。
 口から魂が出ているのではないかと思わせるほどの姿をさらす教皇を後目にミュリアは何事も無かったようにその場を離れて行く。

 「——さて、行きましょうか。アリス」
 「え、ええ。そうね……」

 立ち呆けていたアリスに言葉を投げかけ、二人は許可書を手にそのまま執務室を後にした。
 外で待機していた二人は「グッジョブ」と、親指を立てて、彼女らを出迎える。

 「——ホント、こういう事は今回限りですわよ」

 自ら言い出した事とは言え、嘆息交じりにそう呟くミュリア。

 「ああ、もちろんさ。俺以外の前でそんなかっ——いえ、何でもありません……」
 「……ったく。でも、そんな事を言っておきながら、結構乗ってたでしょ?」
 「ふふふ、お痛が過ぎるお爺様にちょっとお灸を、ね?」
 「……何か、今のミュ—。怖いわ……」
 「そうかしら?」
 「ふむ、エセセレブ改めシニアキラー、か……?」
 「——はいはい、立ち話もこれぐらいにしてそろそろずらかろうぜ。ミヤちゃんが来たらやっかいだ」
 『了解(ですわ)』

 一同は「ミヤちゃん」こと教皇秘書が戻って来る前にその場から早急に離れ、目的地である第十一階層に——パーソナルジェム研究所に向かった……。


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